神様のサウナ ~神様修業がてらサウナ満喫生活始めました~

いつもの午前中の畑の作業を終え、俺はどうしたものかと考えている。

考えているのは『魔力回復薬』について、例の島の温泉のお湯のことだ。
魔力の回復ができるということは、異例の話であり、画期的な物であると、島の皆に聞かされている。
魔力のない俺には、どうでもいい物なのだが、だからといって放置する訳にもいかない。

魔法といったらメッサーラだ。
幸いゴンによって、国家元首との直接的なやり取りが可能となっている為、この国から販路を広げようと考えている。
販路はこれまでアグネスは置いておいて、五郎さんの所に限定していたが、魔力については、五郎さんも俺と同じで無いため、五郎案件では無いと思っている。

ただ、メルル曰く
「これは世界の有り様を変えるかもしれません」
メタン曰く
「世紀の大発見ですな」
とのことだった。

メルルはともかく、メタンが大袈裟なのは分かっているが、これがあながち過言と言い捨れないことは理解している。
この世界では、魔力は大事な要素であり、無視できないことも確かだ。
特に『魔法国メッサーラ』では、魔法が国の根幹を担っているとメタンは言っていた。
はたしてどうしたものか・・・

まあ、そろそろゴンが留学して三ヶ月近く経っている為、顔を見がてらルイ君に相談してみようと考えている。
俺なりのプランも考えてみたから、今度話してみようと思う。



そういえば今さらだが、メッサーラには神様は居ないらしい。

メタン曰く
「これだけ魔法が浸透した国ならば、神の権能に頼らなくてもやっていけるのですな」
ということだった。

でも、たまにひょっこりと、神様が現れることはあるらしい。
だいたいは、数日見学してどこかに行ってしまうらしいのだが。
そんな気ままな神様がいるんだなと、俺は始めて知った。

さて、俺はギルとメタンを伴って、ゴンに会いに来ている。
魔法学園の女子寮の前にある警備室の前で、ゴンを待っている。

「主、お待たせしました!」
ゴンが駆け寄って来た。
リンちゃんも一緒のようだ。

「ゴン姉、遅いよ」
ギルがゴンに言った。

「ギルごめん、今取り込んでてね」

「そうなの?」

「そうなの、詳しくはまた教えるね」

「へえー」

「ゴン、元気にしてるか?」

「主、待たせてしまってすいません」

「いやそんなことはいい、リンちゃん久しぶりだな」

「お、お久しぶりです。あ、あの、前に頂いたおにぎりとかいうの、本当に美味しかったです。ご馳走様でした」
リンちゃんはペコペコしていた。

「なあに、欲しければまた作ってあげるよ」
と言うと、リンちゃんは羨望の眼差しで俺を見て来た。

そんなにだったのね・・・
これは・・・今回は別の物を用意してきたけど、作らないといけないのかな?

「でゴン、ルイ君に用事があるんだが、案内できるか?」

「ルイ君ですか?ええ、出来ますよ」

「じゃあ頼む」
ゴンとリンちゃんに誘導されて、ルイ君の元にやってきた。

途中、警備兵に止められそうになったが、ゴンの顔をみると、普通に通過するのを許してくれた。
顔パスってやつ?ありがたいです。
ルイ君の執務室であろう部屋の前に来た。
扉の両隣に警備兵が立っている。
国家元首ともなれば、警備は厳重のようだ。
ここも顔パスで通される。

ドアをノックするゴン。
ドンドン!
「ルイ君、私よ、開けていい?」
遠慮がまったくないゴン。

頼もしい娘です。
隣を見ると、慣れた様子のリンちゃんが居た。
その表情は平然としているが。
半ば諦めた様な表情に見えるのは、どうなんだろうか・・・

「いいよ、ゴンちゃんどうぞ」
と声が返ってくる。

扉を潜ると、
「えっ!島野さんご無沙汰してます」
と立ち上がって駆け寄って来るルイ君。

「やあルイ君、元気だったかい?」

「ええ、元気です。どうぞこちらへ」
とソファーに座るように誘導された。

「島野さん、本当に会いたかったです、何よりお礼が言いたくて・・・」
感極まっているルイ君。

「お礼なんて大袈裟だよルイ君、ハハハ」
とりあえず笑っておいた。

「いや、そんなことはありません。島野さんに叱られてから僕も考えを改めました」
へえー、確かにルイ君の雰囲気は変わったな。
まあ、今は詮索しないでおこう。

「まあ、それはいいとして、ルイ君ちょっと相談があるんだがいいかな?」
表情を改めるルイ君。

「僕に何を相談してくれるんですか?僕にできることなら何でもさせていただきますよ」
おい!国家元首が何を勝手に言っているんだ?
安易なコメントは差し控えてくださいな。

俺は『収納』から瓶に入った『魔力回復薬』を取り出した。
三本をテーブルに置く。
『魔力回復薬』の分量は百五十ミリリットル、比較的少量と思われる。

「これはな『魔力回復薬』だ」

「『魔力回復薬』ですか?始めて聞きます」
ゴンの反応はいまいち。
ルイ君とリンちゃんは固まっていた。
そうなるとは思っていましたよ。
もう慣れましたよ、この反応は。

「島野さん、本当でしょうか?これまでメッサーラが、長い歴史をかけて開発を行ってきましたが『魔力回復薬』は未だ完成しておりません。いや開発の目途すらも立っていない代物です」
ルイ君が目を細めている。

「そうなのか、だいだいメタンから聞いた通りだな」
メタンから今ルイ君が言ったことは前もって聞いていた。
メタンが誇らしそうに俺の横に座っている。

「じゃあルイ君『鑑定』してみろよ、出来るんだろ?」

「うっ!」
言葉に詰まるルイ君、下を向きだした。

「案の定だな、ルイ君、素直でよろしい、どうせゴンに始めて会った時にも、ゴンを『鑑定』したんだろ?」
こちらを向いたルイ君、図星だったんだろう、目に罪悪感が滲んでいる。

「すいません・・・もう二度としません・・・」
目に涙が浮かんでいるルイ君。

「何も怒ってはいないよ『鑑定』したのも分からなくはないからな、聖獣は独特な気配をしているから、勘が鋭い奴は興味を持って当然だ。それに安全面から、万が一を考えて『鑑定』するのはしょうがないことだろ?」
ルイ君の表情はさらに罪悪感が募ったものになっていた。
あれ?間違ったのか?

「申し訳ありません、違うのです。ゴンちゃんを始めて見た時に、僕は彼女の同意無く『鑑定』を行いました。今でも後悔しています。ゴンちゃん本当にごめんなさい」
とゴンに向かって頭を下げた。
ゴンは眉間に皺を寄せて、考え込んでいる様子。

するとゴンはルイ君の頭を撫でて
「もういいよ、過去のことでしょ?それに『鑑定』されなかったら、ルイ君とはお友達になれなかったかもしれないでしょ、許します!」
と胸を張って宣言した。

ゴンは成長したな。いいことだ。うんうん。
でも・・・こっちは・・・
まだ項垂れているルイ君。

「ルイ君・・・君はまさか・・・ただの興味本位で『鑑定』をしたのか?」
俺の方に向き直り、頭を下げた。

「申し訳ありませんでした!」
あらら・・・お行儀の悪い事・・・まあ今となってどうでもいいかな?ゴンが許したんだし。

「もう二度と相手の許可なくするなよ、分かったな!」

「相手の許可なく『鑑定』を行ったのは、これが最初で最後です。もう二度としません、約束します!」

「分かった、君を信じよう」
ルイ君は顔を上げた。しっかりと泣いていた。
うえーん!うえーん!と号泣しだした。
ありゃりゃ・・・相当な罪悪感を感じていたんだろうな。
ひとしきりルイ君が泣き終えたところで、改めて聞いてみる。

「それでルイ君はゴンの何に興味を持ったんだ?」

「それは・・・」
言うとルイ君の顔が見る見る赤くなっていった。

「ゴ、ゴンちゃんが可愛いかったから・・・」
今度はゴンが真っ赤になっていた。
青春かよ!

「それで、もういいだろ?『鑑定』してみてくれ」

「はい、すいません、もう大丈夫です」
と立ち直ったルイ君。

「『鑑定』」
とルイ君が唱えた。

「あれ?島野さん『鑑定』しましたけど、温泉水としか出ませんよ?」
勝った!どうやら俺の『鑑定』の方が、ルイ君より優れているようだ、俺の時はちゃんと飲用可と出てたからな。むふん!

「そうか、これはな、温泉街の神様の五郎さんから教えて貰ったんだが、五郎さんには『水質鑑定』という能力がある。それで見ると魔力回復効果有りと出たようなんだ。そうだよな?ギル」

「うん、そうだよ、僕は実際にそれを飲んでみたから分かるけど、魔力が回復したよ」

「ということで、一度飲んでみてくれ」

「いいんですか?そんな貴重な物を・・・」

「いいも何もその為にここに来てるんじゃないか、ルイ君も、ゴンもリンちゃんも飲んでみてくれ」

「私もいいのですか?」
リンちゃんが、私で本当にいいんですか?という具合に言った。
この子は謙遜が過ぎるな。

「ああ、申し訳ないが、検証も兼ねてみたいから、飲んで欲しいんだ」

「検証ですか?」

「そうだ、島の仲間で大体のことは検証済みだが、島には巨人族が居なくてね、種族によって回復効果に違いが無いかを知りたいんだ。ちなみに今のところ違いは出ていない」

「そうなのですね、お役に立てるのなら、飲ませて貰います」
意を決したリンちゃんが俺を見つめている。

「頼むよ、あと悪いが三人とも俺が『鑑定』をしていいか?個人情報は必ず守る、魔力以外は観ないようにするからさ」

「はい、喜んで」

「お願いします」

「もちろんです」

「悪いな、じゃあルイ君から」

「はい、飲ませて貰います」
『鑑定』して魔力を測定する。

「飲んでみてくれ」
ルイ君はグイっと飲んだ。
うんこれまでと変わらないな。

「じゃあ次はリンちゃんいいかな?」

「はい」
同じ様に測定を行う。
ほとんど変わらないな。

「次はゴン」

「はい」
測定を行う。
同じだな。

「三人とも体感としてはどうだ?」

「凄い、魔力が戻っています」

「ええ、間違いなく回復してます、凄いです!」

「主、味はいまいちです」
そんなことは聞いてませんよ、ゴンちゃん。

「な、ルイ君、分かっただろ?」

「はい、これはメッサーラを救うかもしれません」

「メッサーラを救う?」

「ええ、実は最近僕も知ったのですが、メッサーラには、慢性的な魔力不足を訴える者が多くいるのです」

「そうなのか?」

「ええ、特に農家が顕著なんです」

「農家か・・・水魔法と土魔法の魔法士だな」

「その通りです、特に水魔法の魔法士は、雨の日以外は毎日ですし、広大な畑の水やりとなると・・・」

「水道管は設置してないのか?」

「したくても、技術がありませんので」

「確かに技術がなければ難しいな、まあ提供できなくはないが、国中となると数年でどうにかなる物ではないからな」

「ですが、これがあれば、救えるかもしれない」

「それはそうだな、だがいろいろ検討しなくてはいけないことが多々ある」

「そうですな、価格であったり販売方法等ですな」

「メタン、その通りだ」

「そうですね、手に入らない値段では救えませんからね」

「ああそうだ、それを今後見定めていきたい。後『魔力回復薬』の効果だが、今飲んで貰った百五十ミリリットルの物で、多少の個人差は置いておいて、大体その者の最大魔力量の3割ほど回復できるようだ」
これが多いのか、少ないのか、回復出来るだけ益しとも思えるが。

「三割もですか?」
どうやら「しか」ではなく「も」の方だったようだ

「そうだ、ただ最大値を超えることは流石にないようだ」

「そうでしょうね、それが起こったら大変なことになります」

「そこでこの『魔法回復薬』だが、これは俺達の島の資源だ。いくら魔力不足だからと言われても、タダで譲るという考えはない」

「もちろんです」
ルイ君の表情は硬い。

「だからと言って、あまり稼ごうとも考えていない、定価に対して二割も貰えればいいと思っている」

「それだけでいいのですか?」

「ああ、但し条件がある」

「条件ですか?」

「そうだ、まず『魔力回復薬』の卸し先だが『魔法学園』にしたい」

「メッサーラでは無く、何故『魔法学園』なのでしょうか?」

「その理由として、まずはこの『魔法回復薬』は『魔法学園』が開発したことにして欲しい」
ルイ君が驚いている。

「それはいったい?」

「ああ、簡単にいえば、島に注目を集めたくはないからだ」

「注目を集めたくない・・・理由を聞かない方がよさそうですね?」

「悪いな、あとはその方が大衆も受け入れやすいと思ってさ」

「確かにそうかもしれません」

「それに学園長としても、これでもっと生徒数が増えるんじゃないか?」
したり顔で見つめてやった。

「お気遣い、ありがとうございます・・・」

「あと学園で得た利益の使い道だが、利益の何割かは、教会と孤児院に寄付して欲しいと考えている」
ルイ君の表情が変わった。

「それは素晴らしいです、特にメッサーラでは孤児の数が多いのです」
孤児の数が多い?何でだ?

「それは何でなんだ?」

「メッサーラでは、魔獣の森と呼ばれる地域があります。その名の通り魔獣が良く出る森です。幸いジャイアントラットや、ジャイアントピッグのような比較的弱い獣が多いのですが、魔獣化してますのであなどれません、場合によっては高ランクのハンターでも深手を負うこともあります。それによる死傷者が多く、孤児が多いのです」

「なるほど、だからメッサーラには、魔石が潤沢にあって魔道具の開発が出来ているということだな」
良かれ悪かれといったところか・・・

「はい、そういった側面もあり、国としては何も対策も出来ずにいる状況なのです」
憂鬱な表情を浮かべているルイ君。

「話は変わるが、俺は『魔力回復薬』の利益で、学校を作って欲しいと考えている」

「学校をですか?」
いまいち理解を得ていない様子のルイ君。

「但し、魔法を教えるのではなく、計算と読み書きと、一般常識を教える学校を作って、その運営資金にして欲しいと思っている」
一瞬間が出来た。

「それはどうしてでしょうか?」

「これは俺個人の感覚と想いになってしまうかもしれないが、この世界には読み書き計算が出来る者が、少ないと感じている。読み書き計算は生活する上で、最低限得ておかなければならない能力だと俺は思っている。考えてみて欲しい、計算が出来なくて屋台で食事を買って、お釣りをちょろまかされているなんてことがあるだろうし、大事な書類の意味も分からずにサインをさせられて、高額の金利を払わされている者もいるかもしれない、だから最低限の教育は必ず必要なんじゃないか?」
ルイ君は下を向いていた。

「それは・・・よく聞く話です。ちょろまかされた、騙されたとか、島野さんの言う通りです」
そうなんだろうな・・・現実は甘く無い。

「だろ?それは良くないと思わないか?」

「確かにそうです」

「だからさ、これが俺の条件だ、一度良く考えてみて欲しい」

「わかりました、検討させてください」

「ああ、そうしてくれ」

「島野さん、一つ我儘を言っていいでしょうか?」

「何だ?」

「一度島野さんの島を見学させて貰えないでしょうか?」

「ああ、ルイ君細かいことをいう様で申し訳ないが、島野の島ではなく島野達の島といって欲しい」

「すいません、というより、島に名前は無いんですか?」
あっ!そういえば無いな・・・今さら過ぎるが・・・島の皆と相談だな・・・島の名前ってそもそもいるのか?

「確かに、無いな・・・」

「無いんですか?」

「ああ、無いな」
無いもんは無いんだよ!これまで特に困ったことなんてないんだよ!

「まあ、それは良いとして、どうでしょうか?」
うーん、ルイ君を信用できなくはないが、こいつはこれでも国家元首だしな。
どうしたものか・・・

「主、ちょうどいい魔法を、私先日覚えました」
ゴンがここぞとばかりに言った。

「ん?なんの魔法だ?」

「契約魔法です」

「契約魔法?」

「はい、そうです。島の秘密を話せない様に、契約で縛ることができます」

「ほう、それはいいかもしれないな、で、仮に契約を破ったらどうなるんだ?」

「はい、いろいろな条件が付けられますが、私との友人関係の抹消なんてどうでしょうか?」
ルイ君が目玉が飛び出るほど驚いているのだが・・・
リンちゃんは頭を抱えているよ・・・
ゴンちゃん本当にそれでいいのかい?

「ああ、いいんじゃないか?どう思うルイ君?」

「ええ、契約に背くつもりはありませんので・・・」

「本当にいいのか?なかなかの契約だと思うが」

「はい、いいです・・・」
ルイ君は諦めているようだ。

「来るのはルイ君のみにして貰うぞ、警備の者とか付き人とかは無しだぞ」
考え込むルイ君。

「はい、なんとかします」
なんとかなるんだ。やるね、賢者君。

「じゃあ、島に来て貰おうか、リンちゃんも来るかい?」

「はい、是非お願いします!」
おっ!リンちゃんは直ぐに持ち直したな。
なんだかこの子も、随分腹が座った子になった様な気がするが、もしかしてゴンの影響か?
ああ、ルイ君がまた泣きそうになっているが、これは放っておこう。うん、見なかったことにしよう。

「で、いつ来るんだ?」

「ちょうど半期が終わり、三日間の休暇が与えられることになってますから、来週にでも行けます」
ゴンが嬉しそうに言った。
島の皆に会いたいのだろう。
ゴンのワクワク感が手に取れるようだ。

「ルイ君は大丈夫なのか?」
まだ、ダメージがありそうに見えるが、なんとか持ち直しているようだ。

「はい、何とかします」

「そうか、分かった準備しておくよ、後そうだった」
『収納』からお土産を取り出した。

「ゴンとリンちゃんにお土産だ」
今回はゴンの好きなイチゴとサンドイッチにした。
リンちゃんの興味が半端ない、凄い眼力でサンドイッチを見つめている。

「で、ルイ君はこちら」
『収納』からお地蔵さんを取り出した。

「おお、これがゴンちゃんが言ってた、お地蔵さんなのか?」

「そうよ、凄いでしょ?」

「凄い、再現度が高いと感じるよ」
どうやら話は聞いていたようだ。

「ルイ君、ひとまずお地蔵さんを十体預けるから、配置する場所の選定や、管理を頼む」

「ありがとうございます、メッサーラは信仰心の高い人が多いので、喜ばれます」

「私にかなう者はおりませんがな」
ドヤ顔のメタン。
そうでしょうね。あんたにゃ誰も適わんよ。

「教会の石像は、改修してもいいのか?」

「はい、是非お願いします」
後日ルイ君立ち合いのもと、五ヶ所の教会の石像の改修を行った。
涙に暮れるシスターが何人もいた。
神気をたくさんお願いします。

こうして、ルイ君とリンちゃんが島に来ることになった。
ゴンの一時帰省である。



俺は、女子寮の前でゴンとリンちゃんを待ってる。

「お待たせしました、主」

「島野さん、お待たせしました」

「ああ、じゃあルイ君のところに行こうか?」

「はい、行きましょう」
とルイ君のところに向かった。

「ルイ君、準備はいいか?」

「はい、お願いします」

「じゃあ行くぞ」

ヒュン!



島に帰ってきた。

「おお!これが『転移』なのか!」
ルイ君が興奮している。

「嘘でしょ、こんな一瞬で・・・」
驚きを隠せないリンちゃん。

「島にようこそ!」
ゴンが喜々として言った。
島の皆にはゴンが友人を伴って一時帰省するとだけ、伝えている。
さっそく、皆から歓迎を受けているゴン一行。

「ゴン、お帰り!」

「久しぶりだな。ゴン」

「少し垢抜けたか?」
等と、和気あいあいのご様子。
挨拶は晩飯の時にと、まずは温泉を見に行くことにした。

『転移』にて温泉に移動した。

「これが温泉ですか・・・少し独特な臭いがしますね」

「ルイ君は、温泉は始めてか?」

「はい、始めてです」

「リンちゃんはどうだ?」

「はい、私も始めてです」

「そうか、じゃあ入ってみるか?」

「「是非」」
脱衣所へと向かった。
脱衣所で水着に着替えて、まずは洗い場で体を洗う。
ルイ君は石鹸を知らなかったようで、使い方を教えてやった。

「なんだか、汚れがしっかり落ちたような気がします」
と高評価である。

「じゃあ、温泉に浸かろうか」

「はい、お願いします」
掛け湯をして、温泉にドボン!

「ふうー、今日も良い湯だなー」

「気持ちいいです島野さん、温泉に浸かってるだけでも、魔力が回復していくことを感じますよ」

「そうらしいな、島の皆もそう言っていたな」
するとゴンがリンちゃんを引き連れて温泉にやってきた。
掛け湯をしてから、温泉に浸かる二人。

「はあー、最高!」

「うん、気持ちいいね」

「主、いつの間にこんな温泉が出来たんですか?」

「ああ、五郎さんが来た時にちょっとな、五郎さんには『泉源探索』という能力があって、この温泉を掘り当てることができたんだよ」

「五郎さん凄いですね」

「ああ、まったくだ。なにかと頼りになる人だよ」

「メッサーラにも温泉があるのでしょうか?」

「どうだろうな、俺には分からんな」

「あると良いね、ルイ君?」

「そうだね、ゴンちゃん」

「そうだ、契約魔法以外は習得できたのは無いのか?」

「あとは、照明魔法が使えるようになりました」

「そうか、良かったな」

「はい、これで帰ってきてからも皆の役に立つことができます」

「期待しているぞ」

「はい、ありがとうございます」

「そうだ、リンちゃんは卒業後は、なにか進路は決まってるのか?」

「いえ、得には決まってないです」
リンちゃんは下を向いてしまった。

「じゃあ、リンちゃんがよければ、この島で働かないか?」

「えっ!いいのですか?」
喜んでいるようだ。目がキラキラしている。

「ああ、島野商事の社員として働いて欲しい、正直に言ってこれには打算もあるんだ」

「打算ですか?」

「そうだ、メッサーラと『魔力回復薬』の取引が始まったら、メッサーラを知る者にやって欲しいと考えていてね。メタンもいるが、あいつはそういったことには向かないし、管理部門で手がいっぱいなんだ。それで、ちょうど良いところに君が現れてくれたって訳さ、ゴンの友人だし、人物的にも問題ないってね」

「ありがとうございます。そうさせていただきます」
と涙を浮かべるリンちゃん。

「よし!従業員ゲット!」

「リンちゃんやったね、卒業後も一緒に居られるね」

「うん、ありがとう」

「島野さん、国家元首の前で国民を引き抜かないで貰えますか・・・」

「ああ、すまない」

「僕もここで暮らしたいよ・・・」

「君には無理だな」

「そうですね・・・」

「まあ、でも正式に取引が始まったら、ここに来ることも、あるかもしれないじゃないか?そう落ち込むなよ」

「だといいんですけど・・・リンちゃんが羨ましいです」

「もお、ルイ君そんなこと言わないの!」
ゴンに叱られてますよ・・・国家元首が。
やれやれだな。

「すいません」

「じゃあ、そろそろ上がろうか。湯あたりしそうだ」

「そうですね」



三人を迎えて晩御飯となった。というより宴会が始まった。
まず最初にゴンからの一言で始まった。
「皆、お久しぶりです。元気でしたか?」

「ああ、元気だぞ」

「元気よ」
等と声が飛び交う。

「数日だけど、帰ってきました。皆の顔を見れて・・・私・・・嬉しくて・・・」
ゴンが泣きだした。
ん?この流れは・・・

「ああ、僕も嬉しいぞ」
ノンが割り込んできた。
珍しいな、ノンゴンに声を掛けるなんて。

「そうね、泣いてちゃいけないね。いろいろ報告もあるけどまずは乾杯しましょう」
おお!持ち直した。

「それでは乾杯」

「「「乾杯!」」」
自然と拍手が発生した。
こういうのっていいね。

「じゃあ皆いいか、紹介させてくれ。まずはルイ君」
ルイ君が立ち上がる。

「彼は賢者のルイ君だ、よろしく頼む。ちなみにゴンの友達だ」
一瞬静まり返ると、大爆笑が起こった。

「アハハハ、ゴンの友達が賢者だって!」

「嘘だろ!」

「ゴン!あっぱれ」

「聞いちゃあいたが、本当だったのかよ!」
ルイ君とリンちゃんは、ついて来れていない様子。

「ちょっと、皆どういうことよ?」
ゴンもついていけてないようだ。

「ゴン、おまえだいぶ旦那に感化されてんな、アハハハ!」

「あ、あのー、自己紹介してもよろしいでしょうか?」

「ああ、すまない、そうしてくれ」
場の空気がじんわりと戻っていった。

「始めまして、賢者ルイです。この度はお招きいただきありがとうございます」
不意にレケが立ち上がる。

「堅苦しいのは、いらないんだよ、それ乾杯!」
ルイ君の肩に手を回している。

「おお、そうだそうだ」
マークまで立ち上がってルイ君と乾杯しだした。

「ということだ、ルイ君諦めてくれ」

「ええ、そんなー」
皆からの乾杯が始まった。
そのまま自然と宴会が始まった。

ゴンは早々にリンちゃんを紹介したそうであったが、雪崩式に宴会が始まってしまい、食い気に走ったリンちゃんを止めることが出来ず、タイミングを見失っていた。
一息つき、タイミングの良いところでゴンがリンちゃんを皆に紹介した。

