後処理もテシアは考えていた。
もっと言えば盗賊に拠点があってまだ仲間がいることも考えて森の中を捜索した。
盗賊たちにあれ以上仲間はいなかったが森の中に小屋を立てて住んでいた。
中に置いてあった金品はテシアが持ち帰り、小屋は悪用されないために壊して燃やした。
「本当にありがとうございます」
「いえ、盗賊を倒したのは彼ですから」
「えっ、そんな……」
村人に奪われたお金を返して盗賊が倒されたことを伝えると感謝された。
宿の店主はまさか倒してしまったのかと驚いていた。
そしてテシアは盗賊を倒したのはキリアンだったということにした。
サラリとつかれたウソを村人たちは信じてキリアンをもてはやす。
村人たちの感謝を受けて今更違うのですとも言えなくてキリアンは曖昧に笑って誤魔化していた。
盗賊の拠点にも二人ほど死体があった。
半分をキリアンが倒し、残りの盗賊も形としてはキリアンが囮となったようなものである。
だから実質的にはキリアンが盗賊を討伐したと言っても問題はない。
「……なぜついてくる?」
テシアが立ち止まって振り返る。
言葉を投げかけた相手は隣を歩くハニアスではなく、テシアたちの後ろをついてきていたキリアンに向けてだった。
「まだ君たちにお礼をしていない」
「そんなものいらない」
小さく溜息をついて首を振る。
キリアンを助けたのは宿の店主のお願いを聞いたから。
言うなれば泊めてもらうことのお礼として助けたのだ。
お礼のお礼など必要ないのである。
「そういうわけにはいかない」
「それもやらねばならない善いことというやつですか?」
「そうじゃない。恩を返すことも善いことではあるが、それとは関係なく俺は受けた恩はちゃんと返す」
キリアンは真剣な目をしている。
世の女性たちがあのような顔と目で見つめられたらぜひついてきてほしいと言ってしまいそうなものだがテシアもハニアスも普通の女性ではない。
「……変なところで真面目なようですね」
キリアンという人となりはまだ分かっていないが真面目で正義感の強そうな人物であるということは分かった。
善きことが何なのかはイマイチ分からないがただそれだけで盗賊に挑んでいくことは難しい。
善きことは置いといて純粋に村人たちを助けたいという思いがあったことはテシアもハニアも認める。
だから恩を返すというのも本気で言っているのだと思うからめんどくさいとも思う。
「どうしますか?」
「まあ好きにするといい」
「いいのですか?」
「いいも何もどうしようもないからな」
迷惑でもかけられたのなら話は別であるがどう旅をするかは個人の自由である。
ついてくることもたまたま同じ方向に進んでいるのだと言われれば止めようもない。
ただ大人しくついてくるだけなら自由にさせておく他に方法がないのである。
ちょっとだけ子犬みたいだなとテシアは思った。
少しお世話してあげたら懐いてしまい、後ろをくっついて歩いてくる子犬のよう。
見た目的には大きな黒犬だけれども。
「……テシア様はやっぱりお優しいですよね」
「はい?」
「いえ、テシア様がお優しい方だなと思って」
「急になんだよ……」
テシアは合理的だ。
何をするのにもしっかりと考えて無駄がないように行動している。
しかしその一方で利益だけ考えることはない。
キリアンのことだってそうだ。
状況を見た時にハニアスは不覚にもいかに見つからないように逃げるかを考えた。
人数は倍もいる。
知らない男を助ける利益など何もない。
けれどテシアは利益ではなくまず助けられるかどうかを考えていた。
口では相手の方が優位なら見捨てると言いながらもあの状況でテシアはどう助けるかをまず考えたのだ。
合理的ではあるのだが助けることを優先して、その中でどうするのかを考えたことにハニアスはテシアという人を見た気がするのである。
連れ帰ったキリアンのことだってテシアはしっかりと看病した。
こちらも助けて連れ帰った責任があるからと言うが、それこそ宿の店主なりに任せてもよかったはずである。
いざとなれば見捨てるのかもしれない。
けれどそのラインを越えるまではテシアは人を助けようとする。
「大主教様がテシア様を優しいお方だと言っていた理由が分かりました」
今も結局キリアンがついてくることを許している。
本気で拒絶すれば真面目なキリアンはついてこなくなるだろうに。
さらにはいつもよりも歩みが遅い。
それはキリアンの怪我を心配してペースを落としているのである。
「大主教が? なんて言っていたんだい?」
「えーと……あの子は頑張り屋さんで優しい子だよ、と」
「んふ……それ、大主教のマネですか?」
「ええ、似ていると言われるんです」
「確かに……くく……似てる」
言葉とは裏腹に無表情なのもまた面白い。
ハニアスの思わぬ特技にテシアは笑いが止まらない。
「敬虔な信仰心は敬虔な肉体から」
「あははっ! 似ているよ!」
「今日のトレーニングは器具を使おうか……」
「や、やめてくれ!」
少しハニアスもニヤリと笑っている。
蚊帳の外のキリアンは少し後ろから何をしているのかとシュンとした顔で見ていたのであった。
