Aスタジオのシャッターが開いた
外から深く黒いキャップ帽子、
サングラスと黒いマスクを
かぶって顔を隠した1人のライオンの男が
オーディションをチラチラと
見聞きしていた。
その男の肩には小さな黄色いひよこも
黒い帽子にサングラスをして様子を同じように伺っていた。
「……どうですか?」
肩に乗ったひよこのルーク話し出す。
ライオンの男は、帽子を下の方に押して
「うーむ、実態はやっぱり
ひどいもんだよな。」
「確かに。」
腕を組んで頷くルーク。
パタパタと飛んで右肩に移動する。
「何のためのオーディションか
わけがわからんな。」
「ルーク、後で、
あいつに声、かけといて。」
「あいつって、あの人ですよね。
あの、体全体が薄水色の狼さん?
ボス、名前、聞き取れました?」
ルークは、空中をパタパタと飛んで
スタジオの中にいる
アシェルの様子を覗き見た。
「あぁ。あいつは
今回のターゲットに
されてる奴だから。
名前は…遠くてわからん。
あとで声かけて聞いて。」
「ちょっと、
全部私に振らないでくださいよ。
ひよこ使いが荒いお人だ。」
「何だよ、ひよこ使いって。
それを言うなら人使いじゃねぇの?」
「いや、私、ひよこですし。」
「うん。わかるけどな。
読者がわかりにくいだろ。
確かに俺らは動物だけどな。」
カメラ目線に指をさす。
「私、人じゃありませんもの。」
「あ、はいはい。
好きにして。
んじゃ、俺、あっちの出口で
隠れて待ってるから。
ジェマンドに見つかったら
何言われるかわからねぇからな。
頼んだぞ。」
ライオンのボスと言われる男は
ルークの話が
面倒になって、スルーした。
かぶっていた帽子をさらに深くかぶり、
着ていたパーカーをほっかぶりにして、
出口の塀の影に急いで隠れた。
一方、その頃のアシェルは。
「すいません、ジェマンドさん!」
ロックとワイマット、そして
ジェマンドの3人が談笑している
中にアシェルは声をかけた。
盛り上がっている会話に
なんで入ってくるんだよというような
嫌な態度を取られた。
「あ?」
「すいません、
お話に盛り上がってるところに
割り込んで…。」
「あ、いや、別に良いんだけど。」
ジェマンドは建前な態度を取る。
「あの〜
今回の舞台【赤ずきん】の
狼役って
すでに決まったんでしょうか。」
「……それは、1週間後に
連絡しますって言いましたよね?」
「え、あ、はい。
そうなんですが、さっき隣にいた
アレックスさんとスマッシュさんが
アンケートの配役に決まったって
さっき聞いたので
もう赤ずきんも決まってるのかなと
思いまして…。」
ジェマンドは壁の方に体を向けて
アシェルに聞こえない舌打ちをした。
(あいつらが話さなければ
気づかないまま終わったのに
余計なことを……。)
「あ、あの〜。」
「あー、聞こえちゃいましたか??」
営業スマイルのようにニコニコと
いきなり空気を変えるジェマンド。
逆に違和感を感じるアシェル。
「は、はい。」
「そうなんですよ。
もう、赤ずきんの狼役は
ここにいらっしゃるロックさんって
前から決めておりまして…。」
「前から?」
背中が何だかゾワゾワする。
「本当は自然の流れで
合否を感じて欲しかったんですが、
はっきり聞きたいですか?」
何だろう。
この時点で明らかに結果が見えてくる。
そう思いながらも
聞き出そうとするアシェル。
「あ、はい。」
「面と向かって言うのは
失礼に当たるかなとも思いましたが
とりあえずは応募していただき
ありがとうございました。
エントリーシートや模擬試験を
拝見して、厳正な審査の結果は
大変申し訳ないのですが、
今回は見送りさせていただく運びと
なりました。
今後のアシェル様のご活躍を
お祈りいたしております。」
ペコっとお辞儀をして、ニヤリと笑う
ジェマンド。
よく言う、お祈りメールもしくは
お祈り手紙を直接言われるパターンだ。
ここまで言われると心がガラスのように
バリバリと壊れていくのが分かる。
それを言われて数分は
体が硬直して
何も言えなかった。
「はっきり言わせてもらうんですが、
アシェルさんっていろんなところに
応募してますよね?
