「砂船がひとつ、こっちに来るわっ」
「一隻ですっ」
ニードルサボテンを収穫し、涼しくなるまで一休みしながら南を警戒しようとした矢先だ。
砂丘に登っていたシェリルとマリウスが叫ぶ。
砂船、またあの商人か?
全員で砂丘に登り、マリウスに遠見の魔法を掛けて貰った。
目の負担を考えて、持続時間は三〇秒だけ。
『前見タノヨリ、少シ大キイネェ』
「マリウス。あの船に掲げられている旗って」
「はい。ゲルドシュタル王国のものです」
「ということは、乗っているのは先日のような騎士でしょうか?」
それを確認する前に、遠見の魔法の効果が消えてしまった。
「マリウス、もう一回――」
「た、大変です!?」
「どうしたっ」
マリウスが俺の顔を掴み、慌てて呪文を唱える。
「見てください!」
急いで砂船を探す。
あったあった。何が大変なんだ?
「騎士たちが――」
「騎士、たちが?」
乗船しているのは三十人ほどか。
「鎧を脱いでいます!!」
「……あ、あぁ。本当だな」
ここでプツんと魔法の効果が切れた。
でも確かにあいつら、鎧を着ていなかったな。
ただその服装はこの前の盗賊たちと違って、整ったもの。
「砂漠で全身鎧は死にに行くようなものって、やっと気づいたみたいね」
「学習出来たのですねぇ」
『エライエライ』
「偉くないですっ。これで脱落者が減るんですから、死活問題ですよっ」
まぁ確かにな。
それに砂船なんか持ち出してきやがって。
でも見える範囲には一隻しかいなかった。
「偵察、かな?」
「そうでしょうね。進軍ルートを確認しに来たのかと。なんせ詳細な場所を知っているのは、僕かあの時の商人でしょうし」
「ちなみにさ。王国には砂船とかあるのか?」
「いえ。王国は砂漠に面していませんので、そういったものは……じゃあ、あれはどこから」
「まぁ、あの時の商人だろうなぁ」
まだ懲りずにアスを狙っているのか?
にしても奴ら、まっすぐこちらに向かって来ているな。
目視でも確認出来るようになったぞ。
「あ、そうか。この木を目指してきているのか」
日陰用に成長させたモミの木だ。
「そりゃ砂漠じゃ目立つものね」
「どうしましょう?」
……来るっていうなら。
「ありがたくちょうだいしようぜ、あの船」
「いいわね」
「船なんて動かせるでしょうか?」
『アレ貰うウノ? ボク乗ッテミターイ』
「あ、動かし方は大丈夫です。前に乗せて貰った時、動かし方を教えて貰いましたから」
そうか。前にマリウスが襲撃者側だった時には、砂船で近くまで来ていたんだな。
なんて言ってる間にも、砂船は近づいて来た。
「アス」
『ハーイ。ドォーン』
アスが前脚を持ち上げ砂を踏みしめる。
その振動で船はバランスを崩し、盛り上がった砂に船主が突っ込んで急停止した。
だがさすがに騎士だ。
バカにしてはいたけど、どうやた統制は取れているらしい。
すぐに下船用の板が掛けられ、剣を抜いた騎士たちが下りてくる。
「あ、そうだ。"成長促進"」
ニードルサボテンの種は、クルミのような殻の中に二〇粒ほど入っていた。
その種を、船から掛けられた板の方へと投げた。
俺の手から離れて二十秒後に、種が生るまで成長!
