【書籍化】ポイ捨てされた異世界人のゆるり辺境ぐらし~【成長促進】が万能だったので、追放先でも快適です~

「じゃ、七日後に迎えに来るよ」
「モグ。それまでに荷造りも終わってるモグから、よろしく頼むモグな」

 ドリュー族の里でトレバーが話をすると、七家族が移住を申し出た。
 この里でも水不足は解消されつつある。でも食料の方はまったく解決していない。

 そこで小麦の木や、ここにはない野菜、調味料を成長させた。
 真新しい食材を使った料理を、ミファさんが里の奥様方に伝授する。
 さすがに一日じゃ無理だから、それもあって一週間後に迎えにくるってことにして俺とルーシェは渓谷の村に戻った。
 トレバーとトミーも里に残る。

「渓谷に戻ったら、新しいドリュー族の家をどこに作ってもらうか決めないとね」
「あぁ。オースティンたちに決めてもらおう」

 渓谷の村に帰って来ると、さっそくドリュー族のオースティンたち大人を呼んで、里から七家族引っ越してくると伝えた。

「住居はどこにする?」
「そうモグな。あっちに二軒、向こうに十軒ぐらいの住居は掘れるモグ」

 二軒の方が渓谷の奥側の方。十軒は砂漠に近い崖の方だ。
 つまり横一列でずらーっと住居を作れるってことになる。
 子供たちが成長して独立したら、ちょっと足りないかもな。
 その時には、

「なぁに、その時には渓谷の奥に通路となる道を掘って、そこに住居を構えるモグ」
「もしくは畑の方モグな」
「モククモクク」

 なら、将来の方も大丈夫だな。

 将来と言えば――

「ね、ねぇユタカ」
「ん?」
「あ、あのね……ドリュー族の子供たちは解決したけど、その……こ、子供……私たちのっ」
「お、俺たちの!?」
「あ! ち、違うの。私とユタカのっていう意味じゃないのよ。エディやオリエ、トロンとか、ここの子供たちのことよ! うん、そう」
「あ、そ、そうか。今いる子供たちのことか」

 び、びっくりした。
 子供が欲しいとか言うのかと思った。

 エディたちのことだよな。うん。
 確かに、いつかあの子たちも大人になって、結婚して、そしたら今の親元を離れて新しい家族と新しい家に住むことになるだろう。

 うぅん……どこに家を建てるかだなぁ。
 まだ多少余裕はあるものの、孫世代まで考えるときつそうだ。

「二、三十年先になれば、外の砂漠地帯の土が固まってるといいんだけどなぁ」
「渓谷の外に村を移すの?」
「いや、移さなくてもいいけど、外にも広げられたらなぁって」
「そうね。水にも食料にも困らなくなれば、人口だって増えるかもしれないもの」

 うん。これまでは増やさない、絶やさないって意味で、子供は二人までってしてきたようだ。
 でも暗黙のルールはもう必要ない。

 しかし水や食料事情だけでなく、土地事情も考慮しなきゃいけなかったとは、今になってようやくわかったよ。

「ンベェー」
「ん? ってなんだよバフォおじさん」
「よぉ、ドリュー族の方はどうだった?」
「あぁ、七家族が引っ越してくることになったよ」
「んあ? どこにいんだ、その家族ってのは」

 荷造りと、ミファさんが料理レシプを伝授する期間が必要だから、七日後にまた迎えに行くと説明。

「なるほどなぁ。ますます賑やかになるだろうな」
「うん」
「女房の乳が足りなくなるんじゃねえか?」

 ……わああぁぁぁぁっ。
 足りない。絶対足りない!

「むしろすでに足りてねぇけどな」
「あああぁぁぁぁぁっ。どうしようっ。おじさん、ヤギの知り合いいないのか?」
「まぁいるっちゃあいるが。普通のヤギだし、別の群れだからなぁ。縄張りってのも必要だしよぉ」

 アニメではたくさんのヤギを山まで連れていく、ヤギ飼いの少年とかいたけど。
 みんな仲良くしてたように見えたが、野生だとそういうわけにもいかないのか。

「あ、ところでフレイは?」
「あー……ダンナかぁ。ダンナはなぁ」

 アスの母ちゃんが眠る墓所の方を見上げ、おじさんがため息を吐く。
 なんとなく予想できる。

 アスからお声がかからず、いじけているのだろう。
 おじさんにそう尋ねると、髭を揺らして頷いた。

「あそこの親子も、なかなか大変ねぇ」
「まったくだぜシェリルの嬢ちゃん。親子っていやぁ、お前ら子供はまだなのか?」
「ぶふっ」
「こほっこほっ」
「あ? 二人して風邪か?」

 こんの親父、タイムリーなネタを振るんじゃない!

 それから五日後、ようやくアスから連絡があった。
 ルンルンなフレイがここまで来て『さぁ行くぞ』『今すぐ行くぞ』と急かされて砂漠の村へ。

「おぉ、見違えるように立派な村になってるじゃないか。っていうか、もしかしてこれ、全部の家を建て直ししてないか!?」
「はい。新しい家を何軒か建て直すと、他のみなさんが羨ましそうに見ていらっしゃったので」
『子供タチガネ、新シイオ家ジャナイトヤッッテイウノ』
「実は……」

 ルーシェが小声で「新参者が新しいお家に住めて、自分たちは古いままなんておかしいって揉めてしまって」と教えてくれた。
 その時、ハクトがやって来て溜息を吐いた。

「悪いなユタカ。村のもんが我儘言って、そのせいでルーシェたちを長いこと引き留めてしまったんだ」
「聞いたよ。やっぱりいきなり移住者が増えると、問題も出るみたいだな。こっちは子供同士で喧嘩してるよ」

 家に関しては問題ない。
 ツリーハウスを新しくしてくれと頼む一家はいないからな。
 
「まぁこれまで使われていた家も、結構風化してる部分とかあったし、この先のこと考えると今のうちに新築にしておくのは、悪いことじゃないと思うし」
「そうですね。実際、何軒か、使えそうな石を抜き取ろうとしたら崩れてしまいましたし」
「え、そうなの? それって危なかったんじゃない?」
「はい。雨が降るようになったことで、石の亀裂に水分がしみ込んでモロくなってしまっていたようなんです」

 気づかないうちに崩れたりしないでよかったよ。
 
 それで全世帯に新築を建て、予定していたより時間がかかったようだ。

 ここでも小麦粉の木や夏野菜、果物を成長させて、当面の食料不足にならないよう手を打っておいた。
 一晩かけて料理レシピを教え、帰宅したのは翌日のこと。
『こんな感じ?』
「そうそう、こんな感じ」
『えっへん。撫でていいよ』

 それは撫でろって意味だろ、ベヒモスよ。

 ドリュー族の一家が七家族増えた。
 そして北から引っ越してきた例のガキ大将ダンダが、さっそく新しくやってきたドリュー族の子供たちをコキ使おうとしはじめた。
「新参者なんだから俺のいうよこを聞け」――と。
 おいおい、お前も新参者だろ。

