翌朝、案の定俺は毒消しの丸薬を飲む嵌めになっていた。
一度南半球に帰り、風呂とサウナを満喫した。
頭と身体をリセットしたかったからだ。
朝から風呂とサウナを決め込む俺に、ランドが心配そうな顔をしていた。
宴会明けはこんなもんさ。
どうやらしこたま飲まされた俺は、ゴブリン達と雑魚寝をしてしまっていたらしい。
ロッジの一室で眠りこけてしまっていた。
朝起きた時には、俺の周りに多くの女性のゴブリン達が寝ていたことに驚いてしまった。
何もなかったよね?
たぶん・・・うん無いと思う。
なにより俺の隣にノンとギルが居たから、おいたは無いだろう。
セーフ!
おー怖!
それにしてもさっぱりした。
やっぱり風呂とサウナは格別だね。
身体と頭がシャキッとしたよ。
島野一家を連れて、俺はゴブリンの村に向かった。
ゴブリン達は今日もせっせと働いている。
するとゴブオクンが俺を見つけて駆け寄ってきた。
「島野様!大変だべ!頭が痛いし、気持ち悪いだべ!おら病気だべか?おら死ぬだべか?」
と騒いでいた。
ただの二日酔いだっての。
煩い奴だな。
俺は胃薬と、毒消しの丸薬を渡してやった。
三十分後には回復したゴブオクンは、
「おら復活だべ!」
と大騒ぎ。
例の如くゴンに叱られていた。
やれやれだ。
俺はゴブコを探した。
脚踏み式のミシンが赤レンガ工房に眠っているのを思い出し、持ってきたからだ。
「おーい!ゴブコはいるか?」
「はーい!ここに」
ゴブコが駆け寄ってくる。
ブルンブルンと揺れる胸に視線が向きそうになる。
駄目だ、セクハラは良くないぞ。
反射的に見てしまうのはセーフにしてくれ。
これ男の性。
治るもんじゃない。
「脚踏み式のミシンを持ってきた、使ってくれ」
「嬉しい!島野様大好き!」
嬉しい事を言ってくれる。
俺は上機嫌で脚踏み式ミシンの使い方を教えた。
ゴブコは熱心に解説を聞いていた。
そしてやはり知能の高さが光る。
俺の拙い解説のみで、既にミシンの構造や使い方をゴブコはマスターしていた。
こいつ天才か?
もう数台欲しいと言われたので、三台ほど造っておいた。
これで服飾の生産性が格段に上がるだろう。
これでまた格段に文明が発達したのは間違いない。
もはや衣食住は手に入れた。
あとは焦らずにブラッシュアップを行っていこう。
進化するこの村に俺は喜びを隠せなかった。
そして俺はプルゴブを呼び出した。
「プルゴブ、何人か使って岩を八個ほど集めて来てくれ、大きいに越したことはないが、無理はするなよ」
「は!お任せくださいませ!」
というのも、俺はお地蔵さんを設置することを考えているのだ。
北半球初のお地蔵さんだ。
ゴブリン達に『聖者の祈り』が出来るかは分からないが、あったに越したことはないだろうと思う。
俺は待っている間、手持無沙汰になり、ホバーボードを造ることにした。
ランドールさんが建設現場で使っていると言っていたからね。
これで作業効率があがることだろう。
手慣れたもので、速攻で十個造った。
後はギルに渡して、魔石に浮遊魔法を付与してもらうだけだ。
建設現場に立ち寄りギルにホバーボードを渡す。
理解の早いギルは俺が何も言わずとも、魔石に浮遊魔法を付与し、ゴブリンの作業員達に説明を行っていた。
出来た息子で助かりますなあ。
ええ子じゃな。
親バカでごめん。
そうこうしていると、プルゴブ達が岩を持ってきた。
「島野様、どうなさるおつもりで?」
「ああ、お地蔵さんを造ろうと思ってな」
「お地蔵さんとは?」
「まあ見てろ」
俺は『加工』でサクッとお地蔵さんを造る。
その様を見てプルゴブが慄いていた。
「なんと、石像が一瞬にして・・・」
「これはなプルゴブ、創造神様だ」
プルゴブが首を傾けている。
「創造神様?はて?」
あれ?創造神様を知らない?
「創造神様は一番偉い神様だぞ」
「そう言われましても・・・実感が湧きませんな。威厳のあるお姿をしているのは分かりますが・・・」
これは期待はずれか?
とても『聖者の祈り』は発動出来ないだろう。
でも試してはみよう。
「プルゴブ、この石像に祈りを捧げてみてくれないか?」
「はあ、そんなことでよろしいのですか?」
「ああ、頼む」
「分かりました」
プルゴブは跪き両手を合わせて祈りを捧げた。
『聖者の祈り』は発動しなかった。
駄目か・・・ん?待てよ・・・
実感が湧かないと言っていたよな、もしかして・・・
自分で言うのもなんだが・・・
「プルゴブ・・・この石像を俺だと思って祈ってみてくれないか?」
「は!畏まりました!」
気合の入ったプルゴブが祈りを捧げた。
すると・・・
おいおいおい!
神気が放出されてるじゃないか?
マジか?
「おお!これは凄い!」
プルゴブは大喜びだ。
「おい、お前達!この石像を島野様だと思って祈りを捧げてみるのだ!」
近くにいたゴブリン達が祈りを捧げた。
神気が濛々と立ち上っている。
嘘だろ?
メタン並みじゃないか!
神気発生装置がここに誕生した。
何ということだ・・・
俺はお地蔵さんをあと七体造り、村の周りを覆う様に正八角形に配置した。
樹齢千年の樹がある訳ではないので、結界が張られないことは分かっているが、それが良いと感じたからだ。
その後『聖者の祈り』がゴブリン達の間で大ブームになった。
正直ありがたい。
というのも、北半球は南半球に比べて神気が薄いと感じていたからだ。
俺は始めてこの異世界に来た時に感じた神気の薄さよりも、神気が薄いと感じているぐらいだ。
実際ギルも同様のことを言っていた。
やはりこの北半球に神気を減少させている何かがあるのは間違いなさそうだ。
早くその答えに辿り着きたいが、焦りは禁物だ。
一歩一歩着実に進んで行きたい。
闇雲に進むべきではない。
今はまず魔物の同盟国を設立するのが先だ。
その後、建設現場を手伝って、俺達はこの日を終えた。
翌日。
ソバルがオークの首領とコボルトの首領を伴って現れた。
ソバルは今日もソモサンとセッパを引きつれている。
こいつらも、もはや手慣れたもので、俺を見てニコニコしている。
ウィース、とでも言いそうだ。
首領達も、二人づつお付きの者を引きつれていた。
俺は『結界』を解いて、両者を迎えることにした。
今後はもう結界は必要ないだろう。
俺はギルと、プルゴブとで対峙する。
俺を見つけるなり、オークとコボルトの首領がいきなり土下座をした。
「モウシワケ、ゴザイマセン!」
「ゴメンナサイ!」
スライディング土下座だ。
膝が擦りむけている。
痛そう。
ちょっと待て、違うだろ。
「おい!ソバル!お前何を教えているんだ?」
敢えて俺は言い放った。
俺の意を汲んだソバルが、
「へい!島野様!申し訳ございません!お前達、謝る相手を間違えるな!島野様では無く、ゴブリン達に謝るべきじゃろうが!そんなことも分からんか?!」
と言うと。
はっと頭を挙げた二人は、プルゴブに頭を下げた。
だがそうはいかない。
ギルも憤然としている。
「違うよ」
「足りませんな」
プルゴブの言う通りだ。
「そうだな、プルゴブ。お前の言う通りだ、全員集めて来い」
「は!」
ゴブリン達が全員集まってきた。
狩りに出ている者達も全員集まっている。
手には武器が握られていた。
オークとコボルトにしたら、途轍もないプレッシャーだろう。
建設作業に従事していた者達は、大工道具を肩に乗せているしな。
二人はワナワナと震えていた。
お付きの者達は今にも泡を吹いて失神しそうだ。
「「ゴベンナサイ!!!」」
オークとコボルトの首領の声が響き渡った。
もはや慟哭だ。
お付きの者達も土下座をしていた。
それにしても土下座が様になっているな、さてはソバルの奴の入れ知恵だな。
「フン!」
「まあいいだろう」
「二度とするなよ!」
「俺達は島野様の教えに従うのみだ!」
「そうだぞ!感謝しろよ!」
ゴブリン達は寛容に受け止めていた。
誰一人として俺の意に背く者はいなかった。
でもまだ気は抜けない。
いつ怒りが再燃するかは分からない。
だが俺はゴブリン達を信じることにした。
こいつらは俺を裏切らないだろう。
何となくそんな気がする。
俺も甘いな。
もう愛着が沸いてしまっている。
「さて、それでソバル。まずはこいつらを立ち上がらせてくれ」
「へい!」
ソバルは二人を立ち上がらせていた。
二人は申し訳なさそうに下を向いている。
「お前達、俺を見ろ」
二人は俺に向き直った。
今にも泣き出しそうな眼をしていた。
一度だけビビらせてやろう。
「フン!」
俺は神気を纏って、二人を睨みつけた。
「アア!」
「ウグ!」
と慄く二人。
膝がガクガクと震えている。
直視できることも無く、顔を背けている。
「おい!」
「ちゃんと見ろよ!」
「目を背けるな!」
ゴブリン達が騒いでいる。
まぁ、こんな事が意趣返しになる訳ではないが、これでゴブリン達の溜飲が少しでも下がるのならそれでいい。
ちょっと大人気ないか?
俺は神気を纏うのを止めた。
ちょっと気が晴れた気がする。
俺は知っていた。
こいつらの部下がこっそりとゴブリンの村を覗いていたことを。
そうなるだろうと思ったから、敢えて結界の外から見える場所で食事をし、風呂を造ったのだから。
文明を見せ付ければ格の違いを知るだろうと考えたからだ。
その予想が当たっていたことは、この二人を見れば分かる。
もはやゴブリンの村は脅威でしかないだろう。
そしてこの村の文明に憧れを抱いたはずだ。
あわよくばその文明を享受したいと。
それにソバルからいろいろと聞かされてもいるだろう。
ソバルのことだ、相当ビビらせているに違い無い。
企業舎弟だからね。
さて話を進めようか。
「お前達、まずは名を与えてやろうと考えているが、居るか?」
「オネガイシマス」
「アリガトウゴザイマス」
だろうな。
恐怖の眼から羨望の眼差しに変わっていた。
ゴブリン達からは、誰一人として反対する視線は感じなかった。
どうしようか?
オークの首領だからな。
分かり易くいこう。
「オークの首領よ、お前はこれからオクボスを名乗れ」
俺から神気が流れ出す。
オクボスが神気に包まれた。
「は!拝名致します!」
オクボスが跪いた。
次はコボルトか・・・
コボボスは言いづらいな・・・
「よし、お前はこれよりコルボスを名乗れ」
俺から神気が流れる。
コルボスを神気が包み込む。
「は!承知いたしました!」
コルボスも跪いて頭を垂れた。
ここで名付けは一旦終了。
お付きの者達はまた今度だ。
二人は体形こそあまり変化が無かったが、その眼には知性が宿っていた。
そして二人は泣いていた。
地獄から一転天国だからな。
安堵の気持ちを抑えられないのだろう。
そして儀式が執り行われることになった。
プルゴブ、ソバル、オクボス、コルボスによる五分の盃の儀だ。
俺はこの儀式用に準備した、ゴブスケが造った盃を手渡す。
四人は大事そうに盃を受け取る。
俺は『収納』から日本酒を取り出し、四人に注いでいく。
俺はこの場にいる全員に聞こえる様に言った。
「いいかお前達!今この時からお前達は五分の兄弟分だ、その誓いは血よりも濃いものであると肝に命じろ、兄弟を助け、支え合い、共に生きるのだとここに誓え。種族こそ違えど、お前達は魂を分け合った兄弟であると心に刻み込め。いいな!」
「「「「は!」」」」
四人は一気に飲み下した。
「「「「「「おおおおおお!!!!!」」」」」」
大歓声が巻き起こった。
ゴブリンの村が揺れていた。
まるで地響きだ。
拍手喝采が巻き起こっていた。
またも大騒ぎだ。
これにて魔物同盟が締結された。
モエラの大森林に新たな勢力が誕生した。
これによりモエラの大森林に新時代が訪れようとしていた。
ギルが駆け寄ってきた。
「パパ、やったね」
ギルは笑顔だ。
「作戦通りだな」
「作戦?」
「ああ」
俺はギルに説明した。
俺が仕掛けた作戦はこうだ。
『ランチェスター戦略からのなし崩し的な盃、更に文明見せびらかし作戦』だ。
長いよね・・・作戦名。
まずは全てのゴブリン達に知力を与えて、個の力を強くする。
そうすることによって、どの勢力でも太刀打ちできないようにする。
これすなわちランチェスター戦略だ。
強い個が弱い個を撃破していく戦法だ。
そうした上で、なし崩し的に首領による五分の関係を締結させ、上下関係を無くさせる。
恐らくはオークもコボルトもオーガも、全員名付け終えてしまえば、その勢力はゴブリン達を凌ぐだろう。
だが一度知力を得てしまったら最後。
俺の教えに背いて神罰を受けようなんて考える奴は一人もいないはずだ。
それに気づいたとしても、もう遅いのである。
更に文明を見せつけることで、格の違いを分からせ。
文明を享受したいと思わせる。
その為には和睦するしかない。
我ながら完璧だな。
もっと褒めてくれてもいいのだよギル君?
「そうか・・・パパはそうやって争いごとを収束させたんだね」
その通りです。
「そうだ、力に力では意味が無い。俺は文明と名づけを上手く利用したんだ」
「そうか・・・文明か・・・」
ギルは考え込んでいた。
「少しでも参考になったか?」
「うん」
「そうか、よかったな」
少しは父親の背中を見せられたようだ。
これを得てギルがこの先どうしていくのかは見守るしかないだろう。
でもこれで大きなヒントは与えられたはずだ。
何も解決策はど真ん中に答える必要はないのだ。
力に対抗するのは、力では無いのだと。
それを学んでくれたなら俺は本望だ。
まだまだ先は長い。
これからについて魔物同盟で会議が行われることになった。
議題は多岐に渡る。
魔物同盟の今後を左右する重要な会議だ。
議長はソバルが務めることになった。
これは俺が指名した。
だが議長とは言っても、決して魔物同盟の代表では無い。
あくまで話し合いのファシリテーターでしかない。
四人が五分の関係であることに変わりは無いのだ。
話し合いが円滑に上手くいく為の処置でしかない。
俺はアドバイザーとして同席している。
俺は席を外して、後で報告のみ聞こうと思っていたのだが、プルゴブとソバルからどうしても同席して欲しいとお願いされてしまった。
初めてのことで不安があるのかもしれない。
でも俺は極力口は挟まないつもりだ。
たぶん・・・
ソバルが仕切り出す。
「兄弟達、議題は多岐に渡る。長丁場になるかもしれないが、今後の魔物同盟の行く末に関わる会議じゃ。気を引き締めて話合おうぞ」
「分かっておる」
プルゴブが答える。
オクボスとコルボスも頷いていた。
全員真剣な表情を浮かべている。
「まず我らは何処で居住を構えるか、からじゃな」
「それは考えがある、いいかな兄弟?」
プルゴブが先導する。
「プルゴブの兄弟、話してくれ」
「いいか兄弟達、まずこのゴブリンの村は島野様の指導の下、文明が発展し出している。それは今後も然りだ」
三人が頷く。
「そこでこれを参考に各集落の中心に、国を築くのはどうだろうか?」
「なるほど」
「中心という事は中間地点ということだな?」
「そうだ、今の各自の集落は場合によっては取り潰しても良いのかもしれん。新たに造るのがいいと思う。既に建設や農業、狩りや衣服の製作に関しての知識は、島野様や聖獣様から教わっておる。もはや衣食住に困ることは無い。これらの技術を兄弟達の配下に伝えていけば、時間は掛かるかもしれないが、国として認められる程の街が出来ると思うのだが。ソバルの兄弟はどう思う?」
「プルゴブの兄弟がいう通りじゃろう、儂らには島野様一行という力強い後援者がおる。学びの場を提供してくれておるのだ。命一杯学ばせて頂こうぞ」
おいおい、俺達だのみでは駄目だぞ。
だがせっかくだ。
少し口を挟ませて貰おう。
「お前達、ちょっといいか?」
「何でございましょうか?」
「まず、川は何処にある?それと海岸はあるか?」
「川は俺達の村の側にあります」
オクボスが答える。
「その川には魚は生息しているか?」
「はい、ですが上手く魚を取るすべがございません」
「そこは俺達が教える」
「有りがたき幸せ」
オクボスが頭を下げる。
「海岸はコボルトの村から離れたところにございます」
今度はコルボスだ。
「分かった。となると海産業もいけるな」
「海産業でございますか?」
コルボスが期待に満ちた表情をしていた。
「ああ、こちらもちゃんと教えてやるから安心しろ、因みにコボルト達は泳げるのか?」
「泳ぎですか?試したこともございません」
「一度トライしてみるか?」
全員泳ぎも教えないといけないな。
「これで新たにまた盤石な食の基盤が出来上がりますな」
ソバルは嬉しそうだ。
「海産業とは魚ですか?」
プルゴブからの質問だ。
「魚だけじゃないぞ、貝や海藻、蟹や海老等もあるぞ。海や川は食の宝庫だぞ。それに海藻や海苔も造れる」
「おお!宝庫でございますか?」
「そうだ、漁のやり方を教えてやるし、船の作り方も教えてやる。海苔の作り方もな」
「なんと・・・そこまで」
「それはありがたい」
「更に文明が上がりますな」
「泳ぎをまずは覚えませんと」
全員やる気になっている。
良い傾向だ。
「話を戻そうか」
全員が頷く。
「はい」
「お願いします」
「どうぞ」
「助かります」
全員が活き活きとした表情をしている。
次に移ろう。
「まず新しく造る街だが、川から水を引き込んで、上下水道を完備させる」
「上下水道でございますか?」
「ああ、そうだ」
俺は上下水道について解説した。
全員が真剣に話を聞いている。
時々質問を交えながらの話となった。
特にオクボスが上下水道に興味があるみたいで、際立って質問を行っていた。
建設に関してはこいつに任せた方がいいのかもしれないな。
「造るのは難しいようですが、完成したらこんな便利な物はなさそうですね」
「全くだ、是非とも完備させたい」
「これぞまさに文明ですな」
「井戸を掘れただけでも充分だと考えておりました」
各自思う処があるみたいだ。
「実はな、この上下水道を造る一番の理由は健康被害に直結するからなんだ」
全員が不思議そうな表情をしている。
「なんですと?」
「健康に?」
「なぜ?」
「本当に?」
俺は話を受けて解説を始める。
「ああ、まず健康被害になる一番の原因は清潔感にある。だから俺は一番初めにゴブリン達に村の掃除をさせた」
「そうでしたな」
プルゴブが頷く。
「でもそれだけでは不十分なんだ。一定の清潔感は得られたが、やはり排泄物などもより清潔に取り扱う必要がある。今のゴブリンの村のトイレは半水洗式だ、これを機に完全水洗式にするほうがより清潔だ。清潔イコール健康ということなんだ。病気の原因のほとんどが不衛生から発生するものだ。それに飲み水は綺麗である必要がある。目には見えないが、小さな微生物などが潜んでいる可能性がある、そんな水を摂取すると腹を壊したり、病気になる可能性がある」
全員が眼を見開いている。
「そんなことが・・・」
「なんと・・・」
「目に見えない生物・・・」
知らない知識に驚愕しているみたいだ。
「今ではゴンが浄化魔法を教えているから、オークやコボルトもゴンから教えを乞うがいい」
「「は!」」
そしてここからが大事な所だ。
「そして俺は全員に名づけを行うつもりだ」
全員が驚愕していた。
「なんと!」
「島野様!」
「よろしいので?」
「嘘?」
どうやら考えられない事態のようだ。
「島野様のお身体に障るのでは?」
「身体に障る?」
俺は全然大丈夫だと思うのだか?
