「あなたは僕の恩人なんです」
 騒ぎにならないように人気のない高台に移動したところで、安田原さんはそう切り出しました。
「恩人だなんてとんでもないです。私はただ、たこ焼きを差し上げようと思っただけで」
「いや、そのことじゃありません。もっと前のことです」
「もっと前?」そう言われても、まるで心当たりがありません。「すみません。あまり記憶力がいい方ではなくて」
 いやいや、と慌てて手を振る安田原さん。
「覚えていなくて当然です。僕の方が一方的に認知していただけなので。僕たちは一度も顔を合わせたことはないし、だからこれは再会じゃなくて……なんて言えばいいのかな」
 適切な言葉を見つけあぐねている安田原さんに、強い親近感を覚えました。その姿がつい先刻の自分に重なったのです。
「もしかして、再見でしょうか」
「そう、まさしく再見です」彼は得心したように頷きました。
 ならば記憶にないのも頷けるというもの。それにしても、私はどこでどんなふうに安田原さんの人生を横切り、おそれ多くも無自覚のうちに恩人という地位を彼の中に築かせるに至ったのでしょうか。
 安田原さんは遠い目をして、眼下に広がる夜景を見下ろしました。とても安らかな横顔です。
「あれは今からおよそ六年前──僕が高校に入学した年のことです」
 そして語り始めました。
 いわく、安田原さんは幼いころから音楽を聴くことが好きで、中学時代から本格的に傾倒するようになったそうです。学校の定期試験で学年一桁の順位に入ったらギターを買ってもらうという条約をご両親とかわし、見事に一回で達成したことが契機となりました。
 初めは好きなミュージシャンの楽曲をひたすらコピーし、楽器の扱いに慣れてくると自分でも作曲をするようになりました。こうしてかいつまんで叙述するとやけに簡単そうに感じられますが、実際、その道のりには彼のたゆまない努力が積み重なっている事実を見過ごしてはいけません。もっとも彼自身は、それを努力とは呼んでいませんでしたが。
「僕はただ好きなことに夢中だっただけです。でもそのせいで、友人たちと遊んだりすることがめっきりなくなって。学校でも音楽理論の本とか読んだりして休み時間を過ごすようになったので、気づいた時には孤立していました」
 そこで決定的に悟ったのだと言います。時間が有限であること。人生の可能性は無数にあれど、すべては手に入らないことを。
 そして高校入学と同時に、彼は決意したのです。
 音楽で絶対に成功してやる。そのために出来ることを全部やる。関係のないことに使う時間は一秒も要らない。
「なにも成し遂げようせず無目的に生きている周りの奴らとは違う。そんな奴らとはつるむ価値がない。ぬるま湯にはつからない。どうせ卒業すれば皆ばらばらだ──そんなふうに自分に言い聞かせて、ひたすらに音楽に打ちこむ日々でした。今思い返してもかなり尖っていた時期です。馴れ合いとか平凡とか、そういう言葉を忌憚して、とにかく周囲を見下して、懸命に夢を追う自分こそが崇高な存在なんだと思いこんでいたんです」
 安田原さんは自嘲をこぼしました。
「ただ、僕も思春期真っ盛りだったもので。一匹狼で強がってはいても、人並みの感性はありました。卑近な言い方をすれば、友達がいないという状態を恥ずかしく感じていたわけです。変な話ですよね。自分でそういう生き方を選んだはずなのに、すごく矛盾している」
「そんなことないです」私は決然と口を挟みました。「心は多面的です。一方ではこうしたいと思っているのに、でも実際は別のことをしてしまう。安田原さんの場合とは少し違いますが、私にもそういう経験が何度もありました。なのでお気持ちはよくわかります」
 ありがとうございます、と小さく頭を下げて安田原さんは続けます。
