愛する芽依菜の葬儀が済んだ後、空さえも悲しんでいるように涙を流していた。
僕は葬儀場のすぐ近くの公園で、未だに現実味のない空虚感にぼんやりと立ち尽くす。
降りしきる雨の中、僕が傘もささずに佇んでいると、不意に頭上にビニール傘を差し向けられた。
「なあ、おまえが雪宮ユウリ?」
「……、誰……」
「俺? ……花織メイナを好きだった男」
「……は?」
傘の持ち主である、同じく線香の匂いが染み込んだ喪服姿の男に、そう声をかけられ僕は思わず目を見開く。
名前を知られている上に、こんな声のかけ方をしてくると言うことは、この男は僕が芽依菜を好きだったことも知っているのだろう。
「俺は月瀬弥白。良ければさ、少し、メイの話をしないか」
「……」
彼女を『メイ』と親しげに呼ぶ目の前のこの男は、涙に滲む視界でも随分と整った顔をしているように見えた。
センターパートの柔らかそうな黒髪に、しっかりとした二重の目。人当たりの良さそうな微笑みに、雨音に邪魔されないよく通る声。
彼女の知り合いに、こんな長身のイケメンが居たなんて知らなかった。
彼女を喪った悲しみで張り裂けそうだった胸の内に、また別の痛みを感じる。
「……いいですよ、どこで話します?」
「そう来なくちゃな! まあ、そんなずぶ濡れじゃどこも入れないだろうし……かと言ってこのまま立ち話もなんだよな。……俺の家、すぐ近くなんだ。着替え貸すし、来るか?」
普通、泣いている相手にこんな風にあっけらかんと声をかけたり、初対面の相手を家に招くようなことはしないだろう。
僕の中にはなかった価値観で生きる彼に、僕は思わず涙を袖で拭いながら溜め息を吐く。
「はあ……。月瀬さん、距離感バグってるってよく言われません?」
「ん……? まあ、メイにはよく近いって言われてたな」
「……そうですか」
花織芽依菜は、僕の最愛の人だった。けれど、恋人だった訳じゃない。僕の片想いに過ぎなかったけれど、それでも特別な思い出もたくさんあったし、彼女にとっても少なからず僕が特別な存在であったと信じていた。
そんな僅かばかりの独り善がりな希望が、彼女亡き今僕を立たせている唯一の寄る辺が、ぐらりと大きく揺らぐのを感じる。
コミュニケーション能力の高さや、彼女と随分親しげな様子。コンプレックスを刺激する整った容姿。ただでさえ最愛の人を喪ったばかりのぼろぼろの状態で出会った彼の第一印象は最悪だった。
それでも、僕の知らない芽依菜のことを聞けるならと、僕は誘われるまま、彼の家へと向かった。
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