「はい、儂に名を授けて頂いた神様は、儂に名を与えるのが精一杯とおっしゃっておりました」
「そうなのか?」
「ええ・・・」
「大丈夫だろう、俺はゴブリン全員に名付けたけど何ともなかったぞ」
未だ計測不可だしね。
「確かに・・・」
ソバルは何とも言えない顔をしていた。
「俺のことはいいとして、そうする必要があるだろ?」
「必要でございますか?」
「ああ、これからお前達は建設を中心とした多くの作業や知識を得ないといけない。知力を得ない訳にはいかないだろう?」
会話も儘ならないでは支障があるからね。
「ですが・・・」
心配してくれるのはありがたいことだが、そんなことには構ってられないだろう。
「これは決定事項だ、俺はお前達全員に加護を与える!」
「「「「は!」」」」
四人が席を立ち、跪いて頭を垂れた。
どうせ俺の神気量は計測不能から変わらないだろう。
最悪の場合『黄金の整い』をしに日本に帰ってもいい。
俺は全員を着席させた。
そして話を先に進める様に促した。
「後は役割を決めてみてはどうだ?兄弟達よ」
ソバルが先導する。
「そうだな、儂もそう考えておった」
「役割となると何があるのだ?」
「兄弟、それはまずは建設、農業、先ほど島野様が仰った海産業、服飾に関する物になるのではないか?」
「そうじゃな、外にはあるか?」
俺は口を挟むのを止めた。
「後は料理と備品の作製じゃな」
「なるほど、そうなると一人一つという訳にはいかんな」
「出来れば俺は建設を受け持ちたい、先ほど島野様から教わった上下水道に興味がある。是非任せて欲しい」
オクボスが言う。
「儂は構わんぞ」
「俺もだ」
「任せよう」
建設に関してはオクボスが受け持つことになった。
積極的でいいじゃないか。
「俺は海産業が気になるな、泳げるかは分からんが、俺に任せてはくれないだろうか?兄弟達よ」
コルボスは海産業が気になるみたいだ。
「俺はいいと思うぞ」
「儂も賛成じゃ」
「いいだろう」
こちらも賛同を得られたみたいだ。
順調、順調。
「こうなると儂は農業だな、此処は魔物同盟の基幹部門だ、任せてはくれんか?」
プルゴブなら問題ないだろう。
というよりこいつ意外は考えられないな。
「プルゴブの兄弟が適任だろう」
「そうじゃな」
「兄弟に任せよう」
後はソバルだな。
「残りは料理と服飾と備品作製の製造関係じゃな、儂に出来るかは分からんが任せて貰おうか」
「だな」
「そうだな」
「任せよう」
これで役割が決まったみたいだ。
まだまだ決めることは沢山あるが、そろそろ腹が減ってきたな。
「よし、一先ず飯にしようか」
「「は!」」
「待っておりましたぞ」
「今日の昼飯はなんじゃろな?」
全員眼を輝かせていた。
せっかくだ、沢山食べてくれ。
俺達は連れ立って食堂に向かった。
既に食事が開始されていた。
弁当の者達以外のゴブリン達が集まっていた。
そうだ!あれがあったな。
せっかくだから出してやろう。
少しは参考になるだろう。
「コルボス、海産業で取れる物を出してやろう」
「ほんとうでございますか?」
コルボスの眼にやる気が灯った。
「ああ、期待してくれ」
「はい!期待しております!」
俺は調理場に向かった。
コルボスも見たいということだったので見学を許可した。
カジキマグロを見たコルボスは腰を抜かしそうになっていた。
エルに了承を得て、カジキマグロを解体していく。
もはや手慣れた作業だ。
能力を駆使して解体を行っていく。
そしてカジキマグロの刺身が出来上がる。
「コルボス、食べて見ろ。この醤油と山葵をつけて食べると格別だぞ。山葵は付け過ぎないようにな」
匂いを嗅いだコルボスはにやけていた。
今にも涎を垂らしそうだ。
「では、島野様、頂きます」
唾を飲み込んだコルボスは、マグロの刺身に醤油と山葵を付けて口に入れた。
眼が見開かれる。
「う、旨い!なんだこの油の乗りは?最高だ!口のなかで解けるぞ!」
好評のようだ。
「せっかくだ、皆に振舞ってやろう。プルゴブ!皆を集めてくれ」
「は!」
「兄弟、儂も手伝おう!」
「俺も手伝うぞ!」
プルゴブ達はゴブリン達を呼びに行った。
俺は刺身を配ることをエル達に任せて、カマから出汁をとり、汁物を作ることにした。
寸胴鍋に骨、カマ、尻尾を砕いてぶち込み、グツグツ煮込んでいく。
灰汁を取り除いて、一度味見をする。
よし、良い出汁がでている。
そこに人参、大根、玉葱を入れて軽く煮込む。
刺身をそのままぶち込んで、味噌を混ぜていく。
どうだろうか?
味見をしてみる。
良いな、ここに今後はワカメが加わるだろう。
更に上手くなるのは間違いない。
「コルボス、飲んでみるか?」
「宜しいので?」
今さら恐縮されてもね。
「ああ、海産業の可能性を大いに感じてくれ」
「は!」
コルボスは大事そうに味噌汁の入った器を受け取っていた。
「い、頂きます」
コルボスはゆっくりと味わっていた。
表情がどんどん緩んでいく。
「ああ~、染みわたる~、こんな美味しい汁物は始めて食べる。何とも味わい深い、絶妙だ~」
幸せが表情に浮かんでいた。
今にも昇天しそうだ。
こいつも犬飯派なんだろうか?
そんな気がする。
犬飯はノンに教わってくれ。
「皆、味噌汁も出来たぞ。並べ!」
俺が宣言すると、
「やった!」
「味噌汁だ!」
「味噌汁上手いよね~」
との声が挙がる。
どうやら前回のシーサーペントの味噌汁が好評だったみたいだ。
やっぱりこいつらは塩分が足りてないのかな?
ゴブリン達は、弁当に加えてカジキマグロをペロッと一匹平らげていた。
なんという食欲だろうか。
いよいよギルも大食いチャンピオンを脅かされるのか?
流石にそれはないか。
ギルの大食いは未だ成長中だしね。
朝から米を丼五杯は食べるからね、力士かっての。
でも太らないんだよな。
羨ましいことです。
昼食を終えて会議を再開した。
全員が幸せを噛みしめた表情をしている。
「この美食を今後も享受できるのか・・・」
「感謝以外何もないな」
「儂らは恵まれておる」
「兄弟・・・これが文明だ・・・」
各々が感動していた。
早く会議を始めろ。
いいからさ。
「兄弟達、余韻に浸るのは今度にしよう、儂らにはまだまだ決めねばならぬ事が山ほどもある」
「おお、そうだった」
ソバルが仕切り出す。
「次にまずこの会議だが、儂は毎週行う必要があると思うのだがどうだろうか?」
「そうだな」
「それぐらいが丁度いいだろう」
「だな」
合意が得られたようだ。
「そして、合意についてだが、今後議題に対して賛同が得られるのはどれだけにしていこうか?」
「それは議題に対してどれだけの賛同を得られたら合意と見做すということか?」
「ああ、そうだ」
「それは全員一致しかないだろう?兄弟」
当たり前の様にオクボスが言う。
「そうだ、一人でも認めなければそれは我らの合意とは言えまい」
「だな」
「では、議題に対して全員一致をもって賛成とするでいいのじゃな?」
「ああ」
「そうしてくれ」
「そうだ」
ソバルが急に緊張しだした。
「次に・・・これは島野様への質問になりますが・・・いつまで我々の元にいて頂けるるのでしょうか?島野様は儂に流浪の神と仰った。こんなことを聞いても良いのか迷いましたが、儂らにとっては重要な事なのです。申し訳ございません・・・」
この発言にコルボスとオクボスがあり得ないぐらい悲しい顔をしていた。
プルゴブは下を向いている。
三人とも人生が終わったというぐらいの表情をしている。
すまんなお前ら。
俺にはやることがあるんだ。
「それは、俺がもうこの街を離れてもいいと感じたらだ。俺は流浪の神だ、詳しくは言えないが、俺はこの世界の行く末を握る謎を追っている。だからお前達が造る街に居続ける訳にはいかないんだ。悪いな・・・」
全員が下を向いていた。
プルゴブは静かに泣いていた。
「神の所業・・・我らには理解など及びませぬ・・・とてもお停めすることなど叶いませぬ。ですが・・・」
「しかし・・・」
気持ちはありがたいが。
ここはハッキリと言わなければならない。
「大丈夫だ、お前達が誇れる街を造るまで俺達は協力しよう。もう俺達が居なくともお前達の国が他国に認められるぐらいまで発展するまで、俺はちゃんと付き合ってやる。安心しろ!」
「「「「島野様!」」」」
四人は号泣し出した。
おいおい大丈夫か?
やれやれだな。
魔物同盟が締結されてから一ヶ月が経とうとしていた。
これまでを掻い摘んで振り返ると。
まず俺はオーガ、オーク、コボルト全員に加護を与えた。
全員進化したと言っても過言はないだろう。
オーガに関しては角さえなければ、もはや人と変わらない。
魔人と言われても納得できてしまう。
もしかして魔人はオーガの進化した姿なのだろうか?
それは今は良いとして。
ゴブリンの村を発展させつつも、魔物同盟国の建設が本格的に始まった。
とても慌ただしかった。
俺達の役割はこれまでとあまり変わらない。
建設に関しては俺とギル。
狩りはノン。
料理はエル。
魔法教室及び風紀委員長はゴンだ。
そして連日、読み書き計算教室をゴンとギルが受け持っている。
後、備品の製作や服飾に関して、鍛冶仕事に関しては俺がちょくちょく指導を行っている。
ゴブコもゴブスケもとても頼りになる。
魔物達はとても仕事熱心だ。
たまにサボる者もいるが、目聡いゴンに見つかって叱られている。
しょっちゅうゴブオクンがゴンに叱られているのを見かけるのだが。
全く懲りない奴だ。
手を変え、品を変えサボろうとしている。
その情熱を違う事に使いなさいっての。
どうしてゴンはあんなにサボっている者を見つけるのが上手いのだろうか?
何かしらコツがあるのかもしれないな。
既に上下水道の引き込みは完成し、浄化池と排水の浄化池も完成している。
今は家屋の建設を急いでいる段階で、魔物総勢二百人態勢で取り掛かっている。
人海戦術とは上手く言ったもので、まさにその通りだ。
人が波の様に押し寄せてきては、どんどんと家が建設されていく。
ランドールさんのところの大工達も形無しだ。
知力を得た魔物達は覚えが早く、又、パワフルだ。
重機など無くても充分に力を発揮してくれている。
そして魔法の適正を持っている者も多い。
土魔法を取得している大工達が結構いた。
その所為もあってか、上下水道も早く設置することができた。
俺とギルは極力手は貸さずに、監督することだけを心掛けた。
その理由は、自分達がこの街を造ったんだという、達成感を得て欲しかったからだ。
島野様ご一行に造って貰ったでは意味が無い。
自分達が自らの手で造るからこそ、愛着も沸くだろうし、誇りに思えるものだろう。
俺達はあくまでアドバイザーに徹した。
それに俺達はここに居続ける訳にはいかない。
離れることを想うと、名残惜しさがあるが、俺達には成さなければいけないことがある。
北半球に来た目的を忘れてはいない。
だが今はこいつらを全力でサポートしようと思う。
魔物とはいっても、俺からみれば案外可愛いものだ。
今では小さな子供達でさえ、
「島野様だ!」
と駆け寄ってくる。
因みに子供からの人気者はギルとノンだ。
ギルは相変わらず子供が大好きで、ノンもよく子供と遊んでいるのを見かける。
ギルはたまに獣スタイルになって、子供達を乗せて空を飛んでいる。
ちょっと冷や冷やするが、たぶん大丈夫だろう。
それを真似てか、ノンも獣スタイルになって子供達を乗せて、走り周っていた。
埃が舞ってちょっと迷惑だが、まあいいだろう。
俺は建設現場をギルに任せて、今では船の建設に勤しんでいることが多い。
船の建設となると、クルーザーはお手の物だが、木製の船となると案外うまくいかない。
それでも思考錯誤しながら、コルボスと船の建設を行っており。
先日やっと最初の船が完成した。
そして魔物は泳げるか問題についてだが、ほぼ全員が難なく泳ぐことができた。
一部を除いては・・・
なぜかゴブオクンは泳げなかった。
なんでこいつだけ?
理由は分からん、もしかして悪魔の実でも食べてしまったのだろうか?
おっと、止めておこう。
そして潜水式を済ませ、今は漁に出ている。
俺は一通りの漁の方法をコボルト達に教えて、船に同行している。
コルボスがマグロを捕獲すると息を撒いている。
マグロは無理だと思うのだが・・・
案外ビギナーズラックというのもあり得るのか?
まずは簡単な地引網から始めた。
流石にマグロは掛からなかったが、大漁となった。
特にアジや平目、海老がよく捕れた。
これまで誰も漁をしてこなかった所為か、素晴らしい漁場となっている。
これは幸先がいい。
今日は旨い海産物が晩飯に並ぶことだろう。
コルボスの興奮が止まらない。
「島野様!やりました!大漁です!」
と大騒ぎしていた。
やれやれだ。
翌日には二艘目の船の建設に取り掛かり、今後は追い込み漁を行えるように指導していくつもりだ。
そうなればマグロも夢ではない。
コルボス船長は鼻が高くなっていた。
昨日は外の首領陣達に褒められていたからな。
今後も頑張って欲しい。
そして遂に魔物同盟国の象徴とも言える建設物が完成した。
その名も『魔物同盟国記念館』だ。
ネーミングはさておき、この建物の意味は実に奥深い。
今後のことを考えて、様々な部屋が取り揃えてある。
まずは来賓室。
これは今後魔物以外の者達が訪れることを想定しての部屋だ。
国を謳うのなら、来賓を迎え入れる部屋は必須だ。
最低限のおもてなしを行うことを目的としている。
そして会食場だ。
ここも用途としては国賓を迎え入れる為の部屋となる。
とは言っても、それ以外の用途として、宴会場も兼ねているのだが・・・
こいつらは本当に飲み食いが好きだからな。
更に会議室や、ゲストの寝所等。
備品保管庫や今後の事を考えて図書館なども造った。
そしてメインとなる事務所も兼ねている。
事務所に関してはゴンが口を挟んできた。
ゴンは事務のスペシャリストだから文句はあるまい。
ゴンの意見をふんだんに付け加えた。
そして料理についてだが、圧倒的に足りない要素があった。
それは牛と鶏であった。
要は牛乳と、卵である。
何度かエルからどうにかならないかと言われてはいた。
しかし、プルゴブやソバルに聞いても牛や鶏に関しては、魔獣化したジャイアントチキンとジャイアントブルしか知らないということだった。
そこで俺は興味本位であることを試すことにした。
魔獣化したジャイアントチキンとジャイアントブルを、通常化したら飼育できるのだろうか?ということだった。
俺は連日ノンの狩りに同行した。
何とかしてジャイアントチキンとジャイアントブルを捕獲したかったのだ。
でも連日ハズレを引いてしまった。
ほとんどが魔獣化したジャイアントピッグとジャイアントラットばかりだった。
こいつらを通常化させても意味はない。
飼育出来たとしても、そもそも潰すことが俺には出来ない。
魔物達ならできるだろうか?
メッサーラの魔獣の森に行くことも考えてはみたが、止めておいた。
そこで意を決して、オーガでも踏み込まないという、大森林の最新部に俺とノンは向かうことにした。
俺とノンの二人なら間違っても殺られることはないだろう。
島野一家の最高戦力の二人だからね。
俺はノンと鼻歌混じりに最深部へと向かっていった。
途中何度もノンに甘えられた。
何度も頭を撫でてやった。
久しぶりのモフモフが気持ちいい。
相変わらず誰もいない処ではノンは甘えん坊さんだ。
そして俺達は不思議な出会いを果たすことになった。
これは・・・蜘蛛かな?
俺よりも大きな蜘蛛が俺達と対峙していた。
まかさ蜘蛛に見下されることになろうとは・・・
なんとなくだが、意思の疎通が可能の様な気がした。
相手からも殺気や敵対心をまったく感じない。
そこで俺は一先ず話し掛けることにした。
「やあ、蜘蛛君、いや蜘蛛さんかな?俺は島野だ、俺の言葉が分かるかな?」
「僕はノンだよー」
そう尋ねると、蜘蛛は前足を挙げた。
おお?分かるみたいだ。
「喋れるか?」
挙がった手が左右に振れた。
出来ないなと。
どうしようか?
とりあえず確認だけはしておこう。
「一応尋ねたいことがある、いいかな?」
下がった前足が再び挙がった。
「敵意はあるのか?」
前足が左右に振られた。
敵意はないと。
「ここに住んでいるのか?」
また前足が挙がった。
住んでるなと。
「俺達はジャイアントブルとジャイアントチキンを探しているのだが、この付近の森には生息しているか?」
前足が少し挙がった。
これは・・・どちらかは居るということなんだろう。
「ジャイアントブルが居るのか?」
前足が左右に振られた。
「じゃあジャイアントチキンが居るのか?」
前足が挙がった。
「そうかありがとう、魔獣化したジャイアントチキンを捕獲したいのだがいいかな?」
前足が挙がった。
意思の疎通がイエスとノーだけでは煩わしな。
どうにかならないかな?
そうだ。
「なあ、もし俺の加護を与えたらお前は喋ることが出来るようになるのか?」
顔の前で前足を左右に振っていた。
これは分からないということだろう。
「そうか・・・どうしようか?俺の加護を欲しいか?」
ここまで知力があるなら加護を与えても、無害だろう。
前足がこれまで以上に上に挙がっていた。
相当欲しいのね。
では、差し上げましょう。
安易すぎるかな?
