美容室の建設を行いつつも神様ズとの神気減少問題の、解決策についての話し合いが行われていた。
場所は事務所の会議室、これまでの神様ズに加えて、アンジェリっちも参加している。

「それでは会議を始めようと思います」
自然と会議の進行役は、俺が務めることになっていた。
神様ズは各々好きな飲み物を飲みながら、砕けた雰囲気になっている。
それにしても神様ズは総勢九名となり、今後もどれだけ増えるのか楽しみである。
ちなみにガードナーさんは含まれていない。

「まずは先日、俺はオリビアさんからの申し入れもあり、エルフの村に行くことになりました」
全員を見回す。
皆ちゃんと話を聞いている様子。

「そこで、アンジェリさんに神気減少問題を説明し、お地蔵さんを設置することになりました」
みんなの前では、アンジリっちと呼ぶのは憚られる。

「ちょっと待ってくれお前さん、この中でエルフの村に行ったことがある者は、外におるのか?」
ゴンガス様が横やりを入れた。
周りを見回すが、誰も手を挙げていない。

「俺とオリビアさん、アンジェリさん以外は、いないということですね。せっかくですから後で、皆でエルフの村に行ってみましょうか?」
百聞は一見に如かずと言うからね。

「そうだの、見てみたいのう」

「儂もそう思うぞ、肌で感じた方が早えな」

「そうね」
と、賛同のようだ。

「話を戻しますが、エルフの村は外の街とは違って、村を正八角形で囲む柵が設けれらています」

「正八角形の柵だと?」

「ええ、現地で見てください、その中心には大樹があります」

「島野、話の腰を折ってすまねえが、その大樹ってのはどんな木なんだ、それが重要なんじゃねえのか?」

「アンジェリさんお願いします」
アンジェリっちに、話を振った。

「エルフの村に大昔からある大樹で、樹齢二千年とも言われてる大樹じゃんね、エルフの村のシンボルとも言えるわね」

「島野の話だと、その大樹が鍵なんだろ?」
これはあくまで俺の推測だ。

「だと俺は考えています、ただ皆さんも感じているとは思いますが、ここサウナ島でも同じ現象が起きました、それには世界樹が関係しているものと思われます」

「するってえと、正八角形と大樹、もしくは世界樹が無いと、神気は発生しねえということだな」
五郎さんが話を纏める。

「今の所そうなります、ただこの正八角形には何かしら意味があると考えています」

「どういうことなんだ?」

「日本でも、正八角形には意味があると言われていて、魔を払い、聖を受け入れると言われているんです」

「ほう、そんなことが」

「それと同じことがエルフの村でも、言い伝えられているという話です」

「そうか島野よ、その大樹だが、アイリスさんに聞いたら、話が早いんじゃないのか?」
ゴンズ様の鋭い一言だった。
その手があったか・・・またやっちまったな。
なかなかに俺は抜けている。
こうも近い所に専門家が居るってのに・・・

「そうしましょう、彼女にも同行して貰いましょう」

「じゃあ早速いくかの?」
せっかちなゴンガス様は、既に立ち上がろうとしている。

「そうしますか」
俺達は連れ立って、エルフの村に行くことになった。
俺はアイリスさんに声を掛けて、これまでの経緯を話し、同行して貰うことにした。
アイリスさんは、大樹に出会えると嬉しそうにしていた。



エルフの村に着くと、神様ズは纏まりなく、各々好き勝手に見学し出していた。
まったく自由奔放で困った人達だ。
神様ズは団体行動には向かないな。

「アイリスさん、あの大樹です」

「ええ、あの子ですね」
と微笑を浮かべるアイリスさん。
大樹に向かい俺達は歩を進める。
たどり着くと、アイリスさんは大樹に触れて目を瞑り集中した。
数分間の間、その状況は続いた。
ふと手を離し、俺に向き合うアイリスさん。

「この子は立派に育ってますわ」

「といいますと?」

「私達樹木は、それぞれ意思を持っています。だいたい千年ぐらい経つと、その意識ははっきりとしだして、強い意思を持ち出します」
樹齢千年経つと意識が強くなるのか・・・

「この大樹は強い意思を持っている、ということなんですね」

「そうですこの大樹の意思で、このエルフの村を守っているということですわ、この子はどうやらエルフ達が大好きなようですわ」

「そうですか」
隣に並ぶアンジェリっちが、膝を付いていた。

「そんな・・・この大樹に私達はずっと守られていたんですね・・・なんてこと・・・知らなかった・・・そんな言い伝えはなかったのに・・・」
どうやらアンジェリっちは知らなかっただけでなく、大樹が村を守っていることは、言い伝えでもないことのようだった。
アンジェリっちは、大樹に向かって手を合わせている。感謝の念を伝えているのだろう。

