『魔力回復薬』販売開始から、一ヶ月近くが経っていた。

サウナ島の皆も、やっと落ちつきを取り戻したようだ。
結局どれだけ稼げたのか、俺は怖いので利益計算をしていない。
ひとまず皆の給料は倍になると伝えた所、宴会が始まった。
レケはそれを聞いた途端、日本酒用にと、米を大量に買っていた。
どれだけ飲む気なんだこいつは・・・

前にレケが作った日本酒を飲ませて貰ったがとても美味しかった。
辛口でピリッとした飲みごたえで、少々アルコール度数が高い気がしたが、それはそれでいいように思えた。
五郎さんの所の日本酒に近いかな?

あと、リンちゃんが俺の期待に応え、テリー少年達を纏め上げ、見事にコントロールしていた。
テリー少年達はリンちゃんを姉御と呼び、何故かゴンがそれを羨ましそうにしていた。
なんで羨ましいのかな?
当のリンちゃんは姉御と呼ばれることに、抵抗があるようだが、敢えてそれを口にしてはいないようだ。
今の関係性を崩したく無いのだろう。

マークとランドは神社の建設に取り掛かり、腕の見せ所だと意気込んでいる。
神社建設の話をした時の、メタンは凄かった。
たまたまメタンが休日ということもあり、メタンは半日近く涙を流しながら、創造神様の石像に祈りを捧げていた。
神気が濛々と発散されている様は、恐怖すら覚えるものがあった。
メタン・・・怖いよ・・・

ゴンはリンちゃんが納品にメッサーラに行く時に、付いていくことが多く、ルイ君の所にもよく顔を出しているようで、友人関係は引き続き継続中とのこと。
ルイ君からは暇が出来たら、サウナ島に行かせてくれと、わざわざ手紙まで書いて寄越してくれた。
いつでも来てくれたらいいのだが、今のルイ君を見る限り、当分の間は休暇を取得することは無理だろう。
メッサーラは国として確実に変化してきている。
まだまだ学校の建設等、問題は山積みだ。
頑張れルイ君!

ギルは相変わらず休日はリズさんの所に行っており、たまにテリー少年達も里帰りしている様子。
ギル先生は孤児院の人気者らしい。

メルルは前回のメッサーラのお手伝いで、昔お世話になった教会に、久しぶりに里帰りができたようだ。
故郷に錦を飾れたと嬉しそうにしていた。
それに誇らしくもしていた。

アイリスさんは、人員が増えたことと、ゴンガス様からのトウモロコシの発注で、畑を拡張できたことに喜んでいた。
アイリスさんは畑に全てを捧げていると言っても、過言では無いだろう。
ありがとうございます。大変助かってます。

さて、ひと段落着いたら、能力の開発を行おうと考えていた俺は、何の能力開発を行おうかと考えている。

前回のメッサーラの件で思ったのは、俺に『複写』と『複製』の能力があったら、ことはもっと楽に進んだのではないかということ。
なのでまずは『複写』の能力を取得しようと思う。
要はコピー能力を得ようということだ。

日本の我が家に帰り、インターネットでコピーの原理を調べてみたが、俺が理解できたのは、静電気が関係していることと、レーザー光が必要ということだった。
静電気はまだしも、レーザー光が出て来た段階で断念した。

発想を変えて、独自の開発方法に取り掛かった。
そこで考えたのは、昔ながらの印刷方法だった。
わかり易く言えば、芋版だ。
小学生の時に作った思い出がある。
同じ形の形状に印刷が出来る、至ってシンプルな方法。

目の前に紙を用意し、サウナとカタカナで書いてみた。
それを頭の中で、芋版をイメージし、何枚も印刷するところをイメージしてみた。
そして、そこに神気を流してみる。

駄目だった。

余りにイメージが単純すぎたんだろう。
次にイメージしたのは、活版印刷だった。
石に逆絵を書き、次々に印刷を行うイメージを重ねて行った。

ピンピロリーン!