まあいいか。
「そうだな、お前の名前はクモマルだ」
そう言うと、俺から神気がクモマルに流れ出した。
あれ?
何時もよりも結構な量が流れた様な・・・
するとクモマルが神気に包まれて、急激に変化した。
下半身は蜘蛛だが、上半身が人の様な姿になっている。
よかった、男性だった。
おっぱいが無い。
性別を考えずに名付けてしまったからな。
今になってやってしまったのかと思ってしまった。
にしても、なんだこれは?・・・
ちょとした怪物だな。
「島野様、ありがとうございます。私はアラクネに進化しました」
おお!流暢に話しているぞ!
よしよし!
「そうか、よかったな」
「こんな名誉なことはありません、今後あなた様にお仕えさせて頂きます!」
「いや、それはいい。足りている」
俺は即答した。
クモマルはこれでもかというぐらい、落ち込んでいた。
これが漫画ならガーン!!!という吹き出しがついているだろう。
それにしても、いろいろと聞かなければならないが、まずはこの姿は中途半端過ぎるな。
人化魔法を覚えさせようかな?
「クモマル、人化は出来るか?」
「人化でございますか?これ以上は出来ません」
「じゃあ、ノン教えてやってくれないか」
「いいよー」
とノンは言うと人化した。
「なんと・・・ノン様・・・これはいったい?」
「人化の魔法だよ、やってごらん、人になることをイメージするんだよ」
「イメージでございますか?」
「うん、そうだよ」
ここからノンの人化魔法講座がおよそ一時間行われた。
案外ノンも魔法を教えるのが上手なのかもしれない。
クモマルが人化に成功していた。
マッパだけど・・・
そして意外な真実を知ってしまった。
クモマルは男性でも女性でもなかった。
シンボルが無かったのだ。
蜘蛛ってそんな生態だったか?
異世界だからか?
まあいいや。
それにしても結構なイケメンだ。
ノンに教わった所為か、銀髪だった。
クモマルは自分の腕から蜘蛛の糸を撒きだして、服を作製しだした。
俺の着ている服装を参考に作っていた。
おお!これは凄い。
あっと言う間にクモマルが衣服を纏っていた。
「クモマル、凄いじゃないか!」
「お褒めに預かり恐悦至極に存じます」
まんとまあ、難しい言葉を使えるようになったことだ。
そうではないか。
もともと知性はあったみたいだから、ただ単に声帯が無かっただけかな?
「クモマル、お前はここでずっと暮らしているのか?」
「そうでございます」
「魔物の国に加わる気はあるか?」
「私の様な者がよろしいので?」
「紹介してやるよ」
「そんな・・・嬉しいです・・・・」
クモマルは泣きだしてしまった。
落ち着いたクモマルに話を聞いたところ、この森の最深部で、ほとんど一人でこれまで暮らしていたらしく。
たまに訪れるオーガやオーク達も、交流を持つことなく、クモマルを見ると、逃げ帰っててしまっていたらしい。
自分の家族だけで暮らしていて、寂しかったみたいだ。
その家族も全員巣立ってしまったらしい。
「クモマル、どうする?家族を集めてから魔物の国に行くか、それともお前ひとりでいくか。どうしたい?」
「そうですね・・・今ではこの姿を得ましたので、いつでも魔物の国に訪れることは可能かと愚考します、その為まずは家族を纏めてから訪れさせて貰おうかと思います」
「そうか、因みにその家族達の居所は分かるのか?」
「大まかには存じております」
「そうか、協力してやろうか?」
「よろしいのですか?」
「ああ、魔獣化したジャアントチキンとジャアントブルを探す次いでだ」
「ありがとうございます」
クモマルは仰々しくお辞儀をした。
俺は大体の位置をクモマルに教えて貰い。
『探索』を駆使して、狩りの次いでにクモマルの家族を探した。
魔獣化したジャイアントチキンはクモマルの協力のお陰で捕獲は簡単だった。
クモマルの糸はかなり高性能だ。
頑丈な上に解くことは容易ではない。
ゴブリン達では太刀打ちできないだろう。
魔獣化したジャイアントチキンは煩いので、神気を流して、魔獣化を解いておいた。
三匹ほど捕獲した時に運ぶのがめんどくさくなって、俺は一度ジャイアントチキンを持って魔物の国に転移で帰った。
既に指示してあった鶏小屋は出来上がっていた為、ジャイアントチキンを放逐した。
デカい鶏が、エサを啄んでいる。
俺はソバルを呼び出した。
「ソバル、後でゲストを連れてくるから、紹介させてくれ」
「ゲストでございますか?」
「ああ、森の最深部で出会ったんだ。今はアラクネという種族らしい」
「アラクネでございますか?・・・何と・・・」
ソバルは恐れ慄いていた。
「もしかして島野様・・・エンペラースパイダーを手懐けてしまったのでございましょうか?」
「たぶんな、クモマルは良い奴だぞ。今では人化も出来るようになったぞ」
ソバルは首を振っていいた。
「・・・すいません・・・ついていけませぬ・・・」
「まあ、よろしく頼む、じゃあ急いでいるから後でな」
俺はノンとクモマルの元に転移した。
去り際にソバルの困った顔を見てしまった。
何を困っているのだか。
「すまんな、待たせたな」
「ねえ、主お腹減ったよ」
「そうか・・・そうだな、何か取ってこようか?」
「じゃあ犬飯がいい」
「ノン、それ以外は?」
「何でもいいよ」
「そうはいかんだろう、クモマルは食べたい物はあるのか?」
「食べたい物でございますか?」
「そうだ」
「私は何でも食べられますが・・・」
「でも好みとかがあるだろ?」
「好みでございますか?・・・強いていうなら甘い物が好きでございます」
「そうか、ちょっと待ってろよ」
俺はサウナ島のスーパー銭湯の調理場に転移した。
いきなり俺が現れても、こいつらはビクともしない。
もはや慣れっこのようだ。
察しのいいメルルからは、
「何がいるんですか?」
と言われてしまう始末だ。
よくできた従業員です。
俺は適当に見繕って『収納』に食べ物を入れて、ノンとクモマルの元に戻ってきた。
「待たせたな」
「主、はやく出して」
ノンに催促されてしまった。
ノンには味噌汁とご飯、とんかつとエビフライを渡してやった。
クモマルにはアイスクリームとパンケーキとクレープを渡してやった。
これで腹が膨れるのだろうか?
念のため、ミックスサンドを二人前準備している。
俺はミックスサンドを食べることにした。
ノンは相変わらず犬飯にして、ガツガツ食べていた。
問題はクモマルだ。
「あり得ない!」
「これは神の食事だ!」
「甘みの先に草原が見える!」
と大騒ぎしていた。
どんな食レポだよ。
そうとう口に合ったみたいだ。
よかったな、クモマル。
クモマルは感動で打ち震えていた。
大袈裟過ぎないか?
その後、俺は『浮遊』し『念動』でノンとクモマルを連れて、クモマルの家族の捜索をおこなった。
この方法なら直ぐに見つかるだろう。
ちょっと力業が過ぎるかな?
まぁいっか。
クモマルの家族は簡単に見つけることができた。
我ながら天晴だ!
『探索』を行ったところ、青色の標が直ぐに表示された。
大きな光点が四つ。
クモマルの家族で間違いないだろう。
思いの外、離れたところではなかった。
空中での瞬間移動を繰り返して、光点に近づいていく。
ノンはこの移動に慣れているが、クモマルは移動酔いもなかった。
クモマルは驚きこそすれ、直ぐに慣れていた。
案外肝は据わっているみたいだ。
クモマルの家族達は、上空から突如現れた俺達に全員フリーズしていた。
まあそうなるわな。
警戒を解くため、クモマルは今はアラクネの姿をしている。
そうでないと、いきなり襲撃を受けたのだと勘違いされかねない。
俺はこいつ等とはことを構えたくないしね。
こいつらにしてみれば脅威以外の何物でもないだろう。
驚いて当然だろう、いきなり上空から人をとフェンリルとアラクネが降ってくるのだから。
クモマルが家族達に説明をしていた。
どうやら『念話』が使えるみたいだ。
巨大蜘蛛達の反応は様々だった。
仰け反る者。
プルプル震える者。
万歳する者。
肯定的に受け止めているみたいだ。
よかった、よかった。
全員集まったところで俺は加護を与えた。
全員がよろこんでいるのが何となく分かった。
念のため、クモマルに性別を聞いてみたが、やはり無いとのことだった。
クロマル、シロマル、アカマル、アオマルと名付けた。
漏れなくアラクネに進化していた。
因みにこいつらはクモマルの子供らしい。
全員クモマルに従順だ。
ノンとクモマルによる人化魔法の講義が始まった。
どれだけの時間が掛かるか分からない為、俺はその隙に俺はジャイアントブルを探すことにした。
やっとジャイアントブルを二頭捕獲することができた。
結構時間が掛かったな。
二頭とも魔獣化していた。
はやり北半球は魔獣が多いみたいだ。
というよりほとんどが魔獣化している。
いったいどうなっているんだ?
俺は北半球に来てから魔獣化していない獣を見たことがない。
ノンも同じような事を言っていたし。
ジャイアントブルを二頭とも魔物の国に『転移』で運んだ。
いきなり現れた俺に、数名のオークが飛び退いていた。
目ん玉が飛び出ている様は笑えた。
すまん、すまん。
牧場に二頭を放逐してノン達の所に転移した。
放逐されたジャイアントブルは、何が起きたのかは分かっておら、ずキョトンとしていた。
ジャイアントブルのことは魔物達に任せておけばいいだろう。
それにしてもジャイアントブルは闘牛に近い。
牛乳が出るのだろうか?
なんとも分からん。
異世界パワーに期待したい。
ノン達の処に戻ると、皆な人化していた。
おおー。
ここは盛大な拍手だな。
全員中性的な顔出だちをしていた。
美男美女とも言える。
男性とも女性とも見える。
不思議な顔立ちだ。
どうにも中性的な顔立ちは美しく見えるみたいだ。
神秘的とも受け取れる。
「皆な、無事に習得できたみたいだな」
「「「「「は!」」」」」
とアラクネ達が片膝を付いて頭を下げた。
もはや見慣れた光景だ。
そろそろノンがふざけ出しそうだ。
こいつらもか・・・まあいいけど。
「じゃあ行くか?」
「行こう、行こう」
ノンは早く帰りたいみたいだ。
「よろしくお願い致します」
クモマルが嬉しそうだった。
俺達は『転移』で魔物の国に帰ってきた。
アラクネ達を見て魔物達がざわついている。
プルゴブを呼びだして、首領陣を集める様に指示した。
プルゴブはアラクネ達に相当ビビっていた。
何でだろう?
怖いのかな?
見た目かな?
アラクネ達はもはや人と変わらないからな。
ソバルとオクボス、コルボスが恐る恐る、近づいてきた。
全員腰が引けている。
「お前達、何をビビってるんだ?」
クモマルに敵愾心は全くないのだが。
「島野様、そう言われましても・・・」
「だよな・・・」
「ねえー」
と回答になっていない。
クモマル達は良い奴なんだけどな。
直ぐに意思の疎通を行えたしな。
それに始めから友好的なんだけど・・・
まだまだ弱肉強食感が拭えないのかな?
「お前達、紹介しよう。アラクネの一団だ、仲良くしてやってくれ」
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」
クモマル達はお辞儀をしていた。
板に付いているな、友好的な態度に変わりは無い。
よしよし。
幸先は順調だ。
プルゴブ達は困った様な、何とも言えない表情をしていた。
「お前達、こっちは名乗っているのだぞ。何をやっている?無礼じゃないか?」
プルゴブがしまったという顔をしてから、勇気を振り絞るかの如く前に出てきた。
「これは失礼致しました、儂はゴブリンの首領をしております、プルゴブと申します。以後お見知りおきを」
プルゴブは頭を下げていた。
続けて他の三人が名乗りを上げた。
「儂はソバルじゃ、よろしく頼む」
「俺はオクボスだ、こちらもよろしく」
「俺はコルボスだ」
やっと我に返ったみたいだ。
でもその表情は硬い。
「なあ、なんでお前達はそんなに表情が堅いんだ?」
「そうは言われましても島野様、エンペラースパーダーでございますよ、ソバルから話は聞いてはおりましたが、彼らは儂らよりも上位種でございます」
プルゴブが答えた。
「だから?」
「だから?ですか?」
プルゴブは分かっていないみたいだ。
「上位種だから何なんだ?別に事を構えようとしている訳でも無い、ましてやお前達を従えようって訳でもないんだぞ?なあ、クモマル」
クモマルがずいっと前に出てきた。
「皆さん、聞いてください。私達アラクネはそもそも争いを好みません。ましてや貴方達を傷つける気も無ければ、従えるつもりもありません。今では島野様のご厚意により、人の姿を得ましたが、これは人化の魔法の結果にすぎません」
そう言うと、クモマルは人化の魔法を解いた。
その姿に一同は、
「なんと・・・」
「その姿は・・・」
「ありえん・・・」
「嘘だろ?」
プルゴブ達は声を挙げた。
信じられないという顔をしていた。
「この姿も、島野様の加護を頂き得たものです。これまでは声帯を持たない身であった為、誤解を招いたのかもしれません」
クモマルは悲しい眼をしていた。
その気持ちは分からなくもない。
もどかしくてしょうが無かったのだろう。
意志の疎通がしたくても出来なかったのだからな。
友好的なこいつらからしたら、尚のことだ。
「ですが、元のエンペラースパイダーの姿の頃から、私達は貴方がたとは友誼を結びたいと考えていたのです」
その発言にプルゴブ達は打ち震えていた。
彼らにとっては創造の斜め上のことだったらしい。
まさか上位種である者が友誼を求めているとは思ってもみなかったようだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。クモマル殿といったか、それは本心か?」
オクボスが尋ねていた。
「はい、ですが、たまに私達の縄張りに踏み込んできた、オークやオーガ達は恐れ慄いて立ち去ってしまう始末。そしてやっとこの様にして、皆さんと会話が出来るようになったのです」
嘘だろ?という表情をオクボスとソバルはしていた。
外の二人は呆気に取られている。
「そんな・・・」
プルゴブとコルボスは頭を抱えていた。
「これで分かったか?お前達は良き隣人を、上位種であるとか、その姿だけを理由に、勝手に恐れていたんだ。相手は友好的に思っていたのにだ」
「何ともお恥ずかしい・・・」
ソバルは項垂れていた。
「これは偏見というものだ、今後は眼に見えるものだけで判断するなよ。それに蜘蛛の姿だってよく見て見ろよ。可愛いじゃないか。なあ?」
アラクネ達は照れていた。
其れとは逆にソバル達は笑顔が引き攣っていた。
なんでかな?
「可愛いよねー」
とノンは俺に賛同のご様子。
「どうやら儂らは、持ってはならぬ偏見を抱いていたようじゃ、これは恥じねばならんな、兄弟達よ」
「ああ」
「そうだな」
「全くだ」
クモマルは人化した。
「やっと分かって貰えたようです、これも全て島野様のお陰です」
とアラクネ達が片膝を付いた。
もういいってそれ。
これに倣ってソバル達も片膝をついた。
「ああ、もうそういうのいいから、立ってくれ」
「主、照れてるの?」
「煩い!ノン!」
こいつは余計なこと言うんじゃない!
「やっぱり照れてるんじゃん」
「グヌヌ!」
調子が狂うな。
まあいいか。
「よし、今後について話し合うぞ。後、ノンはゴンとエルとギルにアラクネ達を紹介してきてくれ。クモマルは残れよ」
「分かったー」
「承知しました」
やれやれだな。
ソバル達は未だ反省しているみたいだ。
沈痛な面持ちをしていた。
会議室で今後について話し合いが行われることになった。
「それでクモマル。こいつらと五分の盃を交わすことになるが、いいんだな?」
「嬉しく思います。初めて兄弟を得ます。最高です!」
クモマルは笑顔だ。
本当に嬉しいみたいだ。
ソバル達も喜んでいる。
「あとせっかくだからお前達にいくつか聞きたいことがあるんだがいいか?」
「何なりと」
プルゴブが答えた。
「このモエラの大森林にはあと他には魔物はいるのか?」
オクボスが手を挙げた。
俺はオクボスを促した。
「俺が知る限りでは、リザードマンが北側の森林地帯の沼地にいます」
「リザードマン?」
沼地に住む、トカゲみたいな奴か?
「はい、あいつらも一定以上の知性を持っています。仲間に成れるかと思います」
知性を持っているのならば、声を掛けても良いかもな。
合流を果たすのかは彼ら次第だ。
だが魔物の国を立ち上げると聞いてしまっては、加わらないという選択肢は考えづらいだろうけどな。
同じ魔物だ、親しくしたいだろう。
「そうか、外にはどうだ?」
「蟲族がちらほらといますが、彼らに知性があるのかは少々疑いがあります」
蟲族?
アラクネは蟲族じゃないのか?
「というと?」
「何度か襲われたことがあるのです」
オクボスはバツが悪そうに頭を掻いていた。
襲われたとは穏やかじゃないな。
「襲われた?」
「はい、ですが今考えてみると、何か理由があって襲われたのかもしれないなと、クモマル殿の件で気づかされましたので・・・それにこちらを追い払う様にしていたように思います」
良い傾向だな。
経験からちゃんと学んでいる。
種族間での偏見が無くなっていってくれると俺としても嬉しい。
「そう考える根拠は?」
「はい、根拠とまではならないかもしれませんが、知らずに巣を荒らしてしまっていたり、なにかしらその種族の禁忌に触れていたのかもしれません」
考察はできているようだな。
大いに結構!
「なるほどな・・・」
でも無くはなさそうだな。
「クモマル、どう思う?」
クモマルは眉間に皺を寄せている。
クモマルにしては珍しい顔付きだ。
そんな顔付きでも、美しく見えるのは無性別の所為なのか?
