カーライルとヴィンセントが初めて出会ったのは、リラ・ノアールの中の薔薇園だった。

 育ての親であるディー・クロウを失った幼い頃のヴィンセントは、夢の中でその影を探して、いつもその名前を呼んでいた。

『ディー。ディー、どこにいるの……?』

 薔薇園は、魔王となったばかりのヴィンセントのお昼寝の場所だった。
 自分に害をなそうとする者が、眠る間に近付けないように魔法をかけて、ヴィンセントは花の香りに包まれて眠っていた。
 ある日いつものように薔薇園で眠っていると、誰かが自分の頬に触れたのに気付いて、ヴィンセントは跳ね起きた。

『誰!?』
 
 ヴィンセントの声に、少年は目を丸くする。
 雪のような白い肌に、葡萄酒のように蠱惑的な紫の瞳。
 少し青みがかった雪のような色の長い三つ編みの髪は、左肩にかかるように下ろされ、髪を止める金の輪には、魔法の暴走を制御するための紫水晶が嵌められていた。
 ヴィンセントが声を上げたあと、薔薇園を誰かが走る足音が響いた。

『申し訳ございません。陛下! 愚息がご迷惑をおかけしました』
 
 ルーデウス・フォン・グレイル。
 蜘蛛の一族の族長であった男は、少年の頭を押さえつけて無理矢理頭を下げさせた。

『ご紹介が遅れて申し訳ございません。これは私の息子のカーライルと申しまして、本日は是非陛下にご挨拶をと』

 しかしその、力によって押さえつけるやり方が、ヴィンセントは気に食わなかった。

『下がれ』
『――え?』
『その子を残して、お前は下がれと言っている』

 赤い瞳で睨みつければ、逃げるように男は場を離れ、地べたに這いつくばっていた少年は、宝石のような瞳でヴィンセントを見上げた。

『陛下』
『ヴィンセントだ』

 自分より背の高い少年に手を差し出す。

『お前は、ヴィンセントでいい』

 少なくとも眠っている自分に触れた相手なら、命を心配する必要はないだろう。
 ヴィンセントがそう言うと少年はカーライルは手を取り、

『はい。――ヴィンセント』

 頬を赤く染めて笑った。
 その表情は、魔族だというのに、まるで心を持つ人間のようだとヴィンセントは思った。
 



「……それでは貴方は、レイモンドではなく、ルーファスに連れてこられたのですね」

 流石、今世で会いたくなかった魔族第一位。
笑顔の裏で、何を考えているか分らない。
 前世の幼馴染に、一人、魔王の執務室に通されたヴィクトリアは、考えていることが顔に出ないよう平静を装うので精一杯だった。

「申し訳ございません。私の管理不足で、ご迷惑をおかけしました」

 カーライルはそう言うと、人間であるヴィクトリアに頭を下げた。

「申し訳ございません。本来であれば、人間である貴方をこのような場所に連れてきてしまい、諍いを避けるためにも王自ら謝罪を行うべきなのでしょうが、今、セレネに今、『王』はおりません。ですので、私から謝罪させていただきます」
「……いえ。お気になさらず」

 魔族の序列は強さで決まる。
 そして王が死に空位となれば、本来一位のものが魔王の座を継ぐ。だというのに今カーライルが魔王になっていないのは、異例中の異例といえる。

「私のことわりなく城に招いたことはきちんと処罰を行うつもりですが、ルーファスが貴方に対して暴走したことには、理由があるのですよ」
「……理由?」
「はい。――ただ、これから話すことは、内密にしていただけますか?」

 カーライルは穏やかな笑みを浮かべると、人差し指を口元に押し当てた。

「はい」
「貴方も人間であるならば、彼がデュアルソレイユで熱心に活動していることはご存じでしょう?」
「はい……」
「実はあれは、ヴィンセント様の魂を探すために行っているんです」

「……え?」
 ヴィクトリアは、カーライルの言葉が理解できず、思わずそう漏らしていた。

「五〇〇年間ずっと、彼はあの方を探してきました。ヴィンセント・グレイスは必ず転生していると信じて――けれど、セレネでは見つからなかった。だからこそ彼は、デュアルソレイユに、かの王が生まれ変わったのではと……。そう考えて、慈善活動と称しては、世界中を訪れていたのです」