「熟練度が一定に達しました。ステータスをご確認ください」

いつものアナウンスが流れた。
俺は『複写』の能力を手にしていた。

後は、これの熟練度を上げて行けば『複製』が手に入るだろうと考えている。

この後、ことある事に『複写』を使用してみた。
ギルが孤児院で使う、読み書き計算の教材を複写し、メッサーラでの『魔力回復薬』の使用上の注意書きを作り、それを『複写』しまくった。
残念ながらまだ『複製』には届いていない。

まあ、引き続き熟練度を上げていこうと考えている。
だがよく考えてみれば『複製』と『複写』は大きく違う。
『複写』は目の前にある物に、転写することだが『複製』は物質その物を造る作業だ、大きく違うことに間違いはない。
一先ずは『複写』を手にできただけでもよしと思うことにしよう。
『複製』はまだまだ先のようだ。
焦らずゆっくりとやっていこう。



続けて今度は実験的に半ばあきらめていた、シャンプーの作成に着手した。
現在では、日本の物を使用しているのだが、出来れば島の物で作りたいと思うようになった。
今では歯ブラシも島の物で作っている。
柄の部分は木を使用し、毛の部分にはゴムを使用している。
最初は感触に不慣れだったが、今となっては、こちらの方が綺麗になっているとすら感じている。

話を戻すが、髪を洗うのに、石鹸では髪がごわついてしまう。
シャンプーの作成に、能力の『合成』を使って出来ないかと試案している。
そう考えたのは『合成』は、界面活性剤の代わりになるのではないかと思ったからだ。

まずは簡単なところから始めることにした。
今ある石鹸を粉状にし、お湯に溶かす、それに臭い付けとして、粉状にしたハーブを加える。
実験はノンに協力してもらうことにした。
獣型になって貰い、尻尾を洗わせてもらうことにした。
試作一号シャンプーで洗ってみる。

「ノン、どんな感じだ?」

「うーん、いつもの石鹸に匂いがついただけで、日本の主が使ってくれてた、シャンプーほど気持ちよくは無いよ」
そりゃあそうだろう。
薄めたハーブ石鹸だからな。

「そうか、試作二号ができたら、またお願いするよ」

「分かった」
次の段階としては、油分を加えることだ、問題はどの油を使うかということ。

菜種油や、胡麻油は違うと思う、化粧品として使われているのは、椿油やホホバ油だったと思う。
他にもオリーブオイルや、ココナッツオイルなんかもあったと思う。
今はオリーブオイル以外の油は無いので、栽培から始めて見ようと思う。

さっそく畑の一部を拡張し、ココナッツ、椿、ホホバの栽培を始めた。
神気を送り込めば成長が早い為、強めに神気を流してみる。
流石に当日に収穫とはいかず、収穫までに五日掛かった。

これで四種類の油分を手にすることができた。
後は配合などをどうしていくのか?
まずはオリーブオイルを、試作一号に『合成』で混ぜ合わせる。
試作一号に比べて、粘り気が加わっている。
日本のシャンプーとまでは行かないが、方向性としては間違ってないだろう。

ノンで試してみる。

「前のよりはいいけど、物足りないよ、主」

「そうか、どんな感じで物足りないんだ?」

「うーん、上手く言えないけど、もう少し油分があってもいいかも」

「油分か、乾いた時にベトベトしたりしないかな?」

「乾かしてみて」
とうことで、自然操作の風で乾かしてみた。

「どうだ?」

「やっぱりもう少し油分が欲しいよ」

「分かった」

ここから試行錯誤を経て、遂に納得が出来るシャンプーが完成した。
よかった、よかった。
油分として採用したのは、椿油とホホバオイルをミックスした物と、ココナッツオイルを使用した物。
試作一号に椿油とホホバオイルをミックスし、ハーブの分量を倍にした。
匂いも良くノンもこれらないいと、太鼓判を押した。

試作一号とココナッツオイルを混ぜた方は、とても南国感があった。ハーブの量は変えていない。
最終的にこの二種類にした。
あとは好みが分かれるところで、男性陣はどちらでもいいようだったが、女性陣は椿とホホバの方が好みのようだ。
今度五郎さんの所にでも持っていこうと考えている。
絶対食いつくのは分かっている。
また儲けてしまうな・・・