「そうですね・・・会ってみないと何とも・・・」
歯切れの悪い返事だ。
「じゃあ蟲族はクモマルに任せよう、リザードマンはどうする?」
「俺に任せて貰えませんでしょうか?」
オクボスが再び手を挙げた。
「いいのか?」
オクボスは積極的だな。
「はい、オークとリザードマンは交流がありますので」
そういうことね、ならば任せよう。
「分かった、オクボスお前に任せる」
「は!」
オクボスの返事が響き渡った。
「あと、アラクネ達の役割についてだが、お前達で話し合って決めてくれ。だが、アラクネの糸は、今後この街にとって、とても大きな意味を持つ事になると俺は考えているんだ」
ソバルが手を挙げた。
「島野様、それはどういうことでしょうか?」
活発な質問が飛び交っている。
「アラクネの糸は強靭な上に柔軟性がある、素材としては一級品だ。これは衣服だけでは無く、外にも使える用途が多岐に渡るだろう」
ソバルは頷いている。
「なるほど、今後の魔物同盟国としての特産品になるということですな」
「ソバル、理解が早いな」
「お褒め頂き光栄です」
ソバルは恐縮していた。
「じゃあ後は任せる」
「「「「「は!」」」」」
後は当事者に任せて立ち去ることにした。
有意義な会議を期待したい。
俺はノン達の処にやってきた。
ノン達はアラクネ達と交流をしていた。
話に花が咲いているみたいだ。
「あ、島野様」
俺を見つけるとアラクネ達がお辞儀をした。
「お前達、紹介は済んだのか?」
「はい」
シロマルが答える。
「これからこの街の施設を案内しようかと思います」
ゴンが得意げにしている。
「ゴンに任せるよ」
「パパ、僕も付いていっていい?」
「好きにしろ」
アラクネ達はゴンとギルに任せることにした。
俺は前もって貰っておいた、クモマルの糸を持参してゴブコの所へ向かった。
裁縫場では魔物達が熱心に作業を行っていた。
ゴブコを探すと、ゴブコは一心腐乱にミシンと向き合っていた。
この集中力はまるで一蘭だな。
麺とスープに真正面から向き合っている。
声を掛けるのが憚られる。
「ゴブコ、ちょっといいか?」
声に反応してゴブコが俺を見上げる。
「島野様、どうかなさいましたか?」
「この糸なんだがな」
俺はゴブコにクモマルの糸を手渡した。
「これは・・・」
と言いながらゴブコは入念に糸を触っていた。
余念無く糸を確認している。
「素晴らし糸ですね、強靭な上に、柔軟性がある。これは素材として一級品です。是非これを私達に使わせてください」
元よりそのつもりだよ。
「ああ、好きにしてくれ」
やっぱりこいつは天才だ。
一瞬でアラクネの糸の潜在能力を見抜いたな。
ゴブコのことだ、これで最高の衣服が出来ることだろう。
もはやカベルさんでもゴブコには敵わないかもしれない。
それぐらいこいつの技術は抜きに出ている。
俺はクモスケの糸を持って、ゴブスケの工房にやってきた。
ゴブスケは鍛冶作業に没頭していた。
弟子の者達も一生懸命鍛冶仕事を行っている。
弟子の一人が俺に気づいた。
「島野様、お疲れ様です」
「お疲れさん。俺を気にせず仕事に戻ってくれ」
「は!」
俺に気づいたゴブスケが駆け寄ってきた。
「島野様、如何なさいましたか?」
「ゴブスケ、お疲れさん、ちょっとお前に見せたい物があってな」
「お疲れ様です、見せたい物とは何でしょうか?」
「ああ、これだ」
俺はクモマルの糸を手渡した。
「これは・・・糸ですか?」
「そうだ、アラクネの糸だ」
「アラクネの糸ですか?信じられない!」
ゴブスケが興奮していた。
「アラクネといえば、エンペラースパイダーの上位種、その糸なんて・・・考えられない!そんな高級品、僕に扱えと?」
ゴブスケは糸を入念にチェックしている。
「ああそうだ、お前ならこれをどう扱うか気になってな」
「そんな・・・嬉しいです!必ず最高の品物に仕上げてみせます!」
「期待してるぞ、ゴブスケ」
「は!」
ゴブスケは跪いていた。
それに倣って弟子達も片膝を付く。
各自の作業が一旦中止され、ゴブスケを中心にアラクネの糸で何が出来るのかを話し合うセッションが始まった。
俺はこっそりとその場を離れた。
後は任せるぞ、ゴブスケ。
頑張ってくれ。
お前ならやれる。
その後出来上がった品物は、漁の網、狩りに使う網だった。
どちらも好評だった。
特に漁に使う網は破れない上に引き上げやすいと、コボルトの漁師達から大絶賛だった。
これで連日大漁だとコボルト達は騒いでいた。
現にその後大漁の日が続いた。
伊勢海老と蟹が捕れた時は大興奮していた。
蟹は結構デカかった。
俺の身体の倍ぐらいのデカさがあった。
流石は異世界、何でもありだな。
でもこれが旨かった。
プリプリの身が締まっており、ポン酢とよく合った。
腕一本で十人は満足できるだけの量になっていた。
これは海獣じゃないのだろうか?
多分そうだよな?
まあいいか。
その後アラクネの糸は建設部材や、家具などにも転用された。
特に寝具に関しては、南半球の物よりも質がよかった。
やはり思った通り、アラクネの糸の使用用途は多岐に渡る。
アラクネ達は魔物の国での重要度がぐっと挙がった。
これにクモスケ達は大喜びしていた。
魔物の皆の役に立っていると誇らしくしていた。
良いじゃないか。
支え合ってより発展していってくれ。
アラクネは特に甘い物に目が無く、果物を特に好んで食べていた。
リンゴやバナナが大好物で、以前にクモマルが食べたクレープは奇跡の食事としてアラクネの中で語り継がれていた。
卵が手に入る様になったら作ってやるからな。
まだジャイアントチキンが卵を産んだという報告は受けていない。
まぁ気長にやっていこう。
クモスケ達が魔物の街に合流を果たしてから一ヶ月が経とうとしていた。
アラクネ達は魔物の国に完全に馴染んでいた。
もはやこの国に無くてはならない存在になったと言っても過言ではない。
アラクネ達は人気者になった。
それはそうだろう、こいつらの糸は最高級品となっており、その使用用途も多岐に渡っており、無くてはならない物になっていたからだ。
その恩恵を享受している住民がほとんどだ。
これまでに無い柔軟性と丈夫さを兼ね備えた衣服は画期的といえた。
驚くことに撥水機能まであった。
それに通気性も良く、触った感触もサラサラして気持ち良い。
ユニ●ロみたいだ。
その内ウルトラライトダウンとか出来たりして・・・
南半球でもここまでの素材は見たことがない。
注目すべき素材だ。
正直南半球に持ち込みたいぐらいだ。
今のとこその気はないけど・・・
今では、ほとんどの魔物達の家が完成し、自分の家を持ち、自分の部屋を得た者達がほとんどだ。
魔物達はこれに感謝し、これまでにはあり得ないことだと騒いでいた。
まさか個人の部屋を持てるなんて考えてもみなかったみたいだ。
個人のプライベートの時間を持てることは究極の娯楽のようだった。
気持ちは分からなくも無い。
一人の時間は大切だからね。
一人で変なことはしないようにね。
大工班達は、今は町中を歩き易い様にと、石畳を敷いている。
排水溝や側溝なども建設している。
石の加工に余念がない。
これが地味に手間暇の掛かる作業だった。
完成には数ヶ月は掛かることだろう。
石の加工には手間がかかる。
俺の能力でコンクリートを造れば簡単なことなのだが、俺はそうしなかった。
自分達で街を造って欲しい。
もうある程度の技術は教えた。
ここからはこいつらの作業だ。
でも石畳や側溝があると無いとでは雲泥の差がある。
見栄えは勿論のこと、実用性でも格段に違いがある。
排水は街にとっては重要なファクターだ。
清潔感を得るには欠かせない。
それに魔物の国では雨が降ることが多い。
これはなんとしても完成させなければならない。
オクボスとゴブロウが鼻息荒く指揮を執っていた。
こいつらに任せておけば問題ないだろう。
魔物同盟国の文明化は進んでいる。
今では街の至る所に屋台があり、魔物達は好きに食べ物を食べることが出来ることになっている。
その内容は様々だ。
たこ焼き、焼きそば、カレー、おにぎり、サンドイッチ、ピザ等々。
好きに選ぶことができる。
そして一番人気はラーメンだ。
ジャイアントピッグがよく捕れることから、豚骨ラーメンをよく作ることになっていた。その所為か豚骨ラーメンが際立って注目を浴びている。
これまでの海の家の様な食堂は、定食屋へと変化していた。
俺はハイルーティーンでこの定食屋を使っている。
もはやこの魔物の国も飽食の国となっていた。
そして今はスイーツの店が望まれている。
だが、現状は上手くはいっていない。
実は捕獲したジャイアントチキンはその後繁殖を繰り返し、卵の確保ができることになったのだが、ジャイアントブルはまだ牛乳を取れるにまで至っていないのだった。
ジャイアントチキンの卵は大きい、鶏の卵の十倍ぐらいだ。
実に助かっている。
クモスケが愛して止まないクレープやアイスクリームは、牛乳を必要としている為、まだ生産出来ていない。
でも大福や饅頭は出来ており、アラクネ達は毎食後に大福か饅頭を食べていた。
アラクネ達は甘味が本当に好きなようだ。
その他にも作れるスイーツは多々あるが、正直そこまで手が周っていない。
小豆や餅米は畑で採れているからね。
衣服もゴブコ用に服屋を造り、普段着や作業着なども必要に応じて配布されるようになっている。
そして靴もスニーカーが好まれている。
はやりゴム素材のソールは好まれるみたいだ。
グリップが効くと好評だ。
魔物達の足の形は随分と違う為、作製には苦労した。
足型を造るのにも試行錯誤した。
ゴブスケが鍛冶作業で造った家具や武器、食器などもお店を造って配布するようになっている。
実は店や屋台を造ったのは今後のことを考えてのことだ。
決して趣味で造った訳ではない。
国として認めて貰う為には、この国に訪れる人達にとって魅力的な街を造る必要がある。
まだ誰もこの街に訪れる者はいないが、いつ誰が来てもいいように準備は進めておく必要がある。
そのことは魔物達全員が理解しており、今後を見据えての街造りであることは分かっている。
魔物達にとっても重要な要素だった。
まだ交流は持ててはいないが、リザードマンと蟲族達が合流すれば、新たな家屋の建設も行わなければならない。
リザードマンに関してはオクボスに任せており、蟲族に関してはクモマルに任せている。
これまで受けている報告としては、リザードマンに関しては、合流したいとの話だが、最終的な回答は時間が欲しいということだった。
何を迷うことがあるのだろうか?
そして蟲族に関しては難航しているみたいだった。
というのも、意思の疎通が出来たのは今のところジャイアントキラービーのみであり、その他の蟲族はいまいち意思の疎通に困難があるとのことだった。
正直判断に悩むところだ。
そして今、魔物同盟国の会議を行っている。
各首領陣達が意見を活発に戦わせている。
そして俺に質問が飛び込んできた。
「島野様、ジャイアントキラービーに関しては、どうお考えでしょうか?」
クモマルからの質問だ。
アドバイザーも楽ではない。
「そうだな、まずはジャイアントキラービーの女王に加護を与えてみようと思う、でもその他のジャイアントキラービーはいったい何体いるんだ?」
それなりにいそうだからね。
「恐らく三百ぐらいかと・・・」
「そんなにか?」
流石に多いな、他の種族とのバランスを考えるとどうなんだろうか?
最も数の多い種族になるな。
ジャイアントキラービーが飛び交う街になりそうだ。
「はい・・・ただこれは私の考察になりますが、ジャイアントキラービーは女王が統率している種族です、女王に加護を与えるだけで充分かと存じます」
ということはだ、
「それは女王に加護を与えるだけで、種族全体にその効果が及ぶということか?」
「私はそう考えております」
その眼を見る限り、クモマルには確信があるみたいだ。
「そうか、それでそもそも合流の意思はあるのか?」
「はい、魔物の国に加わりたいと言質を取っております」
言質って・・・硬くないか?
「因みにジャイアントキラービーって何を食うんだ?」
「小さな虫や花蜜や樹液などかと思われます」
それならば、畑の害虫駆除など任せれそうだな。
ありがたい事だ。
労働力として期待できそうだ。
「そうか、じゃあそれ用に樹木や花等を準備しておいたほうがいいな」
「そうして頂けますと助かります」
クモマルは頭を下げていた。
「それで他の蟲族はその後どうなんだ?」
「私では判断が付かないのが正直なところです。一度島野様に見て貰った方が良いかもしれません」
見て貰うって・・・俺にそんなこと分かるのか?
「そうなのか?」
「申し訳ございませんが・・・」
クモマルは下を向いていた。
「まあそうするしかなさそうだな」
「よろしくお願いします」
クモマルは申し訳なさそうに頭を下げていた。
まあ、なる様になるか。
「一先ず今度ジャイアントキラービーの女王を連れてきてくれ」
「承知いたしました」
「では次にリザードマンですが、正式に魔物同盟国に合流したいと打診がありました」
やっとか。
寄らば大樹のなんたらかだな。
魔物が魔物の国を造ると言われてしまえば、その恩恵に預かりたいに決まっている。
友好的に合流が果たせる今を逃す訳にはいかないだろう。
それぐらいの知性はあるだろう。
「こちらもまずはリザードマンの首領を連れて来てくれ」
「了解しました」
オクボスは頷いていた。
「そうなると、家屋の建設が急務になるな、リザードマン達もロッジでいいのか?」
「実はそこがちょっと問題でして・・・」
オクボスが困った顔をしていた。
「どうしたオクボス?遠慮なく言ってくれ」
「島野様・・・リザードマンは湿気のある場所を好みます、ロッジではもしかしたら乾燥して不憫かもしれません」
なるほどな。
「湿気か・・・何とでもなるだろう」
「ほんとですか?」
要は塩サウナの要領で造ればどうとでもなる。
「じゃあこれは前捌きだ、まず粘土と大量の貝殻を集めさせてくれ」
「粘土と貝殻ございますか?」
オクボスにはその意味が分からないみたいだ。
そりゃあそうだろう。
タイルを知らないからな。
「そうだ、タイルを造る必要があるからな、詳しくはゴブスケに造り方を教えておくからそこから学んで欲しい」
「は!準備致します」
ソバルが答えた。
「あと、一段落着いたら、俺はこの街に娯楽を持ち込もうと考えている」
一気に場が明るくなった。
パッと花が咲いたみたいだ。
「娯楽ですか?」
「なんと!」
「本当ですか?」
「やった!」
皆な、嬉しいようだ。
全員喜々としている。
「ああ、娯楽はいいぞー!人生を華やかにするからな」
「おお!」
「華やか!」
「嬉しいですな」
期待値が更に挙がったな。
「今は娯楽といっても食事と酒と風呂しかないからな、これだけでは面白くはないだろう?もっと人生を謳歌しないと駄目だろ?」
全員が沸き立ちだした。
「素晴らしいです!娯楽、最高です!」
「ワクワクしますな」
「きっと楽しいのでしょう」
今にも踊り出しそうだ。
「何も働いてばかりが人生じゃないだろ?楽しんでこその人生だ!」
「「「「「おお!」」」」」
これ以上言うと大騒ぎになりそうだ。
これぐらいにしておこう。
「まあ落ち着け、良いから先を進めろ」
その後、会議は白熱し、熱を帯びたものになっていた。
もしかして娯楽発言に当てられたか?
現金な奴らだ。
後日、クモマルがジャイアントキラービーの女王を伴って俺の元に現れた。
確かにジャイアントだ。
蜂にしては相当にデカい。
俺の膝ぐらいまである身長をしていた。
ダンジョンで見た蜂とはちょっと違った。
女王は俺を見ると、地に伏せていた。
何とも健気である。
よく見ると、蜂とはいっても可愛げがある。
いいじゃないか、もしかして俺は蟲族に寛容なのだろうか?
蜘蛛達も可愛いと感じてしまったからな。
「まずは加護を与えようと思うがどうだ?」
俺の問いに女王は眼を輝かせていた。
眼がキラキラとしている。
「そうだな・・・お前はマーヤだ」
始めはハッチと名付けようかと思ったが、女王にそれはないだろうと、マーヤにした。
名前の由来は年相応の人には分かるだろう。
マーヤは神気を纏い進化した。
シャープな装いになり、羽が大きくなっていた。
だが、残念ながら声帯を得ることは出来なかった。
クモマルは何とか必死に人化魔法を教えようとしていた。
でもなかなか上手くいかないみたいだ。
途中から見てられなくなり、ゴンを呼び出した。
ここは先生に期待しよう。
「ゴン、人化魔法を教えてやってくれ」
「はい、楽勝です主。お任せください!」
その言葉の通りゴンの指導の元、あっさりとマーヤは人化魔法を取得していた。
どうやら段階的に教えると上手くいくみたいだ。
それをみてクモマルは驚いていた。
速攻で人化魔法を教えたゴンは鼻が高くなっていた。
ピノキオか?
というぐらい高くなっている。
「ゴン様、流石です」
クモマルにもゴンの魔法教え方が参考になったみたいだ。
クモマルは羨望の眼差しでゴンを見ていた。
ここでも師弟関係が出来上がっていたみたいだ。
マーヤのその姿は華麗な少女だった。
マッパだけど・・・
「クモマル、速攻で服を作れ!」
俺はクモマルに慌てて指示をだした。
「は!」
だって、これはよくないだろう。
マッパの少女が俺に土下座をしている。
これが日本なら俺は速攻で警察のお世話になっていることだろう。
今頃留置場だ。
見方によっては鬼畜だ。
人の所業では無い。
俺は狼狽えるしか無かった。
「島野様、私しマーヤ、感謝の言葉もありません。何なりとお申し付けくださいませ!」
さらに鬼畜度が増してしまった。
変態が過ぎるぞ。
俺は後ろを向くことにした。
勘弁してくれよ。
クモマル!早く服を造れっての!
そしてクモマルの予想通り、ジャイアントキラービー全体に俺の加護の効果は及んでいた。
後日観たことのない子供達を街の至るところで見かけることになった。
人でいうなら五歳児ぐらいだろうか、子供達がせっせと畑作業を行い。
害虫を貪り食っていた。
それもボリボリと・・・
ちょっとしたホラーだ。
たまに俺が新たに植えた樹木や花の蜜を啜る子供を見かける。
これも常識の斜め上をいっていた。
でも不思議なもので、ものの数日でこの光景に俺は慣れてしまった。
俺も何処か壊れてきてしまっているのだろうか?
この子供達は思いの外雑食で、何でも食べていた。
そしてマーヤからの申し入れで蜂小屋を造ることになった。
要は養蜂作業を行おうということだ。
これで蜂蜜が手に入る。
ありがたい事だ。
甘味が大好きなアラクネ達が大喜びする様が浮かびそうだ。
ジャイアントキラービー達はせっせと蜜を運んでいた。
にしてもデカい養蜂場だ。
どれだけの蜂蜜が捕れるんだろうか?
