3
かつて「旧魔王戦役」の時代の魔族全盛には、特殊な時代状況の理由があった。実は人間側の支配層の一部と魔族側で「裏協定」が結ばれており、「一定レベルまでの魔族の悪行と人間の犠牲は黙認・黙殺されていた」のであった。理由は、魔族側の支配圏で奴隷状態や二等市民扱いに服している大勢の人間やエルフを、奴隷労働力や購買力として活用して利益を上げられたからである。それによって魔族が優勢になり、人間側が友好容認派(買収されている)と反魔王強硬派に分かれて激しく対立。多くの政治権力者や商人ギルドの有力者は目先の利益と安全のみを追って日和見し、無知な民衆の大部分は右往左往しながら犠牲者を出し続けていた。
その暗黒協定は反魔王レジスタンスにとっては大きな足枷にもなっていた。魔王軍と戦っているにも関わらず「勝手な行動をとっている過激派武装集団」のような扱いになってしまうため、人員や資金・物資なども圧倒的に不足していた。もちろん保安組織や都市守備軍などには内心で共感や同調する者も多かったものの、彼ら自身が日常的に魔族利権マフィアからの脅迫や腐敗勢力からの政治勢力による押さえ込みされていたためにどうにもならない(裏では連携していたにせよ、表だっては限界があった)。あのクリュエル・サトーが「原始人」と化して投擲武器に「符呪した石器」を使うようになったのも、それら背景事情がある。後に村の教会堂に任命される司祭なども一時は陰謀で陥れられ、身柄を拘束・投獄されたことまであったらしい。
この事件の舞台となった都市ではそれまで蓄積された怒りと不満と憎悪に引火して、発覚した数十人を皮切りに一時は内戦状態に突入。ついに保安官や都市守備隊も民衆側に全面加担し、それまでの報復で魔族利権マフィアの掃討戦したとか。
4
最終的には周辺地域を含めて数千人が虐殺・処刑されたそうだ。主犯格の政治権力者たちの生首や死体も城壁に数多く並べられた。
素直に斬首や城壁からの突き落としくらいでアッサリと済んだ処刑受刑者はまだ運が良かっただろう(一番に「人道的で優しい」扱いの部類であった)。斧で切り刻まれて頭を叩き割られたり、ナイフでめった刺しされたり、棍棒で生きたまま全身の骨と肉をカツレツ調理のように砕かれるくらいは序の口であった。
甚だしい悪人・首魁と目されれば、口から金属の漏斗で大量の沸騰した熱湯を注ぎ込まれたり、白熱するまで焼けた鉄の棒を肛門から差し込んで内蔵をグチャグチャに焼きとかされたり(男女平等、踊り飛び跳ねながらのたうち回って死んでいったそうだ)。
しばらくは野犬たちが勝利感に満ちた顔で楽しげに、死体の腕や足を咥えて駆け回っていたとか(残骸は豚たちが食べて清掃したとうである)。
きっと、永年月の常態的な悪行と卑劣によって、魔族たちはあまりにも怨恨と憎悪を買いすぎていた。長い戦乱によっても人々は荒みきって、完全にキレてしまっていたようであった。
これは「旧魔王戦役」の終盤にはあっちこっちで多発した典型的なケースの一例でもある。
5
その頃、あのサキュバス姫男爵サキの長女のミリア(六歳)は、傷痍兵たちの病院でお盆に載せたご飯を運んでいた。背後には溺愛されている男のレオ君(四歳)が、トコトコと水差しとコップを持ってついていく(まだ生意気になる前で、異父姉に従順で懐いていた?)。
「今晩は魚のシチューです」
「はい、水です」
彼らの母親のサキは厨房で食事作りしたり、薬草類の調合や簡単な治療などもやっている。「若い・元気な・持て余した男たち」に不自由しない環境も、サキュバス的には好都合だったのかもしれないが。普通、異種族間や混血では「受胎する確率が低い」はずなのだが、どうやら三人目をご懐妊であるらしい。
やはりサキの場合には「母の同胞」である人間に悪意がないことや、人肉食を「共食い」として好まなかったことが大きかった。魔族混血の場合には純血の魔族へのコンプレックスや人間への優越感から余計に凶悪になる者もいるから、個々人の性格と巡り合わせもあるのだろうか。
「ありがとよ。ミリアちゃん、おっかさんに似て美人になるよ。レオ君、あんまり女の子を泣かせるなよ」
包帯の兵士が笑って、子供たちに言う。ときどき他の子供たちと読み書きや計算などを教えたり、話し相手にしたり。だって彼らは「身内」で、戦友の誰かの子供でもあったのだから。
(その1)
作中で登場した魔族の羅刹娘シェリー。旧魔王戦乱で捕獲・懲罰される前にどんなふざけたことをやらかしていたのか、代表的な一部を箇条書きで紹介しよう。
1攫った人間の子供を生きたままで焼く。切り開いた内蔵を煮立てて鍋物にする。
2女の乳房をフグ刺身のように切り刻み、血で作ったソースで食べる。肝臓や太股もポピュラーかつ好みであるらしい。
3犠牲者の人骨を動物のものと偽って、人間の料理店に売る(スープのダシ)。