一つ思い出したことがある。
鍛冶の神ゴンガス様が『魔力回復薬』の件が一段落ついたら、来て欲しいと言われていたなと。
トウモロコシの納品がてら、ゴンガス様のところにやってきた。

受付のメリアンさんだ。

「今日も納品ですか?」

「ええそうです、あとゴンガス様から一段落ついたら、顔を出してくれと言われてまして」

「そうですか、今日もワインをお願い出来るかしら?」

「ええいいですよ、何本ですか?」

「そうね三本貰うわ」
と言って指を三本立てていた。

「まいどあり、銀貨九十枚です」
『収納』からワインを取り出して。お金と交換した。
この人も本当にお酒が好きなんだな、ほどほどにしてくださいよ。

「ちょと待っててくださいね」
メリアンさんが、ゴンガス様を呼びに行ってくれたようだ。
ゴンガス様が現れた。

「おお、お前さん、トウモロコシありがとな助かっておるぞ」

「いえいえ、それで前に一段落したら顔を出すように言われてましたが、そろそろ大丈夫ですが」

「そうか、じゃあ早速だが、工房に来て貰えるかの」

「ええ、分かりました」
前にも一度訪れた工房、綺麗に清掃が行き届いている。
少し焼けた匂いがするが、これが工房なんだろう。

「前にお前さんは、自分で瓶を造ったと言っておったな」

「はい、そうです」

「それを見せてはくれんかな?」

「ええ、いいですよ」
ゴンガス様が材料を用意してくれた。
俺は『合成』の能力で瓶を作製した。

「おおお!」
ゴンガス様が興奮している。

「お前さん!何をやった?」

「何をって、能力を使ったんですよ」

「そうか、そうだったな、お前さんは能力を使えるんだったな・・・にしてもこれはとんでもないのう」
そうでしょうね、始めは俺も便利過ぎて、驚きましたからね。

「それで、聞きたいのはその能力のことだ、なんていう能力なんだ?」

「俺のこの能力は『合成』という物です」

「『合成』か・・・他には類似する能力はあるか?」

「ええ、類似するのは『分離』と『加工』ですね」

「『分離』と『加工』か・・・これは何でも出来てしまうな」
と言いながら、髭を撫でている。これは癖だな。
俺も髭を生やしてみようなか?
似合わないだろうな・・・止めておこう。

「何でもですか?」

「ああそうだろう、今聞いた能力を使えばありとあらゆることが出来る」

「そうですか?」

「儂の予想では『分離』と『加工』は減らすこと『合成』は足すこと」
ゴンガス様は前にも感じたけど、賢い上に鋭いな、ええその通りですよ。
人は見た目道りとは限らないとはこのことだな。

「いわば足し算と引き算だの」

「ええ、そうです」
おいおい、理解早すぎでしょ。

「であれば、その可能性はあまりに大きい」

「・・・」

「お前さん、良く考えてみろ、この世界には様々な物に溢れておる、例えば、砂、石、鉱石、植物、水、空気、光、色、言い出したら限がない」
言われてみれば確かに・・・

「ええ・・・」

「例えば空気だ、空気中には様々な物質が含まれておると儂は考えておる、というのも鍛冶には火が欠かせない、そしてこの火に風を送ると、火が大きくなる。儂は空気中に火を大きくする何かが含まれておると考えておる」
酸素のことか、考察としては間違ってはいない。

「それをお前さんは、分離して切り離すことができるんだろ?」
それは考えたことは無かった、でも確かにそうだ。
空気中から酸素だけを俺は取り出すことが出来る。
なんで今までそれに気づかなかったのか・・・

「そうなりますね・・・」

「であれば、お前さんの能力には無限の可能性があるんじゃないのか?」

「そうかもしれませんね・・・」

「となると、お前さんはこの世界を変えてしまう存在になるのかもしれないのう」
ゴンガス様がサラッと、とてつもないことを言い放った。
俺がこの世界を変えるてしまう存在?
何言ってんだこのおっさん。

「・・・」

「お前さん・・・自分が思う以上に、お前さんの存在はこの世界にとって、大きいのかもしれんのう」

「そうなんでしょうか・・・」

「まあ、とは言っても所詮人だ、そう深く考えることでもあるまい、ガハハハ!」
ゴンガス様は笑い飛ばしているが、俺にとっては思った以上に大きな話しだった。

ゴンガス様が居ずまいを正した。
「そういえばお前さんにプレゼントがある」

「プレゼントですか?」

「ちょっと待っておれ」
と言って、ゴンガス様は何処かに行ってしまった。
数分後、ゴンガス様が帰ってきた。
何故か汗だくだった。
はあはあと、息が荒い。
走ってきたのか?

