体が、あつい。喉が渇く。体の内側に、熱がこもっている感じがする。
(――苦しい)
昔なら、痛みも苦痛も、すべて一人で耐えることが出来たはずなのに。今は温かさを知ってしまったせいで、ヴィクトリアはそれがたまらなく辛かった。
(お願い。私を一人にしないで、そばにいて。この熱がおさまるまで、どうかこの手を握っていて)
「ヴィクトリア。熱、少しは下がったか?」
「? れい、もんど……?」
その優しい声が、以前彼が自分に人魚の秘薬を飲ませたときと似ているように感じて、それが夢だと気付くのに、ヴィクトリアは少し時間がかかった。
「ほら、水だ」
カーライルはそう言うと、水差しの水をコップにつぎ分けて、ヴィクトリアに差し出した。
だが水を飲もうにも、体が重くて起き上がれない。
ヴィクトリアが子どものように首を振れば、ふっとレイモンドが笑うのが彼女には分かった。
「オレに直接飲まされたくなかったら、ちゃんと自分で飲むんだな」
からかうような声音なのに、いまはそれが不思議と心地いい。
「ほら、薬。飲まなきゃ下がらないだろう」
その声に身を任せるように目を瞑れば、はあとレイモンドが溜め息をはく音がヴィクトリアには聞こえた。
「仕方がないな」
レイモンドはそう言うと、ヴィクトリアの背にに腕をさしこんで、ゆっくりと彼女の体を起き上がらせた。
柔らかいクッションを背中の辺りに置いてそれに寄りかからせると、レイモンドは腕を抜いて、もう一度ヴィクトリアにコップを差し出した。
「ほら、これなら飲めるだろう?」
こくり、と頷く。
ヴィクトリアはレイモンドから水を受け取ると、水と一緒に薬を嚥下した。
喉を冷たい水が通り抜ける。それが気持ちいいのに、なんだか頭がふわふわして落ちつかない。
「俺の服を掴むな。水をかえにいけないだろう」
無意識だった。
ただ、なんたか心細くてだって――ヴィクトリアは、自分から離れようとするレイモンドの服を掴んだまま、ふるふると小さく首を振った。
「……はあ。全く、こうしてると、まるで子どもみたいだな」
レイモンドが苦笑する。
彼は水桶を置くと、ヴィクトリアの手に、そっと自分の指を差し込んだ。
大きくて冷たい手。
指と指の間から、冷たい熱が自分の体に伝わっていく感覚があって、ヴィクトリアはゆっくりと目を開いて彼の顔を見た。
「――俺に、そばにいてほしい?」
上手く体が動かせない。そのせいで、相手の表情がよく見えない。
だがその声が少しだけ嬉しそうに聞こえて、その声を聞いていると、ヴィクトリアは自分が安堵していることに気がついた。
「アンタがそれを望んでくれるなら、俺はずっとそばにいる。だから……どうかこの手を、もう二度と離さないでくれ」
レイモンドはそう言うと、寝台の前で膝をついて、繋いだ手に口付けた。
柔らかな、感触。
祈るように紡がれたその言葉が、嬉しいのにヴィクトリアは胸が痛んだ。
理由なんてわかっている。自分がかつてこの手を振り払ったことを、今でもはっきり覚えているからだ。
それでもそんな弱い自分のことを、彼が待って、受け入れてくれたからだ。
「早く元気になってくれ。アンタは笑っていてくれないと、調子が狂う」
困ったようにレイモンドが笑う。
そうして、何か思い出したかのような声を上げてから、彼は寝台に腰掛けた。
「……そういえば、風邪は他人に移したほうが早く治るきいたことがあるな」
「?」
「いっそ俺に移してみるか? ……どうする? ヴィクトリア」
レイモンドはそう言うと、ヴィクトリアの唇に指を滑らせた。
薄い形の良い唇が、少しだけ弧を描く。
どこか蠱惑的な笑みに、ヴィクトリアの心臓の鼓動がはやくなる。
