「こいつ、あんたを追いかけて来たんじゃないだろうなぁ」
「えぇ!? ぼ、僕のせいですか??」

 マリウスが集落の一員になった翌日。
 遠くにサンドワームの姿を見たという子供たちの声を聞き、退治するために砂漠へと出た。
 太さは俺の身長を超え、長さは二十メートルにも及ぶ巨大なミミズだ。
 ルーシェたちが「食べられない」というので、容赦なく成長させてお亡くなりになって貰った。

「それは違うと思います。マリウスさんを追って来たのでしたら、とっくに食べられているはずですので」
「ひえっ」
「サンドワームの移動速度は、人間より早いものね」
「ひえぇぇ」
「サンドワームはここからずっと、南東を縄張りにしています。他の大型モンスターと縄張り争いしないよう、本来はこの辺りまで来ることはないんです」

 普段、獲物の少ない砂漠に、大量の人間が投入された。
 サンドワーム歓喜。
 ついつい縄張りを出て獲物を追いかけたが、興奮気味に追い回したせいで帰り道が分からなくなった。
 で、偶然こっちに来た――というのはルーシェの考えだった。

「見てください。このサンドワームには剣で斬られた傷がたくさんあります」
「んー、あ、ほんとだ。けど薄皮一枚程度の傷だな」
「サンドワームの皮膚は、ぶよぶよしてて傷つきにくいのよ。他のモンスターも、サンドワームを襲わないぐらいだし」

 モンスターにとっても、こいつはマズい肉のようだ。

「他にも来てなきゃいいけどな」
「そうね。でもサンドワームは渓谷内には入れないから」
「あの辺りは地面が硬く、サンドワームは潜れませんから」
「サンドワームはその名の通り、砂の中にしか生息していないんです」

 と、最後にマリウスがドヤ顔で言った。
 どうせ本で得た知識だろ?

 けどそれを聞いて少し安心した。
 渓谷から出さえしなければ、安全だってことだし。
 
「あ、ワームで思い出した。土壌改良計画が止まったままだ。トミーたちにまた、ミミズを探して貰わな……」

 ミ、ミズ……。
 ワームってミミズだよな。

 サンドワームの死体を見つめる。

「なぁ。サンドワームを使って、土壌改良とか出来ないのかな?」
「サンドワームを?」
「もしかしてユタカさん。畑のミミズさんと同じように使えないかって考えているのですか?」
「その通り!」
「あの、それは無理ですよダイチ様」

 なんでだよ。

「サンドワームは砂と一緒に獲物を丸のみします」
「それ本に書いてあったやつ?」
「あ、はい。ですが嘘は書かれておりません。それでですね、サンドワームをはじめとする砂漠のモンスターというのは、過酷な環境で生き抜くために、捕食した物は全て栄養分として吸収するのです」

 ん? どういうこと??

「つまりですね――排泄物には砂しかないんですよ」

 後半はルーシェたちに配慮してか、小声で話した。

「砂だけ?」
「はい。獲物と一緒に飲み込んだ砂だけを、排泄するんです」

 マジで!?

「マリウスと何を話してるか想像つくけど、サンドワームはミミズの代わりにはならないわよ」
「ダメ、なのか……」
「残念ですけれど、ダメなんです」
「普通のワームなら、もちろんミミズと同じく土を肥えさせられるんですけどねぇ」

 同じワームなのに、サンドがつくかつかないかで変わるのか。
 まぁそうだよな。
 サンドワームで土を肥えさせることが出来るから、砂漠になってる訳ないんだし。

 集落に戻って、トミーたちにミミズ探しを頼んでサンドワームの話をしていると――

「ただのワームなら、山の上の方にもいるぜ」

 とバフォおじさんが。

「本当かおじさん!?」
「オレぁ平気だけどな、山羊にとってワームは天敵なんだよ。去年も隣の隻眼んとこの仔山羊が食われてなぁ。かわいそうだったぜぇ」
「隣……他にも山羊の群れがいるのか」
「おう。五つぐれぇあるぜ」

 意外といるもんだ。
 けど仔山羊を食べるってことは、ドリュー族なんかもヤバそうだよなぁ。
 いや、人間の子供もヤバいか。

「ワームを使って砂漠の土壌改良が出来ないかと思ったんだけど、無理そうだなぁ」
「テイムすればいけるのでは?」
「……は?」
「お、その手があったか。ユタカ、お前ぇちょっくら試してみろや」

 ……ミミズを……テイム?





