【書籍化】ポイ捨てされた異世界人のゆるり辺境ぐらし~【成長促進】が万能だったので、追放先でも快適です~

「木を目印に探してくれたモグか!」
「もぐもぐ。ん、そうだ。桃色の、わしらのようなかわいい花をつけた木を見つけてモグな」
「そしたら急に花のない木が見えて、もしかしてと思ってこっちに来たモグ」

 さり気なく、自分たちのようなかわいい……って言ったな。
 自分たちがかわいい種族だという認識は、ドリュー族共通なのかもしれない。

 ツリーハウス内も含めて、二家族のドリュー族がいた。
 四人家族と五人家族、合計九人だ。
 全員空腹で、聞けば子供は昨日の朝から、そして大人たちは丸二日間何も食べていないんだとか。
 
 すぐに野菜を成長させて、ふかし芋とスープを作って振舞った。
 んー、ふかし芋は追加した方がよさそうだな。

「他は? みんな逸れたモグか?」
「あぁ。みんな散り散りになってしまったモグ。家族と逸れないよう、逃げるので必死だったモグよ」
「わしらはすぐに合流出来たモグ。他のみんなを探してあちこち歩いたモグが、途中であの、わしらのようにかわいい木を見つけたモグ」
「そうモグか。あの木はこちらのユタカくんが目印にと、成長させてくれたモグ」

 食事中のドリュー族が一斉に俺を見る。
 自分で自分のことをかわいいとかいうヤツは痛々しいなって思うけど……あぁ、やべぇ。かわいいよこいつら。

「ど、どうも。ユタカです」
「どうもどうも。わしはオースティン。こっちは妻のウィンディで、息子のコニー。娘のマリルですモグ」
「わしはクリント。妻のラーナに長男のクリフ。そっちが次男でリト。末娘のナーシャですモグよ。トレバー一家を助けてくださって、ありがとうございますモグ」

 どうやらドリュー族の語尾につく言葉は、性別や年齢で固定なのかもしれない。
 なんて考えている間にも、彼らはこれまでのお互いのことを話し合った。

 そしてこの流れで――

「ならわしらも手伝うモグ」
「あぁ、水はどの種族でも大切モグ。ここの地下に水があるなら、わしらが地下道を掘って集落まで届けるモグよ!」

 オースティン、クリントの二人が胸をどんっと叩き、協力を申し出てくれた。
 これはありがたい。
 トレバーひとりだと数日かかるかもってことだったが、ドリュー族三人ならもっと早く終わるかもしれない。
 
「けど、まずは集落まで行こう。奥さんや子供たちには、安全な場所にいて貰った方がいいだろう? トミーの遊び友達も必要だし」

 ってことで、一晩ここで休んで翌日は集落へ向かった。

 トミーは既に集落の子供たちとも仲良くなっているが、やっぱり見知った顔の友人が来て喜んだ。
 人間側の集落の人にも紹介をし、本格的に二種族の共同生活が始まった。

 一気に人口が増えた。
 水がピンチだ。
 とりあえず水の木を増やしてなんとかしのぐしかない。

 人手……というかドリュー手が増えたことで、さっそく地下空洞を調べに戻る。
 その前に――

「へぇ、こんな穴があったのか」
「私たちも知りませんでした。でも考えてみれば水が出ているのですから、当たり前ですよね」

 崖から水が出てきている場所を見てみると、横に細長い穴が開いていた。
 ちょうど真ん中あたりが窪みになっているから、今はそこからしか水が出ていない。
 もっと昔は、この穴全体から水が出ていたのかも。

 ドリュー族が「水が染み出ている」のか「穴を通って流れてきているのか」知りたいということで確認してから出発。

「穴を通って流れてきているモグから、地下に水の通り道があるモグよ」
「途中で穴が塞がってしまったモグだろうなぁ」
「なるほど。その塞がった箇所を開通させれば――」
「モグ。また水が流れてくるモグね」

 希望が湧いて来た。

 ツリーハウスのところまで行くと、さっそくトレバー、オースティン、クリントの三人が穴を掘り始める。
 下の方は空洞ってことで、そうじゃない場所から坂道を掘るようにして進んで行った。
 その間、俺たちは暇だ。
 彼らがモンスターに襲われないよう、護衛のために一緒に来ているけど、なんせ三人は穴の中だ。
 襲って来るモンスターもいない。
 むしろ俺たちが襲われる。まぁ即行で倒すんだけどさ。

「今晩のおかずが出来たわね」
「シャッコーマじゃないのが残念ですが」

 仕留めたのは蛇っぽいモンスターだ。前脚があるけど。
 蛇の肉は鶏っぽいというし、唐揚げにしてみるかなぁ。

 ぼぉっとしてるのもなんだし、ツリーハウスを拡張して種を採取。
 それから野菜を成長させて食料も確保した。





「んん~、おいひぃ」
「もぐ。ん、このからあげなるもの、本当に美味いモグな」

 蛇の唐揚げレシピは簡単。
 塩コショウと片栗粉をまぶして揚げるだけ。
 片栗粉はじゃがいもから作った物だ。

 唐揚げと新鮮サラダ、いつものコンソメスープにナン。
 スープにバリエーションが欲しいところだけど、牛乳があればなぁ。
 調味料の木には、さすがに生らなかったし。

「ユタカさん、どうなさいましたか?」
「ん、いや、牛乳があればシチューとかも作れたのになぁと思って」
「しちゅー? 何それ、聞いただけで美味しそうなんだけど」

 いや、名前しか言ってないじゃないか。

「そもそもぎゅーにゅーって、何でしょう?」
「そこか……そこから説明しなきゃいけないのか。んー、牛って分かる? 動物なんだけど。雌の牛から採れる乳のことなんだ」

 乳――と聞いて、ルーシェとシェリルの二人が頬を染めた。
 や、変な意味じゃないから!

「お乳? 山羊のお乳なら知っているモグが」
「牛というのは知らないモグな」
「山羊がいるのか!?」
「山に」

 とトレバーが背後の山を指さす。
 野生のヤギかよ!

 いや、山羊でも十分だ。
 欲しい。
 絶対に欲しい!

「お乳は草と交換でくれるモグよ」

 ……ん?

「欲しいものがあれば、相手の欲しいものと交換する。それが砂漠では当たり前モグからね」
「い、いや、山羊相手に物々交換?」
「そうモグよ」

 山羊と物々交換って……そんなことあり得るのか!?
空洞に向かって穴を掘り進める事三日目。
 ドリュー族が掘った穴が、ついに空洞と繋がった。

「もう少し大きく掘ればよかったモグな」
「申し訳ないモグ」
「いや……大丈夫」

 本当は腰が痛い。なんせドリュー族サイズの穴だ。俺たち人間だと四つん這いでギリギリ通れる大きさしかない。
 しかも途中で蛇行していて、這いにくいし思ったより距離が長くなっている。

 泥まみれになってようやく空洞へと到着。
 あー、うん。真っ暗だ。
 それになんか少し臭う。ガスじゃなければいいが。

「なんも見えん」

 壁に手を突こうとして、柔らかい物に触れた。
 逆に誰かから触れられた。
 慌てて手を引き、一歩下がる。

「キャッ。や、え? 誰か触った?」

 シェリルの声だ。
 ま、まさか今の、シェリルのお……。

「シェリルちゃん? 今のはシェリルちゃんですか?」
「ルーシェなの? なんだぁ」

 俺は理解した。
 たぶん、俺の手が触れたのはシェリルの……。
 そして俺の腕に触れたのがルーシェ。

 わざと触った訳じゃないけど、なんか後ろめたい。
 こ、ここは黙っておこう。

「役得、モグな」

 ぼそりと足元で声がした。
 見られてた!?
 い、いや、見えてた?

