メルラドに伺い、リチャードさんに募集要項を手渡した。

「そういえば、この国の識字率は高いようですが、学校があるんですか?」

「学校ですか?」

「ええ」

「学校がどういう物かは存じ上げませんが、識字率が高いのは、小さい子供は教会で、読み書き計算を習わなければいけないことになっているのです」
教会が学校の替わりをしているということか。
なるほどね。

「そういうことだったんですね」

「ええ、それにしても今回の公募ですが、どこから情報が漏れたのか分かりませんが、既にちょっとした騒ぎになっております」

「そうなんですか?」

「メルラドを救った島野様の所で働けると、大人気です。いったい何人が応募することやら、私も応募に参加させて頂こうかと思ってしまいましたよ」

「勘弁してくださいよ、リチャードさん」

「ハハハ、サウナ島は魅力に溢れる島ですからね」
外務大臣にスーパー銭湯で働せる訳にはいかんだろう・・・
流石に似合わないな。

「募集要項は大丈夫そうですかね?」
リチャードさんは募集要項に目を通した。

「問題ないかと・・・」
と言いつつも、顔が引き攣っている。

募集要項の内容は職種によって変えている、スーパー銭湯の職員は火・水魔法が使える者、浄化・照明魔法が使える者は優先的に採用するということにしてある、ただ魔法が使えないからと言って面接が受けられないことは無い、これはあくまでそうあってくれたらいいな、という程度の物でしかない、採用の条件は人間性を鑑みて決めるが原則である。
次にスーパー銭湯の食堂及び、迎賓館の食堂の調理師も経験者歓迎にしているが、これもそうであったら助かるという程度の物である。
畑作業の職員も経験者歓迎としている。

他には、受付や給仕係の募集については、礼儀作法に詳しい者としているが、これも同様でしか無い。
後は給料の金額と、寮があることが記載され、休日は週に二日あることも記載している。
福利厚生については、どう記載するのか悩んだが、三食風呂付、その他有とだけ記載しておいた。
細かいことは、今はいいだろう。

大事なことはその人の人間性や、やる気の問題である。
ただし、年齢制限だけはさせて貰うことにした。
リチャードさんにメルラドの成人年齢は十五歳と教えて貰ったので、年内に十五歳以上になる者としておいた。
今は五月の為、十二月の末日までに十五歳になるのであれば、問題は無い。
少しでも、裾の尾は広げておきたい。

必須なのは履歴書を持参することだ。
書式は問わない。

「どれぐらいの応募人数になるんでしょうか?」

「どうでしょうか?想像もつかないですね。この内容を見る限りかなりの人数が集まるのは目に見えてますが・・・」
リチャードさんは眉間に皺を寄せていた。

「何か気になりますか?」
話していいものかと、躊躇っているようだ。

「聞かせてください」
一つ咳払いをしてからリチャードさんが口を開いた。

「まず、給料が高すぎます。メルラドの平均月収の倍以上はあります。それに週に二日も休日があり、この福利厚生も待遇が良すぎます」
やはりそうなのか・・・マーク達の話からそうだろうなとは思っていたが・・・だからといって今いる者達と、新たに加わる社員達の間に、あまり差は空けたくないとは思うのだが・・・

「せめて給料だけでも、もう少し下げませんか?月に金貨二十枚は多すぎます」

「そうなんですかね・・・いくらぐらいが妥当ですかね?」

「本来であれば、金貨五枚でも充分過ぎます」

「そんなに低いんですか?」

「はい、これはおそらくメルラドに限った話では無く、南半球の各国でも、給与水準は対して変わらないと思います」
そうなのか・・・まいったな・・・まああまり給料が良すぎるってのも、問題なんだろうな。
しょうがないか。

「分かりました、じゃあ金貨十枚に変更します」

「そうしてください、それでも良すぎることは胸に控えておいてくださると、助かります」

「わ、分かりました」
従業員達には裕福になって欲しいとまでは言わないが、せめて食べていくことに困らない程度にはなって欲しいと思うのだが、俺の金銭感覚がまだこの世界に追いついていないのだろうか。
募集要項を修正し、リチャードさんに再度手渡した。



サウナ島に帰ると、あまり嬉しくない来客があった。
エンゾさんである。
最近は接する機会があまりなかった為、久しぶりとなるのだが・・・絶対嫌味の一つも言われてしまうだろう。

「エ、エンゾさんご無沙汰してます・・・」

「島野君、ご無沙汰ね・・・」
おかんむりのご様子、頭から湯気が出てきそうだ。
怖いぐらい睨まれている。

「あの・・・どうしてここへ?」

「どうしてって、あなたね!もう、何で私にも教えてくれなかったのよ!酷いじゃない!そんな連れない仲でしたっけ?」
やっぱりか・・・拗ねてると思ったよ・・・

「すいません、なかなか会う機会が無かったもので・・・」

「それに、何あの転移扉って!無茶苦茶してくれるじゃない!あんな物を造られたらタイロンの経済が傾きかねないわよ!」

「そ、そうなんですか?」
そうなのか?タイロンは大国だろ?

