「えっと、そちらの方とそちらと……あ、あそこの方もいい感じですね」
砂漠の村に来ている。
お互いの村同士で簡単に連絡を取る方法がないかいろいろ考えていると、マリウスが「言葉のやりとりはできませんが――」と言って、ある案を出してくれた。
それが『通信魔法』だ。
通信といっても声を届けられるわけじゃない。
水晶が二つセットになっていて、それぞれに同じ魔法をかける。
水晶に魔力を流すと、もう片方が光るってものだ。
それで今、砂漠の村の方で水晶を使えそうな人をマリウスに厳選してもらっているところだ。
砂漠の村の人口は一五〇人ほど。
ある程度の魔力がないといけないってことで、選ばれたのは三十人ほどだ。
厳選ってわりに多いな。
「けっこういるもんだな」
「えぇ。僕も驚きました。ですが砂漠の民は身体能力や魔力に秀でた方が多いのかもしれません。あちらの集落――あ、いや今は村ですね、そちらでもほとんどの方が、平均的な魔力より高いんです」
「え、そうなのか?」
「はい。平均っていうのは、内陸での一般的なものです。平均と同じかやや低いのって、子供たちのことなんですよ」
大人は軒並み、平均以上らしい。
それはここの村でもそう。
通信魔法は、元の魔法をかける者がいれば、光らせるだけなら平均より少し高い程度でいいらしい。
となると大人は全員該当する――とマリウスはいう。
「じゃ、なんで三十人選んだんだ?」
「この三十人が特に、魔力が高い方なんです。水晶をただ光らせるだけですが、魔力を流す練習にはなりますので」
「練習……魔法を覚えさせようってこと?」
「はい。砂漠のモンスターと戦うのに、魔法が使えると便利でしょ? もちろん、使い方次第では日常にも役立ちます。その逆に危険なこともあるので、しっかり教える必要がありますが」
便利だからこそ、危険もある。
魔法は万能なものじゃない――とマリウスは話す。
それからマリウスの「水晶の光らせ方講座」が開かれ、その間に俺はハクトと近況報告をした。
「すもー? なんだかおもしろそうだな」
「やってみる? 土俵はベヒモス、くんに頼んで作ってもらうよ?」
「ベヒモスくんが作ってくれたのか」
『えっへん。褒めて撫でてくれてもいいんだよ?』
「うわっ、でた!」
なんでご機嫌なんだよ。
『ハクトはいいね。ユタカみたいに「ベヒモス、くん」って切ったりしないから。いい子だからボク少しサアービスしちゃうよ』
「サービス、ですか?」
ベヒモスくんって繋げただけで、そんなに機嫌よくなるのかよ。
ハクトに撫でられてから、ベヒモスはとことこと歩いてどこかに行ってしまった。
ただしばらくして地鳴りがしたから、何かやったのだろうってのはわかった。
何をしたんだ、あいつ?
「そうだユタカ。そっちの村の周辺はどうだ?」
「ん? どうとは?」
「獲物だ。最近、この辺りでモンスターを見なくなったんだ。以前より遠くまで狩りにいかなきゃ、獲物が獲れなくなってきている」
「うぅん、実感はないなぁ。俺ら、砂船であちこちいってるから」
「そうか。この辺りだけなんだろうか」
もしそうだとしても、獲物が減ったとうのは大問題だな。
人数が増えてるんだし、今まで以上に肉も必要になっているんだ。
マリウス先生の講義が終わって渓谷の村に帰る途中、フレイの掌の上から地上を観察した。
今日は二人だけだから砂船を使わず、直接乗せてもらっている。
「マリウス、ハクトがさ、最近獲物が減ったって言ってたんだ。地上をよく見ててくれないか」
「了解しました。モンスターが減っている、ですか……。まぁ心当たりがない訳じゃないですよ」
「え? 何か知っているのか?」
マリウスは頷き、雨が降るようになったから――と答えた。
「雨が原因? なんでだよ」
『砂漠には、サラサラとした砂地でしか生息できぬ小物が多い』
「フレイ。じゃ、雨が降るようになって、砂がサラサラ状態じゃなくなったからってこと? 死んだのか?」
『移動したのだろう。ここより北は比較的降っておらぬようだからな』
「小型モンスターが移動すれば、それを捕食している中型、大型も後を追います。以前までの生態系が崩れてしまうんですよ」
そんな……。雨が降れば大地が豊かになると思ったのに。
水害だけじゃなく、こんな弊害まで発生するとは。
『だがな人間よ。遥か昔、ここは緑にあふれた大地だったのだ。我が生まれし時代には三割ほどが砂漠にはなっておったが、それでも今よりずっと、緑が多かった』
「フレイが生まれた頃……って、フレイはいったい何年生きているんだ?」
『我か? 千年にはわずかに届かないぐらいだったか』
じゃ、九百年以上は生きてるってことじゃん。
やっぱめちゃくちゃ長生き!
