まずは身内で、サウナビレッジを堪能することにした。
営業を開始するのはまだまだ先だ。
施設自体は造ったが、備品などは持ち込んでいない。
ここからは時間が掛かる作業が多いし、従業員をどうするかもこれからである。
俺は新しいサウナを、まずはじっくりと堪能したい。
今日は三種類のサウナを二セットづつは行いたい。
俺は旧メンバーに声を掛けて、サウナビレッジのサウナに入ることにした。
神様ズはどうせ遠慮なく混ざってくるだろう。
あの人達は外っておけばいい。
気を使う必要は全くない。
好きにしてくれればいい。
メルルには適当に食べ物と、飲み物を準備してくれとお願いしてある。
エルと一緒に携帯用のなんちゃって冷蔵庫に、いろいろと詰めていた。
ギルとノンには既に、サウナの火入れは指示してあり、アロマ水も準備してある。
ポンチョとサンダルに関しては、既に手配してある為、メルラドの服屋にマークが取りに行っている。
まずは一通り巡回して、サウナビレッジを見て周る。
個人的な感想になるのだが、何といってもこの手作り感がいい。
村と形容するにはぴったりだ。
森の中に佇むロッジ風のサウナ達、心が踊る。
ギルからそろそろいいよと『念話』が入った為、まずは更衣室で水着に着替えた。
水着着用のサウナは久しぶりだ。
期待で胸が高まる。
ちょうどマークがポンチョとサンダルを持ってきた為、受け取ると、タオルを持ってサウナに向かった。
その道すがら、皆には好きにしていいからなと声をかけて行く。
最初にシャワーを浴びて、体を洗う。
これは当たり前のマナー。
まず俺は九十度のサウナから入ることにした。
サウナ室の入口にポンチョとサンダルを置いて、アロマ水の入ったバケツと柄杓を持って中に入る。
俺はこのサウナの最初の利用者だ。
今後ともよろしくお願いしますと、俺はサウナに一礼した。
サウナ室に入ると、まだ木の香りが充満していた。
これがアロマの匂いに包まれるサウナになるのだろう。
俺はサウナ一号機を思い出していた。
彼を今は五郎さんが使ってくれている。
はやり少人数で入れるサウナは良い。
スーパー銭湯が出来る前までは、少人数用のサウナを使っていたからか、懐かしさがある。
とてもいい雰囲気だ。
パフォーマンスも悪くない、まだ入って三分と経ってはいないが、汗をかきだしている。
とてもいい感じだ。
雑多な雰囲気が無く、自問自答を行うには打って付けだな。
スーパー銭湯のサウナではこうはいかない。
どうしても周りに目が行きがちだ。
するとギルがサウナ室に入ってきた。
「パパが一番乗り?」
「そうだ、役得だろ?」
「なんか昔のサウナを思い出すね」
「そうだな」
「スーパー銭湯のサウナもいいけど、これもやっぱりいいね」
ギルの奴、分かってるじゃないか。もはやこいつも一端の上級サウナーだな。
「じゃあそろそろやろうか?」
と俺は柄杓を握り、アロマ水をサウナストーンにかけた。
アロマ水が音を立てて蒸気に変わっていく。
これはレモンの香りだな、いいね。
湿度が上がって、一気に体感温度を上げていく。
ああ・・・気持ちいい・・・
「おお・・・いいねー・・・」
ギルが呟いていた。
だいぶ汗をかいてきたな、でももう少し粘ろう。
そこにノンが入ってきた。
「あれ?ロウリュウやっちゃった?」
「ああ、さっきな」
「アウフグースする?」
「いや、いい。そろそろ俺は出るから」
「そう」
とノンは腰かけた。
「じゃあお先に」
と俺はサウナ室から出た。
サンダルを履いて、ポンチョを持って水風呂へと向かう。
ちょっと煩わしいな。
インフィニティーチェアーにポンチョを置いて、水風呂へと向かう。
サンダルを脱いで、掛け水を行う。
おお!思った以上に冷たいな。
一気に水風呂に入る。
「ああ・・・」
思わず声が漏れる。
身体から熱が奪われていく。
いいねー、気持ちいい。
最高だ!
水風呂を出てサンダルを履き、インフィニティーチェアーに向かう。
ポンチョを着て腰かける。
体重を後ろにかけて、一気に横になる。
「ふううー、これはこれでいいねー」
おじさんの独り言が木霊する。
って見た目は若いのか・・・
今回は敢えて、俺とギルの整い部屋は造っていない。
それは純粋にサウナを楽しもうと考えたからだ。
でもこれは・・・自己催眠に入らなくても、神気を吸収できそうだ。
ああ・・・やっぱりいい。
俺は整いを堪能した。
余韻も素晴らしい。
どうやら意識すること無く。神気を吸収できたようだ。
よし、今度は八十度のサウナだな!
俺はサウナビレッジを存分に堪能した。
今はサウナを終え、外気浴場で焚火を囲んでいる。
夕方になり、少し肌寒くなってきたからだ。
これはこれで良いものだ。
「島野さんどうぞ」
とランドがビールを持ってきていた。
「おお、ありがとう」
と俺はジョッキを受け取った。
「「乾杯!」」
ランドと乾杯した。
じっくりサウナ六セット明けのビール、最高だな。
のど越したるやいなや・・・ああ、身体に染み渡る。
充実感が半端ないな。
至極の一杯だ。
「昔のサウナを思い出しましたよ」
こいつもか、まあ皆なそうなんだろうな。
「分かるぞ」
「ですよね、これはこれで俺は好きですね」
続々と皆なが集まり出した。
ちょっとしたキャンプだなこれは。
「島野さん、こうなったらバーベキューにします?バーべキューコンロを持ってくれば直ぐですし」
メルルからの提案だ。
「ああ、任せるよ」
「じゃあ準備しますね、エル、ギル手伝って?」
「分かった」
「ですの」
と三人はバーベキューの準備に向かった。
眼の前の焚火に俺は眼を奪われていた。
外の皆なも、ゆっくりとしている。
不意にロンメルが問いかけて来た。
「なあ旦那、この施設は誰が面倒みるんだ?」
「ああそれか、サウナビレッジはマークに任せるよ」
「俺ですか?」
「そうだ、迎賓館はロンメルが仕切ってくれ」
「そうか分かった。サウナビレッジは旦那の肝いりだ、リーダーがやるべきだろうな」
「そうなのか?」
「妥当な人選だと思うぜ」
「そうだ、とは言っても立ち上げは俺も手伝うから、安心してくれ。あとついでに言っておくと、マークとランドは副社長も兼任してくれ。お前らは昇進だ!」
「嘘でしょ?!」
「マジかよ!」
と二人は驚いている。
だがこれは前々から考えていたことだった。
今はのんびりとしているが、いつかは俺は、北半球に乗り込まなければいけない。
何も情報の無い今の状況としては、万が一を考えなければいけない。
それに聖獣勢は経営には向いていないし、北半球に向かうとなったら、付いてくるというに決まっている。
「そんな・・・本当によろしいのですか?」
「そうですよ、俺達じゃなくても、ゴンとかギルとか・・・」
「よく考えてくれよ、ゴンもギルも柄じゃないだろ?それにノンなんて絶対に向かないし、エルもレケもそうだろ?」
「まあ、そうだろうな」
とロンメルも同意見のようだ。