「はあ、あのね島野君」
こんこんと経済についての説明を受ける羽目になった。
転移扉による流通革命は俺が考える以上に、経済に与えるインパクトが大きいとのことだった。
使用者が神様に限定されるから、そこまででも無いかと気楽に考えていたが、どうやらそうでもないらしい。
基本的に神様は慈悲深い為、頼まれたことをなかなか断れないようだ。特に自分が管理している街の者達の申し入れとなると、尚更みたいだ。

それと、この島にあまりにお金が集まることが問題らしく、経済として健康的な状態では無いとのことだった。
これについては俺も危惧していた点でもある、そういった面もある為、給料などを高めにしたかったんだが・・・
なかなか上手くいかないな。

問題点は、このサウナ島は輸入に頼ることが無いのが大きく、逆に輸出が多いということが原因なのだが、なかなかこの問題の解消は難しいのが現状だ。
使わなくていい所にお金を掛けるのは、性に合わないし、無駄使いはしたくない。
俺は貧乏性なのだろうか?
まあそんなこんなでエンゾさんから、きついお灸を据えられてしまった。

「それで、タイロンには転移扉は設置してくれないの?」

「はあ、やっぱり要りますか?」

「ええ、居るに決まってますわ!」
エンゾさん、そんなに凄まないでくださいよ・・・
出来ればタイロンには設置したくないんだよな・・・

「島野君、そんなにタイロンがお嫌いなの?」

「いえ、そういう訳じゃあ・・・」

「何が気になるのよ?」

「それが・・・何が気になるのか分からないから困ってるんですよ」

「はあ?何それ、禅問答じゃあるまいし」
禅問答ってこの世界にそんな言葉があっていいのか?
あっ!どうせ五郎さんから聞いたんだろうな。

「まあ、設置してもいいですけど、エンゾさんがちゃんと管理してくださいよ、それと王様とか連れてこないでくださいね」

「島野君、あなた聞くところによると、メッサーラの賢者や、メルラドの魔王とも懇意にしてるって聞いてるわよ、何でタイロンは駄目なのよ!」
それは確かにそうなんだけど・・・変なことに巻き込まれるに決まってるからじゃないですか?ってエンゾさんに言っても理解してくれないんだろうな・・・

「いや大国の王様ともなると気が引けるというか、なんというか・・・」

「まあ、何となく言いたいことは分かるけど、挨拶ぐらい受けて頂戴ね。嫌われてるんじゃないかと言ってたわよ」
あらー、これは詰んだのか?
逆に悪い印象になってしまってるじゃないか・・・大国には睨まれたくないんだが・・・

「いい加減勘弁なさい!」

「・・・分かりました・・・でもせめて落ち着いてからにしてくださいね」

「それは考慮しますわ、見る限り忙しいのは私でも分かるわよ、こんな時に国賓は迎えたくないでしょうからね」

「恩にきます」

「でも、スーパー銭湯に迎賓館ってよくそんなこと思い付くわね」

「はあ、そういう性分なんで・・・」

「後でお風呂とサウナは入らせて貰いますからね、五郎からどれだけ自慢されたことか、もう!」
そんなことで怒らないでくださいよ。

「分かりました、堪能していってください」
俺は結局タイロン用に転移扉を造る羽目になった。
もうどうにでもなれだ。
ここは開き直ろう・・・うんそうしよう・・・はあ



晩御飯を食べていると、ゴンから手紙を手渡された。
ルイ君からの直筆の手紙だ。

「ルイ君からです、絶対に渡してくれと懇願されました」

「はあ?懇願された?」

「はい、ルイ君は仕事詰めで、相当参っている様子でした」

「そうなのか?まあ当分の間は収まらんだろうな」
手紙を開けてみた。
そこにはお願いだから、サウナ島に行かせて欲しいということと、流浪の神様がメッサーラにやって来たから、会ってみて欲しいという内容だった。
流浪の神様か・・・どんな神様だろう・・・これは会わない理由はないな、ついでにルイ君にもリフレッシュして貰うか。たまには息抜きも必要だからな。



翌日ギルを連れて、ルイ君の所に向かった。
メッサーラは活気に溢れていた。
国として大きく変わってきているのを肌で感じる。
街には笑い声が溢れ、喧騒に満ちていた。

それにしても、ルイ君に会うのも久しぶりのような気がするが、どれぐらいぶりだろうか?
既に俺とギルも顔パスになっている為、ルイ君の執務室までノンストレスで向かうことができた。

コンコン!