期待大だな。
そして俺はクモマルと共に蟲族達のところに訪れた。
デカいカマキリやクワガタ、カブトムシがいた。
結論としては俺には何とも分からなかった。
意志の疎通はいまいち出来なかった。
だからといって敵意を感じなかったし、脅威にも感じなかった。
その為、俺は保留にすることにした。
今は何とも言えない。
というより判断が出来ないのが本音だ。
クモマルとはとりあえず放置しておこうということになった。
本当に意思の相通が出来るのであれば、先方から何かしらのアクションが今後あるだろう。
無理に仲間を増やす必要もないだろうしな。
後日、オクボスがリザードマンの首領を連れて現れた。
リザードマンの首領は俺を見つけると、近づくなり膝を付いた。
「シマノサマ、オセワナリマス」
片言で話し掛けられた。
「おう、お前がリザードマンの首領だな。魔物国の合流嬉しく思うぞ。この国の力になってくれ」
「アリガタキ」
リザードマンが頭を垂れている。
「お前は・・・男性か?」
男女の違いがまったく分からん。
そもそも性別があるのか?
「ハ!」
「だったら・・・お前はリザオだ!」
安易な名づけで悪いな。
俺から神気がリザオに移る。
リザオが神気に包まれた。
「拝命致します!」
リザオは少し筋肉質になり、眼に知性を宿した。
何とも立派な兵士に見える。
「これで我らも魔物国の仲間入りです」
「リザオ、励めよ」
「は!」
リザオはやる気に満ちた表情をしていた。
その後リザードマンの名づけを行うことになった。
その数約百五十名。
後半は適当になってしまった。
こちらの身にもなって欲しい。
俺の名づけのボキャブラリーは、あって無いものなんだからさ。
そしてリザードマン達の家にはロッジの内壁、天井、床にタイルを張り、水を汲んだ瓶が置かれることになった。
これで一定の湿度は保てるだろう。
この家屋にリザードマン達は歓喜していた。
「家屋に湿気があるぞ!」
「なんて快適なんだ!」
「夢のマイホーム!」
喜んでくれて何よりだ。
じめっとした布団は・・・まあ好みだな・・・
俺はご勘弁願う。
リザードマン達は主に川での漁と海での漁を手伝い、田んぼをメインで管理することになった。
やはりリザードマンは水辺の作業を好んでいた。
そしてリザードマンから意外な上納品を頂くことになった。
それは鱗である。
時期が来ると生え変わるらしい。
とても堅い材質だった。
これは上質な武器や防具になりそうだ。
ゴンガスの親父さんに渡せば、喜ばれることは間違いないだろう。
だが、ここはまずはゴブスケに渡すべきだろう。
ゴブスケはリザードマンの鱗に大興奮していた。
そして、ゴブスケにとっては最高の素材だったみたいだ。
ゴブスケは連日工房に籠り、リザードマンの鱗を武器や防具、そして建築部材に加工していた。
確かにここまで堅ければ、建築部材にはもってこいだ。
ゴブスケの奴、ここに気づくとは腕を上げたな。
更にゴブスケはリザードマンの鱗を加工し、食器を造った。
これは素晴らしい。
落としても割れない上に、思いの外軽い。
これは南半球にも持ち込みたい一品だ。
これまで南半球との交流は、俺が食材と酒を適当に南半球から持ち込んだだけである。
どうしたものか・・・真剣に悩まされる。
リザードマンの鱗と、アラクネの糸は南半球に持ち込みたい。
重宝されることは間違いない。
でも・・・今はまだ躊躇してしまう。
南半球との交流はまだ早い気がする。
今度神様ズと相談してみようかな?
でもな・・・
そして遂にマーヤのハチミツがお披露目となった。
マーヤは俺にまずは食して欲しいと、貢物の様に蜂蜜を持参してきた。
「島野様、我らの自慢の蜂蜜です、お納めください」
とマーヤは跪きながら俺に蜂蜜を献上してきた。
見た目だけでも充分に分かる。
これは最高級のハチミツだ。
レイモンド様には悪いが、こちらの方が高級品に感じる。
純度が段違いに高い。
俺はまずは試食してみることにした。
「こ、これは・・・いいぞ!」
ギルとエルも試食したがったので渡してやった。
「う・・・旨い!」
「これは・・・美味しい」
ギルとエルのお墨付きだ。
最高級品には違いない。
これは何といったらいいのだろうか・・・プロポリスが豊富だ!
これは健康食品に近い。
ハチミツというよりもプロポリスの塊に近い。
薬になると考えられた。
試しに風邪をひいたゴブオクンに飲ませてみたところ、半日後には完全回復していた。
「治っただべ!」
とゴブオクンも興奮していた。
でもこれは南半球には持ち込めない。
レイモンド様に申し訳が立たない。
デカいプーさんが落ち込む処は見たくない。
残念だが、北半球限定にしよう。
うん、そうしよう。
やれやれだな。
モエラの大森林から北東に進んだところに、商業都市『ルイベント』があり、その人口数はおよそ四万人とされている。
距離としては、大人の足で二日程度の距離だ。
北半球随一の商業の国として栄華を極めていた。
この都市に訪れる者達は後を絶たず、その目的は多岐に渡る。
だがそのほとんどがその名の通り、商業に関するものだ。
『ルイベント』では手に入らない物は無いと言われているほど、物と活気に溢れている都市だ。
様々な人種が交流を図っており、人間、エルフ、ドワーフ、獣人等、人族が大半だ。
だがここには魔物は居ない。
この国に関わらず北半球では魔物は知性の低い種族であると忌み嫌われていた。
魔物を魔獣と変わらないと軽視する者もいる。
討伐対象とすべきとの意見もぐらいだ。
魔物が跋扈するモエラの大森林に隣接しているのは『ルイベント』王国だ。
『ルイベント』王国では魔物の取り扱いに関して、意見が分かれている。
一定の知性があるのだから交流をはかるべきだという意見と、魔獣と変わらない劣等種であり、そんな者達とは距離を置くべきだという意見だ。
今の所、意見は平行線を辿っている。
どちらかに偏ることはまずない。
『ルイベント』は王政を布いている国だ。
要は国王が支配する国ということだ。
その国王『スターシップ』は秀逸と謳われる存在で『ルイベント』は盤石な国家運営をおこなっている。
それも百年近くに渡って。
王政の国にしては滅多にない出来事と言える。
王政は国王の人間性や手腕、能力に応じて大きく国が左右される。
有能な国王であれば安泰の時世を送れるが、そうでなければ・・・
従って『ルイベント』は異例の国だと伺い知ることができる。
それだけ歴代の国王は優秀であったのだろう。
もしくはそれを支える誰かがいたのかもしれない。
また『ルイベント』は永世中立国としても知られている国だった。
先の大戦でも、中立を貫き通した。
当時の国王は現国王の曾祖夫である。
現国王に並び英雄と謳われた逸材だ。
傾きかけた『ルイベント』国を一代にして復興させた轟然たる人物である。
だがその活躍の裏には、実はある一人の神が存在していたことをあまり知られてはいない。
その神は表に出ることを嫌った。
それもその通りである、彼は商売の神であった。
商売は出し引きが肝要である。
自ら表に出ればいいとは限らないのだ。
彼はそれを熟知していた。
随分と頭のきれる神である。
その神の名は『ダイコク』商売の神である。
『ダイコク』は元々貧民街に生まれた人間だ。
それ以外の出自は分かっていない。
貧民であった彼は、ゴミ拾いから商売を始めた。
人間関係を構築し、コツコツと信頼を勝ち取り、商会を造り上げ、国全土に渡る影響力を手に入れ、財を築き上げた。
様々な逸話を持つ神様だ。
彼を慕う者達は多い。
今では『ルイベント』に現存する一柱である。
この国で商売を行う上では、彼の存在は外せない。
というより、彼に認められない限り、商売は行えないということだ。
『ルイベント』では『ダイコク』は絶大なる権力を持っていた。
それは国王『スターシップ』を凌ぐかもしれない程に。
『ルイベント』は王政の国であることに変わりは無いが、そう言った側面を持った国なのだった。
そして『ルイベント』では今、ある噂が囁かれている。
「モエラの大森林の様子がおかしい」
「モエラの大森林の魔物達に異変が起こっている」
「魔物の大侵攻があるかもしれない」
「スタンピートが起こるぞ!」
その噂は様々で、いろいろな憶測も飛び交っている。
今の『ルイベント』ではモエラの大森林の噂を耳にしない日は無い。
それ程にモエラの大森林は注目を浴びていた。
だがモエラの大森林に足を踏み込もうとする者は、今のところ現れてはいない。
誰もが他人事と高を括っていた。
それにモエラの大森林は、素人が足を踏み入れてはいけない危険な森というのが定説だ。
実際、魔獣の肥やしになってしまった者達も後を絶たない。
皆が皆、誰かがどうにかするだろうと、自分事とは考えていなかった。
その甘い認識が、この先訪れる好機を逃すことになるとは誰も知る由もなかった。
王城の一室。
この部屋は厳重な警備が行われており、極一部の人間しか立ち入ることが許されていない。
その扉が不意に開かれた。
「よー、ぼん!入るでー」
遠慮も無く一人の男が厳重な警備を素通りし、部屋に立ち入ってきた。
黒いローブを纏い、杖を突いている。
杖を突いてはいるが、背は曲がっておらず背筋はピンとしている。
眼にはひょうきんさが漂っている。
誰からも好かれる、そんな印象を持つ顔立ちをしていた。
「いい加減そのぼんっての、止めて貰えませんかね?これでも一国の王ですよ」
ため息をついて言い放ったのは『ルイベント』国の現国王『スターシップ』その人である。
「せやった、せやった、しかしな、こんな小さい頃からじぶんを知っとんねん。なかなか治らんわ」
男は床に向かってに手をやった。
小さな子供の頃からということだろう。
「それでダイコク様。どうされましたか?」
ダイコクと呼ばれた男が、当たり前の様にソファーに腰かける。
遠慮は無い関係のようだ。
ごく自然とやり取りが行われている。
「そう急くなや、急いては事を何とやらやで、スターシップ」
「はいはい、分かりましたよ」
スターシップもソファーに腰かける。
ダイコクは空間に手を挙げると、まるでそこに別空間があるかの如く手を突っ込んで、ワインボトルとワイングラスを二つ取り出した。
「飲むやろ?」
「ええ、勿論頂きますよ」
ダイコクはワイングラスに並々とワインを注ぎ、スターシップに手渡す。
「まずは乾杯やな」
「「乾杯」」
二人はグラスを重ねた。
軽快な音が響き渡る。
二人は一度ワインの匂いを嗅いでから、ワインに口をつけた。
「ふうー、渋みがあって、それでいて奥に甘みを感じる。今年は当たり年ですね」
スターシップは饒舌だ。
ワインが口に合ったみたいだ。
表情が綻んでいる。
「せや、まずはぼんに飲ませなあかんと思ってな」
再びぼんと呼ばれたことが気に入らなかったみたいだ。
スターシップは肩眉を上げている。
それを敢えて無視してダイコクは続ける。
「城でこのワインどれだけいるんや?今年は豊作とはいかんかった。例年よりも今年のワインは高いで」
スターシップは顎に手をやり、考え込んでいる。
「そうですか・・・でも例年通りの量を頂きますよ。臣下達の志気は下げたくありませんので」
自信に満ちた表情でスターシップは答えた。
「ほぉ、分かっとるやないか。ちびったこと言ったらど突いたろうかと思ってたんやがな。いらん心配やったな」
ダイコクはにやけている。
「ダイコク様に鍛えられましたからね」
スターシップも負けてはいない。
「そうか」
一つ咳をしてスターシップが場を改める。
「う!うん!それで、本命は何ですか?わざわざワインの為にいらっしゃった訳ではないでしょ?」
当然の様に問いかけた。
「分かるんか?」
意外だなと言わんばかりの表情を浮かべるダイコク。
「どれだけの付き合いだと思ってるんですか?流石に分かりますよ」
「そうか?噂は聞いとるんやろ?」
ダイコクは少し斜に構えた。
「噂ですか?」
「せや、モエラの大森林や」
「ああ、あれですか。どうにも眉唾な噂ばかりですね」
怪訝な顔のスターシップだ。
「せやからわいが調査に行ってみようと思ってな」
事も投げにあっさりとダイコクは言った。
「モエラの大森林に行くんですか?大丈夫なんですか?」
ダイコクは神だ、だから死ぬことはまずない。
だからといって、安易に行かせて良い物かとスターシップは考えているみたいだ。
「あそこには儂が加護を与えたオーガの首領がおるから大丈夫や、心配せんでええ」
「そうですか・・・でもお付きの者は連れていくのでしょ?」
「いや、そのつもりはないな」
「ですが・・・」
スターシップは心配な表情を浮かべている。
「ぼん、わてなら大丈夫や、それにそろそろモエラの大森林の恵の季節や、山菜やキノコを大量に仕入れてこなならん、今年は野菜は何処も不作や、食料飢饉まではならんが、食料の高騰は避けたい。国民が困るのはあかんやろ?ちゃうか?」
ダイコクは同意を求めた。
「ですが・・・噂の中には気になる物もありますので、せめてライルを連れていってください」
ダイコクは苦い顔をしている。
「ライルか・・・まあええやろ」
スターシップはほっとした表情をしている。
「モエラの大森林に何が起こっとるかは確かめんとあかん。だがわいには間違っても魔物達が侵攻してくることは考えられん。ソバルがそれを許すとは思えんのや」
「例のオーガの首領ですね」
スターシップがソバルを知っているのはこのやり取りで伺うことができる。
「せや、わてが唯一加護を与えた魔物や。ソバルは賢いし、わてに従順や、わてに弓を引くことはあり得んのや」
ダイコクは確信している。
「そうですか、それでいつ向かうのですか?」
「せやな、明日にでも行くつもりや」
「明日ですか?」
スターシップは驚いている。
「早いに越したことはないやろ?ちゃうか?」
「分かりました・・・ライルには私から伝えておきます」
スターシップはいやはやという感じだ。
「さようか、ほなわては帰るで」
「もう行くのですか?」
「せや、準備せなあかんからな」
「そうですか・・・また起こしください」
スターシップは歯切れが悪い。
「ほなまたな」
せっかちなダイコクは席を立ち、王城を後にした。
それを茫然と見守るスターシップであった。
翌日。
不意にドアがノックされる。
ドンドンドン!!!
荒々しい音が響き渡る。
ダイコクは思っていた。
(きおったか、ライルらしいノック音やな、ちっとは情緒を学ばんかい)
「チワーッス!ダイコク様、ライルっす!入るっすよ!」
大声が響き渡った。
これだけでこのライルが遠慮の無い者であることが分かる。
「ライル、静かにせんかい!近所迷惑を考えんか!」
「ダイコク様も大声を出さないでくださいっすよ!」
「喧しい!」
朝から大声を出し合う二人であった。
「ライル・・・自分は遠慮という言葉を知らんのかいな?」
「はて、俺は遠慮がちな性格だと思いますが?」
この返答だけでもこのライルという者のガサツさが伺える。
「あほか自分・・・まあええ。行けるんかいな?」
「モエラの大森林の調査と、森の恵の集荷ですよね?楽勝っすよ!」
「ライル・・・舐めて掛かると痛い目みるで」
ダイコクは呆れている。
「なんの、モエラの大森林でしたら何度も狩りで訪れております、大丈夫っす。ナハハハ!」
怪訝な表情でダイコクはライルを眺めていた。
だが、その眼差しの中には一定の信頼が混じっている。
このライルという男、実は国王親衛隊の副隊長であり、その剣技に関しては『ルイベント』国内において右に出る者はいないと謳われている。
凄腕剣士だった。
それを知っているダイコクは一定の信頼を置いていた。
性格はともかくとして・・・
今回は調査目的の為、防具は手軽な物になっている。
腰には剣を携え、皮の胸当てと鉄製の籠手、麻のズボンの中には膝当てが隠されている。
本来の彼ならば、鉄製の鎧を纏っているところだ。
今回の目的を分かっての装備だった。
「まあええわ、ほな行こか?ライル」
「了解っす!」
ダイコクも似たような服装をしていた。
違いは剣が短剣であること。
そしてダイコクのトレードマークとも言える、丸形の頭巾を被っている。
それにダイコクは特徴的な顔をしていた。
耳朶がデカかった・・・とても。
肩に付こうかという程にデカかった。
ダイコクは旅の準備もそこそこに、ライルをお供にモエラの大森林へと歩を進めた。
ダイコクとライルはモエラの大森林の中に足を踏み入れていた。
目的地まではまだまだ遠い。
ダイコクにとってもライルにとっても、モエラの大森林は何度も訪れた、通い慣れた場所であった。
だが今回は何かが違った。
それをダイコクはひしひしと感じていた。
モエラの大森林は深い場所を覗いては、低ランクの魔獣が跋扈している森だ。
大森林に足を踏み入れたら最後、魔獣との遭遇は必至だ。
モエラの大森林に足を踏み入れてから約一時間、まったく魔獣と遭遇しなかったのだ。
これまでにはない出来事だった。
ダイコクは本来単独でこのモエラの大森林に入る際には、魔獣避けの鈴を必ず帯同している。
この魔獣避けの鈴の音色には、一定の魔獣を寄せ付けない効果がある。
でも今回はライルが同行している為、魔獣避けの鈴は持参していない。
その理由は魔獣をライルに狩らせて、魔獣の肉や魔石を持ち帰るという意図があり、ライルを働かせるにはうってつけだからだ。
ライルの腕ならば、単独でもBランク相当の魔獣なら狩ることができる。
よほどの事が無い限り、危険な状況になることは考えられない。
調査を兼ねて一石二鳥を考えての行動だった。
だが現状はどうだ?