業界では噂になってるんですよ。
全然、見込みのないやつが
何度も応募するって話。
そろそろ、諦めてもいいんじゃないです?
気づきませんか?
才能がないってことに。」
太ももの横にあった
手をギュッと握りしめた。
じわじわと両方の手のひらから
血が出てきた。
両手の爪が長いってこともあった。
血が出ていても力強く
握りしめたいくらい
悔しかった。
額の筋もピキピキと出てきた。
言葉は発することができなかった。
深呼吸をして話し出す。
「ハハハ…そうですよね。
才能なんて元から無かったなんて
知ってたはずなんですけど
そこまで
ズバッと言われちゃうと…。
あ、でも、
すぐ結果が聞けて助かりました。
次の応募先もあるので
失礼します。」
目頭が熱くなるのを感じたが
必死にこらえた。
「ふーん。焼け石に水だと思うけど
せいぜい頑張って。」
近くにいたロックとワイマットも
一緒になって
笑っていた。
何というこの上ない屈辱。
今まではお祈りメールを受け取って
スルーできたが、
目の前で面と向かって
言われると
腹が立って仕方ない。
怒りを鎮めようと必死だったが、
両手のひらから血が出てるのに
気づかずに
手を振り上げようとしたが、
突然小さな黄色い鳥が
アシェルの目の前を飛んでいた。
振り上げた手がジェマンドの背中で
寸止めしていた。
「待ってください。」
パタパタと空中に飛ぶルーク。
アシェルは一瞬、ギラギラ目が
拍子抜けして、いつも通りの目に
戻っていた。
「落ち着いて、落ち着いて…。」
「……。」
アシェルは呼吸を整えた。
ジェマンドとロック、ワイマットは、
アシェルのことなんて気にもせず、
出口の方へ歩いていく。
アシェルは
誰もいない壁を思いっきり殴った。
パラパラとかけらが落ちていく。
怒りが壁に向いて、
気持ちを分散させられた。
「あちゃー…。」
ルークはパタパタと後ろを飛んで、
壁が壊れたのをしっかり見ていた。
壊れると言っても、大体縦10cmくらいの
穴が開いたくらいだ。
「……あんた、誰。」
怒りに任せて、
初対面のひよこに優しくはできなかった。
「とりあえず、壁を殴って
気持ち落ち着いているのであれば
あの人を殴るより
断然良いんですけど…。
いや、ダメだろ、これ。
ボロボロだし…。」
レンガでできた壁がボロボロで
周りに影響するんじゃないかという
破損具合だ。
アシェルは地面に落ちた
レンガのかけらを蹴飛ばして、
その場から立ち去ろうとした。
ルークは、
持っていたひよこ専用スマホで
電話をかけて
壁を業者に直すよう発注をかけた。
「これで大丈夫っと。
ちょっと、尻拭いしたんですから
黙って立ち去らないでくださいよ。」
ルークはアシェルの顔、目の前に
飛んで行った。
「…俺は頼んでないけどな。」
「え、あ、そう。
んじゃ、私の自己満足ですね。
ってそういうことじゃなくて…。
私、こういうものです。」
小さなスマホ画面に
デジタル名刺を表示させた。
「ん?株式会社 SPOON
ひよこのルーク?」
「そうです。
たくさんの人…いや、動物たちを救う
株式会社SPOONの副社長のルークです。
体は小さいですけど、
やっていることは大きいです。
お名前教えてもらえますか?」
「俺はアシェル。
救うってどういう…。」
「アシェルさんですね。
忘れないように写真とメモ
しときましょう。
まぁまぁ、とりあえず
会ってもらいたい人がいるんです。
着いてきてください。」
ルークはスマホでパシャと
アシェルの顔を撮り、画像編集アプリで
写真にアシェルと書き込んだ。
作業しながら、ルークはスタジオを出て、
パタパタと小さい羽で必死に
移動していく。
アシェルはバックに入れていた
タオルをビリッと2枚にやぶき
手のひらにぐるぐるとまいた。
手のひらに血が出ていることをやっと
気づいた。
巻き終えるとルークが
こっちですと呼びかけてくるため、
言われるがまま着いていった。
外から深く黒いキャップ帽子、
サングラスと黒いマスクを
かぶって顔を隠した1人のライオンの男が
オーディションをチラチラと
見聞きしていた。
その男の肩には小さな黄色いひよこも
黒い帽子にサングラスをして様子を同じように伺っていた。
「……どうですか?」
肩に乗ったひよこのルーク話し出す。
ライオンの男は、帽子を下の方に押して
「うーむ、実態はやっぱり
ひどいもんだよな。」
「確かに。」
腕を組んで頷くルーク。
パタパタと飛んで右肩に移動する。
「何のためのオーディションか
わけがわからんな。」
「ルーク、後で、
あいつに声、かけといて。」
「あいつって、あの人ですよね。
あの、体全体が薄水色の狼さん?