『コッチダヨォ。コッチコッチィ』
『もっももも』

 ワームはいい土と肉が大好きだ。
 そこで土の精霊に肉を持たせ、山を練り歩かせる。
 すると土の精霊=いい土と肉に誘われて、ワームがついて来ると。

 精霊を召喚したのはもちろんアス。
 そして作戦はバフォおじさんが考えたものだ。

 なんか肉を抱えてとてとて走ってる精霊の姿が、めちゃくちゃシュールだった。

「釣れたのは三匹か。まぁまぁだな」
「うええぇぇ。デカいミミズ……」
「あれでも小せぇ方だぜ。山ん中も奴らの獲物になる生き物が少ねぇからな。オレら山羊は崖を好むのも、奴らから逃げるためだ」

 確かに崖にいられちゃ、迂闊に襲えないもんな。
 この辺りの地面は堅く、ワームたちも潜れないようだ。
 おかげで地面の上を這うミミズの姿がモロ見えで、正直、キモぃ。

 おじさんの家族や子供たちが怯えないように、渓谷の東側の開けた場所にワームを誘導。
 そこでテイムにチャレンジするわけだが――

「マリウスがやってくれよ」
「いやぁ、僕はテイミング魔法との相性が悪くて」
「魔法に相性とかあんの?」
「ありますよ。まぁダイチさんがどの魔法と相性がいいのかは分かりませんが。あはははははは」

 あはははじゃねーよ!

「まぁ安心しな。嬢ちゃんたちもいるんだ。誰かひとりぐれぇ、相性のいい奴がいるだろうよ。いねぇときは――」

 隣でマリウスがガクブルしながら「悪魔の契約です」と小声で教えてくれる。
 おじさんの正体は他の人たちは知らないから、マリウスにも「喋る変な山羊」ってことにしてもらっている。

「魔法、私たちに使えるのでしょうか?」
「大丈夫です。テイミング魔法は魔力より相性の方が大事ですから。それに僕の見立てだと、お二人の魔力はそこそこのレベルですよ」

 マジか……。
 おかしいな。二人の身体能力も魔力も、まだスキルで成長させたことないのに。

 精霊が連れて来たワームは俺たちを見て「ご飯だ!」と歓喜しているようだった。
 けどバフォおじさんが一声鳴いた瞬間、ぷるぷると震えだす。
 だいぶ躾されてるみたいだな。

「では、テイミングの呪文をお教えします」

 マリウスから呪文を教えて貰い、そのまま唱えてワームに触れる。
 間違って成長促進しないようにしなきゃな。

 ん?
 なんかワームの頭頂部に……

「ね、ねぇ。テイミング出来たかどうかって、どうやったら分かるの?」
「あぁ、それでしたら、ワームの額に術者の名前が浮かびますので」
「あの……これのこと、でしょうか? 私たち、文字の読み書きは出来ませんので、これがそうなのか分からないのですが」」

 ルーシェが触れたワームの頭頂部に文字が!?

「す、凄いですルーシェさん! テイム成功です!」
「ねぇ……これ、も、そうなの?」
「え? えぇぇー!? シェリルさんもですか!?」
「ほぉ。さすが双子だな。まさか二人ともテイミング魔法との相性がよかったとはなぁ」

 ……どうしよう。
 俺が触れたワームさん。めちゃくちゃくねくねしてなんかアピールしてんだけど。
 そのワームの頭頂部には、しっかり漢字で「大地豊」って出てんぞ。