二〇二四年四月下旬の早朝。
美玲は東京にある国際空港にいた。
この日、美玲は日本を出国してフランスに行くのだ。
美玲が死ぬ前にフランスへ行こうと決めてから、行動は早かった。
一人で海外旅行が初めてなので、近くの旅行代理店へ駆け込んで相談した。その結果、ゴールデンウィークが始まる頃と重なる四月下旬出発の六泊八日のツアーを勧められてそれに申し込んだのである。
死ぬことを決めてから美玲は職場でも適当にな態度になっており、冬田の言うことも取り合うのを完全にやめて無視し、残業もせず定時で上がるようになっていた。そしてフランス旅行の為の有給も無理やりもぎ取ったのだ。
ツアー内容は、一日目の朝に日本出発し、直行便で夕方にフランス到着。そこからバスでシャルトルへ移動。ホテルの部屋に荷物を置き、夜のシャルトルの街を散策する。
二日目は午前中にシャルトル大聖堂を見学。その後バスでロワールに移動し、ロワール川のほとりにあるレストランで昼食を取る。その後シャンボール城を見学し、ロワールのホテルへ向かう。
三日目は朝からバスで移動してモン・サン=ミッシェルを見学する。その後、バスでパリのホテルに移動する。ちなみにこの日の昼食はモン・サン=ミッシェル付近のレストランで食べるそうだ。
四日目はパリ観光だ。エッフェル塔やエトワール凱旋門へ向かう。そして昼食後、フランスでも最も有名だと思われる美術館へ行くのである。そして夕方にパリの街で解散し、自由行動の時間がある。
五日目はバスで移動し、一日中ベルサイユ宮殿見学だ。宮殿本館だけでなく、庭園、大トリアノン宮殿、小トリアノン宮殿などを一日かけて回るのだ。
六日目は何と一日中自由行動。パリの街を自由に楽しめるのである。
そして七日目早朝にパリのホテルをチェックアウトし、バスで空港へ向かう。朝の直行便で日本へ帰るのだ。ちなみに機内泊であり、八日目の早朝に日本に到着する。
美玲は空港に着いたらすぐに集合場所である旅行代理店のカウンターへ向かった。
カウンターには既に同じツアーに参加する人達が並んでおり、一人ずつ説明を受けている。
待っている際、旅行代理店のスタッフに『MIREI KISHIMOTO』と書かれたネームタグをスーツケースに付けてもらった。
そして美玲の番がやって来た。
「岸本です」
「えっと……岸本美玲さんですね。お待ちしておりました」
カウンターにいた女性は名簿を確認し、朗らかにそう言った。
「今回のツアーに同行いたします、斉藤明美です。まずはパスポートを確認しますので、その間にこちらの注意事項をお読みください」
美玲はどのゲートでチェックイン手続きをするか、何時までにどこに集合するか等が書かれた紙を確認した。
「パスポート、ありがとうございます。期限もまだ四年残っていますので問題ございません。そちらにも書いてありますが、チェックイン手続きは……」
改めて添乗員の明美からの説明を受ける美玲。
その後、明美の指示通り、搭乗予定の航空会社のチェックインカウンターへ向かい、スーツケースを預けた。
身軽になったかと思いきや、そうでもない。美玲はロストバゲージ(通称ロスバケ)対策で、比較的大きめのリュックに必需品を詰め込んでいたのだ。
(乗り継ぎがある場合なら分かるけど、直行便でもロスバケが起こる可能性があるって書いてあったし……)
美玲は苦笑した。
そのまま手荷物検査場へ向かう美玲。
空港スタッフから「こちらへどうぞ」と指示されるわけではなく、自分で勝手に開いたところで荷物を置いて検査してもらうスタイルだった。
(どこが空いてるのか分からないからせめて声かけて欲しいよ……)
国内線ではいつも空港スタッフの指示があってから動いていた美玲なので、そのスタイルには慣れずに戸惑った。
(機内持ち込み用の液体物、ジッパー付きの透明プラスチック袋に入れろって書いてあったけど……ロゴありの袋でも大丈夫かな……?)