更にアイリスさんが口を開く。
「この村には魔獣は近寄れないと思いますわ、それに正八角形の枠が壁となっているので尚更でしょう」

「壁ですか?」

「そうですどうやらこの子の意思で、枠を壁に見立てて、結界を形成しているようですわ」

「なるほど、ちなみに枠が無いと結界はどうなるんですか?」

「無くても結界は張れますが、ここまでの強い物は張れませんわ」
枠があった方が、結界が張りやすいということか・・・正八角形が目印になっているということなのだろうか?

「では、お地蔵さんはどうなんでしょうか?」
お地蔵さんが重要ポイントだと思うのだが・・・

「これは、少々説明に困るのですが、このお地蔵さんにも意思が宿っていますので、それと共鳴しているという事が、わかり易い説明になると思いますわ。それはサウナ島でも同様ですわ」

「お地蔵さんにも意思があると・・・」
物質にも意思があるのか・・・

「正確には、造った守さんの意思が宿っている、と考えた方が良いかもしれませんわね」

「俺の意思・・・」
確かに俺はお地蔵さんを造る時には、感謝の念を込めて造っているが、その意思が宿っているということなんだろうか・・・
正に八百万の神だ。
世界の様々な現象や、存在する全ての物に神の意思が宿っているということ・・・

「ちなみにアイリスさん、この正八角形には意味があるんですか?」

「これは、正八角形が結界を形成しやすい形だからですわ」

「そういうことなのか・・・」
樹齢千年以上の意思のある大樹が、お地蔵さんの意思と共鳴し、神気を発生させているということ、更に魔獣を寄せ付けない役割も担っているということか。
これは簡単には横展開はできないな・・・
まずはここエルフの村と、サウナ島での神気が増えただけでも、よしとするしかなさそうだ。
少し残念だがしょうがない。



まずは散り散りばらばらになっている、神様ズを集めなければならない。
ほんとにあの人達は、自由奔放というか、纏まりがないというか・・・
なんとか全員を集めるのに、三十分近くかかってしまった。
あー、無駄な時間を過ごした。
騒ぎ立てる生徒達を纏める先生の気分だ。
俺はこれまでのことを神様ズに伝えた。

「するってえと島野、お地蔵さんはともかく、樹齢千年以上の大樹を探さねえとならねえってことだな」

「そうなりますが、心当たりのある方はいますか?」
あればありがたいのだが・・・

「ないわね」

「ないな」

「儂もないな」
と心当たりのある人はいなかった。

「まあ、原因が分かったんだから、今日は良しとしようや」
そうするしかなさそうだ。

「これを言い出したら終わるしかねえぞ、島野」
ですよね。

「そうですね・・・帰りましょうか?」

「まずはエルフの村と、サウナ島の神気が濃くなったことだけでもよしだな」
五郎さんに肩を叩かれた。

「そう言ってくれるだけで、ありがたいです」
俺達はサウナ島に帰ることにした。
そこからは流れ解散となり、俺はスーパー銭湯に向かった。
サウナに入って、気分を変えようと思う。
僅かだが、神気減少問題がまた一歩前進したことには変わりは無い。
今はこれを喜ぶとしよう。
それにしても先が見えないな・・・
神気の減少問題、どうにも根が深そうだ。
それに何かしらの意思を感じるのだが、気の所為だろうか?



美容室のオープンより先だって、エルフの村の薬草の販売は、既にスーパー銭湯の一角のブースにて、販売を開始している。
これまで薬草はこの世界ではあまり見かけなかった物だったこともあり、販売は順調に行われているようだった。
薬草は特に傷薬がよく売れているようだ。

こちらに関しては、賃貸料金は貰わないことになっている。
カナンのハチミツブースと、コロンの牛乳ブースと同じである。
ブースはあくまでスーパー銭湯の一部という位置づけだ。
従ってお店では無い。だから賃貸料は頂かないということ。
店内屋台といったところだ。

島野商事としても、置き薬として、傷薬を何個か購入させて貰った。
社員が怪我をした時には、これを使って貰おうと思っている。
これでアイリスさんが世界樹の葉を配るという、暴走を疑う必要はなくなりそうだ。
そして、エルフの村に少しずつだが、お金が流通し出している。