4見た目が美しい娘なので偽装して騙し、人間の女や子供(ときには男)を魔族の仲間に奴隷や食肉に売る。
5民家や教会施設・物資倉庫に放火したり、井戸に毒を入れたり畑を汚染や焼き払うなどの撹乱工作で、魔王軍による侵略を助ける。
6政治有力者や守備隊の隊員に買春や色仕掛けし、言葉巧みに情報を引き出して魔王軍に通報・売却する。
7見た目を悪用して「被災者の人間の娘」を偽装して入り込み、避難民キャンプで残虐事件して疑心暗鬼にさせ混乱させ、守備隊や保安官を闇討ちする。
8押し入った民家で、親に子供を殺して共食いさせたり、近親相姦や乱交させて見物する。
9悪魔教団のカルト宗教ビジネスの教祖になり、破壊工作や組織犯罪する。人間のマフィアやヤクザ結託し、麻薬売買や管理買春なども一通り。
10歌手や踊り子を偽装するなどしてデマや流言飛語を散布。要人暗殺や爆破も。
(その2)
今回は魔族の羅刹娘シェリーの悪行の傑作選な続き。「半不死身」であった驚きの裏事情。
1捕獲した人間の頭蓋内を切り取って、中身の脳味噌を食べる。高級食材で、貧しかった子供の頃から憧れだったとか。
2頭蓋骨の上半分を切り取った生首を器に加工し、人体脂肪や香料の蝋を詰め込んでキャンドルにする。ママとの家内産業の思い出で、今でもよく作ってプレゼントや上位魔族への献上品にするらしい。
3人間の骨盤部分で大皿を作ったり、肋骨部分でランプの傘を作る。子供時代からの生業でもあって、魔族社会では悪くない値段で売れるらしい。
4拉致監禁した人間の女を魔界の豚と交尾させて種付けし、「人豚」を出産させて魔族に高級食材として売る(人豚同士では繁殖出来ない)。もちろん搾乳し、ついでに(豚の赤ちゃんを)妊娠中に売春もさせる一石三鳥。
5人間の子供や少年の誘拐ビジネス。シェリーは見た目が美少女であるため、騙しやすいらしい。特に気に入った少年はサディスティックに犯すのも楽しみらしく、魔族相手の見世物ビジネスでも好評だとか。
ただしレオ(エルフ少年、当時十歳)に見抜かれて問答無用にナイフで刺され、あと一歩で殺されかかってから彼に執心している(母が半魔族のサキュバスであるため、「こいつは魔族で母親と同年代だ」と喝破した)。
6復活・自己回復魔術。深淵の邪神に生贄の死体アートを献上したり奉仕して、特殊な上級魔術を授けられている。死亡や一定以上の身体損壊で自動修復の魔法が発動する(ただし完全な不死身ではないらしい)。
それによってシェリーは思い切ったリスキーな行動をとることができ、窮地に陥っても生存確率が高い。人間にとっては脅威である。
(その1)
1たまに恐ろしいレッサーパンダや原始人に追い掛けられる。死の鬼ごっこ。
2誘拐したドワーフの小さな女の子に騙されて(それは罠だった?)、形状記憶合金爆弾キャンディを食わせられる。体温でイガグリのように変形する「爆弾」を溶けにくい断熱キャンディで包んである。
シェリーは「パンっ!」とハリセンボンのように膨れ上がる。腹部に二つ、口の中で一つ。内蔵や脳味噌まで穴だらけになり、貫通した金属針が飛び出してサボテンのようになる。
そのまま追跡してきたドワーフたちに捕獲され、「嘘ばかり吐いているから針千本飲まされるんだよ!」と蹴り飛ばされる。あとで爆弾除去と復活に丸一日を要したらしい(地獄の苦しみだった)。
3人間の都市(魔族被害者たち多数)に売り飛ばされ、監禁されて男たちから性奴隷として欲情便所にされる(非人道兵器ハリセンボンのトラウマでしばらく従順だった)。
人間やドワーフ・エルフの女たち(しばしば自分自身や身内・知人が直接間接の魔族被害者で、恐怖に怯えて憎んでいた)も陵辱を見物して嘲い、殴る蹴る・鞭で引っぱたくなどの虐待し、挙げ句はレズ趣味の物好き女たちから二人・三人がかり極太玩具でハードレイプされる(並みの男相手よりキツいらし)。
4焼き印を捺される。乳房と尻などに。
5両の乳首と陰部のクリトリスに「専用の呪いのピアス」される。魔力封じと性感が七倍、連日に発狂状態になる。精神の体力の限界を超えて気が狂ったり死んだりしても「自動復活」するので、トコトンで終わりない。
6定期的な市場で、公衆の見守る中で「馬と交尾ショー」させて見世物にされ、巨根で恥部が裂けて内蔵が破れ潰れて絶命・死亡する。
ただし自分自身の魔術ですぐに自動復活してしまう。「ふざけるな! 畜生!」と怒りの絶叫して観客たちから拍手喝采。
7水牢で小型肉食魚・食用ピラニアの餌食にされる。「自動回復魔法」があるため、いくらチマチマ食い千切られても、死ぬことすらできない。肥え太らせた魚は魔族の支配領域に裏ルートで売られたそうだ。
8監禁中の牢屋に見物にきたエルフ少年のレオから「うちのお母さんと同い年くらい?」と見抜かれて(母親は半魔族のサキュバス姫男爵)、「臭い」とか「ババア」とか言って(人格・人権否定レベルで)蔑み罵倒される。彼は重度のシスコンで異父姉とはほとんど近親相姦関係らしく、(慣れと耐性があるので)魅力で誘惑どころか幻惑魔術もほぼ効かない。