「お前達は神様ズからも顔が売れてるし、問題ないだろう?なんだ?断るつもりなのか?」
「ちょっと、それはないでしょう!受けるに決まってますよ!」
「そうですよ、やりますよ!」
「だったらこの不毛なやり取りはなんなんだよ?」
とロンメルがツッコんでいる。
まあ、多少は驚いたんだろうが、謙虚さが先だったということだろうな。
こいつららしいな。
「じゃあそういうことで、あとロンメルとメルルも昇進だ。お前らは専務だ。よろしく頼むぞ」
「ああ、分かったぜ」
ロンメルは謙虚さを見せないみたいだ。
まあこいつらしくて分かりやすいな。
「お前達は昇格に伴って給料も増えるから、今度俺に奢るようにな」
「やった!」
「もちろんです!」
「ちゃっかりしてんな、旦那は」
と嬉しさを隠すことは無かったようだ。
そうこうしていると、バーベキューが始まった。
案の定、神様ズが乱入してきた。
神様ズはサウナを後日じっくりと堪能したいと、ちゃっかりと予約していた。
ご自由にどうぞ。
サウナを楽しんでくださいな。
どうぞ骨抜きになってくれ。
やれやれだ。
俺はマークと打ち合わせを行っている。
サウナビレッジの運営についてだ。
まずは人材をどうするのか?というところだ。
話し合う順番としては人・物・金と言ったところか。
まぁ前後しても構わないが。
「マーク実はな、声を掛けたい人材がいるんだ」
「へえー、島野さんが目を付けるって、相当使える人材なんでしょうね?」
「ああ、あいつらは使えると思う。特にリーダーのドリルは空気が読めるし、逸材だな。他にもダノンとサルーも、仕事が出来るタイプだな」
「そうですか」
「あいつらは確か・・・餅・・・いやブルーエッグだったな」
「餅?」
どうしても餅ハンターとしての印象が強い。
餅ハンター改め、ブルーエッグだ。
そうだブルーエッグ・・・覚えれたかな?たぶん・・・
餅の印象が強すぎるよ。
「そこは忘れてくれ。あいつらは二日に一度はスーパー銭湯に来てるみたいだから、俺から声を掛けてみるよ。でもあいつらが、ここで働くことになるかは分からないけどな」
「そうですか・・・ではそこは島野さんに任せます」
俺は確信があった。
前にブルーエッグと話をしていた時に、あいつらはサウナにド嵌りしていて、ダンジョンで得た儲けを、全てサウナに費やしていると言っていた。
更にここで働きたいと漏らしていたからな。
まあ最終的にはどうなるかは、話してみないと分からないけどね。
「それで、外はどうしますか?」
「また客から募集するか?」
「そうですね、それがいいでしょう」
「出来ればサウナ好きな奴に拘りたいな」
「ですね、サウナビレッジですからね。サウナ好き以外は考えられんでしょう」
「後は厨房は、マット君に任せようと思うがどうだ?」
「マットなら問題ないでしょう、ただメルルが何というかは、聞いてみないと分からないですけど」
「メルルなら大丈夫だろう、料理班はめきめきと育っていると言っていたからな」
「そうですか、じゃあ大丈夫でしょう」
「何人雇うかだが、全員で三十名ぐらいでどうだ?」
「多くないですか?」
「いやサウナビレッジに雇うのは二十五名ぐらいで、あとは外の部署に補充したらどうかと思うがどうだ?」
「そうですね、何処に補充しますか?」
「それは今度の会議で聞いてみよう」
「分かりました」
「料金とかはどうしますか?」
「料金もそうだが、今回は時間制も導入しようと考えている」
「時間制ですか?」
「そうだ、朝から終日いられるのもどうかと思ってな」
「なるほど、スーパー銭湯とは、棲み分けを行うということですね」
「それもあるが、サウナビレッジは収容人数を敢えて絞っているだろ?でも出来る限り多くの人に、使って欲しいとも思うんだ」
「・・・」
「だから時間制を導入してみようということさ」
「そうですか、そうなるとどれぐらいの時間にしますか?」
「そうだな、三時間ぐらいでどうだろうか?」
「それは受付から退店するまでですか?」
「そうだ」
「個人的には食事と、少しゆっくりすることを考えると、もう一時間ぐらいは欲しいところですね」
「そうか、そうするか?じゃあ四時間制にして、泊りの客に関してはフリーにするってことでどうだ?」
「そうですね、そうなるとほとんどの客が、泊まりになりませんか?」
「そこは泊りの客は、最大でも四十名だから大丈夫じゃないか?」
「確かに」
「最大の収容人数を百名にすれば、じっくりとサウナを堪能してもらえると思うがどうだろうか?」
「その人数ならじっくりと出来そうですね、たまに渋滞はするかもしれませんけど」
「そこはどうにかなるだろう、あとサウナビレッジは完全予約制にするつもりだ」
「随分強気ですね?」
「そうか?」
「そうですよ、完全予約って、そこまでして客は集まりますかね?」
「どうかな?俺としては別にここで、収益を得ようとは考えていないからな」
「そうですか、そういう考えならば、いいかもしれませんが」
「というよりは、サウナをこの日は楽しみたいと、その日に向けて仕事を頑張ろう、という客が結構いるような気がするけどな」
「それは分からなくはないですね」
「あと、ちょっと心苦しいが、ここは従業員の福利厚生には含めたくないな」
「ですね、そうしないと夜は従業員で、いっぱいになりますからね」
「でも、休日に予約を取って利用する分には構わないけどな、ちゃんと料金は貰うけど」
「それはそうでしょう、社員割引もいらないでしょう」
「そうしないと、従業員の保養所になりかねないしな」
「全くです」
「あとは料金ですが、どうしますか?」
「そうだな・・・まずは四時間で銀貨三十枚、泊りは金貨一枚でどうだ?」
「うーん、悩ましいですね」
「この世界の水準としてはちょっと高めだが、それぐらいでいいと俺は思うんだ。それぐらいの価値が、サウナビレッジにはあると俺は思っている」
「そうですか・・・ではそうしましょうか」
「そう構えなくてもいいだろう、それにこの世界にも、サウナ文化が随分根付いている様だし、成るようになるさ」
「それでしたら、いいんですけどね」
マークは真面目だな。
まあ、それがこいつの良いところなんだけどね。
「後は設備だが、厨房は俺とマット君で造っていくよ、備品については任せるが、出来るだけ手作り感のある物に拘ってくれ」
「手作り感ですか?」
「そうだ、高級感は一切いらない。田舎の村をイメージしたいからな」
「なるほど、そういうことですね」
「落ち着く感じが欲しいんだ、だからテーブルとかは木とかの方が良いかもしれないな」
「そうなりますね」
「一先ずはそんなところだな、後は追々詰めていこう」
「分かりました」
その後スーパー銭湯に行くと、案の定ブルーエッグがいたので誘ってみた。
すると、無茶無茶喜ばれた。
サルーに至っては、
「サウナ島に永久就職します!」
と泣いていた。
サウナ島と結婚するつもりか?