「待たせてすまんのう、探すのに時間が掛かったわい」
と言うとテーブルの上にダン!と何かを置いた。
それは鞘に収まった短剣だった。

「これをお前さんにプレゼントする」
というと、ゴンガス様は短剣を鞘から抜いて、目の前に差し出してきた。

俺はそれを見つめた。
刃先だけ妙に光っている短剣だった。
鞘は意匠が凝らしてあり、豪華な物に思える。
それを鞘に納めると、ゴンガス様は俺にその短剣を俺に手渡した。

「お前さん、これはミスリルの短剣だ」
ミスリル!異世界来たー!

「だが、なんちゃってだがな」
なんちゃって?どうゆうこと?

「ミスリルの部分は、刃先のみだ」
ああ、そういうことね。

「でも切れ味はミスリスの短剣そのものだ」

「ミスリスの短剣って伝説の一品なんじゃないんですか?」

「そうかもしれないのう、前にお前さんから貰った『万能鉱石』をミスリルに変えたら、豆粒サイズになりおった。これでは何もできんと思ったが、刃先だけなら何とかなると考えてのう」

「なるほど」
それならありだろう。
それに安価だ。

「そこで、これが出来上がったという訳だ、お前さん貰ってくれるかのう?」
短剣を押し付けられた。
どうしたもんかと悩んだが、俺はそれを貰うことにした。

「ありがたく頂戴します」

「お前さんには随分と稼がせて貰ったからのう、これで貸し借りは無いということだのう」

「ええ、そうですね・・・」
まかさミスリルの短剣を貰えるとは・・・これは何かのフラグなのか?
そうあっては欲しくはないが・・・
はあ、のんびりさせてくれよな。
俺は工房を後にした。


サウナ島に帰ってきた。
改めて能力について考えてみる。
たしかにゴンガス様の言っていた通り、何でもできてしまうかもしれない。
ただし、それはあくまで足し算と引き算であって、掛け算や割り算にはならない。
『複写』は掛け算になるのか?
なるんだろうな。
割り算は・・・まぁいっか。

それにしても、改めて『分離』について考えてみてもその範囲は広い。
空気に関してもなんちゃって冷蔵庫を、真空にするのに使っていた。
だが色や光といった物には使用したことは無い。
光を分離するとは、どういうことなんだろうか?

色の分離はなんとなくではあるが、想像は出来る。
ただそれを使って何をするというのだろうか?
色を薄める程度だろう。
例えば黒い石を灰色に変えるとか・・・やる意味がない。
光や色という物には『分離』によって得られる効果は、今のところ考えは及ばない。

しかし、空気に関しては再現不可と考えていたあれが、使い方によっては出来るのではないか?と思う。
あれとは炭酸泉である。
炭酸泉の炭酸は炭酸ガス、すなわち二酸化炭素。
二酸化炭素は空気中にも含まれている。だがその量は極僅かであったと記憶している。
その極僅かな物が、気候変動を引き起こしていると言われていることに、驚きを隠せないが、それは俺がどうにか出来ることではない。

まずは実験をしてみよう。
風呂場にやってきた。
俺はお湯を見つめる。
空気中の二酸化炭素を『分離』にて、お湯の中に発生させる。

「・・・」

僅かながらではあったが、炭酸が発生した。
原理としては間違ってはいないのだろう。
問題は空気中の二酸化炭素では量が少なく。
炭酸泉に応用できるほどの量が、確保できないということだ。
それに俺が能力を使っていないと、二酸化炭素が発生しないということでは話にならない。
俺は二酸化炭素発生装置にはなりたくない。