「五〇〇年間、ずっと……?」

 信じられない。
 ヴィクトリアは、思わず聞き返していた。
 ルーファス・フォン・アンフィニ。
 彼に自分がしたことといえば、自分の命令を聞かない魔族を殺すことを命じたくらいで、好かれる理由が全く思いつかない。

 その彼が自分を五〇〇年も……? 
 ヴィクトリアは、自分を見つめるルーファスの瞳を思い出した。前世でのように命じているわけでもないのにあの反応――確かに、嫌われているとは思い難い。

「ルーファスは、金色狼と呼ばれる種族なのです。彼らはただ一人のつがいを一生愛するという一族でして、ルーファスはヴィンセントこそが自分の運命だと言って聞かず、転生者を探し出すと言って縁談を断りつづけ、友好を示すという名目で、デュアルソレイユでの捜索を続けてきました」

 カーライルはそう言うと、ヴィクトリアに本を差し出した。
 その本の表紙には、金色の狼が描かれていた。
 今の話とこの本になんの関係が?
 ヴィクトリアは疑問に思いながらも、その絵本をペラペラめくった。
 
「金色狼は愛が深く、悪く言えば執念深い一族です。故に彼らは、魂の捜索に長けている。以前、金色狼のとあるおすが、問題を起こしたことがありました。つがいを失った彼は、妻の死後はずっと独り身で、新しく嫁を迎えることなかった。しかしある日、一人の女性を連れて戻ってきた。女性は、花嫁衣裳を着ていた。――その服は、本来彼女の夫となるはずだった男の血で、真っ赤に染まっていたそうです」

 きれいな表紙に騙されたが中身は血みどろだった。背景には幸せそうに綺麗なお花が咲いている。
 めでたしめでたし。
 否。何がめでたいものか!

 ヴィクトリアは、本の作者の名前を見た。ルミアス・フォン・アンフィニ――どう考えてもルーファスの血縁である。
 しかも、ご丁寧に『この本のお話は、実際に起きた出来事です』の一文が添えてあった。
 どうやら五〇〇年の間に、金色狼は物騒な逸話を残したらしい。
 ヴィクトリアは震えた。実話を絵本にするのはいいとして、他に題材はなかったのか。こんなの、子どもに読ませる内容じゃない。怖すぎる。

「たとえ生まれ変わったとしても、自分以外の誰かを選ぼうものなら、相手を殺してでも奪い取る。金色狼は、そんな獰猛さも備えている一族なんですよ。ですから、そんな彼が見つけた貴方なら、今は記憶がないにしても、是非私もこの城にとどまっていただきたいと考えております」

「……」
 カーライルはそう言うと、ヴィクトリアの髪を一房手にとって口付けた。

「王が不在、王の力となるべき臣下が、度々あちらの世界に赴くのは好ましくない。今は魔法が使えなくても、記憶がなくても構わない。魔族の寿命は長いですから、貴方のために研究するのも悪くない。……魂に宿る記憶の復元。それが叶うなら貴方は、『本当の貴方』を取り戻せるかもしれない」
 
 甘く、優しく。けれどどこか、底知れぬ熱と冷気を帯びる。
 そんな声に囁かれ、『普通の少女』なら彼に落ちてしまいそうな場面で――ヴィクトリアは、髪に触れていたカーライルの手をはたきおとした。 

「貴方は……貴方はもう一度、人間と魔族で争いたいんですか!?」

 ヴィクトリアはカーライルを睨めつけて叫んだ。

「人間をセレネの王に迎えるのは貴方方の勝手です。しかし、もしその存在がヴィンセント・グレイスの生まれ変わりだということがデュアルソレイユに伝われば、どうなるかわかっているのですか!? 魔王が復活して、その人間を貴方たちが担げば、世界がどう動くか分らないんですか!? また、沢山の人が死ぬ。皆が血を流す。そんな場所に……その発端に、私になれと言うんですか!?」

