シバルバーが海底に沈没してから1カ月――アルカディア軍は、行方不明者の捜索に当たっていた。大西洋のど真ん中で陸地が沈んでしまっては助かるはずはない。あくまで逃げ遅れた者の遺体を発見するのが任務であった。
シバルバーの住人は、中南米にあるトゥラン国、ヨーロッパのアルカディアなどに移住した。家族や友人知人の安否を確認できない中では、不安も大きかった。
そんな中――新しい事件が起こった。
「は? 鮭が1.5倍に値上げ!?」
ソールは市場で目をむいた。
「どういうことだよ、今日は鮭の蒸し焼きにしようと思っていたのに」
魚屋に文句を言うが
「俺に言わんでくれよ、にいちゃん。ここんところ不漁でなあ、アルカディアのどこもかしこも海産物はこんな状況だ」
確かに。白身魚やアジ、サバ、蛸や烏賊などの魚介類も高くなっている。ほんの数週間前から、海産物が軒並み値上げされているのだ。
が、ソールは結局鮭を買った。値上げがあっても自分がその日に食べたいメニューを変えることは信条に反するからだった。
翌日。仕事場でペルセウスとアーレスに会ったので、海産物の値上げのことを言ってみた。
「そういや、アンドラもそんなことを言っていたな」とペルセウス。
「ニュースでもやっているぜ。大西洋全体で不漁になっているって」
どこか他人事のように呟く旧友たちに、ソールは熱を込めて語った。
「何のんきに構えてるんだよ! このままじゃ俺が食べる魚がなくなるだろ!!」
「お前、魚好きだったんだな」
アレクサンドリアという港町に住んでいたからか、ソールは魚介類が好きなのだ。彼の年齢では肉の方を好むところだが、それより魚だという。
「あーこのままじゃ俺は飢え死にする!」
天を仰ぐソールを見ながら「大袈裟なんだよ」と呆れる2人。その時、ラジオのニュースが流れてきた。
《緊急速報、イベリア半島から100kmの海域に、未確認物体が出現しました》
は? 今度は何だ?
《物体は、海中から浮かび上がったところを目撃されたようです。全長は約200メートル、海蛇か鯨の一種と思われますが、その後、行方不明になりました》
「何だ? 沿岸部に鯨でも出たのか?」
とアーレスが首を傾げる。
「でも変だな。200メートルって鯨でも相当大きいぞ」
ペルセウスは疑問を抱いた。世界最大のシロナガスクジラでもせいぜい50mである。200mとなるとその四倍だ。
「どうしたの?」
そこにイシュタムもやってきた。シバルバーが沈没してからというもの、彼女はアルカディアに身を寄せてソールの手伝いをしている。
「ああイシュタム。今、ラジオで妙な物体の目撃情報を知らせていたんだ。鯨か海蛇みたいな…」
ソールが言うと、イシュタムは引きつった顔を浮かべた。
「…どうした?」
「え? あ、いや…」
ソールは素早く彼女に近寄り、肩をつかんだ。
「何か知っているな?」
「う……」
「実は……」
イシュタムはいすに座って気まずそうにつぶやく。ソールに上目づかいで見つめる時は、言いにくいことがあるそぶりだ。
「うすうす勘づいていたんだけど、不漁とかの異常って…もしかしてシバルバーのせいかも」
「は?」
ソールが問いただすと、イシュタムは重い口を開いた。
シバルバーでは、ネオフラカンシステムのほかに研究している技術があった。それが、地球全体の海流を変えるシステムだったという。
「その名前は、リヴァイアサンシステムって言うの」
「リヴァイアサン?」
リヴァイアサン――ヨーロッパ圏で巨大な海蛇として語られている怪物である。後世においては海の竜とも捉えられる。
「海流を変えるって、どういうことだ?」
「ソール…ジオエンジニアリングって知っている?」
シバルバーの住人は、中南米にあるトゥラン国、ヨーロッパのアルカディアなどに移住した。家族や友人知人の安否を確認できない中では、不安も大きかった。
そんな中――新しい事件が起こった。
「は? 鮭が1.5倍に値上げ!?」
ソールは市場で目をむいた。
「どういうことだよ、今日は鮭の蒸し焼きにしようと思っていたのに」
魚屋に文句を言うが
「俺に言わんでくれよ、にいちゃん。ここんところ不漁でなあ、アルカディアのどこもかしこも海産物はこんな状況だ」
確かに。白身魚やアジ、サバ、蛸や烏賊などの魚介類も高くなっている。ほんの数週間前から、海産物が軒並み値上げされているのだ。
が、ソールは結局鮭を買った。値上げがあっても自分がその日に食べたいメニューを変えることは信条に反するからだった。
翌日。仕事場でペルセウスとアーレスに会ったので、海産物の値上げのことを言ってみた。
「そういや、アンドラもそんなことを言っていたな」とペルセウス。
「ニュースでもやっているぜ。大西洋全体で不漁になっているって」
どこか他人事のように呟く旧友たちに、ソールは熱を込めて語った。
「何のんきに構えてるんだよ! このままじゃ俺が食べる魚がなくなるだろ!!」
「お前、魚好きだったんだな」
アレクサンドリアという港町に住んでいたからか、ソールは魚介類が好きなのだ。彼の年齢では肉の方を好むところだが、それより魚だという。
「あーこのままじゃ俺は飢え死にする!」
天を仰ぐソールを見ながら「大袈裟なんだよ」と呆れる2人。その時、ラジオのニュースが流れてきた。
《緊急速報、イベリア半島から100kmの海域に、未確認物体が出現しました》
は? 今度は何だ?
《物体は、海中から浮かび上がったところを目撃されたようです。全長は約200メートル、海蛇か鯨の一種と思われますが、その後、行方不明になりました》
「何だ? 沿岸部に鯨でも出たのか?」
とアーレスが首を傾げる。
「でも変だな。200メートルって鯨でも相当大きいぞ」
ペルセウスは疑問を抱いた。世界最大のシロナガスクジラでもせいぜい50mである。200mとなるとその四倍だ。
「どうしたの?」
そこにイシュタムもやってきた。シバルバーが沈没してからというもの、彼女はアルカディアに身を寄せてソールの手伝いをしている。
「ああイシュタム。今、ラジオで妙な物体の目撃情報を知らせていたんだ。鯨か海蛇みたいな…」
ソールが言うと、イシュタムは引きつった顔を浮かべた。
「…どうした?」
「え? あ、いや…」
ソールは素早く彼女に近寄り、肩をつかんだ。
「何か知っているな?」
「う……」
「実は……」
イシュタムはいすに座って気まずそうにつぶやく。ソールに上目づかいで見つめる時は、言いにくいことがあるそぶりだ。
「うすうす勘づいていたんだけど、不漁とかの異常って…もしかしてシバルバーのせいかも」
「は?」
ソールが問いただすと、イシュタムは重い口を開いた。
シバルバーでは、ネオフラカンシステムのほかに研究している技術があった。それが、地球全体の海流を変えるシステムだったという。
「その名前は、リヴァイアサンシステムって言うの」
「リヴァイアサン?」
リヴァイアサン――ヨーロッパ圏で巨大な海蛇として語られている怪物である。後世においては海の竜とも捉えられる。
「海流を変えるって、どういうことだ?」
「ソール…ジオエンジニアリングって知っている?」