『ちなみにあのヤギめは我より遥かに長い時を生きておるぞ』
「ぶふぉっ。バ、バフォおじさんが渓谷で最年長なのか!?」
バフォおじさんじゃなくって、おじーさんって呼ぶべき?
「あの、それでフレイ様。フレイ様の記憶のもっとも古いものだと、人間はどのようにして食料を確保していたのでしょう?」
『うむ。よい質問だ魔術師よ。人間どもは家畜を飼っておったぞ。あのチキンどものようにな』
「モンスターを家畜にかぁ。でも砂漠のモンスターだと、サラサラな砂が必要なんだろ?」
砂から土に変えようと努力してるところなのに、なかなかそれは難しいな。
『何を言っておる。普通の家畜だ、普通の』
「普通……?」
普通ってなんだっけ?
「あっ。だったら僕の親戚との最初の取引では、家畜と交換ってのはどうでしょう?」
「ん?」
「ですから、豚や牛ですよ!」
豚……オークとか?
牛っていうとミノタウロスか?
砂漠の村に来ている。
お互いの村同士で簡単に連絡を取る方法がないかいろいろ考えていると、マリウスが「言葉のやりとりはできませんが――」と言って、ある案を出してくれた。
それが『通信魔法』だ。
通信といっても声を届けられるわけじゃない。
水晶が二つセットになっていて、それぞれに同じ魔法をかける。
水晶に魔力を流すと、もう片方が光るってものだ。
それで今、砂漠の村の方で水晶を使えそうな人をマリウスに厳選してもらっているところだ。
砂漠の村の人口は一五〇人ほど。
ある程度の魔力がないといけないってことで、選ばれたのは三十人ほどだ。
厳選ってわりに多いな。
「けっこういるもんだな」
「えぇ。僕も驚きました。ですが砂漠の民は身体能力や魔力に秀でた方が多いのかもしれません。あちらの集落――あ、いや今は村ですね、そちらでもほとんどの方が、平均的な魔力より高いんです」
「え、そうなのか?」
「はい。平均っていうのは、内陸での一般的なものです。平均と同じかやや低いのって、子供たちのことなんですよ」
大人は軒並み、平均以上らしい。
それはここの村でもそう。
通信魔法は、元の魔法をかける者がいれば、光らせるだけなら平均より少し高い程度でいいらしい。
となると大人は全員該当する――とマリウスはいう。
「じゃ、なんで三十人選んだんだ?」
「この三十人が特に、魔力が高い方なんです。水晶をただ光らせるだけですが、魔力を流す練習にはなりますので」
「練習……魔法を覚えさせようってこと?」
「はい。砂漠のモンスターと戦うのに、魔法が使えると便利でしょ? もちろん、使い方次第では日常にも役立ちます。その逆に危険なこともあるので、しっかり教える必要がありますが」
便利だからこそ、危険もある。
魔法は万能なものじゃない――とマリウスは話す。
それからマリウスの「水晶の光らせ方講座」が開かれ、その間に俺はハクトと近況報告をした。
「すもー? なんだかおもしろそうだな」
「やってみる? 土俵はベヒモス、くんに頼んで作ってもらうよ?」
「ベヒモスくんが作ってくれたのか」
『えっへん。褒めて撫でてくれてもいいんだよ?』
「うわっ、でた!」
なんでご機嫌なんだよ。
『ハクトはいいね。ユタカみたいに「ベヒモス、くん」って切ったりしないから。いい子だからボク少しサアービスしちゃうよ』
「サービス、ですか?」
ベヒモスくんって繋げただけで、そんなに機嫌よくなるのかよ。
ハクトに撫でられてから、ベヒモスはとことこと歩いてどこかに行ってしまった。
ただしばらくして地鳴りがしたから、何かやったのだろうってのはわかった。
何をしたんだ、あいつ?