若干不安はあったが、特に何も引っかかることはなかったので美玲は安心した。
そしていよいよ出国手続きだ。
美玲のいるターミナルは手続きが完全自動化されている。
パスポートを読み取り顔認証を行うとすぐに出国手続きが完了した。
(こんな簡単でいいんだ……)
美玲はあまりのスムーズさに驚く。
その後、美玲はせっかくだから自身のパスポートに出国のスタンプを押してもらうことにした。大学院修士課程二年の時に取ったパスポートに、ようやくスタンプが押されるのであった。
(日本からフランスまで直行便で十四時間はかかるから水は買っておこうかな。国際線はペットボトル系の液体物は持ち込み出来ないけど、手荷物検査を終えた後に購入したものなら持ち込めるもんね)
美玲は水を買う為にコンビニの場所を確認して向かう。
何となく空港散策やコンビニで水やおにぎり、お菓子等を買い込んだ後、美玲は搭乗ゲートでのんびりと明美からもらったパンフレットを読みながら待機していた。
そうしているうちに、再び添乗員の明美から声がかかり、そのまま飛行機に乗り込むのであった。
明美曰く、このツアーの一人参加者は美玲を含めて五人いるそうだ。よって自由行動の際は一人参加者同士で一緒にパリの街を回ることもできるらしい。他のツアーでも一人参加者同士で一緒に行動していることが結構あるそうだ。
(一人参加者、結構いるんだ……。まあ海外独り歩きは少し不安な面もあったから、一緒に行動できるならちょっと安心かな)
美玲は少しだけホッとしていた。
そして自身の席に座る美玲。通路側の席だ。
(今回はエコノミークラスだけど、エコノミークラス症候群とかにはならない……よね? 水も大量に買ったし、座席も通路側だから軽く席を立って体操とかも出来そうだし、トイレにも行きやすそうだし)
美玲はほぼ初めての長時間フライトに少し不安になりながらも、日本を旅立った。
◇◇◇◇
(もう飛び立ってから三時間は経過しているけど……まだ韓国らへんなんだ)
美玲は自分の席にある液晶画面で機内サービスの映画を一本見終えた後、同じ液晶画面で航空経路を眺めていた。
現在飛んでいる地域を見てみると、近くにSeoulと書いてある。韓国のソウル付近上空を通過中だ。かなり時間が経過したように感じたが、フランスまではまだまだ遠い。
ちなみに画面では日本時間とフランス時間を確認することが出来る。
現在日本(東京)はお昼十二時、フランス(パリ)は午前五時。三月三十一日からフランスはサマータイムに入っているので日本との時差は七時間である。ちなみに、本来の日本とフランスの時差は八時間なのだ。
(確かフランスに着くのは向こうの時間で夕方頃だったよね。寝ておいた方がいい? いや、飛行機の中で眠れるかな? でもずっと起きているのは多分しんどいよね)
美玲がぼんやりと到着までどうするか考えているうちに、機内食が運ばれてきた。
食欲をそそる香りに、美玲のお腹がぐぅっと鳴った。
(そう言えば、今日は朝早かったから朝食は軽くしか食べてないんだった)
美玲は座席の液晶画面で少し気になっていた洋画を再生し、ゆっくりと機内食を食べ始めるのであった。
フランス到着までは、まだまだ長いのである。
美玲は東京にある国際空港にいた。
この日、美玲は日本を出国してフランスに行くのだ。
美玲が死ぬ前にフランスへ行こうと決めてから、行動は早かった。
一人で海外旅行が初めてなので、近くの旅行代理店へ駆け込んで相談した。その結果、ゴールデンウィークが始まる頃と重なる四月下旬出発の六泊八日のツアーを勧められてそれに申し込んだのである。
死ぬことを決めてから美玲は職場でも適当にな態度になっており、冬田の言うことも取り合うのを完全にやめて無視し、残業もせず定時で上がるようになっていた。そしてフランス旅行の為の有給も無理やりもぎ取ったのだ。
ツアー内容は、一日目の朝に日本出発し、直行便で夕方にフランス到着。そこからバスでシャルトルへ移動。ホテルの部屋に荷物を置き、夜のシャルトルの街を散策する。
二日目は午前中にシャルトル大聖堂を見学。その後バスでロワールに移動し、ロワール川のほとりにあるレストランで昼食を取る。その後シャンボール城を見学し、ロワールのホテルへ向かう。
三日目は朝からバスで移動してモン・サン=ミッシェルを見学する。その後、バスでパリのホテルに移動する。ちなみにこの日の昼食はモン・サン=ミッシェル付近のレストランで食べるそうだ。
四日目はパリ観光だ。エッフェル塔やエトワール凱旋門へ向かう。そして昼食後、フランスでも最も有名だと思われる美術館へ行くのである。そして夕方にパリの街で解散し、自由行動の時間がある。
五日目はバスで移動し、一日中ベルサイユ宮殿見学だ。宮殿本館だけでなく、庭園、大トリアノン宮殿、小トリアノン宮殿などを一日かけて回るのだ。
六日目は何と一日中自由行動。パリの街を自由に楽しめるのである。
そして七日目早朝にパリのホテルをチェックアウトし、バスで空港へ向かう。朝の直行便で日本へ帰るのだ。ちなみに機内泊であり、八日目の早朝に日本に到着する。
美玲は空港に着いたらすぐに集合場所である旅行代理店のカウンターへ向かった。