そんなになのか?
こちらとしては嬉しいのだが・・・
メルルにマット君の異動について話すと。
「いいですよ、あの子は厨房を仕切れるレベルに達していますので」
と快く受け入れてくれた。
俺はその足でマット君の元に向かい、異動を告げた。
「ほんとですか?ありがとうございます!」
とマット君はガッツポーズを決めていた。
皆な前向きで助かります。
俺はマット君と厨房の作成を行っている。
今回の厨房では、魔道具を大いに使うことになった。
実験的な意味合いもある。
まずはコンロだ。
魔道具のコンロは、親父さんに手伝って貰って、造ることにした。
日本の簡易コンロを参考に、親父さんと開発を進めていく。
親父さんは魔道具の作成にも高い知識を持っており、大いに助かった。
そして換気扇も魔石を埋め込み、常時換気を行う事になっている。
今では魔石と神石は充分の数を確保できている。
魔石は魔獣の森で、ノンとギルが確保してきているし。
神石に関しては、ランドールさんが役立ててくれと、たくさん寄贈してくれていた。
大いに助かっている。
まあ今回に関しては、神石は必要無いのだが・・・
厨房の作りに関しては、極力マット君の意見を取り入れるようにした。
実際に働く者の意見を参考にした方が、良いに決まっている。
そしてマット君からは、意外な申し入れがあった。
それは婚約者がマット君にはおり、一緒に働かせて貰えないかというものだった。
リア充かよ・・・
将来を見越して、連れ合いにも料理を学ばせたいということだった。
まあ好きにしてくれ。
そう言われれば断れる訳がない。
マット君には独立という夢があるのだから、協力しない訳にはいかない。
そして厨房が出来上がると、今度は新メニューの開発に着手した。
というのも、ここではサ飯を提供しようと考えたからだ。
俺の趣味ではないのだが、日本でウケているということは、何かしらの理由があるのではないか?と思ったからだ。
どうしても俺には体を綺麗にした後に、また汗をかくことに抵抗があるのだが・・・
俺の趣味を押し付けるのは良くない。
ここは俺以外の者達の反応を見てみようと思う。
「マット君、新メニューだが、辛い物を中心に行おうと考えている」
「辛い料理ですか?」
「そうだ、俺のいた異世界ではサ飯というんだが、サウナ明けに辛い料理を食べるのが流行っているんだ」
「へえー、そうなんですね。でも何となく分かる気がします」
「そうなのか?」
「はい、サウナ明けには塩分が欲しくなるので、それならば汗をまたかける辛い物を、食べたくなるのは理解できます」
へえー、そうなんだ。
「それに実際、スーパー銭湯の一番人気のメニューは、不動のカツカレーですしね」
「それはそうだが・・・」
確かに実績を兼ね備えているな。
そう言われてみればそうだな。
それにサウナ明けは妙に腹が空くしな。
「そこで俺からいつくか新メニューを伝授する、心して掛かってくれ」
「了解です!」
とマット君は期待に満ちた眼差しをしていた。
俺はまず麻婆豆腐を伝授した。
それも山椒を効かせまくった一品だ。
鼻から抜ける山椒の香りが辛さを助長させる。
「こ、これは・・・山椒のピリッとした辛さが舌に残って癖になりますね」
「だろ?これを米にかけて、マーボー飯として提供しようと考えている」
「お米に合うのは間違いないですね、辛さをマイルドにしてくれるでしょうし」
流石はマット君だ、分かっているな。
マーボー飯は大いにウケるだろう。
そして俺は次に、台湾ラーメンを作った。
台湾ミンチが程よい辛さを引き出している、それにニンニクは増し増しだ。
「おお!これは後を引く辛さです!凄い!こんな料理があったとは」
マット君は一気に平らげていた。
その気持ちはよく分かる。
台湾ラーメンは癖になるよね。
台湾ミンチをちゃんと漏れなく食べれる様に、俺は穴あきスプーンを大量に作成した。
台湾ミンチを全部食べ切るにはこれは必須だ。
無くてはならないとも言える。
そして俺の拘りのスパイシーピザを作った。
これはチリソースをベースに、唐辛子を練り込んだソーセージとハラピーニョ、そしてアンチョビをトッピングしたピザだ。
俺はハラピーニョの辛さが好きだ。
某バーガー店のスパイシーチリドッグに、トッピングされている、ハラピーニョを始めて食した時の衝撃は、今でも忘れない。
こんな辛さがあるのかと、連日リピートしたことを覚えている。
これにマット君は大興奮していた。
「この辛さは異次元です!」
と少々分かりづらい食リポをしていた。
まあ気に入ってくれたということだろう。
そして更に、石焼きチーズカレーを伝授した。
表面をカリっと焼き上げる、このチーズカレーにマット君は唸りまくっていた。
「チーズをこんに感じる料理は始めてです」
とのことだった。
いやピザがあるだろう、とはツッコまなかった。
マット君のケアレスミスという事で・・・
最終的にこの四品を軸に、定番のカツカレーを加えたメニューを提供することにした。
ただ、辛い食事が苦手な人もいる為、通常の辛くないメニューも加えることにした。
だが塩分が過多の料理が多いのは、趣旨をちゃんと理解したマット君の考えだ。
特に塩おにぎりは、分かり易くてちょっと笑えた。
そして遂にある商品の作製に成功した。
それは『サ水』である。
とは言っても、分かり易いところのスポーツ飲料だ。
もっと分かり易く言えば、オロポのポの方である。
サウナ好きにしか通用しないかな?
ほんとはオロポを作りたかったが、オロの方が作れなかった。
小さな巨人は作るのが難しいということだ。
ネタが古くてすいません。
精神年齢が定年なもんで・・・
塩分と糖分のバランスに相当頭を悩ませた。
最終的には味の良しあしにまで拘り、これでどうだ!
