彼といると私の心臓は歪な音が鳴る。五臓六腑が熱を持ち、体内は焦げつきそうだった。

閉じ込めたはずの感情が、一滴、また一滴と溢れはじめる。
どうかこの——を隠して。





放課後のパソコン室で黙々と作業をしていると、空いている隣の席に彼——水瀬がぐったりしながら座った。

「腹減ったー。なんか持ってない?」
「ないよ。てか、ここ飲食禁止」
そっけなく返すと諦めたのか、水瀬はパソコンを起動し始める。
私たちは同じ専門学校のWebデザイン科で、日々課題に追われていた。毎週のように締め切りがあるため、授業が終わったあとも作業をしている生徒は多い。今日もパソコン室は半分以上の席が埋まっていた。

「雫月、あとどのくらいで終わんの?」
心臓が不意に締めつけられる。いつになっても彼からの下の名前呼びに慣れない。
水瀬の友達と私は苗字が同じらしく、紛らわしいからと言って私を雫月と呼びはじめたのだ。下の名前を呼ばれていると親しいと思われることもあるけれど、実際私たちは友達というほど近い距離ではなく、こうして放課後に話す関係でしかない。

「……あと少しかな。明日には完成すると思う」
「マジ? 早いな。家でもやってんの?」
「ううん。ネット見たりして、課題進まなくなっちゃうんだよね」
「わかる。家だと気が緩むよな」
そんな会話をしながら、私たちは作業を続ける。
隣の席が埋まっただけなのに、妙に落ち着かない。パソコンが放つ熱のせいで部屋の中は蒸していて、だんだん頭がぼんやりとしてくる。

……だめだ。集中できない。

今日は早く作業を切り上げようかと思い、データを保存する。隣の画面を見ると、水瀬が作っているデザインが目に留まった。
心臓が嫌な音を立てて、胃のあたりがひりつく。
細かな装飾や色使い、文字組みとホワイトスペースの使い方。どれも絶妙で自分との違いを突きつけられる。同じ場所からスタートしたはずなのに、彼はいつだって前を歩いていた。

周りの人たちは水瀬のことを、『才能があるから』と言うけれど、そんな一言で片づけていいものではないのを私は知っている。
持ち歩いていたデザインの本には無数の付箋が貼られ、興味ひかれたものは写真を撮っていた。知識を吸収しようと貪欲で、彼は今持っているもので満足をせず新しいものを求め続けている。

水瀬のことを尊敬している。だけど、それと同時に心が焦げついた。
どう足掻いても、私には届かない。それが悔しくてたまらない。

人と争うことは苦手なのに、水瀬を見ると負けたくないと思ってしまう。私は水瀬みたいなものは作れないけれど、それでもよりよいものを作りたい。

……やっぱりもう少し作業をしよう。このまま帰っちゃだめだ。
考え直して、私は再び課題と向き合いはじめた。




作業に集中していると、気づけば窓の外は真っ暗になっていた。
そろそろ切り上げないといけない。データを保存して、パソコンの電源を落とす。横目で隣の席を見ると、水瀬もちょうど作業に区切りがついた様子だった。
今日みたいにパソコン室で席が近いと、流れで一緒に帰ることが多かった。
きっかけはそのときによって違っていたけれど、水瀬が「お腹すいた」と言ってなにかを買いに行くことになったり、課題のことで聞きたいことがあったり、帰り際になにかしら話題があった。でも、今日は特に一緒に帰る理由がない。
このまま待っているべきか迷ったけれど、私は先にパソコン室から出ていく。廊下を進むと、自動ドアが見えてくる。地面が濡れているのがわかって、私は目を瞬かせた。