「どうぞ」
弱々しい声が返ってきた。
随分お疲れのご様子。

「ルイ君、ご無沙汰だな」

「島野さん!ああ、やっと来てくれた!待ちに待ってましたよ」
ルイ君が駆け寄ってきた。
無理やり握手をさせられた。
おいおい、大丈夫か?

「おお、元気そうじゃ・・・なさそうだな・・・」

「はい・・・公務に追われて・・・」
ルイ君は肩を落としていた。

「まあこれでも飲んで元気を出してくれ」
『収納』から体力回復薬を手渡した。

「ありがとうございます・・・」
と言うと、一気に飲み干した。
あれまあ・・・豪快だこと。

「ああ、少し元気になりました。ありがとうございます」
落ち着きを取り戻したルイ君。

「それで、流浪の神様は何処にいるんだ?」

「今は何処いるのか・・・ちょっと待ってて貰えますか?」
ルイ君は警備兵に指示を出すと、警備兵は立ち去って行った。
神様を呼んで来てくれるのだろう。

ルイ君は戻ってくると、激務となっている現状について話し出した。
聞く限りではそうとう忙しいのは分かるが、前のルイ君とは違って責任感を負い過ぎている様に感じる。自分一人で抱え込んでしまっている様子だ。
さて、どうしたものか。

「ルイ君、ちょっといいか?」

「はい、どうしましたか?」

「ルイ君ちょっと抱え過ぎじゃないのか?」

「抱え過ぎですか?」

「ああ、そうだ。国家元首である自覚に目覚めて、責任感を持ったことはメッサーラの国民にとって、とても喜ばしいことだ」

「はい」

「でも、匙加減を間違ってないか?」

「それはどういうことでしょうか?」

「例えば、一日の『魔力回復薬』の販売数をルイ君が把握する必要なんてないんだよ。導入当初は必要なことだが、既に通常運転となっている今では、その必要は一切ないんだ。それを把握しておくことを仕事にするのはオットさんで、ルイ君では無い」

「ならば僕はどうしろと?」

「簡単なことだよ、時々報告を貰って、問題がある時だけ声を掛けて貰えばいいんだよ。国として判断するのかどうかを求められている時に、方向性を考え、判断を下すのが君の仕事なんだよ」
ルイ君は俯いてしまった。

「僕は間違っていたということでしょうか?」

「いや、それは違う、必要なことだったと思うぞ、大臣達やその他の官僚達が行っている仕事はこれで把握出来たんじゃないのか?」

「はい、それはもう充分に」

「それでいいんだよ。その経験が重要だったんだ。だから君は、大臣達から相談された時に的確な判断が出来る様になる」

「なるほど」
ルイ君の目に力が戻り出した。

「ここからは、もう下積みは終わりということだよ」

「そ、そうですね」

「但し、任せっぱなしは良くないから、時々状況は確認するようにしたらどうかな?メッサーラは優秀な人材に溢れているからな」

「そうですね」

「昔のルイ君は何も分からずに任せていたと思うが、今は違う、分かった上で任せるんだ、この差は大きい」

「ありがとございます、そうさせて頂きます」
ルイ君はやっと笑顔になった。
手の掛かる国家元首なこと。
やれやれだ。

コンコン!
ドアがノックされた。

「どうぞ!」
ルイ君が答える。

扉を開けると猛スピードで人が突っ込んできた。
俺達の前で急ブレーキをかけると、俺に向かって、
「あなたが噂の島野ちゃんね」
舐め回すように俺を見ていた。
実際、舌なめずりをしている。

「ウー!エクセレント!その顔良し、その佇まい良し。エクセレント!」
と叫んでいる。

なんなんだこの人は・・・
今度はギルを舐め回すように見た。

「エクセレント!僕も良いわね。エクセレント!」
とまた叫んでいる。

とんでも無いインパクトの人だな。
どこからどう見てもそっちの人だ。
ど派手なピンクのスーツを着込んでおり、内股に立つ立ち姿。
ギラギラの視線に、青髭が生えている。
とんでも無いのが出て来たな・・・勢いと癖が凄い。
どんだけーとか言い出しそう。