 ダンダの父親も体が大きく、ちょっと横暴なところがある人物だという。
 強い自分こそが集落の長に相応しいって、最年長のボリスによくケンカを吹っかけていたそうだ。
 ただ脳筋タイプってのもあって、年の功&経験の差でボリスには勝てず。
 それでも「わざと負けてやったんだよ」と開き直って傍若無人な態度は改める様子はないってことだ。

 その息子ダンダも、父親に似た。
 母親が唯一まともな人のようで、何かあるたびに頭を下げに来ているようだ。
 大変だなぁ。

『でもこれ、何に使うの?』
「うん。俺が生まれ育った世界の方にな、相撲って国技があってさ」
『すーも?』

 それ違う生き物だから。

「一対一でガチンコ勝負するスポーツさ」

 ベヒモスに作ってもらったのは土俵だ。なかなかよく出来ている。

 子供たちには真剣勝負でぶつかり合いをさせようと思っている。
 ダンダが勝って今以上に傍若無人になるかもしれない――って不安は――ない。
 ただ父親の開き直りぐあいもあるし、改善されるかどうかは分からないけど。
 ま、そこはそこ。考えはある。





「ダレルさん」
「ん? なんだお前」
「挨拶がまだでしたよね。俺はユタカです」
「ユタカ。おぉ、お前が食い物を作っている奴だな。おい、俺んところにもっと食い物を寄越せ」

 いきなりかよ。今でも十分な食料を渡してるはずだろ。
 このダレルってのがダンダの父親だ。確かに体が大きい。
 ヘビー級のボクサーとか、アメフト選手みたいな、胸板が分厚く身長も高い、そんな体格だ。

「野菜はスキルでなんとかなるのですが、実は肉に関しては狩りに頼ってまして。ダレルさんはとっても強くて狩りの腕も超一流だと聞きました」
「がーっはっはっは。そうとも、俺は強い!」

 わっかりやすい脳筋だなぁ。

「そこで、狩りに一緒に来てほしいんです。ダレルさんがいれば安心ですし」
「よし、任せておけ!」
「本当ですか! いやぁ、助かります。無事に狩りが終わったら、ダレルさんには新しく手に入れた野菜が果物を全部差し上げますね」
「おぉ、そうかそうか。お前はなかなかわかる奴のようだ。がーっはっはっは。俺に任せてけ!」

 ってことで、狩場に向かうことになった。
 ただの獲物では面白みがない。だから彼に頼んでこの辺りでは見かけない、そして大型且つ強いモンスターがいる場所に連れて行って貰うことになった。
 同行するのはルーシェとシェリル、そしてワームたちとアスだ。

「お、おい? こ、こいつらは??」
「あ、ワームたちは俺たちとテイミング契約をした子たちです。アスは見ての通り、アースドラゴンですよ」

 ってか今まで気づかなかったのか。
 まぁアルとルルに関しては、砂漠の村の方にいってたけど。

『待たせたの。北西の端の方に行くか。大型の獲物もおるからの』
「お、頼むよフレイ」

 地面に巨大な影ができ、頭上から声が聞こえた。
 無料タクシー、火竜フレイだ。

「は、ひ?」
「ダレルさん。フレイとは初めてじゃないですよね?」
「ユタカさん。北の集落へ行ったときは、フレイ様に送り迎えしていただいていませんから」
「砂船で迎えに行ったでしょ?」
「おっと、そうだったか。じゃ、紹介しますね。この砂漠の守護者、火竜のフレイです」

 ちょっと仰々しく紹介してみた。
 守護者と言われたフレイは、鼻を鳴らしてまんざらでもなさそうだ。

「ド、ドド、ド、ドラ、ドラドラ、ドラ」
「ドラゴンです」

 俺がにっこり笑うと、真っ青な顔をしてダレルが腰を抜かした。

「どうしましたか? 大丈夫ですよ、フレイと俺たちは盟友ですから。ちなみに以前からここで暮らしていた人たちも、だーれもフレイを恐れたりしていませんよ?」
「さ、フレイ様を待たせてはいけませんし、狩りに行きましょう」
「そうね。いっぱい獲物を狩るわよぉ」
「「おー!」」

 腰を抜かしているダレルを引っ張って、砂船に乗船。
 フレイが持ち上げて、わざと急上昇してみせる。
 一瞬ビックリはしたけど、まだ空を飛ぶのにはもう慣れた俺たちだ。すぐに踏ん張って、平気な顔をしてみせる。
 ダレルは悲鳴を上げているようだけど、フレイがいちもより早く跳んでるから風の音でかき消えてしまっている。

『お、さっそく獲物がいたようだぞ』
「おぉー、どれどれ?」

 甲板の縁から下を覗く。
 あー、うん……予想以上にデカい。フレイより気持ち小さい程度じゃん。
 デカいの頼むって言ったけど、これは……。
 
 見た目は熊に似ている。顔が少し長いので、シロクマっぽいのかな。
 ただ足は六本で、サソリのような尾があった。毒持ちかな?

「狩り甲斐がありそうですね、ダレルさん」
「ダレルさんの実力、見せて欲しいわぁ」
「「うふふ」」

 双子が挑発してる。してるけど、それにすら気づける余裕がダレルにはないようだ。

「さぁ、狩りましょう」
「狩ろう狩ろう」

 ルーシェは剣を構え、シェリルは弓に矢を番える。

「ま、待てお前ら。あ、あんなモンスター、狩れる訳――そうか、お前たちはこ、このドラ……ドラ、ドラゴンに」
『あぁ?』
「ひっ。ド、ドド、ドド、ド、ドラゴン様に、か、狩っていただくつもりなのだろう」
『ふん。我は送り届けるだけだ。貴様らの狩りに付き合う義理はない。聞けばそうとう強いのだろう、貴様。我と力比べをしてみるか?』
「ひぃぃぃーっ」

 それは『死』を意味するってことを、ダレルも分かっているようだ。
 ひれふし、全身を震わせて恐怖している。

「はぁ、だらしない。なぁにが集落一の力持ちよ」
「力があるだけで強いと勘違いなさっているだけですね」
「そうね。ただの筋肉おじさんってことよね」
「な、なんだとこのアマァ」

 フレイには頭が上がらないのに、ルーシェたちには強気に出るんだな。

「行きましょう、シェリルちゃん。フレイ様、下ろしてください」
『うむ。あれの肉は美味い。我も馳走されたいものだ』
「お任せください」

 え、二人とも行くの?