「リンです、私は魔法学園を卒業後、この島にお世話になることが決まりました、精一杯働きます。よろしくお願いします!」

「おっ!新たな仲間だな、リンちゃんに乾杯!」
レケがまた調子よく乾杯しだした。

「こっちも乾杯!」

「こっちも、こっちも」
乾杯周りをされられているリンちゃん。
なんとも賑やかでごめんなさい。

「島野さん、いつもこんな感じなんですか?」

「まあだいたいそうかな、賑やかだろう?」

「ええ、それもそうなんですが、皆さん僕が賢者であることを気にしないんですね」

「そうだな、皆に言わせると慣れて来たということらしいぞ」

「ああ、もういい加減、島野さんの出鱈目ぶりには慣れてきましたよ。普通は国家元首を警備兵も付けること無く、島に来させるなんて、ありえないでしょ?」
マークが割り込んできた。

「あと、この島では皆平等にすることが、島野さんの教えなんだ。賢者だろうが特別扱いはしない、失礼があるようなら詫びておくよ」

「いや、大丈夫です、僕もこうして、接して貰えるほうが助かります」

「お、賢者さんは話が分かる人のようだな」

「ゴンちゃんで慣れましたから」

「ゴンも随分成長したようですね」

「そのようだな」

「それにしても、ここの食事は最高に美味しいですね」

「おっ!お褒めに預かり恐悦至極に存じます、なんてな」

「勘弁してくださいよ」

「「ハハハ!」」

「ゴンも成長したが、ルイ君も随分と成長したようだな」

「ありがとうございます、ゴンちゃんに出会ってからというもの、周りの人達から変わったと言われることが増えました」

「それはいいことだな、楽しいだろう?笑顔が増えてさ」

「ええ、本当に」
隣でランドがリンちゃんにバスケットボールについて熱く語っている。
ランドの奴、リンちゃんの身長に目がいったな。
俺もリンちゃんに話し掛けにいこうかな。

「リンちゃん、食事はどうだった?」

「最高です!毎日これが食べられるようになるんですね、夢のようです!」
夢のようですは大袈裟だろう、まあ褒められて嬉しいけどね。

「明日は、ランドとバスケットボールをやるのか?」

「ええ、誘われてます」

「島野さん、彼女は逸材だと思いませんか?」

「お前、それ身長だけで言ってないか?」

「分かってますって、今では俺もスリーポイントの成功率は五割を超えましたからね」

「ほう、それはそれは・・・まだまだだな」

「うう、精進します」

「まあでも、リンちゃんの身長なら、ダンクを決めれると思うぞ」

「ダンクですか?」

「ああ、ランドに教えて貰ってくれ」

「はい、そうします」

「あと、リンちゃんアイリスさんとは話したか?」

「まだです」

「そうかちょっとついて来てくれ」
途中でルイ君にも声を掛けた。

「アイリスさん、いいですか?」

「守さん、どうしましたか?」
まずは二人に挨拶をさせた。

「俺達がこの島をあまり知られたくない理由を話そう」
緊張している二人。

「アイリスさんは、世界樹の分身体なんだ」

「「世界樹の分身体?!」」
おお、息ぴったりだな。

「ああそうだ、この島には世界樹がある、世界樹は知ってるか?」

「ええ、伝説の存在です」

「まあ、伝説だなんて嬉しいわ」
嬉しいわって・・・この人も分かってらっしゃらないようですね。

「世界樹は俺の保護下にある、それには理由があってな」
世界樹に起きた出来事を、俺は二人に伝えた。

「そんなことが・・・」

「アイリスさん、辛かったですね」

「ええ、でも今はこうして楽しくできてます、守さんのお陰ですわ」
二人は理解してくれたようだった。

そんなこんながあり、宴会も終盤に突入していた。
俺は周りを見渡してみた。
レケがゴンに絡みまくっていた。
皆、和気あいあいと話に花を咲かせている。
うん、良きにはからってくれい。



翌日、朝食後に、畑作業にルイ君とリンちゃんが参加したいとのことだったので、遠慮なく参加して貰った。

ルイ君にとって、大地に触れることはいい経験になるだろう。
汚れてはよく無いと、作業着を貸してあげた。
こうして見るとルイ君も、ただの気の良い兄ちゃんにしか見えないな。
リンちゃんは作業着のサイズが無かったので、ささっと作ってあげた。

畑作業を終え、昼食の時間。

本日の昼食のメニューは、カレーライスだ。
何とリンちゃんは五杯も食べていた。
これはいよいよギルの記録を抜くかもしれない。
負けじとギルが六杯食べたことは、記録しておこう。

「畑作業はどうだった、ルイ君」

「大変勉強になりました」

「そうなのか?」

「ええ、この島には水道があるので、水やりには困らないかもしれませんが、魔法で水を撒くことを考えると、慢性的に魔力切れになることは、よくわかりました」

「実際に触れて見ると、分かることがあるってことだよな」

「はい、こうやって、僕たちの生活は成り立っているんだと、感慨深いものがあります、一次産業の人達への見る目が変わりますね」

「そうだな、一次産業が国を支えていることに気づくことは重要なことだ、権力者は絶対ここを間違えてはいけない」

「ええ、実感しました」
昼からは、島のアテンドだが、ゴンに任せることにした。

俺はマーク達と打ち合わせ。
既に温泉と繋がる街道も設置が完了した為、次の建設は何を行うかを検討中である。
するとマークから提案された。

「次は、護岸整備はどうでしょう?」

「護岸の整備か、それもいいな」
今のところ船は、ギルに海岸に打ち上げさせてる。これを続けると船の底が痛むかもしれないしな。

「ランドはどうだ?」

「俺は可能なら一度大工の街に帰ってみたいと思います」

「ほう、その心は?」

「俺とマークは、多少の大工の技術を持っていますが、やはりプロとは呼べんと思うのです。一度大工の街に帰って、改めて家の造りであったり、作業の内容を見てみたいと思うのですが、どうでしょう?」

「素晴らしい意見だな、ちなみに大工の街には神様はいるのか?」

「はい居ます。大工の神『ランドール』様です、俺もマークも面識があります」

「そうか、そのランドール様に俺も挨拶がしたいな。よし行ってみよう。ただ、マークが言う護岸工事を終えてから行こう」

「分かりました。ちなみに大工の街には、五郎さんが掘り当てた温泉がありますよ」

「なに?」

「何でも、五郎さんがふらっと立ち寄って、ここ掘れば温泉が出るからと言って、造ってしまったらしいんですよ」

「なんだそれ」

「ただ温泉があるだけで、旅館とかはないですけどね」

「あの人なにやってんだか・・・」

「でも随分と前のことですよ、俺が物思い着いたころには温泉はありましたからね」

「そうなんだ・・・まあいい、とりあえずは護岸工事に着手しよう、何かあったら言ってくれ、お前達に任せる」

「「了解!」」
五郎さん・・・なにやってんの?さすらいの温泉探索者ってところかな?
一通りの見学を終え、ゴン達が帰ってきた。

「島野さん、ここは楽園です。確信しました」
ルイ君は興奮気味の様子。

「私がここで働けるなんて、夢のようです」
だからリンちゃん言い過ぎですって。

「まだまだこの島の魅力はある、次に行くんだろ?ゴン」

「はい、主、いよいよです」

「そうか、いよいよか、俺も行こう」

俺達はまず風呂へと向かった。
シャワーに驚くルイ君、ここで驚いてもらっては困るな。
露天風呂の展望に感動し、テンションが上がっている様子。

そこから塩サウナに突入する。
リンちゃんの興奮が凄い、何でも巨人族は肌がガサつく人種だそうだ。
それをこんなにツルツルにできるのは、巨人族としてはあり得ない現象とのこと。
興奮が冷めやらないようだったので、水風呂を勧めた。

そこからサウナをサンセット行う。
完全に整いまくっている一同。
もう何も言うまい。
余韻を楽しんでいる。

「これは、なんて解放感なんでしょう・・・生まれて来てよかったと、始めて思いましたよ」

「ああ、幸せ・・・」
と感想を述べていた。

今日の晩飯も宴会の様相。
なにやらいつも以上に騒がしい。
急にこんな話になっていった。

「ところで島野さん、この島の名前はどうするんですか?」
ルイ君からのめんどくさい一言だ。

「ああ、どうしよっか?」
興味を引いた者達が、話に加わる。

「この島の名前か、そもそもこの島はなんて呼ばれてるんだ?」

「たしか捨てられた島、とか言われてましたね」
マークが思い出したようだ。

「そうだったね、この島の名前が無いなんて今さらだけど、ちゃんと付けたにこしたことは無いと思いますよ」
真っ当な意見のメルル。

「そうなのか・・・何が良いと思う?」
皆が一斉に手を挙げた。

次々にどうぞ。

「島野島」

「ボスの島」

「主の島」

「島野一家の島」

「創造神の島ですな」

「ピザの島」

「ダッシュ」
俺は即座に割り込んだ。
「ちょっと待てい、ノン!それ以上言うな・・・おまえ、グググ」
思いっきりノンを睨みつけてやったが、完全にふざけているノン。
こいつ、日本のテレビを持ち込むんじゃないよ、まったく!

リンちゃんが答えた。
「サウナ島ってどうですか?」
一瞬時間が止まったようだった。
その後一斉に

「それだな!」

「いいじゃないか!」

「リンちゃん、お手柄!」

「これしかないな!」
等と大騒ぎ、結果この島の名前は『サウナ島』ということになりました。

本当にこれでよかったのでしょうか?・・・まあ・・・嫌いじゃないけど・・・安易過ぎやしませんかね・・・サウナ島って・・・まあいいか・・・こいつら漏れなくサウナジャンキーだからな!
ということで、この島は今後『サウナ島』ということになりました。

めでたし、めでたし
護岸工事を指示してからおよそ三週間が過ぎているころ。
護岸工事もいよいよ大詰めを迎えている。
万能鉱石でコンクリートを使って作るのもありだが、マーク達に完全に任せていたので、それは行わなかった。
大小さまざまな岩や石を積み上げて、簡単な船着き場が出来つつあった。
凄い労力なのだが、やはりこいつ等は頼もしい。

船の横腹が傷つかないように、ゴムをタイヤ状にした物を『合成』で護岸に張り付けていく。
歩きやすいように『合成』をおこない、石の隙間を無くしていく、どうしても塞がらないところは、モルタルで埋めていった。
最後に、船が着岸した際に、ロープを括りつける様に、準備しておいた。キノコの様な形の鉄の塊を『合成』で二か所設置した。
これにて完成となった。

「お疲れさん、お前達」

「ありがとうございます」

「いやあ、はやく大工の街に行きたかったんで、気合入れてやりましたよ。これで故郷に凱旋できるな」
ランドが自慢げに言った。
なんとも頼もしい。
早速船を着けることにした。

「ロンメル、船を着けてみてくれ」

「了解」
ロンメルが、船を帆の角度を調整し、ゆっくりと船を進めて行く。

「もうちょっとだ」

「そろそろロープを準備してくれ」
指示に従いレケとギルが、ロープを取りに行った。
あと一メールぐらいで、着岸しそうだ。

「そろそろいいんじゃないか?」

「分かった」
というと、船頭からレケがロープをこちらに投げた。
ロープを受け取り、キノコ状の鉄の塊に括りつける。
船尾ではロープを持ったギルが、マークにロープを投げていた。
マークがこれも同じ様に、鉄の塊に括りつけている。

「よし、着岸完了!」
ロンメルが宣言した。

「「よっしゃー!」」
レケと、ギルが騒いでいる。
俺達は拍手で迎えた。
初めての着岸に、皆が沸いていた。

うん、いいじゃないか、これで船の劣化もおさえられるだろう。
それにしても、これだけの物を一ヶ月も掛からずに造るなんて、マークとランドには感謝だな。
ありがたいことです。
ということで、今晩は宴会だな。
多分レケがまた何かしら、やらかすだろうな。

「よし、じゃあ風呂でも行くか」

「そうしましょう」

「サウナで整いましょう」
皆で風呂に向かった。



『魔力回復薬』もその後、何度も打ち合わせを行い、全体的な概要が決まりつつある。概ね当初の計画道りといったころか。

計画の実行予定日は、ゴンとリンちゃんが卒業してからの為、まだ先のこと。
但し前さばきは必要であるし、後になってバタバタしたくは無い。
なので、出来る限りのことを前倒しに行う様に、打ち合わせを重ねているのである。

ゴンとリンちゃんとルイ君は、今はメッサーラの方で、何かと準備に奔走しているようだ。
これはこれで楽しみである。

これが、実行されると、島野商事に、またたくさんの利益をもたらすことになるが、唯一心配なのは、人手不足だった。
この島の暮らしのコンセプトの一つとして、ゆとりのある生活を送ることを掲げている。
それは何も金銭的なゆとりだけのことでは無く、時間のゆとりも重要な要素である。

今回の件は、需要があり過ぎることが予想されるので、そこを考えるとあと最低でも三人は欲しいと考えている。
どこかに信頼のおける者がいないだろうか?
実は考えている人選がいるにはいるが、こちらから声を掛けるのはちょっとどうなのか?という相手の為、今は静観している。
まあ、なんとかなるだろう。
人との出会いは、縁の問題だからな。
然るべきタイミングで、人が集まってくるだろう。
そうあって欲しいものだ。



大工の街に向かうことが決定した。
大工の街は『温泉街ゴロウ』から、空路で二日ほどのかかるのではとのことだった。
広大な高原を抜ける必要があるらしい。

そこで俺はズルをすることにした。
目に見える景色に『転移』で移動する、これを何度か繰り返すことで、距離と時間を稼ぐことにした。
要は『瞬間移動』を何度も繰り返すということ。
ランドとマークは転移酔いと言えばいいのだろうか、車酔いのような状態になり、何度か休憩を挟みながらの移動になった。
これにより、ものの半日で『大工の街ボルン』に到着した。
メンバーは俺とギル、マークとランドの四人だ。

街が見えてからは、歩いて移動した。
さすがに大っぴらに能力を見せるのは良くない。と考えたからだ。
歩きながら『大工の街ボルン』を眺めてみると、タイロンやメッサーラと違い、大きな石垣の門は無く。
簡単な木の柵が設けてあるだけの入口だった。
よく見ると、ところどころに獣よけの先の尖った木のある箇所もあり、ある程度の安全は担保されている様に伺える。

街の入口でチェックが入る。
マークとランドが先に入口に向かった。
警備員がどうやらマーク達の知り合いだったようだ。

「マーク久しぶりだな、お前ハンターは続けてるのか?」

「おお、久しぶり、いや今はハンターは止めたよ」

「そうか、おお!ランドも居やがるじゃないか?」

「ああ、久しぶりだな」

「相変わらずでかいな」

「そりゃあ身長は変わらんだろ?」

「間違いねえ」

「街の皆は元気か?」

「ああ、たいして変わったことも特に無いな」

「そうか、またよろしく頼むな」

「こっちこそ」
等と話していた。
当然の様に俺達は顔パスとなった。

入口を抜け、ボルンの街に入って行った。
中に入ると俺は目を奪われた。
見事としか、言い表せない家の数々。
そして、これはどんな家なのかを俺は知っている。
そう、日本にある家の造りだった。

「これは宮造りか?」

「あれ、島野さん宮造りを知ってるんですか?」

「知ってるも何も、俺の故郷の技術だぞ」

「そうなんですね」
釘を一本も使わない、木と瓦、そして畳で造られている家。そして所々に意匠がこらされている。
この家を見ると、不思議と心が落ち着く。
なんでも、宮大工は鉋一つとっても、何十種類も使うとか聞いたことがある。
でもここの神様の名前は、日本人の名前の響きとは違ったはず・・・どういうことなんだろうか?
とにかく宮造りの立派な家が多い。
ほとんどが平屋だが、柱も太く、家自体の存在感が重厚に感じる。

「どうします?飯にでもします?」

「そうだな、そろそろギルの腹の音がしそうだ、飯にしよう」
隣で歩いている、ギルを見た。

「そうそう、そろそろ鳴るよ」
といってお腹を擦り、ギルがお道化ている。

「「ハハハ!」」
お茶目な奴だ。

マークに促されるが儘に、後を付いていった。
屋根がからぶき屋根の家の前に来た。どうやら食堂らしい。

食堂に入り奥に行くと、畳の部屋があった。
久しぶりの畳の匂いに癒された。
メニュー表を見ると、どうやらここは蕎麦屋のようだった。

「マーク、この街には蕎麦があるんだな」

「ええ、結構いけますよ、頼んでみます?」

「ああ、そうしよう」

「じゃあ、僕もそれで」

「では俺も」
久しぶりの蕎麦、もちろんザルを選択。
流石に麺つゆは無かったので塩で頂く。
うん、これはこれでいいな。

ギルが一五枚も平らげていた。
流石は島野一家のフードファイターだ。
食事を終え、俺達は神様の所に向うことにした。



大工の神ランドールは、これぞ親方という感じではまったく無かった。
細身の偉丈夫といった感じだが、顔立ちは西洋人のそれであり、彫が深い。
そして瞳の色は青かった。髪の色も金髪で、長髪を後ろで束ねている。
いわゆるイケメンだ。否、超イケメンだ。
そこらじゅうから、黄色い声が上がっている。
その声を片手を挙げて受け止めている。
恰好は大工の格好で、靴も足袋を履いていた。
超イケメンの大工ってなんだよ・・・羨ましいじゃないか・・・それに黄色い歓声が凄いな。

マークに紹介された。
「ランドール様、お久しぶりです。マークです、紹介させてください。俺とランドがいま世話になっている。島野さんです」

「おお、マークにランド、久しぶりだな。そして、島野さんだったね、始めまして」
といって右手を指し出してきた。
握り返して、握手を交わした。
握手しただけで分かる、この手の質感、武骨な職人の手だ、間違いなく仕事が出来る人の手だ。
堅くて、ごつごつしているが、包み込むような感触もある。

「どうも始めまして島野と申します。よろしくお願いいたします。そして、こちらが息子のギルです」
ギルの背中を押して前に出させる。

「始めましてギルです、よろしくお願いいたします」
ランドール様はフレンドリーな方のようだ、ギルとも握手を交わしていた。

「実は、訳あって、神様に合う旅をしています」

「ほう、その訳とは?」
興味があるのか、少し表情が変わった。
俺達は座ることを勧められ、椅子に腰かけた。

「今は人化していますので、人間に見えますが、ギルは神獣のドラゴンなんです」

「へえー、そうなのか?」
ギルをまじまじと見ている。

「はい、僕は今はドラゴンキッズですが、大きくなればドラゴンになります」
おっ!ちゃんとドラゴンキッズと言っているな、普段は言わないくせに。
どうしたんだ?

「ギルの為になるのではと、神様巡りをさせて頂いています、ドラゴンの役目とかを教えて貰えればなと思いまして」

「そうなのか、あまり力にはなれないかもしれないな」
ランドール様は、すまなそうな表情をしていた。
でも協力的な神様のようだ。
ならば、後でお地蔵さんの件もお願いしよう。

「と、いいますと?」

「現存する神様の中でも、私は若い方なんだよ、まだ神になって五十年も経ってないんだ、だからあまり神としての、経験も知識も薄いほうでね」
ランドール様は頭を掻いていた。

「そうなんですね」
俺は『収納』からワインを三本取り出した。
まずはご挨拶がてら、こちらの印象を良くしましょうかね。

「よかったらこれ、お近づきの標にどうぞ」

「おお!ワインか、久しぶりにみるな、ありがとう、遠慮なくいただくよ。私はワインが好きでね」
受け取ると、後ろに控えていた弟子と思われる人に、ワインを渡していた。

「ギル君はドラゴンということだが、島野さんもドラゴンなのか?」

「いえ、俺は人間です」
驚いた様子。

「人間なのにドラゴンの親なのか?」

「はい、そうです。ギルを卵から孵したのは俺なので」

「えっ!人間がドラゴンの卵を孵したってのか?」
そうなんです、神気でちょちょっとね。

「はい、俺はその、ちょっと訳ありで・・・」

空気を読み取ってくれたのか、
「あまり立ち入らない方がいいようだね」
と言って視線を外してくれた。

「そうして頂けると助かります」
それにしても、言葉遣いといい、丁寧な対応をしてくれる神様だな。それでいて超イケメンって、文句のつけどころがないぞ。この人。

「そういえば、気になってたんですが、この街の家は宮造りですよね?」

「そうだが」

「どう見てもランドール様は、日本人には見えないんですが?」
ランドール様は目を見開いていた。

「日本人か・・・久しぶりに聞いたな、君は日本人なのか?」

「はい、そうです。転移者です」

「そうなのか・・・私は日本人ではないよ・・・日本人は私の師匠だった人だよ・・・死んでしまったけどね」
うつむき加減で、表情ははっきりとは見えなかったが、悲しんでいるようだった。

「そうなんですね」

「ああ、本当は私が神になることは、無いはずだったんだよ」

「と、いいますと?」

「実は私の師匠はリョウイチ・カトウといって、日本人なんだよ」
加藤良一さんってところかな?亮一?僚一?まあいいや。
間違いなく日本人だな。

「リョウイチ・カトウって思いっきり日本人の名前ですね」

「ああ、そのリョウイチ・カトウが、この宮造りを私に教え、ボルンの街に、広めた人なんだよ」

「なるほど」

「だか、あの人は酒にだらしがない人で、とにかく酒を手場離せない人だったんだ。ひどいときは仕事中でもこっそりと飲んでたよ、でも大工としての腕は一流で、宮大工の技術はあの人が広めたんだ。本当はあの人が神になるはずだったんだが、あの人は、俺は神になんかならねえ、死ねない身体なんていらねえとか言って、神になることを拒否したんですよ」
神になることを拒否したのか・・・なるほど・・・

「そんな人が居たんですね」

「ああ、結局酒の飲み過ぎで、血を吐いて死んでしまったよ」
価値観はその人次第ということか。
これで転移者は俺が知っているのは三名、全員日本人だ。
日本人多くないか?他の国の皆さんは何処へ?というより転移者はまず少ないと思うがどうなんだろう?

「あと、ランドール様、ちょっと聞きたいことが、あるんですが?」

「どうしたんだい?」
ご協力いただきましょうかね。

「この世界の神気が薄くなっていることを、知ってますか?」

「そうなのか?」
あれ?知らない?

「そうなんです、どうやら百年前ぐらいから、徐々に減っていってるらしいんですよ」

「百年前か・・・そこまで前だと分からないな」
そうかランドール様は、神になってまだ五十年ぐらいだって言ってたから、それより前の、充分に神気に満ちている状態を知らないのか。

「でも逆に、最近多少濃くなった様に、私は感じてるけどね」

「はい、実はいろいろ神気不足に取り組んでまして、出来れば協力して欲しいことがあるんです」
と言って『収納』からお地蔵さんを取り出した。

「これなんですけど」
と言って、ランドール様の目の前にお地蔵さんを置いた。

「おお!凄いな、君は石膏大工なのか?」

「いえ、そういう訳ではありません」

「なんという仕上がり、この街にピッタリじゃないか」
お地蔵さんをまじまじと見つめている。
目の色が変わり、大工のそれになっていた。
お地蔵さんに触れて、肌触りを確認している。

「実はこのお地蔵さんを数体持ってまして、街角や、街道筋に置いて貰えないかと思いまして」

「本当か?ありがとう!それは素晴らしい!」
興奮冷めやらぬ様子で、両手を掴まれて、ブンブンと振られた。
協力どころか、喜ばれてしまったよ、ハハハ。

「あと、この街に教会はありますか?」

「教会?教会は無いけど神社には、創造神様が祭ってあるよ」
へえ、神社ですか、いいですね。

「その像を改修させていただけませんかね?」

「おお!是非そうしてくれ、作業しているところを見学してもいいかい?」
目を輝かせていた。
職人魂に火がついてしまったかな?

「どうぞ・・・あまり参考にはならないと思いますが・・・」

「何を謙虚にしている、このお地蔵さんの仕上がりは、私が知る石膏大工の中でも一番の出来だよ、ハハハ」
褒めて貰ってなんですが、なんかすんません、一瞬で終わるんですけど・・・

「じゃあひとまず、お地蔵さんを五体寄贈させていただきます」
『収納』から残り四体のお地蔵さんを取り出した。

「島野さんは面白い人だね」
顔をぐいっと寄せられた。
なんだかいい匂いがしたのは気のせいか?
ていうか、顔近くない?