もっと言えば盗賊に拠点があってまだ仲間がいることも考えて森の中を捜索した。
盗賊たちにあれ以上仲間はいなかったが森の中に小屋を立てて住んでいた。
中に置いてあった金品はテシアが持ち帰り、小屋は悪用されないために壊して燃やした。
「本当にありがとうございます」
「いえ、盗賊を倒したのは彼ですから」
「えっ、そんな……」
村人に奪われたお金を返して盗賊が倒されたことを伝えると感謝された。
宿の店主はまさか倒してしまったのかと驚いていた。
そしてテシアは盗賊を倒したのはキリアンだったということにした。
サラリとつかれたウソを村人たちは信じてキリアンをもてはやす。
村人たちの感謝を受けて今更違うのですとも言えなくてキリアンは曖昧に笑って誤魔化していた。
盗賊の拠点にも二人ほど死体があった。
半分をキリアンが倒し、残りの盗賊も形としてはキリアンが囮となったようなものである。
だから実質的にはキリアンが盗賊を討伐したと言っても問題はない。
「……なぜついてくる?」
テシアが立ち止まって振り返る。
言葉を投げかけた相手は隣を歩くハニアスではなく、テシアたちの後ろをついてきていたキリアンに向けてだった。
「まだ君たちにお礼をしていない」
「そんなものいらない」
小さく溜息をついて首を振る。
キリアンを助けたのは宿の店主のお願いを聞いたから。
言うなれば泊めてもらうことのお礼として助けたのだ。
お礼のお礼など必要ないのである。
「そういうわけにはいかない」
「それもやらねばならない善いことというやつですか?」
「そうじゃない。恩を返すことも善いことではあるが、それとは関係なく俺は受けた恩はちゃんと返す」
キリアンは真剣な目をしている。
世の女性たちがあのような顔と目で見つめられたらぜひついてきてほしいと言ってしまいそうなものだがテシアもハニアスも普通の女性ではない。
「……変なところで真面目なようですね」
キリアンという人となりはまだ分かっていないが真面目で正義感の強そうな人物であるということは分かった。
善きことが何なのかはイマイチ分からないがただそれだけで盗賊に挑んでいくことは難しい。
善きことは置いといて純粋に村人たちを助けたいという思いがあったことはテシアもハニアも認める。
だから恩を返すというのも本気で言っているのだと思うからめんどくさいとも思う。
「どうしますか?」
「まあ好きにするといい」
「いいのですか?」
「いいも何もどうしようもないからな」
迷惑でもかけられたのなら話は別であるがどう旅をするかは個人の自由である。
ついてくることもたまたま同じ方向に進んでいるのだと言われれば止めようもない。
ただ大人しくついてくるだけなら自由にさせておく他に方法がないのである。
ちょっとだけ子犬みたいだなとテシアは思った。
少しお世話してあげたら懐いてしまい、後ろをくっついて歩いてくる子犬のよう。
見た目的には大きな黒犬だけれども。
「……テシア様はやっぱりお優しいですよね」
「はい?」
「いえ、テシア様がお優しい方だなと思って」
「急になんだよ……」
テシアは合理的だ。
何をするのにもしっかりと考えて無駄がないように行動している。
しかしその一方で利益だけ考えることはない。
キリアンのことだってそうだ。
状況を見た時にハニアスは不覚にもいかに見つからないように逃げるかを考えた。
人数は倍もいる。
知らない男を助ける利益など何もない。
けれどテシアは利益ではなくまず助けられるかどうかを考えていた。
口では相手の方が優位なら見捨てると言いながらもあの状況でテシアはどう助けるかをまず考えたのだ。
合理的ではあるのだが助けることを優先して、その中でどうするのかを考えたことにハニアスはテシアという人を見た気がするのである。
連れ帰ったキリアンのことだってテシアはしっかりと看病した。
こちらも助けて連れ帰った責任があるからと言うが、それこそ宿の店主なりに任せてもよかったはずである。
いざとなれば見捨てるのかもしれない。
けれどそのラインを越えるまではテシアは人を助けようとする。
「大主教様がテシア様を優しいお方だと言っていた理由が分かりました」
今も結局キリアンがついてくることを許している。
本気で拒絶すれば真面目なキリアンはついてこなくなるだろうに。
さらにはいつもよりも歩みが遅い。
それはキリアンの怪我を心配してペースを落としているのである。
「大主教が? なんて言っていたんだい?」
「えーと……あの子は頑張り屋さんで優しい子だよ、と」
「んふ……それ、大主教のマネですか?」
「ええ、似ていると言われるんです」
「確かに……くく……似てる」
言葉とは裏腹に無表情なのもまた面白い。
ハニアスの思わぬ特技にテシアは笑いが止まらない。
「敬虔な信仰心は敬虔な肉体から」
「あははっ! 似ているよ!」
「今日のトレーニングは器具を使おうか……」
「や、やめてくれ!」
少しハニアスもニヤリと笑っている。
蚊帳の外のキリアンは少し後ろから何をしているのかとシュンとした顔で見ていたのであった。