カウンターには既に同じツアーに参加する人達が並んでおり、一人ずつ説明を受けている。
待っている際、旅行代理店のスタッフに『MIREI KISHIMOTO』と書かれたネームタグをスーツケースに付けてもらった。
そして美玲の番がやって来た。
「岸本です」
「えっと……岸本美玲さんですね。お待ちしておりました」
カウンターにいた女性は名簿を確認し、朗らかにそう言った。
「今回のツアーに同行いたします、斉藤明美です。まずはパスポートを確認しますので、その間にこちらの注意事項をお読みください」
美玲はどのゲートでチェックイン手続きをするか、何時までにどこに集合するか等が書かれた紙を確認した。
「パスポート、ありがとうございます。期限もまだ四年残っていますので問題ございません。そちらにも書いてありますが、チェックイン手続きは……」
改めて添乗員の明美からの説明を受ける美玲。
その後、明美の指示通り、搭乗予定の航空会社のチェックインカウンターへ向かい、スーツケースを預けた。
身軽になったかと思いきや、そうでもない。美玲はロストバゲージ(通称ロスバケ)対策で、比較的大きめのリュックに必需品を詰め込んでいたのだ。
(乗り継ぎがある場合なら分かるけど、直行便でもロスバケが起こる可能性があるって書いてあったし……)
美玲は苦笑した。
そのまま手荷物検査場へ向かう美玲。
空港スタッフから「こちらへどうぞ」と指示されるわけではなく、自分で勝手に開いたところで荷物を置いて検査してもらうスタイルだった。
(どこが空いてるのか分からないからせめて声かけて欲しいよ……)
国内線ではいつも空港スタッフの指示があってから動いていた美玲なので、そのスタイルには慣れずに戸惑った。
(機内持ち込み用の液体物、ジッパー付きの透明プラスチック袋に入れろって書いてあったけど……ロゴありの袋でも大丈夫かな……?)
若干不安はあったが、特に何も引っかかることはなかったので美玲は安心した。
そしていよいよ出国手続きだ。
美玲のいるターミナルは手続きが完全自動化されている。
パスポートを読み取り顔認証を行うとすぐに出国手続きが完了した。
(こんな簡単でいいんだ……)
美玲はあまりのスムーズさに驚く。
その後、美玲はせっかくだから自身のパスポートに出国のスタンプを押してもらうことにした。大学院修士課程二年の時に取ったパスポートに、ようやくスタンプが押されるのであった。
(日本からフランスまで直行便で十四時間はかかるから水は買っておこうかな。国際線はペットボトル系の液体物は持ち込み出来ないけど、手荷物検査を終えた後に購入したものなら持ち込めるもんね)
美玲は水を買う為にコンビニの場所を確認して向かう。
何となく空港散策やコンビニで水やおにぎり、お菓子等を買い込んだ後、美玲は搭乗ゲートでのんびりと明美からもらったパンフレットを読みながら待機していた。
そうしているうちに、再び添乗員の明美から声がかかり、そのまま飛行機に乗り込むのであった。
明美曰く、このツアーの一人参加者は美玲を含めて五人いるそうだ。よって自由行動の際は一人参加者同士で一緒にパリの街を回ることもできるらしい。他のツアーでも一人参加者同士で一緒に行動していることが結構あるそうだ。
(一人参加者、結構いるんだ……。まあ海外独り歩きは少し不安な面もあったから、一緒に行動できるならちょっと安心かな)
美玲は少しだけホッとしていた。
そして自身の席に座る美玲。通路側の席だ。
(今回はエコノミークラスだけど、エコノミークラス症候群とかにはならない……よね? 水も大量に買ったし、座席も通路側だから軽く席を立って体操とかも出来そうだし、トイレにも行きやすそうだし)
美玲はほぼ初めての長時間フライトに少し不安になりながらも、日本を旅立った。
◇◇◇◇
(もう飛び立ってから三時間は経過しているけど……まだ韓国らへんなんだ)
美玲は自分の席にある液晶画面で機内サービスの映画を一本見終えた後、同じ液晶画面で航空経路を眺めていた。
現在飛んでいる地域を見てみると、近くにSeoulと書いてある。韓国のソウル付近上空を通過中だ。かなり時間が経過したように感じたが、フランスまではまだまだ遠い。
ちなみに画面では日本時間とフランス時間を確認することが出来る。
現在日本(東京)はお昼十二時、フランス(パリ)は午前五時。三月三十一日からフランスはサマータイムに入っているので日本との時差は七時間である。ちなみに、本来の日本とフランスの時差は八時間なのだ。
(確かフランスに着くのは向こうの時間で夕方頃だったよね。寝ておいた方がいい? いや、飛行機の中で眠れるかな? でもずっと起きているのは多分しんどいよね)
美玲がぼんやりと到着までどうするか考えているうちに、機内食が運ばれてきた。
食欲をそそる香りに、美玲のお腹がぐぅっと鳴った。
(そう言えば、今日は朝早かったから朝食は軽くしか食べてないんだった)
美玲は座席の液晶画面で少し気になっていた洋画を再生し、ゆっくりと機内食を食べ始めるのであった。
フランス到着までは、まだまだ長いのである。