「ちょっと、神様落ち着いてください」
ルイ君が制止する。

「あらルイちゃん、あなたもエクセレントよ、ウフ!」
会話になっていない。

「あの・・・島野さん・・・お気づきかと思いますが、神様です・・・」

「ああ・・・ちょと面食らってる・・・」

「あら、島野ちゃんどういうことよ」
体をくねくねしている。
いや、あんたのインパクトが凄いんですって。
だめだ、こんなんでも相手は神様だ、気を取り直そう。
俺は立ち上がった。

「始めまして島野守です」
と言って、右手を差し出した。

「あら、こちらも始めましてよね、私は『芸術の神』マリアよ」
嘘だ、絶対嘘だ、そんな名前な訳がない。

マリア様は差し出した右手を両手で握り返し、手の甲を擦っていた。
今直ぐ右手を払いたい・・・うう・・・

「マリア様は『芸術の神様』なんですね」
と言いつつ、タイミングを外して右手を引っ込めた。
セーフ、これなら失礼は無いはずだ。

「あらっ、上手くいなされたわね」
ぎらついた視線で見つめられた。

「あと、マリア様は止めて、マリアでいいわマリアで、さんとかも無しよ、ちゃんなら許してあげます」
と勝手な二択を迫られた。
理不尽過ぎる。

「うう、残酷な二択ですね・・・」

「ウフ!」
肩を狭めてポーズを取っていた。
ああ・・・疲れる・・・

「マリア様、ちょっといいでしょうか?」

「ルイちゃん、様は止めてと言ってるでしょうに」
ルイ君を睨んでいる。

「そうはいきません、神様相手に様を付け無いなんて僕にはできませんよ、いい加減分かってくださいよ」
おお!ルイ君が強気に出ている。ルイ君はこういうタイプには強いのか?

「もう、ルイちゃんったら、いけずねー」

「あのマリア・・・さん・・・」

「もう島野ちゃんも、駄目よ」

「駄目じゃありません、敬意を払っているんです、理解してください」
俺も強気に出て見た。援軍現るだ。

「もうー」
マリアさんは体をもじもじとさせていた。

「話をさせてください、流浪の神様ということを聞いてますが、どういうことでしょうか?」

「それはね、私は国々を渡って、芸術を広める活動をしているのよ」
芸術?ゲイ術?止めておこう。

「芸術とは具体的にはどんな物ですか?」

「それは色々よ、絵画、彫像、文学、有りとあらゆる物が芸術よ」

「ちなみに音楽は芸術の範疇には、ならないのですか?」

「音楽も芸術の範疇だけど、そこはオリビアの土俵ね」

「オリビアさんをご存じなんですか?」

「オリビアは私のマブよマブ」
マブ達ってことね。

「オリビアさんはしょっちゅう俺達のサウナ島に来てますよ」

「そうなの?久しぶりに会いたいわね、オリビア」

「でしたら、さっそく行きましょう」

「えっ!今直ぐに?」

「はい、今直ぐにです」
このままここに居たらペースを乱される。ここはサウナ島に行って、リセットしよう。

「ほら、ルイ君も行くぞ、さあ早く!」
と言って急かした。

「ちょっと待ってください、せめて一声かけさせてください」
警備兵に声を掛けに行った。

「さあ、ギルも行くぞ」
ギルは呆気に取られていた。

「島野ちゃんなになに?」
と嬉しげにマリアさんは騒いでいる。

ルイ君が戻ってきた。
問答無用で転移した。

ヒュン!



サウナ島に帰ってきた。

「ワオ!」
両手を頬に当てて驚いているマリアさん。
ドタバタはこれで一段落か・・・

「あっ!島野さんお帰りなさい、げえ!」
作業中のランドール様がこちらを見て言った。

「なんでマリアが・・・」
ランドール様が後ずさりしている。

「あら、ランドール・・・」
獲物を捕らえた獣のごとく、マリアさんの目が光った。
全速力で走り出したランドール様、それを追いかけるマリアさん。
何だこれ?