「さ、行くわよユタカ」
「あ、俺も行くわけね」
「あたりまえじゃない! ミイラにしないでよ」
「はぁーい」

 俺たちの存在に気付いた巨大モンスターが突進してくる。
 シェリルの放った矢が熊の目に命中し、悲鳴を上げて立ち上がった。
 うわぁ、デケェ。
 
 そこへシェリルが大剣を薙ぎ払い、後ろ脚の腱を切った。

 どうっと倒れる熊モドキモンスター。

「ユタカさんっ」
「ユタカ!」
「オッケー。じゃ、"成長促進"」

 心臓、それから脳を同時に寿命を迎えるまで成長してもらう。
 熊は一瞬ビクんっと体を大きく震わせて、それから動かなくなった。

「よし、肉ゲェーット」
『我が血抜きをしてやろう』
「助かるよフレイ」
「このサイズだと血抜きも大変ですしね」
「ダレルさんは見ていただけねぇ。あ、この程度の獲物じゃ、物足りなかったのかしら?」
『ではやはりここは、我が相手をしてやらねばなるまいて』
「申し訳ありませんっ。もう偉そうな態度はとりませんっ。お許しください! どうか、お許しをっ」

 なんだ。自分が偉そうなこと言ってるって自覚はあったんだ。
 これに懲りて、親子ともども大人しくなってくれるといいな。

「はっけよーい、のこった!」
「やーっ」
「とぉーっ」

 気合を入れた俺の声を合図に、なんとも気の抜ける子供たちの雄叫びが響く。

 子供相撲大会を開くぞ――とアナウンスして一週間後の今日、開催となった。
 北の集落からはダンダを含めて三人。最年長は十三歳の男の子だ。
 ここは十四歳以上の子が多く、俺と同年のヤツもいた。
 そしてここには……ルーシェとシェリルの夫候補だっていうのもいて、それを聞いて心配だったんだけども――。

「彼がネルドさんです」
「隣の子が奥さんのメリアですって」
「……二人の夫候補だったんじゃ……」
「ネルドの妹とメリアが同じ歳で、メリアのことも妹して接していたらしいんだけど」
「成長するにつれて意識するとうになったそうなんです」

 ルーシェたちとの結婚話は二年前ぐらいに出ていたそうで、その時はメリアのことをまだ「妹」だと思っていたそうだ。
 だから「外の子と結婚したい」とネルドも言っていたそうだ。
 でもこの二年で気持ちが変わり、大雨が降る直前に二人は結婚したそうな。

 十八歳で結婚かぁ。

 ――とまぁ、回想シーン終わり。

「押し出し、ハリュの山の勝ちぃー」
「うわぁーい」
「ハリュくん、おめでとうございますっ」

 四歳vs四歳の勝負で白星を飾ったのは、ハリュだった。
 凱旋するハリュに拍手を送る大人たちだが、その中でもひときわ大きな拍手をしているのはマリウスだ。

 ふっ。
 俺は知っている。

 最近、マリウスはハリュの母親ターニャさんとちょっといい雰囲気になっているってことを。
 マリウスが騎士と一緒にここへ攻めてきたとき、敗北して打ちひしがれる彼に野菜を手渡した母子こそが、ターニャさんとハリュだ。
 ターニャさんは旦那さんを亡くされていて、ひとりでハリュを育てている。
 男手が必要になることも多く、そんな時はマリウスが進んで手伝っていた。
 まぁ体力も筋力もないマリウスは、最初こそまったく役に立ってなかったけど。
 でも何カ月も砂漠で暮らしていると、俺のスキルなしでも成長するもんだ。
 今ではそこそこ役に立っているらしい。

 頑張れマリウス。
 貴族の令嬢に婚約破棄されたらしいけど、まだまだ幸せになれるチャンスは残っているぞ!

「さて、次の取り組みはぁー……ぁぁ」

 ある程度年齢別になるようクジで決めたんだけど、こんな早くに当たることになるとはなぁ。

「にぃしぃ~、エディ~里ぉ。ひがぁし~、ダンダのぉ山ぁ」
「頑張れぇ、エディー」
「ダンダさん、そんな奴やっつけちゃってください!」

 うん。応援の声でも、ダンダが来たの集落でどんなポジションだったのかよくわかるな。
 ダンダさんって呼んでるの、年上の十三歳の子だし。
 
 相撲のルールを教えて練習してもらうために、アナウンスから開催までを一週間とった。
 エディはその間に猛特訓し、ダンダはいつものように小さい子のオモチャを取り上げ、練習なんて一度もしていない。
 父親の方はこの前のこともあるし、時々、いやほぼ毎日やってくるフレイにめちゃくちゃ怯え、すっかり大人しくなった。
 息子のことも叱るようになっていたけど、まぁあの年齢の子供だ。いくら父親が怒ってもその場だけしゅんっとして、親がいなくなればさらに暴れ出す始末。
 周りの大人も注意するが、聞く耳は持たなかった。
 だからって大人が子供に対して手を上げる訳にはいかない。それは親だけが許される行為だ。
 でも――

 普段自分がバカにして見下している相手からこてんぱんに負けるとどうなるか。

「ふふ、楽しみね」
「そうですね。エディは見た目こそ、あのダンダくんより小さいですが」
「でもあれでなかなか、力があるのよね」
「えぇ。ユタカさんが来てから、めきめき体力と筋力がついてますから」
「俺が関係してるみたいな言い方?」

 にこにこ微笑むルーシェとシェリルの後ろから、エディの父親であるオーリがやって来た。

「君が来てから毎日三食、しっかり食べられるようになったからね。野菜の種類も増えて、栄養のバランスも良くなったのさ。それで子供たちは十分な体力がつき、体力があれば体を使った遊びも増えてくる」
「ユタカくんが来る以前より、みんな肉付きが良くなったでしょう? 増えた分は筋肉なのよ」

 っと奥さんのエマさんもやって来て、にこにこしながら言う。

 ガリガリだった体に、そのまま筋肉が上乗せされたってことだ。
 子供たちは毎日走り回り、キノコ階段を上ったり下りたり、そして仔ヤギとかけっこ。
 更に毎日畑仕事も少し手伝ってくれている。
 体力、筋力がつかない訳がない。

 だからこの勝負、勝つのはエディだと思っている。

「はっけよーい……のこった!!」
「がはははははは。吹っ飛ばしてや――」

 ルールを教えても相撲の練習を一度オしなかったダンダは、立ち合いで背筋を伸ばし、普通に立っていただけ。
 そこへ、腰を下ろして頭から突っ込んで行ったエディ。
 ズボンの上から長い布を包帯のようにぐるぐる巻いただけの回しをエディが掴み、そして――

「上手投げ! エディ里の勝ちぃー!!」
「ぃよっしゃー!」

 勝負は一瞬だった。
 突っ立った状態のダンダの回しを掴むと、エディはそのまま投げた。
 ダンダは土俵から転がり落ちて、そのまま目を丸くしている。
 だ、大丈夫か?

 お、エディが降りて行ったぞ。
 そうそう、ここで手を差し出して、お互い仲良くやろうぜって――

「体が大きくても、てんで弱いじゃん」

 そうじゃないだろぉぉぉぉぉ!

「な、なんだとチビ!」
「そのチビに負けたのは誰だよぉ」
「も、もう一回勝負しろっ」
「いいよぉ」

 その後、リベンジ戦が始まって――

 エディが三戦三勝。
 だがこれで納得しないのがダンダである。

「おい、そこのチビ! 俺と勝負しろっ」

 と、今度はドリュー族の子供たちに八つ当たりしはじめた。
 ドリュー族は大人でもダンダより小さい。その子供となれば、余裕で勝てると思ったんだろうなぁ。

 でもなダンダ――

「のこった!」
「うおおぉ――うわぁぁぁ」

 ・
 ・

「のこったのこった」
「とぉ」
「ぐええぇぇぇ」

 ・
 ・

「のこった」
「えい」
「んげぇぇぇぇ」

 九歳のトミーはもちろん、八歳の女の子マリルにまで、ダンダは勝てなかった。
 当たり前だ。
 ドリュー族は穴掘り名人。穴を掘るって、力いるんだぜ?

