貴族とは普通『魔法を使える存在』であり、貴族は基本的に一定の年齢まで家で魔法の教育を受ける。
 そのため、魔法学院では生徒の数が増えるのは初等部の高学年からで、幼等部で学ぶ生徒の殆どは、逆に貴族でない者のほうが多い。
 幼児期、魔力の保有を認められた才能ある子どもたちの、その才能を伸ばすために何を教えるべきかは、古くから研究が行われてきた。
 しかし今もなお、その最善の方法を、まだこの世界は導き出せてはいない。



「今日の授業について説明します」

 教壇に立った教師の言葉に、リヒトはごくりとつばを飲み込んだ。
 実力主義の魔法学院。
 学院には長く通うものも多くはいるが、今回の短期間での留学の場合、半年後の卒業試験をクリアしなければ、卒業が認められない。
 卒業試験では自身の最大限の力を披露し、それが認められれば卒業を許されるが、判定が厳しいことは有名だ。

 しかし、この学院を卒業――かつ、もし主席での卒業が出来れば、その名は世界中に轟くとも言われている。
 リヒトは、半年後に控えた自分の卒業試験のために、幼等部とはいえ精一杯努力しようと考えていた。

 一応、筆記では主席だったのだ。
 リヒトは、これからは一日も無駄に出来ないと気を引き締めて授業に臨んだ――のだが。

「今日はみんなでお絵かきをしましょう!」

 今日の授業の内容を聞いて、リヒトは目を丸くした。

 ――何故! 授業が!! 『お絵描き』なんだっ!!??

 幼等部教師エミリー・クラーク。
 彼女は他の生徒にするように、頭を抱えるリヒトににっこりと笑いかけた。

「はい。リヒトくんには、先生のクレヨンを貸してあげましょうね」
「えっ。あ。はい……」

 ――……いや、クレヨンって! 俺は五歳児以下か!?

 リヒトはエミリーに怒ることも出来ず、渡されたクレヨンを手にぷるぷる震えた。

「そういえばギル兄上に五歳児以下と言われたんだった……。駄目だ。冷静にならなきゃ。ありがとうございます」

 律儀に礼を言いながら、リヒトは自分にツッコミを入れた。

「それじゃあ、みんなに紙とクレヨンもいき渡ったということで、今日の授業の内容を説明しますね!」

 リヒトにクレヨンを渡したエミリーは、教壇に戻ってチョークを手に持った。

「今日のお題は~~?」

 カッカッカッカッ。
 深緑色の黒板に、白い文字で文字が書かれる。
 エミリーは、お題の横に可愛くハートマークを添えた。

「『お母さん』です!」



「質が悪いというのはどういうことです?」
「人によっては中毒性が強い、というべきか。あの人は無自覚なんだろうが、あの人に習った生徒の中には、彼女を本当の母親のように思ってしまう人間が居る。彼女も良くないと認識しているのか線引きはしているようなんだが、基本あの人は自分を『学校でのお母さん』と思って欲しいという考え方だから、割り切れない生徒が例年生まれてしまうというのも確かでな……」
「……『お母さん』、ですか?」

 リヒト同様ローズの母親も、幼い頃に亡くなっている。
 ローズは父から母への愛を、耳にタコが出来るほど聞かせられて育った。
 だから、ローズはずっと信じている。
 父と母は愛し合い、そして兄と自分が生まれたと。自分は望まれて生まれた存在だということを。

 兄よりも母に似ているというローズのことを、ローズの父ファーガス・クロサイトは、誰よりも愛し育ててくれた。
 だからこそローズは、地属性の適性も備えているのだ。
 ローズには、他の人間が『偽物の母親』というものを、そこまで求める気持ちがわからなかった。