という一品が完成した。
これは売れるだろう。
俺は『サ水』の満足感で整いそうだった。
かくして準備は進められていった。
再度マークと打ち合わせを行っている。
「人員に関しては、ほとんど完了しました」
「そうか、受け入れ態勢は問題ないか?」
「はい、ほとんどの者が既にサウナ島で住んでいます」
「なるほど、実際の業務についてはどうなんだ?」
「ほとんどの者がレクリエーションを終了し、後は配置を待つばかりです」
「そうか、じゃあ配置に着かせてくれ。いよいよプレで実施だな」
「ですね、プレはどうします?」
「そうだな、まず三日間は旧メンバーと神様ズで良いんじゃないか?神様ズに関しては勝手に使ってるんだろう?」
「はい、困ったことに、遠慮は全くありませんね」
「・・・」
あの人達は全く・・・
ちょっとは遠慮ってもんを覚えて欲しいものだ。
まあいいけど・・・
もう慣れたし。
「その後一週間は、休日の従業員達に客役をやって貰おう」
「そうしましょう、皆な喜びます」
「そうか、でも旧メンバーも、使いたい奴は使ってもいいぞ、人数的にもその方がいいだろうしな」
「そうですね、そうしましょう」
「神様ズはどうします?」
「好きにさせてやってくれ」
「ですね」
恐らくほぼ全員が入りにくるだろう。
既に何人かの神様ズが、そういった反応を示している。
それに本格稼働したら、神様ズでも予約をして、料金を払わないと使えないと宣告している。
そりゃあそうだろう、俺でも予約を取らなければ、入れないとしているのだ。
ここは役得は通じない。
特別配慮は俺であっても無しということだ。
その所為か、皆が皆こぞって、連日サウナビレッジに訪れている。
特にド嵌りしているのが、オズとガードナーで、本格稼働し出しても、週一はマストで通うと豪語していた。
後、余談として五郎さんが、従業員を数名連れて来ていいかと申し入れがあった。
外の神様ズには同行は許していない。
その理由は明らかで、何人連れてくるか分かったもんじゃないからだ。
スーパー銭湯のプレオープンで、俺は懲り懲りしている。
あの人達の遠慮の無さは、折紙付きだ。
だが五郎さんは別なのには理由がある。
それは温泉街『ゴロウ』でサウナを導入するという案が、浮上しているからだった。
俺は遠慮なくサウナ導入してくれと、五郎さんに話している。
そして、それをアドバイザーとして、サポートして欲しいと言われている。
遂に島野守プロデュースのサウナが、サウナ島以外の場所でもお披露目となるかもしれない。
俺は嬉しくて溜まらなかった。
今はどんなサウナにしようかと、思案中である。
いくつか案が既にあるのだが、サウナビレッジが一段落ついてから、話し合おうということになっている。
まだまだ楽しみがあるようだ。
嬉しいなー!
三日間のプレを終え、一度反省会を行うことになった。
「では皆さんお疲れ様」
場所はサウナビレッジの食堂だ。
「いつくかの意見を元に、これから反省会を行う」
「「「はい!」」」
と良い返事が木霊する。
今回の募集倍率は、なんと五十倍という異例の数字を叩きだした。
面接官が足りなくなり、急遽ランドとロンメルにも手伝って貰う事態となっていた。
それを潜り抜けた精鋭達である。
皆が皆、優秀で助かる。
それにサウナジャンキーが、ここまでいたのかと、俺は嬉しくもあった。
面接に訪れた者達の多くがサウナ愛を語り、俺はそれに耳を傾けた。
頷ける話がほとんどだった。
是非サウナフレンズになりたいものだ。
そして数名から、俺はサウナの神様であると、大衆に言われていることを知った。
悪い気はしなかった、というより本位である。
サウナの神様・・・照れるじゃないか。
でも厳密には全くもって違うのだが、気が大きくなった俺は、敢えて否定しないでいた。
だって嬉しいんだもん。
俺はアンケート用紙に目を通した。
「まずはサウナの温度が、思いの外低かったように感じたという意見だ、温度管理班どうだ?」
ブルーエッグのドリルが手を挙げる。
「どうしても、扉の開閉が多いと温度が落ちるようです」
「そうか・・・二重扉に変えるか?どう思うマーク?」
「スーパー銭湯の二重扉と同じにするということですよね?温度管理という点では良いと思いますが、手作り感からはちょっと離れる気がします」
「そうだよな・・・そこは譲れないな・・・ドリル、温度管理の見回りを倍に出来るか?」
「多分問題ないかと・・・」
「じゃあ、一先ずはそれで様子見だな」
「はい、分かりました」
「次に・・・これは要らんな」
その意見は台湾ラーメンが辛すぎるという意見だった。
この文字は・・・ノンだな。
無視でいいだろう。
あいつは何がしたいのだか・・・
よく分からん。
「今度は清掃に関してだ、外気浴場の地面の土がむき出しなのが気になる、という意見だ。お前達はどう思う?」
ダノンが手を挙げる。
「これは私の意見ですが、水風呂の後にはどうしても水が身体に着くので、ポンチョを着ても地面が濡れて、ビショビショになってしまいます。それはそれで気持ちは分かりますが、自然の中でサウナを楽しむ、というコンセプトを考えると、それすら楽しんでくれと思うのですが、いかがでしょうか?」
「うーん、その意見は妥当だが、実は俺もこれに関しては思った部分だから、石畳みを敷こうと思う、ダノン良い意見だ、ありがとう。マーク明日には対応を始めるぞ」
「了解です、この中でも手の空いた者は手伝うように」
「「「はい!」」」
このようにして反省会は行われていった。
五郎さんが従業員を連れてやってきた。
案の定大将も紛れていた。
俺は絶対に大将が来ると思っていた。
大将は当然のように厨房に入り、マット君と新メニューについて話をしていた。
大将はハラピーニョに目を付けたご様子で。
「島野さん、このハラピーニョは仕入れできますよね?!」
と大興奮していた。
まったくこの人はブレないな。
関心するよ、全く。
料理馬鹿一筋だ。
好きにしてください。
「それで、五郎さん。サウナ計画はその後どんな感じですか?」
「サウナを導入することは、概ね了承なんだがな。今のお前えから貰ったサウナや、ここのサウナと同じじゃ面白くねえだろ?どうしたもんかと思ってな」
「それなら俺が良いアイデアがありますので、任せてください」
「そうなのか?」
「こことも被らない、斬新なサウナをプロデュースしますよ」
「本当か?なら島野に任せるか?」
「ありがとうございます」
「お前え以上にサウナを知り尽くしている奴はいねえからな、それに島野が知恵を貸してくれたと言えば、宣伝効果にもなるってなもんよ」
「ハハハ、そうですね。どうやら巷では俺は、サウナの神様って言われてるみたいですからね」
「らしいな、笑ったぞ!」
ですよねー。
「まあ、本格稼働は落ち着いてからになりますが、任せてください」
「ああ、期待してるぞ!」
と五郎さんの温泉街にも、サウナ文化は広がりつつあるようで俺は嬉しかった。
その後、従業員達のプレを経て、サウナビレッジの最終調整が行われていった。
最後にサウナビレッジの従業員達が、自分達で使ってみるという過程を、今は行っている。