「こんな真っ暗なのに、見えるのか?」
「ドリュー族は穴の中で生活をする種族モグ。暗視能力は誰にでもあるモグよ」
「子供にもモグな」
「ふ、ふーん……い、今のは……」
「「内緒モグな」」

 分かっていただけて有難いよ。

 ランタンに明かりを灯して貰って、ようやく俺たちも辺りが見えるように。

「おぉ、広いな」
「凄いです。地下にこんな大きな空洞があるなんて」
「ね、ねぇ、見て……あ、あれってまさか」

 シェリルの震えるような声。
 彼女が指さしていたのは、明かりを反射する水面……み、水!?

「地下の湖モグなぁ」
「見るモグ。あそこに崩落した岩があるモグ。もしかするとあの位置に、地下水路があったのかもしれないモグよ」

 壁の一部が崩れ落ちたのか、いくつもの岩が積み重なったような場所がある。
 ドリュー族が調べた結果、やっぱりあの場所に小さな横穴があるようだとのこと。

「じゃああの岩を掘って貰えば、水が流れるのね」
「これだけあれば、もう水に困ることはなくなりますね」

 喜ぶ二人の声が地下空洞に木霊する。

「モグ? 何かいるモグよ」
「お、おい、怖いこと言うなよ」
「いい、いるモグ!? 水の中に何かいるモグウゥゥ」

 慌ててドリュー族が俺たちの後ろに隠れる。
 お、おい、水の中って……。
 ランタンの明かりはそんな遠くまで届かないぞ。せいぜい水面が反射するぐら――

『ヤメテ』
「なんか出たあぁぁぁ」
「きゃぁーっ」
「やぁーっ」
「「もぐうぅぅぅぅっ」」
『ワァァーッ』

 六人で抱き合って悲鳴を上げた。
 水の中で何かも叫んだ。

 叫んだ?
 さっき止めてって言ってたし、人なのか?

「だ、誰だ!?」
『ボクダヨ』

 僕ぼく詐欺か!

「ボクじゃ分かんないだろっ」
『ボクハボクダヨ』

 ぽちゃんと音がして、明かりの届く距離に何かが――
 オオサンショウウオ?
 いや、大きなウーパールーパーみたいな?
 そんなのが現れた。

「ど、どちらさまで?」
『ボクダヨ』

 こりゃ埒が明かないな。質問を変えよう。

「種族を教えてくれないか?」
『アースドラゴン』
「ほぉ、アースドラ……「「ドラゴン!?」」

 全員の声がハモって木霊する。
 驚いたのか、自称アースドラゴンは水の中にとぷんっと潜ってしまった。

「ご、ごめんごめん。みんな、声のトーンを落とそう。ここだと反響してうるさいから」
「そ、そうね」
「ごめんなさい」
「モグ」

 するとまたちゃぽんと音がして、さっきのが顔を出した。

「ア、アースドラゴン……って本当? ドラゴンってこう……巨大なイメージがあるんだけど」
『ボクコドモ』
「あぁ、なるほど」

 子供でももっと大きいイメージがあるんだけど、そうでもないのか。
 のそりのそりと出て来たウーパールーパーに似た、自称アースドラゴンの大きさは、鼻先から尻尾の先まで一五〇センチ弱か。
 まぁドリュー族よりは大きい。
 アースドラゴンという割に、皮膚に鱗はないしぬめっとした感じだ。

『水、ヌカナイデ』
「抜かないでって、まさか堰き止めてたのはお前か?」
『オカアサントボク』

 お母様がどこかにいる!?

『ボク、ウロコガハエルマデ、水ノナカニイナイト皮膚ガカワイテ死ンジャウノ』
「え、アースドラゴンなのに水の中じゃないとダメなのか?」

 自称くんが頷く。
 そうなのか? とルーシェたちを見るが、みんな首を傾げたり首を振って「分からない」と。

「ドラゴンの生態は謎モグ」
「知っている人の方がいないんじゃないかしら」

 ま、まぁ、個体数だってそう多くはないだろうしなぁ。

「うぅん。俺たちも水が必要だしなぁ。少し流すぐらいじゃダメなのか?」
『マエハアッチカラ水ガナガレテキテタノ』

 自称くんがあっちというのは対岸の方だ。真っ暗で見えないがドリュー族が「大きな穴があるモグ」と教えてくれた。

「アースドラゴンの母ちゃんが通って来た穴かもしれないモグな。それぐらい大きいモグ」
「お、お母さんはどこにいるんだい?」

 尋ねると、自称くんは悲しそうに俯いた。

『スコシマエニ、大キナオジサンガキタノ。オカアサン、オジサンヲオイハラウタメニアノ穴ノホウニ行ッテ……モドッテコナイ』
「おじさんって、アースドラゴンか?」

 違う、というように首を振る。
 別のモンスターか。

『ボク、アッチマデノセテアゲル。オカアサン、サガシテホシイノ。ボク水カラデラレナイカラ』

 向こう側に行って戻ってこない。
 それがいつのことなのか分からないけど、戻ってこないってことは――。

 アースドラゴンの子が、こちらをじっと見つめている。
 その目はどこか悲しそうにも見えた。

 たぶん、こいつも分かっているんだろうな。
 でも知りたいんだ、本当のことを。

「分かった。じゃ、連れて行ってくれ」
『ウン』 

 その返事は嬉しそうには聞こえない。
 俺ひとりを乗せて、アースドラゴンの子が地底湖を泳いで渡る。
 対岸まで来ると、確かに地下を流れる小さな川――の跡があった。
 
 振り返るとアースドラゴンの子が、不安そうにこちらをじーっと見ている。

「ふぅ。行くか」

 念のためにいつでもスキルを使えるよう、心の準備をしておく。
 だがその必要はなかった。

 奥に進むにつれ、鼻を突くような異臭が強くなる。
 二〇〇メートルぐらい進んだだろうか、行く手が落石で塞がっていた。
 その手前の壁に横穴がぽっかり口を開け、だがその先はなく、直下に深い穴が開いていた。

 インベントリから薪用の木材を取り出し、火を点けて落とす。
 穴の中には、折り重なるようにして二体の大きな遺体があった。
「これ」

 アースドラゴンの子に差し出したのは、穴の底にいたこいつの母親だろう亡骸から取って来た鱗だ。
 人間でいうこめかみの部分に、そこだけ腐敗せず綺麗な状態で残っていた物があった。
 不思議と、これをアースドラゴンの子の下に持って行かなきゃと思って……それで……。

『オカアサンダ』
「あぁ。お前のお母さんの鱗だ。綺麗だな」
『ウン……ウン……』

 この子はこれからどうするんだろう。母に比べたら、かなり小さな体だ。
 ひとりで生きていけるのか?