「ああ。それで、だな。幼等部で行われる主な実技の授業は、お絵かきや歌や外での運動なんだ」
「お絵かき……?」

 ローズは首を傾げた。
 魔法とお絵かき。
 ローズには、この二つが結びつくとはとても思えなかった。

「想像力。表現力。方法は何でもいい。彼女は、自分を認め、肯定する力――そういうものを幼い頃に身につけることが、魔法を使う上で重要だと考えているんだ」
「自分を認める……?」

 生まれながらに力を持ち、誰からも称賛されて生きてきたローズからしたら、それは当然備わっているものだ。
 だが今回の試験で、リヒトが幼等部にいれられたということは、自分と同い年であるリヒトに、それが足りないと学院側に判断されたということになる。

「……」
「母親の無償の愛というものを、彼女は心から信じている。その愛情こそが、子どもに魔法を与えることが出来るのだと」

 ローズには、ロイの言葉の意味がよくわからなかった。
 母親の、無償の愛? 
 それと魔法に、どんな関わりがあるというのか。
 
「自分というものを持たない人間は、彼女に依存する傾向が高い。……もしそうなった場合、学院側としては、落第を申し渡さねばならないかもしれない」
「落第……?」

 ローズは目を細めた。 
 わざわざ留学しに来たというのに、卒業も出来ず落第なんてこと、あってはならない。

「しかしまあ、それは仕方のないともいえる。自らの足で立つことの出来ない人間が、この学院の卒業試験を突破出来るはずはないのだから」

 苦い表情をするローズを前に、ロイはそうはっきり言った。



 小さな手でクレヨンを強く握って、子どもたちはクレヨンを押し付けるようにして紙に絵を描いていた。

 髪も目も色とりどり。
 学院では貴族による寄付により、平民生徒の学費が賄われている。
 世界中から集められた子どもたちは、肌の色も違う。
 けれど、母親を描けと言われて課題に取り組む彼らの姿に差はなかった。
 しかし中には、リヒトと同じようにポツポツと手の止まっている者もいて、エミリーは彼ら一人一人に声をかけ、穏やかな笑みを向けていた。

「リヒト君、描けてないけど、何か気になることがあるのかな?」
「……すいません。俺の母は幼いときに亡くなったので、殆ど記憶がなくて……」

 リヒトはクレヨンを強く握りしめた。
 母を描けと言われても、リヒトには『母』がよくわからなかった。
 幼い頃の記憶はおぼろげだし、肖像画の中の美しい人は、いつも儚げに微笑むだけだ。
 
「そっか……」
 下を向くリヒトをじっと見つめていたエミリーは、リヒトの背中を軽く叩いたあとに、大きく手を打った。

「よーし。みんな、ちゅうもーく! お母さんが今ここに居なくて、うまく描けないなあって人は、先生を描いてくれると嬉しいです! 本当は、もうみーんなに、先生のことを描いてほしいくらい! なんだけど、もう描いちゃったって人はそのまま続きを描いて下さいね!」

「「「はーい!」」」
「俺、先生のこと描く!!」
「ありがとう。その絵、先生がもらってもいい?」
「先生にあげる~~!!」
「ありがとう。楽しみだなあ。先生とっても嬉しい!」

 嬉しいと笑うエミリーを見て、他の子どもたちも、自分も自分もと声を上げる。
 母親を描き終わった子どもたちは、次は先生の絵を描いてあげるんだとクレヨンを手に意気込んでいた。

「あの……」
 その光景を見て、リヒトは少し動揺した。
 ――この人は、自分を気遣ってくれたのだろうか?
 ちらりとリヒトがエミリーの顔を見れば、彼女はリヒトの耳元で、小さく囁いた。

「リヒト君、気付いてあげられなくてごめんね。もし何か困ったなあってことがあったら、先生になんでも話して下さいね」

 この人からは、不思議とお日様のようなにおいがする――エミリーを見つめていると、ふとそんな言葉が頭に浮かんで、リヒトは何故か胸が熱くなるのを感じた。

「――はい」
 朗らかに微笑まれ、リヒトは思わず頷いていた。
 彼に母親の記憶は無い。
 亡くなったのが幼過ぎて忘れてしまった。
 ただもし、『母上』と出会えるなら――こんなふうに自分に笑ってくれる人がいいと、リヒトは思った。