アンジェリっちが、
「エルフの村に行商人が来てくれた」
と喜んでいた。

だがまだエルフの村にはお金が少ない為、物々交換から始めているらしい。
エルフ達は、主に食器類や陶磁器などを購入しているようで、エルフ達からは自生しているキノコや、山菜などが交換されているようだ。
この自生しているキノコや山菜の目利きは、エルフの伝統的な知恵で、他の国では無い知識だ。
やはり、エルフの伝統は役立つものであったと感じる出来事だった。
恐らく数ヶ月もすれば、エルフの村にもお金は更に流通するであろう。
アンジェリっちがエルフの族長と話し合い、今後は金銭を持つ者達は、優先的に村の中でも金銭を使うように、することにしたと話していた。

これまで世界から取り残されてきたエルフの村も、今後大きな変革が訪れることになるだろう。
だが良き伝統は続けて欲しいと、俺は切に願うのだった。
それに温故知新という言葉もあるしね。



そして遂に美容室と服屋の建設が完成した。
両店同時にオープンをするのは、お客様渋滞になるのではないかと、まずはメルラドの服屋からオープンすることになった。
サウナ島としてもお店のオープンには全面協力しており、至る所に服屋のオープンを宣伝してきた。

オープン初日には、メリッサさんもお忍びで見学に来ていた。
国営店なのだから気になるのは間違いないだろう。
お忍びでは無く、普通に来ればいいのにと俺は思ってしまったが。
まだまだメルラドの旧体質は変わらないようだ。
なんとも嘆かわしい。

オリビアさんも血気盛んに、お店のお手伝いをしている。
オリビアさんは結構な接客上手で、彼女が服を薦めると、ほとんどの客が服を購入していた。
小声で歌って買う気にさせて無いかと俺は疑ったが、そんなズルはしていなかった。
女神から勧められたら断れない、ということなのだろうか?
こちらの方が彼女にとっては、転職ではないかと思えるほどだった。

お客達は男女年齢問わず、服の購入を楽しんでいた。
リチャードさんは終始ニコニコしており、三日間で金貨五十枚も売上が上がったと喜んでいた。
今はメルラドの服飾職人総出で、服やスカート、ズボン等を製作しているらしい。
様子を覗きに来た、服飾職人のカベルさんも、忙しくなったと漏らしていた。

このカベルさんだが、いくつか参考になるであろうと、俺は日本の服やズボン等を渡し、外にも印刷した服飾の資料を大量に手渡したところ、感動して涙を流しながら感謝されてしまった。
職人魂に火が付いたと、精力的に服飾製作に励んでいるようだ。
そして服飾ではないのだが、良く売れた物として、実は布団が上げられる。
俺がカベルさんに提供した、綿や麻がここにきて、生きて来たと言ってもいいだろう。
布団はこれまで、葉っぱを詰めた物がこの世界の主流だったらしく、これならば長く使用できると驚くほどに売れていた。

この布団だが、実は社員寮には完備しており、社員達からこれは素晴らしいと言われていたので、カベルさんには、絶対売れるから大量に製作する様にと前もって話していたのだ。
今のカベルさんは服飾製作以外の時間を、寝具のマット開発に励んでいる。
これは俺の入れ知恵なのだが、見逃して欲しいと思う。
やはりふかふかの布団と、マットで睡眠は取りたいのである。
今後のカベルさんの働きに期待したい。
マットにはバネが必要なのだろうか?
難しいことろである。



そして、アンジェリっちの美容室だが、俺はここで要らない世話を焼くことになっていた。
それは何かというと『オゾンセラピー』を導入したことだった。

オゾンとは、原子記号としてはO3となる物質で。
このオゾンの生成には高電圧による放電によって、酸素と結合してできる物質だ。
厳密には陰極に黒鉛電極、陰極に白銀電極を用い、希硫酸を電子分解することによって陽極から発生した気体が、酸素と混合気体として生成されるという仕組みだ。

これを俺はなんとか再現し、オゾンの生成に成功した。
このオゾン発生装置を作るのはなかなかにして困難だった、というのも希硫酸なんて物はどうやっても手に入らない。
そこで高電圧を自然操作の雷に変え、神石に付与し、酸素と結合することによって、オゾンが発生した。
オゾンは独特な臭いを発するため、成功したのは直ぐに分った。
酸素は二酸化炭素ボンベの応用で、空気中から酸素を神石で取り込んで、酸素ボンベを作製した。
これによってオゾンが生み出されたのだが、これには俺の思惑が含まれている。

俺が日本で懇意にしている美容室があり、そこではこの『オゾンセラピー』を用いた施術を行っている。
俺は今でも月に一度は通っているのだが、ここで行われているオゾンのサービスは、格別に良い物だ。