 心配になっていると、受け取った鱗を子供は自分の額にくっつけようとしていた。
 まぁ手が届いていないんだけどな。

「そこにくっつけるのか?」
『ツケタイ』
「貸してみろ、つけてやるから」

 つくのかなと疑問に思いながらも、手にした鱗を子供の額に置いた。
 すると鱗が、吸いつくように子供の額にくっつく。

「お、ついた。これでいいか?」
『ウンッ。アリガトウ、ニンゲン』
「いいさ。な、向こうまで乗せてくれるか?」
『ウン。ノッテ』

 少しだけ声に元気が出てきたようだ。
 向こう岸に向かう途中、子供がごめんと謝る。

『アト五年マッテ。ソシタラ鱗ガチャントハエルカラ、ココノオ水ヌイテモイイヨ』
「あと五年?」
『ウン。オカアサンノ鱗モラッタカラ、ハエテクルノハヤクナルトオモウ』

 あの鱗がなかったら、もっとかかってたのか。
 けどあと五年……俺たちがそれまで木からの水だけで生き延びれるか……。
 ドリュー族も増えたし、これからも増えるだろう。
 地中の水分も減って来てるだろうし、五年は待てないかもしれない。

 だけど五年だ。それぐらいならお安い御用ってもんだ。

「じゃ、俺が君を五年――いや、鱗が揃うまで成長させてやるよ」
『セイチョー?』

 対岸まで戻ってくると、ルーシェとシェリルの二人が駆け寄って来る。

「ユタカさん、おかえりなさい」

 ルーシェは目に涙を浮かべて抱き着いて来た。
 彼女の肩越しに見えたシェリルも、少し潤んでいるようだ。

「そんなに心配だったのか?」
「あたりまえです! アースドラゴンはまだしも、その子がおじさんと呼ぶモンスターと遭遇でもしようものなら……」
「いや、まぁ……死んでたよ。そのおじさんってのも」

 腐敗もあったし、なんのモンスターか分からないけど。

「お母さんの方は?」

 シェリルは出来るだけ声を潜めて尋ねてくる。
 それに俺は首を左右に振って答えた。

「それでだ。こいつの鱗が生えるまで、スキルで成長させようと思う。鱗が生えれば水から出られるようだしさ」
『鱗ガアレバ皮膚ガカンソウシナイカラダイジョウブ。デモセイチョーッテドウヤルノ?』
「こうやるのさ」

 実際にどうやるのか、種をひとつ成長させて見せた。

『ワッ。一瞬デオオキクナッタ!』
「命があるものなら、植物でも生き物でも、成長速度を自在に操れるんだ。だからお前の鱗が生えるまで、一瞬で成長させられるぞ」
『スゴイネニンゲン! ソシタラボク、オ水カラデラレル!』

 こちらとしてもその方が有難い。

「自然な成長じゃなく、俺が無理やりスキルで大きくするんだけど……俺たちも生きていくために水が必要でさ」
『ウン。ゴメンネ。スコシマエノ嵐デ、ココニオ水ガタマルヨウニナッタカラ、オカアサンココデボクヲ産ンダンダ』

 じゃあ集落へ続く流れを止めたのは、アースドラゴンの親子じゃないのか。
 たまたまいい場所が出来たから、ここで産卵したんだな。

 本人の承諾も得られたし、鱗が生えるまでと指定してスキルを使う。

「"成長促進"」

 負担になるのかどうかも分からないけど、一瞬といいつつ少し緩やかになるよう成長させた。
 額にある母親の鱗から広がっていくように、こいつ自身の鱗が生えてくる。
 鱗以外にも変化があった。

 まず体が大きくなった。
 鼻先から尻尾の先まで二メートルを超えただろうな。
 それにウーパールーパーだった外見も、丸みを帯びたフォルムのトカゲっぽくなっている。
 少しはアースドラゴンっぽくなったか?

『ウワァ、本当ニ鱗ガハエタ! スゴーイ』

 自分の体を触って鱗の感触を確かめたりしている。

「どうだ? 体が痛いとか、ないか?」
『ウンッ、大丈夫ダヨ』

 子供が水から上がって、今度は外に出たいという。鱗をしっかり乾かすんだとか。

「わしらが掘った穴だと、この子は通れないモグなぁ」
『ア、大丈夫。ボク自分デヤレルヨ』

 そう言うとアースドラゴンの子供は、ドリュー族が掘った穴の方へ歩いて行った。
 穴の前で立ち止まり、ドスドスと足を踏み鳴らす。
 すると穴が一回り大きくなって、彼も通れる大きさに。

「い、今のどうやったんだ?」
『魔法。土ノ精霊魔法ダヨ。ボク、アースドラゴンダカラネ』

 と、彼は鼻を鳴らして得意げに言った。
 はは。こんな小さくても、さすがドラゴン……か。

「あれが川なのね!」
「本当に水が流れています。でも、下ではこんなの見たことありません。どうしてでしょう?」

 地底湖の先にあった、干上がった小川。
 崩落で水が流れなくなっていたが、その先を地上から辿ってみると小さな滝を見つけた。
 滝つぼに岩が突き刺さるようにして立っているのを見ると、あの下が地底湖に続く横穴に繋がっていたんだろうな。
 ドリュー族の見立ても同じだった。

 流れが変わったため、水は地上を這うようにして流れている。
 川……と呼べるようなものじゃない。
 岩に当たって跳ねた水が、放射線状に水の筋をいくつも作っているだけ。
 こんなんじゃ麓まで届く訳ないよな。

「広く浅く流れてるせいで、途中で完全に蒸発しているんだろう」

 せめてまとまって流れていれば、多少は麓まで届いたかもしれない。
 いや、この気温じゃ難しいかな。
 地下を流れていたからこそ、麓まで届いていたんだろうし。

 その地下の水路を塞いでいた岩も、子アースドラゴンの精霊魔法で既に撤去済み。
 これで麓の集落まで水が届くだろう。
 あとは――

「わしらが地底湖に届く水路を新しく掘るモグよ」
「なぁに、そう深くは掘らなくていいし、一日でなんとかなるモグよ」
 
 ならその間に俺たちは考えることにしよう。
 子ドラゴンのことを。





『ボクヲ捨テルノ?』
「捨てる訳ないでしょ!」
「そうです! 捨てたりなんかしません!」
「「ね?」」

 ダメだこりゃ。
 完全に子ドラゴンにメロメロじゃないか。
 確かにドラゴンというには厳つくないし、全体的にぽちゃぽちゃしてて……あぁ、うん。かわいいね。
 それに捨てるのかと聞かれたら……。

 あの時の、この世界に召喚されたときの自分を思い出してしまう。

 俺はルーシェとシェリルに拾われた。
 こいつも拾ってくれる人が必要、だよな。

 だけどドラゴンだ。成長すれば巨大生物になる。

「ドラゴンって、大人になるのに何年ぐらい掛かるんだろう?」
「え? まさか成長させる気じゃ!?」
「いやいや、そうはしないよ。ただこの子はドラゴンだ。どうやったって巨大になるに決まってるだろ? 集落に連れて行って体がデカくなったら……」
「そう、ですね。この子が暮らすには、あそこは狭すぎますね」

