夕方になり、朝から通しで行われた撮影をようやく終えると、わたし達はくたくたになりながら控え室に戻った。
「あー……終わったぁ。お疲れ様でしたー……」
「ふふ、お疲れ様でした。モカちゃんへとへとだね」
「あ、ありがとう! えへへ、ちょっとバテちゃった。ウタノはまだ大丈夫そう……?」
先程までセンターで一番頑張っていたウタノが、わたしを気遣ってペットボトルのドリンクを差し出してくれる。自分だって相当疲れているだろうに、優しい子だ。
「うーん、私よりリオンちゃんの方が元気があり余ってるかな……」
「おつでーす! あれ、モカ体力無さすぎじゃん?」
「リオンがおかしいの!」
まだまだ元気があり余っている様子のリオンは、何ならその場で新曲のステップを再確認するように動き始める。体力お化けだ。
へとへとなわたしは着替えることすら億劫で、朝の気合いはどこへやら、撮影衣装のままソファーに腰掛けて、アイドルらしからぬ姿勢でだらだらとしてしまう。
次のスケジュールを伝えに来たショウくんが見ているけれど、今は無理。恋する乙女は楽じゃない。
「皆さんお疲れ様でした。萌歌さんと璃音さんは、これで今日のお仕事はおしまいですが……この後ダンスレッスンですね。明日の朝にはまた雑誌の撮影があるので、忘れないように」
「はぁい……」
「おっけーです!」
「……唄乃さんはこの後ラジオの収録です。ここから少し遠いので、そろそろ出ないと間に合いませんね……。萌歌さん、璃音さん。帰りはお送りできなくてすみません、スタジオまでのタクシーを手配しておきますので、どうぞお気を付けて」
「ありがとう……ショウ……宵町さんも、ウタノも、気を付けて。残りも頑張ってね」
「いいなぁ、ウタノは売れっ子だ……さすがセンター。リオンもラジオやりたーい!」
「……リオンはもうちょっと頭良さそうに喋れないと無理だと思う」
「なにー!?」
「ああ、お二人とも喧嘩はやめてくださいね……まだスタッフさんもいらっしゃいますし、お行儀良くしてください」
「はぁい……。ちょっと、リオンのせいで宵町さんに怒られちゃったじゃない!」
「リオンのせい!? 大体モカが……」
「ですからお二人とも……」
「ふふ。大丈夫、喧嘩するほど仲が良いってやつですよ。……それじゃあ、そろそろ行きましょうか、マネージャー。二人とも、また明日ね」
「あ、うん……また明日」
「いってらっしゃーい!」
わたし達のユニット『CRESCENT MOON』全員のマネージャーであるショウくんは、こうして度々別のスケジュールが入っているメンバーの送迎や付き添いに回ってしまう。
いつも一緒に居られる訳じゃない。だからこそ、言葉を交わせる時間は貴重だ。
わたしみたいに精一杯可愛いを作らなくても、自然と目を惹く魅力のある『朝比奈唄乃』。
わたし達より忙しくてレッスン時間も短いのに、ダンスも歌も完璧で、彼女がセンターなのも、売れっ子なのもよくわかる。
ユニットの中で単独のお仕事が一番多いのはウタノ。つまり、彼女が一番ショウくんと一緒に居る時間が長いのだ。
「……」
そんな彼女とショウくんが並んで歩く後ろ姿に嫉妬してしまうこの気持ちは、果たしてアイドルとしてなのか、女の子としてなのか。
「……わたしも、ウタノみたいに売れたら、もっと……」
「えー? モカじゃ無理だって」
「……もーっ、リオンは黙っててよ! ほら、レッスン行くよ!」
「はーい」
胸が締め付けられるこの気持ちに、恋なんて知らないであろう能天気なリオンを、ちょっとだけ羨ましく感じた。
*******
「あー……終わったぁ。お疲れ様でしたー……」
「ふふ、お疲れ様でした。モカちゃんへとへとだね」
「あ、ありがとう! えへへ、ちょっとバテちゃった。ウタノはまだ大丈夫そう……?」
先程までセンターで一番頑張っていたウタノが、わたしを気遣ってペットボトルのドリンクを差し出してくれる。自分だって相当疲れているだろうに、優しい子だ。
「うーん、私よりリオンちゃんの方が元気があり余ってるかな……」
「おつでーす! あれ、モカ体力無さすぎじゃん?」
「リオンがおかしいの!」
まだまだ元気があり余っている様子のリオンは、何ならその場で新曲のステップを再確認するように動き始める。体力お化けだ。
へとへとなわたしは着替えることすら億劫で、朝の気合いはどこへやら、撮影衣装のままソファーに腰掛けて、アイドルらしからぬ姿勢でだらだらとしてしまう。
次のスケジュールを伝えに来たショウくんが見ているけれど、今は無理。恋する乙女は楽じゃない。
「皆さんお疲れ様でした。萌歌さんと璃音さんは、これで今日のお仕事はおしまいですが……この後ダンスレッスンですね。明日の朝にはまた雑誌の撮影があるので、忘れないように」
「はぁい……」
「おっけーです!」
「……唄乃さんはこの後ラジオの収録です。ここから少し遠いので、そろそろ出ないと間に合いませんね……。萌歌さん、璃音さん。帰りはお送りできなくてすみません、スタジオまでのタクシーを手配しておきますので、どうぞお気を付けて」
「ありがとう……ショウ……宵町さんも、ウタノも、気を付けて。残りも頑張ってね」
「いいなぁ、ウタノは売れっ子だ……さすがセンター。リオンもラジオやりたーい!」
「……リオンはもうちょっと頭良さそうに喋れないと無理だと思う」
「なにー!?」
「ああ、お二人とも喧嘩はやめてくださいね……まだスタッフさんもいらっしゃいますし、お行儀良くしてください」
「はぁい……。ちょっと、リオンのせいで宵町さんに怒られちゃったじゃない!」
「リオンのせい!? 大体モカが……」
「ですからお二人とも……」
「ふふ。大丈夫、喧嘩するほど仲が良いってやつですよ。……それじゃあ、そろそろ行きましょうか、マネージャー。二人とも、また明日ね」
「あ、うん……また明日」
「いってらっしゃーい!」
わたし達のユニット『CRESCENT MOON』全員のマネージャーであるショウくんは、こうして度々別のスケジュールが入っているメンバーの送迎や付き添いに回ってしまう。
いつも一緒に居られる訳じゃない。だからこそ、言葉を交わせる時間は貴重だ。
わたしみたいに精一杯可愛いを作らなくても、自然と目を惹く魅力のある『朝比奈唄乃』。
わたし達より忙しくてレッスン時間も短いのに、ダンスも歌も完璧で、彼女がセンターなのも、売れっ子なのもよくわかる。
ユニットの中で単独のお仕事が一番多いのはウタノ。つまり、彼女が一番ショウくんと一緒に居る時間が長いのだ。
「……」
そんな彼女とショウくんが並んで歩く後ろ姿に嫉妬してしまうこの気持ちは、果たしてアイドルとしてなのか、女の子としてなのか。
「……わたしも、ウタノみたいに売れたら、もっと……」
「えー? モカじゃ無理だって」
「……もーっ、リオンは黙っててよ! ほら、レッスン行くよ!」
「はーい」
胸が締め付けられるこの気持ちに、恋なんて知らないであろう能天気なリオンを、ちょっとだけ羨ましく感じた。
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