(どうする? って、それは――……)
(――苦しい)
昔なら、痛みも苦痛も、すべて一人で耐えることが出来たはずなのに。今は温かさを知ってしまったせいで、ヴィクトリアはそれがたまらなく辛かった。
(お願い。私を一人にしないで、そばにいて。この熱がおさまるまで、どうかこの手を握っていて)
「ヴィクトリア。熱、少しは下がったか?」
「? れい、もんど……?」
その優しい声が、以前彼が自分に人魚の秘薬を飲ませたときと似ているように感じて、それが夢だと気付くのに、ヴィクトリアは少し時間がかかった。
「ほら、水だ」
カーライルはそう言うと、水差しの水をコップにつぎ分けて、ヴィクトリアに差し出した。
だが水を飲もうにも、体が重くて起き上がれない。
ヴィクトリアが子どものように首を振れば、ふっとレイモンドが笑うのが彼女には分かった。
「オレに直接飲まされたくなかったら、ちゃんと自分で飲むんだな」
からかうような声音なのに、いまはそれが不思議と心地いい。
「ほら、薬。飲まなきゃ下がらないだろう」
その声に身を任せるように目を瞑れば、はあとレイモンドが溜め息をはく音がヴィクトリアには聞こえた。
「仕方がないな」
レイモンドはそう言うと、ヴィクトリアの背にに腕をさしこんで、ゆっくりと彼女の体を起き上がらせた。
柔らかいクッションを背中の辺りに置いてそれに寄りかからせると、レイモンドは腕を抜いて、もう一度ヴィクトリアにコップを差し出した。
「ほら、これなら飲めるだろう?」
こくり、と頷く。
ヴィクトリアはレイモンドから水を受け取ると、水と一緒に薬を嚥下した。
喉を冷たい水が通り抜ける。それが気持ちいいのに、なんだか頭がふわふわして落ちつかない。
「俺の服を掴むな。水をかえにいけないだろう」
無意識だった。
ただ、なんたか心細くてだって――ヴィクトリアは、自分から離れようとするレイモンドの服を掴んだまま、ふるふると小さく首を振った。
「……はあ。全く、こうしてると、まるで子どもみたいだな」
レイモンドが苦笑する。
彼は水桶を置くと、ヴィクトリアの手に、そっと自分の指を差し込んだ。
大きくて冷たい手。
指と指の間から、冷たい熱が自分の体に伝わっていく感覚があって、ヴィクトリアはゆっくりと目を開いて彼の顔を見た。
「――俺に、そばにいてほしい?」
上手く体が動かせない。そのせいで、相手の表情がよく見えない。
だがその声が少しだけ嬉しそうに聞こえて、その声を聞いていると、ヴィクトリアは自分が安堵していることに気がついた。
「アンタがそれを望んでくれるなら、俺はずっとそばにいる。だから……どうかこの手を、もう二度と離さないでくれ」
レイモンドはそう言うと、寝台の前で膝をついて、繋いだ手に口付けた。
柔らかな、感触。
祈るように紡がれたその言葉が、嬉しいのにヴィクトリアは胸が痛んだ。
理由なんてわかっている。自分がかつてこの手を振り払ったことを、今でもはっきり覚えているからだ。
それでもそんな弱い自分のことを、彼が待って、受け入れてくれたからだ。
「早く元気になってくれ。アンタは笑っていてくれないと、調子が狂う」
困ったようにレイモンドが笑う。
そうして、何か思い出したかのような声を上げてから、彼は寝台に腰掛けた。
「……そういえば、風邪は他人に移したほうが早く治るきいたことがあるな」
「?」
「いっそ俺に移してみるか? ……どうする? ヴィクトリア」
レイモンドはそう言うと、ヴィクトリアの唇に指を滑らせた。
薄い形の良い唇が、少しだけ弧を描く。
どこか蠱惑的な笑みに、ヴィクトリアの心臓の鼓動がはやくなる。
(どうする? って、それは――……)