 ヴィクトリアは唇を噛んだ。
 口の中に、血の味が広がる。けれど、今はそんなことどうだってよかった。

【魔王の転生者と思われる人間を担ぎ、時代の魔王に仕立て上げる】 

 そんなことをすれば、人間と魔族の共生など夢のまた夢だ。
 不適格な存在を王に担げば、人間界でも魔界でも、戦争が起きてしまうだろう。
 再び戦争が始まれば、多くの命が失われる。
 そんなのは――それだけは、ヴィクトリアは絶対に嫌だった。

「――お静かに」 

 その時ヴィクトリアの唇に、そっと長い指が触れた。
 人とは違う冷たい手。
 ヴィクトリアはびくっと体を震わせると、唇を噛む力を緩めた。
 力のない今のヴィクトリアを殺すことなど、カーライルからすれば、きっと赤子を殺すのと変わらない。

「私は、ヴィンセントを悪く言う者は許しません。たとえ貴方が、ヴィンセント自身であろうとも」
「…………」
「……それに、ヴィンセント・グレイスは、貴方が思っているような――人に語られているような、残酷な王ではありませんでしたよ。むしろ私やルーファスのほうが、過激な思想を持っていたに違いない」

 ヴィクトリアは唇を噛んで、カーライルから視線をそらした。
 ヴィクトリアとして生まれ変わり、魔族について少しだけ調べたことがある。

 魔王の死後のカーライルの行動は、極めて冷静なものであった。ルーファスもそれは同じだ。
 絶対的であったはずの王を殺した勇者を、二人は殺そうとしなかった。勇者を英雄として崇める世界を受け入れ、代わりに『魔王に命じられ人間を殺そうとした魔族』はすべて彼らによって駆逐された。

 それは魔王ヴィンセント・グレイスの洗脳がとけたからだと、そう言われても、否定は出来ないほどに。
 ルーファス、レイモンド、カーライル。
 だからこそ彼らは魔族でありながら、人間の英雄になったのだ。

「魔族にも、強い者と弱い者がいる。だからこそ魔王の地位は、先代を倒した者か、その時最も強い魔族に与えられる。しかしそれだけで、果たして王に相応しいと言えるでしょうか? 強さだけでは、従えることはできない。まとめることは出来ない。私には、この世界を束ねるだけの力はありません。だからこそ私たちは――ずっと、王の帰りを待っていたのです」

「言葉の力を使って――ですか?」

 ヴィクトリアは、ハッと鼻で笑った。
 ヴィンセント・グレイスの固有魔法は、『言霊』と呼ばれるものだった。
 その魔法によって、ヴィンセントが望んで口にしたことは、全て現実のものとなった。

「そんな力、私にはありません」

 ヴィクトリアははっきり言った。

「まとめることなんて、私には出来ない。ましてや人間でなく、魔族なんて。それに魔界でこの城の結界を出れば、人間である私は、死んでしまうことでしょう。そんな私が誰かを救おうだなんて、守ろうだなんて。そんなだいそれたこと、私に出来るはずがありません。だから私を、元いた場所にかえしてください。私は、ただの人間です」

 ヴィクトリアはそう言うと、頭を下げて部屋を出ていった。
 部屋の外に出ると、レイモンドが控えていた。

「帰るならこっちだ。――来い」

 再び手を引かれ、後を歩く。
 そんなヴィクトリアとレイモンドを、カーライルは冷たい瞳で見つめていた。
 氷を思わせる冷たい視線は、繋がれた手に向けられている。

「この城と――魔素について、知っていた」

 人間の世界に作られた、写し鏡の城。この城の中だけでは、結界のおかげで人間にとって毒となる魔素の影響を受けない。
 だがその事実を、ただの村娘が知っているなど有り得ない。
 それこそ――彼女が、魔族の知識を持っていない限りは。

「本当に昔から、詰めが甘い。ただのデュアルソレイユの村娘が、この城とセレネのことを、あの場ですぐ口に出来るとでも?」
 
 二つの太陽を意味するデュアルソレイユ。
 月を意味するセレネ。

 魔族の世界セレネには太陽が存在せず、人間の世界には存在しない魔素が存在する。
 人間は普通、魔素に対する抵抗力が無い。よって人間は本来、セレネでは生活出来ないのだ――唯一、このデュアルソレイユに作られた写し鏡の城をのぞいては。
 しかしそのことは、人間の世界でも知っているのは王族くらいのものだ。だからこそ、魔族への玉の輿などを夢見る人間の少女がうまれる。
 