さて、俺が能力を使っていないといけないという点は、神石で代用は可能だ。
幸いマーク達からこの島の工事で採掘できた神石がいくつかと、畑の拡張時にもいくつかの神石を確保できている。

そこでまずはボンベを造ることにした、とは言ってもカセットコンロに使うガスボンベよりも一回り大きなサイズの物。
但し構造は、医療用の酸素ボンベ等で見かける物と同じである。
材質はいろいろ調べてみた結果、マンガン銅を使用することにした。
ボンベに神石を『合成』で張り付け、神石に『分離』の能力を付与する。
これで空気中の二酸化炭素が、ボンベ内に溜まっていくことになる。

後はこれを何処に置いて置くのか、ということである。
そこら辺に置いても、たいして溜まりはしないだろう。
二酸化炭素が発生しやすいところといえば、火の側であることに間違いは無い。
そこでまずは台所に設置して、様子を見ることにした。
ちゃんと触るな危険と、張り紙も張り付けておいた。

実験初日
朝昼夜と台所で火を使い、ボンベに二酸化炭素を貯めて見た。
ボンベ内に、どれだけ二酸化炭素が溜まっているのかを検証する。
ボンベの上部にはコックがあり、それを捻るとボンベ内の二酸化炭素が放出される仕組みだ。
これならどうにか出来るだろう。

コックの取り付けてある先の部分に、ゴムチューブを取り付け、ゴムチューブの先には、細かく穴の開いた箇所を造る。
重りを『合成』で張り付け、これを湯舟の中に沈める。
これでコックを開けば、炭酸泉になるといったものだ。
さて、どれぐらいの二酸化炭素が溜まっているのか。
ちょっと期待。

コックをゆっくりと開いていく、すると一度ボコっと音を立ててから、大きな空気が湯舟に立ち上がる。
その後、炭酸がじわじわと浮かび上がり、炭酸泉となった。
一先ずは成功。

しかし、その継続時間はおよそ二分、あまりに物足りない。
残念で仕方がない。
皆で使用することを考えると、最低一時間は稼働が必要だ。
そうなると三十日間必要となる。

月一回入れる魅惑の炭酸泉。
言葉の響きとしては魅力を感じるが、俺が目指しているのはそんなことではない。
せめて三日に一度は入りたいのが本音だ。
この世界で火を大量に使うところといったら、あそこしかない。
何と説明しようか・・・あの人にとっては、何のメリットもないからな・・・まあ正直に話すしかないかな?
一先ず念の為、もう一回り大きいボンベを造った。