 体を特に鍛えているわけでもないドリュー族が、苦労しないで穴掘りしてるってのは、種族として人間寄り高い筋力を持っているという事。
 体が小さくても、女の子でも強いんだよ。
 
 彼らが戦闘を得意としないのは、俊敏に動けないから。

「体は大きいのに、弱いモググ」
「私より弱ぁいモググ」
「あんまり言ったらかわいそうモググよ」
「う、うわあぁぁぁんっ」

 あぁ、ダンダのやつ泣いちゃったよ。

 結局彼は全敗して、ついには負けを認めた。 

 なんかこれじゃない最終的には落ち着くところに落ち着いたのかもしれないけど、これじゃない感が……。
 ま、いいか。
「えっと、そちらの方とそちらと……あ、あそこの方もいい感じですね」

 砂漠の村に来ている。
 お互いの村同士で簡単に連絡を取る方法がないかいろいろ考えていると、マリウスが「言葉のやりとりはできませんが――」と言って、ある案を出してくれた。
 それが『通信魔法』だ。

 通信といっても声を届けられるわけじゃない。
 水晶が二つセットになっていて、それぞれに同じ魔法をかける。
 水晶に魔力を流すと、もう片方が光るってものだ。

 それで今、砂漠の村の方で水晶を使えそうな人をマリウスに厳選してもらっているところだ。
 砂漠の村の人口は一五〇人ほど。
 ある程度の魔力がないといけないってことで、選ばれたのは三十人ほどだ。
 厳選ってわりに多いな。

「けっこういるもんだな」
「えぇ。僕も驚きました。ですが砂漠の民は身体能力や魔力に秀でた方が多いのかもしれません。あちらの集落――あ、いや今は村ですね、そちらでもほとんどの方が、平均的な魔力より高いんです」
「え、そうなのか?」
「はい。平均っていうのは、内陸での一般的なものです。平均と同じかやや低いのって、子供たちのことなんですよ」

 大人は軒並み、平均以上らしい。
 それはここの村でもそう。

 通信魔法は、元の魔法をかける者がいれば、光らせるだけなら平均より少し高い程度でいいらしい。
 となると大人は全員該当する――とマリウスはいう。

「じゃ、なんで三十人選んだんだ?」
「この三十人が特に、魔力が高い方なんです。水晶をただ光らせるだけですが、魔力を流す練習にはなりますので」
「練習……魔法を覚えさせようってこと?」
「はい。砂漠のモンスターと戦うのに、魔法が使えると便利でしょ? もちろん、使い方次第では日常にも役立ちます。その逆に危険なこともあるので、しっかり教える必要がありますが」

 便利だからこそ、危険もある。
 魔法は万能なものじゃない――とマリウスは話す。

 それからマリウスの「水晶の光らせ方講座」が開かれ、その間に俺はハクトと近況報告をした。

「すもー? なんだかおもしろそうだな」
「やってみる? 土俵はベヒモス、くんに頼んで作ってもらうよ?」
「ベヒモスくんが作ってくれたのか」
『えっへん。褒めて撫でてくれてもいいんだよ?』
「うわっ、でた!」

 なんでご機嫌なんだよ。

『ハクトはいいね。ユタカみたいに「ベヒモス、くん」って切ったりしないから。いい子だからボク少しサアービスしちゃうよ』
「サービス、ですか?」

 ベヒモスくんって繋げただけで、そんなに機嫌よくなるのかよ。
 ハクトに撫でられてから、ベヒモスはとことこと歩いてどこかに行ってしまった。
 ただしばらくして地鳴りがしたから、何かやったのだろうってのはわかった。

 何をしたんだ、あいつ?

「そうだユタカ。そっちの村の周辺はどうだ?」
「ん? どうとは?」
「獲物だ。最近、この辺りでモンスターを見なくなったんだ。以前より遠くまで狩りにいかなきゃ、獲物が獲れなくなってきている」
「うぅん、実感はないなぁ。俺ら、砂船であちこちいってるから」
「そうか。この辺りだけなんだろうか」

 もしそうだとしても、獲物が減ったとうのは大問題だな。
 人数が増えてるんだし、今まで以上に肉も必要になっているんだ。

 マリウス先生の講義が終わって渓谷の村に帰る途中、フレイの掌の上から地上を観察した。
 今日は二人だけだから砂船を使わず、直接乗せてもらっている。

「マリウス、ハクトがさ、最近獲物が減ったって言ってたんだ。地上をよく見ててくれないか」
「了解しました。モンスターが減っている、ですか……。まぁ心当たりがない訳じゃないですよ」
「え? 何か知っているのか?」

 マリウスは頷き、雨が降るようになったから――と答えた。

「雨が原因? なんでだよ」
『砂漠には、サラサラとした砂地でしか生息できぬ小物が多い』
「フレイ。じゃ、雨が降るようになって、砂がサラサラ状態じゃなくなったからってこと? 死んだのか?」
『移動したのだろう。ここより北は比較的降っておらぬようだからな』
「小型モンスターが移動すれば、それを捕食している中型、大型も後を追います。以前までの生態系が崩れてしまうんですよ」

 そんな……。雨が降れば大地が豊かになると思ったのに。
 水害だけじゃなく、こんな弊害まで発生するとは。

『だがな人間よ。遥か昔、ここは緑にあふれた大地だったのだ。我が生まれし時代には三割ほどが砂漠にはなっておったが、それでも今よりずっと、緑が多かった』
「フレイが生まれた頃……って、フレイはいったい何年生きているんだ?」
『我か? 千年にはわずかに届かないぐらいだったか』

 じゃ、九百年以上は生きてるってことじゃん。
 やっぱめちゃくちゃ長生き!

『ちなみにあのヤギめは我より遥かに長い時を生きておるぞ』
「ぶふぉっ。バ、バフォおじさんが渓谷で最年長なのか!?」

 バフォおじさんじゃなくって、おじーさんって呼ぶべき?

「あの、それでフレイ様。フレイ様の記憶のもっとも古いものだと、人間はどのようにして食料を確保していたのでしょう?」
『うむ。よい質問だ魔術師よ。人間どもは家畜を飼っておったぞ。あのチキンどものようにな』
「モンスターを家畜にかぁ。でも砂漠のモンスターだと、サラサラな砂が必要なんだろ?」

 砂から土に変えようと努力してるところなのに、なかなかそれは難しいな。

『何を言っておる。普通の家畜だ、普通の』
「普通……?」

 普通ってなんだっけ?

「あっ。だったら僕の親戚との最初の取引では、家畜と交換ってのはどうでしょう?」
「ん?」
「ですから、豚や牛ですよ!」

 豚……オークとか?
 牛っていうとミノタウロスか?

