「野菜を乾燥?」
「はい。冬の間はキンキンに冷えた地下室に野菜を保管すると聞きました。傷みにくくするためだということですが、それでも三割ぐらいの野菜はダメになるそうですね」
「そうじゃな。二月にもなると、さすがに傷んでしまうから」
「はい。ですから、乾燥させるんです。しかもそのまま調理できるよう、カットしてから乾燥させれば手間も省けますし」

 乾燥野菜は前世でもあった。切干大根や、ニンジン、干しシイタケとか。
 乾燥させてから冷凍すれば、日持ちが長くなるはずだ。
 冷凍野菜もいろいろあったし、この世界でもできるんじゃないかな。
 しっかり乾燥させるのが大事だし、乾燥なら魔導レンジで簡単にできる。乾燥と同時にカットもできるから、らくちんだ。

「試しにやってみましょう。このニンジンを使って」
『野菜を日持ちさせるために乾燥か。ふむふむ』

 ニンジンを一本、お皿に乗せて魔導レンジに入れる。
 野菜炒めにしやすいように薄めの短冊切りにして、乾燥っと。

 スタートを押してリーンして、お皿の上にはカラカラに乾燥されたニンジンが完成っと。

「うわぁ、カラッカラじゃ。これどうやって調理するの?」
「お湯で戻してから、水気を切って、あとは普通に調理するだけなんです。まぁ僕の魔導レンジだと、お湯で戻す工程もチンするだけですが」
「ま、そうよね。味はどうなの?」
「どうでしょう? 僕もそこまではわからないですが」
『実際に食して見ればよいだろう。食レポを所望する』
「はは、わかりました。じゃ、夕食は乾燥野菜で炒めものを作りましょう」

 せっかくだから、生の野菜と乾燥させた野菜で食べ比べてみるのもいいな。





「ということで、こちらが乾燥野菜の炒め物、こっちが生の野菜を使った炒め物です。食べ比べしてみてください」
「見た目はあんまり変わらないわね」
「色の違いもわかりません」
「ですね。では、いただきます」

 キャベツとタマネギ、それからピーマンも乾燥させてみた。
 どちらも干し肉を使用している。

「ん……んん!」
「驚きじゃ。乾燥野菜の炒め物の方が、旨味が強い気がする」
「僕もそう感じます」
「野菜の甘みが濃縮されたような感じですね」

 へぇ、知らなかった。乾燥させたほうが美味しくなるんだ。

「乾燥状態で冷凍すれば、日持ちもずっとします。冬の間も野菜をしっかり摂れるようにしたいなって思っていたんですが」
「凄くいいと思う」
『ふむ。なかなか面白い結果だ。栄養面はどうなのであろうな?』
「鑑定スキルで何かわかりますかね?」

 鑑定してみたけど、『野菜炒め』と『乾燥した野菜で作られた野菜炒め』としか出ない。
 調理前の方がよかったかな?

 食後、調理前の状態で鑑定して見るとなんとなくわかった。
 乾燥後の野菜は『水分はなくなっているが、生野菜よりわずかに栄養分も増している』という一文が追加されていた。

 美味しくなって栄養価も高くなるって、いいこと尽くしじゃん!

「じゃあこれからは、ぜーんぶの野菜を乾燥させたらいいんじゃない?」
「うぅん、それはちょっと無理ですかねぇ」
「なぜじゃ?」
「トマトやキュウリって、乾燥できますかね?」

 水分の多い、みずみずしさが売りの野菜は、無理なんじゃないかなぁ。
 キュウリなんて90何パーセントかが水分だったはずだし。

『水分量の多い野菜は、乾燥に適さないであろうな。トマトを乾燥すれば、皮と種しか残らぬのではないか?』
「たぶんそうなりますね。ルキアナさん、やってみますか?」
「え、あ……んー、想像できちゃうから、いいのじゃ」