「リヒト君!」
「先生?」

 『お絵描き』の授業が終わり、昼休み。
 リヒトが一人空を眺めていると、エミリーに声をかけてきた。
 リヒトの二人の護衛は、少し離れた場所からリヒトを見守ってはいたものの、相手がエミリーということもあり、距離を保ったままだった。

「なんでしょうか?」
「実はリヒト君にはやくお礼が言いたくて、探しちゃいました」

 ぱたぱたと走ってきたエミリーは、手に丸めた紙を持っていた。

「隣に座ってもいいかな?」

 コクリと頷く。リヒトはあまり、年上の女性と話したことがなかった。
 外交の場において年上と話す席はあっても、魔法以外に興味のないリヒトの代わりに、ローズが常に彼らの相手をしていたためだ。

「じゃっじゃじゃーん! リヒト君、これなーんだ?」
「……丸めた紙??」

 リヒトは見たままを答えた。
 するとエミリーはくすっと笑って、体の前でバツ印を作った。

「ぶっぶー。違います。これは先生の宝物です!」
「たから、もの……?」
 リヒトは意味がわからず首を傾げた。

「開いてみて?」
「これ……」
 紙を渡されたリヒトは、彼女が宝物だという紙を開いて目を瞬かせた。
 そこに描かれていたのは。

「俺の絵……?」
 リヒトが授業で描いた、エミリーの絵だった。

 リヒトは、あまり絵が得意ではない。
 昔から幼馴染の中で、リヒトは一番絵が下手だった。

 ――そんな俺の絵が、宝物??

「リヒト君にこんなに美人に描いて貰えて、私、とても嬉しいです」
「へたくそです。兄上たちと比べたら……俺は」

 リヒトは下を向いた。
 自分の絵は、確かに幼等部《こども》の中ではマシかもしれないが、兄たちと比べたら遠く及ばない。
 場の雰囲気が重くなる。
 しかしエミリーは、気にする様子なくリヒトに近付くと、彼の眉間のシワを人差し指でぐりぐりのばした。

「いいですか? リヒト君」
「?」
「私はリヒト君のお兄さんを知りませんし、知っていても、今の言葉を変えることはありません。貴方が一生懸命、私を想って描いてくれた。それだけで、この絵は私にとって、とても価値あるものです。だから私は、リヒト君にありがとうが言いたくて、貴方を探していたんですよ」

 エミリーはそう言うと、リヒトを強く抱きしめた。

「ありがとう。リヒトくん」

 彼女の声は、温かい。
 リヒトは、その声をとても好きだと思った。それは、彼が知らない温もりだった。

 ――だが。

「せ、せんせい!」
 とあることに気づいて、リヒトは顔を真っ赤に染めた。

「そ、その。ム、胸が」
「あらごめんなさい」
 抱きしめられたせいで、自分の顔が、丁度エミリーの胸に埋もれるような形になっていたのだ。

「私は気にしませんが、リヒト君は気になりますか?」
「お……俺は、その……」
「もっとぎゅっとしてもいいんですよ~?」

 ふふふっと笑いながら、エミリーはリヒトを再び抱きしめた。
 柔らかな感触に、リヒトの顔がさらに赤くなる。
 母親の記憶がない上に、婚約者であったローズとはキスすらしたことなかったのだ。
 そんな彼が、女性の胸に顔を埋めるなんて――これまで、経験しているはずがない。