「イヤだイヤだイヤだイヤだ! ミノタウロスの野郎どもは鼻息は荒れぇし、ドスドス五月蠅ぇし、汗臭ぇし、オレぁぜーったいイヤだぜ」

 村に帰ってバフォおじーさ……おじさんに、ミノタウロスを家畜にするから、牧場とかどう作ればいいかアドバイスして貰おうと思ったらこれだ。

「ちょ、待ってくださいユタカ様! どうしてミノタウロスなんです!?」
「え? 牛と交換するんだろう?」
「そうです! 牛ですよ!!」
「だからミノタウロスなんじゃ」
「どうしてそうなるんです!」
「お前ぇの世界じゃミノタウロスが家畜だったのか?」

 え?
 俺の世界……いや、牛だけど。

「牛」
「こっちの世界だって牛ですよ!」
「お前ぇ、まともな動物を見てねぇから、この世界じゃモンスターが動物だって勘違いしてねぇか? いっとくがオレんちの家族は普通《・・》のヤギだぜ? わかるか?」

 動物……どうぶ……あ。

 うわぁぁ、そうだよ。なんでわざわざモンスターに脳内変換させてんだ。
 そうだよ。普通の動物だっているじゃん。

「やっと理解したか」
「はぁ……ミノタウロスを家畜になんて、聞いたことありませんよ」
「あいつら筋肉質で、食っても美味かねぇと思うぜ」

 ぅ……ま、まぁ確かに、冷静になって考えたら美味しくなさそうだ。

「牛豚の牧場か。オレも詳しくねぇから、今まで見た牧場の感想しか言えねぇけどよ。とりあえず、広さが必要だよな」
「そうですね。あと牧草でしょうか。草の成長はユタカ様にお願いするとして、種も一緒に購入しましょう」
「あ、あぁ、そうだな。けどマリウス、その親戚ってのとどうやって連絡を取り合うんだ? さっきの通信魔法ってやつ?」
「いえ。貰った返事に、従兄が砂漠の町へ来ると書いてありました。八の月の後半には到着するだろうってありましたので、そろそろかなぁと」
「八の月?」
「あ、暦のことをまだご存じなかったですね。まぁここではあまり必要ないですし」

 この世界でも、一年は十二ヶ月で分けられている。
 地球と違うのは、毎月三十日だってこと。
 そして新しい年になると、最初の五日間は『祝福の日』と言って、ここは一月ではないんだとか。
 これで一年が三六五日になる。
 なんで一年って、異世界でも三六五日なんだ?

「八の月ってことは、八月か。俺が召喚されたのって、向こうの世界だと十二月だったけど」
「こちらの世界でも十二の月でしたよ」
「ってことは、俺がこっちの世界に来てもう八ヶ月が過ぎたのか」

 早いような、短いような。
 その八カ月の間に、俺は動物=モンスターと認識するようになってしまったようだ。
 いや、正確に言うと肉=モンスターか……。





「牧場ですか?」
「今度は何を育てるの? サンドフィッシュ? それとも――」
「シャッコーマ、美味しかったですよねぇ」
「いやいやいや、モンスターじゃなくって動物だって」

 夕食を時間に家畜の話をすると、返って来たのはこれ。

 うん。
 俺の反応って、砂漠じゃ普通だったんだ。
 ちょっと安心した。

 けどシャッコーマはいいよなぁ。ごくり。

 動物と聞いてもピンとこない二人に、豚と牛という動物を飼うことを伝えた。

「豚って、モンスターに例えるとどんなヤツ?」
「え……お、オーク」
「おーくは知らないわ」
「初めて聞く名ですね」

 砂漠にオークは生息してなさそうだもんな。

「牛は?」
「ミ、ミノタウロス……」
「うぅん、そっちも知りませんねぇ」

 だって砂漠には以下略。

「ま、まぁ実物を見てからのお楽しみだって」
「はいっ」
「かわいいのかしらぁ」

 は!?
 こ、これはまさか――

 こんなかわいい豚を食べるなんて、信じられないっ。
 ユタカさん、この牛さん、このまま飼ってはいけませんか?

 ってなことに――
 ……いや、大丈夫かな。

 チキンホーンの雛たちは、まだヒヨコの姿のままだ。サイズは少しずつ大きくなっているけれど。
 聞けば、黄色いふわふわな時期ってのは一年ほど。
 普通の鶏よりかなり長期間、雛なんだな。
 母鶏はもう一カ月ほどすれば、無精卵の卵を産めるようになると言っていた。
 今は追加で捕まえた二羽の雌鶏が産んでくれる卵しかないが、多い時には一日で七個の卵が手に入る。
 ダチョウよりも大きな卵だ。

 二日に一度、各家庭に溶き卵が配られる。どう使うかは各家庭次第。
 それとは別に、余った分は俺やマリウスが知るお菓子の材料として使った。
 パンケーキとか、クッキーとか、あとプリン!

 いやぁ、正しい作り方とか知らないけど、なんとなくてやってみたが案外うまくいくもんだ。
 卵いるだろ? 牛乳もいるよな? ヤギ乳だけど問題ない。甘いんだし、砂糖も入ってるかも?
 で、蒸すんだよな?

 これで完成した。
 カラメルソースは……ない。
 つ、作り方は知ってるぞ!
 砂糖水を焦がさないようにぐつぐつ煮るんだろ?
 知ってる。
 んで真っ黒になって失敗した。

 い、いいんだよカラメルなんて。あんなの飾りだって。
 子供たちにはソースがなくても大好評だったんだ。問題ない。

「それで、牧場ってどこに作るの?」
「それなんだよ。もうそんな広いスペースはないしなぁ」

 話を戻して牧場だ。
 このまま砂漠のモンスターがぜーんぶ北に移動したら、100%家畜に頼ることになる。
 そうなったら結構な頭数が必要になるよなぁ。 

「お久しぶりです、ゼブラ兄さん」
「元気……そうだね、マリウス」

 砂漠の町へやってきた。
 今日はマリウスの親戚が来てないか確認のため、来ていたら商談を進めるためにだ。
 冒険者ギルド経由で滞在宿を知らせてくれていたので、すぐに見つかってよかったよ。

「こちらが手紙でも話した、ユタカ様です」
「はじめまして。ユタカです」
「こちらこそはじめまして。マリウスの母方の従兄で、ゼブラ・ストッカーと申します。こちらは妻のナーシャです」
「ナーシャと申します」

 ゼブラ……シマウマ?
 見た感じはマリウスとそう変わらなさそうな年齢だけど、結婚しているあたり勝負はゼブラ氏の勝ちだな。
 なんだかマリウスを見て、驚いている様子だったな。

「ナーシャさん、砂漠の暑さは大丈夫ですか?」
「はい、マリウス様。私も元々暑い国の出身ですから」
「ならよかったです。僕は最初、耐えられませんでしたから」

 炎天下の砂漠で無理して耐えていたら、それこそ死んでしまう。
 耐えなくていいんだよそこは。

 ストッカー夫妻が町に到着したのは三日前だという。
 いいタイミングだ。

「商談の前に、いろいろ考えなおす必要があるかもしれません」
「に、兄さん、それはどういう?」
「この砂漠には国がありません。そして港町も。だから海上経由で交易をするなら、南のゾフトス王国の港町から陸路で移動するしかないのです」
「そ、そうなりますね」
「あそこも港町でかかる税関係の費用が、予想以上に高いんだ。わたしが知っていた金額より、二割増しになっていたよ」
「えぇ!?」