 そう、狭いんだ。
 砂漠から集落へ入るための渓谷は狭い。今のサイズでもギリギリだろう。
 この子には翼がない。穴の底に横たわった、この子の母親にも翼はなかったと思う。
 飛ぶことが出来ないなら、集落から出ることも出来なくなる。
 
「翼でもあって飛べるっていうならまだしも」
『翼アルヨ』
「そっか、あるのか……ん?」

 子ドラゴンがふんすと鼻を鳴らして自慢気に背中を見せた。
 翼?
 つば……さ?
 どこ。

『ンンー」

 なんか息みだすと、背中の一部が捲れ――いや、翼だ!
 折り畳まれていると気づかないもんだな。

 にしても……。

「ちっさ」
『ガァーン!』
「ちょっとユタカ、かわいそうじゃないっ」
「そうです! この子はまだ子供なんですよっ。きっとこれから大きくなるのよねぇ?」
『オオキクナルモン』

 いや、無理だろ。
 母親にも同じように翼があったかもしれないが、俺的にはないように見えた。
 ってことは退化するか、ちっさいままのどちらかだ。
 まぁ体は成長しても、翼は成長――成長?

 い、いや。肉体的な成長には寿命がついてまわる。
 翼だけ成長させても、そこだけ老化するのが早まるだけだ。

「ドラゴンなら何百年と生きるモグから、成長にも時間がかかるんじゃないモグか?」

 汗を拭きながらトレバーたちドリュー族が戻って来た。
 何百年、か。
 そりゃドラゴンだもんな。人間と同じ寿命だとはとても思えない。

「ユタカくん、この前話した山羊のことモグが、彼らなら詳しいことを知っているかもしれないモグよ」
「へぇ、山羊が……や、山羊が?」

 物知りの山羊?
 
 え?





「っという訳で連れて来たんだけど……」
『ツイテキタヨ』

 集落に戻って来て、まずはみんなに子ドラゴンを紹介した。
 水は既にこっちにも届いていて、みんなが大はしゃぎする中に連れて来たもんだから、今度は大騒ぎ。

「ア、アース……え? アー、え?」
「うわぁぁ、おっきなトカゲだぁ」
『ボクトカゲジャナイヨ。ドラゴンダヨ。スゴイデショ?』
「すごーい!」
『エッヘン』

 大人たちは目を点にし、子供たちは大はしゃぎだ。
 まぁそうなるよね。

「面倒はちゃんと俺たちで見ます。何かあれば俺がちゃんと――」

 この手で。
 そうしたくないし、そうならないと信じている。
 でも大人たちを安心させるために、俺はそう約束した。

「俺も誰かに捨てられた身なんで、捨てられた者の気持ちは分かります。こいつは俺たち人間よりも大きいけど、でもドラゴンとしてはまだ子供なんです」
「そ、そうです」
「むしろ赤ん坊も同じよっ」

 ルーシェやシェリルも必死に懇願する。

「お願いしますっ。あいつをここに置いてやってください」
「お願いします、みなさん」
「お願いっ」

 俺たちが頭を下げてから少し間があって、

「はぁ、分かった。分かったよ三人とも」
「ほら、頭を上げて」
「ここに置いてやるのはいいが、その……ドラゴンって何を食べるんだ? 肉食……だったりするのか?」

 大人が心配しているのは、自分たちが捕食される側になるんじゃないかってことだろう。
 だがその心配はない!

「あいつの好物は」
「こ、好物は?」

 インベントリからそれを取り出す。
 鮮やかな緑色をしたソレを見て、子ドラゴンが掛けてきた。

『レタスダァァ』

 俺が掲げたレタスに、子ドラゴンが嬉しそうにかぶりついた。

「"成長促進"」

 入り口は広めで扉は不要。そして一階建て。床は土がむき出しで。
 そう考えながらツリーハウスを成長させた。
 子ドラゴンの小屋にするためにだ。

「いいんじゃない?」
「ドラゴンちゃん、どうです?」

 成長したツリーハウスは、イメージ通りのものになった。
 入り口には扉がなく、縦横二メートルぐらいの穴がぽっかり空いた感じになっている。
 ロフト付きの俺たちのツリーハウスよりやや高さは低いが、一階建てなのでむしろ天井は高く感じた。

『イイニオイスル』
「木のニオイだ。床も木に出来るんだけどな」
『コノママガイイィ』

 アースドラゴン=地竜だ。土の上のほうが落ち着くらしい。

「ふふ。これでドラゴンちゃんのお家も出来ましたね」
『ウンッ。アリガトォ~』
「どういたしまして。にしても、ドラゴンちゃんってのも呼びにくいな」
「じゃ、名前つけてあげましょうよ」
「賛成です。どんな名前にしますか、ユタカさん?」

 ん?
 お、俺が考えるのか?

 名前……名前……太郎――治郎――小太郎――うぅん。
 アースドラゴン――アース――大地。
 俺の苗字と同じだな。
 でも「ダイチ」ってのは名前には向かないなぁ。
 だったらまだアースの方がしっくりくる。

「そうだな……アス、なんてどうだ?」
「アス……まさかアースを縮めただけなんじゃ」
「なぜ分かった!?」
「真面目に考えなさいよっ」
「いやいや、割とまじめだって。こいつはアースドラゴンだろ? アースって、大地って意味じゃないか。そして俺の苗字も大地だ」

 そこから先はまぁ、縮めただけなんだけどさ。

「ユタカさんと同じ名前……とてもいいと思います! ね、シェリルちゃん」
「ま……まぁ……そういう意味があるっていうなら、いい……と思う」
『オ兄チャントオナジ名前?』
「そ。俺の名前は大地豊っていうんだ」
『大地ヲユタカニスル人間?』

 やめろっ。そんな純粋な目で弄らないでくれっ。

「ど、どうだ? アスって呼んでもいいか?」
『イイヨ』

 あ、あっさりだな。
 でも他にいい名前なんて思いつかないし、受け入れてくれてよかった。

「アス、これからよろしくね」
「ここがあなたのお家ですよ」
『ウン。ボクノオイチ。木ノオウチ』

 アスはツリーハウスを気に入ってくれたようだ。

 帰宅したばかりで疲れてるのもあるし、今日はここまで――とはいかず、レタスを二〇玉成長させた。
 アスは一日三食ではなく一食。
 ただしその一食でレタル二〇玉だ。
 まぁ体の大きさで考えたら、二〇玉で済んでいるとも言えるか。

 けど、このまま二〇玉で済むのかなぁ。





「この辺りでいいかな」

 集落にアスが来てから十日ほどは、本当に忙しかった。
 崖から小さな滝のように流れる水を受け止めるための、大きな水桶を作ったり、ドリュー族側へ水を運ぶための竹水道管を作ったり――いろいろやってたらあっという間に十日が過ぎていた。
 
 再び山に入った俺とルーシェとシェリル、それからアスは、山羊を探した。
 ドリュー族曰く、どうしても会いたいときには山で呼べば来てくれる――こともあるらしい。
 どう呼ぶのか。

「おおぉぉぉぉーい、山羊さんやあぁぁーい!」
「山羊さぁ~ん」
「出て来てよぉ~」
『ヤァーギィー』

 いたってシンプルに大声で呼ぶ。

「美味しい人参があるぞぉぉぉぉぉ」
「キャベツもありますよぉ~」
「ハクサイもあるわよぉ~」
『レタルハアゲナイモン』
「いや、分けてやろうよ。な?」
『ヤッ』

 まぁ山羊がレタスを食べるのかは分からないが。

 一晩待って現れなければもう少し奥に進もうと思ったんだが――。

 種の心配もなくなったのもあって、ツリーハウスを成長させて中で休んでいた。
 すると夜中のこと。
 ツリーハウスの扉をノックする音で目が覚め、男の声が聞こえた。

「ニンジンをくれんのか?」

 ……え?