雨が降っているみたいだ。
自動ドアを通り抜けて、真っ暗な空を見上げる。まだ小雨程度で、鞄を頭の上に持ちながら走っている生徒たちの姿が視界に入る。

右肩にかけた鞄に手を伸ばそうとした時だった。

「うわ、最悪。雨降ってんじゃん」
背後から声が聞こえてきて振り返る。すぐそばに顔を顰めている水瀬が立っていた。

「……小雨だけど、すぐ止むかな」
「雫月、バスで駅まで行くの?」
「そのつもり」
「この時間だと、かなり並ぶんじゃね」
私は鞄を胸に抱えながら、頷く。学校近くのバス停は生徒たちが行列を作るため、屋根があるスペースには収まりきれない。

「傘、貸そうか?」
「持ってるの?」
「俺の家にある」
水瀬が一人暮らしをしている場所は、学校のすぐ側にあるアパートだ。雨の中、バス停に並ぶくらいなら傘を借りにいく方がいいと彼は考えたようだった。

「でも……」
どっちにしろ濡れない?と言おうとしたところで、水瀬は私の腕を軽く叩く。

「行こう」
躊躇っている時間はない。今この瞬間を逃したら、私は後悔をする気がした。ふたりで一緒に小雨が降る中に飛び込む。

地面を踏むたびに水が弾ける音がする。
冬の夜のはずなのに、不思議と寒さは感じない。雲で隠れている空に街灯が滲んで、落ちる雨が流れ星のように煌めいて見えた。


——ごめん、水瀬。
だけど、今夜だけは許して。




学校を出て三分くらいの場所に水瀬の住んでいるアパートがあった。噂には聞いていたけれど、本当に近い。
水瀬が鍵を開けると、中に入るように促される。部屋の中は薄暗くてよく見えない。玄関先からは、ミントのような爽やかな香りがした。

「タオル持ってくるわ。とりあえず上がって」
「……ありがと」
短い会話をして、水瀬が家の中に入っていく。私も彼の後を追いかけるように、靴を脱いで中に入った。

「電気つけないの?」
「電球切れてる。今日買おうと思ってたのに忘れてた」
しっかり者だと思っていたから、そういう抜けてるところがあるのかと意外だった。転ばないように壁に手を触れながら、私は部屋の中を進んでいく。

「ちょっと待って」
部屋の中に柔らかい光が灯る。水瀬がベッドの横にある小さなランプをつけてくれたみたいだった。部屋の中は比較的綺麗に整頓されているけれど、隅の方には画集や画材が積み上げられていた。水瀬らしい部屋だなと思う。

引き出しから一枚のタオルを持ってきた水瀬が、申し訳なさそうに私の前に立つ。

「ごめん、結構濡れたな」
「大丈夫。タオル、ありが……」
タオルに手を伸ばすと、水瀬の手に指先が触れてしまう。慌てて手を引っ込めて、必死に話題を捻り出す。

「……今回の課題、水瀬の作ってるやつかっこいいね」
「あれやってみたかったデザインなんだ。テーマに合うかは微妙だけど」
今回も水瀬は高評価を得る。それは制作過程を見ただけでもわかる。他の人と着眼点が違っていて、一瞬で視線を集めてしまう。そのくらい水瀬が作るものはクオリティが違うのだ。

「私も頑張らなくちゃ」
濡れた髪から、雫が滴り落ちる。

どうせ私は彼の足元にも及ばない。それでも足掻くしかなかった。高評価はもらえなくても、せめて平均をとれるように努力をし続けなければ、今以上に置いていかれてしまう。

「今日だって作業頑張ってたじゃん」
ふわりと頭にタオルをのせられる。その温かさが余計に心を乱してくる。

「……けど、水瀬みたいに私もいいもの作りたい」
「別にそんないいもの作ってはないだろ。俺はいつも自分の作るものに満足できてないし」

タオルの隙間から水瀬が眉を下げて、困ったように笑ったのが見えた。私はそっと下唇を噛み締める。
水瀬だって心の中では自信がなかったり、不安になることもあるのかもしれない。他の人と同じようにきっと弱さも持っている。だけど、それでも私は水瀬に対して苛立ちを覚えた。