「島野さん!なんでマリアがここにいるんですかー!」
本気で走りながら絶望の声を上げるランドール様。
それをとても人とは思えない動きで追うマリアさん。
うーん、知り合いだったか・・・しめしめ・・・ランドール様、あなたは生贄となりました。ご容赦ください。
よし、切り替えよう。

「ルイ君、今のサウナ島の状況は何処まで聞いているんだ?」

「ええ、あれはほっといてもいいのでしょうか?」

「ああ、いいんだ。切り替えよう」

「そ、そうですね・・・」

「で、ゴンから聞いてるんだろ?」

「はい、このサウナ島を転移扉で繋いで、神様が集まる施設を造ると聞いています」

「なんかざっくりだな、ひとまず風呂とサウナに入ろうか?」

「やった!この時を待ちわびてましたよ!」

「お!ルイ君も立派なサウナジャンキーだな」

「サウナジャンキーですか?」

「ああ、誉め言葉だ、気にしないでくれ」

「そうなんですね」

「じゃあ行こうか?」

「お願いします!」

「ギルはどうする?」

「後で行くよ・・・」

「大丈夫か?」

「いや・・・ちょっと時間が必要だよ・・・」
ギルには刺激が強かったようだ・・・世界にはいろいろな人がいることを学ぶには、早すぎたか?



「ああー、島野さんこの温泉に入りたかったんですよ・・・ああ・・・気持ちいい・・・」
ルイ君は温泉を味わっているようだ。

「それでだ、マリアさんはメッサーラにはどれぐらい滞在する予定なんだ?」

「ちゃんと話し合ってはいませんが、多分それなりに長い期間滞在してくれるとは思いますよ、この国には芸術を広めなければいけないわ、と鼻息荒く仰ってましたので」

「そうなのか・・・じゃあメッサーラにも転移扉を設置した方がいいのか?」

「是非お願いします!」

「いいが、神様じゃないと開けない扉だが、大丈夫なのか?」

「はい、そこは何とか頑張ります!」

「ならいいが、しかし凄いインパクトの神様だな」

「ええ、でも大丈夫です。最近は扱いに慣れてきてますので・・・」
おお!ルイ君はそっち系には強いのか?
意外な特技だな。

「じゃあ準備しておくよ」

「それで、ちゃんと話を聞きたいんですが、島野さんの構想はどうなっているんですか?ゴンちゃんからは聞いてはいますが、何とも説明が分かりずらくて・・・」

「ああ、そうなのか・・・何となくそんな気がしてたよ」

「すいません・・・」

「ルイ君が謝ることでも無いだろう、まずは俺が訪れた街や国、村に転移扉を設置するつもりだ」

「はい」

「それを利用して、このサウナ島にネットワークを構築する。そこでは、様々な文化交流や、商談などが行われ、又、流通の革命を起こす中心地を、このサウナ島が担うことになるんだ」

「なるほど、その活動の中心はあくまで神様達ということですね」

「ああそうだ、神様が連れてきて良いと思える者しかこの島には来ることが出来ない、逆を言えば、神様のお眼鏡にかなった者にしか、このサウナ島に来ることは出来ない」

「ということは、安全性は抜群ですね」

「そうなるな、でも神様も万能ではないから、細心の注意は払うつもりだ」

「なるほど、今の僕ならこの構想の可能性が良く分かります。島野さんは大きく世界を変えるつもりなんですね」

「まあ、そこまでのつもりはないんだが、そうなるだろうな」

「何と無くそうしてしまう、ってことなんでしょうが、島野さんで無いとできないことですね」

「どうかな、俺と同じ能力を持った者なら出来ることだと思うぞ。それにもっと上手な使い方もあるかもしれないしな」

「もっと上手な使い方ですか?」

「ああ、俺の発想に無いだけであって、ほかにも可能性はあるかもしれないしな」

「でもまずはここから変えていくということですね」

「ああ、そうだな」
その後、ランドール様が灰色になって帰ってきた。マリアさんに引きずられて・・・
何があったのかな?知らぬが仏だな。



転移扉を適当に渡す訳にはいかないので、マリアさんともちゃんと話をしなければならない。
まずは一番気になる、神気の件からだ。

「マリアさん、お話しいいですか?」

「ええ、いいわよ」

「真面目な話なんですが、まず、神気が薄くなっていることはご存じですか?」
マリアさんは急に表情を改めた。

「ええ、島野ちゃん、あなたは本当に人の身で神力を持っているようね、まあさっきの転移で、もう分かってはいたけど」

「はい、俺は人間ですが、神気を扱うことができます」

「それは分かったけど、この世界の神気が薄くなってることはどうして知ってるの?」
やはりというか、勘がするどいな『黄金の整い』を持ち出す訳にはいかないよな。

「実は、この島に創造神様が来たことがあるんですよ」
マリアさんの口があんぐりと開かれた。

「はあ?嘘でしょ・・・」

「本当です、その時にこの世界の神気が薄くなっていると話してくれたんです」

「そういうことなのね・・・あなたどこまで把握しているのよ?っていうか創造神様が来たってどういうことよ?」

「創造神様が島にやって来たことは置いといて。俺が神気不足の件で分かっていることは、百年前に何かがあり、この世界の神気がだんだんと薄くなっていったということ、それを解消する為に、俺は世界樹を復活させたこと、創造神様の石像を使って、神気不足を補っているってことです」

「もしかしてあのお地蔵さんを造ったのって・・・島野ちゃんなの?」

「はい、そうです」
マリアさんが鼻息を荒くしている。
マリアさん怖いんですけど・・・

「エクセレントよ!島野ちゃん!」
マリアさんが大声で叫んだ。
煩さ!