 再びノックする音が聞こえる。

「きゃべつとはなんだ?」

 ……え?
 どこのどなた?

「はくさい……うぅむ。寝てんのか」

 こんな夜中に、それにこんな山の中でいったい誰が。
 そぉっと扉に近づいて覗き窓から外を見てみる。
 ん?
 なんだろう。横に長い黒い線が見えたり、消えたりしているな。

 いや、待て……。
 線が遠ざかると、その正体が分かった。

「ヤギいぃぃぃぃっ」
「ンヴアアァァァッ」
「「ビックリした」」

 ――ん?
 今の声、まさか山羊!?
 いや、まさかな。きっと羊飼いならぬ、山羊飼いがどっかにいるんだ。

 そうに違いない。

 どこか不安を感じながらも、ゆっくり扉を開ける。
 山羊がいる。
 俺が知ってる山羊と同じだ。大きさもビックじゃなく、普通の山羊だ。
 なんか安心する。 

「おおぉっ、人間じゃねえかぁぁぁ!」
「山羊が喋ったあぁぁぁーっ!」
 
 俺の知っている山羊とちがぁーう!!
「キャベツでございます」
「おぉ! 見たこともねぇ葉っぱだ。では失礼して――」

 なんで俺は山羊に接待をしているんだろう。

 ツリーハウスの外には、一〇匹の山羊がいる。
 四匹は仔山羊だ。
 見た目もサイズも俺が知る山羊と同じだが、喋っている。
 正確には、喋っているのはこの黒い雄の山羊だけ。
 他の山羊は――眠そうにしている。仔山羊なんてもう寝てるし。
 山羊って夜行性じゃなかったよな?

 そんな中、月明かりの下でパリパリという音が響いた。

「んっ。これは美味い! シャキシャキとした噛み応え、ほんのりと甘みもあって、実にデリシャス」

 キャベツの食レポ?

「はくさいは?」
「あ、はい。今用意します」

 種を取り出して、さっそくスキルで成長させる。

「ん、んん? おめぇ、面白いスキルを持ってんな」
「あ、あぁ。成長促進といって、成長スピードを俺の意思でコントロール出来るスキルなんだ」
「ほぉ……ほぉ」

 な、なんだ?
 最初の「ほぉ」は感嘆するような発音だったが、二度目の「ほぉ」はなんか違う。
 心なしか笑っているようにも見える。

「は、白菜です」
「うむ、実食――んむ、んむんむ。緑の部分は柔らけぇな。白い部分も先ほどのキャベツと比べると肉厚で、歯ごたえがあるものの弾力もある。不思議だ」
「鍋に入れて食べると美味いんですよ」
「鍋か。うむ。しかし山羊は生の方がいい」
「まぁ、そうですよね……」

 山羊に鍋料理勧めたって食べる訳ないか。

「それで、オレ様になんの用だ?」
「え、あ……えっと」
「んん、どうしたのユタカ」
「おはようござ……え、なんですかその生き物!?」
「な、なに!?」

 ルーシェとシェリルが起きて来て、山羊を見て驚く。
 そうか、二人は見たことないのか。

「彼らは――」

 山羊だと説明しようとする前に、その山羊がずいっと身を乗り出して、

「オレ様は山羊だ」

 と自己紹介した。

「や、山羊? これが山羊なの?」
「あー、うん。ま、まぁ、俺が知ってる山羊と少し違うけど」
「では山羊ではないのですか?」
「いや、山羊……だと思う」
「どっちなのよ」
「ハッキリしてください」

 そう言われても……喋る山羊なんて想定外なんだよ!
 てっきりドリュー族が山羊語を理解しているのか、それか言葉は通じなくても意思疎通出来てるだけなのかと思ったんだ。

「ふっ。人の常識ってぇのは、時に役に立たねぇこともある」
「……山羊にそう言われてもな」
「まぁ細けぇことは気にするなってこった」

 気にするよ。特にその口調もな。
 なんで江戸っこ訛りなんだよ。





「なぁるほどねぇ。アースドラゴンか」
『ンン、ボクネムイィ』
「ごめんな、アス。もう寝ていいぞ」

 眠っているアスを起こして、山羊に見て貰った。
 ちなみに一緒に来ていたのは雌山羊五匹と仔山羊四匹で、ツリーハウスの前で寝ている。

「孵化して五年といったところだな。こっからずっと東の、砂漠の端にある山脈に雌のアースドラゴンがいたが……」

 アスが眠ってしまったのを確認してから、山羊は会話を続けた。

「こいつが人間と一緒にいるってぇことは、母親は」

 俺は首を左右に振って答えた。

「そうか。雌のドラゴンは卵を産んだ直後に、体力と魔力がごっそり削り取られるもんだ。それを狙って喰らおうって奴らは多い。卵にも栄養があるからな。そうか……あのお嬢さんが……」

 言い終えると山羊は、小さく溜息を吐いて眠っているアスを見た。
 口ぶりからすると、アスの母親のことを知っているようだな。

「かわいそうになぁ。ひとりぼっちになっちまったか」
「ひとりじゃありません、山羊さん。私たちがいますもの」
「お前さんがたが?」
「親を亡くしたばかりなのに、おていけないだろ?」

 本人も置いていかれるのを不安がっていたし。
 それを話すと、山羊は笑い出した。
 が、眠っていた雌の山羊が目を覚まして一喝すると、彼はしゅんとなって静かになった。
 尻に敷かれているんだな。

「おほん。それで、何が知りてぇんだ?」
「アスは――アースドラゴンは、何年ぐらいで体が大きくなるのか知りたいんだ。今俺たちが暮らしているのが――」

 集落の大きさ、そこに出入りするための渓谷の幅などを伝え、何年ぐらいでアスが出入り出来なくなるのか知りたい。
 そうなる前に他所へ移す必要があるから。

「渓谷が狭ぇな。それだと十年ぐらいで通れなくなるだろうよ」

 十年……思ったより長いような気もする。

「けどな、十年程度じゃひとりで生きていけねぇぜ。ドラゴンってのは長寿な分、成長も遅い。自分で自分の身を守れるようになんのに、最低でも五〇年は必要だろう」
「五〇!?」

 今の俺は十七歳で、五〇年後と言えば六〇代後半だ。
 それまで世話してやれるかなぁ。

「それこそお前ぇのスキルで一気に成長させてやりゃいいだろう」
「それをしてしまうと、寿命も短くなってしまうんだ。それに――」

 肉体を成長させても、精神年齢がそれに伴わなくなってしまう。
 成長過程の記憶もない。だって一瞬だからな。
 アスはもう、五年分の寿命を一瞬で失っている。
 山羊が孵化五年ぐらいと言ったのも間違いで、実際は半年ほどだとアス自信が教えてくれた。