「いやいや、それほどでも」

「いや、島野さんは本当に面白いですよ」
マークが横やりを入れる。

「間違いないね」
ランドもお済付きをする。

「ハハハ、そうだろう、そうだろう」
やっと顔が離れた。
ふう、近くでみても超イケメンだな。女の子ならドキッとしたんだろうな。
あらやだ、なんつって。

「俺の事は置いといて、このお地蔵さんに祈りを捧げると、神気が放出されるんですよ『聖者の祈り』と言うんですが」

「そうなのか?」

「はい、神社に神主様はいらっしゃいますか?」

「ああ、居るよ」

「では神主様に後で祈って貰いましょう」

「分かった」
と言って、ランドール様は立ち上がった。

「じゃあさっそく、神社に向かいますか?島野さん」
マークが尋ねてくる。

「ランドール様がよろしければ」
と言いつつ俺も立ち上がる。

「行こう行こう、早く見て見たいものだ」

「では」
とマークが誘導する。

神社に向かうまでの途中でも、ランドール様への黄色い声は止まらなかった。
どこにいてもこの超イケメンに、女性陣はメロメロになっている。
いやはやこんな神様も居たんだね、やれやれ。

俺の若い頃は・・・特に何もなかったな・・・でも童貞ではないよ、決して・・・嘘じゃありません、三十歳の時には結婚を考えた方もいましたからね・・・結婚できなかったけど・・・
などとどうでもいいことを考えていると、神社に到着した。

これまた立派な宮造りの神社だった。
歴史的文化財レベルだ。
所々に施されている意匠が、巧の技がなせるものだった。
境内に植わっている樹木も、太く年季を感じさせる。
とても落ち着く雰囲気だ。
ここにいるだけで、神気を取り込めるような気分になる。
やっぱり日本人には教会よりも、神社の方がしっくりくるようだ。

さっそく、ご神体として祭られている、創造神様の石像へと向かった。
途中で、ランドール様が神主様を連れて来ていた。
石像の状態は、今まで見てみた物の中では、まだ益しな方だった。
ただ益しというだけで、全然創造神様とは似ていない、顔の造りが荒く、経年劣化のせいかところどころぼやけていた。

「それじゃあ、改修してよろしいですか?」

「頼むよ、道具は使わないのかい?」
職人の目で見つめられている。

「ええ、必要無いです」
では、さっそく。
『加工』の能力で、石像を改修した。

「な!どういうことだ?」

「なな、なんと!」
ランドール様と神主様がビックリしている。

「島野さん、君は何をしたんだ?」
怪訝そうな顔をしていた。

「俺の能力で石像を改修しました」

「能力?」
隣で、神主様が石像を拝みだした。

「ええ、それよりも」
と言って、神主様と石像に目を向けた。

「おいおい、本当に神気を放出してるじゃないか!」
まだ驚きは止まらないようだ。

「そういうことです、お地蔵さんでも同じことが起こりますよ」

「そうなのか?これは・・・何とも凄いな。私達神にとってはありがたいことだ」

「これで、少しでも神気不足を補えればと、皆に感謝です」
ボルンの街の皆さま、ご協力お願いします。

「そうだな、皆に感謝だな」

「おお!創造神様に見守られているようです。ああ・・・」
神主さんは周りの目を憚ることも無く、泣いていた。
隣に控える巫女さんも、感動して泣きだしてしまった。

「それにしても、島野さんは神じゃないのかい?」
片方の眉が挙がっている。

「厳密には人間です、ただ・・・訳ありで」

「そうだったな、詮索はしまいよ」

「そう言ってくださると助かります」

「でも先ほどの能力だが、あれはいったい何なんだい?」
やっぱり食いついてきたな。

「あれは、俺の能力の一つで『加工』という能力です」

「『加工』?」

「はい、そうです。頭の中でイメージした通りに加工できる能力です」
難しい顔をしているな。

「イメージか・・・」
ちょっと踏み込んでみるか。

「はい、ランドール様は大工の神様なんですよね?」

「ああ、そうだ」

「大工の能力を持っているということですよね?」

「そうだ、だが先ほど島野さんが行ったような能力とは、ちょっと違うな」

「どう違うんですか?」

「私の能力は、大工作業と製図や測量等に特化している。大工作業については、道具を使うことは出来るし、木材を運んだりも出来る」
概ね俺の想像道りだな。

「であれば、開発出来るんじゃないでしょうか?」

「開発?」
やはり、能力を開発しようと考える神様は少ないようだ。

「ええ、能力の開発です」

「能力の開発なんてできるのか?」
にしても食いつきが、半端ないな。

「可能と俺は考えています、現に俺は様々な能力を開発してますし」

「それはどうやって開発するんだ?」
これは本当は自分で考えて欲しいけど、ヒントは与えておこう。

「俺の場合はイメージを固めて、神気を流してみたりと、いろいろ試行錯誤して行っていますが、ランドール様なら、先ほど俺が行った『加工』なんかは類似性があるから、案外出来るんじゃないでしょうか?」

「類似性か・・・なるほど」
と顎のあたりを撫でながら考え込んでいる。

神様の昇進メカニズムについての、俺の意見は言わないことにした。
違う可能性もあるので、安易な発言は控えたい。
そんな会話をしていると、後ろに気配を感じ、振り向いたら。
神主様が何を勘違いしたのか、俺を拝もうとしだしたので、早々に退散した。
メタンだけで充分ですって。
足りてますから。ほんとうに充分です、勘弁してください。
はあ、まったく。



ランドール様とは別れ、俺達は温泉に向かった。
その温泉は、受付と、脱衣所、トイレと温泉といった。大変質素なものだった。
俺は受付で料金を払った、一人銀貨二十枚掛かった。
ちょっとお高くありません?
脱衣所へ向かう。
衣服を脱ぎ、いざ温泉にゴー!
洗い場が無かった為、掛け湯をしてから温泉に入った。
ちょっと複雑な気分。
うう、体が洗いたい。
湯舟の汚れは大丈夫なのか?
気にせず入ろう、郷に入ればなんとやらだ。
意を決して温泉に入った。

「ふうー」
思わず声が漏れる。
先程までの気分は吹き飛んでいた。
温泉って不思議だね。

「いやー、久しぶりにここの温泉に入りましたよ。気持ちいいですね」
ランドが話しかけて来た。

「よくこの温泉には、入りに来てたのか?」

「いやいや、本当に時たまですよ、なにせ家族五人で金貨一枚は、庶民には高いですよ」

「そうだよな、ちょっと高いよな」

「まあでも、ここの売上が、この街の公共事業に使われる資金になってますので、今となっては、文句はいいませんがね」

「なるほどな」

「でもここに住んでたころは、高い高いって、文句ばかり言ってましたけどね」

「そうか、今じゃあ島では毎日タダで入れるから、大助かりだな」

「ほんとです、島の暮らしは、俺やマーク達にとっては、夢のような生活です」

「言い過ぎだって」

「島野さんは言い過ぎだってよく言いますけど、本心から俺達は想ってますからね」
そう言って貰えると、嬉しくなるじゃないか、ハハハ。

「そういやあ、ランドール様は凄いな」
話を振ってみた。

「何がですか?」
不思議そうな表情のランド。

「超イケメンで、丁寧な対応で、人気もあって、仕事も出来るって、パーフェクト超人だな」

「パーフェクト超人ってのは、よく分かりませんが、確かに仕事は出来て、尊敬できる人ですがね、こっちの方が・・・」
といって小指を立てていた。

「もう酷いもんですよあれは、節操がないです」
あらー、それは残念ですねえ、それはいかがなもんでしょう・・・けどちょっと良かったと思う俺は小市民だな。
人の欠点を知ってそう思うなんて・・・まだまだ神への道は遠いですな、ハハハ。

「島野さん、ちょっといいですか?」
マークが割り込んできた。

「どうしたマーク?」

「少し長くなりますが、一週間ぐらいこの街に滞在してもいいですか?」

「ほう、それはどうしてだ?」

「今日訪れた神社なんですか、島に建ててみたいなと思いまして」

「島に神社をか?」

「はい、そうです」
これはまたメタンが発狂しそうな話だな。
大丈夫かな?

「俺としては構わんが、どうしてそう思うんだ?」

「ええ、島の俺達のコミュニティーは、規模は小さくとも既に村になっていると思うんです」

「そうだな、俺も村だと考えている」
現に村でしょ?違ったかな?規模小さい?

「であれば、神社の一つもあった方が、良いんじゃないでしょうか?」
なるほどな、こういう考え方は好きだな、流石はマークだ。
またこいつらに、任せてみようかな。

「そうだな、でもメタンが興奮して大変なことになるんじゃないか?」

「ハハハ、でしょうね。まあそれは気にせんでもいいでしょう。ハハハ!確かに!」
豪快に笑っている。

「それでせっかく造るなら、宮造りの格式あるものにしたいので、勉強したいと思いまして」
宮造りの神社か、五郎さんも驚くだろうな。
儂の温泉街にも造ってくれって、言いそうだな。

「いいじゃないか、任せるよ、でも一週間で足りるのか?」

「ひとまずは一週間で頑張ってみます、もしかしたらもうちょっと掛かるかもしれませんが・・・」

「ああ、好きなだけ時間をかければいいさ、せっかく造るんだ、納得のいく物を造ろうじゃないか」

「ありがとうございます」

「島野さんならそう言ってくれると思ってましたよ」
こいつらは本当に頼れる奴らだな。
ありがたいのはこっちの方だよ、まったく。
隣を見るとギルが考えこんでいる様子だった。

「どうした?ギル」

「ん?ああ、ごめんパパ、これまでいろいろな神様に会ってきたけど、結局僕はまだ何をしたらいいか、分からないなと思って」
当然の疑問だろうな。

「焦る必要はないさ、ゆっくりのんびりやっていこう」
そう、ゆっくりのんびりとね。

「そうだね、そうしよう」
ちょっとギルを真面目に育て過ぎたかな?
でもこれもこいつの良いところなんだよな。
このままのびのびと育って欲しいものです。

「そろそろ出るか?」

「そうしましょう」
俺達は温泉を後にした。



露天風呂を出て、ひとまず晩飯を取ることにした。
ここもマークとランドにお任せした。

「島野さん、簡単な定食屋でどうでしょう?」

「ああ、任せるよ」
マーク達に着いて行く。
定食屋に入ると、ランドール様が居た。二人の女性を引き連れて。
ランドール様は、鼻の下を伸ばし、下卑た口元をしていた。
あれが、あの超イケメンなのか?
引くほど下品な顔をしているぞ。
挨拶をしたが、下心見え見えの表情を隠そうともしなかった。
これが、彼の本当の姿なのかもしれないな・・・多分そうだろう。
おお、なんだか見てはいけない物を見てしまった気分だ。
話には聞いてはいたが、ランドール様の株が急降下してしまっているぞ。

椅子に腰かけ、メニュー表を見る。
「さて、何にしようかな?」

「おれは、鮭定食で」
マークがさっそく決めている。

「お!鮭があるのか?」

「ええ、この時期に限りますが、街から少し降った川で採れるんですよ」

「それはいいな、帰りに鮭を売っている所を教えてくれないか?」

「わかりました」

「じゃあ俺も鮭定食」

「僕も」

「じゃあ俺も」
よしよし、鮭が捕れるのなら、また食の幅が広がるぞ。
何を作ろうか?
楽しみだな。

鮭定食は、切り身の鮭にお米と、すまし汁だった。
お米とすまし汁の味が物足りないが、しょうがない。
島の食事に慣れ過ぎているからね。

「あ、そうそう、二人とも、大工道具とか必要な物があったら買っておいてくれるか?もちろん島のお金でな」

「いいんですか?」
マークが答えた。

「ああ、後でお金は渡しておくよ、宮大工となると、今の島の道具だけでは無理だろう?それに個人で買うのも有りだけど、島の為の施設を造るんだからさ」

「ありがとうございます。確かに、鉋だけでも何個か欲しいと思ってました」

「それに、わざわざ道具を造るのもいいけど、買って済むなら、それはそれでいいんじゃないか?」
面倒なだけなんですけどね。
まあ、時間の節約ということで勘弁してくださいな。

「そうですね」

「どれぐらい要りそうだ?」
俺は大工道具の値段は流石に分らんからね。

「ちょっと、検討が付かないですね」

「じゃあ、とりあえず金貨百枚ほど渡しておくよ、足りなかったら悪いけど立て替えてくれるか?」
検討つかないか、ピンキリなんだろうな。

「分かりました」

「ちょっといいですか?」
ランドが間に入ってきた。

「どうした?」

「この街で手に入れるのもいいんですが、鍛冶の街ならもっといい物が手に入るかもしれないですよ」
鍛冶の街?なんか聞き覚えがあるような気がするな。

「そうなのか?」

「はい、やっぱり鍛冶仕事となると、ドワーフが造った物が、丈夫で長持ちしますからね」
出ましたドワーフ!酒好きのちっさいおじさん達だな。

「そうか、まあとりあえずここでしか手に入らない物もあるだろうから、そういった物を中心に購入しておいてくれ、鍛冶の街はまた後日行ってみよう」

「そうしましょう」

珍しいことに、ギルが話に割り込んできた。
「ねえパパ、話は変わるけど、さっきランドール様を見たけど、昼の時とは大違いの顔をしてたよ、何あれ?」

「もしかしたら、あれが彼の本当の姿かもしれないな」

「間違いないな」
ランドも賛成のようだ。

「ちょっと、ショックだよ、カッコいい神さまだと思ったのに」
それであの対応だった訳ね。

「まあ、そう言ってやるなよギル、あれでいて仕事の腕は本物なんだから」
マークがフォローしている。

「誰でもなにかしら欠点はあるもんなんだよ」

「そんなもんなのかな?」

「そんなもんだ」
やれやれ、憧れの先輩が、実はただのスケベな兄ちゃんだったなんて、ショックだよな。
たのんますよ、ランドールパイセン。

その後、鮭を十匹購入し、島に帰ることにした。
島の皆は、気に入ると同じ食事を催促されるので、多めに購入した。
翌日の朝には、鮭定食をお披露目した。
そこからは鮭メニューのオンパレードが続く、鮭のムニエル、鮭とシメジとバターの炊き込みご飯、鮭とキノコのガーリック醤油炒め、鮭の味噌マヨ蒸し、等々。
結局三日後には、すべての鮭が無くなっていた。
また買いにいかないとね。
残念ながら、いくらは無かった。
ちょっと時期が早すぎたのかな?

魚が苦手なノンもたくさん食べていた。
苦手な理由は簡単だ、骨があるからだ。
なんとも贅沢な話だ。
調理前に骨を丁寧にとってくれた、料理番の皆さんに感謝しなさい。
ほんとにあいつは・・・

島に季節はないが、久しぶりの秋の味覚を堪能できました。
御馳走様でした。

一週間が経ち、マーク達を迎えに行くことにした。

ボルンの街に着いてみたのはいいが、待ちあわせ場所を決めていなかったことに気づいた。
やってしまったー。
頭を抱えるも、後の祭りである。
ひとまずは聞き込むしかない。
まずは街の入口の警備兵に尋ねてみた。

「マークとランドを探していいるのですが、どこにいるかご存じですか?」

「どうかな、実家にいるんじゃないかな?」

「実家ですか、場所は分かりますか?」

「ああ、それなら・・・」
マークとランドの実家の場所を教えて貰った。
俺とギルは聞いた通りに街を進んでいく。

改めてボルンの街を見てみた。
活気にあふれたいい街だと感じる。
種族は人間と獣人が多い、たまにエルフを見かけるぐらいか。
俺にとっては、日本を感じる気持ちの良い街だ。
宮造りの家は見ているだけでも、心が落ち着く。

「パパ、ランドール様が居るよ」
ギルに教えられた方向をみると、ランドール様がエルフの女性をナンパしていた。

「ギル、見なかったことにしよう」

「そうだね」
俺とギルは、知らぬ振りをして、通りすがった。
真昼間から何やってんだか・・・パイセン!
ギルも呆れた顔をしていた。

教えられたマークの家に着いた。
マークの実家も宮造りで、立派な門構えの家だった。
こちらの世界の玄関での取り扱いは、分からないが、ノックでいいだろう。

コンコン!
奥から声がする。
男性の声だ。
足音が近づいてきた。
引き戸の扉が開かれる。
出て来たのは、マークによく似た、細身の初老の男性だった。

「突然すいません、島野と申しますが、マークはいますか?」
男性が目を見開いた。

「あ、あなたが、島野さんですか!マークがお世話になってます!さあ中にどうぞ、どうぞ!」
いきなり熱烈な歓迎をされてしまった。

「あの、マークはいますか?・・・」

「ああ、すいません、すいません、奥におります、いやー、マークから聞いてますよ、命を救って頂いただけでなく、とても良くして貰っていると、ささ中にどうぞ」
こうなってしまっては、入らざる負えないな。

「じゃあ、お言葉に甘えて」

「遠慮なくどうぞ、今お茶を準備させますので」
俺とギルは、家の中に入ることにした。
なんだかな・・・
ドタドタと音をさせながらマークが現れた。

「島野さん、なんかすいません」

「いやいいんだ、待ち合わせ場所を指定しなかった俺が悪い、気にしないでくれ」

「俺も別れてから気づいたんですよ」
すまなそうに頭を下げるマーク。

「今のはマークの親父さんか?」

「ええ、そうです。なんだか浮足立ってしまっているようで、申し訳ないです」

「お前、俺のことをなんて話してるんだ?熱烈に歓迎されてるじゃないか?」

「いや、そのまんまですよ、ありのままです」

「ありのままって・・・まあいいや、でランドはどうしてる?」

「あいつも実家に居るはずです、呼んできましょうか?」

「いや、それは止めてくれ」
マークの親父さんの相手を俺がすることになるじゃないか!
あの勢いで来られたら敵わんぞ。

「で、状況はどうなっている?」

「ええ、何とかなりそうです、ただもう少し宮大工の技術を取得したいですね」

「そうなのか?」

「はい、実はランドール様に製図を作って貰ったんです」

「本当か?お礼しないとな」

「いや、それは良いと思います。島野さんと出会えて良かった、能力の開発という新境地を教えて貰ったと、恩に感じているようですから」

「そういう訳にもいかんだろう」
まあ、あのナンパしてる姿を見ると、それでもいいかと思ってしまうが・・・こういう事はちゃんとしないとな。
お礼は何にしようか?
等と考えていると、マークの親父さんがお茶を持って現れた。

「いやあ、家の息子が大変お世話になっている方にお会いできるとは、思ってもいませんでしたよ、ハハハ」
頭を掻くしかなかった。

「しかし、実際会ってみるとマークが言う通り、ただのお兄ちゃんにしか見えないですね」
だたのお兄ちゃんって、なんだよ!

「お兄ちゃんですか・・・ハハハ」
マークのやつ何を話したってんだよ!
正直この先の会話が怖い。

「こいつが言うには、島野さんは創造神様の再来かもしれないって、いう話じゃないですか。それに滅茶苦茶強いって」
ああ、今すぐ頭を抱えたい・・・それに帰りたい。
マークめ!あっ!こいつ目線を反らしやがったな。

「いえいえ、そんなことは・・・」

「それに、随分と稼がせて頂いているようで、ありがとうございます」

「いえいえこちらこそ、マークは頼りにさせて貰ってますので」

「ほう、こいつが頼りに、いやー嬉しいことです。今後とも愚息をよろしくお願いいたします」

「そんな愚息だなんて、ほんとマークは頼りにしてるんですから」

「いやいや、そんなそんな」

「せっかくですので、お茶を頂かせていただきます」
なんだろう・・・俺は家庭訪問をしているのか?
中学校の教師の気分だな、多分・・・
早く次に行きたいんだが・・・
お茶を啜った。
少し熱いな。

すると救いの手が現れた。
玄関から声がする。

「マーク、いるか!」
ランドの声だ。

「ああ、こっちだ上がって来いよ」

「ちょっと待った!そろそろ時間じゃないか?マーク?」
意味深にマークを見つめる。

「そ、そうですね。じゃあいきましょうか?」
伝わったようだ、よかった。

「ああ、そうしよう」

「えっ!島野さんもう行かれるので?」

「すいません、先を急いでますので」
嘘である、急いでなんかいない、早くこの場から離れたいだけです。

「そうですか残念です、いろいろお話をお聞きしたかったのですが・・・」

「まあ、またということで・・・」
申し訳ないとは思うが、早くここから立ち去りたいんですよ、ごめんなさいね。

「じゃあ、またお会いしましょう」
と言って、右手を差し出した。
思った以上に強く握り返された。

「ではまた、お茶美味しかったです、それでは」
そそくさとマークの実家から離れていった。
なんだか一気に疲れてしまった。

横にマークがいた。
マークの脇腹に軽く肘鉄を当ててやった。

「う!」
俺は目線も合わせずに歩きだした。
あー、すっきりした。
打ち合わせに茶屋に入ることにした。

メニュー表を眺める。
お茶と茶菓子しかなかった。

「じゃあ、お茶をください」

「「「俺も」」」
はあ、一息着こう。
さて、気分を変えないとな。

「で、状況を教えてくれ」

「はい、大工道具はこの街でしか手に入れない物は、大体確保できました」
マークが答える。

「後は、やはり鍛冶の街で揃えたいのがいくつかありますね」
今度はランドが答えた。

「そうか、資金は足りたか?」

「ええ、充分に足りてます」

「で、どうする?直ぐにでも鍛冶の街に向かうか?」

「そうですね、俺は構いませんが、お前はどうだ?マーク」
ランドが答える。

「構わない」

「島野さん、あともう一週間修業させてください」
ランドはまだ修行がしたいようだ。

「いいぞ、じゃあ一度ランドール様にお礼を言ってから向かおうか」

「そうですね」
ここでちょうどお茶が運ばれてきた。
直ぐにお茶を飲んで、会計を済ませて店を出た。

ランドール様のところに向かった。
ランドール様は普通に、仕事モードで俺達を迎えてくれた。

「ランドール様、製図を作製いただいたようで、ありがとうございます」

「なにそれしきのこと、君に貰ったアドバイスの方が私にとっては大きな物だよ、気にしないでくれ」

「いえいえ、そうはいきません」
と言って、俺は『収納』からトウモロコシ酒を差し出した。

「こ、これは一体なんだね?」

「トウモロコシ酒です、かなり酒精が強いので薄めて飲んでください」
ランドール様の目が輝いている。
どうせなら、落ちるところまで落ちてしまえ、このイケメンめ!
ランドール様の顔が、下卑たにやけ顔になっていた。
それをギルがジト目で見ている。
それを感じ取ったのか、真面目な顔になったランドール様。
もう遅いって・・・欲望が駄々洩れなんですって。

「ああ、ありがとう、薄めて頂くことにするよ」
と言ってトウモロコシ酒を受け取っていた。
今回は弟子には渡さず大事に抱えていた。
この人は・・・まあ何とも・・・好きに生きてくれい!
ランドール様の所を後にした。



鍛冶の街には空路で東に二日だが、ここでも俺達はズルをした。
半日も掛からなかった。
ランドとマークはまた転移酔いになり、何度か休憩を挟みながらの移動になった。
鍛冶の街はフランというようで、山を切り崩して造った、街のようだった。
標高はそれなりに高く、俺にはちょっと肌寒かった。
『収納』から上着を取り出して、ジャケットを羽織る。
街の城門は重厚な扉に阻まれており、タイロンの城壁よりも高い城壁がこの街を覆っていた。
外から見る景色としては、工業都市といったら分かり易いであろうか、至る所に煙と円筒が見える。
その城門で俺達はチェックを受けている。
入場は速やかに行われた。

街の中に入って眺めてみる。
ちょっと薄暗い印象を受ける。
城壁の高さがそうさせるのか、石造りの街がその印象を強くさせるのか、どちらなのかは分からない。
でも、街は活気に溢れており、決して印象は悪くない。
それにしてもドワーフが多い、たまに獣人や人間を見かけるが、ドワーフの国と言ってもいいほどに、ドワーフに満ち溢れていた。

「まずは何処かで昼飯にするか?」

「そうですね、そうしましょう」
マークが答える。

「もう転送酔いは大丈夫なのか?」

「ええ、だいぶ落ち着いてきました」
お店はどこがいいだろうか?
適当に選ぶしかないか。

「マークとランドはこの街には来た事はあるのか?」

「ええ、ありますよ」
ランドも頷いている。

「お勧めの飯屋とかないのか?」

「そうですね、上手い肉料理を出す店がありますね」

「じゃあそこに行ってみよう」

「では、付いて来てください」
マークに付いていった。
賑やかなお店だった。
テーブルの数も一五台あり、全てが四人掛けだ。
八割近くの席が埋まっている。
客のほとんどがドワーフで、昼間から酒を飲んで大騒ぎしている集団もあった。

「賑やかな店だな」

俺の呟きにランドが答える。
「ええそうですね、この街の飲食店は、だいたいこんな感じですよ」

「そうなのか?まあ嫌いじゃないがね、注文は任せてもいいか?」

「分かりました、任せてください」
ランドがウエイトレスさんに手を挙げた。
こちらに気づきウエイトレスさんがやってきた。

「注文していいですか?」

「ブルのステーキを四人分と、パンを四人分、あとお勧めのスープを四人前お願いします」
ウエイトレスさんが立ち去っていった。

「この先の予定だが、できればこの街の神様に会いたいな、その後で大工道具を買いにいこう」

「そうですね、鍛冶の神様の居所は道すがら聞いてみましょう」

「そうだな、そうしよう」
それにしても賑やかだな、昼間から酒飲んで騒いでって、体に良くないぞ。
まあ俺も似たようなもんか、朝からサウナに行って、帰ってからビール飲んで昼寝して、夕方にまた風呂に入って仕切り直して、また晩飯と共にビールを飲む。やってることは一緒だな。

鍛冶の神様か、どんな物を造っているんだろうか?
もしかして刀とか売ってたりして、刀があったら一本買っておくか?
いや使い道は無いし、贅沢品だよな。
ハンター達は防具とか盾とかいろいろ買う物があるんだろうな。
マーク達は大工道具以外は、欲しくないのかな?