 ってことで、水分が比較的少ないだろうなぁっていう野菜を乾燥させることにしよう。

「でも今畑にある野菜だけで足りるかな? ハンスさん、どうですか?」

 ハンスさんは僕らと食事を共にしない。
 使用人ですから――というのが理由らしい。ま、あとでチェリーチェさんと一緒に摂るそうだけど。

「そうですな。冬場は傷みにくい根菜類のみでしのいでおりましたので、畑に行っても種類はそうございません」
「あぁ、そっか」
「麓の農村か、レイクドの町から仕入れてくるしかないかと」

 レイクド――ロックレイから一番近い、平野部の町だ。
 今から種まきをしても、芽が出てしばらくしたら雪だしなぁ。
 今年は自給するのは諦めて、仕入れてくることを考えよう。

「誰かに買い物をお願いできますかね?」
「孫に行かせましょう」
「チェ、チェリーチェさんにですか? でもひとりじゃ持ち帰れないんじゃ?」
「お心遣い感謝いたします。しかしこの程度のお役目、ひとりで達成できぬのであればメイドとして一人前とは言えませんので」

 僕の知っているメイドさんと、何かが違う。

「と、とりあえず、今町にある野菜から乾燥させていこうと思います」
「その際に、この料理を振舞われてはいかがでしょうかデュカルト様」
「それはいいですねフレドリクさん」

 昼食を終えしばらくしてから、人が集まる鉱山組合へと向かった。
 組合の建物の近くに食堂と雑貨屋、病院もある。お互い暇だと、自然に組合のロビーに集まって談笑しているそうだ。

「あ、みなさんいらっしゃってますね」
「お、坊ちゃん」
「領主様、いらっしゃい。山の上の寒さには慣れましたか?」
「このぐらいなら平気です。雪が積もった後にまた聞いてください」

 確かに寒いけど、平地の真冬よりはまだマシだ。
 みなさんも食事を終えたあとだろうし、軽く食べられるおひたしをレンチンした。

「味見してみていただけませんか?」
「お、新作料理か?」
「ホウレン草とニンジンか。どれどれ……お、うめぇじゃねえか」
「よかったです。実はそのホウレン草と人参、一度乾燥させたものなんですよ」
「乾燥させた? いったいなんで」
「保存するためです。乾燥させれば日持ちします。乾燥させて、なおかつ凍らせればもっと長期保存できます。こうしておけば、冬場でもいろんな種類の野菜が食べられると思って。それに地下の貯蔵庫に置いてても、雪解け前に傷んでしまう野菜もあると聞きましたから」

 乾燥保存すれば、ひと冬越すのなんて楽勝だ。
 無駄な野菜が出ないってことは、その分たくさん食べられるってことになる。

「どうでしょう? 今ある野菜を冬に備えて乾燥させるっていうのは」
「味としては、生のヤツとそう変わらねぇ」
「そうかい? むしろ良くなってるようだけど」
「領主様、栄養とかはどうなんです?」
「それも心配ありません。鑑定した結果、少し栄養面もよくなってるそうです」
「そいつはいい! けど乾燥って、どうやるんです?」
「もちろん、これです」

 魔導レンジを出して見せると、みんながポンっと手を叩いた。

「けど大変じゃねーですかい? 坊ちゃんにしかできねぇことだし」
「一度に全部やろうとは思っていません。雪が降りだすまでにコツコツやっていこうかと。もしお手伝いいただけるなら、野菜を水洗いした状態で持って来ていただきたいんです」

 水洗いも魔導レンジでできる。水を中に入れていればね。
 ただ野菜を乗せるお皿と、水を入れたボウル皿を同時に入れるとなると、一度にレンチンできる野菜の量がどうしても減ってしまう。

「わかりやした。さっそく手の空いてる連中に野菜を収穫して洗って持っていくよう伝えますよ」
「ありがとうございますっ」

 よし。これで僕のお仕事ができたぞ。