やはり自分達で使ってみると、感じるものがあるだろうということだ。
そしてその効果は絶大で、ほぼ全ての従業員達が、感じるものがあったようで。
顔つきが変わっていた。
そもそもサウナを好きな者達だから、尚更だろう。
ほとんどの従業員から、
「島野さん、サウナビレッジは最高です!」
「俺はここに就職が出来て光栄です!」
「サウナは宇宙です!」
と声を掛けられた。
まあ、頑張って欲しいものだ。
さて、いよいよ明日から予約受付となるが、どうなることだか・・・
俺は期待と不安が入り混じった想いを抱えていた。
営業を開始するのはまだまだ先だ。
施設自体は造ったが、備品などは持ち込んでいない。
ここからは時間が掛かる作業が多いし、従業員をどうするかもこれからである。
俺は新しいサウナを、まずはじっくりと堪能したい。
今日は三種類のサウナを二セットづつは行いたい。
俺は旧メンバーに声を掛けて、サウナビレッジのサウナに入ることにした。
神様ズはどうせ遠慮なく混ざってくるだろう。
あの人達は外っておけばいい。
気を使う必要は全くない。
好きにしてくれればいい。
メルルには適当に食べ物と、飲み物を準備してくれとお願いしてある。
エルと一緒に携帯用のなんちゃって冷蔵庫に、いろいろと詰めていた。
ギルとノンには既に、サウナの火入れは指示してあり、アロマ水も準備してある。
ポンチョとサンダルに関しては、既に手配してある為、メルラドの服屋にマークが取りに行っている。
まずは一通り巡回して、サウナビレッジを見て周る。
個人的な感想になるのだが、何といってもこの手作り感がいい。
村と形容するにはぴったりだ。
森の中に佇むロッジ風のサウナ達、心が踊る。
ギルからそろそろいいよと『念話』が入った為、まずは更衣室で水着に着替えた。
水着着用のサウナは久しぶりだ。
期待で胸が高まる。
ちょうどマークがポンチョとサンダルを持ってきた為、受け取ると、タオルを持ってサウナに向かった。
その道すがら、皆には好きにしていいからなと声をかけて行く。
最初にシャワーを浴びて、体を洗う。
これは当たり前のマナー。
まず俺は九十度のサウナから入ることにした。
サウナ室の入口にポンチョとサンダルを置いて、アロマ水の入ったバケツと柄杓を持って中に入る。
俺はこのサウナの最初の利用者だ。
今後ともよろしくお願いしますと、俺はサウナに一礼した。
サウナ室に入ると、まだ木の香りが充満していた。
これがアロマの匂いに包まれるサウナになるのだろう。
俺はサウナ一号機を思い出していた。
彼を今は五郎さんが使ってくれている。
はやり少人数で入れるサウナは良い。
スーパー銭湯が出来る前までは、少人数用のサウナを使っていたからか、懐かしさがある。
とてもいい雰囲気だ。
パフォーマンスも悪くない、まだ入って三分と経ってはいないが、汗をかきだしている。
とてもいい感じだ。
雑多な雰囲気が無く、自問自答を行うには打って付けだな。
スーパー銭湯のサウナではこうはいかない。
どうしても周りに目が行きがちだ。
するとギルがサウナ室に入ってきた。
「パパが一番乗り?」
「そうだ、役得だろ?」
「なんか昔のサウナを思い出すね」
「そうだな」
「スーパー銭湯のサウナもいいけど、これもやっぱりいいね」
ギルの奴、分かってるじゃないか。もはやこいつも一端の上級サウナーだな。
「じゃあそろそろやろうか?」
と俺は柄杓を握り、アロマ水をサウナストーンにかけた。
アロマ水が音を立てて蒸気に変わっていく。
これはレモンの香りだな、いいね。
湿度が上がって、一気に体感温度を上げていく。
ああ・・・気持ちいい・・・
「おお・・・いいねー・・・」
ギルが呟いていた。
だいぶ汗をかいてきたな、でももう少し粘ろう。
そこにノンが入ってきた。
「あれ?ロウリュウやっちゃった?」
「ああ、さっきな」
「アウフグースする?」
「いや、いい。そろそろ俺は出るから」
「そう」
とノンは腰かけた。
「じゃあお先に」
と俺はサウナ室から出た。
サンダルを履いて、ポンチョを持って水風呂へと向かう。
ちょっと煩わしいな。
インフィニティーチェアーにポンチョを置いて、水風呂へと向かう。
サンダルを脱いで、掛け水を行う。
おお!思った以上に冷たいな。
一気に水風呂に入る。
「ああ・・・」
思わず声が漏れる。
身体から熱が奪われていく。
いいねー、気持ちいい。
最高だ!
水風呂を出てサンダルを履き、インフィニティーチェアーに向かう。
ポンチョを着て腰かける。
体重を後ろにかけて、一気に横になる。
「ふううー、これはこれでいいねー」
おじさんの独り言が木霊する。
って見た目は若いのか・・・
今回は敢えて、俺とギルの整い部屋は造っていない。
それは純粋にサウナを楽しもうと考えたからだ。
でもこれは・・・自己催眠に入らなくても、神気を吸収できそうだ。
ああ・・・やっぱりいい。
俺は整いを堪能した。
余韻も素晴らしい。
どうやら意識すること無く。神気を吸収できたようだ。
よし、今度は八十度のサウナだな!
俺はサウナビレッジを存分に堪能した。
今はサウナを終え、外気浴場で焚火を囲んでいる。
夕方になり、少し肌寒くなってきたからだ。
これはこれで良いものだ。
「島野さんどうぞ」
とランドがビールを持ってきていた。
「おお、ありがとう」
と俺はジョッキを受け取った。
「「乾杯!」」
ランドと乾杯した。
じっくりサウナ六セット明けのビール、最高だな。
のど越したるやいなや・・・ああ、身体に染み渡る。
充実感が半端ないな。
至極の一杯だ。
「昔のサウナを思い出しましたよ」
こいつもか、まあ皆なそうなんだろうな。
「分かるぞ」
「ですよね、これはこれで俺は好きですね」
続々と皆なが集まり出した。
ちょっとしたキャンプだなこれは。
「島野さん、こうなったらバーベキューにします?バーべキューコンロを持ってくれば直ぐですし」
メルルからの提案だ。
「ああ、任せるよ」
「じゃあ準備しますね、エル、ギル手伝って?」
「分かった」
「ですの」
と三人はバーベキューの準備に向かった。
眼の前の焚火に俺は眼を奪われていた。
外の皆なも、ゆっくりとしている。
不意にロンメルが問いかけて来た。
「なあ旦那、この施設は誰が面倒みるんだ?」
「ああそれか、サウナビレッジはマークに任せるよ」
「俺ですか?」
「そうだ、迎賓館はロンメルが仕切ってくれ」
「そうか分かった。サウナビレッジは旦那の肝いりだ、リーダーがやるべきだろうな」
「そうなのか?」
「妥当な人選だと思うぜ」
「そうだ、とは言っても立ち上げは俺も手伝うから、安心してくれ。あとついでに言っておくと、マークとランドは副社長も兼任してくれ。お前らは昇進だ!」
「嘘でしょ?!」
「マジかよ!」
と二人は驚いている。
だがこれは前々から考えていたことだった。
今はのんびりとしているが、いつかは俺は、北半球に乗り込まなければいけない。
何も情報の無い今の状況としては、万が一を考えなければいけない。
それに聖獣勢は経営には向いていないし、北半球に向かうとなったら、付いてくるというに決まっている。
「そんな・・・本当によろしいのですか?」