「マークにランド、大工道具以外でも欲しい物があったら言ってくれよ」

「大工道具以外ですか?」
マークが答える。

「ああ、防具とか盾とか、剣とかさ」

「いやー、今の俺達はハンターを引退してますので、特に欲しいとは思わないですね」

「ええ、俺も特にはないですね」

「お前達はハンターには戻らないのか?」
ランドとマークが顔を見合わせている。

「ハハハ!島野さんなんの冗談ですか?戻る必要なんてないですよ、なあランド」

「ええ、俺は全く未練はありませんよ、それどころか本音を言えば戻りたくないですよ」

「そうなのか?」

「そうですよ、サウナ島での暮らしは快適だし、ハンターの様に危険はありませんし、給料だって充分に貰ってます」

「そうですよ、今となってはサウナ島を離れるなんて選択肢はありませんよ」

「そうか、そう言って貰えると助かるな、でもサウナ島でも獣はいるから、狩りがしたいとか思わないのか?」

「それは時々ありますけど、ノンが居ますし、俺達ではついていけませんよ」

「ええ、一度ノンの狩りに同行したことがありますが、ノンはかなり速いですし、獣の弱点を知っているのか、ほとんど一撃で倒しますからね」

「へえ、そうなんだ」
最近あいつに、あまり構わなくなったから知らなかったが、強くなってるみたいだな。
そろそろまた稽古でもつけてやろうかな?
逆に負かされちゃったりして。
気が付くと、ウエイトレスさんが食事を運んできた。

「じゃあ、飯にするか」

「「いただきます!」」
ブルのステーキは食べ応えがある、なかなかのボリュームだ。
味付けはシンプルに塩とこれはハーブ類の何か、食欲をそそるいい匂いがする。
パンは固めだ、顎が痛くなりそうだ。
スープはトマトスープだ、なかなかコクがあっていい味だ。
何かの出汁が入っているな、何だろう?

いかんいかん、純粋に食事を楽しもう。
パンはスープに浸して食べることにした。
お腹一杯になった。
ギルはブルのステーキを五回お替りしていた。
この体のいったいどこに入るのだろうか?
決してお腹は出ていない。
毎度毎度よく食うことで。
たんとお食べ。

「さて、行くか」

「「御馳走様でした!」」
お店を出て、街の散策がてら神様の所在を尋ねた。
マークが女性のドワーフに話し掛けている。

「すいません、この街の神様にはどこに行けば会えますでしょうか?」

「神様?ゴンガス様のことかい?」

「ええそうです」
とマークは、同意する。
ゴンガス様か、不思議な響きの名前だな。

「ゴンガス様なら『鍛冶工房ゴンガス』にいるよ」
鍛冶工房の場所を聞いて、ドワーフの女性にお礼を言った。
俺達は鍛冶工房を目指した。

鍛冶工房は大きな倉庫の様な造りをしており、天井には大きな煙突がある。
建物は石造りであった。
鍛冶に火を使う為、木製という訳にはいかないのだろう。
倉庫の前でも熱を感じた。現在釜の使用中といったところか。
入り口は二つあり、作業場とお店を兼ねているようだ。

お店の方に尋ねてみることにした。
お店の中は広く、様々な防具や、剣、鎧などが展示されており、全ての商品がピカピカに磨きあげられていた。
その奥に向かうと、大工道具や、調理器具等が展示されていた。
ここで目を引く一品があった。
包丁だ、これは業物だ。
刃の部分が光を反射して光って見えた。
値段を見て見ると、金貨五枚となっていた。
ちょっと、手を出しづらいな。
包丁に五万円は、流石に止めておこう。
受付の女性に声をかけることにした。

「鍛冶の神様に会いたいんですけど、いらっしゃいますか?」

「いますけど、今は作業中ですので難しいですね。作業中は声を掛けると怒られてしまいますから」
受付の女性は肩をすぼめている。

「そうですか、それは残念です」

「多分、まだまだ掛かると思いますよ」

また後で顔を出すとするか。
ひとまずお土産だけでも渡しておこう。
『収納』からワインを三本取り出した。
ワインを受付の女性に渡す。

「また後で伺います、これはお土産ですので、鍛冶の神様に渡しておいてください」

「まあ、これは美味しそうなワインですね、あなたのお名前は?」

「島野といいます」

「島野さんね、分かりました、渡しておきます」

「よろしくお願いします」
俺達は工房を後にした。

「しょうがないな、先に買い物をすませようか?」

「そうしましょう」
お店を見て周ることにした。

どこの店でもハンター用の防具などが展示してあり、その脇で大工道具などが展示されていた。
マークとランドは積極的に、大工道具を見て周っていた。
どうやらハンターには本当に未練が無いようだ。防具や武器等には全く目を向けていなかった。
逆に武器等に俺は興味を覚えた。
本当にいろいろな武器がある、剣、大剣、細身の剣、槍、弓、小刀、こん棒、等様々だ。

防具は皮で出来たものが多く、胸当てや籠手などが中心だ。
鉄の鎧もあったが、これを着るのは大変そうだ、とても重そうに見える。
兜はほとんど見かけなかった。
対人戦闘を考慮していない、ということなんだろうか?または、獣は飛び道具を使わないからか?
靴はブーツがほとんどで、中に鉄板を仕込んである物もあった。
安全靴といったところなんだろう。

一つ変わった剣を見つけた。
持ち手の所に丸い穴が開いてる。

「ランド、これはなんでここに穴が開いてるんだ?指を引っかけるとかするのか?」

「これは多分魔法剣ですね、この穴に魔石を嵌めて使うんだと思います。俺は使ったことはないですが」

「なるほど、魔石を嵌め込んで剣に魔法を付加する訳か、さすが魔法のある世界だな」

「ただ、剣を使う職業の者が、攻撃魔法を使えることは稀ですので、ほとんど出回ってませんがね」

「そうか、魔法剣士は滅多にいないってことだな」

「その通りです」
確かにマークも、ランドも攻撃魔法は取得して無かったな。
ノンならどうだろう?人型で狩りをしているのだろうか?
まあでも、ノンが剣を振り回す姿は創造しづらい。
結局五軒梯子をし、大工道具もほとんどが手に入ったようだ。
お店を出ると、既に夕方を迎えていた。

「島野さん、これで大体は揃いました、もう大丈夫です」
ランドが笑顔で言った。

「そうか、じゃあもう夕方だし帰るか?」

「一応、ゴンガス様の所を見に行ったほうが良くないですか?」

「ああそうだったな、買い物に気を取られていて、忘れていたよ」

「じゃあゴンガス工房に向かいましょう」

「そうだな」
再びゴンガス工房を目指した。

中に入り、受付の女性に声を掛けた。
「あらさっきの、居ますよ」
と言うと、何故だかニヤリと笑っていた。
受付の女性は、受付の裏に入っていった、どうやら神様を呼びに行ってくれたようだ。
すると、ドタバタと音がしたと思ったら、ドワーフが飛び出してきた。

「お前さんか?!」
ぼさぼさ髪の、長い髭を蓄えたドワーフだ。
身長は百四十センチぐらいしかないが、がっちりマッチョの体形をしている。

「はい?」

「このワインを造ったのは、お前さんか?」
お土産に渡したワインボトルを片手に挙げ、興奮気味に聞かれた。

「ええ、そうですが・・・」

「そうか!そうか!無茶苦茶上手かったぞ、もう全部飲んでしまったわい、ガハハハ!」
豪快に笑っている。

急に素に戻ると
「もう無いのか?」
と尋ねられた。

「ワインのことですか?」

「ああ、そうだ買ってもいいぞ」
どうしたもんか?デジャブだな、ゴンズ様の時もこんな感じじゃなかったか?
でも断れんよな?

「ええいいですけど、何本要りますか?ちなみにワイン一本銀貨三十枚です」

「銀貨三十枚か?」
髭に手をやり、考え込んでいるようだ。

「そうだな、ひとまず十本だな」

「ひとまずで十本ですか?」

「ああ足りんぐらいだ、こいつも気に入ったようだからな」
と言って受付の女性を見ていた。
はあ?仕事中に飲んだのか?
ドワーフ遅るべし。
『収納』からワインを十本取り出した。

「金貨三枚になります」
ゴンガス様から金貨三枚を受け取った。
毎度あり!
でいいんだよね?・・・

「ちなみにもっと酒精の強い酒は無いのか?儂はもっと酒精が強いのが好みでのう」

「そうですね、トウモロコシ酒があります」

「トウモロコシ酒?聞いたことが無いな」
『収納』からトウモロコシ酒を取り出して、ゴンガス様に手渡した。

「どれどれ」
と言うと、蓋を開けてグビグビと飲みだした。
豪快にもほどがあるでしょうが、喉が焼けるぞ。

「プハー!、これは良い、これぐらいなくちゃあな!喉が焼けるのが心地いい」
心地いい?嘘でしょ?

「おお悪いことをした、いくらだ?」

「いや、いいです。差し上げますよ」

「そうか、ありがたい、では遠慮なく貰っておく」

「どうぞ・・・」

「ここじゃあなんだ、奥で話を聞こうか?」

「えっ!よろしいので?」

「ああこれほどの酒を作れる奴に、悪い者なんかいないからのう、遠慮するな、中に入ってこい」

「では、遠慮なく」
俺達は奥に通された。
ダイニングといった所だろうか、机に椅子が八脚あり、食事中だったのか、食事と空になったワインボトルが転がっていた。

「適当に座ってくれ」
俺はゴンガス様の正面に座り、俺の隣にギルが座った。
マークとランドは、ゴンガス様の両隣に腰かけた。

「まずは自己紹介させてください、俺は島野といいます」

「僕はギルです」

「俺はマークです」

「ランドです」

「そうか儂はゴンガスだ、でどういった用件なんだ?ああ、お前さん達も飲むか?」

「いや、止めときます」
手を出して制した。

「そうか」

「まずはギルなんですが、今は人化してますが、ドラゴンなんです」
ゴンガス様は眉を潜めた。

「ドラゴン?・・・エリスの息子か?」

「エリス?」

「違うのか?」

「あ、いや」
エリスって誰?

「エリスって誰でしょうか?」

「儂の知るドラゴンは、エリスしかおらん、だから聞いてみたんだ」

「エリスというドラゴンがいるんですね?」

「ああ、だかもうかれこれ二百年近く、会ってないがな」

「そうなんですか・・・」
ギルを見ると、なんとも言えない複雑な表情をしていた。

「他にもドラゴンはいるんでしょうか?」

「いるんだろうが儂は知らんな、竜族は少ないと思うが、その存在自体が貴重だからな」

「貴重ですか?」

「ああ、竜族は世界に平和を与える種族と言われておる、何処だかは忘れたが、竜族を祭る村が確かあったはずだ」

「竜族を祭る村ですか・・・」

「それに竜族は生まれながらにして神の力を宿しておるし、魔法も使える、奴らは神獣だからな」

「そうですね、それは知ってます」

「エリスはたまたまこの街にやってきてな、儂とも気があって何度か酒を酌み交わした仲だ、何処でどうしておるのやら」

「ゴンガス様、そのエリスって人はどういう人なんですか?」
ギルが尋ねた。
エリスが気になるのだろう。

「エリスは儂と一緒で大酒飲みでな、腕力も強く豪快なやつだったな。明るい性格で、皆から好かれておったよ」

「そうなんですね」
ギルの目が輝いている。
どうやら嬉しいようだ。

「それでもって人情に厚く、よく人助けをしていたな、ただ放浪癖があって、いきなり現れたと思ったら、直ぐにどっかに行ってしまう。落ち着きが無いと言ったほうがいいかもしれんな」

「へえー」

「まあ今はどうしておるかは知んが、で、どうしてドラゴンがお前さんと一緒におるんだ?おまえさんは人間だろ?」

「ええ、実はギルは俺達が住んでいる島に居まして、最初は卵だったんですが、俺が孵化させたんですよ」

「はあ、おまえさんも神なのか?」

「厳密には人間ですが、神の能力を使えます」

「神の能力を使えるって、それはもう神だろ?」

「ステータスを見ると人間なんですよ」

「ほう、変わった存在だな。儂も神になって三百年近くになるが、そんな話は聞いたことがないのう」

「それで、ギルは俺の息子なんです」

「なるほどな」

「神様に会って、いろいろと勉強させて頂ければと思いまして、神様を尋ねているんです」

「神様行脚してるってことか?」

「はい、そうです」

「それで、何か学べたのか?」

「いえ、まだまだ分からないことだらけです」

「そうか儂もドラゴンのことは、エリスのことぐらいしか知らんな、悪いなギル」

「いえ、僕以外にもドラゴンが居るって、分かっただけでも嬉しいです」
ギルがニコニコしていた。

「儂もお前さんに聞きたいことがある」

「なんでしょう?」

「儂は好きが高じて、鍛冶の能力だけでなく酒を作る能力も持っておる、ここ最近では、酒の神なんて言われることもある。この酒だが、そうとうに美味い、どんな原料から作っておる?よほどいい野菜から作っているだろ?」
ああ、答えないといけないかな?
この先は踏み込んではいけない気がするが・・・
答えるしかないか・・・

「俺達の島の野菜です」

「何?なんだと?」
喜々として見つめられている。
目線が痛いです。
やめて!

「島野だったな、その野菜売ってくれ」
ほうらきたよ、絶対この流れになると思ったよ。
あー、もうこれ以上畑を増やしたくないんですって。
でも、断れないよな・・・

「少しだけなら・・・」

「そんな連れないこと言うな」
ゴンガス様は懇願する表情になっていた。

「いや、本当に少しだけにしてください・・・」
ふうとゴンガス様はため息を吐いた。

「そうか・・・まあしょうがない、でどんな野菜があるんだ?」

「じゃあとりあえず、今私が持っているアルコール類を見せますね、そこから考えていってもらえませんか?」

「よっしゃ!」
おいおい、ゴンガス様興奮しすぎだって、落ち着いてよもう。
『収納』からビール、日本酒、ワイン(白と赤)、トウモロコシ酒、焼酎を取り出した。

「ほう、いろいろとあるな」
ゴンガス様は喜々としている。

「ゴンガス様はどんなアルコールを作っているんですか?」

「儂か?ちょと待ってろよ!」
と言うとどこかに行ってしまった。
少ししたらゴンガス様は瓶を片手に戻ってきた。

「飲んでみるか?」

「一口だけ」
アルコールをグラスに注いでいる。
ちょっと一口だって、そんな並々注がないでよ、人の話聞いてた?

「ほれ、飲んでみよ」
グラスを渡された。
アルコールはわずかに琥珀色をしている。
匂いを嗅いでみた。
うえ!なにこのアルコール臭!絶対強いやつじゃないか。

「では、いただきます」
俺は意を決して軽く一口飲んでみた。
んん!
喉が・・・焼ける・・・焼けるって!・・・きっつう!

グラスをマークに手渡した。
マークが明らかに嫌がっている。
俺だけこんな目に合うなんてひどい、こいつらも巻き込んでやる。
ハラスメントと言われてもいい。

俺はマークに目で飲めと訴えかけた。
マークは一瞬嫌な顔をしたが、直ぐに腹を決めたようだ。
ぐいっと一口飲むマーク。
マークの顔が歪む。

グラスはランドへと手渡された。
俺はランドに目で飲むように訴えかけた。
これまた一瞬嫌な顔をしたが、直ぐに腹を決め、くいっと一口飲んだ。
ランドの顔が歪んだ。

「ゴンガス様、これはきつ過ぎます!」

「何を言っておる、ガハハハ!これぐらい酒精が強くないと酒とは言えんぞ、ガハハハ!」
笑ってんじゃねえよ、この酒好きドワーフが!
あー、しんどい。

「ああ、これはきついです」

「ええ、きついです」
二人も参っているようだ。
君たちは私と運命共同体なのだよ・・・なんだかごめん。

「これの原料は何ですか?」

「これは、ライ麦とジャガイモをブレンドしたものだ」
くそう!
スピリタスじゃねえか、そんなもん飲ますなよ!

「それではこちらのも試してください、でもこんなにアルコール度の強いお酒はありませんよ」

「ああ、分かっておる」
俺達が飲んだグラスの残りを一口で飲んでから、空いたグラスに次々とアルコールを入れては、飲んでを繰り返していた。

「うん、それぞれ美味だな、だがやはり儂はこのトウモロコシ酒が一番いいのう」

「ではトウモロコシを少しお分けしますよ」

「だな、あとは順次だな?」
はあ?順次って何?
聞こえませんよ。
押し黙るしかなかった。
ふう、そろそろ本題に入るか。

「アルコールの話はこれぐらいにして、ゴンガス様にお会いした一番の理由を話してもいいですか?」

「一番の理由?」

「ええ、ここ数年神気が薄くなってると、感じてますか?」
ゴンガス様が急に真剣な顔付きになった。

「ああ感じておる、お前さん何でそんなことを知っておる?ああそうか、お前さんも能力を使えるんだったな」

「はい、この現象に何か心当たりは無いですか?」
眉間に皺を寄せている。

「無いな、正直儂は困っておる。最近では能力の使用を制限しておるぐらいだ」
能力の使用を制限している?そこまでなのか。
もしかして、神気を取り込める総量が少ないのか?

「実は少しでも神気不足を解消しようと活動していまして」
と言うと、俺は『収納』からお地蔵さんを取り出した。

「おお!これはなかなかの業物だな」

「これはお地蔵さんと言いまして、このお地蔵さんに祈りを捧げると、神気を放出するんです」

「何だと?本当か?」

「ええ『聖者の祈り』と言って、信心深い方が祈りを捧げると、たくさん神気を放出します」

「そうなのか、凄いじゃないか!」

「それでこの街の片隅や、街道筋に置かせていただけないかと思いまして、数体持参しています」

「ああ、有るだけくれ」

「有るだけですか?」

「多ければ、多いほどいいんじゃないのか?」

「それは分かりませんが、今までタイロンやメッサーラを始め、私とギルが訪れた街や村には置かせて頂いてます」

「そうか、じゃあお前さんのこれぐらいと思う数を貰っておく」

「分かりました、あとこの街には教会はありますか?」

「もちろんだ」

「いくつありますか?」

「二つだ」

「その教会の石像を改修させて頂いても、よろしいでしょうか?」

「ちょっと待て、その石像の改修はお前さんがやるのか?」

「はい俺がやります、このお地蔵さんも俺が造りました」

「お前さん、何者だ?」

「人間です」
ゴンガス様は一瞬固まって、そうだったと諦めた顔をした。

「だったな、お前さんは面白い奴だのう」
にやけ顔でこちらを見ている。

「そうですか?」

「ああかなり面白い、今後いい付き合いをしような」
と右手を差し出してきた。
右手を握り返した。
良い付き合いってのが気になるが・・・まあいいか。
この日は強いアルコールを飲まされたせいで、石像の改修が出来る訳も無く、明日出直すことになった。
マークとランドを大工の街ボルンに送り、俺とギルは島に帰った。



翌日、俺はギルを伴いゴンガス様のところにやってきた。

「トウモロコシを何本か持ってきましたが、どうしますか?」

「そうだな、ひとまず五十本ほど貰えるか」

「分かりました」
指示されたところにトウモロコシを五十本置いた。

「金貨一枚ですがいいですか?」

「ああ、随分安いな」

「そうですか?」
五郎さんのところと同じにしたけど、ここでは物価が違うのか?
金貨を一枚受け取った。

「じゃあ行きましょうか」

「ああ、そうしよう」
俺達は連れ立って教会に向かった。
教会はこれまで見て来た教会と、あまり変わり映えしなかった。

「じゃあ改修させて頂きますね」
『加工』で石像の改修を行う。
シスターやゴンガス様が、驚きの表情で改修された石像を見ていた。
シスターは泣き崩れ、ゴンガス様も改修された石像をまじまじと眺めている。
すると一人のシスターが石像に祈りを捧げた。
『聖者の祈り』が発動する。
空気中に神気が放出された。

「おお!」
ゴンガス様が声を漏らす。

「これが聖者の祈りか・・・」

「ええ、そうです」

「ありがたいな、儂達はこれがないとやっていけんからのう」

「そうですね」

「次に行きましょうか?」

「ああ、よろしく頼む」
次の教会に向かった。
同じ様に石像を改修し教会を後にした。
結局お地蔵さんは六体寄贈し、設置場所はゴンガス様の判断に任せることにした。
これにて『鍛冶の街フラン』でのミッションは終了した。

それにしても神様って、酒好きが多すぎやしませんか?
もう付き合い切れませんがな・・・
あー、しんど。

やあ!ギルだよ。
ドラゴン・・・ドラゴンキッズさ。

僕は今、コロンの街の教会に来ている。
教会は好きだな、とても落ち着く。
僕はリズさんみたいに祈ったりはしないけど、教会の雰囲気がとても好きなんだ。
あとは、孤児の子達と遊ぶのが好き、小さい子はいいね。
とても無邪気だからさ。

僕は休みの日は、孤児院に来ることが多い。
最近では食事も披露したりしているよ。
皆からギルの兄貴と呼ばれているんだ。
いつからかテリー達がそう呼ぶ様になって、それを皆が真似してるんだと思う。
テリーは孤児院のボス的な存在で、小さな子達からも慕われている。
最初は生意気で、態度の悪い奴だったけどね。

あれは確か、この教会に三回目に訪れた時だったと思う。
僕は小さい子達と庭で遊んでいた時だった。
テリーとその取り巻きの二人が帰ってきたんだ。

「おいお前、何でここにいるんだよ?」

「僕がここに居ちゃいけないのか?」

「ああそうだ、ここは俺の縄張りだからな」
テリーは偉そうに言っていた。

「そうだそうだ」
取り巻きもそんなテリーに続く

「ふうん、そうなのか?小さい子達の前だから、威張ってるように見るけど?」

「なんだって?!もういっぺん言ってみろ!」

「だから、小さい子達の前だから、威張ってる様に見えるんだけど?」

「お前!・・・もういい・・・あっちいけ!」

「なんでさ?」

「なんでって、もういいよ、俺が出てくよ!」
僕はテリーの前に立ち塞がった。

「ちょっと待て」

「なんだよ?」
テリーは怯えている様に見えた。

「別に君が出ていく必要なんて、無いんじゃないか?」

「・・・」

「そんなことよりも、一緒に遊んであげようよ、皆その方が喜ぶよ」
テリーはじっと僕を見つめた。

観念したのか。
「ああ、分かった」
と言って、一緒に遊ぶようになった。

その後も何度か一緒に遊ぶことがあり、やがてテリーとは友情が生れたんだ。
一度獣型で背中に乗せてあげた時は、テリーは凄く興奮して、それからテリーは僕のことを、兄貴と呼ぶようになったんだ。

そんなテリーが一度こんなことを話していた。
「俺達孤児は、字の読み書きはできないし、計算もできない。そんなだから将来は、ハンターになるしかないんだ」

「そうなのか?」

「ああ、兄貴は分からないだろうけど、そんなもんなんだよ」

「それなら読み書きや計算を覚えればいいじゃないか?」

「そんなのどこで教えて貰うってんだよ?」

「僕が教えてあげるよ」

「えっ!兄貴は読み書きや計算が出来るのか?」

「ああそうさ、島で勉強したんだ」

「そうなのか!やった!教えてよ!お前らも教えて貰えよ」
と、取り巻き二人に話を振った。

「俺たちもいいの?」

「ああ、もちろんさ、せっかくだから小さい子達で、学びたい子も一緒にどうだい?」

「そうだな、あんまり小さい子はついて行けないかもしれないから、六歳以上の子にしたらどうだ?兄貴」

「そうだね、そうしよう」

「あとさ、これはテリー達が望むんならの話なんだけどさ、将来ハンターになるんだったら、僕が稽古をつけてあげようか?」

「本当か?!」

「兄貴直伝の技とか教えてくれるのか?」
取り巻きの一人が言った。

「直伝の技とかって大袈裟だよ、まあでも僕もそこそこ強いからね、パパとノン兄には勝てないけどさ」

「へえー、兄貴の親父さんは強いのか?」

「ああ、無茶苦茶強いよ、あれは反則だね」

「そんなに・・・今度会ったら、最初に態度悪かったこと謝ろうかな?」

「はは、そんなことしなくてもいいよ。きっと気にしてないよ」

「兄貴がそう言うんなら、いっか」

「そう、それよりもどんな稽古をつけて欲しい?」

「そうだな、兄貴は魔法も得意なんだろ?」

「ああ、そうだよ」

「魔法も教えて欲しいな」

「「俺も!」」

「魔法かあ?でも魔法は適正があるから教えても、物にならないかもしれないよ?」

「そうなのか?その適正ってのはどうやったら分かるんだ?」

「それは知らないな、ゴン姉に聞けば分かるかもしれないけど、ゴン姉は今留学中なんだ」

「そうか、兄貴でも知らないか」

「残念」

「まあでも、いろいろ試してみよう、あと格闘とか教えるよ」

「格闘か、やったぜ!」

「勉強の方は、今度紙とかいろいろ揃えるよ。パパに言えばいろいろやってくれると思うからさ」

「兄貴!恩にきるぜ」

「うん、兄貴ありがとう!」

「いやいや、照れるなあ」

「「ハハハ!」」
皆でたくさん笑った。



その後パパが、紙と筆と墨汁をたくさん作ってくれた。
あとは、パパと一緒にメッサーラに行った時に、魔道具の筆を買っておいた。
黒板も作ってもらった。
孤児院の皆は、とても喜んでくれたよ。

それから僕は休日の日は孤児院に行って、勉強を教えて、テリー達に稽古をつける様になったんだ。
楽しい日々を送っているよ。



でも今僕はちょっと困っているんだ。
いや違うな、考えているんだ。
それはテリーとある話をしたからなんだ。

「兄貴、俺は後三ヶ月で、この孤児院から出ないといけないんだ」

「えっ!なんで?」

「三ヶ月後に、俺は十二歳になるんだ」

「うん」

「孤児院は十二歳になると、出て行かないといけないことになってるんだ」
そんな!・・・まだテリーにハンターは早すぎるよ。それにまだ読み書き計算だって出来てないんだ。

「何とかならないのか?」

「ああ、これは決まりなんだ。これまでもそうやって孤児院はやってきたんだ。俺だけ特別って訳にはいかない」

「そんな・・・」

「まあハンターとして、頑張っていくよ。五年後にはA級のハンターになってるかもしれないぞ」
テリーはお道化ていた。

テリー・・・強がっているのぐらい僕でも分かるよ。
本当は怖いんだろ?
テリーは僕にとっては大事な友達なんだ。
僕がなんとかしなくちゃ。
せめてあと一年、いや半年でいいからなんとかならないかな?