「みんな、伏せろっ」
「ひえっ」
「あれもちゃんと収穫しないと」
「石鹸、たくさん作れますね」
『ボク平気』
人間四人が砂に突っ伏して一呼吸した頃、
「ん? なんだ、このサボテンは。こんなのあったか――」
「いてててててててててて」
「ぎゃーっ。ななな、なんで棘がっ」
突然生えたサボテンに、先頭の奴が触れた。
まぁ突然目の前に生えてきたら、触っちゃうよな。
棘ミサイルに怯んで下がれば、後ろに生えたサボテンに触れてしまう。
そして棘ミサイルが発射される。
「鎧を着てたら棘なんて痛くも痒くもなかったろうになぁ」
「ダ、ダイチ様、鬼ですね」
「利用できるものを利用しただけさ」
バタバタと騎士たちは倒れ、無傷なのはあとから降りて来た半数ほどだ。
「サボテンの種はまだまだあるんだぜ?」
あと二〇粒ほどだけど。
「種? それがどうした!」
お。威勢のいい騎士が剣を構えた。
どうやら俺のスキルのことを知らされてないみたいだな。
仕方がない。お披露目してやろう。
「捕獲する相手のことは、ちゃんとリサーチするもんだぜ。"成長促進"」
さっきと同じ条件で、今度は一粒だけスキルを込めて投げた。
どうやら威勢のいい騎士の目の前に落ちたらしい。
ずぼっと生えたサボテンに、騎士は悲鳴を上げて腰を抜かした。
「俺のスキルは植物《・・》を一瞬で成長させる効果がある。聞いてなかったのか?」
「そ、そそ、それを早くいえっ。おお、王女様のご命令だっ。貴様、我々と来いっ」
「お断りします。そもそも、捨てたのはそっちだろ」
「あんたを捨てたのって、悪い魔術師じゃなかったの?」
「……魔法を使って俺のスキルを無理やり覚醒させたんだし、似たようなもんだろ?」
そういえばルーシェとシェリルには、俺を捨てた連中が王女だってことを話していなかったな。
あとでちゃんと話そう。
でも……異世界人だってことは、どう説明しようか。
信じてくれるかな。
「わ、我々と一緒に来れば、贅沢な暮らしが待っているんだぞっ。金も、女も、好きなだけ用意されるのだっ。こんな不毛な大地で暮らすより、よっぽど幸せだろうっ」
「その代わり、朝から晩までスキルを使って、それこそ死ぬまでコキ使われるんだろ? お金があったって使う暇もないんじゃ、意味がない。女も用意してくれなくて結構。ちゃんと自分で見つけたからさ。それに、不毛な大地っていうが、それを豊かな大地にするのが楽しいんじゃないか。俺はここで、十分幸せに暮らしているよ」
「くっ……我々が砂漠から帰るためには、貴様に来てもらわなくては困るのだ!」
「それはあんたらの都合だろ。俺には俺の都合ってものがあるんだ。知るかよっ」
「力づくで連行する! はっ、サボテンにさえ触れなければそれでいいのだからなっ」
まぁそうなんだけどさ。
「アスー。もう一回どーんだ」
言ってから俺はすぐに伏せる。もちろん他の三人も同じように伏せた。
『ドーン!』
アスのどーんで幹が揺れたサボテンは、棘を発射。
「ぎゃあぁぁぁ」
「いてててててててて」
「ふ、船に戻れぇ」
残念。さっきのどーんで板は落ちてしまって、乗船するには自分の身長ほどの高さを乗り越えなきゃいけない。
まぁサボテンは一本だけだったし、被害は少ない。
そこへ――
「"スパイダーネット"」
「なんだマリウス。いい魔法持ってるじゃん」
「あ、ありがとうございますっ。いやぁ、この魔法って今まではネズミ捕りにしか使ってなかったのですが、案外役立つものですね」
ネズミって……魔法の無駄使い!
騎士の武器を全部取り上げ、彼らの周りをサボテンでぐるっと囲む。
で、いろいろと情報を聞き出し、最後には――
「じゃ、この船は貰っていくよ」
「ド、ドロボォー!!」
悪党に泥棒呼ばわりされるなんて、ちょっとショックだ。
けど――
「出航だ」
「アイアイサー。風よ」
風の力が込められた魔道具が発動し、帆が風を受け船が走り出す。
うおぉぉぉ。快適ぃ。
聞こえていた罵声もあっという間に遠くになり、そして聞こえなくなった。
この砂船があれば、移動範囲も一気に広くなるなぁ。
ありがとう、騎士様!