後に脱出・逃亡してからも再会時にナイフで「この妖怪ババアめ!」「死んだ方がいい、介錯してやる」とメッタ刺される。
9サキュバス姫男爵サキとの境遇や扱いの違いに絶望する。「差別だ!」と不満を抗議しても「だってあなたはわるいことばかりして、人間を殺して食べる魔族じゃない?」と真理を指摘され、どうにもならない。
10(予定)ドワーフ娘のアネチカとサキュバス姫騎士ミカ(サキの末娘)から再度に討伐されて、再び楽園崩壊。
(その2)
シェリーNG集の続き。
1潜伏・逃亡中、エルフの村人から石器の斧(製作者はクリュエル・サトー?)で側頭部を打撃され、ショックで反対側の目玉がポォン!と飛び出してしまう。
2潜伏・逃亡中、間違ってレサパン商会(恐ろしいレッサーパンダ)の食堂に入ってしまい、「注文の多い料理店」される。あと一歩で肉まん具材にされそうになり、命からがら逃げ延びる。
3エルフのたぬきっき画伯にヌードモデルのアルバイトで売り込もうとするが、「むしろ試し斬りの方が良くないか?」されそうになる。
4エルフ・ドワーフや人間に捕縛されてさんざん虐待調教され(前述)、何もしなくても勝手に絶頂する身体になってしまう。いわゆる「イクイク病」になる。
5エルフ少年のレオ(思春期)を誘惑しようとチャレンジするが、姉や母親で色々と慣れているため、トコトンまで冷淡に対応されて弓矢で射られる(魔法の火矢)。
異父姉ミリアとイチャついている現場や異父妹ミカに優しいお兄ちゃんしているところを盗み見て、落差と嫉妬で気が狂いそうになる(恋の病に落ちた?)。さらにミカの友人のドワーフ娘アネチカともまんざらでもなさそうなのを目撃し、「あんなドワーフの芋なんかに!」と絶望する。
6村人(人間やドワーフ)の少年たちを誘惑して成功し、「大漁だわ!」と喜んだ拍子にイクイク病が炸裂。為す術もなく集団で輪姦乱交されて発狂状態になる。
駆けつけてきた大人たちも参加し、やっぱり正体を見抜かれて最後は殺されそうになり(なかなか死なないので奴隷化?)、川に飛び込んで逃げる(逃げ切りまでに何度も溺死する)。
7再起するために、色々と権利確保(縄張りや狩猟権)のために上級魔族に掛け合うが、「敗北主義者・魔族の面汚し・下層階級の売春婦」としてしばらく酷い惨い扱いになる。
自動復活魔法で簡単には死なないため、宴会で魔の野獣と戦って食い殺される見世物にされ、女体盛り・活け作りにされたことも。
8力を取り戻して強化するために、再びに自ら暗黒深淵の邪神の生贄巫女になる。もはや人としても女としても、尊厳も正気も残らないが、一周回って(病的に?)元気になった。
9人間やエルフ・ドワーフの村人たちから「発情便器の魔女」というあだ名を着けられる。完全に汚物妖怪という認識や扱いされる。
逆にサキュバス姫男爵のサキが村人から「女神」扱いで、愛称も「蜜吸い看護婦」「夜のハチドリ姐(ねえ)さん」や「教会堂の薬師巫女殿」などおおむね肯定的であるため(本人の振る舞いや人間性・関係性、無害さと有益さから)、余計にプライドを傷つけられ嫉妬で頭がおかしくなりそうになる。
10自動復活魔法のせいで自殺すら困難。悲哀のあまりに全裸で徘徊して「私、綺麗でしょ? 可愛いでしょ?」 と「愛を乞う人」になってしまう。
見た目が美少女の部類なので「釣れる」のだが、たいていは遊ばれて捨てられる。本性が最悪過ぎるために純真・誠実な男も「君とはやっていけない」と去って行く。
1
旧魔王戦乱の終盤、人間領域内部では魔族利権マフィアの駆逐双頭があっちこっちで行われていた。それらの事例の中から大規模だった「鮮魚の一党」と「赤の団」の処刑風景(裁判官・役人や学校の教授なども多数だったから驚きだ)。
2
まず「罪の軽い者たち」が素直で苦痛の少ない斬首刑であっさりと楽に殺されていく。それすらも人数が多すぎたために一日では片付かず、一週間がかり。
より効率的に、かつ適当な苦痛や恐怖を与えるため、城壁から数珠つなぎで突き落とすやり方も行われた。これは手を縛った囚人たちの首にロープをかけて一列に並ばせる。先頭の一人二人に重りを付けて高い城壁から突き落とすと、その目方で後続の者たちは次々と首が絞まり、しばらくは耐えるのだが順次に引きずられ雪崩を打って全員転落死する。
同様に「やや罪の軽い者」への別の対処は、一通りに集団リンチで痛めつけたあとで地面に掘った大きな穴に入らせる(これも鞭打ちながらに自分らで掘らせたらしい)。上からショベルで火のついた石炭を投げ入れ浴びせかけ、生きたままで焼き殺し窒息死させる。熱さで踊り飛び跳ね、二酸化炭素で泣き叫びながらにバタバタと倒れていき、穴から這い上がろうとすると兵士たちに突き落とされる。まだ窒息で気絶出来る可能性があるために、「数珠つなぎで城壁から突き落とし」と同程度の「優しく手加減した殺し方」だったらしい。