「あの二人はどうなの?」

「ああ、フィリップとルーベンも、半年後には孤児院を卒業さ」

「そうなのか・・・」
どうしたらいい、考えろ。
でも、何も浮かばない。

このままテリーと、フィリップとルーベンがハンターになっても、やっていけないと思う。
まだ彼らには体力がないんだ。
体力だけは、すぐにどうにか出来るものじゃないって、パパも言ってた。
魔法だってまだ取得出来てないんだ。
今のままじゃあ、たとえ武器を持ったとしても、ジャイアントラットすら倒せるとは思えない。
そうだ、パパに相談しよう。
そうしよう。パパなら何とかできるかもしれない。

「テリー」

「なんだい?兄貴」

「パパに相談してもいいかな」

「え?相談って何を」

「テリーが孤児院を卒業することをさ」
テリーが腕を組んで考え込んでいる。

「兄貴すまない、よろしく頼む」
テリーは素直に頭を下げていた。

「ああ、明日にでもまた話そう」

「分かった」
ひとまず僕はサウナ島に帰ることにした。



その日の夜、晩御飯を終えて、パパに相談することにした。

「パパ、相談があるんだけど」

「相談?なんだ?」

「テリーなんだけどね」

「テリー少年がどうした?」

「後三ヶ月で孤児院を卒業するんだ」

「へえ、それで」

「今僕は休みの日は孤児院に行って、孤児の子供達に勉強を教えて、その後にテリー達に稽古をつけてるんだ」

「そうか黒板や紙と筆をねだられたけど、先生はギルだったんだな、てっきりリズさんかと思っていたぞ。凄いじゃないか!偉いぞ!ギル!」

「へえー、ギルがねー」
ノン兄が冷やかしてくる。

「もう、大事な話だから、そういうのは止めて」

「めんご」
ノン兄はどっかに行ってしまった。
めんごって何?ごめんってことか?
ノン兄はたまに、訳が分からないことを言う。
もう!話が逸れた。

「それでね、稽古はつけてるんだけど、とてもまだハンターとしてやっていけるレベルじゃないんだよ。だからせめて後一年ぐらいなんとかならないかなと思って」

「たしかメルルが孤児院の卒業者だったな、メルルちょっといいか?」
パパはメルルに手を振っていた。
メルルは洗い物の手を止めて、こちらに来てくれた。

「メルル、ちょっといいか?」

「ええ、どうしました?」
パパは目で僕に話す様に促してきた。

「メルルは孤児院の卒業者なんだよね?」

「ええそうよ」

「教えて欲しいんだけど、孤児院は十二歳になったら卒業しないといけないんだよね?」

「そうよ」

「それは、一年ぐらい延ばすことはできないのかな?」
メルルは眉間に皺を寄せている。

「まず難しいと思うわよ」

「それは何で?」

「何でかって言うとね、まず孤児院は国や村からの補助金と、寄付金から運営してるのよ」

「うん」

「だからどこの孤児院も運営状況は厳しいものなの、補助金の額は高くないし、寄付だってしてくれる人すら少ないのよ」

「そうなんだ」

「だから十二歳ともなると、いっぱい食べる様になるから、孤児院に置いてはおけなくなるのよ、悪い表現だけど、口減らししないと孤児院も立ち行かなくなるのよ」

「口減らしって・・・そんな」

「それに、卒業していってくれないと、新たな孤児を引き取れなくなるわ、それも小さな子供をね」

「・・・」

「厳しいけどそれが現実なのよ、ギル分かる?」

「分かるけど・・・」

「駄目元でリズさんに相談してみたらどうだ?」
パパがビールを片手に言った。
まだ酔っぱらってはいない様子。

「そうだね、パパにお願いしてもいいかな?」
パパが目を見開いている。

「ギル、それはできない相談だぞ」

「えっ!何で?」

「ギルよく考えてみろよ、パパはこれまでにリズさんの教会に、何度も寄付を行ってきたんだ、そんなパパが、テリーをあと一年孤児院に残してくれなんて言ったら、リズさんだって断ろうにも、断れなくなっちゃうかもしれないんだぞ」

「そうか・・・そうだった」

「それにギルの友達のことなんだから、ギルがやらなくてどうするんだ?」

「そうだね、うん、そうするよ、あとメルルもう一つ教えて欲しいことがあるんだけど?」

「何かしら?」

「初心者のハンターって、どんな感じなの?メルルはどうだった?」

「私は最初の頃は苦労したわね、でも私は恵まれていた方だったから、何とかなったわね」

「恵まれていた?」

「ええ、ハンターになった時には、既に回復魔法と風魔法が使えたからね」

「ああ、そういうこと」

「でも、魔法や特殊な技術がないと、初心者のハンターは苦労が絶えないし、なにより危険なのよ」

「ちょっと待って、特殊な技術って何?」

「例えばロンメルみたいに、鼻が利くとかよ」

「ああ、なるほど、それで危険なのは何で?」

「まず初心者をハンターグチームに入れるのは、初心者なのよ」

「うん」

「それ以外でも時々入れることはあるけど、その役割は酷い時には、囮役等をやらされるのよ」

「そうそう、あれは俺もきつかった、何度も死にかけたな」
名前が出て気になったのか、ロンメルが会話に加わってきた。

「よくても使いっぱしりにされるぐらいだけど、あれはあれで酷いと思うわよ」

「そうなんだ・・・」

「だから初心者のハンターは、最も死亡率が高いのよ」

「・・・」
テリー・・・死ぬなんて駄目だ。
そんなのはありえ無い。

「ギルはなんでそんなことが気になるの?」

「それはギルの友達が、三か月後には孤児院を卒業するからだ」
パパが僕の代わりに答えた。

「それじゃあさ」
とメルルが言ったところで、パパが手でメルルを制止した。
ん?なんだろう。
メルルがすまなさそうな顔をしていた。

「まあ、ひとまずは駄目元でいいから、ギルがリズさんと話してみることだな」

「うん、そうするよ」
僕の相談は終わった。



翌日、僕はリズさんを訪ねることにした。

教会の中に入ると、リズさんが祈りを捧げていた。
僕はその様子を眺めていた。
想像神様の石像が、祈りに答えて神気を放出させていた。
僕はこの様が好きだ、聖者の祈りを見ていると心が落ち着く。
メタンのは落ち着かないけどね。
だって神気の放出量が凄いんだもん。
リズさんは祈りを終えて、こちらを振り返った。

「あら、ギル君、今日もお勉強ですか?いつもありがとうね」

「いえ、それもあるんですが、リズさんに話があって」

「私に?あら、何かしら?」

「あの、テリーのことなんですけど」

「テリー、あの子また何かしでかしたんじゃないでしょうね」
プンプンしているリズさんは、結構可愛い。

「いや、そんなことじゃないです」

「じゃあ何かしら?」

「テリーは後三ヶ月で、この孤児院を出て行かないといけないんですよね?」

「ええ、そうよ」

「なんとか、せめて後一年ここに居させて貰えませんか?」
驚いているリズさん。
僕がそんなこと言い出すとは、思っていなかったようだ。

表情を引き締め直したリズさんはこう言った。
「ごめんね、それは出来ないのよ」

「何で、ですか?」
本当は僕も分かっている、昨日メルルの言っていたことは、間違っていないと思った。

「まず、この教会で新しい孤児を受け入れられなくなるわ」

「それは知ってます、でも僕が寄付すればどうにかなりませんか?」

「ギル君が寄付するですって?!」

「ええ、いくら要りますか?」

「ちょっと、待ってギル君」
リズさんは両手を広げて、僕の話を止めようとした。

「いい?ギル君、まず考えてみて、私もテリーには手を焼いたから、あの子に対しては想う処もあるのよ、私だってあの子にまだここに残って欲しと思っているわ」

「だったら」
両手を掴まれた。

「でもね、あのテリーが特別扱いされることを受け入れると思って?」
ああ、そうだった、テリーは頑固者だった。
言い出したら聞かないところがある、テリーのことだ、自分が特別扱いされることに抵抗するに決まっている。
それにテリーはプライドが高い。受け入れる訳がない。
僕はなんで、そんなことを考えなかったんだろう。

「そう・・・ですね」
これで終わりなのか?それでいいのか?

「ギル君、ありがとう」
リズさんは涙を浮かべていた。

「あの子に、こんな友達思いの友達ができるなんて・・・本当に嬉しいわ・・・ギル君・・・ありがとう・・・あの子が卒業しても友達でいてあげてね」

「ええ、もちろんです。僕にとってもテリーはかけがえのない友達なんです・・・」
どうしよう・・・僕に何が出来る?
リズさんにお別れの言葉を言って、子供達の所に向かった。

この日も授業を行なったが、あまり身が入らなかった。
小さい子に
「今日のギル先生は元気がないね、どうしたの?」
と心配させてしまった、皆ごめんね。

稽古は今日は止めておいた、テリーも何かを察したのか、何も言わなかった。
皆にお別れの挨拶をしてサウナ島まで飛んで帰った。

僕は飛びながら考えている。
どうすればいいのかを。
テリーはハンターとして、本当にやっていけるのだろうか?
いや、難しいと思う。
僕もハンターだ、それぐらいは分かる。
これまでにも、マークやランド、ロンメルにハンターのことはたくさん聞いてきた。
とてもじゃないが、まだナイフも手にしたことが無いテリーが、やっていけるとは思えない。
どうすればいい?
パパならどう考える?
テリーはハンターになるしかないと言っていたけれど、他にもつける職業はないのだろうか?
でもまだ、読み書き計算もできない。
三ヶ月でなんとかなるだろうか?
厳しいと思う。

あれ?ちょっと待てよ。
違う職業って・・・そうだ!
サウナ島に就職すればいいじゃないか!
島野商事の社員になればいいじゃないか、そうだ!それがいい。
なんでそれに気づかなかったんだ。
僕はパパと一緒で、おっちょこちょいなのかな?
はあー、一気に気が抜けた気がする。
なんだかすっきりしたな。
あれ?
もうサウナ島に着いちゃった。



早速パパと話すことにした。

「ねえ、パパ、テリー達のことなんだけど」

「ああ、リズさんとはどうだったんだ?」

「リズさんとは話したけど、駄目だったよ」

「そうか」
パパはだろうなという顔をしていた。

「でね、そのことはもういいんだ」

「いいのか?」

「いいの、そんなことよりパパ、テリー達をサウナ島に住んで貰って、島野商事の社員にするってのはどうかな?」
あれ?パパの表情が・・・まったく読めない。
喜んでくれると思ってたのに・・・

「ギル・・・テリー達を雇うこと自体は問題ないが、役割はどうするんだ?」

「役割って、ああ・・・」

「ギルは当然分かっていると思うが、昼からは各自それぞれの役割で働いているが、テリー少年と、その他の者達は何ができるんだ?」
ああ、そうか、考えて無かった。
そうだった、このサウナ島では、できること、得意なことに合わせて各自役割を持って仕事をしている。
テリー達のできることは何か?
テリー達の得意なことは?
分からない、友達なのに・・・僕は知らない。
彼らに何ができるんだろうか?

「なあギル、流石に昼から何もできない社員を雇うことは抵抗があるな」

「そうだよね・・・」

「他の者達に対して、フェアじゃないだろ?」

「うん、そう思う」

「じゃあ、どんな役割ができるのか、考えてみることだな」

「えっ!僕が考えるの?何で?」

「ギル、お前の友達なんだろ?」
そうだ、僕の友達だ、僕が考えなきゃ。



僕は考えた。
一生懸命考えた、でも答えは出ない。
これは聞いてみるしかない。
僕はテリーと、フィリップとルーベンと話をすることにした。

「なあ皆、得意なことってあるのかい?」

「得意なこと?」

「「うーん」」
あっ駄目だ、全員考え込んでいる。
これは無いっていうサインだ。

案の定
「早く飯が食える」

「いつでもゲップができる」

「どこでも寝れる」

「臭い屁が出来る」
とふざけた回答しかなかった。

「じゃあ、出来ることは何がある?」

「出来ること?」

「何だってやるぜ」

「おう、何だってやってみせるぜ」

「兄貴は何をやって欲しいんだ?」
と、これも的を得ない。

困った、非常に困った。
どうしよう・・・
テリー達にはこれといって出来ることも、得意なこともない・・・
任せられる役割が思いつかない・・・
何が出来る・・・
もっと深く考えよう・・・
テリー達に出来ることは特にない・・・
これは分かっていること・・・
じゃあ、何を任せればいい?・・・
任せる・・・
あれ?・・・任せるって何だ・・・
ん?考え方が間違っている・・・
大事な事は役割を与えること・・・
何もできることや、得意なことに限定することはないんじゃ・・・
あれ?・・・なんか分かってきたような・・・
そうか・・・限定する必要はないのか・・・
じゃあ何がある?・・・
誰でも出来ること・・・
んん?誰でも出来ること・・・
何かある・・・
そうか・・・見えてきた気がする・・・
ああ・・・それでいいじゃないか・・・
そうしよう・・・
でも・・・ちょっと弱いような・・・
パパならどうする・・・
あっ!・・・閃いた!
よし!これで行こう。



翌日、僕はパパと向き合っていた。

「パパ、分かったよ」

「何がだ?」

「テリー達の役割についてだよ」

「ほう、聞かせて貰おうかな」

「まず、テリー達に得意なことや出来ることは無い」

「そうなのか?」

「それで、僕は考えたんだ」

「何を考えたんだ?」

「まず、僕は出来ることや、得意なことに固執しない、ということをにしたんだ」

「なるほど、それで」
パパが話しを促してくる。

「そこで僕は考えた。誰でも出来ることをやればいいんじゃないかって」

「ほう!聞かせてくれ」

「僕が考えたのは、テリー達は掃除や、洗濯をやったらいいんじゃないかと思ったんだ」

「なるほど」
パパが頷いている。

「それなら彼らも働けるし、それに誰でも出来る。今は掃除や洗濯は各自でやってるけど、これも福利厚生ってことになるんじゃないかなって」
更にパパが頷いている。
いいぞ、後一押しだ。

「そして、僕はテリー達に裏の役割を与えようと思うんだ」

「裏の役割?」

「うん、そうだよ。それはね、熱波師の修業をさせようと思うんだ。どうかな?」
パパが目を見開いたと思ったら、にやけた顔になった。

「良いでしょう!その案採用!」

「やった!これでテリー達がハンターにならなくてすむよ」

「ちょっと待て!それはまだ早いと思うぞ」

「えっ!どうして?」
パパは僕の目を除きこんでいる。

何で?まだ早い・・・
あっ!そうだった・・・僕が決めることじゃなかった。
本人の意思を確認しなきゃいけなかった。
それにテリーは、僕にハンターになるって言ってしまってたんだ。
テリーのことだ、意地を張るかもしれない。
どうしよう・・・よし、決めた!

「パパ、テリー達に、一度サウナ島に来てもらってもいいかな?」

「ああ、好きにしていいぞ」

「ありがとう、そうするよ」
ここの暮らしを体験すれば、テリーも考えを改めるはずだ。
それだけ、このサウナ島には魅力があるって、皆だって言ってるんだから、間違いない。
あの五郎さんだって、そう言ってたんだ。
間違いないと思う。



翌日、僕はテリー達に会いにいった。

「テリー、フィリップ、ルーベン話がある」

「兄貴改まってどうしたんだ?」

「何々?」

「実は皆に、大事な話がある」

「大事な話ってなんだ?」

「兄貴いきなりどうしたんだよ」

「テリー、フィリップ、ルーベン、単刀直入に言うよ、孤児院を卒業したら、サウナ島に住まないか?」

「えっ!」

「サウナ島に住む?」

「サウナ島って、兄貴が住んでるところだよな?」
皆、動揺している。

「住むといっても、ただそこで暮らすんじゃなくて、一緒に働いて欲しいんだ」

「働く?」

「一緒にって・・・」

「働くって何を?」

「ああ、一緒に仕事をするんだ。どうだい?」

「どうだいって、言われてもな・・・」

「俺はハンターになるって・・・」

「どうなんだろう・・・」

「そこで、まずは皆をサウナ島に招待したいんだ、もちろんパパの許可も貰っている、どうだい?サウナ島に来てみないか?」

「招待って・・・行っていいのかよ?」

「そうだよ、俺達みたいなのが、兄貴の島に行くなんて」

「ああ、そうだよ」

「遠慮することはないよ、それにリズさんには僕が話をしておく、一度サウナ島に来て、どんなことろか確かめて、どんな仕事をするのか体験してみて欲しいんだ、その上でどうするか決めて欲しい」

「本当にいいのか?」

「そうだよ、本当にいいのか?」

「ああ、そうして欲しい」

「兄貴がそこまで言ってくれるなら俺は行くぜ、お前らどうする」

「テリーが行くなら俺も行くよ」

「ああ、俺も」

「よし!決定だ!」
楽しくなってきたぞ!
後はどうもてなすか考えよう。
僕はリズさんに、テリー達を一泊二日でサウナ島に預かることを話した。
リズさんは、すまなさそうにしていた。


テリー達がサウナ島に来る当日。

僕がテリー達を、サウナ島まで背中に乗せてこうと思ってたけど、流石に危なくないかと、パパが迎えに来てくれることになった。

「よう!テリー少年とその仲間達!」
パパ、何それ?
そうか、フィリップとルーベンの名前を知らないんだった、にしてもその仲間達って、何?もう!

「パパ、彼はフィリップで、彼がルーベンだよ、二人共猫の獣人だよ、それに何さ、仲間達って?」

「そのまんまだ」
駄目だ、よく分からない。もういいや。

「直ぐに行くの?」

「いやリズさんにお裾分けしてからだ、ちょっと待ってろ」
と言ってパパは、リズさんの所に向かった。

「なあ、ギルの兄貴、何だって兄貴の親父さんは、ここまで俺達に良くしてくれるんだ?」

「ん?そうかな、どこでもあんな感じだよ」

「そうなのか?・・・」

「それにしても楽しみだよ、兄貴」
ルーベンは嬉しそうにしていた。

「俺もだよ、兄貴がどんなところに住んでるか、ずっと気になってたんだよな」
フィリップも嬉しそうにしている。
テリーは、何ともいえない雰囲気だ。
パパが帰ってきた。

「よし、テリー少年、フィリップ少年、ルーベン少年、準備はいいか?」
と言うと、いきなり。
ヒュン!

「うわー!」

「おお!」

「うう!」

「ち、ちょっとパパ!いきなり止めてよ」

「じゃあ、あとはギルに任せた」

「ちょっと・・・」
パパは何処に行ってしまった。
もう!面倒くさがりなんだから!
さて、僕は僕に出来ることをしよう。

「よし!じゃあ行こうか」

テリー達のアテンドを始めた。
始めに畑を見に行った。
アイリスさんを紹介した。

アイリスさんは
「まあ、ギル君のお友達ね、今後もギル君と仲良くしてね」
と僕が照れることを言った。

次に、ロンメルとレケの所に行った。

ロンメルが
「ほう、オオカミの獣人か、お前いい斥候になれるぞ」
とテリーに余計なことを言った。
こいつには合わせちゃ駄目だった。人選を間違った。

レケはマグロに夢中で
「おう」
と言っただけだった。

その次はマーク達の所に行った。
マークとランドの大きさに、テリー達はびびっていた。

次に、たまたま創造神様の石像に、祈りを捧げているメタンに出くわした。
神気の放出量に、テリー達は引いていた。
僕もその気持ちはよく分かる。

その後、丁度昼飯の時間になったので、皆で昼御飯にした。

この日のメニューは焼飯だった。
最近のパパのお気に入りだ。
パパが中華鍋をガンガン振り回していた。
僕は十杯も食べてしまった。
テリーも頑張って四杯食べた、フィリップとルーベンは三杯だった。
皆、お腹を擦っていた。

その後エル姉と僕の背中に乗って、温泉に入りに行った。
三人とも初めての温泉だったらしく、気持ちいいなと言っていた。
その後にメルルを紹介した。

後は、寮を見たり、備蓄倉庫を見たりとしていたら、晩御飯の時間になっていた。
僕にとってはここからが本番だ。

パパ仕込みの技で、ピザを作っていく。
隣に控えるパパは腕を組んで、僕の動きを観察している。
僕は時折パパから指摘を受けながらも、ピザを何枚も焼いていく。

皆から声が上がる。
「次はシーフドよろしく」

「マルゲリータをもう一枚」

「お任せピザよろしく」

「味噌汁ビザを二枚」
皆好きに言ってくる。
テリー達の様子を見る。
いい具合に皆が話掛けてくれて、馴染み出しているようだ。

よし!更に気合を入れる。
僕はこれでもかと、パパにから教わったピザの奥義に従い。
ピザを次々に作っていった。

「あー、疲れた」

「ギルお疲れ、だいぶ板についてきたな」
パパに褒められた。

「今からサウナに入ってもいいかな?」

「ああ、いいぞ」
三人に声を掛け。サウナに入った。

「なんだここ、熱っちい」

「汗かきそう」

「汗をかくところなんだよ」

「そうなのか?それにしても熱い」
五分後には、外へ出た。
掛け水をすることを教えて、水風呂に入る。

「ああー、気持ちいいー」

「ふうー、最高」

「なあ兄貴、毎日こんなことやってんのか?」

「ああ、そうだよ、楽しいだろ?」

「「ああ」」
外に出て、余韻に浸った。

二セット目はノン兄の熱波付きのサウナ。
前もってノン兄にはお願いをしておいた。

テリー達は、
「熱すぎる、勘弁してくれ」

「きっつー」
と騒いでいた。

三セット目に突入した。

ルーベンとフィリップはお先にと、サウナから出て行った。
するとそれを待っていたかのように、テリーは話しだした。

「兄貴・・・ずるいぞ」

「何がさ」

「こんな生活見せつけられたら、断れる訳ないじゃないか」

「断るつもりだったのか?」

「・・・俺は本当は、ハンターにはなりたくなかった。正直言って怖かった・・・まだハンターとしてやっていけるほど、力も無いし、度胸も無い。そんなことは俺でも分かっている。兄貴ありがとう。恩にきるぜ」

「てことは」

「ああ、サウナ島にお世話になります」
テリーは丁寧にお辞儀をした。

「よし!決定だ!やった!」
前にパパが、大事なことは密室で決められている、って言ってたけど、こういうことなのかな?
なんか違う気がする。まあいいや。

「じゃあ出ようか」

「そうしよう」

今日の『黄金の整い』はいつもの解放感に、達成感もプラスされていた。
やったあー!



翌日の朝、テリー達はパパに頭を下げていた。

「このサウナ島に就職させてください」

「「「よろしくお願いします!」」」
パパは笑顔で僕を見た後

「サウナ島は君たちを歓迎する、しっかり働く様に、雇用条件や役割などはギルから聞くこと、あと分かっているとは思うが、君達以外はみんな大人で先輩達だ、敬意を払う様に、出来れば言葉使いも改める様に」

「「「はい!」」」

「あと、仕事に手は抜かない様にな、サボることは許しません」

「「「はい!」」」

「以上!」

「「「ありがとうございました!」」」

というやり取りがあり、テリー達のサウナ島への就職が正式に決定した。
その後、僕が雇用条件や役割の話をした。

「えっ!そんなに給料がもらえるの?」

「休日が週に二日もあるの?」

「福利厚生って凄っ!」
等と嬉しそうにしていた。

この日テリー達は、午前中の畑作業を体験して、孤児院に帰っていった。



数日後、テリー達はリズさんと話し合い、孤児院の卒業を待つことなく、サウナ島へ就職することになった。

「ギル、お前はもしかしたら、あの子達の命を救ったかもしれないな、本当によくやった。誇りに思うぞ」
とパパが褒めてくれた。
とても嬉しかった。
久しぶりにパパにハグして貰った。

「それにしても、良く熱波師になる修業をさせるって思い付いたな?」

「ああそれね、だってサウナ関連を持ち込めば、パパは絶対受け入れてくれるって思ったからさ」

「何だそれ!俺のことよく分かってるじゃないか、流石は俺の息子だ、カッカッカッ!余は満足じゃ、良きに計らえ!カッカッカッ!」
とまた変なこと言ってる。
でも本当に良かった。

「ねえパパ、本当はテリー達の役割のこと分かってたんでしょう?」

「いや、熱波師修業は思い付かなかったな」

「そうじゃなくて、掃除や洗濯の方だよ」

「ああ、でもそれだけじゃなく、リンちゃんのサポートをやらせるつもりだけどな」

「そうか、それもあったね」
流石はパパだ、でも結果オーライ!