 リヒトはエミリーから逃れようとはしても、強く拒絶はできなかった。
 これが、母上の温もり――。
 その柔らかなあたたかさが、彼の判断を鈍らせる。

「――リヒト様」

 氷のように冷たい声が、彼の名を呼ぶまでは。

「……な、なんでローズがここに」

 エミリーの腕に抱かれていたリヒトは、自分の名を呼ぶローズの声を聞いて、はっと我に返り漸く彼女から逃れた。
 振り向いてローズの顔を見る。
 元婚約者の幼馴染みは、昔から綺麗な顔をしているが、そんな彼女が冷ややかな表情をしていると、こうまで恐ろしいのかとリヒトは初めて知った。

「ロイ様がアカリと話があるとおっしゃって、少し貴方のことが気になって様子を見に来たんですが、随分お楽しみだったようですね」

 ――ローズが俺のことを気にして……? 

 一瞬、ローズの言葉の一部にどきりとしたリヒトだったが、その相手に見られた光景を思い出して、リヒトは体温が下がるのを感じた。

「あら、貴方は……」
 エミリーは、ローズを見て目を瞬かせた。
 冷たい表情のローズと、明らかに慌てるリヒト。二人を見て、あらまあとエミリーは穏やかに微笑む。

「お友達が来てしまったみたいなので、先生はこれで戻りますね。リヒト君、ありがとう。今日はとっても嬉しかったです」
「ああ。えっと、はい……」

 エミリー(手を振られ、リヒトは手を振って返した。
 しかしその最中、背後が更に寒くなったように思えて、リヒトは恐る恐る振り返った。

「リヒト様は、胸が大きな方がお好きなのですね」
「は?」
「それでいて、自分の胸に顔を埋めても許してくれるような方が、お好きというわけですね」
「は???」
「なるほど。私にそんなことは出来ませんものね。ああ、アカリに同じようなことはなさらないでくださいね。もしそんなことをなされば、いくら貴方であろうと私が容赦出来ませんので。いえ、言葉を換えましょう。しばらくアカリに近づかないで下さい。アカリが汚れます」
「け……汚れるってなんだよっ!?」

「男性に触れられるだけでも泣いてしまうアカリです。貴方がそのような、欲深い方とは存じませんでしたが、欲望とは一度箍が外れると手綱を引くのが難しいもの。ケダモノのような今の貴方を、アカリに近づけることはできません」

「ちっちが……! あれはそんなんじゃ! ていうか、ケダモノってなんだよ! 俺はそんなんじゃないぞ!?」
「何が違うのですか。あのように、デレデレと、鼻の下を伸ばして」
「俺は鼻のを下を伸ばしてなんか。……あのな、ローズ。話を聞けって。俺はだな」
「――軽蔑、します」

 聞く耳持たず。
 不機嫌そうな顔をして、ぷいと顔を背けたローズは、リヒトからどんどん離れていってしまう。
 リヒトは弁明しようにも、そもそも自分がローズに弁明する必要が無いことに気付いて溜息を吐いた。

 婚約者だった頃ならまだしも、婚約破棄を言い渡してきた相手にそんなことをわざわざ追いかけてまで来て言われても、迷惑極まりないだろう。
 今の自分と彼女の関係に改めて気付いて、リヒトは頭を抱えた。

「なんでいつもこうなるんだ……」

 エミリーの言葉が嬉しかったはずなのに、ローズの冷たい瞳を思い出すと、リヒトの気分は最悪だった。



「ローズさん、お帰りなさい!」
 アカリのもとに戻っても、ローズは眉間に皺を作ったままだった。美人が怒ると怖い。

「あれ? ローズさん、どうかしたんですか?」
 しかし、よくローズに怒られているアカリは、いつもと変わらぬ調子でローズに尋ねた。

「いえ。何でもありません」
「? そうなんですか?」
 アカリは首を傾げた。
 ローズは見るからに先程より機嫌が悪そうだが気のせいなのだろうか?
 