「その羞恥心が顕著に刺激されたのが、昼休みでした。各々が誰かと卓を囲んでいる教室の中で、一人で昼食を食べることがいたたまれなかったんです。まるで自分が弱い立場にいるみたいで、自尊心の塊だった当時の僕にとってその状況はどうしても耐え難かった。それでいつも人のいない校舎裏に移動して、ひっそりと過ごしていました」
 その時の心境を想像して、私は胸が締め付けられました。今でこそ世間に認められ、無数の惜しみない期待と羨望の眼差しを受けている安田原さんですが、昔は私たちと同じく──あるいは今も──ままならない自意識と必死に向き合っていたのです。
「こんな脆弱な精神のままじゃあ、成功なんて夢のまた夢だ。情けない自分を心の中で何度も罵倒しました。何度も、何度も……それが本当に良くなかった。そういう不毛な時間が続くと、綺麗に自信だけが損なわれていくんです。すると、その次はどういうことが起きると思います?」
 私は少し考えて答えました。
「そういう自分を他人の目に晒すことが恐ろしくなる、でしょうか」
「同感です。少なくとも僕の時はそうでした。それが高じて、一時期は高校に行けなくなったくらいに」
 思わず口に手を当てた私の隣で、安田原さんは微笑を浮かべます。
「おもしろいことに、家にいる間は音楽も全く手につきませんでした。ギターを持つと猛烈な眠気が押し寄せてくるんですよ。それで体が無意識にベッドに寝転ぶんです。なのでいつも部屋のカーテンを閉じきって、起きている間はずっとゲームのコントローラーを握っていましたね」
 私は真っすぐ彼を見て尋ねました。
「やめようとは思わなかったのですか」
「どっちをですか」彼が訊き返してきます。
「どっちもです」
「思わなかったですよ」
 即答でした。
「高校は絶対に卒業しようと思っていました。親に申し訳ないので。音楽に関しては、よくわかりません。ただ一瞬たりとも、そういう選択肢は浮かばなかったです。まあ早い話、未来についての思考を放棄していたというのが正直なところです。そんなことを考える余裕もないほど、追い詰められていたんでしょう」
 その口振りはどこか他人事のようでした。そこで言葉を区切ると、安田原さんは私を見ました。
「まさにそんな時です。高校の食堂であなたを見つけたのは」

   ×   ×   ×

 その日の朝、俺は学校に行こうと思い立った。前日から目論んでいたわけではなく、目が覚めた時にはなぜかそういう気分になっていたのだ。不安定なバイオリズムの影響で気まぐれな行動を起こすことは、当時は少なくなかった。
 登校すると一年生の教室には行かず、空き教室でモニター越しに授業を受けた。そして昼休みを迎えたところで、食べるものがないことに気づいた。母が用意してくれた昼食は自宅の冷蔵庫の中である。迷っているとお腹が鳴ったので、財布を持って食堂に向かうことにした。
 空き教室にいる間は平気だった。しかし廊下に出て階段を下りているあたりから、しだいに息がしづらくなっていくのだった。どこからか生徒たちの話し声が響いてくる。食堂に着く頃にはたくさんの学生服が周囲を蠢いていた。まるで自分だけ砂漠の真ん中を彷徨っているかのような、孤独と飢餓の感覚がどうしようもなくつきまとう。
 食堂に入ると、座席はすでに満席だった。適当に買ってさっさと戻ろう──脳裏をよぎる弱気な声に俺は苛立ちながら、売店に群がる人垣から一歩引いた位置でメニューを見上げていると、
「ねえ。あの子さ、一人でテーブル席占領してるの傲慢じゃね」
「わざわざ食堂に来てぼっち飯は神経図太すぎ」
「弁当なんだから教室とかで食べればいいのにね」
 女子三人組がそんなやりとりをしながら近くをうろついていた。上履きの色が三年生を示している。彼女たちは料理ののったお盆を手に窓の方を見つめていた。視線の先には、窓際の四人掛けのテーブル席にぽつんと一人で座る二年生の女子。
「あそこでいいじゃん。ちょうど三つ空いてるし」一人目の三年生がそう言うと、
「え、気まずくない?」二人目が顔をしかめ、