「水瀬はすごいよ」

こんなにもすごいものを持っているのに、なんで気づかないの。もっと自慢してくれたら、私は水瀬のことを嫌いになれるかもしれないのに。

「常に努力し続けてるし、課題だって毎回クオリティが高いし、水瀬を見てると私ももっと頑張りたいって思う」

みんなが適当に課題を終わらせて、遊びに行く中、水瀬はいつも遅くまで残って作業をしていた。自分の実力に甘えず、アイディアを捻り出して、真摯に向き合っている。

「いいからそういうの」
戸惑っている水瀬の姿は珍しい。だけど、一度溢れ出した本音は止められない。

「デザインの本だって付箋でいっぱいだし、いつも新しいものを吸収しようとしているでしょ。だから水瀬は課題によって作るものがガラッと変わっているし、デザインのバリエーションが豊富で尊敬する」

そんな水瀬を見ていると、私はいつも……

「水瀬のこと——」
「雫月」
私を制止する声がして、口を閉ざす。

「……俺、褒められるの慣れてないから」
顔を上げると、水瀬の顔が赤くなっているような気がして目を瞬かせる。視線が合ったまま、私たちは無言になってしまう。

数秒の沈黙が流れたあと、力の抜けたため息が聞こえてきた。

「雫月に嫌われてんのかと思ってた」
水瀬が私の肩の上に頭をのせてくる。髪が濡れていて、頬が少し冷たい。

「嫌ってないよ」
ただ私が捻くれた感情を抱いていただけ。だけど、そんな私の態度が水瀬に伝わってしまっていたのかもしれない。

「……ふーん」
返ってきた言葉はその一言。自分から言ってきたくせに、大して興味がなさそうだった。


「じゃあ、どう思ってんの」
人にあんまり深入りしないタイプに見える水瀬がこんなことを聞いてくるのは予想外で、私は返答に困ってしまう。

「学科が同じ人」
咄嗟に考えて出てきたのがこれだった。
同じグループでもないし、一緒に遊ぶことだってない。唯一放課後だけはよく喋る仲で、寄り道は何度もした。でも、私たちが友達なのかというと微妙な気がした。

「……それ以外には?」
私の肩に頭をのせたままなので、水瀬の顔が見えない。だからどんな表情をしているのかわからないけれど、少し元気がないように思えた。
さすがに学科が同じという返答は冷たすぎただろうか。

「課題に熱心で努力家、とか?」
「そうじゃなくて」
顔を上げた水瀬が私の手を掴んだ。雨に濡れたからか、水瀬の髪のセットは崩れて普段よりも幼く見える。

「なんでここまできたの」
「それは……水瀬が傘貸してくれるって言ったから」
眉根を寄せて不機嫌そうな水瀬に、私もつられて眉を寄せた。

「……水瀬がなに言いたいのかわかんないよ」
「まだ帰んないでって言ったらいてくれんの」

水瀬らしくない。そんな言葉を飲み込む。

人とは一定の距離を置いていて、透明な分厚い壁がある。なにもよりも課題第一で、人にあまり興味がないのだと思っていた。だから、こんなふうに引き留めるような言葉を口にすることに驚いた。

どうして私に帰ってほしくないのか、明確な言葉をくれたら理解できるのに、なにひとつくれない。曖昧な態度と言葉で濁されているような気がする。

それでも今この瞬間を拒むことが私にはできなかった。

「いいよ」
この一言が合図のように、私たちはゆっくりと顔を近づけていく。目を伏せた水瀬の長いまつ毛を眺めながら、息を呑む。こんなにも近い距離で彼を見たのは初めてだった。

「——っ」
心臓から鳴るこの歪な音の正体を、最初からわかっていた。自分の気持ちを認めたくなくて、誤魔化していただけ。

作業をしている真剣な横顔も好き。あどけなさのある笑った顔も好き。驚いたときに瞬きが多くなるのも好き。静かな話し方も、優しく響く低めの声も全部好きでたまらない。

パソコン室で隣に座ってくれるのも本当は嬉しかった。一緒に帰れるかなっていつもそわそわしていた。学校で見かけたら目で追ってしまうし、目が合うとそれだけで一日頑張れそうな気がしてしまう。

