「ふぅ。今日の分の乾燥野菜作りは終わりですね」
「お疲れ様、坊や」
「ルキアナさんもお手伝いありがとうございます」
乾燥した野菜は瓶詰にしてある。
この世界じゃジップロックもなければ、ビニールも存在しないからね。
ガラス瓶が大量に必要だったけど、ドワーフ族の職人さんが簡単に作ってくれた。
ついにで、ヴァルゼさんに『レンチンしてみろ』と言われてやってみたら、僕の魔導レンジでもガラス瓶を作ることができた。
ほんとに、材料さえあればなんでも作れちゃうのか。
まさかレンジで料理以外のものが作れるなんて、誰も思わないよ。特に電子レンジを知っている地球人だとね。
「ところでルキアナさん」
「ん? なんじゃ」
「あの、その……坊やってのは……その……恥ずかしいので、名前で呼んでいただけないかなぁと」
「そ、そうじゃったか。ふむ、そうじゃな。十二歳なら、坊やと呼ぶべきじゃないわね。うん、わかったわ」
「もしよろしければ、デューとお呼びください。父上からはそう呼ばれていますから」
「そう? じゃ……デュー……」
少し照れくさそうに、ルキアナさんは頬を赤らめて僕を呼んだ。
……ふぁっ。
な、なんだろう。す、凄くドキドキする。
父上に呼ばれてもこんな風にならないのに。
ルキアナさんが頬を赤らめたりするから、僕まで恥ずかしくなるじゃないか。
でも……いいな。
綺麗な女の子に愛称で呼ばれるのって。
『――年。少年』
「は!? え、はい?」
仰け反って上を見ると、しかめっ面のヴァルゼさんと目が合った。
『少年』
「えーっと、はい」
『少年!』
「はい!」
『しょうーねーんっ!!』
「だからなんですか!?」
いったい何が言いたいんだ?
あ、なんか……シュンとした。どういうこと?
「ね、デュー」
「は、はい」
ルキアナさんの顔が、近い!
「たぶん、自分も名前で呼んでいないことに、触れて欲しいんじゃない?」
「……ぁ」
そう言えば、ヴァルゼさんは僕のことを『少年』と呼んでるな。
そういうキャラなのかなって思ったんだけど。
「えっと、ヴァルゼさんもその……僕のこと、名前で呼んでいただけると――」
『なに!? うむ、そうか。少年が望むのであれば、吾輩も名前で呼ばねばな。うむ、あいわかったぞデュー』
「ふふ、はい」
なんかすっごいドヤ顔して、それに嬉しそうだ。
ヴァルゼさんは魔導具の研究をしていて、どうやらそれが原因で殺されてしまったようだ。
きっとそうなるまでにも、いろいろあったんだろうな。
お互い切磋琢磨できるライバルじゃなくて、存在を疎まれるような敵ばかりだったのかもしれない。
友人、仲間、家族……そういった人たちがいたのかどうか。
いたとしても、殺されてから何百年も坑道でその魂だけが存在していたんだ。
きっと寂しかったに違いない。
「よし、それじゃお茶にしましょう」
「やったぁ」
「今日はきな粉おはぎにしますね」
「聞いたことがないお菓子だけど、ぼう――デューがレンチンするものなら美味しいに決まってるわね」
『ふむ。吾輩も知らぬ菓子の名だな』
この世界でおはぎは一度も作ったことがない。ただ作り方は知っている。
施設にいた頃、一度だけおはぎ作りをしたから。
その時作ったのは、小豆のおはぎじゃなくってきな粉のおはぎだ。
スーパーにあるお団子屋さんでも、きな粉のおはぎは売っている。結構好きなんだよね。
さて、まずはきな粉の材料だ。
大豆、それから砂糖と、ほんの少しの塩。
おはぎ本体は100%もち米だ。あと水っと。
「ふっふっふ。とっておきのもち米です」
「もち? おばあさまに聞いたことあるわ。どこかの地方で、祝いの時に作られる白くてのびーる食べ物よね?」
「はい。お米に似た食べ物です。それを丸めてお団子にし、甘いきな粉をかけて食べるんです」
材料を全部レンジに入れ、スタートボタンを押す。
チンっと鳴って扉を開けると、見た目はちゃんとしたきな粉おはぎがお皿に乗っていた。
「ただいま戻りました」
「あ、フレドリクさん、おかえりなさい。巡回ご苦労さまでした。ちょうどお茶にしようとしていたところです」
おはぎは全部で十二個用意してある。
僕、ルキアナさん、フレドリクさん、ハンスさん、未だに見たことがないチェリーチェさん、それからヴァルゼさん。
それぞれ二個ずつ、計十二個だ。
ハンスさんが紅茶を淹れて持ってきてくれたので、おはぎと一緒にテーブルに並べる。
「これ、ハンスさんとチェリーチェさんの分です」
「ありがとうございます、デュカルト様。孫も喜びます」
「もちもちしているので、しっかり噛んで召し上がってくださいね」
「かしこまりました」
「さ、それじゃあ食べましょう。いただきまぁす」
レンジでチンするのは初めてだから、うまくできているか……あむ。
「んっ。案外うまくできてる」
「案外? もしかして味の保証はないってパターンだったの?」
「あ、あは、あはははは。実はその、まぁ……魔導レンジを使って作るのは、はじめてだったんです」
「なーんだ。作ったことはあるものだったのね」
