駐車場にバイクを止めると、私は急いで会場に向かおうとしました。しかし大切なことを思い出して、すぐにバイクまで引き返しました。
「そうそう。向こうに着いたらシートの中を確認するといいよ、魔法のアイテムが入っているから。きっと役に立つ」
 先ほど糸川さんのお店を出る際に、真城さんからそう言われたのです。
 私は鍵を回してシートを開け、中を覗きました。
「……これが魔法のアイテム?」
 つい首を傾げてしまいした。なぜならそこに入っていたものは、私が考えうる限りこの場において最も不要なものだったからです。それでも真城さんの言葉に従って、それをバッグの中にしまいました。
 神社へと続く露店通りに差しかかった時、私は面食らって立ち止まりました。人っ子ひとり見当たらなかったからです。通路にも店にも誰もいません。まるで突如襲来した謎の生命体が、人類だけを消滅させる光線をまき散らして去って行ったかのようです。しかし、私はすぐに感じ取りました。お祭りの最深部、鳥居をくぐったその先からひしひしと伝わってくる、極限まで凝縮された喧騒の気配を。
 ポケットの中でスマホのアラームが鳴りました。あらかじめ設定していた二十二時の到来を報せてくれています。その音で、私は弾かれたように駆け出しました。なんとも不思議な気分にとりつかれながら無人の露店通りを抜けると、眼前には神社が待ち構えています。そのまま境内へと立ち入り、参道を逸れて拝殿の横道を抜けました。すると木立の向こうの大きな芝生広場に、おびただしい数の観衆が垣間見えました。この位置でも息がつまりそうになるほどの満員電車顔負けの人いきれに、私は少し躊躇ってしまいます。
 アナウンスの声が開演の挨拶を告げ、人々の歓声が上がります。「男衆祈雨踊り」はもう間もなくです。だから立ち止まっていては駄目なのです。ここで怯んでしまえば、あのほろ苦い青春と同じ過ちを繰り返すことになります。それでは私は何一つ、あの頃と変わらないままではありませんか。
 恐れるなかれ、菅良つくの──そう自分に言い聞かせ、両手で頬を軽く叩きました。
 私は大人になったのです。行きつけの居酒屋ができました。お酒の嗜みかたも多少なり心得ました。色々な失敗も重ねてきましたが、きちんと前を向いて歩いてきました。その道のりで培ってきたものを、他ならぬ自分自身に証明する時が来たのです。
 ならば、やることは一つしかありません。
 猪突猛進です。