「そうですよ、俺達じゃなくても、ゴンとかギルとか・・・」
「よく考えてくれよ、ゴンもギルも柄じゃないだろ?それにノンなんて絶対に向かないし、エルもレケもそうだろ?」
「まあ、そうだろうな」
とロンメルも同意見のようだ。
「お前達は神様ズからも顔が売れてるし、問題ないだろう?なんだ?断るつもりなのか?」
「ちょっと、それはないでしょう!受けるに決まってますよ!」
「そうですよ、やりますよ!」
「だったらこの不毛なやり取りはなんなんだよ?」
とロンメルがツッコんでいる。
まあ、多少は驚いたんだろうが、謙虚さが先だったということだろうな。
こいつららしいな。
「じゃあそういうことで、あとロンメルとメルルも昇進だ。お前らは専務だ。よろしく頼むぞ」
「ああ、分かったぜ」
ロンメルは謙虚さを見せないみたいだ。
まあこいつらしくて分かりやすいな。
「お前達は昇格に伴って給料も増えるから、今度俺に奢るようにな」
「やった!」
「もちろんです!」
「ちゃっかりしてんな、旦那は」
と嬉しさを隠すことは無かったようだ。
そうこうしていると、バーベキューが始まった。
案の定、神様ズが乱入してきた。
神様ズはサウナを後日じっくりと堪能したいと、ちゃっかりと予約していた。
ご自由にどうぞ。
サウナを楽しんでくださいな。
どうぞ骨抜きになってくれ。
やれやれだ。
俺はマークと打ち合わせを行っている。
サウナビレッジの運営についてだ。
まずは人材をどうするのか?というところだ。
話し合う順番としては人・物・金と言ったところか。
まぁ前後しても構わないが。
「マーク実はな、声を掛けたい人材がいるんだ」
「へえー、島野さんが目を付けるって、相当使える人材なんでしょうね?」
「ああ、あいつらは使えると思う。特にリーダーのドリルは空気が読めるし、逸材だな。他にもダノンとサルーも、仕事が出来るタイプだな」
「そうですか」
「あいつらは確か・・・餅・・・いやブルーエッグだったな」
「餅?」
どうしても餅ハンターとしての印象が強い。
餅ハンター改め、ブルーエッグだ。
そうだブルーエッグ・・・覚えれたかな?たぶん・・・
餅の印象が強すぎるよ。
「そこは忘れてくれ。あいつらは二日に一度はスーパー銭湯に来てるみたいだから、俺から声を掛けてみるよ。でもあいつらが、ここで働くことになるかは分からないけどな」
「そうですか・・・ではそこは島野さんに任せます」
俺は確信があった。
前にブルーエッグと話をしていた時に、あいつらはサウナにド嵌りしていて、ダンジョンで得た儲けを、全てサウナに費やしていると言っていた。
更にここで働きたいと漏らしていたからな。
まあ最終的にはどうなるかは、話してみないと分からないけどね。
「それで、外はどうしますか?」
「また客から募集するか?」
「そうですね、それがいいでしょう」
「出来ればサウナ好きな奴に拘りたいな」
「ですね、サウナビレッジですからね。サウナ好き以外は考えられんでしょう」
「後は厨房は、マット君に任せようと思うがどうだ?」
「マットなら問題ないでしょう、ただメルルが何というかは、聞いてみないと分からないですけど」
「メルルなら大丈夫だろう、料理班はめきめきと育っていると言っていたからな」
「そうですか、じゃあ大丈夫でしょう」
「何人雇うかだが、全員で三十名ぐらいでどうだ?」
「多くないですか?」
「いやサウナビレッジに雇うのは二十五名ぐらいで、あとは外の部署に補充したらどうかと思うがどうだ?」
「そうですね、何処に補充しますか?」
「それは今度の会議で聞いてみよう」
「分かりました」
「料金とかはどうしますか?」
「料金もそうだが、今回は時間制も導入しようと考えている」
「時間制ですか?」
「そうだ、朝から終日いられるのもどうかと思ってな」
「なるほど、スーパー銭湯とは、棲み分けを行うということですね」
「それもあるが、サウナビレッジは収容人数を敢えて絞っているだろ?でも出来る限り多くの人に、使って欲しいとも思うんだ」
「・・・」
「だから時間制を導入してみようということさ」
「そうですか、そうなるとどれぐらいの時間にしますか?」
「そうだな、三時間ぐらいでどうだろうか?」
「それは受付から退店するまでですか?」
「そうだ」
「個人的には食事と、少しゆっくりすることを考えると、もう一時間ぐらいは欲しいところですね」
「そうか、そうするか?じゃあ四時間制にして、泊りの客に関してはフリーにするってことでどうだ?」
「そうですね、そうなるとほとんどの客が、泊まりになりませんか?」
「そこは泊りの客は、最大でも四十名だから大丈夫じゃないか?」
「確かに」
「最大の収容人数を百名にすれば、じっくりとサウナを堪能してもらえると思うがどうだろうか?」
「その人数ならじっくりと出来そうですね、たまに渋滞はするかもしれませんけど」
「そこはどうにかなるだろう、あとサウナビレッジは完全予約制にするつもりだ」
「随分強気ですね?」
「そうか?」
「そうですよ、完全予約って、そこまでして客は集まりますかね?」
「どうかな?俺としては別にここで、収益を得ようとは考えていないからな」
「そうですか、そういう考えならば、いいかもしれませんが」
「というよりは、サウナをこの日は楽しみたいと、その日に向けて仕事を頑張ろう、という客が結構いるような気がするけどな」
「それは分からなくはないですね」
「あと、ちょっと心苦しいが、ここは従業員の福利厚生には含めたくないな」
「ですね、そうしないと夜は従業員で、いっぱいになりますからね」
「でも、休日に予約を取って利用する分には構わないけどな、ちゃんと料金は貰うけど」
「それはそうでしょう、社員割引もいらないでしょう」
「そうしないと、従業員の保養所になりかねないしな」
「全くです」
「あとは料金ですが、どうしますか?」
「そうだな・・・まずは四時間で銀貨三十枚、泊りは金貨一枚でどうだ?」
「うーん、悩ましいですね」
「この世界の水準としてはちょっと高めだが、それぐらいでいいと俺は思うんだ。それぐらいの価値が、サウナビレッジにはあると俺は思っている」
「そうですか・・・ではそうしましょうか」
「そう構えなくてもいいだろう、それにこの世界にも、サウナ文化が随分根付いている様だし、成るようになるさ」
「それでしたら、いいんですけどね」
マークは真面目だな。
まあ、それがこいつの良いところなんだけどね。
「後は設備だが、厨房は俺とマット君で造っていくよ、備品については任せるが、出来るだけ手作り感のある物に拘ってくれ」
「手作り感ですか?」
「そうだ、高級感は一切いらない。田舎の村をイメージしたいからな」
「なるほど、そういうことですね」
「落ち着く感じが欲しいんだ、だからテーブルとかは木とかの方が良いかもしれないな」
「そうなりますね」
「一先ずはそんなところだな、後は追々詰めていこう」
「分かりました」
その後スーパー銭湯に行くと、案の定ブルーエッグがいたので誘ってみた。
すると、無茶無茶喜ばれた。
サルーに至っては、
「サウナ島に永久就職します!」
と泣いていた。
サウナ島と結婚するつもりか?