前世でですけど。
「お疲れ様、坊や」
「ルキアナさんもお手伝いありがとうございます」
乾燥した野菜は瓶詰にしてある。
この世界じゃジップロックもなければ、ビニールも存在しないからね。
ガラス瓶が大量に必要だったけど、ドワーフ族の職人さんが簡単に作ってくれた。
ついにで、ヴァルゼさんに『レンチンしてみろ』と言われてやってみたら、僕の魔導レンジでもガラス瓶を作ることができた。
ほんとに、材料さえあればなんでも作れちゃうのか。
まさかレンジで料理以外のものが作れるなんて、誰も思わないよ。特に電子レンジを知っている地球人だとね。
「ところでルキアナさん」
「ん? なんじゃ」
「あの、その……坊やってのは……その……恥ずかしいので、名前で呼んでいただけないかなぁと」
「そ、そうじゃったか。ふむ、そうじゃな。十二歳なら、坊やと呼ぶべきじゃないわね。うん、わかったわ」
「もしよろしければ、デューとお呼びください。父上からはそう呼ばれていますから」
「そう? じゃ……デュー……」
少し照れくさそうに、ルキアナさんは頬を赤らめて僕を呼んだ。
……ふぁっ。
な、なんだろう。す、凄くドキドキする。
父上に呼ばれてもこんな風にならないのに。
ルキアナさんが頬を赤らめたりするから、僕まで恥ずかしくなるじゃないか。
でも……いいな。
綺麗な女の子に愛称で呼ばれるのって。
『――年。少年』
「は!? え、はい?」
仰け反って上を見ると、しかめっ面のヴァルゼさんと目が合った。
『少年』
「えーっと、はい」
『少年!』
「はい!」
『しょうーねーんっ!!』
「だからなんですか!?」
いったい何が言いたいんだ?
あ、なんか……シュンとした。どういうこと?
「ね、デュー」
「は、はい」
ルキアナさんの顔が、近い!
「たぶん、自分も名前で呼んでいないことに、触れて欲しいんじゃない?」
「……ぁ」
そう言えば、ヴァルゼさんは僕のことを『少年』と呼んでるな。
そういうキャラなのかなって思ったんだけど。
「えっと、ヴァルゼさんもその……僕のこと、名前で呼んでいただけると――」
『なに!? うむ、そうか。少年が望むのであれば、吾輩も名前で呼ばねばな。うむ、あいわかったぞデュー』
「ふふ、はい」
なんかすっごいドヤ顔して、それに嬉しそうだ。
ヴァルゼさんは魔導具の研究をしていて、どうやらそれが原因で殺されてしまったようだ。
きっとそうなるまでにも、いろいろあったんだろうな。
お互い切磋琢磨できるライバルじゃなくて、存在を疎まれるような敵ばかりだったのかもしれない。
友人、仲間、家族……そういった人たちがいたのかどうか。
いたとしても、殺されてから何百年も坑道でその魂だけが存在していたんだ。
きっと寂しかったに違いない。
「よし、それじゃお茶にしましょう」
「やったぁ」
「今日はきな粉おはぎにしますね」
「聞いたことがないお菓子だけど、ぼう――デューがレンチンするものなら美味しいに決まってるわね」
『ふむ。吾輩も知らぬ菓子の名だな』
この世界でおはぎは一度も作ったことがない。ただ作り方は知っている。
施設にいた頃、一度だけおはぎ作りをしたから。
その時作ったのは、小豆のおはぎじゃなくってきな粉のおはぎだ。
スーパーにあるお団子屋さんでも、きな粉のおはぎは売っている。結構好きなんだよね。
さて、まずはきな粉の材料だ。
大豆、それから砂糖と、ほんの少しの塩。
おはぎ本体は100%もち米だ。あと水っと。
「ふっふっふ。とっておきのもち米です」
「もち? おばあさまに聞いたことあるわ。どこかの地方で、祝いの時に作られる白くてのびーる食べ物よね?」
「はい。お米に似た食べ物です。それを丸めてお団子にし、甘いきな粉をかけて食べるんです」
材料を全部レンジに入れ、スタートボタンを押す。
チンっと鳴って扉を開けると、見た目はちゃんとしたきな粉おはぎがお皿に乗っていた。
「ただいま戻りました」
「あ、フレドリクさん、おかえりなさい。巡回ご苦労さまでした。ちょうどお茶にしようとしていたところです」
おはぎは全部で十二個用意してある。
僕、ルキアナさん、フレドリクさん、ハンスさん、未だに見たことがないチェリーチェさん、それからヴァルゼさん。
それぞれ二個ずつ、計十二個だ。
ハンスさんが紅茶を淹れて持ってきてくれたので、おはぎと一緒にテーブルに並べる。
「これ、ハンスさんとチェリーチェさんの分です」
「ありがとうございます、デュカルト様。孫も喜びます」
「もちもちしているので、しっかり噛んで召し上がってくださいね」
「かしこまりました」
「さ、それじゃあ食べましょう。いただきまぁす」
レンジでチンするのは初めてだから、うまくできているか……あむ。
「んっ。案外うまくできてる」
「案外? もしかして味の保証はないってパターンだったの?」
「あ、あは、あはははは。実はその、まぁ……魔導レンジを使って作るのは、はじめてだったんです」
「なーんだ。作ったことはあるものだったのね」
前世でですけど。