一滴、また一滴と気持ちが溢れて、止まらなくなる。

全身に響く心音が、水瀬にも伝わってしまいそうで少し怖い。絡まった指先を緩めると、逆に強く握られてしまう。どちらからともなく抱きしめて、そのまま唇を重ねた。頬に伝った雫は、髪から滴り落ちた雨なのか、それとも涙なのかわからない。

ベッドに沈むと、世界が反転する。薄暗い天井には淡い光が差し込んでいた。彼が私に触れるたびに心臓が跳ねて、血液の流れが加速し、頬が熱くなった。

——好き。
水瀬に抱いた感情が、それだけならよかった。

恋に混ざった不純物が私の思考の邪魔をする。

水瀬のことが好きだけど、それと同時に妬ましくなる。私にはないものをたくさん持っていて、恋心と対抗心がぐちゃぐちゃに混ざってしまう。

もしも私が恋に色をつけるのなら、晴れた空のような水色にする。私にとって、恋は真夏に飲むサイダーのような爽やかで眩しいものだから。そんなふうに以前は思っていた。

けれど、そこに黒い嫉妬の感情が混ざれば、綺麗な水色は夜空のような深い青に変わっていく。
そして、黒い感情が強くなればなるほど、水色は飲み込まれて最後には真っ黒になってしまう。


どうして水瀬なんだろう。
他にも生徒はたくさんいるのに、水瀬の作るものに嫉妬して悔しくなる。

だけど、泣きたくなるほど好きだと恋焦がれる相手も、水瀬だけだった。

閉じていた目を開くと、水瀬の瞳がランプの光によって黄金色に見えた。まるで夜空に浮かぶ月のようだった。


「……水瀬」
心がほしくて、私を見てと願ってしまう。でも、他人の心なんて手に入らない。順番だって間違えているってわかってる。だから好きだなんて、今さら言えない。

恋心と嫉妬を隠すように、私は再び目を閉じた。





曇った鏡にシャワーをかける。メイクはほとんど落ちていて、髪の毛もうねっていた。こんな姿を好きな人の前で見せたのかと思うと、恥ずかしくて消えたくなる。

シャワーを浴びた後、ドライヤーを借りて髪を乾かす。ヘアオイルをつけていないので毛先の広がりが気になる。それにメイクも全て落ちて完全に素っぴんだ。借りた水瀬の服が私には大きくて似合っていなくて、さらに落ち込む。
けれど、先ほどの姿よりかはマシだと思い、開き直って洗面所から出た。

薄暗い部屋の中、水瀬はキッチンに立っていた。

「なにしてるの」
水瀬の腕に触れたら、そっと横にズレられた。近づいてくるくせに、近づかれるのは嫌いだと言われたような気がして、少し胸が痛む。今になって後悔でもしたのだろうかと、悪い想像をしてしまう。


「レモネード作ってた。コーヒーだと眠れなくなるかもしれないし。レモネードなら好きだと思ったから」
前に好物だと話したことを水瀬は覚えていたらしい。距離を取ろうとしているのかと思ったら、私の好きなものを作っていて、なにを考えているのかわからない。

ベッドの上に並んで座り、温かいレモネードを飲む。甘酸っぱくて、ほんのり蜂蜜の味がする。空っぽの胃に優しく染み渡った。

「美味しい」
「よかった」
水瀬が砂糖みたいに甘く微笑んだ。触れたくなる衝動を抑える。先ほどみたいに避けられたくない。触れ合っていたがの嘘のように、今は隣に座るだけ。近いはずなのに、どこか遠く感じた。