それまでは特に俺は拘ることなく床屋で髪を切って貰っていたのだが、年齢的にもそろそろ薄毛を気遣う必要があるかと、何気なくネットで調べてみたところ、家の近くにこの美容室があることを知った。

興味本位で訪れた俺だったが、この『オゾンセラピー』に俺はド嵌りした。
何よりもこのオゾンを使用したシャンプーがとても気持ちが良く、俺を虜にした。
オゾンがどれだけ髪に良いのかは、俺にはよく分からなかったが。
始めて俺がこのオゾンでのシャンプーを行った際に見せて貰った、毛穴や髪についていた汚れを見せられた時には、驚くほどの感動があったのを、俺は今でも覚えている。
聞くところによると、このオゾンは結構万能で、毛穴の汚れや髪の汚れを落とすだけでは無く、パーマや髪色の定着にまで役立つ物だということだった。

このオゾンを使用した『オゾンセラピー』がアンジェリっちもとても気に入り、シャンプーなどに使用することになった。
施術に一手間かかる為、時間効率は悪くなるのだが、お客様満足度が格段に上がると喜んでいた。

アンジェリっちは何度もモニターを募集し、オゾンセラピーの特訓をスタッフと共に行っていた。
それを俺は監督し、偉そうにあーでもない、こーでもないと意見をしていた。
勿論俺も何度もモニターになり、髪がサラサラになっていた。

この美容室が流行るのは、もはや疑いようはないと言える。
実際オープンを待たずに予約が殺到し、既に二週間先まで予約で埋まっているということだった。
そして、シャンプーやトリートメントのみならず、化粧品も美容室で販売することになっており、こちらでも大きな売上が立つことは明らかだった。
化粧品のランナップは、ファンデーションや口紅、化粧水や乳液、化粧筆など、エルフの村産の優れ物だ。
化粧には興味がなさそうなゴンまで、化粧品が気になるとぼやいていた。
女性の美に対する追及心は、並大抵のことでは揺るがない。
それを体現している塩サウナは、女性人気が半端無い。
女性の塩サウナの塩の減り具合は、男性の塩サウナの倍は減っている。
塩での擦り過ぎは返って良くないので、ほどほどにして欲しいと思うが、そうともいかないようだ。
個人的には三日に一度程度が良いと思っている。
アンジェリっちも、塩サウナにド嵌りしているようだった。

シャンプー等はスーパー銭湯で販売することも可能ではあったが、敢えてそれは行わず美容室に客が向くようにした。
これ以上の儲けは要らないのである。
充分に稼がせて頂いている。
本音としては、これ以上欲張ることは気が引けるということだ。
それよりも、美容室、服屋の相乗効果で、スーパー銭湯の客数が伸びてきていることで充分満足ができている。

これでエルフの村にも更にお金が流通することになるだろう。
あとは時間の問題だと思う。
サウナ島の満足度は更に向上したと言える。
嬉しい限りだ。



実は、この美容室の並びに、アイリスさんが熱望した、野菜の販売所を設けている。
造りは至ってシンプルで、ただの掘っ立て小屋といってもいいぐらいの物なのだが。
これもマリアさんが、内外装の仕上げを行うことで、洒落た外見の建物となっていた。

とは言っても八百屋さんに変わりは無いのだが、見た目がお洒落なので、上品な感じに見えてしまう。
ここではサウナ島産の野菜が売られているのだが、金額は五郎さんやゴンガス様の所に卸している金額よりも、高めに設定している。
五郎さんやゴンガス様の所で買い取って貰っている野菜の量は多い為、ここでの金額は同じという訳にもいかない。
それに転売を防ぐ為にも、あえて値段を高く設定する必要があると考えた。
それでも転売が行われるかもしれないが、その先は規制しようがないのでしょうがないと思う。

そしてこの八百屋の野菜も、大変よく売れている。
一番よく売れているのは、玉ねぎ、人参、ジャガイモといった定番野菜を中心に、ダイコンやキャベツなどがよく売れている。
こうなってくるとアグネスの野菜は廃止になるかと思われたが、根強く販売が出来ているということだったので、彼女からのギブアップ宣言がなされるまでは、続けようと思っている。
アグネスは最初の取引先だから、無くなるのはちょっと寂しい。
本当は、調味料系の品物を販売しようかと思ったが、欲張り過ぎだと止めておいた。
それにマヨネーズなどは、賞味期限が分からない為、躊躇するところでもあった。