 ローズとアカリが、そんなやり取りをしている頃。
 ローズたちとは少し離れた木々の間から、鏡合わせのような顔をした双子が、不機嫌なローズをオペラグラス越しに眺めては、きゃいきゃいと楽しげな声を上げていた。

「素晴らしい人材を見つけたのです! 不機嫌そうなところも、凛々しくて麗しいのです!」
「麗しいのです!!!」
「決めました! 今年はあの方にぜひ、あの格好をしていただくと!」
「学院の関係者であれば、全ての物に参加が許される――……」
「彼女こそ、私たちの理想にぴったりなのですっ!」
「「あの方こそ――われわれの、『王子様』に相応しい!!!!」」

 双子は楽しげに手を合わせる。
 そしてどこからか取り出したスケッチブックに、何やら絵を描き始めた。
 目にも止まらぬ速さで線が引かれていく。

「これで、完璧なのですっっ!!! 盛り上がること間違いなしです!!」
 双子は恍惚とした表情を浮かべ、出来上がったデザイン画を空に掲げた。
 そこには、胸の膨らんだ王子様の服の絵が描かれていた――……。
 


 翌日、ロイはまたローズたちのもとに訪れた。

「なんでまたいるんですか……?」
「シャルルが君たちと昼食をとりたいと言うから、叶えてやろうと思ってな。おかげで仕事を終わらせるために死ぬ目を見た」
「普段からちゃんと仕事をしていないから、予想外の予定が入ると死ぬ思いをするんじゃないんですか?」
「まあそれは確かだが、君の思う仕事量と俺の抱える仕事量が同じとは限らないだろう?」
「だったら昨日も来なければよかったじゃないですか……」

 アカリは明らかに不機嫌だった。

「お昼ご飯、です!」
 二人の口論など気にもとめず、シャルルは元気よくバスケットの中の昼食を取り出した。
 その昼食は、アカリにとって見覚えのあるものだった。

「おにぎり……?」
「グラナトゥムでは、多くの異世界人を歓迎している。だから彼らの食生活を、グラナトゥムでは再現する手助けをしている。おにぎり、といったか? 俺もなかなか美味しくて気に入っている」
「まさか異世界でこれが食べられるなんて……」
「すっぱい!」

 アカリが感動している横で、先におにぎりを食べていたローズが叫んだ。
 顔を歪めるローズの手の中のおにぎりの中に、赤いものを見つけてアカリは目を輝かせた。

「梅干しまで入ってる! すごい!」
「それはシャルルが作ったんだ。シャルルは料理の才能があるのかもしれないな」
「さようですか……」

 溺愛がすぎる。アカリはシャルルを見つめて優しく目を細めたロイを見て表情をこわばらせた。
 ロイヒ褒め称えたが、シャルルの握ったというおにぎりは明らかに形が悪かった。
 そんな時。

 ピンポンパンポン。
『お昼の放送です』
 どこからか、アカリには聞き慣れた音が響いた。

「町内放送とかでよくある音?」
「これは拡声魔法だな」
 ロイがぼそりと呟く。

『新学期が始まり、今年度もたくさんの新入生を迎えることができました。つきましては、新入生の歓迎会と交流会のため、今年度も舞踏会を執り行います』

「……舞踏会?」

 アカリは首を傾げた。
 『Happiness』のロイルートで、舞踏会のイベントがあるとは聞いたことがあったが、そこまでプレイしていないためアカリにはよく分らない。
 確かそのイベントでは、最も素晴らしいダンスをした少女に、ロイとのラストダンスをする権利が与えられる、とういうものだったはずだ。
 アカリはロイを無言で見上げた。彼とラストダンスなんて、死んでもゴメンだ。

『最優秀舞踏賞を受賞した方には、今年度の王子様、ローズ・クロサイト様とのラストダンスが約束されます!』

「……え?」
 自身の予想とは違う放送内容に、アカリは間の抜けた声を上げた。

「おや、そうなのか?」
 ロイは楽しげに笑ってローズを見ていた。

「……何も聞いていません」
 当のローズは初耳だった。