「そうだユタカ。そっちの村の周辺はどうだ?」
「ん? どうとは?」
「獲物だ。最近、この辺りでモンスターを見なくなったんだ。以前より遠くまで狩りにいかなきゃ、獲物が獲れなくなってきている」
「うぅん、実感はないなぁ。俺ら、砂船であちこちいってるから」
「そうか。この辺りだけなんだろうか」
もしそうだとしても、獲物が減ったとうのは大問題だな。
人数が増えてるんだし、今まで以上に肉も必要になっているんだ。
マリウス先生の講義が終わって渓谷の村に帰る途中、フレイの掌の上から地上を観察した。
今日は二人だけだから砂船を使わず、直接乗せてもらっている。
「マリウス、ハクトがさ、最近獲物が減ったって言ってたんだ。地上をよく見ててくれないか」
「了解しました。モンスターが減っている、ですか……。まぁ心当たりがない訳じゃないですよ」
「え? 何か知っているのか?」
マリウスは頷き、雨が降るようになったから――と答えた。
「雨が原因? なんでだよ」
『砂漠には、サラサラとした砂地でしか生息できぬ小物が多い』
「フレイ。じゃ、雨が降るようになって、砂がサラサラ状態じゃなくなったからってこと? 死んだのか?」
『移動したのだろう。ここより北は比較的降っておらぬようだからな』
「小型モンスターが移動すれば、それを捕食している中型、大型も後を追います。以前までの生態系が崩れてしまうんですよ」
そんな……。雨が降れば大地が豊かになると思ったのに。
水害だけじゃなく、こんな弊害まで発生するとは。
『だがな人間よ。遥か昔、ここは緑にあふれた大地だったのだ。我が生まれし時代には三割ほどが砂漠にはなっておったが、それでも今よりずっと、緑が多かった』
「フレイが生まれた頃……って、フレイはいったい何年生きているんだ?」
『我か? 千年にはわずかに届かないぐらいだったか』
じゃ、九百年以上は生きてるってことじゃん。
やっぱめちゃくちゃ長生き!
『ちなみにあのヤギめは我より遥かに長い時を生きておるぞ』
「ぶふぉっ。バ、バフォおじさんが渓谷で最年長なのか!?」
バフォおじさんじゃなくって、おじーさんって呼ぶべき?
「あの、それでフレイ様。フレイ様の記憶のもっとも古いものだと、人間はどのようにして食料を確保していたのでしょう?」
『うむ。よい質問だ魔術師よ。人間どもは家畜を飼っておったぞ。あのチキンどものようにな』
「モンスターを家畜にかぁ。でも砂漠のモンスターだと、サラサラな砂が必要なんだろ?」
砂から土に変えようと努力してるところなのに、なかなかそれは難しいな。
『何を言っておる。普通の家畜だ、普通の』
「普通……?」
普通ってなんだっけ?
「あっ。だったら僕の親戚との最初の取引では、家畜と交換ってのはどうでしょう?」
「ん?」
「ですから、豚や牛ですよ!」
豚……オークとか?
牛っていうとミノタウロスか?