逆に「やや罪が重い」場合には、一定人数で檻に詰め込んで飢餓状態にさせ、共食いさせるような手法もとられたそうだ。もっとも罪が軽い、連座した有罪者の家族などは鼻や耳を削いで焼き印を押され(手足を切断されたりもした)、魔族側の支配領域に奴隷・食用として売り飛ばされた(それはあくまでも「救済措置の一種」であると見做された)。
3
それと平行して重罪人たちの念入りな処刑が行われたのだが、実に凄惨な具合であった。それらは人々からどれだけの憎悪を買っていたかを物語っていた。
一人一人に手間をかけるくらいの主犯格などは、前述のように簡単には済ませられない。革など柔らかい素材ではなく、よくしなって強度と打撃力の高い金属製の鞭でぶちのめす。
反応が鈍くなってきたら小さなナイフで顔面や全身を切り刻み、最後は短い投げ槍を即効の致命傷になりにくい腹部に深々と刺して、とどめを刺さず死ぬまで晒して放置する。やや慈悲がある場合には腹を切り裂いてより重傷にし、早く死ねるように配慮したそうだ。
4
その間、舞台となった都市群や近隣の村々はずっとお祭り騒ぎであった。没収された資産はこれまでの損失補填と被災者の救済に充てられた。
家畜の豚たちは餌(死体)が豊富にあるためによく太り、その冬の食料は豊富で人々は幸福であった。余った処刑囚人の骨は集めて砕き粘度と混ぜて焼いて、煉瓦にして道路の舗装などに有効活用されたという。
1
かつての「旧魔王戦乱」の終盤のエピソード。
それまでの悪行非道が祟ってついに捕縛され、囚われた監獄で人間たちから散々に復讐・虐待される魔族の羅刹娘シェリー。見た目が美少女であるために男たちから(以下略)。
けれど、彼女が本当に恐れているのは、実はお人好しな男たちではなかった。まだ男たちが相手であれば(よぼどのサイコパス異常者でもない限り)自然な心理での「女性への同情・優しさや庇護欲」が全くなくもなかったし、媚びた色仕掛けで多少の慈悲も期待できた。居直れば「逆ハーレム」「倒錯プレイ」として楽しんだり、心身の苦痛を誤魔化すことだって出来た。何人かのお気に入り・態度が良い男たちを「ペットや愛人みたいなもの」だと思って心慰めたり。
シェリーが本当に恐ろしいもの。それは「同性である女たち」であった。お色気や媚態・哀願も一切に通用しやしない。魔族の羅刹娘も恐れ慄く「鬼畜」ども。
2
特別牢獄の土と石壁の通路から忌まわしい足音と、さんざめく話し笑う声が聞こえてくる。この世の何者よりもおぞましい「女たち」が来たのだ。
シェリーはビクリと身体を震わせて首をすくめてしまう。早くも顔を青ざめさせていた。手狭な独房を哀れな視線で眺め回し、無駄と知りながらも逃げ隠れ出来る場所を探すのは本能だった。頭の中では、どうやったら苦痛を軽く手短にやり過ごせるものかと、懸命に脳がショートするくらいに無駄な足掻きの思念を駆け巡らせる。
「それでさ、教会病院のサキちゃんのところで好きにさせといてやったワケ。流石に初産で臨月の嫁に無理させられないし」
「へー、良かったじゃん。お嫁さんも寛大だわー。サキ先生もよくやってくれたのねえ、あの人は優しいのとエロで貪欲なのと両方っぽいけど」
「おかしなのに浮気していれ込まれるよりかは良いだろうしねえ。あの人って上位免疫あるから安全だし、もう「そういう人」で「みんな」やってるし知ってるから。それに生まれた子供とかも病気とか何やらかんやらでお世話になるかもだから、「ご挨拶」も兼ねてってね」
クスクス笑い混じりで聞こえてくる雑談は「サキュバス姫男爵」のサキの話題だった。彼女は父親が魔族で母親は人間の奴隷女だったそうだが、むしろ人間たちと仲が良いらしい。
通常の魔族は力と若さや健康を維持するため、人間血肉を喰らって特殊な酵素を補充しなければならず、それが精神文化と上位者としての誇りでもある。だがサキは母親が人間であるためになのか、人肉を嫌っていた。血を吸ったりもするらしいのだが、一番の好みは人間やエルフの男の精液であるらしく、それで「サキュバス」などと呼ばれている。
シェリーのように純血やそれに近い「硬派なアイデンティティを持つ正統派」の魔族たちからすれば「サキュバス」などは蔑称でしかないだろう。だが人間の側からすれば「人食い鬼」よりよほど良いだろうし、サキの性格からしても人間やエルフに馴染みやすかったらしい。
そして、どういうわけなのか人間の「殺戮者クリュエル」と親しく、彼から「符呪」「結界」の魔術なども教わって「男爵」の地位・縄張りまで手に入れている。通常は混血などの二等魔族は上級魔術の手ほどきを受けられないし(多くは資質が劣っている)、「魔王株」もめったに与えられないはずなのだが(「魔王株」というのは魔族側の制度で、爵位などの地位と縄張りの領地がセットになったものだ)。
