レサパン商人と魔族の羅刹娘シェリー/「れとりばりっく!」外伝短編集、パラレル未来編(旧稿から)

(続き、解決編)

1
ネクロポリス地域のギャング支配下にある麻薬畑村の一つが、教会堂村グループの冒険狩人ギルド(自衛組織)から報復攻撃されたときのこと。
直接のきっかけは、ギャング匪賊の略奪部隊があちら側の村人を強盗殺人して、娘を誘拐したこと。ただし、大規模な麻薬栽培と密輸販売で、前々から睨まれていると囁かれていた。
冒険狩人ギルドと都市防衛隊の精鋭が四十名ほど。いきなり攻撃を仕掛け、武器を持っている者・手向かったギャング構成員を殺しまくったという。

「あいつら、こっちが天然物で慎ましく商売してるのに、こんな大規模に人工栽培して相手構わず売りつけやがって!
こっちゃ、人間に流通したり使って毒にならないように気をつけてるのに。子供に酒や煙草売ったらダメだってのと同じだって、わからねえのかな?」

麻薬畑を見舞わして、レサパン・ファルコンが腕組みして怒り心頭(レッサーパンダと化した獣人魔導師)。彼はレサパン商会のオーナーで、一部で魔族に天然物の麻薬や幻覚剤を売りつけたりもしているらしい。
ただ、彼なりの「商業倫理」もあるようだ。山などで天然物で採取された麻薬植物を買い取るのは、人間領域でむやみに流通させないための配慮でもあった。ゆえに人工の大規模な麻薬栽培には否定的な立場で、都市の政府や村の自治体からも「魔族用嗜好品」「医療用限定」として取り扱いの認可されている。
同じ毒物や麻薬でも、それを使う相手が魔族であれば、普通の人間よりもまだ中毒耐性があるし実害がない(最悪、魔族なら死んだりしても構わないという冷淡な判断なのか?)。


2
とりあえず、麻薬畑は火を放って焼き払った。
それから、捕虜にした村人二百人ほどを前に、クリュエルは発案する。彼は人間ながらエルフ・ドワーフの作った魔獣の荒革の鎧を愛用していることから「原人騎士」と呼ばれている。

「ディーエイチの刑でどうかと思うのだが」

「ふむ。して、ディーエイチとは?」

「十分の一のことさ」

それは古文献で古代ルーム帝国の軍隊で用いられた刑罰だ。問題行動を起こした部隊の十人に一人を、自分たちで殺して反省させる。
それで捕虜になった麻薬畑村の村人たちは、ギャング構成員などの「特に悪い奴」を二十人ほど、自分たちで袋叩きにして殺した。彼ら自身もギャングの被害者という一面があったから、拒否や遠慮する理由もない。
それから、クリュエルはもう一つ発案した。

「今後の商用作物は、タバコやコーヒーでも作ったらどうだろうか? それと山裾を開墾して小麦とトウモロコシを自給用に栽培する。灌漑設備の工事は冒険狩人ギルドで請け負うが、君ら自身も一緒に手伝ってくれ」

こうして村の支配者が変わったわけだが、搾取率の低さと治安回復に殖産興業、教育や医療も向上して「ずいぶん世の中や生活が良くなった」らしい(当事者の「解放された」村人たち曰く)。
暴力と狡知だけでは統治者として失格であり、やはり思慮と倫理観の有無は決定的だったようだ。


3
ギャングたちは、ネクロポリス・ダンジョンの魔族たちに助けを求めた。失われた貴重な支配領域を奪還して、面目と利益を回復するために。
しかし魔族たちの返事は冷たいものだった。

「だから言っただろ? あいつらにだけは喧嘩売ったら駄目だって。あのクリュエルとレッサーパンダ、魔族換算で下手な「伯爵」(中級魔王)より強いんだわ。
あいつらに旧魔王戦役で、魔族の騎士や貴族がどれだけ殺しまくられたと?」