ということで、鍛冶の街にやってきた。
向かうのはもちろんゴンガス様のところ、受付のメリアンさんに挨拶をして、ゴンガス様を呼んで貰った。

「お前さん、今日は納品の日だったかの?こないだ納品したばかりじゃなかったかのう?」

「納品の日ではないです、ちょっとお願いに参りました」

「ほう、お前さんがお願いとは、面白そうな話だのう」
と言って髭を撫でている。

「面白いかどうかは分かりませんが」
『収納』からボンベを取り出した。

「これを工房の、出来れば火を使う所の近くに置いて欲しいんです」

「なんじゃそれは?」

「これは二酸化炭素を吸収する装置です」
訝し気な表情をしている。

「二酸化炭素?」

「はい、前回ゴンガス様とのお話をヒントに、作成した装置です」

「ふん、それで」

「前回ゴンガス様は火に風を送ると火が強くなる、空気中に火を大きくする物質があるとの、話をしましたよね?」

「ああ、したのう」

「俺の異世界での知識として、その考えは正解なんです」
頷いている。

「やはりそうか」
どや顔になった。
まあ、そうなるよね・・・ハハハ。

「それでその物質は、異世界では酸素といいます」

「酸素とな?」

「はい、そしてその酸素が火を強くした後、二酸化炭素という物質に変換します」

「二酸化炭素とはお前さんが先ほど言っていた物質だのう」

「はいそうです。その二酸化炭素を吸収する装置なんです」

「なるほど、で、その二酸化炭素を集めて、お前さんは何をするつもりなんだ?」

「その二酸化炭素を使って、炭酸泉を作ろうと考えています」

「炭酸泉?」

「はい、風呂です」

「風呂?」
ゴンガス様は呆れた顔をしていた。

「お前さん、こないだ世界を変えるかもという話をして、その結果が風呂か?」

「ええ、そうです」

「なんとも・・・呑気というか、浮世離れしているというか・・・呆れるわい!」
睨まれてしまった。
とりあえず謝っておこう。

「すんません」

「でも、存外そういったところから、世界は変わっていくのかもしれんのう、まあ話は分かった、でも一つ条件がある」

「条件ですか?」

「ああ、儂もその炭酸泉とかいう風呂に入らせてくれるか?」

「おお、そんなことでいいのですか?」

「ああ、実は儂も風呂は好きでのう、三日に一度は入っておるぐらいだ」
三日に一度って、この世界では多いのか?
俺の感覚では不衛生だけど・・・

「鍛冶仕事の疲れを取るには、風呂が一番だからのう、ガハハハ!」
豪快に笑っておりますね、ハハハ。

「疲れを取るには風呂は欠かせませんね、でもゴンガス様、せっかくですから極上を味わってもらいましょう」
サウナで骨抜きにしてやるぜ、へへへ。

「極上とな?」

「ええ、サウナという極上の代物があります、せっかくサウナ島に来てくれるのなら是非体験して貰いましょう」

「ほほう、サウナとな、儂は聞いたことがないが、お前さんが言うのなら間違いは無さそうだのう」

「ええ、期待してください、ではひとまずこのボンベの設置をよろしくお願いします」

「あい、分かった、どれぐらいで引き取りにくるんだ?」

「そうですね、一週間後に引き取りにきます」

「分かったそうしよう、そこでお前さんのサウナ島に行かせて貰うとしよう」

「了解です」
こうして一週間後に、ゴンガス様がサウナ島に来ることが決定した。



一週間が経った。
ゴンガス様を迎えに来ている。
この日は珍しく、ゴンガス様が受付にいた。

「あれ?ゴンガス様が受付にいるなんて、珍しいですね」

「何を言っておる、お前さんを待っておったんだ」
遠足気分ですねこれは。
気分はウキウキかな?
バナナはおやつに含まれませんよ。

「そうですか、すいません」

「これを持って行くんだろう?」

「はい、ありがとうございます」
ボンベを回収した。
さてどれだけ二酸化炭素が溜まっていることやら、期待してますよ。
異世界で炭酸泉を堪能できるとは思ってもみなかった。
温まらせていただきましょうかね。

「じゃあ、早速いきますか?」

「ちょっと待ってくれ、一声かけてくる」
ゴンガスさんは中に引っ込んでいった。
数分後、ゴンガス様が現れた。

「よし、準備OKだ」

「ではいきましょうか」

ヒュン!



サウナ島に到着した。

「おお!ここがサウナ島か?」
突然の転移には驚かないんですね。
もしかして経験者かな?