3
いつかの、サキとの会話が脳裏をよぎる。
「人間もろくに食べないとか
おかしいよ。雑種だからしょーがないとか思わず、もうちょっと魔族のプライド持ったら? そんな風だからみんなからも舐められるんじゃん。あんただけじゃなくって魔族全部がさ」
「あら? 共食いしないと生きていけない方こそ「出来損ない」なんじゃないの?」
たしか、ずっと昔の子供の頃のことだった。
魔族といえども下層階級の出身だったシェリーは、雑種ハーフのサキとはよく一緒にいることが多かったように思う。伯爵の妾腹だから金がないわけでもないだろうに、主に下層階級魔族のための人肉代用食である「血のジャガイモ」などばかりを好んで食べていることもあって、親しみやすかったからだ。
当時のサキは痩せた女の子だった。人肉をあまり食べたがらないせいなのか発育が悪く、人間の母親がたまに乳房から血を飲ませていたらしい。
なんだか可哀想に思ったシェリーは、市場で買った食用の人肉を手料理のサンドイッチやシチューにして、何度もサキに勧めてみたことがある。けれどもサキは謝絶して食べようとせず、なんだか裏切られた気持ちになって、それから彼女とも疎遠になってシェリーはもっと孤独になった。
後にサキが「サキュバス」をやって人間の男たちの体液を飲んだり、もっと忌まわしいやり方で摂取していると人伝に聞いたときには、ショックで眩暈がして吐いてしまった。
「ねえ、あんた。あの噂って本当なの?」
「噂?」
「……あんたが、その、人間の男と」
駆けつけ、再会したサキはいくらか血色が良くなって、人間なら二十歳前ほどの美しい娘になっていた。
けれども安堵しつつも、シェリーの胸の中は罪悪感でいっぱいだった。「どうしてもっと熱心に人肉を勧めてあげなかったのか?」。上位の存在であるはずの魔族からすれば、人間との性行為は変態趣味でしかない(実際には多かったが、あくまでも「奴隷や玩具」が建て前なのだ)。特に魔族の女性が食事目的で精液乞食するのは屈辱的ですらある。
「やっぱり、身体の具合が辛かった? そんな片意地はらずに一緒にレストラン行こうよ! 今日くらいおごってあげるからさ!」
「人肉(ひとにく)?」
「うん! 美味しい店知ってるから」
「遠慮しとく。ジャガイモあるし、たまに補充してる」
そんな返事に、シェリーは口をへの字に曲げた。
「そんなことしてたら、お嫁にいけなくなるよ。サキは家柄も良いんだし美人じゃん! 雑種でも気にしなくたって、いい旦那さんとか愛人が見つかるでしょ?」
遠い小さな子供の頃。シェリーが転んで血が出た膝小僧を、サキが舐めてくれたことがある(友情を抱くようになったのはそれからだっただろうか?)。あの優しい舌と唇が下等な人間のオスのナニを咥えているというのは不愉快極まりない。
しかしサキはかぶりを左右にして、想像よりもずっと酷いことを言う。
「構わないわ。貴族とかお金持ちの奥さんになんかなったら、毎日人間を料理したり食べなきゃいけなくなるでしょ?」
「本当に?」
「うん。血のジャガイモ好きだし、母さんの手料理だったから。それに」
「それに、って?」
「よくスラムで人間の男の人を誘ってチューチューってね。とっても喜んでくれるしぃ。人間の男の子って、可愛いの。思春期くらいだと夢中になっちゃって凄い勢いで、この前はお尻に」
パンっ!
嬉々として話すサキの横っ面に、シェリーは考える前にビンタを張っていた。
「信じられないっ! 最低だわ!」
たとえ生まれが低く貧しくとも「正統派の魔族」として誇りや規範意識と上昇志向を持っているシェリーからすれば、サキは敗北主義者でしかなかった。しかも度し難い変態に堕ちてしまっているキチガイ女め。
4
その後で、シェリーは親しく親身になってくれている従兄に相談した。彼は騎士になっていて、貴族の男性にも何人か友人がいる。
「友達を助けてあげて欲しいんだ。美人だけど偏食とノイローゼでさ、それで身を持ち崩しそうになってて。でも悪い子じゃないから、どこかの貴族のお妾さんとかだったら、十分イケると思うよ。いっそ、私に紹介してくれてる人たちに、私と一緒に嫁いでも良いし」
従妹のシェリーから事情を聞いた従兄は、友人の貴公子たちとサキを輪姦レイプした。幸いにも彼女はまだ処女だったようだ。
シェリーは同伴して、ニヤニヤ笑ってそれを眺めていた。やはりサキのような上等な娘は、一流の魔族に囲われるべきだし、やっと友人も目を覚ますだろうと。
だから、事後に二人になってから勝利顔で告げた。
「それで、あの中で誰が気に入った? あいつらってエリートだし、従兄のアニキの友達だし。サキはお母さんは奴隷猿でも、伯爵の子供なんだし、いくらでも良い貰い手あるんじゃない?