「一隻ですっ」
ニードルサボテンを収穫し、涼しくなるまで一休みしながら南を警戒しようとした矢先だ。
砂丘に登っていたシェリルとマリウスが叫ぶ。
砂船、またあの商人か?
全員で砂丘に登り、マリウスに遠見の魔法を掛けて貰った。
目の負担を考えて、持続時間は三〇秒だけ。
『前見タノヨリ、少シ大キイネェ』
「マリウス。あの船に掲げられている旗って」
「はい。ゲルドシュタル王国のものです」
「ということは、乗っているのは先日のような騎士でしょうか?」
それを確認する前に、遠見の魔法の効果が消えてしまった。
「マリウス、もう一回――」
「た、大変です!?」
「どうしたっ」
マリウスが俺の顔を掴み、慌てて呪文を唱える。
「見てください!」
急いで砂船を探す。
あったあった。何が大変なんだ?
「騎士たちが――」
「騎士、たちが?」
乗船しているのは三十人ほどか。
「鎧を脱いでいます!!」
「……あ、あぁ。本当だな」
ここでプツんと魔法の効果が切れた。
でも確かにあいつら、鎧を着ていなかったな。
ただその服装はこの前の盗賊たちと違って、整ったもの。
「砂漠で全身鎧は死にに行くようなものって、やっと気づいたみたいね」
「学習出来たのですねぇ」
『エライエライ』
「偉くないですっ。これで脱落者が減るんですから、死活問題ですよっ」
まぁ確かにな。
それに砂船なんか持ち出してきやがって。
でも見える範囲には一隻しかいなかった。
「偵察、かな?」
「そうでしょうね。進軍ルートを確認しに来たのかと。なんせ詳細な場所を知っているのは、僕かあの時の商人でしょうし」
「ちなみにさ。王国には砂船とかあるのか?」
「いえ。王国は砂漠に面していませんので、そういったものは……じゃあ、あれはどこから」
「まぁ、あの時の商人だろうなぁ」
まだ懲りずにアスを狙っているのか?
にしても奴ら、まっすぐこちらに向かって来ているな。
目視でも確認出来るようになったぞ。
「あ、そうか。この木を目指してきているのか」
日陰用に成長させたモミの木だ。
「そりゃ砂漠じゃ目立つものね」
「どうしましょう?」
……来るっていうなら。
「ありがたくちょうだいしようぜ、あの船」
「いいわね」
「船なんて動かせるでしょうか?」
『アレ貰うウノ? ボク乗ッテミターイ』
「あ、動かし方は大丈夫です。前に乗せて貰った時、動かし方を教えて貰いましたから」
そうか。前にマリウスが襲撃者側だった時には、砂船で近くまで来ていたんだな。
なんて言ってる間にも、砂船は近づいて来た。
「アス」
『ハーイ。ドォーン』
アスが前脚を持ち上げ砂を踏みしめる。
その振動で船はバランスを崩し、盛り上がった砂に船主が突っ込んで急停止した。
だがさすがに騎士だ。
バカにしてはいたけど、どうやた統制は取れているらしい。
すぐに下船用の板が掛けられ、剣を抜いた騎士たちが下りてくる。
「あ、そうだ。"成長促進"」
ニードルサボテンの種は、クルミのような殻の中に二〇粒ほど入っていた。
その種を、船から掛けられた板の方へと投げた。
俺の手から離れて二十秒後に、種が生るまで成長!