 息をすることすら叶わない。そんな魔界で、『人間』が幸せになることなど叶わないのに。
 つまりこの事実を知ることこそが、『彼女』が何者かを証明することとなる。

 『魂』を見分けることの出来るルーファスが『陛下』と呼び、魔界の知識を持ち、カーライルに臆することのない村娘。
 そんな人間が、もし存在するとするならば。
 
「見つけましたよ。ヴィンセント」

 彼女の後姿を移す窓硝子を、カーライルは優しく撫でた。

「今度こそ私は――……。貴方のことを、逃しはしない」

 白い雪を纏う男は、楽しげに嗤った。


☆★☆★☆


 ヴィクトリアが家に帰ることが出来たのは、夜も遅い時間だった。

「つ……疲れた」
「お疲れ様、ヴィクトリア」

 へろへろと歩いて寝台に横になると、森の家まで同行したエイルが苦笑いした。
 暗い森の中を女の子一人帰らせるわけには行かないと、エイルが送ると言って聞かなかったのだ。
 室内は、少しだけ仄暗い。
 灯りは二人の間に、揺れる影を作っていた。

「まさか、質問攻めに遭うなんて……」

 レイモンドによって無事村に送り返されたヴィクトリアだったが、アルフェリアを筆頭に、村人たちに囲まれてしまったのだ。
 
『二人になにかされなかったか』
 とか、
『魔王城に連れて行かれたと聞いたけど体に不調はないか』
 とか、
『連れ去られたと聞いてどれだけ驚いたか。本当に何もなかったのか』 
 などなど。

 当然かもしれないが、誰一人して、ヴィクトリアの前世がヴィンセントだなど疑っている者はいなかった。

「みんな君が心配なんだよ」
「そうなのかな……」

「うん。そうだよ。それにアルフェリアは玉の輿って言っていたけれど、実際のところ魔族と人間が恋をしたという話は、あまり聞かないから心配してるのさ」

 エイルは自分も椅子に座ると、真面目な顔をして言った。

「魔王ヴィンセント・グレイスは、人間の少女が魔王に襲われて出来た子で、母親の腹を食い破って生まれたという話は有名だろう? 僕もさ、魔族も昔とは違うのかなって思うし、恋に落ちて幸せになれるなら、魔族でもいいのかなって思うところはあるけれど。腹を食い破るっていうのは……ね。噂とはいえ、その、心配で」

「……まあ、玉の輿って息巻いてる前では話せないよね」

 エイルの言葉に、ヴィクトリアの胸はつきりと傷んだ。
 『ヴィンセント・グレイス』が母の腹を食い破って産まれたのは事実ではないが、自分を産んで母が死んだのは本当だということを、ヴィクトリアは知っている。

「アルフェリアだけじゃない。僕もいつだって、君を心配しているよ。ヴィクトリアも……その、君は僕にとって、一番大切な人だからね」

 エイルはそう言うと、ヴィクトリアの前に膝をついて右手を両手で掴んだ。
 その頬は明かりに染まって、ほんのりと赤く染まっているようにヴィクトリアには見えた。
 優しくて大きな手。それは昔から、ヴィクトリアの大好きな手だった。

「……うん。ありがとう、エイル……あのね。私もね」

 ヴィクトリアは微笑んで、悪気など一切ない、心からの思いを口にした。

「昔からエイルのこと、お兄ちゃんみたいで大好きだよ」

 二人きりの室内に、沈黙が続く。 

「………………そっか……お兄ちゃんか……」

 エイルはそう呟くと立ち上がり、室内をウロウロしたあとに肩を落とした。
 
「つまり……いつか、お兄ちゃん以上になればいいわけで……」
「エイル? 一人で何言ってるの?」

 挙動不審な幼馴染みに、ヴィクトリアは首を傾げた。
 エイルの様子がおかしい。何か私は彼を傷付けることでも言っただろうか? 私が傷付けたなら、教えてほしいんだけど。
 そう、ヴィクトリアがエイルに伝えたようとした時。