「三人で行けば向こうが退くでしょ。無言の圧力かけてこうよ」三人目が先陣を切って歩き出した。
 俺は何気なく彼女たちを目で追った。テーブルを囲んだ三人は横柄な物腰で席につくと、一人がわざとらしく咳払いをする。別のところに顔を向けていた二年生は突如現れた相席者たちに気づいたが、軽く会釈をするとまた視線を元の方向に戻した。
 無遠慮に大声で会話を始める三人。二年生にとって居心地の悪い環境を作ってやろうという奸計が丸見えである。しかし透明な防音壁でも隔てているみたいに、二年生は平然とパーソナルスペースを維持している。
 するとそこへ四人目の三年生が合流してきた。挨拶もそこそこに、座っていた一人が二年生に声をかけた。
「ねえ。ちょっと申し訳ないんだけどさ、その席譲ってくれないかな?」
 四対の眼差しが二年生に集中する。空気を読んで早くそこを退けと言外に訴えている。
 人の良さそうな丸目をぱちくりと瞬かせ、彼女はあっけらかんと言った。
「絶対に嫌です」
 雑音に満ちた大広間で、その一声は鮮明に俺の鼓膜に届いた。
 身の回りのあらゆる事象がどうでもよくなって、人畜無害の小動物のような少女から目が離せなくなった。
唖然とする上回生たち。あわや一触即発という空気の中、折よく他のテーブル席が空いたので四人は不愉快そうに悪態をつきながら移っていった。平穏を取り戻した彼女は、何事もなかったかのようにまたどこかを見ている。気になってその視線を辿ると、カウンター席に座る樽みたいにぼってりした三年生の男子を発見した。馬鹿みたいに大盛りのカレーライスを顔全体で咀嚼するように頬張っている。
 まさかと思い再び彼女を見直して、俺はようやくその心中をおおよそ察したのだった。まるで獲物を前にした猛獣の口から滴る唾液さながらに、臆面ない好意の気配が小柄な全身から滲み出していたのである。
 翌日以降も俺は登校し、昼休みの食堂に足しげく通った。いつも彼女はそこにいた。
 いつだったかこんなことがあった。先日の一件で因縁をつけられたのだろう、例の三年生たちがまたぞろ彼女のもとへ乗り出してきたのだ。ところがどうも前回の相席とは雲行きが異なっていた。初めのうちこそ剣呑な雰囲気を漂わせていた三年生たちだったが、すぐに彼女の意図を察したのであろう。一人が露悪的にそれを指摘すると、二年生の彼女は驚いたように「エスパーですか」と目を丸くした。「いや誰にでもわかるわ」と逆に戸惑う三年生。
 ただ、後輩の純真な反応に心を掴まれたのか、三年生たちは身を乗り出してあれこれと質問を始めた。それを受けた少女は、しかし恥じる様子もなく真摯に答えている。やがて気を良くした三年生たちが各々の恋愛譚を語り始め、彼女は興味深そうに相槌を打っていた。まさに呉越同舟。瑞々しい恋の懊悩が乙女たちに友情を芽生えさせた瞬間である。ひとしきり会話に花を咲かせたのち、三年生たちは少女の頭を撫でて去って行った。
 そんな一部始終を目撃した俺が、改めて彼女に感銘を受けたことは言うまでもない。
 己の信念と欲望を誰に憚ることもなく貫くその泰然自若とした姿勢が、どうしようもなく眩しかった。そしてなぜか、励まされているような気持ちになったのである──自分は自分の信じた道を行けばいい。その道程に他人は関係ない、と。
 その日の帰宅後、俺は洗面台の鏡に向かって思想に耽っていた。
 本音を言えば、ずっとわかっていたのだ。でも、他人を見下すことでしか自分の尊厳を保つ術を知らなかった。そうでもしていないと、孤独な時間に押しつぶされて精神がどうにかなってしまいそうだった。
 音楽は、学校のテストのように成長が数値化されて目に見えるようになるわけじゃない。ゆえに進んでいる道が正しいのかわからない。俺の歩みは間違っていないと信じたがる一方で、この間に失われていく人生の可能性たちを想像してぞっとした。積み上げてきたものが一瞬にして無に帰す時が来るのではないかと思うと、たまらなく不安にもなった。結局のところ、俺は自信がなかっただけなのだ。情けない限りである。