あとで「処女を奪われた」って言ってやったら、もう正式に愛人にするしかなくなるよ。私も証人になってあげるからさ!」
「あなたがやったの?」
予想外にも、サキはひどく心を傷つけられた様子で(何故泣いていたのだろうか?)黙って立ち上がり、「あんたなんか大嫌い!」と呟いて立ち去ってしまう。シェリーは、人間にザーメン乞食する変態女にまで倫理観やプライドが落ちぶれたサキが、やや強引とはいえ降って湧いた「僥倖」に激怒するのが理解不能だった。
それが価値観の噛み合わない二人の喧嘩別れで、長い因縁の始まりだった。
5
やがて、鉄格子の向こうに忌まわしい人間の女たちが現れ、シェリーは現実に引き戻される。
彼女たちは日々に魔族の脅威と恐怖に怯え続け、本人が直接・間接の被害を受けたり、身内が犠牲になっている者も少なくない。ゆえに復讐心旺盛で陰険で残酷だった。
「おーい、魔族の便所女、生きてる? 男どもだけじゃお仕置きにならないかもだから、私たちが手伝ってあげに来たの。感謝しろっつーの!」
「そーよねー。どうせスキモノだし、悦んでるだけでしょ? 男って、ちょっと見た目がいい女には甘いからさぁ」
頷き合いながら獄中に入ってくる。シェリーは魔族ではあるのだけれども、人間の呪いで魔力を失っているのだった。
鎖がジャラジャラと引っ張られると、両腕で吊り下げられてしまう。手錠の鎖が天井の滑車につなげられているのだった。
「さぁて、今日はどうしようかしら?」
「じゃん! こんなの、持ってきましたあ!」
わざとらしいやり取りではしゃぐ復讐の女たち。
それは大きな凶悪なペンチだった。
「え? な、何を?」
「こうするのよっ!」
裸の乳首を摘まんで引っ張られ、抗弁しようとしたところをグチャリと挟み潰される。さらに引っ張る。
「あいたたた! やめて、千切れちゃう!」
「いいじゃない。どうせあんたは復活の魔術がかかってるから、千切れても元にもどるでしょ? れっつ、トライアル!」
「うううう! い、痛い! 痛いよぅ! ああああああああ! ああああ! 止めて止めて止めて、あああああああうううううううごおおおおおおおおおお!!」
グイグイと引っ張られ、乳首を潰されて血の出ている乳房が変形して伸びる。ブチッと引きちぎれたとき、シェリーは獣のような咆哮を地下牢全域に響くほどにほとばしらせていた。
その日、反対の乳首とクリトリスや陰唇も同じやり方で破壊された。内部組織まではみ出して引きずり出され悶絶してしまう。恒例となっている革紐を巻いた拳で顔面や胸腹・背中を数人がかりで何十回も殴られて、口にウジの湧いた馬糞を詰め込まれた。髪の毛に火をつけられて泣き叫ぶ。
それから乾いた血のこびりついた鞭で交代で三百回鞭打たれた。「今日はこれくらいにしておいてやるよ」と人間の女たちが「定期的な復讐・制裁・教育的指導」から立ち去ったときには、血塗れで赤い水溜まりに漏らした小水と汚物の臭いが漂っていた。シェリーは半ばは意識朦朧として、切れた唇から血を流して「やめて」「鬼」などとうわごとを呟いてブルブル震えていたようだ。
もしも彼女が邪神から特別な「復活・回復の魔法効果」を授かって付与されていなければ、さっさと絶命して楽になれたかもしれない。なまじっかあだになって、終わりなき虜囚と虐待の日々が続く。
翌日に男たちがズボンにテントを張ってやって来たときには、シェリーは心底にホッとした思いだった。「女たちからの虐待から一日二日は愛嬌満点でサービスも良い」ことは既に定説になっていた。
1
トンっと小気味よい音を立てて、鉈が頭を叩き割る。
手慣れた調子で捻るように引き抜くと、匪賊の死刑囚はバッタリと倒れた。まだ断末魔の痙攣でピクピクしている。ほとんど薪割りのような手っ取り早さだ。
「こういうのは、家畜を屠ったり、狩りの獲物にトドメ刺す練習にもなるから。
ちょっと頼んで練習台に一匹二匹わけて貰った。どうせ盗賊やスパイの死刑囚だから気にするな。可愛い女の子たちに引導を渡して貰えて、こいつらもきっと幸福だろう」
エルフでマタギのキョウコ姐さんが、新入りで教え子のアネチカや少女たちに講釈する。美人ではあったがエネルギッシュな野性味のオーラが漂っている。
まだ生きている縛られたもう一人の囚人が、猿ぐつわでもがき呻きながら首を左右に振っている。半泣きで命乞いでもしているらしいが、キョウコその顔面を蹴り飛ばして「黙れ、犬」と無慈悲に吐き捨てる。
「それで、実際には急所を狙って一息のことが多いけどさ、その手を下す「心構え」とか「慣れ」とか「気合い」みたいなの」
少女たちはおそるおそるの視線を死体に投げ、少しだけ哀れむ表情を浮かべたりして、熱心に聞いている。
ついでにいつぞやはサキなどが「乙女の特別講習」とやら(母親・姉妹たちの許可を得て・むしろ共犯で)少年たちをウブな女の子たちの目の前で裸にし(木に縛って目隠しし)、「男の実物」を見せたこともある(それで最近はサキの息子のレオは逃げている?)。しょせん男女平等もケースバイケースということなのだろうか?