そして俺としてはありがたいことにこの八百屋の隣に、ゴルゴラドの魚介類を扱う魚屋が造られることになった。
ここもゴンズ様の店という位置づけになっている。
これは俺からゴンズ様に持ち込んだ話で、少しでも販路が増やせるならと、あっさりと許可してくれた。
この魚屋にはたくさんの生け簀があり、生の魚や貝、海老や蟹などの魚介類が販売されている。
ありがたいことに、その場で魚を絞めたり、三枚下ろしにしてくれるサービスもあり、利用者は大いに喜んでいた。
スーパー銭湯の仕入れにも役立っており、こちらとしても大助かりだ。
今は蛸の養殖に取り組んでいるゴンズ様としては、ここで大きな蛸を売れるようになりたいと、鼻息荒く話していた。
これを機にたこ焼きの屋台でも始めようかと思ったが、他の商人の目もあるので止めておいた。



現在のサウナ島にはスーパー銭湯を始め娯楽施設が、揃っている。
そして、八百屋を始め、美容室や服屋、魚屋も有る為、これまでとは違う、買い物目的にサウナ島に来る人達が多くなった。
これまでにない新たな目的である。

もはやこのサウナ島は村ではなく、街の規模になりつつある。
そうなってくると軽微な犯罪などが発生するものなのだが、そういったことは全くなかった。
やはり神様ズの目を欺くことは、なかなか難しということなのだろう。
エンゾさんに至っては、人選の目が肥えて来たと、自慢気に話していた。
大変ありがたく思う。
神様ズにとっても、このサウナ島での交流は楽しいものであるようで、又、自分の懐も温かくなると喜んでもくれている。
本当のところは、自分のところの住民が満足そうにしているのが、嬉しいのだろうことは俺も分かっている。
なんとも慈悲深い人達である。



そして遂に大きな買い物をすることになった。

先日レケから
「ボス、船がもう一隻欲しい」
と言われた。

俺は船の購入を即決した。
その翌日には、ゴンズ様に会いに行き、船大工を紹介して貰った。
船大工の棟梁は魚人のクエルさん、捩じり鉢巻を頭に巻いた、これぞ大工の棟梁といった魚人さんだ。

「ゴンズ様の紹介とあっちゃあ無下にもできまい」
と快く船を作ることを快諾してくれた。
そこで俺は、これまでの帆を扱う船では無く、魔石と神石を利用した、新たな動力源にて動く船を提案させて貰った。

クエルさんは
「そんなもんできっこねえ!」
と当初否定的であったが、船の構造やプロペラに関する知識を話し、スケッチを交えながら話を進めていくと、どんどん身体を前のめりにさせて、最後には
「俺に造らせてくれ!」
と逆にお願いされてしまった。

こうなってくると俺も面白くなってきてしまい、俺は連日クエルさんのところに入り浸っていた。

プロペラの作成をゴンガス様に依頼しにいくと、
「今度は何を造るんだ?」

「船ですよ」

「船か!どうせお前さんの造る船はまともではなかろう、儂にも一枚噛ませろ」
とゴンガス様も仕事そっちのけで、クエルさんの所に入り浸った。
クエルさんも最初はゴンガス様に低姿勢であったが、作業をしていく中で親しくなり、今では打ち解けているようだ。

俺にとってはこの二人は良い遊び仲間、といったところだ。
船を造る作業は楽しく、おれも連日作業場に来るのが楽しくて、時間を忘れて熱中していた。
何かを造ることは楽しいと、改めて思った。

そして、遂に船が完成した。
嬉しさもあるが、寂しさもあった。
遂に出来てしまったのかと。
残念ながら楽しい時間はお終いのようだ。

出来上がった船を眺めて見る。
これは船というよりは、大型のボートいや、中型のクルーザーと言った方が正しいのかもしれない。
船の骨組みは木を多用しているが、鋼板などは万能鉱石で鉄を使用することにした。
耐久性を重要視したということだ。

この船の建設にはゴンガス様も大興奮で、
「やはりお前さんの異世界の知識は面白いのう、ガハハハ!」
と楽しんでいた。

クエルさんも
「こんな船は始めて造ったぞ!」
とご満悦だった。

レケの求める船とは何だったのだろうかと、俺はこの時始めて気づいた。
それだけ夢中になっていたということなんだろう・・・
またやっちまったか?
まあ、どうにかなるだろう。