魔獣の気配すら感じない。
どうなっているのか、判断に迷うダイコクだった。
「ライル・・・いつものモエラの大森林ではないで」
ダイコクは警戒している。
「その様っすね、ここまで魔獣に遭遇しないなんて・・・ちょっと考えられないっすよ」
能天気なライルも違和感を感じていた。
二人の警戒レベルが一段階上がった。
「これは・・・魔獣の生息域に変化があったちゅうことやな」
ダイコク同意を求めた。
「そうっすか?」
こいつそんなことも分からんのか?という表情をダイコクはしている。
「自分・・・まあええわ。警戒しろや」
「はい!」
「声がデカいねん!」
「ダイコク様こそ」
調子が狂わされていらいらしているダイコクであった。
前にも似たようなやり取りをしたよな・・・と思っているダイコクだ。
「それにしても・・・どうなっとんのや?さっぱり分からん」
「と、いいますと?」
「だから・・・魔獣の生息域が変わるほどの何かがあったちゅうことや、でもそれがよく分からん・・・魔獣の生息域が変わるっちゅうことは大変なことやで、生態系に変化が訪れる程の何かがあったちゅうことや、これは一筋縄ではいかんのかもしれん・・・」
「そうっすね・・・」
こいつ絶対わかっとらんなという視線をダイコクはライルに向けていた。
実際ライルは何も分かってはいない。
事の重大さに気づかずに、空返事をしているだけだ。
その後もモエラの大森林の中へと二人は歩を進めた。
ダイコクはこれまでにない落ち着かない胸の騒めきを隠せなかった。
この違和感が間違いであることを祈りながら。
リザードマンとジャイアントキラービーが魔物同盟国に合流を果たしてから、早くも三ヶ月が経っていた。
今では各自が自分の役割を理解し、共存共栄が成り立っていた。
衣食住に恵まれ、魔物達は笑顔が絶えない。
そして更に国を発展させようと、魔物達は更なる高みを目指していた。
島野一家の役割も依然として変わらない。
特に忙しくしているのはゴンだ。
魔物達は魔法を習得したがった。
生活魔法を中心として、自然操作系魔法なども覚えたいと要望は絶えず、ゴンはてんやわんやだ。
ゴンは俺に救援を求めたが、俺には魔法の事は分からない為、外を当たってくれと断っておいた。
その為、エルやギルまで魔法教室を手伝っている始末だ。
というのも、建設系や料理に関しては、そのほとんどを魔物達は既に技術を習得出来ていた。
知力を得た魔物達は優秀だ。
その為、二人は手が離れたということだ。
俺は相変わらず、質問のある魔物達に囲まれることが多い。
一日の時間のほとんどを『知識の時間』に費やしている状況だ。
そして魔物達は読み書き計算をほとんど習得していた。
知力を得た魔物達は覚えが早い。
まさにスポンジに水だ。
魔物同盟国は日に日に発展していっていた。
今の唯一の問題点は牛乳だった。
やはりジャイアントブルからは牛乳は取れなかったのだ。
そろそろ諦める頃かもしれない。
ジャイアントブルは、ジャージー牛とは違うということみたいだ。
牛をサウナ島から持ち込むべきか悩ましいところだ。
でも今は南半球の手を借りるべきではないだろう。
何とも悩ましい・・・
突然の話で恐縮だが、今の魔物同盟国で流行っているのは蕎麦だ。
蕎麦に何をトッピングするかで意見が分かれている。
個人的にはアカモクから作った、ネバネバ蕎麦がお気に入りだが、こればかりは個人の意見が分かれるところだ。
アラクネ達はまさかのハチミツ入り蕎麦を好んで食べていいた。
俺には・・・無理だな。
蕎麦に甘みって・・・なんだろうね?
トッピングは無限大だ。
揚げ物が人気だが、貝や魚の切り身を乗せる者達も多い。
ちょとビックリしたのは、アワビを当たり前の様にトッピングしていたことだ。
鮑はバターで炒めるべきだろう・・・
だが牛乳が無い・・・
無念だ。
大多数は普通に天ぷら蕎麦を好んでいた。
やはりかき揚げに限る。
個人的には海老天も好きだが・・・
それに好まれたのはザル蕎麦だ。
蕎麦つゆはカツオと昆布のだしに醤油と酒を混ぜた物だ。
結局は上手けりゃ何でもいいでしょ?
そうに決まっている。
俺は魔物同盟国が一定の発展をしたと判断した。
そこで娯楽を取り入れることにした。
俺が真っ先に取り入れた娯楽は勿論サウナだ。
それ以外何があるというのだろうか?
ここでは拘りよりも利便性を優先した。
なんと言っても、魔物同盟国の住民は今では千名を超える集団となっていたからだ。
安定の生活を得た魔物達の繁殖力を舐めてはいけない。
あっと言う間に妊娠する者達が増えた。
そしてその出産までの日数も早い。
勿論種族間での違いはあるのだが、人間の様に十月十日と、お腹の中で長々と育てる訳ではない。
ゴブリンに関してはものの三ヶ月で臨月を迎えてしまうのだった。
それも一気に五体ほど生んでしまう。
その為、魔物同盟国の人口数は鰻登りにその数を増やしていた。
そしてその度に行われる名づけの儀式に、俺も忙しくしていた。
これは加護の問題では無く。
魔物達はとにかく俺に名を授けて貰いたがった。
加護に関しては何故だか俺の加護を受けた魔物達から生まれた子供であれば、自動的に加護を授かっていた。
仕組みはよく分からない。
加護が遺伝するとは正直考えてもみなかった。
加護が先なのか、知力が先なのかという、鶏か卵が先か現象なのかもしれないと俺は思っている。
そして俺が造ったサウナは何と百名収納可能な大サウナだった。
サウナストーブは十台完備している。
常時扉が開け閉めされる為、奥の上段は大人気だ。
まあ、そうなるよね。
オートロウリュウ機能も付いている。
そしてノン師匠の元、ゴブオクンが熱波師の修業を積んでいる。
良い熱波を期待したい。
このサウナ導入に魔物同盟国は揺れた。
最高の娯楽であると、老若男女楽しんでいる。
更に俺は『同調』で土に同調し、水脈を探った。
実は前に井戸を掘り当てた時に、温泉があるのではないかと思われたからだ。
その為、土と同調して水脈だけでは無く、温泉があるかを探ってみた。
案の定その勘は当たっており、泉源を探し出していた。
街の北部に温泉が出来上がった。
泉質の状態は分からないが、触ってみた感触としては肌に纏わりつく感触と、確かな硬水の感触があった。
これはいい温泉だろう。
一度五郎さんに見て欲しいぐらいだ。
サウナ島の温泉とは違った良さを感じる。
温泉も大規模な物を造った。
百人が入れるサイズだ。
正に大温泉場だ。
魔物達は温泉が大好きのようで、毎日楽しんでいた。
そして水風呂は泳げる水風呂だ。
ノンにプールと言われたあの水風呂だ。
こうでもしないと、キャパが釣り合わない。
外気浴場は人数が多すぎる為、ちょっと雑な造りになってしまった。
適当に椅子を沢山置いておいた。
拘りは後日改めよう。
それで勘弁してくれ。
魔物達は大いに整っていた。
良いじゃないか。
好きに整ってくれ。
俺も整わせてもらうさ。
その後も娯楽を広めようは続く。
南半球でも広めていない娯楽は何かと俺は考えた。
二番煎じでもいいのだが、気分的に新しい娯楽を持ち込みたかったのだ。
そして広めたのはモルックだった。
日本に帰った時に知ったゲームだ。
おでんの湯のサウナ室に入っていた時に、TVでやっていたのを見かけたのが切っ掛けだ。
こけしの様な木材の顔の部分に数字が刻まれており。
それを円状に何本も並べたところに木材を投げ込む。
そして倒れた木材の数字を足して五十になった者が勝ちというゲームだ。
ルールの詳細はいろいろあるようだが、簡易的でいいだろう。
魔物達はモルックを大いに楽しんだ。
というか大流行した。
ゲームや遊びという概念が無かった魔物達にとっては斬新だったみたいだ。
魔物達はゲームを楽しむということを満喫しだしていた。
大いに結構!
ゲームは嵌ると楽しいよね。
気持ちは良く分かる。
沢山楽しんでくれ!
そして気分を良くした俺は、これまで南半球で導入してきた娯楽を次々と導入した。
今では娯楽場まで造られている始末だ。
ここまで急速に広まるとは思ってもみなかった。
一度ゲームの楽しみを知ってしまったが最後、ここぞとばかりに魔物達は全力で娯楽を極めようとしていた。
俺に向けて沢山娯楽を導入してくれとの圧が凄い。
将棋やオセロ、ビリヤードにダーツ、そしてバスケットボールとバレーボール。
そして漫画と本を図書館に俺は格納した。
連日図書館は大賑わいとなった。
というか漫画にド嵌りし、連日徹夜をするものまで現れてしまった。
少々刺激が強すぎたみたいだ。
今では図書館の利用時間は制限されており、徹夜する者達は減った。
やれやれだ。
その熱意は買うが・・・
限度というものがあるだろう。
スポーツも大いに賑わった。
健全で宜しい!
今ではバスケットに関しては十チーム以上あるぐらいだ。
何処かでランドのチームと戦わせても良いのかもしれない。
あ!俺が監督だった・・・
俺の見方としては魔物達の方が強いと思う。
たぶん・・・
将棋やオセロなどは知力の底上げになると、ほとんどの魔物達が競いあうように切磋琢磨していた。
皆な本気で戦っていた。
正に熱を帯びていた。
今後大会も開催されるみたいだ。
好きに楽しんで欲しい。
懸賞は何か準備させて貰おう。
何が良いかな?
実は野球はまだとっておいてある。
流行ることは鉄板だからだ。
まだまだ楽しみは取っておこうということだ。
第一陣で披露するにはもったい無いからね。
俺は今度時間がある時にゴルフを導入しようと考えている。
問題はゴルフボールだった。
あの細かい凹みをどうしようか思案処だ。
俺の能力で造ることはできるが、ゴブスケが再現できなければ意味が無い。
ゴブスケに期待だ。
ゴルフコースは・・・いくらでも造れそうだ。
手間はかかるだろうけども・・・
でも受けるに違い無いだろう。
俺は魔物同盟国会議で皆に一つ提案することにした。
本当は口を挟むべきでは無いのだが、言わざるを得なかったのだ。
それは休日の導入だ。
俺は週休二日を提案した。
その意図はあまりに魔物達は従順に働き過ぎていたからだ。
こいつらは毎日働いて当たり前と思っていた。
現在の魔物会議の主要メンバーはソバル、プルゴブ、オクボス、コルボス、クモマル、リザオ、マーヤ、の七名だ。
そこに俺がアドバイザーとして参加している。
たまにギルとゴンも参加することもある。
島野一家の参加率は適当だ。
特に何も決めてはいない。
ノン以外の島野一家の面々は参加したたことがある。
それでいいだろう。
ノンが参加しても、どうせ寝てしまうに決まっている。
そんな姿をプルゴブ達に見せるのもどうかと思う。
「島野様、休日とは何なのでしょうか?」
クモマルが尋ねてきた。
そこからか・・・
一瞬頭を抱えそうになった。
教えて差し上げましょう!
「休日とは休みの日のことだ、その日は仕事をしなくていい、そして各自好きな事をして過ごしていい日なんだ」
全員が嘘だろという表情をしていた。
だが休日は確実に必要だ。
無くてはならないとも言える。
休日無くして何が自由な人生か?
人生を謳歌するには無くてはならないだろう。
「仕事をしなくていい日なんて・・・」
「いったい何をすればいいんだ・・・」
「生産性が落ちるのでは?」
「返って落ち着かないかも?」
いまいち休日の良さを理解していないみたいだ。
これは良く無い。
これまでは常に働くことが当たり前だったのだからしょうが無いかもしれないが、ここから改めなければいけない。
毎日働くことが当たり前と言う概念から覆さなければならない。
こうなれば固定観念を打ち砕くのみだ。
さて語ろうか・・・
「いいか、ちゃんと休みを取ることによって、心と身体をリセットすることは大事な事だ。それにちゃんと休みを取ることによって、生産性が返って上がったというデータもあるぐらいだ。始めはどうしようかと戸惑うかもしれないが、今では娯楽がこの街にはある、好きに過ごせばいいんだよ」
プルゴブが話を繋ぐ。
「せっかくの島野様のご提案、まずは試してみてはどうだろうか?」
「そうだな」
「確かに」
「だな」
と賛同が続く。
「ちょっと待てお前達、俺が言う事が全てでは駄目だろう、自分達でちゃんと考えて決めろよ。お前達の国にするんだろ?」
ソバルが手を挙げた。
「分かっております島野様。実は儂としては、休日に風呂とサウナを大いに楽しみたいと思っておりました」
「俺も」
「俺は釣りがしたいな」
「私は将棋をしたい」
なんだこいつら、何だかんだ言ってやりたいことがあるんじゃないか。
「まあいいさ、お前達の好きすればいい」
「「「「「「は!」」」」」」
この日を境に魔物同盟国では週休二日が当たり前となった。
休日は各自様々な過ごし方をしていた。
ただ数名は仕事が趣味だと休日にも仕事をする者達もいた。
特にゴブスケとゴブコは休もうとしなかった。
個人的には仕事から離れて欲しいのだが、そうは言うまい。
まあ好きにやってくれ。
ほどほどにな。
ダイコクとライルはモエラの大森林を歩んでいた。
此処までに遭遇したのは魔獣が数体しか無かった。
全てC級以下の魔獣であった為、ライルがあっさりと仕留めていた。
(それにしてもおかしいやないか・・・)
ダイコクの違和感は全く止むことが無い。
(わての知っているモエラの大森林はもはやないやないか)
その認識は間違ってはいない。
そしてダイコクはあり得ない光景を目にすることになった。
半日以上かけてやっとたどり着いたオーガの里。
そこはもぬけの殻だった。
(なんやねんこれは・・・あり得ん・・・どないなっとんねん?)
ダイコクの知るオーガの里はもはや無く。
廃墟と化したオーガの里がそこにはあった。
ダイコクの考察が始まる。
(魔獣の襲撃でも受けたんか?)
(な訳ないか・・・襲われた形跡はないしな)
(移住したんか?)
(にしてもなんでや?)
(意味が分からん・・・)
ダイコクは考察をするものの、結論に達することは出来なかった。
ライルは狼狽えるばかりだ。
そして日も暮れようとしていた。
「しゃあないな、ライル。今日はここで過ごすで」
「そうっすね、一先ず火を熾すっす」
ライルは火を熾す準備を始めた。
二人は落ち着かないまま夜を迎えることになった。
翌日。
軽めの朝食を済ませた二人は、モエラの大森林の更に南に歩を進めた。
というのも、人が通った形跡がある道を見つけたからだ。
その道は獣道に近い。
二人の足取りは重い。
特にダイコクに関してはこれまで通い慣れたオーガの里が、もぬけの殻になっており、かつ魔獣の生息域が大きく変化していることが気になって仕方が無かった。
もはやダイコクの知るモエラの大森林では無くなっている。
その事に不安を感じると共に、強烈な興味を抱いているダイコクであった。
ライルは他人事と感じつつも、何かが起こっていることは理解している。
ダイコクほどの不安は感じていないようだ。
そして歩をすすめること数時間、森が慌ただしくなってきた。
風が舞い、空気が重い物になっていた。
二人は異様な気配を感じていた。
「ライル・・・気を抜いたらあかんで」
「分かってるっす・・・」
早くもライルは抜剣している。
ライルの緊張している姿にダイコクは口元を緩める。
その眼は分かっとるやないかとでも言いたそうだ。
不意に進行方向から物音がした。
ガサッガサッ!
目前から魔獣化したジャイアントベアーが現れた。
これは不味いとダイコクはライルの後ろに控える。
魔獣化したジャイアントベアーはAランクの獣だ。
ライルでも手こずることが予想された。
ライルは一度剣を横薙ぎに払い、気合を入れた。
「ダイコク様、もっと下がってくださいっす」
「せやな」
ダイコクは更に後ろに控える。
魔獣化したジャイアントベアーが威嚇を始める。
腕を拡げて咆哮を挙げる。
怯まずライルは状態を低くして構える。
ライルは先手必勝とばかりにジャイアントベアーに向かって行く。
それに応える様に、ジャイアントベアーもライルに標準を定めた。
二人の距離が詰まる。
ライルは剣を下段に構えている。
ジャイアントベアーが四足歩行になり、一気に距離を詰めた。
そこに合せる様に、ライルが剣を切り上げた。
寸でのところでジャイアントベアーが後ろに身体を引いてそれを躱す。
その反動を使って、ライルが剣を戻すところに合わせてジャイアントベアーが前足をライルに向けて襲い掛かる。
狙いは頭だ。
ライルは戦慄していた。
(こいつ分かってやがるっす)
横にスイープしてライルが避ける。
それを追って、二撃目が放たれる。
それをライルは剣で受け止める。
ライルは想像以上の力に身体を持ってかれていた。
(不味い!)
ダイコクは戦闘に関しては素人だ。
だがそんなダイコクでもライルのピンチが分かる。
(わてには何にも出来へん、どないしよう?)
「ライル!」
ダイコクは思わず叫んでいた。
吹っ飛ばされたライルにジャイアントベアーが追撃を加えようと迫る。
ライルは戦慄の表情を浮かべていた。
今まさにジャイアントベアーの剛腕が、ライルの頭に向かって降ろされようとしていた。
シュン!
そんな音がしたのをダイコクは聞いた。
あり得ない光景をダイコクは眺めていた。
一匹の大きなオオカミの様な獣が、ジャイアントベアーの首に強烈な一撃を放っていた。
爪が首を横薙いで、ズルっという音と共にジャイアントベアーの首が一瞬の間の後に地面に転がっていた。
ダイコクの思考は止まっていた。
何が起こったのかは視界に捕らえることは出来たが、これが現実なのか把握できていない。
一拍置いて何処からか声がした。
「ノン様ー!待ってくれだべー!」
ドタドタと足音を立てながら、ゴブリンがこちらに向かってくる。
ここでやっと、ダイコクは我を取り戻した。
(どないなっとんねん!)
ダイコクは心の中で叫んでいた。
余りの出来事にそう言う事しか出来ないみたいだ。
常に冷静沈着なダイコクだが、現状を掴み切れていない。
ライルに至っては、大きなオオカミを茫然と見つめている。
心ここに有らずだ。
二人にとっては命を救われた訳だが、それすらも今は理解の先にあった。
大きなオオカミはダイコクとライルを見ると突然人化した。
銀髪のイケメン大男が突如現れた。
「あれー?お客さんかなー?」
ノンである。
何時も通りのマイぺース感を漂わせながら、素っ頓狂な感じで語り掛けている。
ノンはマジックバックをゴブオクンに手渡した。
ゴブオクンは息絶えたジャイアントベアーを、マジックバックに収納しようとしている。
ジャイアントベアーのサイズがマジックバックに合っていないのか、ゴブオクンは収納することに苦戦していた。
ダイコクは今度は人化したノンに度肝を抜かれている。
その眼が大きく見開かれていた。
だが何とかパニックにならない様にダイコクは踏ん張っている。
拳を握って耐えていた。
ライルは許容を超えてしまったのだろう、彼は気絶してしまった。
口から泡を吹いている。
「あれー?大丈夫ー?」
ノンは呑気にライルを眺めている。
「ノン様、大丈夫じゃないだべ。こいつ気絶してるだべ」
ゴブオクンがツッコんでいる。
「ほんとだ。それでおじさんは誰なの?」
ノンはゆっくりとダイコクに向かって行く。
「僕はノンだよー」
ダイコクは意を決したかの如く、歯を食いしばっている。
そして何とか話し掛けることが出来た。
「わては・・・ダイコクや・・・じぶん・・・もしかして聖獣のフェンリルかいな?」
「そうだよー、よろしくねー」
ノンは事も無げに言う。
「おいらはゴブオクンだべ」
ゴブオクンも名のった。
ダイコクはゴブリンが流暢に話をしていることに更に驚いている。
「マジか・・・」
「何が?」
ノンが不思議がっている。
「いや、じぶんゴブリンやろ?ちゃうか?」
ダイコクはゴブオクンに向かって言った。
「そうだべ」
「やけに流暢に話すやないか・・・なんでやねん」
ノンはその質問には食いつかず、
「関西弁だ!凄い!凄い!」
と喜びだした。
「そこかいな・・・何やねんいったい・・・」
「なんやねん、何でやねん!」
ノンは関西弁を話すことが楽しいらしい。
万遍の笑顔をしていた。
ノンは日本のテレビで、コメディーを多く視聴していた為、大いにウケていしまっているようだ。
なんともマイペースだ。
「おらはゴブリンだべ、それがどうかしただか?」
やっとゴブオクンが質問に答えた。
ダイコクは頭を抱えそうになっている。
「なんでそんなに流暢に話しとんねん、ありえんやろ?」
「それはね、主が加護を与えたからだよ。ね?ゴブオクン?」
ノンが事も無げに言う。
「そうだべ」
二人はどや顔になっている。
ちょっと鼻に付く顔をしている。
「マジか・・・せや、ノンといったか?自分も名があるっちゅうことは仕える神がおるっちゅうことやな」
「そうだよ、おじさん物知りだね」
「それぐらい常識や、にしても神がおるんか・・・どないなっとんねん」
「どないなっとんねん!」
ノンはまだ関西弁から離れられないみたいだ。
ダイコクは少々煩く感じているみたいだ。
苦い顔をしている。
「まあええわ、そうやった。ノン、助けてくれてありがとうな、恩にきるで」
ダイコクはやっとノンによって救われたことを理解し、お礼を口にした。
「全然良いよー、楽勝だよー」
続けてリザードマンとオーガがやってきた。
「ノン様、早すぎますって。ちょっとは加減をしてくださいよ」
息を切らしながらオーガがノンに苦情を言う。
「えー、君達が遅いんだよ。それにちょっとやばそうだったからさー」
「そんなー」
今度はリザードマンが嘆く。
このやり取りを見てダイコクはまた混乱しそうになった。
(なんでこいつらも流暢に話しとんねん!ありえんやろ!)