 生かしてやりたいのに、これ以上寿命を奪いたくない。

 そう話すと、山羊はまた笑った。
 そして雌にまた怒られていた。

「おほん。まぁちゃんと考えてはいるようだな。ならデカくなる前に、安全且つ広い住処を探してやりゃあいい」
「安全な場所かぁ。こいつが空を飛べればいいんだけど」
「おいおい、アースドラゴンだぜ? 飛べるわきゃねえだろう。翼だってねぇんだからよ」
「いや、翼ならあったよ」
「あ?」

 眠っているアスの翼を、そぉっと持ち上げて見せた。

「ンボァア!?」

 驚いた山羊が大きな声を出す。
 そして雌に怒られるまでワンセットだった。

「人参は細長くしてくれ。ああぁ、そいつは細すぎだ。歯ごたえってのが大事なんだからよ」

 翌朝。
 目を覚ました雌山羊と仔山羊のために、雄山羊の指示で食事の準備をする。
 やれ細いだの太いだの、注文が多い。

「その白菜は緑の部分と白い部分を切り分けてくれ」
「面倒くさいなぁ」
「ひと様の女房の乳を寄越せってんだ、それぐれぇで文句言うんじゃねぇっ」

 おい、言い方ってもんがあるだろう。

 面倒な野菜のカットを終わらせて山羊たちに食べさせた後で、ついに乳しぼりへ。

「おいお前。オレ様の女房たちの乳に触らせてやるがなぁ、変な気を起こすんじゃねえぞ」
「起こさねーよ!」
「ならいいが……まぁお前ぇも若い雄だ。女房たちの色気にくらっとすることも――」
「ねえから!!」

 何を言っているんだ、この山羊は。
 どうやらこいつ、めちゃくちゃ奥さんズ大好きみたいだ。
 歯の浮くようなセリフを、朝から何度聞かされたことか。

「ところでさ……俺、乳しぼり初めてなんだけど?」

 とルーシェ、シェリルに助けを求めると、当然彼女らも未経験な訳で。

「そ、そもそもち……ち、搾りなんて、どうやるのか分からないし」
「ユタカさんはやったことはなくても、どういうものなのかご存じなのでしょう?」
「だからあんたがやっていてよ」

 ってことになる。まぁ仕方ない、やるか。
 隣で「もっと優しく!」「そこだ! そこを引き絞れ!」と、雄山羊がうるさい。
 最初は全然出なかった乳も、だんだんとコツがつかめてなんとか鍋半分ぐらいの乳が搾れた。
 
「よし。そのまんまじゃお前ぇら人間は、腹を下してしまうだろう」

 そう言って雄山羊が鼻先を鍋にくっつける。
 なんかキラキラしたような気がしたが……太陽の光を反射した、のか?

「あとは一度沸かせ。そうすりゃ飲めるだろうよ」
「お、おう。ありがとう」
「なぁに、どうってことはねぇ。それよか、たったそれぽっちの乳で足りるのか?」
「いや、実は足りない。出来れば集落の人たちにも飲ませてやりたいし」

 それからチーズも作りたい。

「そうか。だったら物は相談だがなぁ」
「ん?」

 山羊が――山羊たちが、にぃっと笑って俺を見つめた。





「乳が欲しくなるたびに山に登んのは大変だろう。オレらだってその都度呼び出されるのは面倒くせぇ」
「ってことで、山羊が集落《ここ》に引っ越すことになったんだ」

 集落に戻ってくると、初めて見る山羊にみんな驚いた。

 山羊からの相談ってのは、ある意味提案みたいなものだ。
 こちらからは安定した食事の提供。
 あちらからは乳の提供。
 その取引をしやすくするために、人間の集落に移り住むというものだった。

「そ、それは構わないが、家はどうするんだい? 十人もいると、かなり大きな家が必要だろう」

 もしかしてオーリさん、山羊を人と同じ種族みたいに考えてるとか?
 喋ってるし、勘違いはするだろうけど。

「おぉ、ツリーハウスか。ありゃ古の時代に絶滅した植物だと思っていたが、まだ残ってたんだな」
「え、そうなのか?」
「オレ様も見るのはせん――いや、なんでもねぇ。オレらにもあの家をくれるってのか?」
「……小屋でよくね?」
「イヤだぁあぁぁぁ。ツリーハウスガいいぃぃぃぃぃ」

 駄々っ子かよ!
 急に雄山羊が跳ねだすから、他の山羊たちも一緒になって跳ねるから大騒ぎだ。

「分かった。分かったから跳ねるなってっ」
「大所帯だからな、二軒頼む」

 山羊のために家を成長させることになるとは、思わなかった。

 山羊たちの家は、岩塩洞窟のある場所に植えることになった。
 塩は山羊にとっても大事なもの。
 それに、少し高い所の方が落ち着くらしい。
 あと崖の上り下りを子供たちに練習させるのにも、いい位置だからと。

「ここからなら、お前ぇらの呼ぶ声も聞こえるだろ。女房の乳が欲しけりゃ、呼んでくれ」
「分かった」
「間違っても女房の乳に触りたいだけで呼ぶんじゃねーぞ!」
「呼ばねーよ!!」

 だからなんで人間が山羊に……。

「奥様をとても愛していらっしゃるのですねぇ」
「面白い山羊おじさんね。あ、ところで名前はないの?」

 おっと。この流れはまさか――命名式!?

「名前か……まぁあるっちゃーあるが……そうだな、バフォおじさん――とでも呼んでくれ」

 ……ん?

「バフォおじさんね、分かったわ」
「ふふ、よろしくお願いしますバフォおじさん」
「おう、よろしくな。お嬢ちゃんたちになら、オレの女房の乳はいつでも絞らせてやってもいいぜ」

 バ……フォ…・・・?

「本当!? でもまずは練習しなきゃ」
「そうですね。ユタカさんも最初は絞れていませんでしたし」
「まぁコツがいるからなぁ。な、若けぇの」

 バフォ……バフォって……。

「おう、どうした?」

 まさかバフォメットのことか!?

 その日の夜、俺は確かめるためにバフォおじさんの家を訪ねた。
 いつでもスキルを使う心の準備をして。

「やっぱり来たか。オレの名前を言ったとき、お前ぇの顔色が変わったのが分かってたからな。知ってんだろ?」
「バフォメット、だろ。悪魔の」
「おう、そうとも」

 隠す気もないらしい。それどころか奴は、体を形を変えやがった。
 首から下の胴の部分は人のように、頭と下半身は山羊のまま。

 バフォメットだ……。

「まぁ座れ」

 そう言ってバフォメットが胡坐をかいてその場に座る。
 心のどこかで怯えながらも、俺も習って座った。

「オレぁ悪魔だ」
「そう、ですね」
「俺たちバフォメット族は、頭と下半身が山羊なんだぜ」
「う、うん」
「だからよぉ、山羊として生きる選択肢があってもいいんじゃねえかって仲間に説いたわけよ」

 ……え?

「みんなオレを笑いやがった。だからオレぁひとりで山羊になってみた訳よ」

 ……え?