今日も良い整いが得られそうだ。
魔力回復薬の販売も、いよいよ大詰めになってきている。

これまでメッサーラにて、喧々諤々と議論を重ねてきた。
会議の出席者は俺とゴン、リンちゃんにルイ君、そして財務大臣のオットさん。
このオットさんは、見た目は人間のようだが、魔人とのハーフらしい。
頭は剥げており、額と天辺は薄い。
苦労を感じさせる頭髪をしていた。
体形はやや太っており、お腹周りは福よかだ。
目は細く、時々目が開いているのか確認したくなるぐらいだ。
この人はとても計算に強く、またメッサーラの様々な数字を把握している。
さすがは財務大臣といったところか。

そんなオットさんからさっそく物言いがあった。
「島野様のお気持ちを十分理解した上でお話をさせていただきます、メッサーラの得る利益の何割かを孤児院に寄付するとなると、一割でもわずか一ヶ月で、孤児院の子達は一般家庭以上に裕福な暮らしになってしまいます。それでは一般家庭の子供達が、孤児院に集まってしまうことになりかねませんので、ここの配分は変えさせていただけませんでしょうか?」
ということだった。

ここはプロに任せようと、オットさんに一任した。
ちゃんと俺の恵まれない子達を支援したい、という気持ちは理解してくれているようだったのでそれはそれでいい。
確かに冷静に考えてみれば、一割でも大きい金額になりそうだ。

これまで主に話し合われてきたことは、販売方法と販売価格、また、保存方法等というところだった。
今のところ販売方法に関しては、教会の隣に販売小屋を造り、シスターや孤児達に販売させようという意見で一致している。
将来的には卒業する孤児達が、販売小屋を引き継ぎ、経営を行っていければと考えている。
テリー少年達の一件で得た知識を、一部応用した形になる。
だがメッサーラの孤児達は魔法が使える子達も多く、ハンターになることに抵抗感が無い子供達も一定数いるようだ。
それはそれで構わない。
どんな職業に就くのかは、本人の自由意志で決定することが一番望ましい。
それにハンターは危険が伴うが、高収入を得られる職業でもある。
あくまで職業選択は本人の自由でいい。

そして、この販売小屋の建設だが、誰が建設の発注を行うのかで意見が割れた。
教会が建設の発注を行うという意見と、国が発注を行うという意見だ。
それは誰が販売小屋の所有者になるのかということだ。
メッサーラでは一部の建築物を除き、全てが個人の所有物となっているからだった。
建設の資金については、どちらが支払っても構わない。
教会側であったとしても、国が資金を融資をして、後で返済させれば何も問題はないことだ。

そこで折衷案が採用されることになった。
販売小屋の発注は国が行い、国が教会に賃貸するという方法を取ることにした。
だが実質賃貸料はゼロ円、でも建物の補修などを行う際には、教会側が支払わなければならない。
これは使い方等で起こる問題等は、使用者に責任を持たせるということだ。
雑に扱われては堪ったもんじゃない。

販売小屋の建設は既に発注済で、建設工事も進んでいる。
教会の主だったシスター達には既に説明が済んでおり、了承を得られている。
というより期待の眼差しで見つめられている。とオットさんが説明をしてくれた。
とはいっても、何を販売するのかという点についてはシスター達には教えてはいない。
こういった細かいことも、進んでやってくれるオットさんには感謝だ。
仕事が早くて助かってます。

次に販売価格だが、仮案として銀貨五十枚ということになっている。
なぜ仮なのかというと、温泉水を入れる瓶に、現在いくらかかるのかが不明となっているからだ。
当初俺が造ることも考えたが、あまりの数に上る為、早々に断念した。
ここは、後日鍛冶の街でゴンガス様と、相談することになっている。

そして、販売するのは瓶詰めの物と、瓶を持参して購入する、二種類の方法を検討している。
ただし、持参してきてもらう瓶は、一度購入して貰った瓶に限る。
その理由は簡単で、分量を量る手間を無くす為だった。
無作為に瓶を持参されると、一度分量を量ってから移し替えなければいけない。
更には、こうした方法を取る背景としては、資源を大事にして欲しいという想いも込められている。

本当は瓶は割れる可能性がある為、他の物にしようかと考えていたが、どうやらメッサーラでは、各家庭に一つはマジックバックを持っている為、貴重な物などはマジックバックで保管するから、瓶でも問題ないのでは?ということだった。

各家庭に一つとは、日本でのテレビのような物なのだろう。
それを聞いて俺はサウナ島の皆に、マジックバックを購入することにした。
便利な物は積極的に使っていきたい。

保存方法についてだが、使用上の注意を書いた紙を添える様に考えたが、コピーの無いこの世界では、労力がかかるということで断念した。
やむ無く販売時に、注意を喚起することに変更した。

消費期限だが『体力回復薬』の時と同様に、メルルと実験を行った。
結果としては、日の当たる場所では十日で駄目になった。
日陰では十四日となり、なんちゃって冷蔵庫では二十一日だった。

今回はなんちゃって冷蔵庫はおまけの実験としている。
なんちゃって冷蔵庫を、ここで使用する気は毛頭ない。
俺にどれだけの負担が掛かることになるのやら。

だから今回は関係者にすら、なんちゃって冷蔵庫の存在を明かしてはいない。
もし気づかれても、作る気はないのだが。
ただ副産物として、なんちゃって冷蔵庫の改良版で水筒を作った。

これは島野商事の社員全員に、俺からのプレゼントとして差し上げることにした。
皆いつでも冷たい水が飲めると喜んでいた。
レケはジョッキ代わりに使っていた。
いつまでも冷たいワインが飲めると上機嫌だった。
そんな使い方もあるのね・・・まあ分からなくはないけど・・・
ちゃんと毎日洗ってくださいね、特に口に触れる部分はね!

話が脱線したが、消費期限は十日が妥当との意見にて一致した。
そんな感じで『魔力回復薬』の話は進んでいった。



『鍛冶の街』のゴンガス様の所にギルと一緒に訪れている。
まずは毎度となりつつあるトウモロコシの納品だ。

「ここでいいですか?」

「ああ、そこに置いてくれ」
ゴンガス様は、鍛冶を行っていない時は現れるが、一旦鍛冶仕事に入ると、決して作業が終わるまでは現われない。
居ない時はもはや顔なじみの、受付の女性に対応して貰っている。

ちなみに彼女の名前はメリアンさんだ、毎回こっそりワインを売ってくれと言われる。
彼女も相当の酒飲みのようだ。
今日はゴンガス様は居たようで、ちょうど話があったこちらとしては助かった。

「ゴンガス様、ちょっとご相談があるんですが、お時間はありますでしょうか?」

「ああどうした、お前さんが相談とは珍しいな、どうだ?奥に入るか?」

「お願いします」
奥に通された、スピリタスを飲まされたあの部屋だ。
早くも一杯始めているゴンガス様、けどまったく酔ったそぶりは無い。
この人酒強すぎなんだよ。

「実は、こんな物を造ってまして」
と言って『収納』から『魔力回復薬』を取り出した。

「これは、何だ?」

「これは『魔力回復薬』です」

「はあ?お前さん何を言っておる?そんな物はこの世にはないぞ!」

「ゴンガス様は魔力はありますか?」

「まあ、多少はな」

「じゃあ、飲んでみてください、そうすれば分かります」
明らかに疑っているゴンガス様、目が据わっている。

「まあ、飲んでみるか」
瓶を取り、豪快に一気に飲み干した。

「お!おお!何だこれ、本当だ!お前さん何しおった!」
何しおったって、俺は何もしておりませんが?

「おい!何がどうなっておる、説明しろ!」
かなり興奮している。

「俺達が住む島の、温泉の源泉なんです」

「ん?温泉の源泉?」

「はい、そうです。五郎さんが俺達の島に来た時に、掘り当てた温泉があるんですよ」

「五郎って、あの温泉街の五郎か?」

「はい、五郎さんをご存じなんですか?」

「いや、直接面識はないが、名前は聞いておる」

「そうなんですね、まあいずれにしても、その五郎さんが掘り当てた源泉に、魔力の回復効果があることが分かったんです」

「ほーう」

「それでこれをメッサーラで販売することを予定しているんですが、問題がありまして」

「問題とな?」

「この瓶です」

「瓶?その瓶がどうしたんだ?」

「この瓶を大量に作成する必要があるんです」
ゴンガス様が考え込んでいる。
何かしらぶつぶつとこれならばこうすれば、いやこの方が早いと自己陶酔状態に入っている。

「で、いつまでに何個いるんだ?」
話が早い、流石鍛冶の神様だ。

「できれば二か月で一万個欲しいです」
また自己陶酔状態に入ってしまった。一万作るにはあれをこうして、いやこっちの方がはやいか、ん?待てよ。といった具合。

「ちょっと問題がある、作業的にはどうにかなりそうだが、材料の問題がある」

「それは、珪砂や石灰といった材料のことでしょうか?」

「ああ、お前さんよくそんなこと知っとるな?」

「ええ、俺も瓶を造ることはできますので」

「はあ?ならばお前さんが造ればいいんじゃないのか?」

「そうもいきませんよ、この件以外にも俺もやることだらけなんですから」

「おお、そうか・・・で、それはいいとしてだ、材料が無ければ何ともならん」

「そこは俺が準備できます」

「はあ?どうやって?」

「こうやってです」
と言って『万能鉱石』を購入し、それを珪砂に変えた。

「お前さん・・・今何やった・・・」
ゴンガス様の腰が引けていた。

「おれの能力の一つで『万能鉱石』という物です」

「『万能鉱石』ってなんだ?」

「それは」
俺は『万能鉱石』について説明した。

ゴンガス様がみるみる表情を変えていき、最後には興奮マックス状態となっていた。
不意に俺の肩にゴンガス様の手が置かれる。

「儂がお前さんと出会えたことを、創造神様に感謝するぞ」
はい?何のお話でしょうか?

「まあいい、それよりもお前さんが材料を準備出来るなら、儂が引き受けよう」
おお!行けるのか!

「じゃあ、お願いしてもよろしので?」

「ああ任せとけ、儂の弟子を総動員して何とかしてみせる」
よっしゃ!これで目途が経ったぞ!

「ではお願いします、でこんな話はしたく無いんですが、料金はいかほどに?」
ゴンガス様は再び考え込んでいる。

「お前さんがいくらで材料を提供してくれるかによるな」

「そうですか・・・」
正直言って珪砂と石灰はそれほど高い物では無い、だがどれだけの量が要るのかというところだ。

「ちなみにどれぐらいの量が必要ですかね?」

「そうだな、質にこだわらなければ、一トンもあれが充分だが、質に拘るならば倍は要るな」

「そうですか・・・じゃあ質には拘らなくてもいいです、であれば無償で提供します」

「はあ?お前さん無償でって何を言っておる、それでは理に敵わないだろうが」

「いえ、そうでもありません」

「そうなのか?」

「ただ、いくらで請け負ってくれるのかにもよりますが・・・」

「ああ、そうだな・・・」
お互いが頭の中で計算する時間が始まった。
何処にどう落とし処をつけるのか・・・

「そうだな今回は作業料だけだし、このサイズなら一瓶銀貨五枚でどうだ」

「わかりました、一万個で金貨五百枚ですね」
先行投資として金貨五百枚は大きな金額だが、今の島野商事には難なく払える金額だ。

「支払は出来てからですか?」

「できれば半額先払いして貰えると助かる、弟子どもにある程度前払いしておきたいんでの、二ヶ月間拘束することになるしの」

「そうですね、じゃあ今支払いをしておきますね」
『収納』から金貨二百五十枚を取り出して、ゴンガス様に渡した。

「久々の大口の取引だ、こちらとしても助かるのう」

「材料はどちらに保管しますか?」

「そうだな、一旦儂の工房に置いておこう、工房に行くか?」

「行きましょう」

ゴンガス様の工房に入った。
立派な工房だった。
外から見たよりも中が広く感じられる。

大きな炉が二つ有り。鍛冶道具は見事に手入れされている。
工房の中心にある大きな鉄のテーブルがあり、その上に麻袋が大量に置いてあった。
俺はその麻袋に珪砂と石灰を大量に詰めていった。
ゴンガス様は『万能鉱石』に相当興味があるのか、ぶつぶつ言いながら眺めていた。
ギルも工房に関心したのか、
「広い施設だね・・・凄い」
と漏らしていた。

「お前さん、その『万能鉱石』だが、一つ儂に貰えんか?」

「ええ、いいですよ」

「あと『魔力回復薬』の件がひと段落ついてからでいい、一度儂のところに来てくれんか?」

「いいですが、何をするんですか?」

「それはその時のお楽しみだの」
髭を撫でながら意味深な笑みを浮かべていた。
これで瓶の製作は問題無くなった。
ゴンガス様、あざっす!



本日もまた会議を行っている。
議題は『魔力回復薬』の値段設定だ。

「先日鍛冶の街で、ゴンガス様と話を付けてきたよ」

「どんな内容になりましたか?」

「ああ、二ヶ月で一万個作ってくれることになった」

「「おおー!」」

「幸先いいですね、島野さん」

「ああ、重畳だ」

「それで、瓶の金額はおいくらになりますか?」
オットさんが一番気にしていたことを口にした。

「一瓶で銀貨五枚だ」

「となると、その分の支払いを考えませんといけませんね」

「いや、そこは気にしなくていい」

「といいますと?」

「俺が支払は済ませている」

「えっ!それはどうして」

「どうしても何もその方が、話が早いじゃないか」

「しかし、金貨五百枚ですよ?」

「ああ、問題ない」
オットさんは目を見開いていた。
ちゃんと目があるじゃないか。普段からそれぐらい開けてなさいな。

「島野様は随分と豪胆な方のようだ、金貨五百枚を即日でポンですか・・・いやはや」
正確には少し違うが、まあめんどくさいからいちいち訂正しなくてもいいだろう。

「それでオットさん、こうなると販売価格はいくらが良いと考えますか?仮案は銀貨五十枚でしたよね?」

「そうですね、仮案はあくまで、国民の手が届く金額がこれぐらいではないか、という処から算出した物です、瓶の値段などは全く考慮していませんでした」

「じゃあ、当初は売上の二割を島野商事で貰うことにしていたが、これだと仕入れ代金を払ったら利益は一割になるから変更したい。さすがに社員を使って行うことなので、慈善事業にはできない」

「では販売価格を銀貨五十五枚として、その内の取り分として島野様には、銀貨十五枚でいかがでしょうか?」
この先のメッサーラでは、学校の建設と運営が控えているから、こちらの取り分はこれぐらいにしておかないといけないだろうな。

「分かった、そうしよう」

「ありがとうございます」

「瓶持参の方は銀貨四十五枚でいこう、こちらは当初の通り銀貨十枚頂くでいいかな?オットさん」

「はい、そうして貰えますと助かります」

「これで金額の設定はいいとして、後は何かあるかな?」
オットさんが気まずそうな表情を浮かべていた。

「ひとつよろしいでしょうか?まだ先々の話なので、今はいいのですが、学校の建設に必要な、設計技術と大工の人数がどうにも揃いそうにないんです、はい・・・」

「大工の設計技術と人数?」

「ええ私の方で調べてみたところ、六歳から一二歳までの子供の数は、約四千人になります。これだけの数をとなると、学校を十校作ったとしても、四百人を収納する施設になります。メッサーラにはそれだけの人数を、収納できる施設を建設したことがありませんので」

「そうなのか・・・」
エロ大工に聞いてみるか?

「建設場所は問題ないのか?」

「建設場所は問題なく確保できると思います、ただどれだけの大きさの建物になるかにもよりますが」

「そうか、ちょっと大工の街に行く用事があるから、大工の神様に聞いてみるよ」

「本当ですか?何から何までありがとうございます、島野様」

「本当にありがとうございます」
ルイ君とオットさんが頭を下げていた。

「たまたま最近広げた神様ネットワークが、上手く嵌っただけだよ」
ほんと人脈って大事。



マークとランドを迎えに来がてら、ランドール様に会いにいくことにした。
今回は前回の教訓を生かして、ちゃんと待ち合わせ場所を決めてある。
待ち合わせ場所に到着すると、既にマークとランドは、待ち合わせ場所のお茶屋で待機していた。

「お疲れさん、ひとまず状況を聞こうか?」

「何とか基本となる宮造りの構造や、宮大工の技術は習得できました。ランドール様にみっちりしごかれましたからね」

「それはよかったな」

「まあ元々ハンターになる前には、宮大工の見習いを俺達はやってましたんで」

「そうだったのか、だからランドール様とは知り合いだったのか?」

「ええそうです、後、細かな宮大工の道具も手に入りました、これでなんとかなりそうです」
運ばれていきたお茶を一口飲んだ。
うん美味しい。

「この後ランドール様に話があるんだが、今日は何処にいるか分かるか?」

「ええ知ってます、後で案内します」

「頼む」
雑談を交わした後、俺達は茶屋を出た。



ランドール様は、現場に出ているとのことだったので、現場に向かうことにした。
建設現場は活気に溢れていた。
大きな男性が多く、まさにガテン系。
中には女性もおり、てきぱきと作業をしていた。

「作業中だがいいのか?」
気になったので聞いてみた。

「ええ、ランドール様はあまりそういうのは気にしないタイプですので」
鍛冶屋のおっさんとは違う、ということだな。
マークが声を掛けに行ってくれた。
ランドール様が気さくに手を振っている。
手を振り返しつつ

「仕事中にすいません」
と念の為謝っておいた。

「いえ、気にしないでください」

「今日もお土産がありますが、ワインか、トウモロコシ酒のどちらにしますか?」
ランドール様は一瞬ビクッとしていた。

「ああ、ワインでお願いします」
ワインなんだ、何かあったのかな?
『収納』からワインを三本取り出し手渡した。

「いつもありがとう、ありがたく頂くよ」

「ところで一つご相談があるのですが、お時間よろしいでしょうか?」

「ああ、ちょっと待ってて貰えるかな?」

「はい」
ランドール様は現場に戻り、弟子と思しき人にワインを渡しつつ、あれこれと現場に指示を出していた。
一通り指示が終わったのか、こちらに戻ってきた。
仕事の邪魔をしたみたいで、すいません。

「で、ご相談とはなんでしょう?」

「ランドール様は『魔法国メッサーラ』はご存じでしょうか?」

「ええ、知ってますよ」

「実はまだ先になるんですが、今後数年かけて大規模な工事を行う予定なんです」

「大規模な工事とは?」

「学校を十校ほど建設する予定なんです」

「へえ、学校をね」
顎のあたりを擦っている。この人の癖なのだろうか?

「ただ問題がありまして、この学校なんですが、かなり大きな施設になりそうなんですよ」

「大きいとはどれぐらいなのかな?」

「大体四百人が入れる規模です」

「ほう、それは凄いな」

「そこで問題となるのが、そこまでの規模の建物を、メッサーラでは建設したことが無く、ノウハウがないんです」

「なるほど」

「そこで、何かご協力して頂くことは出来ないかな?といった次第でして」

「そういうことですか、その学校のコンセプトは何になりますか?」

「この学校で学ぶのは、基本的な読み書きと計算です」

「それは良い事だ、その学校には子供達が通うと考えていいのかな?」

「はい仰る通りです、六歳から十二歳の子供を対象にする予定です」
また顎を擦っている、これは癖だな。

「それは宮造りに拘らなくてもいいのかな?」

「ええ、そこは大丈夫です」

「であれば、私が設計の段階から協力しよう、流石にその規模となると、もしかしたらこの世界初の、大きさの建築物になるかもしれない。大工の神としては、これ以上無い見せ場になる」

「そうおっしゃってくださると思ってましたよ」
仕事に関しては、出来る人だからね。

「では時期がきましたら、また声を掛けさせていただきます」

「ええ是非そうしてください、では」
とランドール様は現場に戻っていった。



島に戻ると大工道具を小屋に運んで、何処に神社を建てるのかを打ち合わせることにした。

「そういえば島野さん、なんでランドール様はワインにしたと思います?」

「なんでって、俺も引っかかってたんだよな」

「あの人、女の子を酔わせようとしてたんだけど、逆にベロベロに酔わされて、着ぐるみ剥がされて道端で寝てたんですよ」
にやけ顔のマークが、ここぞとばかりに披露した。
なるほど、だからビクついてたのね。
やれやれだな。

「まあ、あの人の女好きは治らんでしょうね」

「間違いないな」

「さて、エロ神様は置いといて、神社の建設場所だがどうする?」

「神社といってもそこまで大がかりな物は厳しいので、小規模な物に鳥居と手洗い場を造る程度でどうでしょうか?」

「であれば、そこまで広さには拘らなくてもいい訳だな」

「ですね」

「けど、ロケーションは考えたいな」

「ロケーションですか?」

「ああ、木に囲まれた場所がいいな、その方が厳かでいい」

「そうですね」

「じゃあ、少し森を切り開くか」

「畑の裏の森から、数メートル開きましょうか?」

「そうしようか、その辺なら獣が現れることもよっぽど無いだろう」

「ですね」

畑から北に向かって、三十メートルほど切り開いた箇所に広場を造った。
ついでに『加工』で木材も確保した。

「久しぶりに島野さん能力を見ましたが、はやり唖然としますね」

「そうか、まだまだ慣れないか?」

「慣れたつもりだったんですけど、ハハ」
マークは頭を掻いていた。

「じゃあ後は任せていいか?」

「はい、お任せください」
俺はマーク達に任せて俺は広場を後にした。



また会議を開いている。
今日はこれまでの纏めと、今後の確認だ。

「まずオットさん、大工の神様が協力をしてくれると約束してくれましたよ」

「ありがとうございます」

「設計段階から手伝ってくれるということなので、時期がきたら現地の視察から行った方がいいな」

「そうなりますね、こちらで準備しておくことはありますか?」

「申し訳ないが、そういったことを含めて、一度打ち合わせをしてみて欲しい、あと宮造りには拘らなくていいように言ってあるが、問題はないか?」

「ええ、問題ありません」

「では、まずは現状を振り返ってみよう」

「「はい」」

「まず瓶に関しては、鍛冶の街で造られる。数も時期も問題ないだろう。次に販売所の建設はどうなっている?」

「順調にいってます」

「人員は?」

「はい、各教会には通達済で、確保できていると報告が上がっています」

「販売開始が近くなったらレクチャーが必要になるが、誰が担当するんだ?」

「私が行います」
と元気よくゴンが手を挙げた。

「そうか、どういう段取りを考えているんだ?」

「一ヶ所に集めて、効率よく行おうと思います。何度もやるのは面倒ですし」

「いい判断だ」

「後、販売小屋の警備の手配はどうなっている?」

「僕の方から、警備兵に手配をするように話は通してあります」
ルイ君が答える。

「売上金の回収方法は?」

オットさんが手を挙げた。
「販売所の警備に当たった兵士が、そのまま販売時間終了後に、国庫まで持参することになっております。そこで販売数と照らし合わせて、チェックをする手筈です」

「販売価格などは前に打ち合わせた通りでいいとして、商品の保存に関してだが、どうなっている?」

「販売所には広い日さしを設けることで、常に日光が当たらない様に設計しておりますので、問題はないかと」

「分かった、後、販売前に広く宣伝するとのことだったが、教えてもらおうか?」

ルイ君が手をあげる。
「まず、国から国民に対して、重大な発表があることを掲示板で伝えます。次にその場にて、今後のメッサーラの方針の発表を行い、その上で『魔力回復薬』についての宣伝をおこないます」

「その手筈は全部メッサーラで仕切るようにしてくれ」

「かしこまりました」

「他に全体を通じて、何か意見や質問などがある者はいるか?」

リンちゃんが手を挙げる。
「島野さん、私の役割は何になりますか?」

「ああ、すまなかったな、細かくは話してなかったな、まずリンちゃんには、商品の納品をメインでやって貰う予定だ、そして、島に来てから具体的なことは教えるが、商品の梱包作業を監督して貰おうと考えている」

「監督ですか?」

「ああ、それは島に来てから話そう、いきなり部下を持つようなことになるが、俺は君なら出来ると信じている」
リンちゃんがキリッとした表情になった。やる気スイッチが入ったようだ。

「分かりました、全力で行います」

「他にはどうかな?」

「島野様、本当に島野様のことは公表を控えるという事でよろしいのでしょうか?いまいち小職には理解が及びません」

「前にも言ったが注目を集めたくない理由がある、どうしてもそれが知りたいのであれば、ルイ君に聞いてくれ、契約魔法を使用することになるとは思うが、それだけ重要なことだと理解して欲しい」

「承知いたしました」
オットさんの立場からしたら当然のことなんだろう、現にルイ君とオットさんはこの『魔力回復薬』によって国が大きく変わると推測している。
であるのに、その立役者の名前すら公表されないというのだから、尚更だろう。
まあ俺が単に目立ちたくない、ってのもあるんだがね。

「他にはどうかな?」

「大丈夫です」

「問題ありません」

「OKです」
ということで本日の会議は終了した。

ちなみにこの日の差し入れは、リンちゃんが愛して止まないツナマヨおにぎりにした。
オットさんもこれが楽しみらしく、家族にも持って帰ると嬉しそうにしていた。
リンちゃんがどれだけ興奮していたのかは、あえて語る必要はないだろう。



