没交渉とすることが発表され、国は一応の落ち着きを取り戻した。

 回廊の発生から二年後、友好的な不可侵であるという証明のために、極秘に代表者の婚姻が行われることになった。

 迷惑な話だ、と静穂は思う。おかげで自分は花帆とすり替わり、日本代表としてあやかしと結婚するはめになった。極秘結婚なので、沙彩は『花帆』が既婚であることを知らない。

「これからはあやかしを本格的に勉強する学科もできるのかな」
 沙彩がランチのハンバーグを食べながら言う。

「今まで交流はなかったんだし、そのままで良かったんじゃないかなあ」

「もと退魔師の家系としては気になる?」
「関係ないよ。亡くなった祖父が退魔師だったけど、お父さんもお母さんも普通の人だし」
 静穂は答えた。

「退魔師も国家資格にして警察組織に編入するとかなんとか噂があるけど」
「国交ができたら、あやかし専門の警察も必要になる……のかな」

「あやかしって、ようは妖怪よねえ」
「妖怪ってたくさん種類があって、覚えるの大変。今からテストが心配。豆腐小僧なんて、どうして豆腐を配り歩くのか謎で仕方ない」
 静穂はうんざりと言う。

「雷獣なんてけっこうドジだよね。雷と一緒に落ちてくるなんて」
 沙彩が苦笑する。

「だよね。けがとか大丈夫なのかな」
「あやかしだから頑丈なんじゃない?」
「推察が雑」
 今度は静穂が苦笑した。

「ただただ驚かす系の妖怪って多いよね」
「昔の人が不思議な現象を妖怪のせいにしていたらしいけど。ほんとに驚かしてたなら愉快犯だよね」
 静穂は答える。

「人食いとか病気をもたらす事実はないっていうけど、本当かな。国交正常化に向けて、イメージ戦略もすごいみたいだけど、反対派もいるし」

 そこまで言って、あ、と沙彩は目を輝かせる。

「昨日の『退魔師の恋』見た?」
 女性に人気のアニメだ。