「まあいい。それだけ元気なら神聖力も必要はないだろう。ハニアス、包帯を変えて……」

「ま、待ってください!」

「……なんだ?」

「その……そちらの女性ではなくあなたにお願いできませんか?」

「僕に?」

「はい……出来ればそちらの方には部屋も出ていただきたく」

 テシアとハニアスは視線を合わせた。
 キリアンはテシアを男だと思っているみたいだった。

 そして女性であるハニアスではなく男だと思っているテシアに包帯を変えてほしいらしい。

「……分かった。ハニアス、出ていてもらえるか?」

「分かりました」

 小さくテシアがため息をつく。
 キリアンの行動も理解が出来ないものじゃない。

 テシアの兄弟も3人とも顔は良かった。
 お近づきになりたい女性も多く、そのためにいらぬ自衛を強いられることもあった。

 キリアンも顔がいいので女性と過去に嫌なことでもあったのかもしれないと思い、テシアはキリアンのお願いを受け入れることにした。
 ハニアスが出ていくと上着を脱いだキリアンの包帯をテシアが外し始める。

 手も見えないように革の手袋を身につけているので少し作業がしにくい。

「もう塞がりかけているね。このまま安静にしていればすぐに治るだろう」

 包帯を外して傷の様子を確認する。
 若いからか治りが早く、傷は塞がりつつあった。

 濡らしたタオルで傷周りを清潔にしてやって再び包帯を巻いていく。
 その間に目に入るのはキリアンの背中だった。

 鍛えられていて良い体をしているのだがそうした理由からではない。
 キリアンの背中の左半分にまるでイレズミのような黒い模様が広がっていた。

 最初はそうしたヤンチャな人なのかと思ったのだけれどテシアはそれが体に刻み込んだ遊びのものではないと感じていた。

「何も聞かないのですね」

「聞いたらこれが何なのか教えてくれるのか?」

「いえ……それはお答えできません」

「なら聞かない」

 人には人の秘密がある。
 ハニアスに見せたくないということはきっと秘密にしたいようなものであるのだろう。

 聞いても答えなさそうだから聞くつもりはなかった。
 聞いても答えないと言うのなら黙っていればいいのにとテシアは思った。

 盗賊の人数が多くて正面からぶつかっていたから負けただけでキリアンの体はがっしりとしていて鍛えられていて強そうだった。
 怪我をした状態でも盗賊を二人あっという間に倒したことを考えると決して弱くはない。

「ほら、これで終わりだ」

「うっ!」

 包帯を巻いてぱしんと背中を叩く。

「てて……改めてお礼を。ありがとう」

「お礼を言うのなら宿の主人にすればいい。あんたを止めに行ってほしいと言ったのは彼だからな」

「彼にも心配をかけてしまった……謝らねばならないな」

「あとは善きことをするのは別にいいがちゃんと考えて行動するんだ。短絡的なやり方じゃなく、もっと良い解決法がないか立ち止まって考えてちゃんと周りを助けてこそ善行になる」

 ただその場限りで助けておしまいでは終わらない問題も沢山ある。
 問題を解決したつもりで、それがより大きな問題につながってしまうこともある。

 善行として人を助けるのは良いけれど、ただ目の前の問題に正面から助けるだけがその人にとっての助けとはならない可能性があることも考えておかねばならないのだ。

「そのお言葉、胸に刻みます」

「熱も下がったようだし、もう少し休むといい。僕も疲れた」

「あ……」

 キリアンはふと自分の横に落ちているタオルに視線を落とした。
 怪我が原因で熱が出ていたキリアンをテシアが看病してくれていたことに今更ながら気がついた。

「これも……ありがとうございました」

「ふふ、どういたしまして」

 タオルを手にキリアンは再びお礼を告げた。
 表情は分からないけれどヘルムの隙間から見える目が優しく笑っていることだけはキリアンにも見えていたのであった。