「ええ、そうです。ご案内します」
ゴンガス様を連れて、島のアテンドを始めた。
早速畑を見て固まってしまった、ゴンガス様。
おいおい、いきなりかよ。

「どうしました?」

「いや、こんな立派な畑を見たのは初めてでのう・・・」

「ありがとうございます」
褒められて嬉しくない訳がない。

「そうか、この畑によって、あの素晴らしい酒が出来ておるのだな」
独り言ちて頷いている。そうとう関心しているご様子。

アイリスさんが近づいてきた。
「始めまして、アイリスと申します」

「ああ、儂はゴンガスだ、ちと教えて貰くれんか?」

「はい、何でしょう?」

「この畑はあまりに立派だ、何か秘訣でも?」

「まあ、お褒めに預かり光栄ですわ、特に秘訣はありませんが、私は作物の状態を把握できるので、何が栽培に必要なのかを分かることでしょうか?」

「なんと!その様なことが!お前さん何者だ?」
かなり驚いている、ゴンガス様は飛びのいていた。

「私は世界樹の分身体ですわ」

「世界樹!!」
声でか!
ゴンガス様は目を丸くしている。

「はい」

「お前さん、聞いてないぞ」
睨まないでくださいって。

「すいません、言ってませんでしたね」

「お前さんって奴は・・・」
呆れ顔になっていた。

「にしても世界樹が管理する畑、立派であって当然か」
納得してくれた様だ。

「ありがとうございます」

「そうだ、トウモロコシを見させてくれんか、どのように栽培しておるのか知りたいのでな」

「はい、喜んで!」
アイリスさんが嬉しそうだ。

「ではこちらにどうぞ」

ゴンガス様はトウモロコシを眺めている。
ドワーフのおじさんがトウモロコシを眺めている、何ともシュールな絵だな。

「ほほう、この様に栽培しておるのだな、しかし、こんなに背が高かったのか・・・」
ドワーフの身長ではそう感じるのか、ゴンガス様の目の前にトウモロコシがあった。

「トウモロコシは肥料をとても欲しがるので、肥料の確保が大事なんですよ」
アイリスさんが解説を始めた。

「なるほどのう、それであの甘みがある実を付けるということなんだのう」

「そうです、それに一番大きい物だけを残す様に、小さい物は間引く必要があります」

「間引く?」

「はい、取り除くということですわ」

「そうすることで、より栄養が集中するということか、流石は世界樹」
ゴンガス様結構詳しいな、理解が速い。
ただの酒好きの神様ではないらしい。

「ゴンガス様、畑に詳しいですね」

「まあな、酒の原料についてはいろいろ調べてきたからのう、酒作りには欠かせん要素だ」

「なるほど」
結局は酒ってことね。
そんなに飲みたいんだね。
俺には分からんな。

「でも納得がいった、アイリスさんがおるからこれだけの栽培が出来ておるということか、お前さん、羨ましいぞ!」

「ウフフ、ありがとうございます」
アイリスさんが照れている。

「して、次は何の野菜を卸してくれるんだ?」

「えっ!」
やられた!
アイリスさんの前でこの会話は不味い、絶対に断れない。
分かってかどうかは知らないが、もう後には引けなくなった。
この流れになったか・・・
ゴンガス様、したり顔は止めてくれ。
それにアイリスさん、目がハートになってますよ。
勘弁してくれよな・・・

「大麦とかでどうでしょうか?」

「大麦か、良いな、それで頼む」

「大麦も見て行かれますか?」

「もちろんだ」
当然だったようだ。
はあ、やられたよ。
全く・・・

大麦も視察し上機嫌のゴンガス様、次に向かったのは養殖場だ。
「魚の養殖?それはなんだ?」

「魚を育てて、大きくしてから売ったり、食べたりするんです」

「食べる為に魚を育てるってのか?」
ゴンガス様は眼を見開いている。

「はい、そうです」

「そんな考え方があったとは驚きだのう」

「とはいっても、異世界の知識なんですけどね」

「そうか、そういえば儂はそのことも気になっておったんだ、お前さんの出鱈目な能力とは別に、その知識が実に面白い」

「面白いですか?」

「ああ、この世界の常識からは、考えられんことをしておる」

「そうなんですかね?」

「あまり自覚はないようだのう」

「ハハハ」
頭を掻くしかないな。
もっと笑って誤魔化そうかな?