「そしたらどうだ。日がな一日のんびり草食ってりゃいい訳だし、山羊ライフは最高だったんだよ」
「や、山羊ライフ……」
「それにだ。オレんとこの女房、ありゃいい女だぜ。お前ぇもそう思うだろ?」
「……それに関してはノーコメントで」
「んだと! オレの女だぞっ。魅力がねぇっていうのかよ!」

 とバフォメットが声を上げた所で、ツリーハウス内から「ンベェッ」と雌山羊から抗議の声が上がった。

「あわわわ。すまねぇ。いや、うん、そうだ。小僧と今大事な話し中でな。うん、うん。静かにするから、うん、お前ぇは寝てろ。ん」

 なんだ、これ。
 雌山羊の尻に敷かれてるバフォメット……それでいいのか大悪魔!?

 その後、デレデレとしたバフォメットに奥様方との馴れ初めを聞かされることになった。
 つまりこの悪魔は……山羊フェチだった訳だ。
「これが十階層のドロップアイテムか?」
「はい。こっちはホブゴブリンの角で、こっちは……まぁ見たまんまで、スケルトンの骨だそうです」
「冒険者には口止めをちゃんとしたのだろうな」
「も、もちろんだよ皇帝《しいざあ》くん。ギルドより三割増しの金額で買い取ってくれるからって、喜んでたよ」

 王都からほど近い迷宮都市に、彼ら異世界人の少年らは来ていた。
 というより、行かされたというべきか。

 実戦経験を積み、スキルの熟練度を上げるために迷宮都市へ連れてこられた彼らだが――
 クラスの中心人物である荒木皇帝、伊勢崎金剛《いせざききんぐ》、諸星輝星《もろぼしだいや》ら三名は、努力――というものを嫌う。
 自分たちは努力しなくても才能がある。だからする必要はない。
 たしかに彼ら三人は、文武両道タイプだ。
 努力しなくても人並みより少し優れた人間だ。

 そう。少し、だ。
 少しで補えない部分はどうするのか――金だ。
 金で解決すればいい。

 そして彼らは、異世界でも金で解決出来ることを知った。

「大臣。これが今日の戦利品だ」
「おぉ。お見事です、シーザー殿」
「こんなものが何の役に立つって言うんだい?」
「まぁ素材としては対して役には立ちません。みなさまが迷宮で鍛錬を行っているという証拠の品としてお持ちいただいているだけですので」

 ぶくぶくと肥ったこの大臣が、彼らの世話係となっている。
 大臣は少年らが迷宮に行っていると信じて疑わないが、実は彼らは迷宮には行っていない。
 いや、一度は大臣の部下たちと共に行った。

 迷宮の一階にはゴブリンやスライムといった、お馴染みの雑魚モンスターのみ。
 皇帝らは内心ビクビクしていたものの、あっさり勝利。

 なお、実際に戦ったのは非戦闘スキルを授かった五人だ。

「雑魚相手に僕たちが出る必要はないだろう。あちらの世界でも僕らは、鈴木たちより上位の存在だったのだからさ」

 鈴木というのが、生産スキルを授かったクラスメイトだ。
 皇帝の言葉を鵜呑みにした大臣の部下たちへ、彼らはさらにこう告げた。

「君らの同行は必要ない。心配してくれているのだろうが、僕らは大丈夫だから」
「それとも、俺たちを信用出来ないのか?」
「ボクらは異世界から召喚された勇者だよ? そんなハズ、ないよねぇ?」

 そう言われては反論できないし、何より自分たちもその方が楽なので助かる。
 そうして「ダンジョンモンスターの素材を、討伐証拠としていくつか持ち帰って見せる」という約束を交わし、大臣の部下たちは迷宮への同行を止めた。

 で、皇帝らは人柄の悪そうな(・・・・)冒険者に声を掛け、モンスターの素材を取って来るように依頼。
 もちろん、冒険者ギルドを介さぬ非公式な依頼だ。

 お金は毎週、彼らを召喚したゲルドシュタル王国から貰っている。
 結構な額だ。
 本来なら迷宮で使用する消耗費や武具の修繕にと用意した金銭なのだが――行ってないのだから使うこともない。

 更に非戦闘スキルを授かったクラスメイトらに働かせ、そのお金も使っている。
 モンスター素材を買い取る程度、造作もない金額が三人の手元にはあった。

 三人以外の戦闘スキル持ちはというと、好んで迷宮に入るものもいる。
 せっかく来た異世界なのだから、冒険してみたい――という軽いノリで。
 そんな訳だから、地下一階で安全にゴブリンやスライムを倒して満足する。
 しかも支給されたお金は全て皇帝らに握られているため、消耗品ゼロで迷宮に潜らなければならない。
 危険を冒してまで地下に潜ろうとは、誰も思わなかったようだ。

 それでも数人が迷宮に潜っているおかげで、大臣らは異世界人が真面目に鍛錬している――と思い込んでいた。

「なぁ、たまには俺らもダンジョンに入ってみないか?」
「金剛、いったいどうしたんだ?」
「こうさ、スキルを使って無双するのも楽しそうだなと思ってよ」
「結果が分かり切っているのに、わざわざやる必要があるのか? 僕らが圧勝するに決まっているだろう」
「ダンジョンのモンスターを死滅させたら、冒険者がかわいそうじゃないか」
「はははは。輝星の言う通りだ。でもまぁ、金剛が行きたいというなら一度くらい付き合ってやってもいいよ」

 迷宮都市に来て一カ月。
 ついに三人は迷宮へと潜った。
 もちろん、手下である他のクラスメイトを連れて。

 地下第一階層――
 ゴブリンが現れた。

「ゴブリンだ。いつ見ても醜いな」

 皇帝がゴブリンを見たのは、この町に来た初日だけ。
 大臣の部下が同行していた一日だけだ。

「小林。あいつは君に譲ろう。戦闘スキルを授かったとはいえ、凡人の君には訓練が必要だろう?」

 ということで、他の戦闘スキル持ちのクラスメイトに押し付ける。

 先へ進むと、次にスライムが現れた。
 掌サイズの小さな奴だ。

「よし、俺に任せろ。さぁモンスターめ、かかってこい! 俺様の完璧な防御を崩せるか!」

 金剛のスキルは剛腕鉄壁。
 鉄のように肉体を硬くし、どんな攻撃からも身を護る。
 と同時に一定時間怪力となって、硬い拳から繰り出されるパンチは大岩をも砕く――とスキル鑑定にはあった。

 だが金剛が今相手にしているのは、一匹のスライムである。
 しかも手のりスライムだ。

 びょんっと跳ねたスライムが、金剛の腹に当たって弾むように跳ね返る。
 スキルによるものなのか、それとも……この世界に来てから食っちゃ寝生活をしていたことで太ったからなのか。

 それは神にも分からない。

「はっはっは。痛くなーい、痛くない」
「じゃあボクが止めを――」
「おいおいおいおい、止めろ輝星! お前のスキルは隕石を召喚する奴だろっ」
「ははは。僕たちまで巻き添えを喰らうな」
「あぁ、そうだった。悪かったよ」

 それ以前に地下では隕石召喚――メテオストライクは使えない。
 誰か教えてやれよと誰もが思っているのだが、誰も言わない。

 こうして一時間ほど地下一階層を探索し、皇帝が一匹、金剛と輝星がゼロという成果で迷宮を出た。

「地下一階が温いな。せめて地下百階まで一気に下りることが出来れば、僕らの活躍の場もあるのだろうけれど」
「地下百階まであるのか、ここ?」
「さぁ?」

 そうして迷宮から戻って来た彼らを見て、大臣は笑みを浮かべる。
 熱心に修行をしているな――と勘違いして。

 大臣は喜んでいた。
 王女の愚痴を聞かされることもなく、ただこの迷宮都市でぐーたらしているだけでお給金が貰えるのだから。
 異世界人をただ見ているだけでいい。
 こんな楽な仕事はない!

