数日後。ソールはシバルバーに向かう旅客機にいた。ペルセウスとアンドラ、アーレス、ハーデスはアルカディア空港まで見送りに来てくれた。ポセイドンとアルテミスは、任務を離れられず断念したのだ。
 アルカディアに来て以来、対戦した相手とは良好な関係が続いている。アポロンの遺志を伝えたことと1人も死者を出さなかったことが奏功したのだ。
 ただし、ゼウスだけは今でも犬猿の仲である。目が合ったときも、お互いににらみつけてそっぽを向く。自国を混乱させたというだけでなく、厳格なゼウスにとってマイペースなソールは反りが合わないのだろう。
「気をつけていってこいよ」と皆に見送られて飛行機に搭乗した。離陸し、約3時間のフライトで眼下に陸地が見えてきた。
「あれがシバルバーか…」
 おかわりのフルーツドリンクを飲み干しながらつぶやいた。ひと目見て高度な科学技術が使われていることが分かった。
例えば高層ビルがいくつも建っている。夕暮れになる時間帯にはきらびやかな灯りが色とりどりに重なり、夕日と重なって美しい光景を映し出していた。
 一方、ソールは違和感を覚えた。何かが足りないのだ…。
(はて、何だろうな?)
 首をひねったものの答えは出なかった。まあいいか、と思ったそのとき、飛行機がガクン、と揺れた。
「おいおい、何だよ」
 気流の乱れかと思ったがとっさに違うと感じた。この場合、アナウンスで「気流の乱れがありますが飛行には影響がありません」と流すはずだがそれがない。しかも、キャビンアテンダントたちが右往左往している。
(コックピットで何かあったな)
 その直感に従い、シートベルトを外して駆けだした。

 コックピットに無断で入るとパイロットが青ざめていた。
「何があった!?」
 ソールが怒鳴ると壮年のパイロットがおろおろしながら答えた。
「自動操縦を解除した途端、警報が鳴り始めたんだ!」
「はあ?」
 詳しくは分からないが緊急事態であることは把握できた。ソールはコックピットに駆け寄り、コントロールパネルを見た。大きさは違うが戦闘機とあまり変わらない。
「たぶん、機体が上昇しすぎているんだ。操縦桿を前に倒して下降気味にしろ!」
 すると機体の揺れが少なくなり警報もやんだ。
「はあ、助かった…」
「おい、あんた機長だろ? 何であんなに慌てていたんだ?」
 ソールは睨んだ。飛行機の操縦を知っている自分がいたから良かったものの、もしいなければ墜落していたかもしれない。
「実は、離陸と着陸以外は自動操縦ばかりやっていて自動操縦を解除したのが初めてなんだ」
「何だって!?」
「上の世代はマニュアル操作で機体を飛ばしてきたんだけど、自分の世代はもう自動操縦が当たり前になっている。今回のようなトラブル自体が初めてのパイロットも少なくないんだ」
 その後、飛行機は無事にシバルバーの空港に着陸した。
 機長が今回のトラブルを管制塔に報告したのだろうか、外に大勢の空港関係者と野次馬がいた。が、ソールは相手にするのが煩わしいので見つからないようにさっさと降りて逃げた。