「まあ、いいだろう、その内分かるだろう」
なんだかすんません。

次に温泉を見に行った。
「これが例の温泉だな、どれどれ」
と、手を温泉に付けている。

「そうか、手を付けているだけでも、ほんの少し魔力が回復しておるのが分かる。浸かったらもっとということかのう」

「らしいですね」

「らしいですねって、お前さん分からんのか?」

「はい、俺は魔力は無いので」

「そうなのか?魔力はないが、神力は使えると」

「そうです、魔力がある人が羨ましいですよ」

「お前さんには神力だけで、充分だと思うがのう」

「そうですかね?」

「そうだ、その力だけでも充分にやっていけてるだろうが」
睨まれてしまった。
すんません。
ノンが魔法を使った時には本当に羨ましく思ったもんだったな。

「では、炭酸泉に浸りにいきましょうか?」

「おお!遂にか」

「はい、いよいよです」

「そうかいよいよか、よろしく頼む」
まずは脱衣所に案内した。
ゴンガス様は水着が無かったので、サクッと作って渡した。
身体を洗ってから露天風呂に入る。

「おおーーーー!」
思わず声が漏れているゴンガス様。
うんうん、気持ちは分かります。

そこでボンベを取り出し、ゴムチューブを取り付ける。
ゴムの先を湯舟に沈めてコックを捻る。
炭酸がお湯を満たしていく。

「おお!これが炭酸泉か?」

「ええ、これが炭酸泉です。この炭酸泉はあえてお湯をぬるめにすることがコツなんですよ」

「ほお?ぬるめにか?」

「そうすることで、長い時間入浴を楽しむことができます」

「なるほどのう」

「後で湯から上がったら、体が赤くなっていることが確認できると思います、それが体に良い効果があった証拠だと言われています」

「効果とな?」

「様々ありますが、高血圧の予防であったり、糖尿病の抑制であったりとかだったと思います」

「そうか、それはいいのう」

「ええ、長寿の湯なんて言われているらしいですよ」

「話は変わるが、お前さん、あの髪を洗うやつはいいのう」

「お!分かりますか?」

「ああ、儂の髭もサラサラになりそうだわい、ガハハハ!」
髭なのね・・・
どうでもいいけど・・・

「お褒め頂き光栄です」

「この景色も最高だのう、あー、気持ちいいのうー」
まだまだ満足するには、早いですよ、へへへ。

「それにしても、ここはほんとに素晴らしい島だの」

「そうですか?」

「ああ、魅力に満ち溢れておる」
しみじみと語っていた。

「ありがとうございます」

「それで、サウナとはなんなのだ?」

「じゃあ行きますか」

「行く?」

「ついて来てください」

「おお・・・」
ゴンガス様を引き連れてサウナに入っていった。

「熱っつ、なんだこの部屋は」

「こういう部屋なんですよ」

「どういうことだ?」

「ここは汗をかく部屋なんです」

「なんだってわざわざ、そんなことをするんだ?」

「あとで分かります」
じっくりと十分近くサウナで汗をかいた。

俺達はサウナ室から飛び出した。
水風呂の前で止まり、掛け水を指導する。
水風呂に飛び込んだ。

「ああーーー!」
思わず声が漏れる。

「はあーーー、なんだこれ・・・」
水風呂を堪能し外気浴へと誘う。

「ふうーーー、この解放感は何なんだー」
整いを感じているゴンガス様。

「これが整いです」

「整い・・・ああ」
余韻に浸っている。

「ああ、これは極上だな・・・」

「でしょう・・・」
俺も整っている。
もう言葉は要らない。
最高に気持ちいい・・・

さて、後二セットは行きますよ。

「二セット?」

「はい、付き合っていただきますよ」

「あい、分かった」
覚悟を決めたようだ。

「行きますよ」

「ああ」
二セットを終えた。
余韻に浸っているドワーフのおじさん。
ああ、骨抜きになったのは間違い無いようだった。

「ゴンガス様、これがサウナです」

「・・・儂は舐めていた・・・最高だ・・・」
声になって無かった。



晩御飯は、たこ焼きパーティーとなった。
各自好きに焼いていく、中身の具も好きにしろといった具合だ。
蛸、チーズ、ウィンナー、ブロック肉辺りが人気だ。

「こういうスタイルの飯もよいな、お前さん」

「ワイワイガヤガヤしてて、好きなんですよね」

「そうだのう、この自分で好きに作って、中身も変えれるってのもいいのう」

「各自好みがありますからね」

「それにこの鉄板はなかなかの業物だのう、よくもこの様な形状にしたもんだ。これであれば、具材への熱の伝道効率がよい、よく考えられておる」
最初にたこ焼きを考えた人の、知恵なんですけどね。
日本の食文化に感謝です。
熱ッち―、たこ焼き熱っちー!
口の中がスクランブル状態だ。

この後、酒好きのレケと話しが弾んだゴンガス様は、終始笑顔でサウナ島を楽しんでくれた様だった。
流石のレケもゴンガス様には適わなかったようで、酔いつぶされていた。
結局炭酸泉は四時間使用でき、週に三日は炭酸泉を楽しめるようになった。

ゴンガス様に感謝です。
ゴンガス様あざっす!