 だが彼は知らない。
 異世界人らがほとんど鍛錬などしていないことを。
 毎日持って来るモンスター素材は、冒険者から買い取っていたものだということも。


 そして王都では――

「穀物庫が全焼したですって!?」
「も、申し訳ございません。こ、今年は雨量も少なく、乾燥しておりましたので一気に燃え広がりまして」

 国内各地から送られて来た小麦を収めた倉庫が――燃えた。
 王都で暮らす国民の食卓を支える大事な小麦だ。
 もちろん、王城で暮らす貴族や王族にとっても大事な小麦だ。

 それが全焼した。

「すぐに各地から追加の小麦を送らせなさいっ」
「し、しかし――今年は想定外の災害続きで収穫量が……」
「言い訳は聞きたくないわっ。民へ分配する量を減らしてでも、こちらを優先させるのよっ」
「しょ、承知いたしました。マリアンヌ王女」

 誰も口にはしないが、誰もが思っているかもしれない。
 あの時の、農業チートスキルを授かった異世界人をぽい捨てしなければよかったのに――と。

「こいつはダメだ。それとこれ、これもだ」
「へぇ、山羊ってジャガイモやトマト、あとナスもダメなのか」
「腹ぁ下すからな」

 バフォおじさんのことは、他の人には内緒にしてある。
 彼自身は、言葉を話せることに対して――

「昔知り合ったドラゴンがな、知識と言語をくれたのさ」

 とか説明して、みんなはそれを信じた。
 それでいいのか……。

 しかしバフォおじさん。さすがにいろいろと物知りで助かる。
 この砂漠地帯に来たのは三〇〇年も昔のこと。
 それより以前は別の土地で山羊ライフを送っていたらしい。
 なんで砂漠に来たのか――

「戦争さ。人間てぇのは、なんで戦争好きかねぇ」
「じゃあ、前に住んでた土地で戦争が?」
「おぅ。山羊ライフを初めて千年ぐらいだがなぁ、その間に、えぇっと、ひぃ、ふぅ、みぃ……あぁ、山羊の足だと指折り数えんのが出来ねぇのがなぁ」

 まぁ……そうだろうな。

「お、そうそう。五回だ。五回オレぁ引っ越してんだ。引っ越しの理由は全部、人間どもの戦争でうるさくなったからだぜ」

 千年で五回。ここへは三〇〇年前に来たっていうし、七〇〇年で五回みたいなもんだよな。
 結構頻繁にやってんだなぁ。

「千年前、初めて異世界から人間が召喚されて、魔王がぶっ飛ばされてから平和になるのかと思いきや」
「え!? 千年前にもっ」

 そこでバフォおじさんはニタリと笑った。

 しまった。
 ついうっかり「も」なんてつけてしまった。

「魔王がいなくなると、今度は人間同士が喧嘩をし始めるようになってな」
「そ、それって戦争?」
「おぅよ。たまーに異世界人が召喚されて、戦争に駆り出されたりもしたみてぇだぜ」

 まさか俺たちを戦争の道具にするために、召喚したってことなのか?

「まぁ運よく、戦争にゃ役立ちそうにねぇスキルを授かって、捨てられた奴もいるみてぇだなぁ」

 バフォおじさん、気づいてんのじゃねえのか?
 俺見てニヤニヤしてんじゃん。

「ま、オレには関係ねえけどな。美味い飯が食えて、家族を養えりゃそれでいい」
「な、なぁ。バフォおじさんの子供たちって……」
「心配すんな。ただの山羊だ。いたすこといたす際には、山羊としていたしてるからな」

 いたすことって……えっちだ。

「ちょっとそっち。手伝いなさいよっ」

 バフォおじさんの家族に食べさせてもいい野菜とダメな野菜を選別しながら、無駄話もしていると――怒られた。
 水も潤ったことだし、周辺の緑化計画を進めているところだったんだ。

 地底湖の上にあった滝の周辺には草が生えていた。
 水を引いてきたわけだし、この辺りでも草が育つだろうと思ってまずは土を掘り返して柔らかくする作業だ。
 トラクターでもあればなぁ。

 いや、ここにはドリュー族がいる。
 彼らが爪で土を掘り返した所に、俺たち人間が水を撒く。
 瓢箪の上の方に小さな穴をいくつか開け、それをジョーロ代わりに使って。
 何度も何度も繰り返して、それからバフォおじさんお勧めの雑草の種を植えた。

「こいつぁ少ない水分でもよく育つ。一年草だ。枯れりゃそいつを土に混ぜてやりゃ、肥料にもなるだろう」
「助かるよおじさん」
「なぁに、いいってことよ。さて、オレぁガキどもの教育しに行くか」
「教育?」
「あぁ。新居の周辺のな、危ねぇとこと、遊んでいいとこを教え込まなきゃならねぇんだ。特に砂漠の方はあぶねぇし、逃げ場もねぇ。あっちにゃ行かねぇよう、教えなきゃならねぇんだよ」

 意外と教育熱心な悪魔だな。

「お前ぇもそのうち、子育ての苦労ってもんを知るさ」
「え?」
「女房が二人いるだろう。だったら子供もすぐだ、すぐ」
「にょ、女房!?」

 まさかルーシェとシェリルのことか!?

「おう、一夫多妻制の先輩からアドバイスしてやらぁ」
「いらねぇよっ」
「まぁまぁ、そう言わずに聞けよ。女房とは分け隔てなくいたせ」
「なにをだよっ」

 なんて話をしているんだ。

「お、噂をすれば」
「ん? なんの噂よ」
「何かありました?」
「な、なんでもない。なんでも。さ、バフォおじさんは教育の時間だろ。行ったいった」
「む。オレを邪魔者扱いか? おぉ、そうかそうか。任せろ。オレぁ空気を読む男だからな」

 余計は空気なんだよな、それ。
 バフォおじさんがスキップしながら去ったあと、二人が首を傾げてこっちを見てる。

「何の話をしてたのよ」
「空気って、何の空気なのでしょうか?」
「いや、あの……お、男同士の会話なんで」
『ワケヘダテナクイタセッテオジサン言ッテタヨ」』
「わぁぁぁーっ!? ア、アスっ」

 いたのかアス!?
 いつから聞いてた?

「いたす?」
「何をいたすのでしょう?」
『ニョー「アス、あっちでレタスを成長させてやるぞぉ」ワーイ』

 この日の夜。
 バフォおじさんの話と、それから砂漠で野宿した時の両手に花を思い出してしまって……。

 眠れなかった。