「メッサーラで見た時には感動で打ち震えたわよ、芸術が爆上げよ!」
爆上げって・・・何それ。

「お褒めいただきありがとうございます。話を戻しましょう、俺が聞きたいのは神気が薄くなっている原因を、マリアさんは知っているのか?ということです」
真面目な表情に戻ったマリアさんは答えた。

「私には原因が何なのかは分からないわ・・・でも、百年前にはちょうど北半球で大きな戦争があったのも事実なのよ。それが何か関係してるのかもしれないわね」
そうなるのか・・・

「あと、この世界に神気を増やす方法って、他に何か無いんでしょうか?」

「分からないわ、よくこれまで世界樹を復活させたり、お地蔵さんを広めてくれたわね。島野ちゃんには本当に感謝してもしきれないわ。島野ちゃんありがとう」
マリアさんは頭を下げた。
急に真面目に頭を下げられると正直照れるな、てかこの人の変わり身の早さが尋常ではないんだが・・・

「止めてください。これは俺にとっても大事なことなので気にしないでください」

「あら、何で大事な事になるの?」

「ギルですよ」

「ギルちゃんがどうしたのよ?」

「人化してるから、分からなかったかもしれませんが、ギルはドラゴンなんですよ」

「えっ!ウッソ!」
と急に低い声で言った。
地声出てんじゃん・・・

「本当ですよ」

「マジで!もしかしてエリスの息子なの?」
またエリスか・・・このエリスさんは、今どこで何をやってるんだろうか?

「ドラゴンのエリスですか?」

「ええ、そうよ」
まだ地声のままだ。

「ギルがそのエリスさんの息子かどうかは知りませんが、ギルがドラゴンであることに間違いはありませんし、俺の息子です」

「はい?島野ちゃん、あんた揶揄ってるの?人間がドラゴンの親になるなんて非常識でしょうが」

「非常識と言われましても、事実なんですよ。俺が神気を使って卵から孵化させたんですから」
マリアさんは手をおでこに置いていた。

「そうだった、島野ちゃんは使えたんだったわね・・・」

「あの、ところでそのエリスさんのことは、どれだけ知ってるんですか?」
マリアさんはじっと俺の目を見据えている。

「オリビアからは、何か聞いてるかしら?」
オリビアさんからは何も聞いてはいないが・・・

「いえ、特には・・・」

「じゃあ私からは、何も言うことは無いわね」
どういうことだ?
そもそもオリビアさんは、ギルがドラゴンであることは当然知っている。
でもオリビアさんからは、ドラゴンのエリスの話は聞いたことは無い。
マリアさんはオリビアさんが言っていないのならば、話はしないと・・・
オリビアさんに聞いた方がいいんだろうか?
けどマリアさんの視線からは、オリビアには聞いてくれるなという意思を感じる。

「分かりました、俺からオリビアさんに聞くことは止めておきます」

「はあ、島野ちゃんに理解があって助かったわ。よろしくお願いね」

「はい、それで話は変わりますが、メッサーラにはどれぐらい滞在する予定なんですか?」

「そうねえ、とくに決めてはないけど、まだメッサーラでは芸術活動は出来てないから、まだまだルイちゃんのお世話になろうとは思っているわよ」
ルイ君のお世話って、どういう関係なんだ?