そんなになのか?
こちらとしては嬉しいのだが・・・
メルルにマット君の異動について話すと。
「いいですよ、あの子は厨房を仕切れるレベルに達していますので」
と快く受け入れてくれた。
俺はその足でマット君の元に向かい、異動を告げた。
「ほんとですか?ありがとうございます!」
とマット君はガッツポーズを決めていた。
皆な前向きで助かります。
俺はマット君と厨房の作成を行っている。
今回の厨房では、魔道具を大いに使うことになった。
実験的な意味合いもある。
まずはコンロだ。
魔道具のコンロは、親父さんに手伝って貰って、造ることにした。
日本の簡易コンロを参考に、親父さんと開発を進めていく。
親父さんは魔道具の作成にも高い知識を持っており、大いに助かった。
そして換気扇も魔石を埋め込み、常時換気を行う事になっている。
今では魔石と神石は充分の数を確保できている。
魔石は魔獣の森で、ノンとギルが確保してきているし。
神石に関しては、ランドールさんが役立ててくれと、たくさん寄贈してくれていた。
大いに助かっている。
まあ今回に関しては、神石は必要無いのだが・・・
厨房の作りに関しては、極力マット君の意見を取り入れるようにした。
実際に働く者の意見を参考にした方が、良いに決まっている。
そしてマット君からは、意外な申し入れがあった。
それは婚約者がマット君にはおり、一緒に働かせて貰えないかというものだった。
リア充かよ・・・
将来を見越して、連れ合いにも料理を学ばせたいということだった。
まあ好きにしてくれ。
そう言われれば断れる訳がない。
マット君には独立という夢があるのだから、協力しない訳にはいかない。
そして厨房が出来上がると、今度は新メニューの開発に着手した。
というのも、ここではサ飯を提供しようと考えたからだ。
俺の趣味ではないのだが、日本でウケているということは、何かしらの理由があるのではないか?と思ったからだ。
どうしても俺には体を綺麗にした後に、また汗をかくことに抵抗があるのだが・・・
俺の趣味を押し付けるのは良くない。
ここは俺以外の者達の反応を見てみようと思う。
「マット君、新メニューだが、辛い物を中心に行おうと考えている」
「辛い料理ですか?」
「そうだ、俺のいた異世界ではサ飯というんだが、サウナ明けに辛い料理を食べるのが流行っているんだ」
「へえー、そうなんですね。でも何となく分かる気がします」
「そうなのか?」
「はい、サウナ明けには塩分が欲しくなるので、それならば汗をまたかける辛い物を、食べたくなるのは理解できます」
へえー、そうなんだ。
「それに実際、スーパー銭湯の一番人気のメニューは、不動のカツカレーですしね」
「それはそうだが・・・」
確かに実績を兼ね備えているな。
そう言われてみればそうだな。
それにサウナ明けは妙に腹が空くしな。
「そこで俺からいつくか新メニューを伝授する、心して掛かってくれ」
「了解です!」
とマット君は期待に満ちた眼差しをしていた。
俺はまず麻婆豆腐を伝授した。
それも山椒を効かせまくった一品だ。
鼻から抜ける山椒の香りが辛さを助長させる。
「こ、これは・・・山椒のピリッとした辛さが舌に残って癖になりますね」
「だろ?これを米にかけて、マーボー飯として提供しようと考えている」
「お米に合うのは間違いないですね、辛さをマイルドにしてくれるでしょうし」
流石はマット君だ、分かっているな。
マーボー飯は大いにウケるだろう。
そして俺は次に、台湾ラーメンを作った。
台湾ミンチが程よい辛さを引き出している、それにニンニクは増し増しだ。
「おお!これは後を引く辛さです!凄い!こんな料理があったとは」
マット君は一気に平らげていた。
その気持ちはよく分かる。
台湾ラーメンは癖になるよね。
台湾ミンチをちゃんと漏れなく食べれる様に、俺は穴あきスプーンを大量に作成した。
台湾ミンチを全部食べ切るにはこれは必須だ。
無くてはならないとも言える。
そして俺の拘りのスパイシーピザを作った。
これはチリソースをベースに、唐辛子を練り込んだソーセージとハラピーニョ、そしてアンチョビをトッピングしたピザだ。
俺はハラピーニョの辛さが好きだ。
某バーガー店のスパイシーチリドッグに、トッピングされている、ハラピーニョを始めて食した時の衝撃は、今でも忘れない。
こんな辛さがあるのかと、連日リピートしたことを覚えている。
これにマット君は大興奮していた。
「この辛さは異次元です!」
と少々分かりづらい食リポをしていた。
まあ気に入ってくれたということだろう。
そして更に、石焼きチーズカレーを伝授した。
表面をカリっと焼き上げる、このチーズカレーにマット君は唸りまくっていた。
「チーズをこんに感じる料理は始めてです」
とのことだった。
いやピザがあるだろう、とはツッコまなかった。
マット君のケアレスミスという事で・・・
最終的にこの四品を軸に、定番のカツカレーを加えたメニューを提供することにした。
ただ、辛い食事が苦手な人もいる為、通常の辛くないメニューも加えることにした。
だが塩分が過多の料理が多いのは、趣旨をちゃんと理解したマット君の考えだ。
特に塩おにぎりは、分かり易くてちょっと笑えた。
そして遂にある商品の作製に成功した。
それは『サ水』である。
とは言っても、分かり易いところのスポーツ飲料だ。
もっと分かり易く言えば、オロポのポの方である。
サウナ好きにしか通用しないかな?
ほんとはオロポを作りたかったが、オロの方が作れなかった。
小さな巨人は作るのが難しいということだ。
ネタが古くてすいません。
精神年齢が定年なもんで・・・
塩分と糖分のバランスに相当頭を悩ませた。
最終的には味の良しあしにまで拘り、これでどうだ!
