「これ」
アースドラゴンの子に差し出したのは、穴の底にいたこいつの母親だろう亡骸から取って来た鱗だ。
人間でいうこめかみの部分に、そこだけ腐敗せず綺麗な状態で残っていた物があった。
不思議と、これをアースドラゴンの子の下に持って行かなきゃと思って……それで……。
『オカアサンダ』
「あぁ。お前のお母さんの鱗だ。綺麗だな」
『ウン……ウン……』
この子はこれからどうするんだろう。母に比べたら、かなり小さな体だ。
ひとりで生きていけるのか?
心配になっていると、受け取った鱗を子供は自分の額にくっつけようとしていた。
まぁ手が届いていないんだけどな。
「そこにくっつけるのか?」
『ツケタイ』
「貸してみろ、つけてやるから」
つくのかなと疑問に思いながらも、手にした鱗を子供の額に置いた。
すると鱗が、吸いつくように子供の額にくっつく。
「お、ついた。これでいいか?」
『ウンッ。アリガトウ、ニンゲン』
「いいさ。な、向こうまで乗せてくれるか?」
『ウン。ノッテ』
少しだけ声に元気が出てきたようだ。
向こう岸に向かう途中、子供がごめんと謝る。
『アト五年マッテ。ソシタラ鱗ガチャントハエルカラ、ココノオ水ヌイテモイイヨ』
「あと五年?」
『ウン。オカアサンノ鱗モラッタカラ、ハエテクルノハヤクナルトオモウ』
あの鱗がなかったら、もっとかかってたのか。
けどあと五年……俺たちがそれまで木からの水だけで生き延びれるか……。
ドリュー族も増えたし、これからも増えるだろう。
地中の水分も減って来てるだろうし、五年は待てないかもしれない。
だけど五年だ。それぐらいならお安い御用ってもんだ。
「じゃ、俺が君を五年――いや、鱗が揃うまで成長させてやるよ」
『セイチョー?』
対岸まで戻ってくると、ルーシェとシェリルの二人が駆け寄って来る。
「ユタカさん、おかえりなさい」
ルーシェは目に涙を浮かべて抱き着いて来た。
彼女の肩越しに見えたシェリルも、少し潤んでいるようだ。
「そんなに心配だったのか?」
「あたりまえです! アースドラゴンはまだしも、その子がおじさんと呼ぶモンスターと遭遇でもしようものなら……」
「いや、まぁ……死んでたよ。そのおじさんってのも」
腐敗もあったし、なんのモンスターか分からないけど。
「お母さんの方は?」
シェリルは出来るだけ声を潜めて尋ねてくる。
それに俺は首を左右に振って答えた。
「それでだ。こいつの鱗が生えるまで、スキルで成長させようと思う。鱗が生えれば水から出られるようだしさ」
『鱗ガアレバ皮膚ガカンソウシナイカラダイジョウブ。デモセイチョーッテドウヤルノ?』
「こうやるのさ」
実際にどうやるのか、種をひとつ成長させて見せた。
『ワッ。一瞬デオオキクナッタ!』
「命があるものなら、植物でも生き物でも、成長速度を自在に操れるんだ。だからお前の鱗が生えるまで、一瞬で成長させられるぞ」
『スゴイネニンゲン! ソシタラボク、オ水カラデラレル!』
こちらとしてもその方が有難い。
「自然な成長じゃなく、俺が無理やりスキルで大きくするんだけど……俺たちも生きていくために水が必要でさ」
『ウン。ゴメンネ。スコシマエノ嵐デ、ココニオ水ガタマルヨウニナッタカラ、オカアサンココデボクヲ産ンダンダ』
じゃあ集落へ続く流れを止めたのは、アースドラゴンの親子じゃないのか。
たまたまいい場所が出来たから、ここで産卵したんだな。
本人の承諾も得られたし、鱗が生えるまでと指定してスキルを使う。
「"成長促進"」
負担になるのかどうかも分からないけど、一瞬といいつつ少し緩やかになるよう成長させた。
額にある母親の鱗から広がっていくように、こいつ自身の鱗が生えてくる。
鱗以外にも変化があった。
まず体が大きくなった。
鼻先から尻尾の先まで二メートルを超えただろうな。
それにウーパールーパーだった外見も、丸みを帯びたフォルムのトカゲっぽくなっている。
少しはアースドラゴンっぽくなったか?
『ウワァ、本当ニ鱗ガハエタ! スゴーイ』
自分の体を触って鱗の感触を確かめたりしている。
「どうだ? 体が痛いとか、ないか?」
『ウンッ、大丈夫ダヨ』
子供が水から上がって、今度は外に出たいという。鱗をしっかり乾かすんだとか。
「わしらが掘った穴だと、この子は通れないモグなぁ」
『ア、大丈夫。ボク自分デヤレルヨ』
そう言うとアースドラゴンの子供は、ドリュー族が掘った穴の方へ歩いて行った。
穴の前で立ち止まり、ドスドスと足を踏み鳴らす。
すると穴が一回り大きくなって、彼も通れる大きさに。
「い、今のどうやったんだ?」
『魔法。土ノ精霊魔法ダヨ。ボク、アースドラゴンダカラネ』
と、彼は鼻を鳴らして得意げに言った。
はは。こんな小さくても、さすがドラゴン……か。
アースドラゴンの子に差し出したのは、穴の底にいたこいつの母親だろう亡骸から取って来た鱗だ。
人間でいうこめかみの部分に、そこだけ腐敗せず綺麗な状態で残っていた物があった。
不思議と、これをアースドラゴンの子の下に持って行かなきゃと思って……それで……。
『オカアサンダ』
「あぁ。お前のお母さんの鱗だ。綺麗だな」
『ウン……ウン……』
この子はこれからどうするんだろう。母に比べたら、かなり小さな体だ。
ひとりで生きていけるのか?