 しかし、と鏡の向こうに問いかける。今一度考えてみると、お前は何を怖れる必要があるのだ。お前の音が大衆に受け入れられないはずがないのに。確かな根拠はない。でもお前がこのまま朽ち果てていくのは、絶対に世界にとっての損失である。そうだろう。それだけは間違いない。繰り返す、確かな根拠はない。
 彼女を思い出せ。お前もかつてはあんなふうに貪欲に、好きなことをただひたすらに追い求めていたはずではないか。前だけを見据えて、それ以外のことには誰よりも盲目的であったはずだ。再びあの姿勢で音楽に向き合えば、人を蔑み妬む道理はどこにもなかろう。何も難しいことじゃない。
 伸るか反るかはお前の自由。その先で味わう酸いも甘いもお前の一人占めだ。
 窓の外は日暮れを迎えようとしている。山の稜線に沈みゆく夕陽のひと際強い光が差し込んだ時、ふと気がついた。鏡に映る俺の眼はこれっぽっちも死んでいなかった。
 俺は自室に戻った。そして実に数か月ぶりにギターを弾いた。

   ×   ×   ×

 安田原さんの独白を聴き終えた私の脳内には、ドイツの哲学者が残した有名な格言が浮かんでいました。つまるところ要するに、私が食堂の彼を見つめている間、私もまた安田原さんに見つめられていたというのです。そんなこと当時は気づきませんでした。やはり先人の教えは侮れません。
「だから、あなたは僕の恩人なんです。あなたがいなければ、今の僕は絶対に存在しなかった」
 安田原さんが折り目正しく頭を下げてくるので、私は少々困ってしまいました。恩義を感じられることがお門違いな気がしてならなかったからです。
 彼の話を聴く限り、当時の私は何もしていません。唯一その事実だけが私の記憶とも合致した部分でした。それなのにいけしゃあしゃあとふんぞり返って恩人面する資格がどこにあるというのでしょう。
「顔を上げてください、安田原さん」
 私は率直な意見を伝えることにしました。恩人としてではなく、どこまでも中立的な一般人として。
「今の安田原さんがあるのはまぎれもなく、安田原さん自身がそういう恐怖に打ち勝ってきた結果に他ならない。私はそう思います。偶然にもそのきっかけの一つに、恐縮ながら私の愚にもつかない行動が貢献したのかもしれません」
 でも、と私は続けます。少し声が小さくなったのは気のせいではないはずです。
「それもあくまで、受け手の主観的な解釈次第で毒にも薬にもなりうることです。安田原さんの思い出を汚そうというつもりはありません。ですが、私は安田原さんが思っているような強い人間ではないのです。実体は、臆病で意気地のないただの小心者です」
 安田原さんは緩やかに首を振りました。
「詳しくは聴きません。抱えている事情は人それぞれ違いますし、その機微を理解できるほどの甲斐性は僕にはないので。それに身も蓋もないことを言うと、この種の問題に関しては、基本的に他人の言うことを判断材料にしないようにしているんです」
 一拍置いて、彼はこう付け加えました。
「僕にとって確かなものは、過去の経験です」
 それから体をこちらに向けます。私たちは正対しました。
「僕が人生で一番苦しかった時期に救いとなったのは、あなたです。この事実は僕の生涯において揺らぐことはありません」
 私は何も言えませんでした。ここまで誠実に感謝を伝えてくれた青年に対し、これ以上の否定を重ねるのは無礼にあたる気がしたからです。それに正直なところ、満更でもなかったのです。その証拠に耳の後ろあたりから顔全体に熱が広がっていきます。
 気の利いた返答の一つでもしなくてはと、私は湯気にまみれた頭の中で洋画の女優さんを模倣すべく躍起になっていました。ゆとりあるお姉さんを演じたもう、細胞たち!