入船式が行われようとしていた。

見学にきたゴンズ様に
「おまえ何を造ったんだ?」
と言われてしまった。

「船ですよ」

「ふざけるな、こんな船は見たことがないぞ」

「と言われましても・・・」

「まあ、島野が手を加えた時点で、こんなことになるとは思ったがな」
こんなことって・・・

「ハハハ」
俺は笑うしかなかった。

「さて、どんなことになるのか楽しみだな、俺も乗せてくれ」
と興味深々のゴンズ様。

「もちろんですよ」
このクルーザーを漁師の神様はどう思うのか・・・

クエルさんの指示の元、船大工達がクルーザーを海に移動させている。
クルーザーが丸太の上に載せられて、海に近づいていった。
クルーザーは無事に海に辿りつき、海に浮かんでいた。

俺達はクルーザーに乗り込んだ。
このクルーザーの最大収容人数は三十人、俺とゴンガス様とクエルさんと、そのクエルさんの弟子の船大工が五名、後はゴンズ様が乗り込んでいる。
俺は操縦席に乗り込み、左手にはハンドルを握り、右手を動力源となる神石を握り締めている。
この神石がパイプに繋がっており、クルーザーの後ろ下部から風が流れ、スクリューを回転させるという構造となっている。

「では出発進行!」
俺は宣言し、進行方向を指さした。
一度言ってみたかったんだよねこれ。
神石に神力を流し込む。
自然操作の風がスクリューを回し、船がゆっくりと前に進みだした。

「おお、動きだしたぞ!」
クエルさんが興奮している。

「お前さん、これは成功なのか?」

「どうでしょうか?もう少し様子を見ましょう」
俺はクルーザーを沖に進めた。
速度は順調に上がってきている。
俺はハンドルを操作して、船が左右に動くことを確認した。

その度に
「おお、曲がった」

「いいぞ、いいぞ」

「こんな簡単に・・・」
と声が上がる。
船は更に速度を上げた。

「おいおい、何処まで早くなるんだ?」

「凄い、ここまでの速度の船は始めてだ!」

「ばらばらにならないのか?」
と興奮度は上がっている。
俺の体感としては時速八十キロぐらいだろうか、これぐらいがちょうどいいかと神力を調整した。

「島野、お前やりやがったな!」
ゴンズ様に肩を叩かれた。

「お前のせいで漁が変わっちまうぞ、それにこの速度なら、海の流通も変わっちまうんじゃねえか?」

「でもこれは多分俺の能力無くしては造れないかもしれません、増産出来るかどうかはクエルさん次第かと思います」

「そうか・・・まあクエルならやってくれるだろう」

「期待してます!」

「にしても、お前って奴は・・・」
呆れられてしまっているようだ。
確かにゴンズ様の言う様に、漁が変わるとは思う。
だが、転移扉がある今、海の流通は変わるのだろうか?

それにしても塩風が気持ちいい、これはもはやクルージングだな。
日本ではクルージングを体験したことは無いが。資産家達がクルージングを楽しむ気持ちが何となく分かった気がする。
クルージングか・・・こちらの世界でもウケるのだろうか?
まあ、まずはこの船はレケに渡すつもりだから、クルージング用の船はまた別の機会に考えようと思う。

「運転変わりますか?」

「待ってたぜ!その一言をよ!」
ゴンズ様は我先にと、操縦席に座った。
俺は見振り手振りを交えて、クルーザーの操作方法を教えた。

「よし、じゃあ飛ばすぜ!」
と一気に速度を上げるゴンズ様、まるで子供の様にはしゃいでいる。

二十分もすると、
「これはいけねえ、神力を使い過ぎた。交代だ」

と今度はゴンガス様が操縦席に座った。
こちらに関しては、船の構造を熟知している為、操船方法の説明は不要。

「儂も飛ばすぞ!」
とクルーザーの操縦を楽しんでいた。

次はクエルさんの番だ。
ここからは魔石を使用することになる。
気になるのはどれぐらいの魔力が必要かということだ。

「やっと出番が回ってきたな」
と腕に力を籠めるクエルさん。

「出発進行!」
と腕を振り上げている。
やっぱり言ってみたいよね。
その気持ちはよく分かる。

「島野さんよ、これは思いの外、魔力の消費が激しいみたいだ」
ものの数分でクエルさんはへばってしまった。

「問題は燃費ということですね」

「そのようだ、魔力量が多い者ならいいが、俺のように並みの魔力量の者には、ちょいとしんどいな」
そうなるか・・・まあレケは聖獣だから魔力量は多いからいいが、他の漁班の者達にはきついかもしれないな。
魔力回復薬を使う手もあるが、そこまでする必要性を感じない。
この燃費の悪さは改善できるようにしないといけない。
だがひとまずはこれで良しとしておこう。
俺達は港へと帰ることにした。