それから二ヶ月近くが経ち、遂にゴンとリンちゃんが卒業を迎えた。
ゴンは今回の留学で、新たな魔法を習得することができた。
習得できた魔法は以下の通り

『浄化魔法』『照明魔法』『付与魔法』『空間収納魔法』『契約魔法』

リンちゃんは

『照明魔法』『拡声魔法』

を習得したようだ。

ゴンの『付与魔法』と『空間収納魔法』で、マジックバックが造れるらしい。
島の皆の為に、既に俺はマジックバックを十個購入してしまっていた、金貨百枚近く掛かっていたのに・・・オーマイガ!
これ以上は語るまい・・・
タイミングが悪い・・・うんうん・・・そういうことにしておこう・・・

ゴンは管理部門に復帰し、リンちゃんは『魔力回復薬』販売部門に配属された。
この人選には、俺の思う処があっての人選だ。

リンちゃんはメッサーラ出身のため、メッサーラに詳しく、また、ルイ君とも懇意にしているということもあるのだが、俺はその点のみだけでは無く、この子の可能性にかけてみたいと思うところがあった。
リンちゃんは一見控えめで、消極的に見えるのだが、それでいて全体を見渡す力があると感じている。
判断も冷静であり、自分の手に余ることが有ったら、直ぐに報告することが出来る。
そんな人材であると俺は思っている。
言ってみれば、痒いところに手が届く人材なのだ。

更にゴンの影響なのか、最近ではちゃんと、自分の意見を積極的に言おうという姿勢も感じられる。
願ったり叶ったりの人材である。
そんなリンちゃんに、さっそくテリー少年達を当てがった。
三日後に開始される『魔力回復薬』の瓶詰め作業を、テリー少年達に手伝わせた。
テリー少年達にとっては、リンちゃんは島では後輩になるが、そんなことは関係ない。
既に前もって話はしてあり、ふざけたことを言ったら、この島を追い出すとギルから言われている。

そこに更に、俺の念押しも入っている。
まあ、面倒なことにはならないだろう。
テリー少年達も、この島に来てからは随分と成長しているようで、彼らなりに頑張っているのは承知している。
加えてリンちゃんの巨人族の身体の大きさが物を言ったようで、早々にリンちゃんの配下に成り下がっていた。
二メートル以上の身長がある、女性のインパクトは大きかったようだ。
でも高圧的なところは感じさせないリンちゃんの対応に、テリー少年達も一定の信頼を寄せているようで、上手く事は進み始めているようだ。
ここから数日は忙しくなる為、彼らのチームワークに期待したい。

既に販売開始の一週間前には、国の至る所にある掲示板に、一週間後に魔法学園にて、重大な発表があり、魔法学園に来れる国民は、積極的に集まるようにと、ルイ君の名前で知らせてある。
メッサーラ国内では、いったい何が行われるのかと、国中が騒然としており、それは期待に満ちた声と、不安が入り混じった声と、様々な憶測が飛び交っていた。

この様なことは、これまでのメッサーラの歴史には記憶になく、今回のことが異例のことであることを示している。
期待と不安でメッサーラが揺れていた。



販売開始前日
ゴンは販売所に携わる者達を魔法学園の講堂に集め、取り扱いに関するレクチャーを行っている。
サポートにはオットさんがついている。
内容としては、商品の取り扱い全般、販売時に消費期限や保存場所についての話をすること、金銭の取り扱い等について。
講堂の黒板を使い、分かり易く説明している。
そして、発表が行われるまでは『魔力回復薬』に関しては一切話してはならないと全員契約魔法で契約させられていた。

また、それと同時に『魔力回復薬』が各販売所に持ち込まれ、警備員の監視のもと、厳重に保管されている。
今回は人海戦術が必要な為、アイリスさん以外の社員全員が事に当たっている。

ここでさっそくマジックバックが活躍した。
ゴンがまだマジックバックを造っていない為、結局は購入して正解だったようだ。
あとは明日を待つのみだ。



販売日当日
『魔法学園』は人で溢れていた、学園内に入りきらない人達が、学園の外にも溢れている。その行列は『魔法学園』を囲い込み、大輪の花が咲いている様だった。
至る所で押し合いになっては不味いと、警備兵の数にも余念は無い。
皆が皆、これから始まるであろう出来事を、固唾を飲んで待っていた。
『魔法学園』校舎の前には、セレモニー用の台が置かれており、その上には教壇が据えられている。
学園の各所には『拡声魔法』を使える魔法士が配置されており、声が最後尾まで届けられるようになっていた。

今まさに、メッサーラの歴史が動こうとしていた。



教壇の前に賢者ルイが姿を現すと、国民の緊張感が一気に膨れ上がった。
中にはこうして賢者ルイの姿を始めて目にした者もいるのだろう。
「あれが賢者ルイ?」

「随分若いのね」
等という声が漏れている。

緊張で顔が引き攣っている賢者ルイ、全体を見渡して、あまりの人の数に、さらに表情を硬くしている。
教壇に置いてある水を飲もうとするが、手が震えて上手く飲めていない。

すると突然『拡声魔法』で大きくなった声が掛けられた。
「ルイ君!肩の力を抜いて!複式呼吸よ!!」
ゴンの声だった。

何事かと騒めく民衆、その様子に冷静さを取り戻しつつある賢者ルイが、深く複式呼吸を始めた。
数秒後、さっきまでの賢者ルイはそこには居なかった、佇まいを但し、遠く一点を見つめている。

「皆さん、お集りくださり、ありがとうございます。僕は・・・私は賢者ルイです!」
民衆は騒めきを止め、賢者ルイの方に向きなおる。

「今回この様な場を設けさせていただいたのは、ある重要な発表を行う為です!」
『拡声魔法』により、声が響いている。
その声が収まることを確認しながら賢者ルイは続けた。

「その重大な発表の前に、少しお話をさせてください」
民衆が耳を傾けている。

「メッサーラは建国して約五百年となります。最初は魔法を愛する者達が集い、村が出来、いつしかそれは街となり、やがて国となったと言われています」
民衆は頷き、そして次の言葉を待っていた。

「私は魔法が大好きです。そして魔法を愛する者達で溢れるこの国も大好きです!」
自然と拍手が起こった。
賢者ルイはそれを手を挙げて受け止めた。
拍手が止んでいく。

「私はこの国を魔法で満ち溢れた豊かな国、そして笑顔が溢れる国にしていきたいと考えています」
静まり返る民衆。

「しかしそれは、私一人では叶えることはできません、どうか皆さんに協力をお願いしたい!」
賢者ルイは一拍置いてから話を続ける。

「今後数年かけて、このメッサーラに、新たな学校を建設する計画を進めています」
学校?何で?と騒めく人々。
そんな声を無視して賢者ルイは続けた。

「その学校では、読み書き、計算等を学んでもらいます」

「特に六歳から一二歳の子供を中心に通ってもらう様にします、でもそれ以外でも学びたいという意思のある方は、通ってもらっても構いません」
そんな余裕はないぞ。
何のために読み書きが必要なの?
などと反応はいまいちだ。

「読み書きや計算を覚えることは、その子の人生を大きく変える可能性があります。何より職業の選択の幅が広がります。知識は生活を豊かにします」

「国民の皆さんを豊かにしたい、その為には学校が必要である、と私は考えます」
一気に畳みかける賢者ルイ。

「学費は一切かかりません、それに家庭の事情で子供達も働いている家庭があることも理解しています。ですので、通うのは午前中のみとし、お昼御飯も格安で提供しようと考えています」
それならなんとかなるか。
良いんじゃないか。
と風向きが変わりだした。

「是非前向きに検討していただきたい!」

「そして、学校の建設には莫大な資金が必要になります」

「その資金を集めることが出来る、ある商品の開発に『魔法学園』は成功しました!」
群衆の緊張感が再び高まった。

「その商品の売上の一部を使い、学校の建設を行います。その商品は本日より、教会の隣に設置した販売所で購入可能です」

「その商品とは!」
一気に注目が集まった。
賢者ルイは意図的に間を取っていた。

「『魔力回復薬』です!!」

辺りが静まり返ったのは一瞬の出来事で、大喝采に包まれた。
歓喜に沸く会場、留まることのない歓声に沸いていた。
それを賢者ルイは涙を浮かべて眺めていた。
賢者ルイは確信した、この国はより豊かになると。
次第に歓声は鳴りやみだし。平静を取り戻していった。

「皆さん!この国を豊かにしましょう!」
賢者ルイのこの言葉を最後に重大発表は終了した。



五ヶ所の販売小屋では、何処も長蛇の列が並び、販売時間終了を迎えても、列は途切れることはなかった。

「それにしても凄い光景だな、まだ並んでるぞ」

「ええ、そうですね」
隣に並ぶリンちゃんも同意見だ。

「ルイ君も立派なもんだったな」

「まったくです、ただゴンちゃんのあれが無かったら、こうはいかなかったかもしれないですけど。急にゴンちゃんから『拡声魔法』を掛けてくれと言われた時は、何が起きるのかドキドキでしたよ」
あれは面白かったな、にしてもゴンはどうしてあんなことしたんだ?
まああれが、あいつの性格だな。

「まあな、遠目でもルイ君がガチガチに緊張してるのが、分かったからな」

「そうですね」

「そう言えば、明日からちょっとの間、大変だと思うが頑張ってくれよ」

「はい、まだ集計は上がってきて無いですけど、瓶の増産も必要かもしれないです」

「そうだな、そうなりそうなら早めに言ってくれ、判断はリンちゃんに任せる」

「あと、明日からは瓶無しの販売も始まります、樽の数が足りるのか心配です」
瓶無しの商品用に、樽の下部に蛇口を取り付けた物を用意してある。
持参した瓶に、樽の蛇口を捻って『魔力回復薬』を詰めるというものだ。
一樽の容量はおよそ三十リットル、約二百杯分だ。

「樽も増産が必要なら言ってくれ」

「分かりました」

「これからメッサーラも、変わっていくんだろうな」

「ええ、期待しています」
こうして販売日初日は終了した。



その後一週間は『魔力回復薬』の仕事に奔走することになった。
結局瓶は、更に二千個増産することになり、鍛冶の街に発注することになった。
瓶無しの商品も順調に販売できており、なんとこの一週間で利益は約金貨一千五百枚にもなった。
正直やり過ぎだ。
でもまあ、お金はあったに越したことはないが・・・どうやって使おうかな?

とりあえずは皆の給料は倍増だな。
年間の利益を計算するのがちょっと怖い。
これが日本なら、税金をどれだけ持ってかれるんだろうか?
あー、やだやだ。
税金嫌い!

『魔力回復薬』販売開始から、一ヶ月近くが経っていた。

サウナ島の皆も、やっと落ちつきを取り戻したようだ。
結局どれだけ稼げたのか、俺は怖いので利益計算をしていない。
ひとまず皆の給料は倍になると伝えた所、宴会が始まった。
レケはそれを聞いた途端、日本酒用にと、米を大量に買っていた。
どれだけ飲む気なんだこいつは・・・

前にレケが作った日本酒を飲ませて貰ったがとても美味しかった。
辛口でピリッとした飲みごたえで、少々アルコール度数が高い気がしたが、それはそれでいいように思えた。
五郎さんの所の日本酒に近いかな?

あと、リンちゃんが俺の期待に応え、テリー少年達を纏め上げ、見事にコントロールしていた。
テリー少年達はリンちゃんを姉御と呼び、何故かゴンがそれを羨ましそうにしていた。
なんで羨ましいのかな?
当のリンちゃんは姉御と呼ばれることに、抵抗があるようだが、敢えてそれを口にしてはいないようだ。
今の関係性を崩したく無いのだろう。

マークとランドは神社の建設に取り掛かり、腕の見せ所だと意気込んでいる。
神社建設の話をした時の、メタンは凄かった。
たまたまメタンが休日ということもあり、メタンは半日近く涙を流しながら、創造神様の石像に祈りを捧げていた。
神気が濛々と発散されている様は、恐怖すら覚えるものがあった。
メタン・・・怖いよ・・・

ゴンはリンちゃんが納品にメッサーラに行く時に、付いていくことが多く、ルイ君の所にもよく顔を出しているようで、友人関係は引き続き継続中とのこと。
ルイ君からは暇が出来たら、サウナ島に行かせてくれと、わざわざ手紙まで書いて寄越してくれた。
いつでも来てくれたらいいのだが、今のルイ君を見る限り、当分の間は休暇を取得することは無理だろう。
メッサーラは国として確実に変化してきている。
まだまだ学校の建設等、問題は山積みだ。
頑張れルイ君!

ギルは相変わらず休日はリズさんの所に行っており、たまにテリー少年達も里帰りしている様子。
ギル先生は孤児院の人気者らしい。

メルルは前回のメッサーラのお手伝いで、昔お世話になった教会に、久しぶりに里帰りができたようだ。
故郷に錦を飾れたと嬉しそうにしていた。
それに誇らしくもしていた。

アイリスさんは、人員が増えたことと、ゴンガス様からのトウモロコシの発注で、畑を拡張できたことに喜んでいた。
アイリスさんは畑に全てを捧げていると言っても、過言では無いだろう。
ありがとうございます。大変助かってます。

さて、ひと段落着いたら、能力の開発を行おうと考えていた俺は、何の能力開発を行おうかと考えている。

前回のメッサーラの件で思ったのは、俺に『複写』と『複製』の能力があったら、ことはもっと楽に進んだのではないかということ。
なのでまずは『複写』の能力を取得しようと思う。
要はコピー能力を得ようということだ。

日本の我が家に帰り、インターネットでコピーの原理を調べてみたが、俺が理解できたのは、静電気が関係していることと、レーザー光が必要ということだった。
静電気はまだしも、レーザー光が出て来た段階で断念した。

発想を変えて、独自の開発方法に取り掛かった。
そこで考えたのは、昔ながらの印刷方法だった。
わかり易く言えば、芋版だ。
小学生の時に作った思い出がある。
同じ形の形状に印刷が出来る、至ってシンプルな方法。

目の前に紙を用意し、サウナとカタカナで書いてみた。
それを頭の中で、芋版をイメージし、何枚も印刷するところをイメージしてみた。
そして、そこに神気を流してみる。

駄目だった。

余りにイメージが単純すぎたんだろう。
次にイメージしたのは、活版印刷だった。
石に逆絵を書き、次々に印刷を行うイメージを重ねて行った。

ピンピロリーン!

「熟練度が一定に達しました。ステータスをご確認ください」

いつものアナウンスが流れた。
俺は『複写』の能力を手にしていた。

後は、これの熟練度を上げて行けば『複製』が手に入るだろうと考えている。

この後、ことある事に『複写』を使用してみた。
ギルが孤児院で使う、読み書き計算の教材を複写し、メッサーラでの『魔力回復薬』の使用上の注意書きを作り、それを『複写』しまくった。
残念ながらまだ『複製』には届いていない。

まあ、引き続き熟練度を上げていこうと考えている。
だがよく考えてみれば『複製』と『複写』は大きく違う。
『複写』は目の前にある物に、転写することだが『複製』は物質その物を造る作業だ、大きく違うことに間違いはない。
一先ずは『複写』を手にできただけでもよしと思うことにしよう。
『複製』はまだまだ先のようだ。
焦らずゆっくりとやっていこう。



続けて今度は実験的に半ばあきらめていた、シャンプーの作成に着手した。
現在では、日本の物を使用しているのだが、出来れば島の物で作りたいと思うようになった。
今では歯ブラシも島の物で作っている。
柄の部分は木を使用し、毛の部分にはゴムを使用している。
最初は感触に不慣れだったが、今となっては、こちらの方が綺麗になっているとすら感じている。

話を戻すが、髪を洗うのに、石鹸では髪がごわついてしまう。
シャンプーの作成に、能力の『合成』を使って出来ないかと試案している。
そう考えたのは『合成』は、界面活性剤の代わりになるのではないかと思ったからだ。

まずは簡単なところから始めることにした。
今ある石鹸を粉状にし、お湯に溶かす、それに臭い付けとして、粉状にしたハーブを加える。
実験はノンに協力してもらうことにした。
獣型になって貰い、尻尾を洗わせてもらうことにした。
試作一号シャンプーで洗ってみる。

「ノン、どんな感じだ?」

「うーん、いつもの石鹸に匂いがついただけで、日本の主が使ってくれてた、シャンプーほど気持ちよくは無いよ」
そりゃあそうだろう。
薄めたハーブ石鹸だからな。

「そうか、試作二号ができたら、またお願いするよ」

「分かった」
次の段階としては、油分を加えることだ、問題はどの油を使うかということ。

菜種油や、胡麻油は違うと思う、化粧品として使われているのは、椿油やホホバ油だったと思う。
他にもオリーブオイルや、ココナッツオイルなんかもあったと思う。
今はオリーブオイル以外の油は無いので、栽培から始めて見ようと思う。

さっそく畑の一部を拡張し、ココナッツ、椿、ホホバの栽培を始めた。
神気を送り込めば成長が早い為、強めに神気を流してみる。
流石に当日に収穫とはいかず、収穫までに五日掛かった。

これで四種類の油分を手にすることができた。
後は配合などをどうしていくのか?
まずはオリーブオイルを、試作一号に『合成』で混ぜ合わせる。
試作一号に比べて、粘り気が加わっている。
日本のシャンプーとまでは行かないが、方向性としては間違ってないだろう。

ノンで試してみる。

「前のよりはいいけど、物足りないよ、主」

「そうか、どんな感じで物足りないんだ?」

「うーん、上手く言えないけど、もう少し油分があってもいいかも」

「油分か、乾いた時にベトベトしたりしないかな?」

「乾かしてみて」
とうことで、自然操作の風で乾かしてみた。

「どうだ?」

「やっぱりもう少し油分が欲しいよ」

「分かった」

ここから試行錯誤を経て、遂に納得が出来るシャンプーが完成した。
よかった、よかった。
油分として採用したのは、椿油とホホバオイルをミックスした物と、ココナッツオイルを使用した物。
試作一号に椿油とホホバオイルをミックスし、ハーブの分量を倍にした。
匂いも良くノンもこれらないいと、太鼓判を押した。

試作一号とココナッツオイルを混ぜた方は、とても南国感があった。ハーブの量は変えていない。
最終的にこの二種類にした。
あとは好みが分かれるところで、男性陣はどちらでもいいようだったが、女性陣は椿とホホバの方が好みのようだ。
今度五郎さんの所にでも持っていこうと考えている。
絶対食いつくのは分かっている。
また儲けてしまうな・・・



一つ思い出したことがある。
鍛冶の神ゴンガス様が『魔力回復薬』の件が一段落ついたら、来て欲しいと言われていたなと。
トウモロコシの納品がてら、ゴンガス様のところにやってきた。

受付のメリアンさんだ。

「今日も納品ですか?」

「ええそうです、あとゴンガス様から一段落ついたら、顔を出してくれと言われてまして」

「そうですか、今日もワインをお願い出来るかしら?」

「ええいいですよ、何本ですか?」

「そうね三本貰うわ」
と言って指を三本立てていた。

「まいどあり、銀貨九十枚です」
『収納』からワインを取り出して。お金と交換した。
この人も本当にお酒が好きなんだな、ほどほどにしてくださいよ。

「ちょと待っててくださいね」
メリアンさんが、ゴンガス様を呼びに行ってくれたようだ。
ゴンガス様が現れた。

「おお、お前さん、トウモロコシありがとな助かっておるぞ」

「いえいえ、それで前に一段落したら顔を出すように言われてましたが、そろそろ大丈夫ですが」

「そうか、じゃあ早速だが、工房に来て貰えるかの」

「ええ、分かりました」
前にも一度訪れた工房、綺麗に清掃が行き届いている。
少し焼けた匂いがするが、これが工房なんだろう。

「前にお前さんは、自分で瓶を造ったと言っておったな」

「はい、そうです」

「それを見せてはくれんかな?」

「ええ、いいですよ」
ゴンガス様が材料を用意してくれた。
俺は『合成』の能力で瓶を作製した。

「おおお!」
ゴンガス様が興奮している。

「お前さん!何をやった?」

「何をって、能力を使ったんですよ」

「そうか、そうだったな、お前さんは能力を使えるんだったな・・・にしてもこれはとんでもないのう」
そうでしょうね、始めは俺も便利過ぎて、驚きましたからね。

「それで、聞きたいのはその能力のことだ、なんていう能力なんだ?」

「俺のこの能力は『合成』という物です」

「『合成』か・・・他には類似する能力はあるか?」

「ええ、類似するのは『分離』と『加工』ですね」

「『分離』と『加工』か・・・これは何でも出来てしまうな」
と言いながら、髭を撫でている。これは癖だな。
俺も髭を生やしてみようなか?
似合わないだろうな・・・止めておこう。

「何でもですか?」

「ああそうだろう、今聞いた能力を使えばありとあらゆることが出来る」

「そうですか?」

「儂の予想では『分離』と『加工』は減らすこと『合成』は足すこと」
ゴンガス様は前にも感じたけど、賢い上に鋭いな、ええその通りですよ。
人は見た目道りとは限らないとはこのことだな。

「いわば足し算と引き算だの」

「ええ、そうです」
おいおい、理解早すぎでしょ。

「であれば、その可能性はあまりに大きい」

「・・・」

「お前さん、良く考えてみろ、この世界には様々な物に溢れておる、例えば、砂、石、鉱石、植物、水、空気、光、色、言い出したら限がない」
言われてみれば確かに・・・

「ええ・・・」

「例えば空気だ、空気中には様々な物質が含まれておると儂は考えておる、というのも鍛冶には火が欠かせない、そしてこの火に風を送ると、火が大きくなる。儂は空気中に火を大きくする何かが含まれておると考えておる」
酸素のことか、考察としては間違ってはいない。

「それをお前さんは、分離して切り離すことができるんだろ?」
それは考えたことは無かった、でも確かにそうだ。
空気中から酸素だけを俺は取り出すことが出来る。
なんで今までそれに気づかなかったのか・・・

「そうなりますね・・・」

「であれば、お前さんの能力には無限の可能性があるんじゃないのか?」

「そうかもしれませんね・・・」

「となると、お前さんはこの世界を変えてしまう存在になるのかもしれないのう」
ゴンガス様がサラッと、とてつもないことを言い放った。
俺がこの世界を変えるてしまう存在?
何言ってんだこのおっさん。

「・・・」

「お前さん・・・自分が思う以上に、お前さんの存在はこの世界にとって、大きいのかもしれんのう」

「そうなんでしょうか・・・」

「まあ、とは言っても所詮人だ、そう深く考えることでもあるまい、ガハハハ!」
ゴンガス様は笑い飛ばしているが、俺にとっては思った以上に大きな話しだった。

ゴンガス様が居ずまいを正した。
「そういえばお前さんにプレゼントがある」

「プレゼントですか?」

「ちょっと待っておれ」
と言って、ゴンガス様は何処かに行ってしまった。
数分後、ゴンガス様が帰ってきた。
何故か汗だくだった。
はあはあと、息が荒い。
走ってきたのか?

「待たせてすまんのう、探すのに時間が掛かったわい」
と言うとテーブルの上にダン!と何かを置いた。
それは鞘に収まった短剣だった。

「これをお前さんにプレゼントする」
というと、ゴンガス様は短剣を鞘から抜いて、目の前に差し出してきた。

俺はそれを見つめた。
刃先だけ妙に光っている短剣だった。
鞘は意匠が凝らしてあり、豪華な物に思える。
それを鞘に納めると、ゴンガス様は俺にその短剣を俺に手渡した。

「お前さん、これはミスリルの短剣だ」
ミスリル!異世界来たー!

「だが、なんちゃってだがな」
なんちゃって?どうゆうこと?

「ミスリルの部分は、刃先のみだ」
ああ、そういうことね。

「でも切れ味はミスリスの短剣そのものだ」

「ミスリスの短剣って伝説の一品なんじゃないんですか?」

「そうかもしれないのう、前にお前さんから貰った『万能鉱石』をミスリルに変えたら、豆粒サイズになりおった。これでは何もできんと思ったが、刃先だけなら何とかなると考えてのう」

「なるほど」
それならありだろう。
それに安価だ。

「そこで、これが出来上がったという訳だ、お前さん貰ってくれるかのう?」
短剣を押し付けられた。
どうしたもんかと悩んだが、俺はそれを貰うことにした。

「ありがたく頂戴します」

「お前さんには随分と稼がせて貰ったからのう、これで貸し借りは無いということだのう」

「ええ、そうですね・・・」
まかさミスリルの短剣を貰えるとは・・・これは何かのフラグなのか?
そうあっては欲しくはないが・・・
はあ、のんびりさせてくれよな。
俺は工房を後にした。


サウナ島に帰ってきた。
改めて能力について考えてみる。
たしかにゴンガス様の言っていた通り、何でもできてしまうかもしれない。
ただし、それはあくまで足し算と引き算であって、掛け算や割り算にはならない。
『複写』は掛け算になるのか?
なるんだろうな。
割り算は・・・まぁいっか。

それにしても、改めて『分離』について考えてみてもその範囲は広い。
空気に関してもなんちゃって冷蔵庫を、真空にするのに使っていた。
だが色や光といった物には使用したことは無い。
光を分離するとは、どういうことなんだろうか?