 他の国から来た時には入国税がかかる。これは人に対しても、物に対してもそうらしい。
 その料金が上がった――ってことだ。しかもつい最近。

「それだけじゃありません。ゾフトスから人が出国する際には税を払う必要はないが、それが物だと税の支払いを求められる。考えてみてくください。船から降りて人と物に税を払って、すぐに砂漠へ入る訳ですが、その時に物を国外に出すからと税を求められるんです」

 それがたとえ、ゾフトス王国産のものでなくても――だ。
 更に砂漠で交易をし、それを持ってゾフトスに入れば税金を取られる。
 港町で船に乗れば、交易品に対して出国税が取られる。
 ゾフトスで商売するわけじゃないのに、金取られすぎ。

「確かにそれだと、利益を出すために商品の単価を上げるか、こっちから買い取る金額を下げるかしないとダメだな」
「そういうことなんです……。しかし長期的な交易を見越して、ある提案をさせていただこうかと考えているのですよ」
「ある提案、ですか?」
「ゼブラ兄さん、それは?」

 彼はにっこりと笑って、「造るんです、港を」と、とんでもない提案をした。





「そもそもミナトとは、どういった所なのでしょう?」
「海から来る船を受け入れる場所、かな。ほら、砂船を停泊させてた宿屋あっただろ? あれのもっと大きい番。それでいて海にあるヤツさ」
「ふぅん。ユタカが以前、海を行き来する船は大きいって言ってたわね。でもサンゴを獲ってたあいつらの船は小さかったけど」
「あれはただの小舟さ。こそこそするのに、大きな船じゃダメだろ」

 港を知らないルーシェたちに説明をしながら、冒険者ギルドへと向かった。

 砂漠には国がない。
 とはいえ、勝手に港を作ってもいいものか……。
 それを聞くために、冒険者ギルドへとやってきた。

「お前ぇら、ギルドを便利相談所かなんかだと思ってねぇか?」
「え、いや……あの……はは」

 ちょっと思ってるかも。

「まぁいい。確かに港は欲しいところなんだよ。ゾルト港の領主が、関税だのなんだのと値上げしやがってよ。素材の運搬費用だけでかなりの痛手になってきたのさ」

 ゾルト港ってのが、ゾフトス王国にある港のことだろう。

「なんで急に値上げしたんだろう?」
「そいつはあれだ。サンゴの密漁が出来なくなったからだろう。懐の潤いが減ったもんで、別のとこから搾り取ろうってこった」
「え、じゃあ領主も加担してたってこと?」
「じゃなきゃ、密漁者の操作に協力しない訳ねえじゃねえか」

 と、シェリルの言葉にギルドマスターは答えた。
 ロクな領主じゃないようだ。

「とりあえずは町長と話しをしてみるか。港を作るにしても人手がいる。そして港を誰が管理するのか、そういった話も必要だろうし。ただな……」
「ん?」
「町長も今日は立て込んでると思うぜ」
「忙しそうなのか?」
「忙しいっつうか、うるせぇのが来ててよ」

 クレーマーかな。

「水の大神殿から神官どもが来ててな」
「水の……ん? 聞いたことあるような、ないような」

 水の神殿……水……。

『アタシを封印して閉じ込めてたクソ野郎どものいる神殿よ』

 ぽんっとご機嫌斜めなアクアディーネが出てきた。

 あぁ……そうだった。
 何百年もアクアディーネを閉じ込めてた場所が、水の大神殿って言ってたっけ。
 しかも彼女を騙し、力を奪い続けていた。

 うぅん、こりゃなにか騒ぎになりそうだ。


「町長は生きてるか?」

 ギルドマスターの案内で訪れた町長宅。
 呼び鈴鳴らして出てきた人に対し、ギルドマスターのこの言いよう。

「生きてはいますが、頭は抱えられているでしょうね。ギルマス様、後ろの方々は?」
「あぁ、実はこいつらが港を作りてぇってな」
「港……でございますか?」

 初老の執事風の人が、俺たちをじぃーっと観察するように見た。
 目を止めたのはマリウスの従兄のゼブラさんのところだ。

「商人、でございますか?」
「はい。ゲルドシュタル王国を中心に商いを行っております、ストッカー商会の者です」
「砂漠でご商売を?」
「はい。このマリウスはわたしの従弟でして。彼が砂漠の集落で暮らしているのですが、ここでは内陸では手に入らない物がたくさんございます。そしてここには内陸でしか手に入らない物がたくさんございます。それは互いの利益につながるものだと思いまして」

 まさにその通りだ。
 執事風の人も気になったのか、頷くような仕草をした。

「旦那様の助けになるかもしれませんし、執務室の方へと押しかけてください」
「おう」
「え? お、押しかける?」

 首を傾げる間もなく、ギルドマスターがずかずかと屋敷に入って行ってしまった。
 俺たちは顔を見合わせ、その後を追う。
 一階奥の部屋に向かったギルドマスターは、ノックもしないで部屋の扉をバンっと開けた。

「邪魔するぜ町長。お、これはこれは水の大神殿の神官方ではないですか。いやぁ、いるとは知らなかったもんでよぉ、悪いねぇ」

 うわぁ、なんて大嘘つきだ。
 まぁ俺たちもいろいろと人のこと言えないけどさ。

「お、おぉ、ギルドマスター。どうした? ん? なにかあったかな? もしかしてサンゴの密漁者か!? クラーケン様のサンゴ礁を荒らす不届き者がいたのか! ん?」

 なんか町長、嬉しそうだ。
 部屋の中には町長の他にも三人いた。全員が上から下まで真っ白な、砂漠の民族衣装っぽいものを着ている。顔も布で隠していて、口元しか見えない。

「話があるのなら後にしろ。今は我らが町長と話をしている最中である」
「こっちも大事な話があるんだよ」
「なんだと! たかが冒険者ギルドのマスター風情が、水の大精霊様の使者である我らにたてつくか! それが何を意味するのか、わかっておるのだろうな」
「貴様らの不敬が、雨量を減らしていたのだとわからぬのか!」
「我らが祈り、大精霊様に願ったからこそ、再び雨が降り始めたのだ。神殿に敬意を払え!」

 何言ってるんだろうな、この連中。
 
 初めて俺たちが町に来た時は、雨がしばらく降ってないって話を食堂で聞いた。
 それはアクアディーネが神殿から出て行ったからだけど、それだけじゃない。
 神殿に閉じ込められ、力を奪い続けられたアクアディーネの仕返しだったんだ。

 アクアディーネを怒らせたのは、まさにお前たちなのに。

 あと、大精霊の使者だとか言ってるけど、こいつら全然見えてないよな。

 三人の目の前で仁王立ちしている、手のひらサイズの水の大精霊を。

『アクアちゃん、怒っちゃってるね』
『致し方あるまい』

 足元のウリ坊、そのウリ坊の頭に座ったミニジン。
 二人の小さなため息も聞こえてくる。

「もう何百年も昔のことだし、水の大精霊を騙した張本人はこの世にいないんだろうけど、その件とかって今の神官たちは知ってるのか?」

 気になったことをぶっちゃけて聞いてみた。
 神官たちの口が真一文字に結ばれ、明らかに動揺が走る。

 あ、こりゃ知ってそうだな。

「な、なにを言うか小僧!」
「我らの尊師が大精霊様を騙すなど、あるわけなかろう! 尊師は大精霊様と共に力を合わせ、この砂漠の町に潤いを与え続けてきたのだっ」
「そのような大それた嘘を、いったいどこのどいつから聞いたっ」
『アタシよ』