ローテーブルの上にはノートパソコンが置いてある。それを見て、現実に引き戻された。私がシャワーを浴びている間に作業をしていたみたいだ。

「遅くまでいたら課題の邪魔になるよね。ごめん」
「平気だよ」

水瀬は相変わらず、ほしい言葉はくれない。
私にはどう思っているのか聞いてきたけれど、水瀬が私をどう思っているのか教えてくれそうにない。

レモネードを飲み干して、私は波立つ気持ちを落ち着かせる。

みんなひとつの感情だけを持っているわけじゃない。
私が恋心の中に嫉妬を隠しているように、水瀬だって混ざり合った感情があるのかもしれない。


「ごちそうさま」
マグカップをローテーブルに置いて、私は水瀬に視線を向ける。

「ごめん、本当は嘘ついてた」
「え?」

突然の私の発言に、水瀬はきょとんとして瞬きを繰り返す。
わからないままでいい。どうせお互い全てを曝け出すことなんてないのだから。

「嘘って——」
私から強引に唇を重ねて、言葉を隠した。
驚いたように目を丸くした水瀬を見つめながら答える。


「秘密」
この夜が終われば、私たちの関係は戻ってしまうかもしれない。だから、水瀬の記憶に少しでも残したい。私だけが忘れられない夜だなんて、ちょっと悔しいから最後の賭けをしてみる。

「そろそろ帰るね」
「でも、このあたりのバスってもうないだろ」
「電車はまだ動いてるし、駅まで歩くよ。服は今度返すね」

どこかの恋愛の記事で読んだ真似事。ずるずると時間を共にするのではなく、名残惜しいくらいがちょうどいいそうだ。こんなのどのくらいあてになるかわからないけれど。


「送ろうか?」
「大丈夫」
立ち上がって帰り支度をすると、後ろから「気をつけて」という声がした。鞄を肩にかけて、肺に溜まった空気を吐き出してから振り返る。


「ばいばい」
笑顔を作って片手を振ると、彼は僅かに目を見開いた。
私はすぐに玄関に向かい、靴を履く。その動作が普段よりも遅くなってしまうのは、本心ではもっと一緒にいたいからかもしれない。

気配がして振り返ると、水瀬が壁に寄りかかって玄関の前に立っている。

「本当に帰んの?」
私の指先を掴んできた。

水瀬は「帰らないで」とも、「好きだ」とも言わない。今はまだ名前のない関係。このまま都合のいいもので終わるかもしれない。だけど、もしも次があるとしたら、私たちのどちらかが一歩踏み出すしかない。

私は彼の指先から手を離す。

「おやすみ」

本当にほしい言葉をもらうのは難しい。
私は水瀬にとって課題よりも夢中になれるものではないと現実を突きつけられた気分だった。そんな私も心に抱えた惨めな嫉妬のせいで、素直になれない。


今度は振り返ることなく、玄関の外に出た。静かに扉が閉まる音がして、寂しさを飲み込みながら私は階段を下っていく。
雨はすっかり止んでいた。アスファルトからは雨上がりの独特な香りがして、彼の部屋で香っていたミントの匂いがかき消されてしまう。

私は濡れたアスファルトの上を歩きながら、そっと鞄の中を見る。
そこには、ネイビーの折り畳み傘。

あのとき、ちょっとだけ期待した。
傘を忘れたフリをしていたら、もう少し長く一緒にいられるかもしれないから。だけど、まさかこんなことになるとは想像していなかった。

水瀬の部屋で素直になれていたら、もっと幸せな未来を迎えていただろうか。それとも水瀬の曖昧な返答に泣きながら帰ることになっていたかもしれない。

好きなのに、自分から溺れることが怖い。
だからこんな試すような方法を選んでしまった。


一歩、また一歩と祈るようにゆっくり夜道を歩いていく。
すると、私のものではない足音が後方から聞こえてきた。

計算高いとかずるいとか誰かに非難されたとしても、好きという純粋な感情だけでは上手くいかないことがある。



「やっぱり送る」

だから恋には時々、(賭けと引き)が必要だ。





『雨に(賭け引き)を隠して』完