ボス、名前、聞き取れました?」
ルークは、空中をパタパタと飛んで
スタジオの中にいる
アシェルの様子を覗き見た。
「あぁ。あいつは
今回のターゲットに
されてる奴だから。
名前は…遠くてわからん。
あとで声かけて聞いて。」
「ちょっと、
全部私に振らないでくださいよ。
ひよこ使いが荒いお人だ。」
「何だよ、ひよこ使いって。
それを言うなら人使いじゃねぇの?」
「いや、私、ひよこですし。」
「うん。わかるけどな。
読者がわかりにくいだろ。
確かに俺らは動物だけどな。」
カメラ目線に指をさす。
「私、人じゃありませんもの。」
「あ、はいはい。
好きにして。
んじゃ、俺、あっちの出口で
隠れて待ってるから。
ジェマンドに見つかったら
何言われるかわからねぇからな。
頼んだぞ。」
ライオンのボスと言われる男は
ルークの話が
面倒になって、スルーした。
かぶっていた帽子をさらに深くかぶり、
着ていたパーカーをほっかぶりにして、
出口の塀の影に急いで隠れた。
一方、その頃のアシェルは。
「すいません、ジェマンドさん!」
ロックとワイマット、そして
ジェマンドの3人が談笑している
中にアシェルは声をかけた。
盛り上がっている会話に
なんで入ってくるんだよというような
嫌な態度を取られた。
「あ?」
「すいません、
お話に盛り上がってるところに
割り込んで…。」
「あ、いや、別に良いんだけど。」
ジェマンドは建前な態度を取る。
「あの〜
今回の舞台【赤ずきん】の
狼役って
すでに決まったんでしょうか。」
「……それは、1週間後に
連絡しますって言いましたよね?」
「え、あ、はい。
そうなんですが、さっき隣にいた
アレックスさんとスマッシュさんが
アンケートの配役に決まったって
さっき聞いたので
もう赤ずきんも決まってるのかなと
思いまして…。」
ジェマンドは壁の方に体を向けて
アシェルに聞こえない舌打ちをした。
(あいつらが話さなければ
気づかないまま終わったのに
余計なことを……。)
「あ、あの〜。」
「あー、聞こえちゃいましたか??」
営業スマイルのようにニコニコと
いきなり空気を変えるジェマンド。
逆に違和感を感じるアシェル。
「は、はい。」
「そうなんですよ。
もう、赤ずきんの狼役は
ここにいらっしゃるロックさんって
前から決めておりまして…。」
「前から?」
背中が何だかゾワゾワする。
「本当は自然の流れで
合否を感じて欲しかったんですが、
はっきり聞きたいですか?」
何だろう。
この時点で明らかに結果が見えてくる。
そう思いながらも
聞き出そうとするアシェル。
「あ、はい。」
「面と向かって言うのは
失礼に当たるかなとも思いましたが
とりあえずは応募していただき
ありがとうございました。
エントリーシートや模擬試験を
拝見して、厳正な審査の結果は
大変申し訳ないのですが、
今回は見送りさせていただく運びと
なりました。
今後のアシェル様のご活躍を
お祈りいたしております。」
ペコっとお辞儀をして、ニヤリと笑う
ジェマンド。
よく言う、お祈りメールもしくは
お祈り手紙を直接言われるパターンだ。
ここまで言われると心がガラスのように
バリバリと壊れていくのが分かる。
それを言われて数分は
体が硬直して
何も言えなかった。
「はっきり言わせてもらうんですが、
アシェルさんっていろんなところに
応募してますよね?