「とりあえず今日は、このアホの死体を刻んで山の野獣のエサにする。普段にお世話になっている山の神様や、肉や革を与えてくれる動物たちに感謝の心を忘れるな」
「はいっ!」
「よし、やってみろ!」
血塗れた練習用の鉈を手渡され、慣れない少女たちが準備で、一太刀二太刀ずつ浴びせかけていく。
あとで泣き出す子もいるのでキョウコやアネチカは頭を撫でてやる。
「よしよし、頑張ったなー。優しいのは良いことだけどな、こいつらは害獣の一種だから。生かしておくと害になるから」
いざというとき、慣れておかないと身を守れずに、命にすら関わる。
だって、こんなにも残酷な世界なのだから。
2
その近くで石器を作っていたクリュエルが、横で矢柄を作っているエルフの魔法職人に小声で呟く。
「なあ。昔に文献で読んだ古代ルーム人の名言でこんなのがあるんだぜ?
「俺たちは武力で制覇して世界の支配者になったけれど、相変わらず女房の尻に敷かれているのはどうしてなんだろう?」ってな」
「まあ、宿命と思って諦めるしかないだろうよ」
ヒソヒソ話する彼らは原始的な内職仕事でもしているようだが、その経済効果は実は「少額の硬貨鋳造」と大差がない。冒険狩人ギルドにとっては名産品の収入源の一つであった。
なぜなら名人クラスの魔法職人が「符呪」して魔法効果を付与した石器や矢柄は、悪くない値段で売れる商品である。輸送や保管にも便利であるために、少額貨幣に準じて物々交換にも使われる。寺子屋の教員アルバイトよりよっぽど割が良いのだそうだ。
だから彼らの場合には、狩りや土方仕事をするよりも、地味な製造業をしていた方が儲かる皮肉。それなのに、たまに妻や女から「そのうち針仕事でもやってみるか?」と煽られる。
「未来のアマゾネス戦士養成道場だな。いや、山姥だな」
「なぁに? ア・ナ・タ?」
クリュエルが横目にポツリと呟くと、キョウコは耳敏く聞きつけて、僅かに凄みのあるニッコリとした微笑を浮かべた。
3
翌日には、キョウコやアネチカは何事もなかったかのように、村の婦人会ギルドの大厨房で「堅焼きクッキー作り」に励んでいた(甘さ控えめだが栄養価やミネラルは豊富)。
村や冒険狩人ギルドの保存食・戦闘糧食や旅行・移動中の携帯食にもなるため、定期的に新しく作って備蓄を古いものと入れ替えたり補充するのだ。
みんなで和気あいあいと雑談に花咲かせながら、粉を捏ねて、生地を四角く切り取っている。
「キョウコがやると、なんか、クッキーが血生臭くなりそうじゃない? 山の悪霊が恐れて逃げ出しそう?」
「魚さばいたのと同じよ。そんなに気にしなくたって」
「サキが作ったのとか、舐めただけで劣情してそう?」
「いっそ精力剤として売ってみる? キョウコの旦那の石器みたいにプレミアついて高く売れそうじゃない?」
それからアネチカとミカはあとで、山砦の見張りしていたレオ(ミカの兄)たちに焼きたてのクッキーを届けてあげたそうだ(アネチカの弟も見習いしているので)。
1
旧魔王戦役の終結直後の監獄はどこでも、魔族シンパと連携・共謀して侵略幇助していた権力者・無法者で溢れかえっていたそうだ。
驚くべきことには、それなりに高級な社会的地位のある連中が大量に裏切っていたこと。彼らの場合には無責任行為やサボタージュを繰り返すだけで、人間側に多大な打撃を与え続けることができた。市参事会なども半分くらいは死刑や公職追放・資産没収などだったし、裁判官やら上級の学校の教授なども似たり寄ったりだったらしい。
まだ保身や迎合でもたいして悪意がない・罪が軽いと見做された者たちは流石に多くが免責されたが、それでも免職・降格・減給や「過失責任」で罰金などの嵐。それでも「幸運な部類」の大多数なのであった。
2
「ぎゃぐみょんとひゅーのはねー(学問というのはねえ)」
独房で、逮捕と破滅で気が狂った「元」教授がブツブツ言っている。玄妙と韜晦の巧みな話術と詭弁の論理学、それにデマや誤情報を混ぜたり重要情報を隠蔽するなどして、人々を騙したり混乱させるプロだった。
こんな奴らが他にも何千人といたのだから、恐ろしい話だった。
「おい、お前の番だ」
看守が軍事裁判の順番で呼びに来る。
「ひゃひゅひょ、ひょ?」
もうとっくに人間の言葉すら通じない先生。これまでも巧みな修辞学と論理学で世を欺き騙してきたのだが、今は動物か宇宙人のやり方でしらばくれる。
「だんあちゅ、なんでしゅねえ。じんけんとぎゃぐもんのそんげんへのぼーとくはゆるしゃれなひ! しゃがれうちぇろ、むちなていがきゅれきめ!」
(弾圧なんですねえ。人権と学問の尊厳への冒涜は許されない! 下がれ失せろ、無知な低学歴め!)
