ビクッと肩をすくませてふゆ樹が押し黙ると、バスが二人の前で止まった。
完全な八つ当たりであることはわかっているが、それでも荒ぶる気持ちは抑えようがない。

ななは開いた扉からさっさとバスに乗り込むと、一人用の椅子に座ってマフラーを口元まで上げ、手にしたままだった文庫本を広げて視線を落とした。
やや遅れて乗ってきたふゆ樹は、どこか悲しそうな顔でななの後ろ、二人用の座席に腰を下ろす。


「……ねえ、なーちゃん」


思い切った様子で前の席に声をかけるふゆ樹だが、ななのページをめくる手は止まらない。


「ねえなーちゃん、なんで怒ってるの?」


聞こえているはずなのに振り返りもしない背中に、ふゆ樹は悲しげにシュンっと眉を下げると、諦めて窓の外に視線を移した。


「……言ってくれなきゃわかんないよ、なーちゃん」


後ろが静かになったところで、ななは読むともなしに開いていた文庫本を閉じて膝に乗せると、ずっと握りしめていたクッキーの袋を、音を立てないようにそっと開いた。


「ほんと……バカ」