 突然、アクアディーネの色が濃くなった。

『今ね、アクアちゃんの姿、みんなに見えるようになってるんだよ』
「あ、そうなんだ」

 ただ手のひらサイズのままだからか、神官たちはいまいち気づいていない。
 声だけがしたから、キョロキョロしている。

『ここよ、ここ』
「ん、んおああぁぁっ!?」
「なな、な、なんだこれはっ」

 アクアディーネは少し大きくなった。身長五〇センチぐらいに。

『アタシが水の大精霊、アクアディーネよ』
「み、水の? は、はは、な、なにを言っているんだ」
「そ、そうだ。水の大精霊様が、こんなちんちくりんなわけあるか!」

 アクアディーネは顔に笑みを浮かべている。
 うん、あれは怒ってるなぁ。

『ちん、ち、くりん……ですってぇぇ』

 ごごごごごごごっていう効果音が聞こえてきそうだ。
 かわりに水の体がぼこぼこと沸騰しはじめ、そして少女の姿から大人の女性へと変貌した。
 そのサイズは人間と同サイズに膨れ上がっている。

『これでおわかりかしら? 私《わたくし》が水の大精霊、アクアディーネだということを』

 返事がない。
 ただの屍……ではなく、魂が抜けたように呆けている。

「だ、大精霊様、ですか? 水の大精霊……」
「んな、え? さっきのちっせぇのが、このべっぴんだってのか?」

 先に声を出したのは町長とギルドマスターだ。
 マスターのべっぴん――という言葉に機嫌をよくしたのか、アクアディーネはギルドマスターに微笑みかけた。

『んっふ。正直者は嫌いじゃないわよ』
「ふぉおおぉ」

 おいおい、誘惑してんじゃねぇよ。

「だ、だい、だだ、だい、み、」
「水の、だい、大精霊!?」
『そうです。数百年前、そなたらの言う尊師に騙され、神殿の地下で力を奪い続けられた水の大精霊ですわ』
「「ひっ!」」

 三人は肩を抱き合い、その場でがくぶると震えだした。

『お前たちが町へ来たのは、水没した神殿の件でしょう?』
「え、水没?」 

 どういうこと?

『だってこの者らは雨をずぅぅーっと願っていたのですもの。だから百年分の雨を大サービスしてあげたんですわ』

 ひゃ、百年分!?

 アクアディーネさん……実はしっかり復讐していたんだな。
「大精霊様から奪った精霊力で町が潤っていたとは……知らなかったこととはいえ、それで我々は生かされておりました。謝罪と同時に、感謝もしております」
『知らぬ者たちを責める気はありません。町長、あなたは権力者にしては、なかなか話のわかる方のようですね』
「お許しくださるのですか! ありがとうございます」

 町長はほっと胸を撫でおろした。
 ここで大精霊を怒らせては、今度こそ町に雨が降らなくなるか、逆に大雨で水害が起こるかもと思ったからだろう。
 なんせ目の前に、大精霊を怒らせて水害を受けた連中がいるのだから。

『ところで町長。私はね、この砂漠が以前のように緑の大地に戻したいと思っているのです』
「み、緑が溢れる? 町の歴史を綴った古い書物には、以前は緑の大地であったことが書かれていますが、本当なのでしょうか?」
『今の時代を生きる人間には、想像もできないでしょう。確かに内陸ほど緑が溢れていたとは言い難いかもしれませんが、それでも草原が広がる、美しい大地だったのですよ』
「何百年と、あなた様から奪った力で、この砂漠は多少潤っておりました。それでも草原というのは、夢のまた夢」
『私ひとりの力では無理だからです。ですがここにいるダイチユタカは、それを実現できる可能性を秘めております』

 って、いきなり俺の名前出すの!?

『水、風、大地の大精霊が彼に力を貸しています。ですから町長、ぜひあなたの力も貸してほしいのです』
「こ、この少年の? いったいわたしは何をすればいいのでしょう?」

 アクアディーネは俺を見てニッコリとほほ笑む。
 どういうこと?

『船だよ、船』
『港の建設を要求しろと言っておるのだ』

 足元から声がする。
 砂漠を緑化させることと港と、どこに共通点があるんだ?
 アクアディーネもじーっとこっち見たままだし……こうなったら。

「み、港の建設の許可をください。内陸との交易で、まずは物理的に人々の暮らしを豊かにしていきましょう。同時に、いろんな植物を仕入れて育てます。暑さに強い植物がいいですね」
「こう、えき……」
「おほん。町長さんよ、ゾフトスの港の関税が値上がりするって話は聞いてるだろう?」
「お、おぉ、聞いておる。店を持つ者たちが頭を悩ませておったな」
「初めまして町長殿。わたしは内陸で商いを行っているストッカー商会の者でございます」

 ここでゼブラ氏が前に出て名乗る。
 自分は砂漠と内陸を結ぶ交易をするために、ここへやってきた――と、ちょっと盛って自己紹介をした。
 俺たちと――ってのが真実だけど、港が完成すれば砂漠全土との交易を一手に引き受けたいって気持ちもあるんだろう。

「砂漠に港を作れば、わざわざゾフトス王国を経由する必要がなくなります。そうなれば今までより内陸の品を安く手に入れることができるでしょう。わたしどもも砂漠の品を安く買うことができます。お互いの利益につながると思いませんか?」
「た、確かにそうなのだが、これまでも港の建設計画は合ったのだ。だがそれには大量の資材が必要になる。見ての通り、砂漠には建築に適した木が少ない。南の内陸から仕入れる必要があってだね」

 あぁ、なるほど。そういう問題もあったのか。
 町の周辺のオアシスなんかには、木が結構いっぱい生えている。
 でも建材向けには見えない。

 それに港ともなると、桟橋だけじゃなく倉庫みたいな建物だって必要だろう。
 船乗りが休憩できる食堂や宿だってあった方がいい。
 となると、かなりの木材が必要になる。
 それを全部外国から仕入れるとなると、膨大なお金が必要になるだろうな。
 さらに建設に必要な人材、人件費も。

 国、ではないこの砂漠に、そんな大金を出せる経済力はないんだろうな。

 けど――

「建築資材は俺が用意します」
「き、君が?」
「はい。あとは人材と人件費か」
「専門の職人はわたしどもで内陸から呼び寄せます。しかし町からも人を雇って、働いていただこうと思っております。昨日一日町の様子を見てまわりましたが、仕事を探している方も多いようでしたから」

 ここだと、町の外で仕事を探すってこともできないからな。
 雇用問題も解決できそうだ。
 あとはお金だ。
 人を雇えば当然、給料を払わなきゃならないからな。

「それならよい案がございます」
「町長さん、いい案って?」
「先日、クラーケン様より頂いた真珠の数々です。海岸を警備する者たちへの報酬金として、ごく一部をゾフトスの商人に売却しておりますが、ストッカー氏に直接内陸へ運んでいただければ、もっと高値で売れる事でしょう。警備の者たちに支払っても、余りある量ですから」