「あら、ルイちゃんとの関係が気になるの?」

「まあ、ええ」

「ルイちゃんからは、メッサーラでの芸術活動の支援を約束して貰ったのよ。住む家も与えてくれたしね」
へえー、ルイ君も懐が深くなったもんだな。関心関心。

「それはよかったですね。では、ちょっと預けたい物があるんですが」
と言って『収納』から転移扉を取り出した。

「これは転移扉です」

「転移扉?」

「はい、さっきの俺の転移の能力を付与した扉です。この扉を開くとこのサウナ島の転移扉に繋がってますので、いつでもこのサウナ島に訪れることができます」
マリアさんが目を見開いている。

「島野ちゃん・・・あんた・・・なんて物造ってくれちゃったのよ・・・」
あれ?想像してた反応と違うな・・・
マリアさんがうっとりとしている。

「これがあれば・・・いつでもランドールを可愛がってあげれるわね・・・ムフフ!」
ああ、ランドール様ごめんなさい!俺のせいじゃない、いや俺のせいか・・・まあエロ神様にはちょうどいいか。

「お手柔らかにお願いします・・・ハハハ」
マリアさんは急に表情を変えた。

「でもこれって、恐ろしい物ね・・・繋げ先は間違えちゃ駄目よ。島野ちゃん!」

「えっ!」
マリアさんの目を見る限り、冗談でないのは分かる。

「わ、分かりました」

「約束よ!」

「ええ、分かりましたって」
この世界は神様が顕現している世界なんだろ?そんな繋げちゃいけない場所なんてあるのか?
まあいいか。



その後、風呂と飯という流れになり、女性用の脱衣所に平然と入ろうとするマリアさんを現行犯逮捕した。
晩御飯時には、マリアさんは、終始ランドール様を愛でておりランドール様は半失神状態になっていた。

マリアさんは飯を食べるたびに
「この御飯エクセレント!」
と叫んでいた。
いい加減煩い。

今日もやって来たオリビアさんと、旧交を深めていたマリアさんの隙を見て、ランドール様は大工の街に猛ダッシュで逃げていった。
おいおい、大工の面々を置いて行くなよ。
オリビアさんも俺の方を気にかけているのは分かっていたが、俺はあえて気づかない振りをした。

たぶんドラゴンのエリスの話は、重い話だと思う。
そうでなければ、マリアさんがああいう対応をするとは思えない。
今日のこの雰囲気では、そういう話をするべきでは無いと思ったからだ。
話を聞くにしても、俺一人で聞くべきことなんだろうか?ギルを同席させるべきなんだろうか?
こればっかりはオリビアさんに任せるしかない。
今は来たるべき時を待とうと思う。



翌日にはコロンの街を訪れた。
ドラン様に会い、転移扉を渡すためだ。
ドラン様とは久しぶりに会う事になるが、会ってみると相変わらずのカールおじさん感全開だった。
転移扉の設置の件を話し、これからの展望について話をすると。

「いつか島野君なら、画期的なことをすると思っていたよ、ハハハ!」
と褒められているのかどうか、分からないことを言われた。
ドラン様はこれでいて、したたかな一面のある神様だから、腹の底ではどう考えているのかはいまいち掴めないところがある。

いずれにしても、コロンの街にとっては助かることだと、お礼を言われた。
俺は本格稼働は、施設の完了後にして欲しいことを伝え、ドラン様の元を去った。
その後、リズさんの教会に訪れると、アグネスが居たので、今後はドラン様に言えば、転移扉を使わせて貰えると教えたことろ、目を輝かせていた。
今後は半日かけてサウナ島まで飛んでくる必要がなくなると、喜んでいた。

その後、また調子に乗って偉そうにしたので、
「お前には転移扉は使わせない」
といったら土下座されたので、許してやった。

アグネスはどこまでいってもアグネスだった。
リズさんにはジャイアントラットの肉を三体ほど寄付して、コロンの街を後にした。



更に翌日、
養蜂の村カナンに訪れている。
レイモンド様に転移扉を渡す為だ。
レイモンド様も相変わらずデカいプーさんだった。

よくよく考えて見ると、レイモンド様とは一番コミュニケーションが薄いかもしれない。
会うのも一年ぶりだ。
俺のことを覚えているだろうかと、不安になったが。
会ってみると、ちゃんと覚えていてくれた。
そんなレイモンド様の第一声は

「君ー凄い強いー人だったよねー」
だった。
相変わらず間延びした話し方は健在だ。
釣られて俺も思わずゆっくりと話をしていることに途中で気づいたが、楽しくなってきてしまったので、スローペースの会話を楽しんだ。
転移扉の話をした時は、

「君はー神様なんだねー」
と言っていた。

「違いますよ。俺は人間ですよ」
訂正したが、その後も

「君はー神様だよー」
と何度も言われてしまい。
俺はめんどくさくなって、否定しないことにした。
気が付くと会話がスローペースなせいか、一通りの話をするのに、二時間近く掛かっていた。
ハチミツを大量に購入して、カナンの村を後にした。

ハチミツは消費期限が長いから、重宝するし、料理の隠し味としても使っているからいい買い物をしたと思う。
レイモンド様からは
「そんなに買ってもーいいのー、あーりーがーとー」
と言われてしまった。
全然構いませんよ。