という一品が完成した。
これは売れるだろう。
俺は『サ水』の満足感で整いそうだった。
かくして準備は進められていった。
再度マークと打ち合わせを行っている。
「人員に関しては、ほとんど完了しました」
「そうか、受け入れ態勢は問題ないか?」
「はい、ほとんどの者が既にサウナ島で住んでいます」
「なるほど、実際の業務についてはどうなんだ?」
「ほとんどの者がレクリエーションを終了し、後は配置を待つばかりです」
「そうか、じゃあ配置に着かせてくれ。いよいよプレで実施だな」
「ですね、プレはどうします?」
「そうだな、まず三日間は旧メンバーと神様ズで良いんじゃないか?神様ズに関しては勝手に使ってるんだろう?」
「はい、困ったことに、遠慮は全くありませんね」
「・・・」
あの人達は全く・・・
ちょっとは遠慮ってもんを覚えて欲しいものだ。
まあいいけど・・・
もう慣れたし。
「その後一週間は、休日の従業員達に客役をやって貰おう」
「そうしましょう、皆な喜びます」
「そうか、でも旧メンバーも、使いたい奴は使ってもいいぞ、人数的にもその方がいいだろうしな」
「そうですね、そうしましょう」
「神様ズはどうします?」
「好きにさせてやってくれ」
「ですね」
恐らくほぼ全員が入りにくるだろう。
既に何人かの神様ズが、そういった反応を示している。
それに本格稼働したら、神様ズでも予約をして、料金を払わないと使えないと宣告している。
そりゃあそうだろう、俺でも予約を取らなければ、入れないとしているのだ。
ここは役得は通じない。
特別配慮は俺であっても無しということだ。
その所為か、皆が皆こぞって、連日サウナビレッジに訪れている。
特にド嵌りしているのが、オズとガードナーで、本格稼働し出しても、週一はマストで通うと豪語していた。
後、余談として五郎さんが、従業員を数名連れて来ていいかと申し入れがあった。
外の神様ズには同行は許していない。
その理由は明らかで、何人連れてくるか分かったもんじゃないからだ。
スーパー銭湯のプレオープンで、俺は懲り懲りしている。
あの人達の遠慮の無さは、折紙付きだ。
だが五郎さんは別なのには理由がある。
それは温泉街『ゴロウ』でサウナを導入するという案が、浮上しているからだった。
俺は遠慮なくサウナ導入してくれと、五郎さんに話している。
そして、それをアドバイザーとして、サポートして欲しいと言われている。
遂に島野守プロデュースのサウナが、サウナ島以外の場所でもお披露目となるかもしれない。
俺は嬉しくて溜まらなかった。
今はどんなサウナにしようかと、思案中である。
いくつか案が既にあるのだが、サウナビレッジが一段落ついてから、話し合おうということになっている。
まだまだ楽しみがあるようだ。
嬉しいなー!
三日間のプレを終え、一度反省会を行うことになった。
「では皆さんお疲れ様」
場所はサウナビレッジの食堂だ。
「いつくかの意見を元に、これから反省会を行う」
「「「はい!」」」
と良い返事が木霊する。
今回の募集倍率は、なんと五十倍という異例の数字を叩きだした。
面接官が足りなくなり、急遽ランドとロンメルにも手伝って貰う事態となっていた。
それを潜り抜けた精鋭達である。
皆が皆、優秀で助かる。
それにサウナジャンキーが、ここまでいたのかと、俺は嬉しくもあった。
面接に訪れた者達の多くがサウナ愛を語り、俺はそれに耳を傾けた。
頷ける話がほとんどだった。
是非サウナフレンズになりたいものだ。
そして数名から、俺はサウナの神様であると、大衆に言われていることを知った。
悪い気はしなかった、というより本位である。
サウナの神様・・・照れるじゃないか。
でも厳密には全くもって違うのだが、気が大きくなった俺は、敢えて否定しないでいた。
だって嬉しいんだもん。
俺はアンケート用紙に目を通した。
「まずはサウナの温度が、思いの外低かったように感じたという意見だ、温度管理班どうだ?」
ブルーエッグのドリルが手を挙げる。
「どうしても、扉の開閉が多いと温度が落ちるようです」
「そうか・・・二重扉に変えるか?どう思うマーク?」
「スーパー銭湯の二重扉と同じにするということですよね?温度管理という点では良いと思いますが、手作り感からはちょっと離れる気がします」
「そうだよな・・・そこは譲れないな・・・ドリル、温度管理の見回りを倍に出来るか?」
「多分問題ないかと・・・」
「じゃあ、一先ずはそれで様子見だな」
「はい、分かりました」
「次に・・・これは要らんな」
その意見は台湾ラーメンが辛すぎるという意見だった。
この文字は・・・ノンだな。
無視でいいだろう。
あいつは何がしたいのだか・・・
よく分からん。
「今度は清掃に関してだ、外気浴場の地面の土がむき出しなのが気になる、という意見だ。お前達はどう思う?」
ダノンが手を挙げる。
「これは私の意見ですが、水風呂の後にはどうしても水が身体に着くので、ポンチョを着ても地面が濡れて、ビショビショになってしまいます。それはそれで気持ちは分かりますが、自然の中でサウナを楽しむ、というコンセプトを考えると、それすら楽しんでくれと思うのですが、いかがでしょうか?」
「うーん、その意見は妥当だが、実は俺もこれに関しては思った部分だから、石畳みを敷こうと思う、ダノン良い意見だ、ありがとう。マーク明日には対応を始めるぞ」
「了解です、この中でも手の空いた者は手伝うように」
「「「はい!」」」
このようにして反省会は行われていった。
五郎さんが従業員を連れてやってきた。
案の定大将も紛れていた。
俺は絶対に大将が来ると思っていた。
大将は当然のように厨房に入り、マット君と新メニューについて話をしていた。
大将はハラピーニョに目を付けたご様子で。
「島野さん、このハラピーニョは仕入れできますよね?!」
と大興奮していた。
まったくこの人はブレないな。
関心するよ、全く。
料理馬鹿一筋だ。
好きにしてください。
「それで、五郎さん。サウナ計画はその後どんな感じですか?」
「サウナを導入することは、概ね了承なんだがな。今のお前えから貰ったサウナや、ここのサウナと同じじゃ面白くねえだろ?どうしたもんかと思ってな」
「それなら俺が良いアイデアがありますので、任せてください」
「そうなのか?」
「こことも被らない、斬新なサウナをプロデュースしますよ」
「本当か?なら島野に任せるか?」
「ありがとうございます」
「お前え以上にサウナを知り尽くしている奴はいねえからな、それに島野が知恵を貸してくれたと言えば、宣伝効果にもなるってなもんよ」
「ハハハ、そうですね。どうやら巷では俺は、サウナの神様って言われてるみたいですからね」
「らしいな、笑ったぞ!」
ですよねー。
「まあ、本格稼働は落ち着いてからになりますが、任せてください」
「ああ、期待してるぞ!」
と五郎さんの温泉街にも、サウナ文化は広がりつつあるようで俺は嬉しかった。
その後、従業員達のプレを経て、サウナビレッジの最終調整が行われていった。
最後にサウナビレッジの従業員達が、自分達で使ってみるという過程を、今は行っている。
やはり自分達で使ってみると、感じるものがあるだろうということだ。
そしてその効果は絶大で、ほぼ全ての従業員達が、感じるものがあったようで。
顔つきが変わっていた。
そもそもサウナを好きな者達だから、尚更だろう。
ほとんどの従業員から、
「島野さん、サウナビレッジは最高です!」
「俺はここに就職が出来て光栄です!」
「サウナは宇宙です!」
と声を掛けられた。
まあ、頑張って欲しいものだ。
さて、いよいよ明日から予約受付となるが、どうなることだか・・・
俺は期待と不安が入り混じった想いを抱えていた。