そしてヘマをやったギャングのボスや幹部の何人かが、見せしめに「食肉」にされたそうだ。
1
「これはシェリーの分。周りの人たちには先に別に買ったお肉を配ってきたから気にしないで。
他の貴族連中たちもこのダンジョンの配下に遣いを送っているかもだし。こういう大事な辺境で頑張っていても、みんな距離があって祭儀に参列できないから」

魔族貴公子の少年アレクセは、手土産に持ってきた「特別な祭儀肉」を手渡す。
シェリーはそれまでのくだけた親愛の態度を改めて、にわかに恭しく跪いて受け取る。恐れではなく、感激と喜びを浮かべて。
魔の都の宗教祭儀の饗宴の「祭儀肉」を、庇護している部下のシェリーに届けてくれたのだ。上位の騎士や準男爵以上の者にしか与えられない名誉を。
しかもお互いに親密な間柄でこそあるにせよ、わざわざ高貴な本人が最前線のダンジョンに足を運んでくれたり、シェリーは胸が一杯になる想いだった。


2
アレクセがお別れのキスをして帰っていった後、シェリーは地下墓地迷宮の一室の小さな祭壇に、賜った祭儀肉を捧げ備えた。

「お母様。シェリーも、ついに祭儀肉を賜れる身分になりました。私のアレクセ様は、本当に素敵な方です」

それは祭儀を伴う饗宴で用いられる、特別な珍味佳肴である。
魔族の支配領域・価値観で下層民・奴隷階級で食用家畜でもある、人間の赤ん坊を母乳で煮込んだもの。人間の上級下僕たちには「初子犠牲」で、統治者である魔族に感謝と忠誠を示す習慣があり、そういった自ら献納されたものが最高とされる。


3
最寄りの魔の都に辿り着いたアレクセは、玄関広間を通りがちに、チラと飾られた剥製を一瞥する。
ガラスケースの中には、加工された人間の若い女があられもない姿で生けるが如くに飾られている。
それはアレクセの、遺伝上の「母」だった。魔族と人間の交配では妊娠する確率は普通よりずっと低いはずなのだが、父の魔族侯爵が愛玩しているうちに自分が出来てしまったそうだ。忌まわしいことこの上もない。

(こんなものが「母親」?)

たしかに魔族の生物学的な亜種だから姿形は似ていたが、シェリーに比べて劣ることはこの上ない。もしシェリーが母親であればどれくらい良かっただろうか?
アレクセは高貴な侯爵(上級魔王)の諸子でありながら、混血雑種であることに強いコンプレックスを持っているのだった。

「お兄様! またシェリーさんのところに行って来たんですって?」

従妹で許嫁のアリッサが、テテっと軽やかな足音で走ってくる。
僅か十歳を出たばかりの子供ながら、少し頬を膨らませているのは、やはり女としての嫉妬だろうか。女傑と知られるシェリーのことを尊敬して慕っている反面で、同性としてライバル視しているらしかった(魔族は若い期間が長いから、いずれそうなりうるだろう)。
アレクセがあえて黙っていると、アリッサは「マザコン」と小さく呟いた。
(その2、魔族帝国支配領域の風景)

1
魔族領域の「駄獣修練所」。
駄獣とは人間のことであって、子供たちは一斉に聖なる祈りの言葉を唱える。

「私ども人間は、劣った劣等な生物です。もったいなくも、魔族様たちに似た出来損ないです。有難くもご奉仕できることが人生の意味だと真理を悟り、食べられることが慈悲であると悟らねばなりません」

余計な知恵をつけると面倒なので、過剰な知識や教養は与えない。ただし奴隷階級・下層の被支配者としての有益性のため、最低限の教育や洗脳は必須。
教師役は人間の老学者。あの旧魔王戦役の時代に、人間領域で大物スパイだった「英雄」である。怒り狂った人間から捕縛されて鼻を削ぐなどの拷問されたが、脱出して魔族支配下に逃げ込んだのだった。
優秀な宦官である英雄先生は誇らしげに訓戒する。

