この(やしき)がある池之端は上野のお山下にあたるので、時折ゴリラか森の人か知らんが咆哮が聞こえる。
 不忍池も近いので、ゆりカモメらしき鳴き声も。
 正直、何を訴えているのか甚だ分からん(同し畜生だろ?とは横暴といふものである)ので、気にもしてなかったが……。


 朝の散歩で山裾を飛んでいると、精養軒から漂う芳しい匂いに紛れて、またも某かの獣臭と咆哮が届いた。
 猛獣かな? 誰向けのアピールなのか。
 哀しげな色は無いのに、勝手に切ない心持ちになってしまう。
 自由に外を飛ぶ我が身と囚われの獣たち……。

()き家で声嗄らす』とは思いたくないが――。
《努力しても報われない事のたとえ。空き家で大声あげてもねえ……》。


 なんの!
『秋やで(ミル)マスカラス!』でどうだ! ※1

『千の顔を持つ男!』

 私は心中を振り切るように叫んだ。
 おお、脳内で「スカイ・ハイ」が流れ出したぞ。♪ブローン……。※2

 まさに今、私はスカイ・ハイ。

「ドスカラス! ドスカラス!」

 そりゃ弟だな。
 てかいたの? メリーアン。早起きじゃないか。
 お前、動物園て行ったことある?

「アイウォクダサ……ヒッ!」※3
『wow wow!』

 また古い歌を。つられるじゃないか。

「タイサホウコク!」

 おお、そうか。
 では一休みしよう。


 不忍池畔のガードレールに降り立つ。
 朝陽を反射して水面(みなも)が眩しすぎる。
 目がチカチカするなか、目の前をジョギング男性が黙々と走り抜けた。
 ……ああいうの、何の効果があるのだろうな。
 ジョギングは脳に悪影響――確か、Dr.●松が仰っていたと思うが。


 メリーアンが邸内をうろちょろして集めた情報――。
 大旦那が○○ちゃんと接近したのは、ここ一年ほどらしい。

 ふむ。
 して、その、二人は何処まで……。

「シェイクハンド! PK(ピーケー)!」

 は? 謎なぞか? ちょ、松丸くん呼んで来いっ!

「エ、エト、ジャパニーズ、ズ……フルート……」

 ……わかった、皆まで言うな。生々しいから。遠回し乙。
 お前、勉強(?)したんだな。
 申し訳ない、妙な調査させて。

「ヘイキ・サー!」

 黄色が過ぎてアレだが。
 照れたようにメリーアン赤面(多分)。


 大旦那、未だ枯れず、か。
 だが、「立つんだ! ジョ~!」とはいかないらしい。
 70(歳)近いしな。お盛んなことだが。

 誰それの色恋に興味はない(若を除く)。
 が、複雑な相関図を眺め・妄想するのは、ちよと面白そうだ。

「ワルイカオシテル!」

 ままならぬ老人の性――重いな。

 我々は、まだ自由なハズだ。
 
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※1 メキシコ出身の元プロレスラー。人気絶大なマスクマンでした
※2 マスカラスの入場曲。イギリスのバンド『ジグソー』による、同名の映画主題歌……とのこと。
※3 『ZOO』(エコーズ)。