「みんな、伏せろっ」
「ひえっ」
「あれもちゃんと収穫しないと」
「石鹸、たくさん作れますね」
『ボク平気』
人間四人が砂に突っ伏して一呼吸した頃、
「ん? なんだ、このサボテンは。こんなのあったか――」
「いてててててててててて」
「ぎゃーっ。ななな、なんで棘がっ」
突然生えたサボテンに、先頭の奴が触れた。
まぁ突然目の前に生えてきたら、触っちゃうよな。
棘ミサイルに怯んで下がれば、後ろに生えたサボテンに触れてしまう。
そして棘ミサイルが発射される。
「鎧を着てたら棘なんて痛くも痒くもなかったろうになぁ」
「ダ、ダイチ様、鬼ですね」
「利用できるものを利用しただけさ」
バタバタと騎士たちは倒れ、無傷なのはあとから降りて来た半数ほどだ。
「サボテンの種はまだまだあるんだぜ?」
あと二〇粒ほどだけど。
「種? それがどうした!」
お。威勢のいい騎士が剣を構えた。
どうやら俺のスキルのことを知らされてないみたいだな。
仕方がない。お披露目してやろう。
「捕獲する相手のことは、ちゃんとリサーチするもんだぜ。"成長促進"」
さっきと同じ条件で、今度は一粒だけスキルを込めて投げた。
どうやら威勢のいい騎士の目の前に落ちたらしい。
ずぼっと生えたサボテンに、騎士は悲鳴を上げて腰を抜かした。
「俺のスキルは植物《・・》を一瞬で成長させる効果がある。聞いてなかったのか?」
「そ、そそ、それを早くいえっ。おお、王女様のご命令だっ。貴様、我々と来いっ」
「お断りします。そもそも、捨てたのはそっちだろ」
「あんたを捨てたのって、悪い魔術師じゃなかったの?」
「……魔法を使って俺のスキルを無理やり覚醒させたんだし、似たようなもんだろ?」
そういえばルーシェとシェリルには、俺を捨てた連中が王女だってことを話していなかったな。
あとでちゃんと話そう。
でも……異世界人だってことは、どう説明しようか。
信じてくれるかな。
「わ、我々と一緒に来れば、贅沢な暮らしが待っているんだぞっ。金も、女も、好きなだけ用意されるのだっ。こんな不毛な大地で暮らすより、よっぽど幸せだろうっ」
「その代わり、朝から晩までスキルを使って、それこそ死ぬまでコキ使われるんだろ? お金があったって使う暇もないんじゃ、意味がない。女も用意してくれなくて結構。ちゃんと自分で見つけたからさ。それに、不毛な大地っていうが、それを豊かな大地にするのが楽しいんじゃないか。俺はここで、十分幸せに暮らしているよ」
「くっ……我々が砂漠から帰るためには、貴様に来てもらわなくては困るのだ!」
「それはあんたらの都合だろ。俺には俺の都合ってものがあるんだ。知るかよっ」
「力づくで連行する! はっ、サボテンにさえ触れなければそれでいいのだからなっ」
まぁそうなんだけどさ。
「アスー。もう一回どーんだ」
言ってから俺はすぐに伏せる。もちろん他の三人も同じように伏せた。
『ドーン!』
アスのどーんで幹が揺れたサボテンは、棘を発射。
「ぎゃあぁぁぁ」
「いてててててててて」
「ふ、船に戻れぇ」
残念。さっきのどーんで板は落ちてしまって、乗船するには自分の身長ほどの高さを乗り越えなきゃいけない。
まぁサボテンは一本だけだったし、被害は少ない。
そこへ――
「"スパイダーネット"」
「なんだマリウス。いい魔法持ってるじゃん」
「あ、ありがとうございますっ。いやぁ、この魔法って今まではネズミ捕りにしか使ってなかったのですが、案外役立つものですね」
ネズミって……魔法の無駄使い!
騎士の武器を全部取り上げ、彼らの周りをサボテンでぐるっと囲む。
で、いろいろと情報を聞き出し、最後には――
「じゃ、この船は貰っていくよ」
「ド、ドロボォー!!」
悪党に泥棒呼ばわりされるなんて、ちょっとショックだ。
けど――
「出航だ」
「アイアイサー。風よ」
風の力が込められた魔道具が発動し、帆が風を受け船が走り出す。
うおぉぉぉ。快適ぃ。
聞こえていた罵声もあっという間に遠くになり、そして聞こえなくなった。
この砂船があれば、移動範囲も一気に広くなるなぁ。
ありがとう、騎士様!