「なーちゃん……どこか行くの?」


講義が終わり帰り支度を始めたななに、ふゆ樹は思い切って声をかけた。


「次の講義まで時間が空くから、どこかその辺で時間を潰す」


ふゆ樹の方を見ようともせず、言葉はそっけなく放たれる。
その様子に、ふゆ樹の胸は引き絞られるように痛んだ。


「じゃあね」


鞄と教科書を抱えて立ち去ろうとするななの腕を、ふゆ樹は咄嗟に掴む。


「待って……なーちゃん」


一人、また一人と講義室を去る中、二人だけまるで時間が止まったようにそこから動かない。


「離して」


冷たく放たれた言葉に、ふゆ樹は込み上げてきた涙を必死に飲み込んで、頑なにこちらを見ようとしないななの横顔を真っ直ぐに見つめる。


「なんでなーちゃんが怒っているのか、考えてみたけどわからなかった。でも、これだけはどうしても伝えたくて」


真摯なふゆ樹の言葉に、なながゆっくりと視線を動かす。久しぶりに、二人の視線がぶつかった。
それに勇気づけられるように、ふゆ樹はすっと一度息を吸ってから続ける。