業界では噂になってるんですよ。
全然、見込みのないやつが
何度も応募するって話。
そろそろ、諦めてもいいんじゃないです?
気づきませんか?
才能がないってことに。」
太ももの横にあった
手をギュッと握りしめた。
じわじわと両方の手のひらから
血が出てきた。
両手の爪が長いってこともあった。
血が出ていても力強く
握りしめたいくらい
悔しかった。
額の筋もピキピキと出てきた。
言葉は発することができなかった。
深呼吸をして話し出す。
「ハハハ…そうですよね。
才能なんて元から無かったなんて
知ってたはずなんですけど
そこまで
ズバッと言われちゃうと…。
あ、でも、
すぐ結果が聞けて助かりました。
次の応募先もあるので
失礼します。」
目頭が熱くなるのを感じたが
必死にこらえた。
「ふーん。焼け石に水だと思うけど
せいぜい頑張って。」
近くにいたロックとワイマットも
一緒になって
笑っていた。
何というこの上ない屈辱。
今まではお祈りメールを受け取って
スルーできたが、
目の前で面と向かって
言われると
腹が立って仕方ない。
怒りを鎮めようと必死だったが、
両手のひらから血が出てるのに
気づかずに
手を振り上げようとしたが、
突然小さな黄色い鳥が
アシェルの目の前を飛んでいた。
振り上げた手がジェマンドの背中で
寸止めしていた。
「待ってください。」
パタパタと空中に飛ぶルーク。
アシェルは一瞬、ギラギラ目が
拍子抜けして、いつも通りの目に
戻っていた。
「落ち着いて、落ち着いて…。」
「……。」
アシェルは呼吸を整えた。
ジェマンドとロック、ワイマットは、
アシェルのことなんて気にもせず、
出口の方へ歩いていく。
アシェルは
誰もいない壁を思いっきり殴った。
パラパラとかけらが落ちていく。
怒りが壁に向いて、
気持ちを分散させられた。
「あちゃー…。」
ルークはパタパタと後ろを飛んで、
壁が壊れたのをしっかり見ていた。
壊れると言っても、大体縦10cmくらいの
穴が開いたくらいだ。
「……あんた、誰。」
怒りに任せて、
初対面のひよこに優しくはできなかった。
「とりあえず、壁を殴って
気持ち落ち着いているのであれば
あの人を殴るより
断然良いんですけど…。
いや、ダメだろ、これ。
ボロボロだし…。」
レンガでできた壁がボロボロで
周りに影響するんじゃないかという
破損具合だ。
アシェルは地面に落ちた
レンガのかけらを蹴飛ばして、
その場から立ち去ろうとした。
ルークは、
持っていたひよこ専用スマホで
電話をかけて
壁を業者に直すよう発注をかけた。
「これで大丈夫っと。
ちょっと、尻拭いしたんですから
黙って立ち去らないでくださいよ。」
ルークはアシェルの顔、目の前に
飛んで行った。
「…俺は頼んでないけどな。」
「え、あ、そう。
んじゃ、私の自己満足ですね。
ってそういうことじゃなくて…。
私、こういうものです。」
小さなスマホ画面に
デジタル名刺を表示させた。
「ん?株式会社 SPOON
ひよこのルーク?」
「そうです。
たくさんの人…いや、動物たちを救う
株式会社SPOONの副社長のルークです。
体は小さいですけど、
やっていることは大きいです。
お名前教えてもらえますか?」
「俺はアシェル。
救うってどういう…。」
「アシェルさんですね。
忘れないように写真とメモ
しときましょう。
まぁまぁ、とりあえず
会ってもらいたい人がいるんです。
着いてきてください。」
ルークはスマホでパシャと
アシェルの顔を撮り、画像編集アプリで
写真にアシェルと書き込んだ。
作業しながら、ルークはスタジオを出て、
パタパタと小さい羽で必死に
移動していく。
アシェルはバックに入れていた
タオルをビリッと2枚にやぶき
手のひらにぐるぐるとまいた。
手のひらに血が出ていることをやっと
気づいた。
巻き終えるとルークが
こっちですと呼びかけてくるため、
言われるがまま着いていった。