「……」



でも



「大丈,夫。です。あの,ほんとに」



たとえ俯いたままでも,すごく惨めで辛くても,善意で声をかけてくれる人にそんなことを言える程,堕ちることは出来なかった。

音だけでも無理に笑う。

だって,だってそれが



「……じゃあ,うちに来ますか」



心配そうな音がする。

優しくて,あったかい音がする。

ぽろりと,私の左目からあたたかい涙がすっと落ちた。

分かったいた。

その手を取ればどうなるか。

見えていた,その"男の人"が私と同じくらいの年齢で若いこと。

缶,コーヒー……

コンビニ袋から,よく知る塗装の缶が覗いている。

脳が警告していた。



『金曜の夜だからって夜更かししてないで早く寝なさいよ。真夜中から缶コーヒーなんて,身体に悪いわよ』



そう言って,立ち去れと。

だけど,無理だった。



『バカな同情してないで』



そんなこと,言えない。

今はそんな,バカな同情すらほしいと思ってしまうのだから。

私は膝を折って手を差し出す彼の右手に,自分のそれを重ねた。