 その時です──ぽつり、鼻先に雫が落ちてきました。
 安田原さんにも同様の現象が起きたようで、私たちはほとんど同時に空を見上げました。そしてそれに気づきました。
 低い空一面にずっしりとした雲がのしかかっていたのです。星の瞬きひとつ漏らすことなく蓋をして、地上からの光に塗られた部分が濃度の高い灰色を露出しています。そこから、唖然と固まる私たちの顔に次々と水の粒が落ちてきます。
「──雨だ」
 私たちの声が揃いました。
 それを皮切りに雨脚は急激に強まり、地上はたちどころに濡れそぼっていきます。その雨音に混じって、人々の歓喜に満ちた声が遠くから届いてきました。奇跡だ、と誰かが雄叫びを上げています。
 そこで私はあのことを思い出し、バッグの中を漁りました。まさかこれが本当に役に立つことになるとは。真城さんから頂いた魔法のアイテムを取り出して広げると、それは隣に並んだ私と安田原さんがちょうど入るくらいの大きさでした。
「ありがとうございます。用意周到ですね」
 そう言いながら安田原さんが手を差し出してきます。私は善意に甘えて折り畳み傘を託しました。
「これはもしや、踊りの成果でしょうか」
「どうでしょう」分厚い雲を見上げ、安田原さんは相好を崩しました。「でも、そうだといいな」
 水と土の香りがあたりに満ちています。雨は当分止みそうにありません。
 潤いを取り戻していく街をしばらく眺め、私はスマホでリアルタイムの天気予報を確認しました。いつの間にか日付を跨いでおり、これから本格的な豪雨が襲来することが予想されています。しかし幸運なことに、数分後から少しの間だけ雨雲が途切れることがわかりました。お恥ずかしながら私は運転に不得手なので、これを逃せば相当危険な帰路になること必至です。
「すみません、安田原さん。私はそろそろ帰ります」
「そうですか」
 心なしか肩を落とした様子で安田原さんは傘を差し出してきます。私はその手を優しく押し返しました。
「安田原さんが使ってください。私は帰りにどのみち濡れるので」
 言った後で傘が自分のものではないことを思い出しましたが、訂正はしませんでした。帰りにコンビニで傘を買って、弁償代と一緒に真城さんにお渡しして謝罪することにします。
「それでは。これからもご活動、応援しています」
 私は頭を下げてから駐車場へ向かって歩き始めました。
「今さらですけど」
 背中に受けたその声に、私は立ち止まって振り返りました。
「名前、お聞きしてもいいですか」と安田原さん。
「あ、申し遅れてすみません。菅良つくの、と言います」
「菅良さん。傘、今度返しに行くので。また会えますか」
 言葉が続きそうな雰囲気だったので、私は何も言わずに待っていました。考え込むように足元を見つめていた安田原さんは、顔を上げて言いました。
「次は、再会と呼びたいです」
 清々しいその笑顔に、ふいに光が差しました。空を見上げると、雲の切れ目から月が顔を出しています。細かくなった水の粒が星屑のように瞬きながら降り注ぎ、まるでミュージックビデオのワンシーンのように彩り豊かな風景を成立させていました。
 素敵だなあと思いながら、私も口元を緩めました。
「ええ、次は再会と呼びましょう」
 それからお互いに小さく手を振り合って、私は踵を返しました。なぜか無性に体温が上がっていたので、恵みの雨がとても心地よかったです。