「ヴィクトリア!!!! 大変よ!!!」

 ばああんと勢い良く扉が開く音がして、アルフェリアが家の中に入ってきた。

「すごいの! とにかくすごいの!! 今すぐ貴方に、伝えなきゃいけないの!!!」

 アルフェリアの声は、もう梟の声も響く森の中でよく響いていた。
 その手には紫色の蠟で封のされた手紙が、一通握られていた。 

 わざわざアルフェリアが一人夜の森に来るなんて、ヴィクトリアは嫌な予感しかしなかった。
 魔族の間では、封蝋は自分の瞳の色を使う文化がある。
 つまりこの手紙の送り主は――……。
 ヴィクトリアは、逃げだしたい気持ちでいっぱいだった。

「貴方宛に、魔王城で開かれる夜会の招待状が届いたの!」
「……え? 夜会への招待状?」

 エイルは目を瞬かせた。

「そうなの! カーライル・フォン・グレイル様から届いたの!」
「限魔王代理の? それ、断ったら問題になるんじゃ……」

 王と等しい立場にある魔族から、ただの村娘に届いた招待を、断るなんて不敬が過ぎる。

「私はお断りしたいな~なんて……。あははは……はは………ははは……」

 ヴィクトリアの声はだんだん盛り下がる。

「……ヴィクトリア。やっぱり僕たちに、何か隠し事してない?」
「してないよ。二人に話せないことなんて、あるわけない……」

 そう。二人に話せないことを、誰かに話せるわけがない。だから自分の秘密は、誰にも告げるつもりはない。
 心配そうヴィクトリアを見つめるエイルとは正反対に、アルフェリアはやる気たっぷりだった。 

「夜会と言えば素敵な魔族様と出会いがあるに違いないわ! 行かなくてどうするのよ! それに見て。ここ。『お一人では心配でしょうからご友人もご一緒に』って」

 この一文で、ヴィクトリアはすべてを察した。
 本当に、蜘蛛のような男だ。ヴィクトリアはそう思った。
 玉の輿を夢見る幼馴染を使って、自分を誘い込もうとするなんて――。

「でも服がないし」
「全部用意してくれるって」
「礼儀とかわからないし」
「主催はカーライル様だから気にしなくていいって」
「セレネに行くの不安だし」
「今日身をもって安全は確認してきたんでしょう? 大丈夫。心配ないわ」
「…………」

 ヴィクトリアは頭を抑えた。
 まずい。本気で退路が塞がれている。

「行くわよね? ヴィクトリア」

 ヴィクトリアが黙ると、ずずいっとアルフェリアが顔を寄せてきた。
 ヴィクトリアは思わず後退った。なんだろう。幼馴染が怖い。

「アルフェリア。勝手に決めたら駄目だよ。二人で行かせるなんて、僕は心配で心配で……」

 救世主現る。ヴィクトリアは期待の目をエイルに向けた。
 どうにかしてこのアルフェリアの意気込みを叩き潰してほしい。

「何言ってるの?」
 しかしアルフェリアは、エイルの言葉に首を傾げるだけだった。

「貴方も一緒に行くのよ? エイル」
「え?」
「ええ???」

 エイルも行くの? 本気で?? 
 それがアルフェリアの決定事項なら、今の二人に彼女を止める術はなかった。

「いざゆかん! 3人で、リラ・ノアールへ!」

 ちゃらっちゃっちゃちゃーん。
 あの夕焼けに向かって走るのよ!(星の輝く夜だけど)とでも言いたげに、アルフェリアはエイルとヴィクトリアの肩を掴んだ。

 目指すは魔王城の仮面舞踏会。
 アルフェリアは目を輝かせていた。
 エイルは頭をおさえて「頭痛がする」と呟いた。
 ヴィクトリアの顔面は蒼白だった。
 彼女は叫びたい気持ちでいっぱいだった。

(ねえ。お願いだから、アルフェリア。お願いだから私たちの話を聞いて…………!?!?!?)