「ちょっと待ちいな、お前の主はどんだけの魔物達に加護を与えとんねん?こいつらだけちゃうやろ?」
ノンが首を傾げる。
「全員だよ」
何か間違ってますか?とノンは言わんばかりだ。
「な!・・・」
ダイコクの考察が始まる。
(そいつの神力は底なしかいな・・・もしかして創造神様か?)
(な訳ないわな・・・地上に顕現されたとは聞いたことはないしな)
(まあええわ、これは直接会うしかないな)
(そいつの所為でモエラの大森林の勢力図が変わってしまったということやな)
(そうとしか考えられへんわ)
(何をしてくれてんねん)
(全く・・・)
(にしても、もしかしてこのモエラの大森林の魔物達全員に加護を与えよったんかいな?)
(ありえんだろう?)
(そうなってくるとこの北半球の勢力図すらも脅かすかもしれん)
(魔物は知性が低いと蔑まれてきおったが、その魔物が知性を得たとなると脅威以外の何物でもないがな)
(戦力的に見たら人族では敵わんかもしれんで)
(魔法が使えるエルフあたりでも苦戦するかもしれんで)
(ここは慎重に見極めんとあかん)
(ほんとにその神、何をしてくれてんねん!)
(ことによっては迷惑やないか)
(ただでさえ、神気が薄くなっとんねん)
(こちとら商売活動も制限しとるんやで)
(これ以上どうせいっちゅうねん)
(勘弁してくれや!)
ダイコクのボヤキは止まらない。
不意にノンから声を掛けられる。
「おじさん、主に会ってみる?」
「あたり前や、その主の所に連れてってくれや」
「分かったー」
ゴブオクンが割って入る。
「ノン様、これは初めてのお客様ということだべか?」
「うん、そうだね。ゴブオクンは先に魔物同盟国に行って、主達に伝えておいてよ」
「分かっただべ、おいらは先に行くだべよ」
というとゴブオクンは一足先に掛けていった。
(ちょっと待てや・・・魔物同盟国やと?)
(なんやそれ・・・)
(あかん・・・)
(もう何も考えたくなくなってきてもうたわ・・・)
(もうなんでもこされや・・・)
(一先ずライルを起こさんとな)
ダイコクはライルを遠慮も無く蹴飛ばした。
「ライル!起きんかい!」
蹴られて眼を覚ましたライルは茫然としていた。
「ちゃっちゃと眼を覚まさんかい!置いてくで!じぶん!」
ライルは頭を振っている。
「ダイコク様・・・いったい何が・・・」
「やかましい、どうでもええからさっさと行くで!」
「・・・ちょと待ってくださいっすよ・・・」
ライルは立ち上がり、ダイコク達に着いていった。
ライルは何も理解が及ばぬまま、魔物同盟国へと歩を進めていた。
ダイコクは奥歯を噛みしめていた。
(もうわては驚かんで・・・たぶん・・・)
その想いはあっさりと打ち砕かれることになろうとは、この時のダイコクは知る由も無かった。
ダイコクとライルは魔物同盟国へと歩を進めていた。
ノンが同行している所為か、魔獣が近寄ってくる気配は全く無かった。
安全な旅路である。
ノンはマーペースに鼻歌を歌っている。
アニメのテーマソングだ。
「それでおじさんは神様なの?」
ノンが遠慮も無く話し掛ける。
「せや、なんで分かんねん?」
ダイコクは見抜かれたことに驚くと共に、その観察眼に感心した。
「なんとなくねー」
「そうか・・・」
ダイコクは聖獣の勘だと考えていたが、実際は違う。
ノンはこれまでに何人もの神を見てきた為、その雰囲気で掴めており。
自身でも神気を纏った経験がある為、感じることが出来ていたのだった。
「それで、その魔物同盟国とやらはあとどれぐらいのかかるんや?」
「そうだねー、もうすぐだよー」
ダイコクとライルは魔物達の一団に囲まれて、落ち着かない時間を過ごした。
安全であることに変わりは無いのだが。
魔獣の襲撃があったとしても、ノンがあっさり狩ってしまうのは、容易に想像できていた。
ライルは終始ノンに及び腰だ。
完全にビビッている。
ノンからは一定の距離を保っている。
そんなライルの様をダイコクは冷えた目線で眺めていた。
歩を進めること数時間。
ダイコクは魔物同盟国に近づくにつれて、神気が濃くなっていることに違和感を覚えていた。
それと同時に自身に集まってくる神気に充足感を得ていた。
ダイコクはこんなに濃い神気を感じたのは何年ぶりなんだと、物思いに耽っている。
心と身体が満たされていく。
随分と久しぶりに感じる充足感だった。
このままここにいたい、そう想ってしまうほど満ち足りていた。
いよいよ魔物同盟国の入口付近に差し掛かっていた。
ダイコクとライルはあり得ない光景を目にしていた。
その瞳が大きく見開かれている。
二人は遠目に見える町並みに、思わず腰を抜かしそうになっていた。
彼らの知りえる魔物達が、到底造れるような街並みではない。
建物然り、石畳しかり、街が整備されれており、清潔感に満ち溢れていた。
ダイコクは、もしかしたらルイベントよりも文化レベルが高いかもしれないと考えていたぐらいだ。
もう驚かないと心に誓っていたが、あっさりと裏切られてしまっていた。
(何と完成度の高い街や・・・)
ライルは周りをキョロキョロと眺めており、ちょっとしたお上りさんみたいだ。
そんな二人に構わずにノンが、
「魔物同盟国にようこそ!」
と元気に挨拶をした。
「「「「いらっしゃいませ!」」」」
連れ立っていた魔物達も続く。
「お、おお・・・」
「あ、ああ・・・」
二人は挙動不審に狼狽えていた。
そして、ゴブオクンから前もって聞いていたのだろう。
魔物同盟国の首領陣が入口で二人を出迎えた。
入口の脇に様々な魔物達が、控えていた。
「「「「「いらっしゃいませ!魔物同盟国にようこそ!」」」」」
ダイコクとライルは熱烈な歓迎を受けることになった。
二人は空いた口が塞がらなかった。
俺は今日は特にこれといってやることがなかった為、物足りないと感じている施設の梃入れを行うことにした。
まだまだ詰めが甘い所が多い。
何といってもまずはサウナだ、というか外気浴場だ。
これまでは適当に椅子を並べていただけだったが、ちゃんとした外気浴場にすることにした。
まずは屋根付きの櫓を組んでみた。
大きさとしては、三十メートル×三十メートルのサイズだ。
そしてアラクネの糸を使って、インフィニティーチェアーを二十台造った。
試しに座ってみた。
これは何とも素晴らしいフィット感だ。
横になるだけで整ってしまいそうだ。
ああ、サウナ島に持ち込みたい・・・
この棲み分けはいつまで続けようか?
そうこうしていると、昼飯の時間になっていた。
作業に没頭すると時間の経過が早い。
俺は定食屋に向かった。
今日の定食は焼きサバ定食だ。
今では漁船は三艘あり、追い込み漁なども行っている。
時々マグロも捕れることもある。
今ではツナマヨ丼の提供もされている。
魔物達はツナマヨが大好物だ。
時にマヨネーズが大好きみたいだ。
今朝の漁でサバが多く捕れたみたいだ。
昼飯を食べていると、魔物達が寄ってくる。
『知識の時間』の開始だ。
「島野様、教えて欲しいのですがいいでしょうか?」
一人のリザードマンが話し掛けてきた。
「いいぞ、どうした?」
「実は最近ビリヤードに嵌っているのですが、何か必勝法などはありませんでしょうか?」
リザードマンからの質問だ。
「必勝法か・・・そうだな、敢えて言えば、狙った球を落とすことだけを考えているうちは素人だな」
「といいますと?」
グイグイくるな。
「白球が狙いの球を落とすことだけじゃなくて、その後に何処に位置すれば次に狙う球を狙いやすくなるのか、そこを考えながらプレイしてみるということさ」
「なるほど・・・先を見越してということですね・・・」
リザードマンは頷いている。
「そうだ、どれだけ先を見越してプレイすることが出来るのか?これが必勝法だな」
「参考になります、ありがとうございます」
リザードマンは満足そうだ。
すると何やら騒がしくなってきた。
どうしたんだ?
ゴブオクンが突然駆けこんできた。
「島野様ー!大変だべー!」
と大騒ぎだ。
ゴブオクンは俺の前にやってくると、
「島野様、遂に来ただべ!」
と叫んでいる。
煩いな!
「落ち着けゴブオクン、何が来たんだ?」
「遂にお客様が来ただべよ!」
おお!
遂に第一お客様発見か!
「そうかよかったな、まずは俺じゃなくプルゴブ達首領陣に伝えに行けよな。そういう手筈じゃなかったか?」
「あ、そうだったべ。じゃあ行くだべ!」
と騒がしく立ち去っていった。
やれやれだ。
それにしても・・・どんな客が来たのかな?
ちょっと楽しみだな。
魔物同盟国を快く感じてくれるのなら嬉しいな。
さてさて、どうなることやら。
お客の対応は既に魔物全員と話は重ねている。
シュミレーションはばっちりだ。
俺は高みの見物とさせていただこう。
後はソバル達に任せておけばいいだろう。
俺は娯楽場の拡幅でも行っておこう。
俺は娯楽場に向かう事にした。
さて今日はどんな娯楽を造ろうかな?
儂は遂にこの時が来たのかと興奮を抑えることが出来なかった。
まだまだ発展途上中の魔物同盟国だが、儂らにとっては誇るべき国じゃ。
儂としてはもう国としての基礎は出来上がっていると考えておる。
始めは散々じゃったな。
島野様に出会い、儂は眼を醒ますことができた。
もうあのお方には足を向けて寝らねんのう。
島野様御一行には本当にお世話になっておる。
ここで島野様に恩返しがしたい。
格好の出番となったのう。
種族、上位種、そんなことはどうでもよいことじゃ。
儂が、否、儂らが求めるのは共存共栄を果たすこと。
島野様の教えに従い、儂らは発展を遂げてきた。
この教えは尊い。
決して背くことは許されないし、儂も許さない。
そして遂に始めてのお客様を迎えることになった。
魔物同盟国会議にて何度も議論を重ねた事項じゃ。
どうやっておもてなしをし、どうやって迎え入れるのか?
今後の魔物同盟国の目指す処は、魔物同盟国が他の国から認められる国になることじゃ。
自画自賛では意味が無い。
自他共に認められてこその国造りじゃ。
ここまでの道は決して楽ではなかったが、皆と協力して造り上げてきたものじゃ。
決して失敗は出来ない。
兄弟達も同様に考えておることじゃろう。
否、そう力を籠めることでも無かろう・・・
島野様曰く、いつも通りが一番いいということじゃった。
急いてはならん・・・
楽に行こう・・・
あれは・・・ノン様と・・・まさかダイコク様か?
何ということじゃ!
これはありがたい!
あの方ならば儂らの国を認めてくれるのは間違い無かろうて。
儂は好感触を得ることを確信してしまった。
全力でお迎えさせていただこう。
「「「「「いらっしゃいませ!魔物同盟国にようこそ!」」」」」
あれ?
ダイコク様はなんでそんなに驚いているんじゃ?
魔物の皆でお辞儀をして迎え入れた。
そうか、儂らが知力を得てこのようなもてなしをしておることに驚いているのじゃな。
まずは落ち着いて貰おうか。
儂はダイコク様の前に出た。
相変わらずそのデカい耳朶は健在じゃな。
「ダイコク様、ご無沙汰しております」
儂は頭を下げた。
ダイコク様は不思議がってこちらを見ていた。
「ご無沙汰やと?・・・お前もしかして・・・ソバルかいな?」
「はい、ソバルでございます」
儂は膝をついた。
名づけ親に対して当然の行為じゃ。
兄弟達も同様に跪こうとする者がいたが、儂は止めた。
ダイコク様に跪くのは儂のみじゃ。
お前達にその必要はない。
ダイコク様に加護を頂いた訳ではないからの。
「ソバル、じぶん随分と変わったやないか、ほんとにソバルかいな?」
「はい、ソバルでございます」
「ほんまか?・・・ソバル聞きたい事が山ほどあるで・・・」
儂がソバルであると分かったからか、ダイコク様は少し安心した表情をしていた。
「はい、そうかと存じます。まずは儂らの国を案内させて貰えませんでしょう
か?道すがら魔物同盟国の首領陣をご紹介させて頂きます。その後儂らを導いてくれた島野様をご紹介させて頂きます」
「まずはその島野とやらに合わせてはくれんのか?」
当然そうくるわな、じゃがここは譲れん、ダイコク様であったとしても。
「そうしたい処ですが、まずは街を見て貰う様に島野様から仰せつかっておりますので、ご承知おきくださいますと幸いでございます」
「・・・そうか・・・」
ダイコク様は承知してくれたみたいだ。
理解の早い方で助かる。
儂はダイコク様をアテンドすることにした。
魔物同盟国を大いに楽しんで頂きたい。
ダイコク様であれば、儂らの事を受け入れてくれることじゃろう。
幸先は良好のようじゃ。
ダイコクとライルは魔物同盟国を視察することになった。
農場を見て周り、牧場を見て周った。
このことだけで、魔物同盟国の飽食ぶりが伺い知れており、眼を見張るものがあった。
もはやモエラの大森林の恵など、陳腐に感じてしまうぐらいだ。
見たことの無い野菜や果物もあり、中にはこれは何になるのか?という植物まであったからだ。
既にダイコクの理解を超えていた。
ダイコクは農業や畜産業に疎い訳ではない。
商売の神として当然精通している。
それほどまでに魔物同盟国の農業と畜産業は充実していた。
ルイベントよりも明らかに野菜の質が高い。
だが同時にこれで今年の不作を賄えるのではないかとの期待もあった。
収穫量がどれぐらいかは分からないが、大いに期待できるぐらいの広大な畑だった。
それにこれまで見たことも無い田んぼという物もあった。
更にはハウス栽培という物まであった。
プルゴブというゴブリンの首領が自慢げに説明してくれた。
ルイベントの為に、野菜などを買い付けることが適正と思えた。
事は上手く運ぶとは限らないが。
そうすることで今年の不作をカバーできるとダイコクは考えていた。
その後様々な施設を見学することになった。
どの施設も充実した物であり、ルイベントの文化の上をいっていると感じる施設も多々あった。
特に図書館は素晴らしいと感じているようだ。
「あの漫画という物は時間がある時にじっくりと読んでみたいものや」
とダイコクはぼやいていた。
魔物同盟国の建造物は木製が多い。
モエラの大森林には樹がふんだんに生えているからだろう。
対してルイベントでは石造りが主流となっている。
ダイコクが驚愕していたのは上下水道だった。
ルイベントでは未だ、上下水道は王城などの一部の施設でしか使われていない。
清潔感に溢れ、清涼感すら漂うトイレには眼を見張るものがあった。
あのライルですらこの価値を理解していた。
「ダイコク様・・・この街の清潔感って・・・ルイベントよりも上じゃないっすか?」
と声を漏らしていた。
「ほんまやな・・・考えられへんで・・・」
けっしてルイベントは汚い国ではないが、街中にはどうしてもゴミや小汚い物が散見されてしまっている。
魔物同盟国では、街の至るところにゴミ箱が設置させており、回収作業も行われていた。
まるでそれが当然であるかのように。
清潔であることが徹底されていた。
ポイ捨てを行う魔物など一人もいない。
全員が当たり前の様に街を綺麗に保つ行動を行っていた。
二人はこの国で過ごしたいとの感情を覚えていた。
特にダイコクはひと際だ。
この街の神気の充足感のなんとやら。
ここ百年以上得たことが無い満足感に心を奪われていた。
神にとってはそれほどまでに神気は重要なファクターである。
これがないと、自身の権能を発揮することが出来ないのだから。
それだけでも心奪われる出来事であった。
そして同時に感じるのはこの街の充実感だった。
ありとあらゆるところで見かける娯楽の多さ。
そのほどんどがダイコクの知らない娯楽だった。
極め突きは、温泉とサウナであった。
ここまでの娯楽はルイベントではあり得ない。
そもそも風呂を所有している者は少ない。
風呂を持っているのは王族や貴族、大成した商人ぐらいだ。
利用者の顔を見る限り、相当の物であると伺い知ることができる。
利用している魔物達が充実した笑顔をしていたのだ。
そして聞く限り全ての魔物が毎日使用しているということだった。
もはやダイコクにはこの街を、否、このコミュニティーを国として受け入れる他無かった。
それほどまでに魅力に溢れた街づくりが完成していた。
もはや完全にダイコクの知るモエラの大森林は存在しなかった。
ダイコクに言わせると、
(此処は、経済大国になりうる場所やんか、どないしよ?)