ゴルゴラドの港に着くと、俺はクルーザーごとサウナ島に転移することにした。

「島野、神力を使い過ぎたから、今日はサウナ島に泊まらせて貰うぞ」

「遠慮なくどうぞ」

「お前さん、儂も泊まるぞ」

「好きにしてください」
最近では、例の正八角形の配置事件以降、神力が不足気味の神様ズが、サウナ島に宿泊することが増えた。
寮の空き部屋を使って貰っているのだが、オリビアさんに関しては、相変わらずロッジの一室を占領している。
たまにアンジェリっちも、その部屋を使っているということだった。
当然神様ズからは宿泊費は貰ってはいない。
神気補給にそうしているのだから貰う訳にはいかないだろう。

クルーザーをレケに見せると、
「ボス、なんて船を造ってくれたんだ、面しれえ!」
と大興奮していた。

レケはクルーザーを試運転してみると、
「すげえ早え!何て馬力だ!」
と大騒ぎ。

魔力量が多いレケには特に問題がないようだ。
これを聞きつけた、ノン達聖獣とギルは、クルーザーの運転を楽しんでいた。
皆なクルーザーを操作するのが楽しいようで、終始操船を楽しんでいた。
マーク達も運転を楽しんでいたが、短時間しか運転できないと少し残念がっていた。
魔力量の問題は今のすぐには解決できそうもない。
一先ずの改善案はあるが、今のすぐには実行する気にはならない。
今はこのクルーザーで遊べればいいと思う。

結局レケが船を欲しがった理由は、追い込み漁がしたかったからで、速度の速いクルーザーは理に敵っていた。
俺は少しほっとした。
またやらかしたのではないかと、内心では冷や冷やしていたからだ。

今では午前中の畑作業をやらないレケは、午前中にはクルーザーを使って、追い込み漁を行っている。
昼からはこれまで通り、養殖場に入り浸っていた。
この追い込み漁ができる様になったことで、漁獲量は大きく上がっており、今ではスーパー銭湯の大食堂にある生け簀には、充分過ぎるほどの魚や海老、蟹がいる。
まるでちょっとした水族館のようだ。
よく子供達が、魚を眺めているのを見かける。
ゴンズ様からは嫌味の一つも言われるかと思っていたが、そんなことはなかった。
それよりもレケが頑張っていると、陰ながらレケを褒めていた。

昼からはクルーザーが使えると、クルーザーは皆のおもちゃになっていた。
ただしあまり沖の方にでると、海獣がでるといけないので、島から目の届く範囲で航行する様に注意はしてある。
念の為、クルーザーには通信の魔道具を装備している。
何かあった時には、直ぐに俺のところに知らせが入る様になっている。
皆が皆、新しいおもちゃに夢中になっていた。
これを見るに、クルーザーではなく、ジェットスキーを造ったほうがよかったかもしれないと思ったが、それはまたの機会にしようと思う。



今回の件で、自分が物造りが好きだということが再確認できたこともあり、今はサウナ島に工房を造ろうと考えている。
というのも、実はゴンガス様から
「お前さんの異世界の知識でもっといろいろと造ってみたくなった、次は何を造る?」

と悪魔の囁きのような一言を受け、俺は魂を売り渡すかの用に、
「次は自転車なんてどうですか?」
と答えてしまっていた。

「じゃあ何処で造る?」
とノリノリなゴンガス様は、俺を急かせてくる。

「せっかくなので、サウナ島に工房を造りますか?」

「工房か?いいのう、儂の竈も造ってもいいか?」

「どうぞどうぞ」

「そうか!ガハハハ!面白くなってきたのう!」
と有頂天なゴンガス様。
ゴンガス様に乗せられたことは分かっているが、気にしないことにした。
ゴンガス様は悪巧み仲間だな。
でも楽しそうだから気にしない。

寮の隣の森を開墾し、工房を造ることにした。
大きさとしては百坪程度、これぐらい広ければ十分だろう。
平屋の大きな倉庫のイメージ、ただゴンガス様の窯も設置予定の為、木製という訳にはいかない。
こうなってくると一番最適なのはレンガだ。
万能鉱石でレンガの材料となる、粘土や長石を準備し『加工』でレンガの出来上がり、まったくもってチートが過ぎる。