 人件費に必要な資金は、港が完成するまでのものでなくてもいい。
 船が停泊できるだけの、必要最低限の施設があれば交易を開始できる。
 交易で得た利益で、足りない分の人件費に当てればいいのだから――と。
 
「そりゃいいと思うぜ。うちの連中も、最近暇してるのが多いからな」
「ギルドスタッフが?」
「いや、冒険者だ。雨の影響か、砂漠のモンスターが減ってるらしいんだよ。南に拠点を移そうって連中も出始めてんだ」

 こっちの方でもモンスターが減っているのか……。
 でもゼロじゃない。冒険者が減るのは問題だな。

『あら、それでしたらよい狩場が近くにありますわよ』
「え? だ、大精霊様、それは本当ですかい?」
『はい』

 アクアディーネがニッコリ笑って、さっきからずっとピクリともしない神官どもを見た。

『わたしが閉じ込められていた神殿、あの地下に巨大迷宮がありますのよ』

 それってつまり、ダンジョンのこと!?
『右手に見えますのが、水没した神殿でございまーす』

 バスガイドかよ!
 港の件を話し合った翌日、ギルドマスターと腕の立つ冒険者十人と一緒に神殿へとやってきた。

「マリウス、大丈夫か? モンスターが出るんだぞ?」
「……ユタカさま、思っていたのですが、もしかして僕が魔術師だってこと、忘れていませんか?」
「……え?」

 マリウスが……魔術師?
 そうだっけ?

「やっぱり忘れてるぅぅー!」
「いやいやいや、ははは。覚えてるって、ほんと。うん」

 そうだっけ?

「マリウスさんは、迷宮に入ったことがあるのですか?」
「あ、はい。ルーシェさま。二、三度程度ですが、あります」
「迷宮のモンスターって、どんな奴?」
「えぇっと、生息しているモンスターは迷宮によってさまざまでして。迷宮にのみ生息するモンスターもいますが、ほとんどは地上で生息するモンスターと同じです」

 ダンジョン専用モンスターなんかもいるのか。

「アクアディーネ、どうやって迷宮に入るんだ?」

 俺たちの目の前に広がるのは湖だ。
 その湖の中心に神殿が見える。ただし高い塔の部分だけ。
 水が透き通っているから、湖底に神殿があるのがよく見える。

『うぅん、そうねぇ。水を引き上げさせる気はないしぃ』

 ギャルに戻ったアクアディーネは、腕組みをしてうーんっと考え込んだ。

「クラちゃんさまのように、水の中に空気の膜を作ったりはできないのでしょうか?」
『できるわよ。でもさぁ、それだと冒険者がくるたびに、毎回魔法をかけてあげなきゃいけなくなるでしょ?』
「あっ、そうですね。うぅん、ではどうしましょう」

 アクアディーネ、ちゃんと考えてるんだ。
 へぇ。

 水は残したまま、その都度魔法を使わなくてもいい方法……。
 カッコいい演出するなら、なんか映画で見た十戒だっけか、あれみたいに水がドバァーンって割れたりするのよさそうだよな。
 いや、できるかどうかわからないけど。

 で、話してみると、

『できるわよ』
「おぉぉ!」
『でもそれって、結局魔法じゃない。ずーっとアタシがここで待機して、冒険者がくるたんびにドバーンってやってあげなきゃならないでしょ』
「……おぉう」

 振り出しに戻った。

「あのぉー、いいでしょうか?」
「お、マリウス何か案があるのか?」
「あ、はい。あの塔まで船で移動できるようにして、そこから迷宮の入り口までは水が入り込まないようにしていただければいいんじゃないでしょうか?」
『船だと何隻も用意しないといけないね。じゃ、ボクが橋を作ってあげようか? 感謝していいんだよ?』
「でたな親切の押し売りベヒモス、く――ぐふっ」

 猪突猛進を喰らった。
 ウリ坊の姿でも、痛いものは痛い。

『橋ねぇ。それじゃあ景観も大事にして、湖面の神殿に合うデザインにしてちょうだい』
『いいよー。うーん、うーん……こんなのはどうかな。えい!』

 ウリ坊がぴょこんと飛び跳ねると、地面がごごごごごっと揺れ始める。
 みんながわーきゃー叫ぶ間に、湖底の土が盛り上がって橋が作られた。
 石煉瓦のような造りの橋はアーチ状になっていて、湖面ギリギリのところを歩く感じになっている。
 遠目からだと、湖の上を歩いているように見えるかもしれない。
 そして両脇には大精霊の銅像も立っている。
 立っているのはいいんだけど――

「なんだよ、この変身ポーズみたいなのは。それにウリ坊の姿だと威厳とかなんにもないだろ」
『わかいいボク』
「おい、さっきから気になってたがよ、まさかそれ……いや、その仔イノシシ様は」
「あ、ギルドマスターたちにも見えてるのか。えぇっと、このウリ坊がベヒモス、く『ベヒモスくんだよ』ぐっ……です」

 今度は小さな蹄で足を踏まれた。痛い。

「お、お前……いったいどうなってんだ。二大大精霊と親密な関係なのかよ!」
『わたしもいるぞ』

 ぶおぉぉーっと風が舞い、湖の水を巻き上げ竜巻となる。
 その水竜巻が四散すると、マッチョロン毛ことジンが現れた。
 ついさっきまでベヒモスの頭の上にちょこんと座ってたのに、なんでざわざわそんな登場するんだよ。

「ま、まま、まさかジン!?」
『ふっ』

 ふっ、じゃないし。

「お、おお、おまっ」
「ついでに言うと、クラーケンとも友達になった」
「んなっ!?」
「実を言うと、サンゴの件はクラーケンに頼まれたんだ。密漁してる奴がいるからってさ。この砂漠に雨を降らせるためには、大量の水を蒸発させなきゃならない。サンゴを守るって条件で、それを許可してもらったんだ」

 若干嘘が含まれているけど、俺がサンゴを成長させた――とは言えないから、そこは伏せておく。

「大精霊と友達とか、まったく……ふざけた野郎だ」

 ふざけた、と言ってるわりに、ギルドマスターの顔は笑っている。

 橋を渡って塔に入ると、中は螺旋階段になっていた。
 もちろん、水がたんまり入っている。

『わたしが力を貸してやろう。この精霊石を使うといい』
「精霊石? どうやって使うんだ」
『こうだ』

 雫型の指先ほどの小さな石だ。その石をジンが、塔の内壁に押し当てた。
 すると水がドバーっと消えた。

『風――つまり空気を送り込んで、水を押し出すのだ』
『その分、水位が上がっちゃうね。少し橋の高さを高くしようっと』

 また地響きがして、橋の高さが変わった。

『この精霊石の力は、わたしが存在している限り続く。また愚か者対策として、決して動かせぬようにもしてある。もし壁ごと取り外そうとした場合――』
「した場合?」

 ごくり。
 ジンがニチャァっと笑う。

『水が一気に流れ込むだろう。その結果、この塔が破壊され、盗人は神殿の底に沈むことになる。くくくく』

 殺しにきてるううぅぅぅぅー!?

 振り向くと、それを聞いていた冒険者の皆さんの顔が青ざめていた。