ということだった。
その考えは決して間違ってはいない。
魔物の国と蔑んでいては馬鹿をみる。
ルイベント王国にしてみれば、魔物同盟国は強力な隣人となりえる存在になっていたからだ。
それほどまでに魔物同盟国の価値は高い。
もし魔物同盟国がルイベントに攻め入ったとしても、ルイベントでは敵わない可能性が高かった。
それほどまでに知力を得た魔物達は進化していた。
恐ろしいほどの力を有しており、又、魔法を使っている魔物も見かけた。
もはや捨て置くことができる存在ではない。
それほどの脅威を滲ませていた。
途方に暮れるダイコクとライルにソバルが話し掛ける。
「ダイコク様、食事にしましょうか?」
「そ、そうだな・・・」
「この国には様々な屋台や定食屋があります。刺激的な食事に溢れておりますぞ」
「そうみたいやな。ソバル、お勧めはあるか?」
ソバルは首を傾げて考えている。
「まずはたこ焼きなんてどうでしょうか?表面がパリパリで中はジュワーとして美味しいですぞ」
「たこ焼き?聞いたことあらへんな、でも面白い響きの食事やな」
「ではこちらについて来てください」
ソバルはたこ焼きの屋台に誘導した。
頭に鉢巻を撒き、エプロンを着たオークがたこ焼きをクルクルと回している。
「なんや旨そうな匂いやな」
「二人前貰えるか?」
「へい!お待ち!」
店主のオークが、リザードマンの鱗から造られた器にたこ焼きが盛っていく、表面に醤油を塗り、鰹節を掛ける。
そして最後にマヨネーズを波状に掛けてゆく。
「お熱いので気をつけてくださいね」
二人にたこ焼きと鉄製のフォークが手渡された。
「ほう、これは旨そうやないか」
「そうっすね」
側に置いてあるベンチに二人は腰かけた。
「「いただきます!」」
二人は一気に頬張った。
「「熱っち!」」
「だから熱いって言ったでしょ?」
たこ焼き屋台の主人のオークが呆れた顔をしていた。
「ソバル!火傷するやないか」
「ハハハ!ダイコク様、これがたこ焼きの良さですよ。冷ましながら食べるんです」
「ほんまか?」
今度は息を吹きかけながら食べた。
「はふ、はふ・・・旨いがな!なんやこれ?」
「はふ、はふ。旨いっすね」
その後も二人はたこ焼きを堪能した。
その間にたこ焼きだけでは物足りないだろうと、ソバルは焼きそばの屋台から焼きそばを持ってきた。
「ダイコク様、こちらもどうぞ。焼きそばです」
「焼きそば・・・これも知らん食事やな」
ダイコクとライルは焼きそばを受け取ると、匂いを嗅いでいた。
「こちらも旨そうやないか、ほな遠慮なく頂くで」
「頂くっす」
「どうぞ、どうぞ」
二人は一心不乱に焼きそばを搔き込んだ。
「これも旨いがな!」
「ほんとっすね!」
「なあソバル・・・さっきのたこ焼きもそうやったがこれはもしかして海産物かいな?蛸といいこの烏賊といい、そうやろ?」
「はい、その通りでございます。魔物同盟国では海産物が豊富に捕れております。蛸や烏賊だけではございません。貝や海藻、たまにマグロも捕れる時がありますし、魚などはほぼ毎日捕れております」
「・・・マジかいな・・・」
ダイコクは上空を見上げていた。
「嘘でしょ?」
ライルまで驚いていた。
「いいえ、本当です。現に今日の定食屋の昼飯は焼きサバ定食でした」
「・・・」
「これも全て島野様のお陰です、コボルト達が漁師としてその腕を振るっております。漁船も三艘ございます」
「何?船を持っとるんかいな?」
「はい、自慢の漁船でございます」
ダイコクとライルは驚愕していた。
ルイベントも海に面しており、漁も盛んに行われている。
しかしその漁獲量は年々下火になっている。
これまで特に規制をせずに漁獲を続けてきた弊害が起きているのだろう。
今ではサバを見かけることは滅多にない。
魚もその生息域を変えているのかもしれない。
それに海藻とは聞き捨てならない。
ルイベントでは海藻を食べる習慣はないのだ。
海のゴミと忌み嫌ってきた存在である。
それを食するということは考えてもみなかったことだ。
ダイコクは頭を抱えてしまった。
(あかん・・・どうやらわても固定概念に支配されてもうてたんやな。海藻が食べれるんかいな。どんな調理法やねん。旨いんかいな?)
「ダイコク様・・・どうかなさいましたか?」
「ソバル、じぶんさっき海藻っていうたよな。食べれるんかいな?」
「ええ勿論です。味噌汁の具としては最高ですよ。乾燥したワカメをしゃぶるのが好きな者も多いですよ。ノン様曰く味噌汁の具にワカメは鉄板らしいです」
「ノンの奴が言いそうな言葉やな、鉄板て・・・まあ意味は分かるで」
ダイコクは頷いている。
「他にも酢の物にしても美味しいですし、雌株もネバネバして美味しくて、ご飯のお供に最高ですよ」
「雌株・・・」
「はい、そうです。これも全て島野様の知恵です」
「さようかいな・・・敵わんな・・・」
「儂らも最初は驚きました、まさか海藻が食べられるなん思いもしませんでした。ですが今では欠かせない食物です」
「そうみたいなや」
ダイコクは大きな可能性を感じていた。
(その島野とやらの知恵を持ち込めば、ルイベントももっと発展するかもしれんやないか。これは面白くなってきたで!)
一人興奮するダイコクであった。
遂に俺は北半球に来て初めて神様に出会うことになった。
初のお客様は神様であるとノンから聞いていたのだ。
何となくそうでは無いかとの勘は働いていたのだが、案の定という程の強い物ではなかった為、少しだけ驚いた。
俺は予めソバル達に初めに俺の所に連れてくるのではなく、街を一通り案内してから連れてくるように指示していた。
その思惑は、まずは俺がここに定住する神であると誤解を招く可能性がある為だ。
特に何かしらの考えがあって、この街に訪れた者であれば、最高責任者に会いたいとなるだろう。
しかし、俺はこの街の最高責任者では無く、アドバイザーでしかない。
それを防ぐ為のことだ。
更には俺に会うにしてもこの街の価値を知った上で会いにきて欲しいからだ。
俺がこの街の良さをアピールするよりも、見て知って経験してからの方が話は早い。
それに俺がアテンドするのもどうかと思うしね。
後は魔物達が何回もおもてなしするをするシュミレーションをしていたのに、俺が出しゃばってしまっては本末転倒だろう。
あいつらの頑張りを俺は無下にはしたくない。
この街の全てを観て周るには一日以上は掛かるだろう。
掻い摘んで観るとしても半日近くは掛かるに違いない。
北半球初の神に会うのは恐らく早くて晩飯時か晩酌時だろう。
俺は特に気に掛けることも無く、日中をやり過ごすことにした。
何となく手入れをしたい箇所に梃入れをすることにした。
そして遂にその時を迎えたのだった。
俺は定食屋で晩飯を終え、最近出来た島野一家専用のロッジのリビングで寛いでいた。
本来この街で住居を構えるつもりなど無かったのだが、いつの間にか島野一家専用のロッジが造られていた。
プルゴブからは、
「島野様が我らの国に居続けることは無いと承知しておりますが、寛げる場所が無いのはどうかと思い、勝手ながらも造らせていただきました」
と頭を下げられてしまった。
正直無茶苦茶困った。
だって毎日サウナ島のスーパー銭湯に行くのが当たり前のルーティーンだったからだ。
要らないと言う訳にもいかず、島野一家のロッジとして使う事にした。
外のロッジに比べて、豪華な造りであるのが気になったのだが・・・
まあいいだろう。
一家に相談してみたところ、好意は受け取っておこうということになった。
その為、最近では寝食を魔物同盟国で過ごす日が増えた。
でもいつでもサウナ島に帰れるように、玄関の脇には転移扉も設置されている。
ノンやエル、ゴンには魔物同盟国では『黄金の整い』は行ってもいいと言ってある為、自由にサウナ島と行き来している。
俺は食後の休憩を終え、露天風呂とサウナに行こうとしていた。
不意にドアがノックされる。
ドンドン。
「島野様、よろしいでしょうか?」
ソバルの声がした。
どうやら来たようだな。
「ああ、いいぞ」
扉が開かれる。
「島野様、失礼します」
ソバルが二人の男性を引き連れてロッジに入ってきた。
俺は一目見てその者が神であると分かった。
それには理由がある。
トレードマークとも言える、丸形の頭巾を被っている。
そして特徴的な顔をしていた。
耳朶がデカかった・・・とても。
肩に付こうかという程にデカかった。
この顔は間違いない。
七福神だ。
眼にはひょうきんさが漂っている。
誰からも好かれる、そんな印象を持つ顔立ちをしていた。
まさか北半球初の神が俺の見慣れた神様であったとは・・・
もう一人の男性はお付きの者なのだろう。
控えるように神様の後ろに位置していた。
「始めまして、島野と申します」
俺は立ち上がってから名乗り、ソファーに座る様に誘った。
「わてはダイコクや、よろしゅう」
なんと!
名前まで一緒かよ。
これは偶然の一致なのか?
にしても関西弁って・・・
だからノンはウケるよと言っていたのか・・・
あいつはバラエティーが好きだからな。
ダイコクは誘われるが儘にソファーに腰をかけた。
ソバルは俺の後ろに控える。
「こいつはライルや」
「ライルっす、よろしくっす」
ライルもダイコクの後ろに控えた。
ライルと言われた男性はへこへことしていた。
小者感が漂っている。
「こちらこそ、よろしく。ソバル、一通り見て貰ったのか?」
「は!簡易的でございますが」
「そうか、もう風呂とサウナには入ったのか?」
「いえ、まだでございます」
そういうことなら。
「ダイコクさん、せっかくですので先にまずは風呂とサウナを堪能しませんか?話ならその後どれだけでも話はできますしね」
ダイコクは心得たと視線を送ってきた。
「任せるで、夜はこれからっちゅうことやな」
「そういうことです」
俺達は四人連れ立って風呂とサウナに向かうことになった。
話はいくらでも出来る。
焦る必要は全くない。
話はサウナ明けにビールを傾けながらでいいだろう。
その方が気心が知れていい。
そんなことを想いながら俺はダイコク達を風呂へと誘導した。
俺達は風呂とサウナを楽しむことにした。
まずはマナーをダイコクとライルに教えることにした。
ふたりは熱心に話を聞いていた。
郷に入れば郷に従えと心得ているのだろう。
特に反論することも無く、受け入れている。
早速身体を洗うことにした。
ダイコクはシャンプーが気になったみたいだ。
「これはええなあー」
と頷いていた。
実はシャンプーはサウナ島のアンジェリッチの物では無く。
前に俺が造っていた旧タイプの物だ。
アンジェリッチのシャンプーほどの満足感はないが、どうやら北半球は南半球程、日用品は発展していないみたいだ。
早くも商売の匂いがプンプンしてきた。
正直言って足掛かりは何でもいい。
魔物同盟国にとって認められること、それはすなわち経済力を得るということだ。
その為、国としての体制を整えるには経済に繋がる物品が必要だ。
要はお金になる物が居るということだ。
お金はお金がある所に集まってくる。
今はお金は全くといっていいほどない。
ほんの少しだけ、森で拾ったと俺にお金を持ってきたオーガがいたが。
俺は手に取ってみただけで、大事にとっておけとオーガーに返した。
鑑定してみたところ銅貨だった。
南半球の物とはデザインが違っていたし、銅の含有量も少なく感じた。
南半球での金貨の価値と、北半球での金貨の価値が一緒とは考えてはいけない。
ここはしっかりと見定める必要がある。
俺達は風呂に入ることにした。
ダイコクとライルは思わず声が漏れていた。
「おお~」
「あ~」
表情が綻んでいる。
そこにギルがやってきた。
もしかしたらプルゴブあたりから聞いたのかもしれない。
ギルもダイコクの事が気になるんだろう。
「パパ、一緒するよ」
「おおギル、紹介するよ。ダイコクさんと、ライルさんだ」
ギルは二人を見た。
「僕はギルだよ、よろしくね」
「島野はん、じぶんのご子息かいな?」
「ええ、そうです。俺の自慢の息子です。ギルは今は人化していますがドラゴンです」
ダイコクとライルはフリーズした。
暖かい風呂の中なのに・・・
あんまり上手くないな。
溶けたダイコクは名乗った。
「わてはダイコクや、よろしゅう。にしてもドラゴンってどないなっとんのや?島野はん、自分聖獣も連れとるんやろ?何者やねん」
やはり言われてしまったな。
もう慣れっこだけど。
「家にはドラゴンと、フェンリル、九尾の狐とペガサスがいますよ、北半球には連れてきてないですけど、白蛇と神剣もいます」
ライルはまだ凍ったままだ。
ダイコクは頭を抱えてしまった。
寛ぐ場所なのに、なんだかごめん。
でも嘘は言ってないからね。
それにここを乗り越えて貰わなければ話にならない。
島野一家は、南半球を代表してこの地にいるのだから。
これぐらいで驚かれては先に進めない。
「驚く気持ちはよくわかりますよ、皆さん概ね同じ反応をしますからね」
「あ、ああ・・・」
「今は風呂を楽しみましょう」
「そ、そうだな。すんまへん・・・」
何とか持ち直したダイコクは風呂を楽しんでいた。
ライルはダイコクに小突かれて我を取り戻していた。
さてと、いよいよサウナに入りましょうかね。
サウナ室に入ると八割方埋まっていた。
利用中の魔物達全員が俺とギルに目釈した。
サウナの中では極力静かにするようにとのマナーが徹底されている。
始めはサウナ室で跪く者が居たので、娯楽施設内と仕事中は俺に跪くのは厳禁とのお達しをプルゴブにさせた。
こちらとしても楽しんでいる処を邪魔したくはなし、仕事の手を止めてまですることではない。
「せめて頭を下げさせてください」
というプルゴブに、
「軽い会釈までにしてくれ、特にサウナ室では目釈程度までにしてくれ」
「ですが・・・」
「そもそも俺に跪く必要がないんだよ、もっと気軽に接してくれていいんだぞ」
「名づけ親にそうはいきません、我らにとっては名付け親というだけでは無く、大恩人でございます」
とは言ってもな・・・
「でもゴブオクンなんかは随分気軽になってきたぞ、それでいいんだよ。俺としては」
「・・・ゴブオクンは・・・はぁ・・・時間をください・・・もはやこれは我らの本能ですので・・・」
「そうか・・・好きにしてくれ」
本能って・・・
といったやり取りがあったのだ。
魔物達のこの統制の取れた動きにダイコクは感心していた。
ライルはそんなことは気にもならかなったみたいで、
「熱いっす!」
と騒いで、魔物達に睨まれていた。
マナー違反者には厳しい目線が送られる。
ライルは、
「おっと・・・怖いっすよ・・・」
とぼやいていた。
お前が悪い、反省しなさい。
ちゃんと入口に『大きな声での会話はお控えください』と書いてあったでしょうが!
俺達は下段が空いていた為、揃って座ることにした。
ダイコクが小声で話し掛けてくる。
「島野はん、このサウナちゅうのは強烈やな、どれぐらいここにおるんや?」
「そうですね、好きにして貰っていいのですが、お勧めは汗をかきだしてから三分以上をお勧めしています。入り過ぎはよくないので、ねばり過ぎは厳禁ですよ」
「分かったで」
下段だった所為か汗をかきだすまでに五分近く掛かってしまった。
たまにはこういう日もあっていい。
結局十分ほどでサウナ室から出ることにした。
いい具合に汗をかいていた。
水風呂に入る前に掛け水をすることを二人に教え、俺も掛け水をする。
その後水風呂に入る。
するとまたライルが。
「寒いっす!」
と叫んでいた。
いちいち煩い奴だ。
ライルはどうやらお調子者のようだ。
ダイコクは、
「はぁ~」
と気が抜けた表情をしていた。
どうやら水風呂がお気に召した様子。
「島野はん、これは気持ちええな~」
「この後の外気浴も気持ちいいですよ」
「ほんまかいな~、楽しみやな~」
一分ほど水風呂に浸かった。
「ではいきましょうか」
二人を外気浴場へと誘導した。
ちょうどインフィニティーチェアーが四台空いていた。
もしかしたら魔物達が気を使ってくれたのかもしれない。
ここはご厚意に甘えることにしよう。
「この椅子に腰かけましょう」
「さようか」
「了解っす」
「この椅子は結構後ろまで倒れますので、注意してくださいね」
二人はゆっくりと後ろに倒れていった。
想像以上に後ろに倒れたのだろう。
途中でライルは、
「あわわわ」
と慄いていた。
こいつはどうやら人の話を聞いていないタイプだな。
そんなライルのことは置いといて、身体の内側から感じる熱が全身を駆け巡る。
心拍数が高い。
心拍数が徐々に落ち着いてくると共に感じる解放感。
ダイコクの前では『黄金の整い』は行えない。
でもこの整ったリラックス感だけでも充分だ。
サウナトランス・・・多幸感が止まらない。
ああ、俺はサウナジャンキーだな・・・
余韻に浸っていると、ダイコクに話し掛けられた。
「島野はん・・・最高やないか・・・これはええな~」
「そうでしょ?最高ですよ。あと二セットは行いますよ」
「ほんまか・・・付き合うで・・・」
俺達はサウナを三セット行い、大いに整った。
ダイコクもライルも満足そうな顔をしていた。
よかったよかった。
その表情は解れていた。
そして大いに整った俺達は定食屋を目指した。
晩飯は済んでいるが、食事をする為ではない。
そう、サウナ明けのビールを飲むためだった。
ここまでで一セットだろう。
俺は常々そう思っている。
サウナ明けにビールが無い。
そんな悲しい出来事は俄然認められない。
俺は至福の一杯を口にした。
それに倣ってダイコクとライルもビールを口にした。
ギルはお茶を飲んでいた。
それでもギルは満足そうに麦茶を一気飲みしていた。
その気持ちは分かる。
サウナ明けの麦茶もいいよね~。
「旨ま!これなんやねん、島野はん、至極の組み合わせやないかい!最高やでー!」
「ほんと旨いっす!最高っす!」
二人は一気に飲み干す勢いでビールを飲んでいた。
今は余韻に浸っている。
幸せを噛みしめている表情をしていた。
不意にダイコクが話だした。
「島野はん、今日はいろいろあったが、最高の一日やったで、恩にきるで。それにしても魔物達がここまでの国を造り上げたんか・・・儂にはようせなんだことや、でもじぶんはやってしもうたんやな・・・まったく、敵わんわい」
眼を閉じながらダイコクは幸せそうな顔で言っていた。
「ダイコクさん、それはちょっと違いますよ。俺は確かに加護を与えたし、知恵も貸した。この国の今の繁栄は魔物達が全て造り上げたものですよ。俺はそのためのきっかけを与えたに過ぎません」
ダイコクは眼を開けると、
「さようか・・・・」
と呟いた。
この後は話し合いになるだろう。
これまで謎に包まれていた北半球の全貌が明らかになるかもしれない。
神気減少問題の原因に辿り着くことが出来るのだろうか?
俺は期待と不安に揺れていた。
今はサウナ明けのビールの余韻に浸りたい・・・
でもそうともいかないのだろうな・・・