心配になっていると、受け取った鱗を子供は自分の額にくっつけようとしていた。
まぁ手が届いていないんだけどな。
「そこにくっつけるのか?」
『ツケタイ』
「貸してみろ、つけてやるから」
つくのかなと疑問に思いながらも、手にした鱗を子供の額に置いた。
すると鱗が、吸いつくように子供の額にくっつく。
「お、ついた。これでいいか?」
『ウンッ。アリガトウ、ニンゲン』
「いいさ。な、向こうまで乗せてくれるか?」
『ウン。ノッテ』
少しだけ声に元気が出てきたようだ。
向こう岸に向かう途中、子供がごめんと謝る。
『アト五年マッテ。ソシタラ鱗ガチャントハエルカラ、ココノオ水ヌイテモイイヨ』
「あと五年?」
『ウン。オカアサンノ鱗モラッタカラ、ハエテクルノハヤクナルトオモウ』
あの鱗がなかったら、もっとかかってたのか。
けどあと五年……俺たちがそれまで木からの水だけで生き延びれるか……。
ドリュー族も増えたし、これからも増えるだろう。
地中の水分も減って来てるだろうし、五年は待てないかもしれない。
だけど五年だ。それぐらいならお安い御用ってもんだ。
「じゃ、俺が君を五年――いや、鱗が揃うまで成長させてやるよ」
『セイチョー?』
対岸まで戻ってくると、ルーシェとシェリルの二人が駆け寄って来る。
「ユタカさん、おかえりなさい」
ルーシェは目に涙を浮かべて抱き着いて来た。
彼女の肩越しに見えたシェリルも、少し潤んでいるようだ。
「そんなに心配だったのか?」
「あたりまえです! アースドラゴンはまだしも、その子がおじさんと呼ぶモンスターと遭遇でもしようものなら……」
「いや、まぁ……死んでたよ。そのおじさんってのも」
腐敗もあったし、なんのモンスターか分からないけど。
「お母さんの方は?」
シェリルは出来るだけ声を潜めて尋ねてくる。
それに俺は首を左右に振って答えた。
「それでだ。こいつの鱗が生えるまで、スキルで成長させようと思う。鱗が生えれば水から出られるようだしさ」
『鱗ガアレバ皮膚ガカンソウシナイカラダイジョウブ。デモセイチョーッテドウヤルノ?』
「こうやるのさ」
実際にどうやるのか、種をひとつ成長させて見せた。
『ワッ。一瞬デオオキクナッタ!』
「命があるものなら、植物でも生き物でも、成長速度を自在に操れるんだ。だからお前の鱗が生えるまで、一瞬で成長させられるぞ」
『スゴイネニンゲン! ソシタラボク、オ水カラデラレル!』
こちらとしてもその方が有難い。
「自然な成長じゃなく、俺が無理やりスキルで大きくするんだけど……俺たちも生きていくために水が必要でさ」
『ウン。ゴメンネ。スコシマエノ嵐デ、ココニオ水ガタマルヨウニナッタカラ、オカアサンココデボクヲ産ンダンダ』
じゃあ集落へ続く流れを止めたのは、アースドラゴンの親子じゃないのか。
たまたまいい場所が出来たから、ここで産卵したんだな。
本人の承諾も得られたし、鱗が生えるまでと指定してスキルを使う。
「"成長促進"」
負担になるのかどうかも分からないけど、一瞬といいつつ少し緩やかになるよう成長させた。
額にある母親の鱗から広がっていくように、こいつ自身の鱗が生えてくる。
鱗以外にも変化があった。
まず体が大きくなった。
鼻先から尻尾の先まで二メートルを超えただろうな。
それにウーパールーパーだった外見も、丸みを帯びたフォルムのトカゲっぽくなっている。
少しはアースドラゴンっぽくなったか?
『ウワァ、本当ニ鱗ガハエタ! スゴーイ』
自分の体を触って鱗の感触を確かめたりしている。
「どうだ? 体が痛いとか、ないか?」
『ウンッ、大丈夫ダヨ』
子供が水から上がって、今度は外に出たいという。鱗をしっかり乾かすんだとか。
「わしらが掘った穴だと、この子は通れないモグなぁ」
『ア、大丈夫。ボク自分デヤレルヨ』
そう言うとアースドラゴンの子供は、ドリュー族が掘った穴の方へ歩いて行った。
穴の前で立ち止まり、ドスドスと足を踏み鳴らす。
すると穴が一回り大きくなって、彼も通れる大きさに。
「い、今のどうやったんだ?」
『魔法。土ノ精霊魔法ダヨ。ボク、アースドラゴンダカラネ』
と、彼は鼻を鳴らして得意げに言った。
はは。こんな小さくても、さすがドラゴン……か。