「何を言っているんだ、お前は! ラリってんのか、この詐欺野郎! いいから裁判だ、早く出ろ!」
頭を小突かれて、ロープを引っ張って引きずり出される。さながらヤドカリの如き執念で抵抗したが(有罪で死刑がわかりきっているので)、棍棒で殴られ蹴飛ばされて軍事法廷の場にまでついに連行される。引き攣った頬で笑うような狂人の表情を浮かべながら。
それから判決(死刑宣告)のために待っていたのは、およそ「低学歴」とは言えない人たちも多数だった。世の中には法律学校や神学校を出ている人間は幾らでもいるのだし、一定数は賢い連中もいる。いかに教授や博士を名乗って欺こうが、デタラメをやりまくればバレて当たり前だった。
死刑囚の最後の抵抗は、その場で脱糞してウンコ投げであった。
しかし、無駄だ。判決で発狂して暴れる囚人が多いのでとっくに対策はとられており、被告席の四方は強化ガラス張り(魔法強化され、見えない)。
それでも大便を両手に握りしめて、最後の抵抗の構えする。しかし、無駄だ。
「よし、死刑執行!」
裁判官が合図すると、刑務官がレバーを引っ張る。
すると、トゲのついた天井が落ちてきて、グチャリとゆっくり押し潰してしまうのだ。次に床が開いて臨死体験しながら、下の穴に落ちていく。
3
無法地帯の酒場で、魔族シンパだった女が裸で踊っている。魔術で絶対に一生消えない「追放囚人一級」の刻印を捺されて、奴隷に売り飛ばされたのだ。
これまで被害を受けていた人間の同性の女たちは絶対に彼女たちを許さなかったし、男たちも大部分はそっぽを向いた。その人間性の屑ぶりや罪の重さを考えれば(あまりにも憎悪を買いすぎていた)、多くの冷静な男たちには「愛玩ペット並みの愛人奴隷」にすることすら願い下げされてしまう(信頼性が「犬以下の女」なんてわざわざ飼育して面倒をみるのも御免だし、もし子供が出来ても困るだけ)。
今の立場は「通常の売春婦以下のリアル虐待用奴隷」で、最低限の倫理観・良心や優しさの欠片もない最悪の客たちを相手にするしかない。そもそも店の所有物の「奴隷」であって人権すらない(雇用されているだけの「人間」のホステスや売春婦とは根本的に違う)。
そんな境遇ですら、まだ死刑や魔族の食肉に売り飛ばされるよりはマシで、良い男に買われる可能性を最後の儚い希望にしながら、ボロボロに擦り切れていくしかない。しょせんは魔族利権シンパで利益を得ていただけの分際で、自己評価が過剰に高かったことがこの結末となった。
(どうして、あんな女なんかを選んだの?)
かつて最後のチャンスで「あなたの奴隷になります」と、良さげな男に擦り寄ろうとした。しかし彼は地味で子持ちで強姦歴(一時は売春も)まである他の女を「二号さん」に選んだ。目の前でデレデレして鼻の下を伸ばしながら「大変だったねえ」などと優しく囁いて!
まだ「不運・不幸だっただけの女」ならまだしも、極悪人グループで自発的肉便器では「いらない、お前は女としての価値すらない」。あのときのあの地味女の、勝利感に満ちた見下した笑顔を思い出すだけで、嫉妬と怒りで気が狂いそうになる。
もう一人の良さげな男は彼女よりも「リアル牝犬」を選んだ。セクシーに誘ってやってフラリと傾きそうになったのを、足元の飼い犬に一声吠えられて我に返りやがった。「愛情だけだったらこいつ(犬)の方がそこいらのバカ女より上なんだよなー。もし人間だったら結婚してたかも」などと皆と笑いながら言い交わしていた。
4
今も両手をロープで吊り下げられ、ダーツの的にされたり、鞭打たれている。
「やめて! 赤ちゃんがいるの! 止めてえ!」
誰のともしれない胎児を孕んだ三カ月。哀れみを乞うても殴り飛ばされるだけで、とうとうショックで破水して羊水を撒き散らしながら、苦悶にのたうち踊りながら野獣のように狂乱し絶叫する。
それから「めったに見れない最高に滑稽な見世物」として与えられたご褒美の麻薬で気持ち良く、わけがわからなくなって出産オーガズムしながら、自分が流産してひり出した未熟胎児を生のままムシャムシャと食べてしまった。
どうして自分が周り中の客たちから笑われているのかわからなかったので、なんだか楽しくなってきて公開オナニーを見せつける(強烈なアクメで大失禁の噴水を噴き上げながら)。その途中で麻薬の過剰摂取で絶命した。拍手と大喝采。
たぶん「女として最悪の死に方」だったろうが、本人にとっては「最後の救済」だったのだろうか。死に顔には浮かび上がったエクスタシーの表情がはりついていた。
ついでに彼女の最後の勇姿は看板のネタにされたらしい。与えられた称号は「奇跡の変態女」で、「女も人間も止めてしまった、品性が犬以下で、サキュバスやインキュバスすらドン引きさせる牝ブタ女だった」と賞賛されて語り継がれたそうだ。