メルラドでの社員募集はとんでも無い倍率となる応募人数となった。
その数なんと二千十三人、今回雇う予定の人数はおそよ百名、採用倍率二十倍という結果にメルラドでの人気が伺えた。
全ての面接を終えるのに一週間を要した。

面接官は俺と、メルル、マークとランドで行った。
余りの応募人数の為、十人ワンセットの面接を行うことにした。
雑な面接になってしまったのは申し訳ないが、こうしないとスケジュールをこなすことが出来ない。
まあとは言ってもちゃんと採用に関する打ち合わせは、面接官の間でも何度も行って決めた。

ありがたかったのは、ジョシュア達船員の面々が応募してくれたことだった。
当然採用したのだが、ジョシュアに大型船の方は大丈夫なのかと聞いた所、船長から今回の応募に募集するように言われたのだということだった。

「一度の人生好きな事を思いっきりやれ!」
と送り出してくれたらしい。
船長の粋な計らいに感謝だ。



建設途中ではあるが、連日神様達はサウナ島を訪れていた。

五郎さんは三日に一度のペース。
ゴンガス様は週に二度のペース。
ランドール様は建設の為、ほぼ週五だが、マリアさんが現れる前は毎日だった・・・
申し訳ないとは思う。

オリビアさんはほぼ毎日。
マリアさんは週に二度程度。
味を占めたエンゾさんは、二日に一度は来ている。
以外にゴンズ様は週に一度程度だが、毎回大所帯で現れる。
漁師を大量に連れてくるから大賑わいになる。
でもゴンズ様は決まって何かしらの魚介類を手土産に持ってきてくれるから、大変助かっている。
案外常識的な一面を持つゴンズ様だった。
ドラン様は週一ぐらい。
レイモンド様も週一程度だった。
本格稼働してからだって言ったような気がするが・・・

以外だったのは、レイモンド様が始めてサウナ島に来た時に、カナンのハチミツをサウナ島で販売させて欲しい、と申し入れがあったことだった。
俺はてっきりそんなことを言い出すのは、ドラン様だと思っていたが、ドラン様よりも前にレイモンド様が商売人根性を発揮していた。
カナンのハチミツは本当に美味しい、もしかしたら日本のハチミツよりも美味しいんじゃないかと思う。
当然快く快諾した。

それを見ていた、ドラン様が俺もと追随したのは記しておこう。
風呂明けの牛乳は定番だから、そもそも考えていたことなのでこれも快諾した。
それに、チーズもたくさん使用したいから、仕入れとしても話を進めている。

それにしても、神様達のコミュニケーション能力の高さには驚かされた。
気が付くとほとんどの神様達が親しくなり、あーだこーだと親交を深めていた。
それに神様達は、俺が思う以上に娯楽に飢えていたようだ。
全ての神様が我先にと風呂やサウナを楽しんでいた。

遊技場にも顔を出す神様は多く、ドラン様はロンメルを見かけるとビリヤードに誘う様になっていた。
遊技場だが、たまに賭場に変わってしまうことがある。
五郎さんの要望で花札を何セットか作ってみたら、五郎さん主催の賭場がいつの間にか経ち上がっていた。
こういう側面も悪くは無いだろうと、俺は黙認した。
五郎さんからは更にサイコロも作ってくれと言われた。
丁半博打が始まることは間違いないだろう。
どうせ同元の五郎さんの一人勝ちになるだろう。
問題にならない限り、俺は関わらないことにすると決意した。

そんな遊技場に、なんちゃって卓球が誕生した。
何故になんちゃってなのかというと、玉がゴム製だからだ。
プラスチック製品を持ち込まないと決めた俺が、生み出した苦肉の策だ。
とは言ってもスーパーボウルの様な、よく跳ねる物では無く。
小さなゴム毬の様な玉だ。
だから思いの外、弾まない。
それに結構変則的な動きをする。
これにたくさんの者達が食い付いた。
卓球は一大ブームを迎えていた。

更に俺が適当に作った人生ゲームが何故か受けた。
出来事が適当な上に、雑な造りなのになぜか受けた。
理由は分からない。

そして、いつの間にかランドがどこで手を回したのか、バスケットボールチームが四チームも出来ていた。
交流戦はかなり盛り上がり、これは一時的なブームでは済まないぐらい活気に包まれていた。
これはバッシュを大量に作る必要があるのか?

スーパー銭湯オープンに向けて、サウナ島は盛り上がっていた。