「よろしい。我々人間は、生態学として魔族の下に位置づけられる。人間が魔族を退けて好き勝手やっている人間たちの世界は、自然に反するのである。天命の摂理を理解して、素直に謙虚にまっとうに歩みたまえ。勤勉かつ従順であることを誇りとし、食肉である運命を悟らねばならない」

元脱獄死刑囚だった彼は人間領域にいたときに魔族やシンパと結託して日常的にスパイ・偽計や婦女子拐かし・魔族への人身転売していた。表向きは学校教授だったが組織犯罪が露見し、「摂理を拒否した愚かで呪われた」人間たちから獄中で鼻と陰茎を切り落とされていた。
それから先生は鞭を取り出して、目を血走らせて笑いながら生徒の子供たちを順番に鞭打って廻った。
英雄先生からの将来への心構えを与える教育的指導なのであるから、生徒たちは血塗れになりながら「ありがとうございます!」と感謝であった。


2
(覚悟はしていたはずなのに)

大釜で似られた肉料理の皿に、自分の乳房から母乳をかけながら、そんなことを思う。これは新生児の肉料理で魔族たちの祭儀宴会のための特別なごちそう。
それに我が子を差しだすのはとても名誉なことなのだった。エリート階級である上級下僕である夫に嫁いだときから(玉の輿の気分だったけれど)、最初の子供を食肉に差しだすことは慣習としてわかっていた。
涙が滲んだ目で周囲を見れば、他の女たちにも、何人も顔にアザをつくったり泣いている。きっと同じように物わかりが悪くて、夫に殴られたり言い含められたのだろう。

「この子を連れて逃げましょう。やっぱり私、耐えきれません」

「バカを言うな! 逃げ場などあるものか。今の恵まれた境遇を捨ててのたれ死ぬだけだ」

「でも、人間たちの領土に逃げ込めば」

「どういう目で見られていると思っているんだ? 特に私やお前みたいな魔族の上級下僕は、こっちでは人間の中でエリートでも、あっちから見たら裏切り者や犯罪者扱いされるだけだよ」

逆らう度胸も覚悟もなかった。夫にどころか、自分自身にも。
呪わしい食膳を並べて魔族たちの宴会に立ち合い、それから魔族から夜伽のお誘いがあったので、受けた。有利な愛顧を得るチャンスだったし、せめて今晩としばらくは夫の顔なんか見たくもなかった。
(お知らせ)一部・同時掲載作品の掲載中止など/インターネットやこの投稿サイトへの疑念と自分自身のスタンス

実は、直後に別の短編作品(過去作・ワープロ書き)も載せてみたのだが、何故か半日くらい経っても「更新・宣伝ボタン」も「完結ボタン」も押したのに、トップページの新着・完結欄に掲載されない。そこで掲載・公開を中止した。
何かしらサイトの運営側が「匙加減」したのだろうかとも思うが、妙に「一般の投稿者・件数が少ない」気がしなくもない(一日に数件くらい?)。また、ランキングなどでも「何を基準に?」という気がしなくもない(「今読みたい作品」で編集部プッシュされたリスト順位やら、ランキングでいいねボタンが百以上のものより数個のものが上だったり。そもそも「いいね」投票にしても、おそらくアカウント持ちしか投票できないだろうし、運営側にせよ何かしらのグループにせよ「操作しようとすれば出来てしまう」のだから)。
インターネットのこの手の投稿サイトやSNSなどは、特定左翼の思惑や在日コリアンに裏で検閲(不都合情報の隠蔽や抹殺など)や各種コントロールされているという見方もあるようだ(おかしいのはマスメディアだけでないらしい?)。

疑って勘繰って過剰に否定的になるのはどうかとも思いつつ、ひとまずこちらの(のべま!)アカウントは一部の作品の保管庫・閲覧室や試作・練習帳くらいに思っておく。

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