きっとこれで最後なんですね、とつぶやくと、先輩は振り返って、なぁにそれ、と困ったように笑った。


 私と先輩の住む街には海がある。夏にはそこそこ賑わうけれど、冬に見る海は少し寂しい。あたりまえだけれど人はいないし、薄い色をした空をそのまま映しているせいで海面は暗く、風が吹くたびにざぁぁ……と恨み節のような音を上げて波が立つ。

 冬は嫌いだ。いっそのこと雪でも降ってくれたらいいのに、この街ではただ冷たいからっ風が吹くだけで、空は何の美しさも地上にもたらしてはくれない。手足はかじかんで霜焼けができるし、制服のスカートからのぞく素足には常に鳥肌が立っている。

 冬の海は孤独の色を濃くさせた。夏にはあれだけ人がいたのになぁ、なんて考えると、時間の流れる早さを感じてこわくなる。だから私は、海沿いを歩く時はなるべく海を見ないようにする。マフラーに首をすくめ、自転車を押しながら前を歩く先輩の長い髪をじっと見つめた。

 聞きたいことがたくさんあった。東京の冬は寒いでしょうか。離れても連絡をくれますか。また帰ってきたら会ってくれますか。尋ねようとはしてみるけれど、いざ口を開いたら何も言葉が出てこなくて、しかたなく口を閉じた。せっかく久々に二人で帰れるっていうのに、流れるのは沈黙と波の音だけ。

「もうすぐ(かさね)も受験生だね」

 会話の空白を埋めるように、やけに大きな声で先輩が言った。

「志望校、決まった?」

「……まだです」

「悩みとかあったら、何でも相談してね。累は私の唯一の後輩なんだから」

 唯一なのはそっちも同じでしょう。そう言いかけて、私はまた口をつぐんだ。