本当は寝かせて、乾燥させる必要があるし、焼成しなければならないが、これを俺のレンガの完成イメージを加えるだけで、レンガができてしまう。
時短にもほどがある。
でも出来てしまうからには、使わない理由はない。
俺はゆっくりとゴンガス様と適当に時間を潰しながら、工房を造ろうかと考えていたのだが、基礎を造り始めた時には、すでにマークとランドは手伝う気満々だった。
それに何を島野はまた始めたのかと、休日の従業員やら、挙句の果てには、ランドールさんの所の大工達まで、手伝いに現れた。
自分の休日を優先してくれと俺は言ったのだが、自分の意思で手伝っているのだから好きにさせてくれと言われる始末。
そこまで言うのなら、その好意は受け取るしかなかった。
俺の出来る最大限のお返しは、昼飯と晩飯を奢ることぐらいしかなかった。
まったくもってありがたい話である。

結局レンガ造りの工房は、ものの一週間で建設作業が完成してしまった。
そして、ここからはゴンガス様のターン。
鍛冶用の窯を造っていく。
ゴンガス様の指示の元、釜が作り上げられていく。
窯の作成にはゴンガス様の弟子も手伝いにきていた。
この弟子たちの昼飯や晩飯も、なぜか俺が奢ることになってしまったのだが、それはご愛敬。

完成した窯は素晴らしい出来で、ゴンガス様曰く、
「儂の作業場の窯よりも良い窯が出来てしまった」
とのことだった。

理由は簡単で、俺の能力をフル稼働したからだ。
特に『合成』は大いに役立ち、隙間という隙間を埋めたことで、窯の内部の熱伝導率が高くなったからだろう。
後は適当にテーブルや、作業台をいくつか作成し、工具をどんどん造っていった。
ゴンガス様からも、鍛冶で使う工具をいくつも造る様に強請られ、結局はほどんど俺の造った工具類で埋め尽くされることになった。

費用としては万能鉱石で金貨五百枚ぐらいかかったが、気にしなくていい出費と言えた。
それぐらい今の島野商事は潤っている。
そしてこの工房は『赤レンガ工房』と呼ばれる様になった。
そのまんまだと思うが、いつの間にか誰かが言い出した。

そして、自転車造りを始めた。
俺のイメージとしてはマウンテンバイク。
舗装が行き届いていない異世界で、自転車を乗るにはママチャリでは心もとない。
そうなると、頑丈でオフロード仕様となるマウンテンバイクは最適だと考えた。
まずは部品の一つ一つを万能鉱石から造っていく。
それをゴンガス様に見せて、同様の物をゴンガス様が鍛冶作業で造っていく。
タイヤのスポーク、タイヤ外縁、チェーンと、チェーンホイール、ペダルそしてフレームとハンドル。
フレームの素材はもちろんカーボンを使用した。
しなやかで丈夫な素材となるとこれしか思いつかない。
ゴムを『加工』でタイヤを造り、椅子にはジャイアントボアの皮を使用した。
タイヤは太く、分厚めに造る。
勿論タイヤの溝も深い。

ゴンガス様も負けてはいない、再現性が高く、同様の部品がどんどん造られていく。
調整に手古摺ったのはブレーキだ、ブレーキに繋がれているワイヤーが長すぎたり、短すぎたりして上手く纏まるのに試行錯誤を繰り返した。
それでも何とかマウンテンバイクが完成し、まずは試運転しようと、俺とゴンガス様は、それぞれが造ったマウンテンバイクを走らせることにした。

俺としては自転車に乗るのは何年ぶりになるのだろうか、四十年以上は乗っていないような気がする。
でも体は覚えているだろうと、安易に乗ってみることにした。
サドルの高さを調整し、一番漕ぎやすい高さに調整。
意を決してペダルに足を掛けた。
一気に漕ぎ出してみると、普通にマウンテンバイクに乗ることができた。

「おお!乗れてる!」
思わず声に出してしまっていた。

ゴンガス様は案の定マウンテンバイクから転げ落ちていた。
「お前さん!上手く乗れないぞ!」
と騒いでいる。

俺はゴンガス様を外っといて、久しぶりの自転車の感触を楽しんでいた。
風を切って走る、気持ちいい。
子供の頃に自転車に乗っていた感覚を、身体が覚えていたようだ。
俺は立ち漕ぎをして全速力でペダルを漕いだ。
早い!こんなに自転車って早かったか?
悪道でも簡単に乗り越えて行くマウンテンバイク。
もはや俺を止めることは出来ない。
久しぶりの自転車は、思った以上に楽しかった。

その後ゴンガス様の所に戻ると五郎さんが居て、
「島野、なんで自転車があるでえ?」

「造ってみました」

「お前え!儂にも乗らせろ!」
と俺のマウンテンバイクを颯爽と操る五郎さんだった。
ゴンガス様はそれを見て悔しそうにしていた。

「なんで五郎が乗れて、儂が乗れんのだ?」
そんなこと知りません。
練習頑張って下さい。