天文部 入部初日。
 わたしこと鳴海千尋が天文部に入部した初日に廃部が決まっていた。そして部長である姫川天音さんのもとで格闘ゲームの指導を受けることになった。

「じゃあ、一緒に帰りましょうか」
 なんだかんだで流れに逆らえないわたし。ぐだぐだだな。

 部活時間が終了してみんな駅に向かうのだが姫川さんは都外なので路線が違う。校門をでたところで別れた。
 わたしは地元なので途中まで折笠さんに同行した。夕方だった。

 コミュ障のわたしはなにを話していいかわからずあたふたしてしまったが、折笠さんは気さくに話しかけてくれた。

「そんなにかしこまらなくてもいいのよ。この時間は金星が見えるわ。都会はね、光害といって街の灯りで星が霞んでしまうの。本当は満天の星がわたしたちの頭上に輝いているのよ。人類の英知はわたしたちから星空を奪った。春の星座では北斗七星を含むおおぐま座が有名ね。北斗七星の柄のカーブを伸ばしたところにあるアルクトゥルス、スピカの描く曲線を春の大三角というの」

 彼女は天文部らしいことをいった。
「折笠さんて詩人ですね。そういえばなんで天文部なんですか? 格闘ゲームやりたいだけなら同好会でもいいじゃないですか」

「それはね。うちの学校は部活強制だし。文化部のなかでは一番自由な時間があるからよ」
「なーるぅほど」
「送れるといいわね、キラキラした青春」
「はい!」

「クラスに仲のいい人とかいるの?」
「それが全然。みんなオナチューでグループ作ってて」
「オナチューってなに?」
 折笠さんは眉根を寄せた。

「同じ中学です」
「なあんだ、オナニー中毒かと思った」
 先輩、天然ボケだなあ。下ネタOK女子なんだろうか。

「先輩! ……ところで姫川さんってどこかの中学で生徒会長やってました?」
「え? ないない、あいつが生徒会長なんてありえない」

「姫川って有名な生徒会長がいるって聞いたことあるんですよね。あだながたしか聖少女……暴君」
「聖少女暴君?」
「あぁ、でも不確かな記憶なのでいまのは忘れてください。じゃあわたしこっちなので」
「はい、また明日」


 わたしはその晩ベランダから星を見た。光害があるが北斗七星と春の大三角を認識できた。一瞬流れ星が流れた気がした。

 ……そう。このときは気がつかなかった。この物語は聖少女でありながらわがまま暴君でもある姫川天音さんに振り回される天文部の愉快な仲間たちの物語なのだ。