色の分離はなんとなくではあるが、想像は出来る。
ただそれを使って何をするというのだろうか?
色を薄める程度だろう。
例えば黒い石を灰色に変えるとか・・・やる意味がない。
光や色という物には『分離』によって得られる効果は、今のところ考えは及ばない。

しかし、空気に関しては再現不可と考えていたあれが、使い方によっては出来るのではないか?と思う。
あれとは炭酸泉である。
炭酸泉の炭酸は炭酸ガス、すなわち二酸化炭素。
二酸化炭素は空気中にも含まれている。だがその量は極僅かであったと記憶している。
その極僅かな物が、気候変動を引き起こしていると言われていることに、驚きを隠せないが、それは俺がどうにか出来ることではない。

まずは実験をしてみよう。
風呂場にやってきた。
俺はお湯を見つめる。
空気中の二酸化炭素を『分離』にて、お湯の中に発生させる。

「・・・」

僅かながらではあったが、炭酸が発生した。
原理としては間違ってはいないのだろう。
問題は空気中の二酸化炭素では量が少なく。
炭酸泉に応用できるほどの量が、確保できないということだ。
それに俺が能力を使っていないと、二酸化炭素が発生しないということでは話にならない。
俺は二酸化炭素発生装置にはなりたくない。

さて、俺が能力を使っていないといけないという点は、神石で代用は可能だ。
幸いマーク達からこの島の工事で採掘できた神石がいくつかと、畑の拡張時にもいくつかの神石を確保できている。

そこでまずはボンベを造ることにした、とは言ってもカセットコンロに使うガスボンベよりも一回り大きなサイズの物。
但し構造は、医療用の酸素ボンベ等で見かける物と同じである。
材質はいろいろ調べてみた結果、マンガン銅を使用することにした。
ボンベに神石を『合成』で張り付け、神石に『分離』の能力を付与する。
これで空気中の二酸化炭素が、ボンベ内に溜まっていくことになる。

後はこれを何処に置いて置くのか、ということである。
そこら辺に置いても、たいして溜まりはしないだろう。
二酸化炭素が発生しやすいところといえば、火の側であることに間違いは無い。
そこでまずは台所に設置して、様子を見ることにした。
ちゃんと触るな危険と、張り紙も張り付けておいた。

実験初日
朝昼夜と台所で火を使い、ボンベに二酸化炭素を貯めて見た。
ボンベ内に、どれだけ二酸化炭素が溜まっているのかを検証する。
ボンベの上部にはコックがあり、それを捻るとボンベ内の二酸化炭素が放出される仕組みだ。
これならどうにか出来るだろう。

コックの取り付けてある先の部分に、ゴムチューブを取り付け、ゴムチューブの先には、細かく穴の開いた箇所を造る。
重りを『合成』で張り付け、これを湯舟の中に沈める。
これでコックを開けば、炭酸泉になるといったものだ。
さて、どれぐらいの二酸化炭素が溜まっているのか。
ちょっと期待。

コックをゆっくりと開いていく、すると一度ボコっと音を立ててから、大きな空気が湯舟に立ち上がる。
その後、炭酸がじわじわと浮かび上がり、炭酸泉となった。
一先ずは成功。

しかし、その継続時間はおよそ二分、あまりに物足りない。
残念で仕方がない。
皆で使用することを考えると、最低一時間は稼働が必要だ。
そうなると三十日間必要となる。

月一回入れる魅惑の炭酸泉。
言葉の響きとしては魅力を感じるが、俺が目指しているのはそんなことではない。
せめて三日に一度は入りたいのが本音だ。
この世界で火を大量に使うところといったら、あそこしかない。
何と説明しようか・・・あの人にとっては、何のメリットもないからな・・・まあ正直に話すしかないかな?
一先ず念の為、もう一回り大きいボンベを造った。



ということで、鍛冶の街にやってきた。
向かうのはもちろんゴンガス様のところ、受付のメリアンさんに挨拶をして、ゴンガス様を呼んで貰った。

「お前さん、今日は納品の日だったかの?こないだ納品したばかりじゃなかったかのう?」

「納品の日ではないです、ちょっとお願いに参りました」

「ほう、お前さんがお願いとは、面白そうな話だのう」
と言って髭を撫でている。

「面白いかどうかは分かりませんが」
『収納』からボンベを取り出した。

「これを工房の、出来れば火を使う所の近くに置いて欲しいんです」

「なんじゃそれは?」

「これは二酸化炭素を吸収する装置です」
訝し気な表情をしている。

「二酸化炭素?」

「はい、前回ゴンガス様とのお話をヒントに、作成した装置です」

「ふん、それで」

「前回ゴンガス様は火に風を送ると火が強くなる、空気中に火を大きくする物質があるとの、話をしましたよね?」

「ああ、したのう」

「俺の異世界での知識として、その考えは正解なんです」
頷いている。

「やはりそうか」
どや顔になった。
まあ、そうなるよね・・・ハハハ。

「それでその物質は、異世界では酸素といいます」

「酸素とな?」

「はい、そしてその酸素が火を強くした後、二酸化炭素という物質に変換します」

「二酸化炭素とはお前さんが先ほど言っていた物質だのう」

「はいそうです。その二酸化炭素を吸収する装置なんです」

「なるほど、で、その二酸化炭素を集めて、お前さんは何をするつもりなんだ?」

「その二酸化炭素を使って、炭酸泉を作ろうと考えています」

「炭酸泉?」

「はい、風呂です」

「風呂?」
ゴンガス様は呆れた顔をしていた。

「お前さん、こないだ世界を変えるかもという話をして、その結果が風呂か?」

「ええ、そうです」

「なんとも・・・呑気というか、浮世離れしているというか・・・呆れるわい!」
睨まれてしまった。
とりあえず謝っておこう。

「すんません」

「でも、存外そういったところから、世界は変わっていくのかもしれんのう、まあ話は分かった、でも一つ条件がある」

「条件ですか?」

「ああ、儂もその炭酸泉とかいう風呂に入らせてくれるか?」

「おお、そんなことでいいのですか?」

「ああ、実は儂も風呂は好きでのう、三日に一度は入っておるぐらいだ」
三日に一度って、この世界では多いのか?
俺の感覚では不衛生だけど・・・

「鍛冶仕事の疲れを取るには、風呂が一番だからのう、ガハハハ!」
豪快に笑っておりますね、ハハハ。

「疲れを取るには風呂は欠かせませんね、でもゴンガス様、せっかくですから極上を味わってもらいましょう」
サウナで骨抜きにしてやるぜ、へへへ。

「極上とな?」

「ええ、サウナという極上の代物があります、せっかくサウナ島に来てくれるのなら是非体験して貰いましょう」

「ほほう、サウナとな、儂は聞いたことがないが、お前さんが言うのなら間違いは無さそうだのう」

「ええ、期待してください、ではひとまずこのボンベの設置をよろしくお願いします」

「あい、分かった、どれぐらいで引き取りにくるんだ?」

「そうですね、一週間後に引き取りにきます」

「分かったそうしよう、そこでお前さんのサウナ島に行かせて貰うとしよう」

「了解です」
こうして一週間後に、ゴンガス様がサウナ島に来ることが決定した。



一週間が経った。
ゴンガス様を迎えに来ている。
この日は珍しく、ゴンガス様が受付にいた。

「あれ?ゴンガス様が受付にいるなんて、珍しいですね」

「何を言っておる、お前さんを待っておったんだ」
遠足気分ですねこれは。
気分はウキウキかな?
バナナはおやつに含まれませんよ。

「そうですか、すいません」

「これを持って行くんだろう?」

「はい、ありがとうございます」
ボンベを回収した。
さてどれだけ二酸化炭素が溜まっていることやら、期待してますよ。
異世界で炭酸泉を堪能できるとは思ってもみなかった。
温まらせていただきましょうかね。

「じゃあ、早速いきますか?」

「ちょっと待ってくれ、一声かけてくる」
ゴンガスさんは中に引っ込んでいった。
数分後、ゴンガス様が現れた。

「よし、準備OKだ」

「ではいきましょうか」

ヒュン!



サウナ島に到着した。

「おお!ここがサウナ島か?」
突然の転移には驚かないんですね。
もしかして経験者かな?

「ええ、そうです。ご案内します」
ゴンガス様を連れて、島のアテンドを始めた。
早速畑を見て固まってしまった、ゴンガス様。
おいおい、いきなりかよ。

「どうしました?」

「いや、こんな立派な畑を見たのは初めてでのう・・・」

「ありがとうございます」
褒められて嬉しくない訳がない。

「そうか、この畑によって、あの素晴らしい酒が出来ておるのだな」
独り言ちて頷いている。そうとう関心しているご様子。

アイリスさんが近づいてきた。
「始めまして、アイリスと申します」

「ああ、儂はゴンガスだ、ちと教えて貰くれんか?」

「はい、何でしょう?」

「この畑はあまりに立派だ、何か秘訣でも?」

「まあ、お褒めに預かり光栄ですわ、特に秘訣はありませんが、私は作物の状態を把握できるので、何が栽培に必要なのかを分かることでしょうか?」

「なんと!その様なことが!お前さん何者だ?」
かなり驚いている、ゴンガス様は飛びのいていた。

「私は世界樹の分身体ですわ」

「世界樹!!」
声でか!
ゴンガス様は目を丸くしている。

「はい」

「お前さん、聞いてないぞ」
睨まないでくださいって。

「すいません、言ってませんでしたね」

「お前さんって奴は・・・」
呆れ顔になっていた。

「にしても世界樹が管理する畑、立派であって当然か」
納得してくれた様だ。

「ありがとうございます」

「そうだ、トウモロコシを見させてくれんか、どのように栽培しておるのか知りたいのでな」

「はい、喜んで!」
アイリスさんが嬉しそうだ。

「ではこちらにどうぞ」

ゴンガス様はトウモロコシを眺めている。
ドワーフのおじさんがトウモロコシを眺めている、何ともシュールな絵だな。

「ほほう、この様に栽培しておるのだな、しかし、こんなに背が高かったのか・・・」
ドワーフの身長ではそう感じるのか、ゴンガス様の目の前にトウモロコシがあった。

「トウモロコシは肥料をとても欲しがるので、肥料の確保が大事なんですよ」
アイリスさんが解説を始めた。

「なるほどのう、それであの甘みがある実を付けるということなんだのう」

「そうです、それに一番大きい物だけを残す様に、小さい物は間引く必要があります」

「間引く?」

「はい、取り除くということですわ」

「そうすることで、より栄養が集中するということか、流石は世界樹」
ゴンガス様結構詳しいな、理解が速い。
ただの酒好きの神様ではないらしい。

「ゴンガス様、畑に詳しいですね」

「まあな、酒の原料についてはいろいろ調べてきたからのう、酒作りには欠かせん要素だ」

「なるほど」
結局は酒ってことね。
そんなに飲みたいんだね。
俺には分からんな。

「でも納得がいった、アイリスさんがおるからこれだけの栽培が出来ておるということか、お前さん、羨ましいぞ!」

「ウフフ、ありがとうございます」
アイリスさんが照れている。

「して、次は何の野菜を卸してくれるんだ?」

「えっ!」
やられた!
アイリスさんの前でこの会話は不味い、絶対に断れない。
分かってかどうかは知らないが、もう後には引けなくなった。
この流れになったか・・・
ゴンガス様、したり顔は止めてくれ。
それにアイリスさん、目がハートになってますよ。
勘弁してくれよな・・・

「大麦とかでどうでしょうか?」

「大麦か、良いな、それで頼む」

「大麦も見て行かれますか?」

「もちろんだ」
当然だったようだ。
はあ、やられたよ。
全く・・・

大麦も視察し上機嫌のゴンガス様、次に向かったのは養殖場だ。
「魚の養殖?それはなんだ?」

「魚を育てて、大きくしてから売ったり、食べたりするんです」

「食べる為に魚を育てるってのか?」
ゴンガス様は眼を見開いている。

「はい、そうです」

「そんな考え方があったとは驚きだのう」

「とはいっても、異世界の知識なんですけどね」

「そうか、そういえば儂はそのことも気になっておったんだ、お前さんの出鱈目な能力とは別に、その知識が実に面白い」

「面白いですか?」

「ああ、この世界の常識からは、考えられんことをしておる」

「そうなんですかね?」

「あまり自覚はないようだのう」

「ハハハ」
頭を掻くしかないな。
もっと笑って誤魔化そうかな?

「まあ、いいだろう、その内分かるだろう」
なんだかすんません。

次に温泉を見に行った。
「これが例の温泉だな、どれどれ」
と、手を温泉に付けている。

「そうか、手を付けているだけでも、ほんの少し魔力が回復しておるのが分かる。浸かったらもっとということかのう」

「らしいですね」

「らしいですねって、お前さん分からんのか?」

「はい、俺は魔力は無いので」

「そうなのか?魔力はないが、神力は使えると」

「そうです、魔力がある人が羨ましいですよ」

「お前さんには神力だけで、充分だと思うがのう」

「そうですかね?」

「そうだ、その力だけでも充分にやっていけてるだろうが」
睨まれてしまった。
すんません。
ノンが魔法を使った時には本当に羨ましく思ったもんだったな。

「では、炭酸泉に浸りにいきましょうか?」

「おお!遂にか」

「はい、いよいよです」

「そうかいよいよか、よろしく頼む」
まずは脱衣所に案内した。
ゴンガス様は水着が無かったので、サクッと作って渡した。
身体を洗ってから露天風呂に入る。

「おおーーーー!」
思わず声が漏れているゴンガス様。
うんうん、気持ちは分かります。

そこでボンベを取り出し、ゴムチューブを取り付ける。
ゴムの先を湯舟に沈めてコックを捻る。
炭酸がお湯を満たしていく。

「おお!これが炭酸泉か?」

「ええ、これが炭酸泉です。この炭酸泉はあえてお湯をぬるめにすることがコツなんですよ」

「ほお?ぬるめにか?」

「そうすることで、長い時間入浴を楽しむことができます」

「なるほどのう」

「後で湯から上がったら、体が赤くなっていることが確認できると思います、それが体に良い効果があった証拠だと言われています」

「効果とな?」

「様々ありますが、高血圧の予防であったり、糖尿病の抑制であったりとかだったと思います」

「そうか、それはいいのう」

「ええ、長寿の湯なんて言われているらしいですよ」

「話は変わるが、お前さん、あの髪を洗うやつはいいのう」

「お!分かりますか?」

「ああ、儂の髭もサラサラになりそうだわい、ガハハハ!」
髭なのね・・・
どうでもいいけど・・・

「お褒め頂き光栄です」

「この景色も最高だのう、あー、気持ちいいのうー」
まだまだ満足するには、早いですよ、へへへ。

「それにしても、ここはほんとに素晴らしい島だの」

「そうですか?」

「ああ、魅力に満ち溢れておる」
しみじみと語っていた。

「ありがとうございます」

「それで、サウナとはなんなのだ?」

「じゃあ行きますか」

「行く?」

「ついて来てください」

「おお・・・」
ゴンガス様を引き連れてサウナに入っていった。

「熱っつ、なんだこの部屋は」

「こういう部屋なんですよ」

「どういうことだ?」

「ここは汗をかく部屋なんです」

「なんだってわざわざ、そんなことをするんだ?」

「あとで分かります」
じっくりと十分近くサウナで汗をかいた。

俺達はサウナ室から飛び出した。
水風呂の前で止まり、掛け水を指導する。
水風呂に飛び込んだ。

「ああーーー!」
思わず声が漏れる。

「はあーーー、なんだこれ・・・」
水風呂を堪能し外気浴へと誘う。

「ふうーーー、この解放感は何なんだー」
整いを感じているゴンガス様。

「これが整いです」

「整い・・・ああ」
余韻に浸っている。

「ああ、これは極上だな・・・」

「でしょう・・・」
俺も整っている。
もう言葉は要らない。
最高に気持ちいい・・・

さて、後二セットは行きますよ。

「二セット?」

「はい、付き合っていただきますよ」

「あい、分かった」
覚悟を決めたようだ。

「行きますよ」

「ああ」
二セットを終えた。
余韻に浸っているドワーフのおじさん。
ああ、骨抜きになったのは間違い無いようだった。

「ゴンガス様、これがサウナです」

「・・・儂は舐めていた・・・最高だ・・・」
声になって無かった。



晩御飯は、たこ焼きパーティーとなった。
各自好きに焼いていく、中身の具も好きにしろといった具合だ。
蛸、チーズ、ウィンナー、ブロック肉辺りが人気だ。

「こういうスタイルの飯もよいな、お前さん」

「ワイワイガヤガヤしてて、好きなんですよね」

「そうだのう、この自分で好きに作って、中身も変えれるってのもいいのう」

「各自好みがありますからね」

「それにこの鉄板はなかなかの業物だのう、よくもこの様な形状にしたもんだ。これであれば、具材への熱の伝道効率がよい、よく考えられておる」
最初にたこ焼きを考えた人の、知恵なんですけどね。
日本の食文化に感謝です。
熱ッち―、たこ焼き熱っちー!
口の中がスクランブル状態だ。

この後、酒好きのレケと話しが弾んだゴンガス様は、終始笑顔でサウナ島を楽しんでくれた様だった。
流石のレケもゴンガス様には適わなかったようで、酔いつぶされていた。
結局炭酸泉は四時間使用でき、週に三日は炭酸泉を楽しめるようになった。

ゴンガス様に感謝です。
ゴンガス様あざっす!

結局炭酸泉はサウナ島の住民にとっては人気の風呂になっていた。
三日に一度を待ち詫びる者達が多い。
特に女性陣達に人気だ。
彼女達は長風呂を楽しむ傾向にあるみたいだ。

特にアイリスさんは大のお気に入りのようで、
「今日は炭酸泉はありますか?」
としょっちゅう聞かれる始末だ。
三日に一度と言ってますよね?
ちゃんと俺の話を聞いてますか?

その後ことある事にゴンガス様はサウナ島に来たがった。
サウナ島を気に入ってくれたみたいだ。
別に断る理由も無い為、ゴンガス様はよくサウナ島にやってきた。
毎回レケは酔い潰されていた。
いい加減学べよな・・・
もう敵わないと諦めてくださいよ。
挑むのは止めてください。
レケ・・・迷惑です。
特にゴンが・・・
止めてあげてくれ。

そしてたまに五郎さんもサウナ島にやってくる。
どうやら五郎さんもサウナに嵌っているみたいだ。
フフフ・・・
五郎さん、いらっしゃーい!
五郎さんが来ると、決まってギルがハイテンションになる。
ギルは五郎さんが大好きみたいだ。
ちょろちょろと五郎さんに付いて周っている。
これは孫だな。
爺さんと孫だ。
大いに楽しんでくれ!
俺は何も言うまい。
いいじゃないか、俺は寂しくなんて無いんだぞ!
・・・
ほんとはちょっと寂しい・・・
いつもの納品に五郎さんの所に来ている。
もはや日常といってもいいだろう。
いつもの執務室に通され、お茶を飲みながら世間話をし、適当な所で帰っていく。
通い慣れた取引先だ。

「島野、そういやあお前え、ギル坊から聞いたぞ」

「何をですか?」

「おめえ、炭酸泉を再現したらしいな」
ううっ・・・しまった・・・五郎さんには前に、再現不可だって話してたな。

「出来てしまいました・・・」

「再現不可だって言ってなかったか?」

「はい・・・言ってました・・・」

「お前えって奴は・・・」
呆れられてしまった。

「まあいい、それでどんな仕組みなんだ?」

「ボンベに二酸化炭素をって、そんなことよりサウナ島に来て、見て貰った方が早いですね」

「そうかい、百聞は一見に如かずだな」

「そうですね、ただギルからどう聞いたかは知りませんが、鍛冶の神様に協力して貰って、やっと週に四時間のみ稼働している状況ですので、五郎さんの温泉で行うのは難しいかもしれないですよ」

「週に四時間かあ・・・」
両手を組んで上を見上げている。

「厳しいな、それも鍛冶の神様の協力だって?どういうことでえ?」

「二酸化炭素が発生するのは、火を使うところが多く発生するからです」

「そうか、鍛冶なら火は使いまくるからな」

「ええ、家の台所でもやってみましたが、全然溜まりませんでした、五郎さんの旅館の調理場がどれだけ火を使っているかにもよりますが」

「調理場でも火は使うが、鍛冶場とは比べものにならんぞ。あんなに火は使わねえな」

「そうでしょうね」

「だが炭酸泉は月に一度のイベントとしてみる、ってのも有りだな」

「そういう考えなら、何とかなるかもしれないですね」

「だな、せっかくだ、今から見に行ってもいいか?」

「ええ、いいですよ」
五郎さんは最近では、サウナ島にちょいちょいやってくる、その目的は言わずもがなのサウナである。
サウナに入って、ビールを一杯飲んでから帰っていく。
まるでスーパー銭湯替わりだな。
サウナ島に五郎さんを伴って帰ってきた。

「あれ?五郎さん、どうしたの?」
ギルがお出迎えだ。

「ギル坊、元気にやってるか?ちょっと炭酸泉を見にな」
とギルの頭を撫でている。

「そうなんだね、入ってくの?」

「ああ、そのつもりだ」

「じゃあ僕も一緒に入るよ」

「そうか、じゃあ背中でも流して貰おうかな?」

「いいよ」
露天風呂にやってきた。
まずはボンベを見てもらう。

「ほうこれか?これは神石だな」

「はい、これに『分離』の能力を付与してあります、それで空気中の二酸化炭素をボンベに貯めていく、という仕組みです」

「なるほどな、そういう仕組みとなると、島野の能力無くしてはできねえということだな」

「そうですね」

「このセットを二つほど作ってくれるか?」

「いいですよ、五郎さんには再現不可とか言っちゃってましたので、タダでいいです」

「おっ!話が分かるじゃねえか」
はいはい、後でチャチャっと作っておきますよ。
五郎さんは炭酸泉に入った後、炭酸泉セットを持って帰っていった。
ちゃんとギルに背中を流して貰っていた。
仲が良くて、いいことです。



サウナ島の暮らしとして、俺は平日の午前中は皆と畑作業を行い。
基本的には、月・水・金曜日は五郎さんの所に納品と、メッサーラに『魔力回復薬』の納品の送り迎え。
木曜日はゴンガス様の所に納品と、ボンベの入れ替えといった感じ。
火曜日は小物を中心に作成するのと、食材やアルコール類の仕上げを行う、といった暮らしぶりだ。
時折、休日の社員達に送迎を頼まれ、タクシー替わりとなっている。

平日は大体夕方にはサウナに入っており、夕飯前にビールを一杯飲んでから、晩飯を食べるといった具合だ。
土日曜日はもちろん日本に帰って『おでんの湯』にて『黄金の整い』を行う。
といった、サウナ満喫生活を堪能している。
社員からの相談事等は都度聞いているが、今ではそんなこともほとんど無く、皆な自分自身の役割を理解し、仕事に励んでいる。

俺は今の暮らしぶりにとても満足している。
ノンと二人でこのサウナ島に放り出された時には、想像も出来ない暮らしぶりをしていると思う。
今日は水曜日、リンちゃん達をメッサーラに送り届け、五郎さんのところに納品に来ている。

「五郎さん、炭酸泉の方は順調ですか?」

「いや、芳しくねえな、あんまり二酸化炭素が溜まらねえ、やっぱり月一が限界だな」

「そうですか、何ともテコ入れしようがないですね、もう二セットほど作りましょうか?」

「おっ!いいのか?そうしてくれると助かる。炭酸泉は人気でな、客から次はいつだとせっつかれて困っちまってた所だったんだ」

「次に来る時に持ってきますよ」

「悪いな、そういえば、ちと待っててくれ」
と言うと、執務室を飛び出していった。
数分後、ガードナーさんを伴って、入室してきた。

「ガードナーさん、お久しぶりです」

「島野さんこちらこそ、お久しぶりです」

「島野、悪いがちとガードナーの話を聞いてくれないか?」

「ええ、どうかしましたか?」

「実は、お願いしたいことがありまして」
気まずそうにしているガードナーさん。

「お願いですか?」

「そうなんです、心苦しい話なんですが、狩りをお願いできないかと思いまして」

「狩りですか?」
何でまた・・・

「はい、タイロンの城下町から、東に十キロ行った所に洞窟があるんですが、そこにワイルドパンサーが住み着いてしまいまして・・・」

「ワイルドパンサーですか?」

「それも五匹です、そのワイルドパンサーが街道に降りて来ては、人を襲う様になりまして、少々厄介事になってるんです」

「ハンター達では対応できないのですか?」

「ワイルドパンサーは一頭でもAランクの獣なんです。それが五頭となるとSランクでも厳しいんです。本来なら軍が出て対応するんですが、間違いなく死傷者が出ます。出来ればそれは避けたいのです・・・」
それでお前なら出来るだろ?といった所ですね。やれやれ。
既に人が襲われてると聞かされればやるしかないよな、正直めんどくさいが・・・
しょうがないか。

「お願いできないでしょうか?ということですね」

「はい、無理なお願いとは承知してますが、島野一家ならワイルドパンサーを狩れるのではないかと思いまして・・・」

「被害が出てると聞かされてしまえば、やるしかないでしょう」

「もうし訳ありません、これは国からの依頼でもあります。つきましては、一度国王にお会い頂くことは出来ませんでしょうか?」

「はあ?国王に?」

「はい、そうです」
嫌だ!絶対に嫌だ!

「嫌です!ちゃんと狩りはしますんで、そういうのは止めてください」

「えっ!・・・どうしても駄目ですか?」

「駄目です!」
もうさあ、国家元首とかって、ルイ君で充分だっての!
なんだかんだで、タイロンには十分に貢献したんだからさ、もういいでしょそういうの?

「分かりました、その様に伝えておきます」
諦めてくれたか、よしよし。

「まずはサウナ島に帰ってから皆と相談します、まあ血の気の多い奴らですので、問題ないでしょうが、狩りの前にハンター協会に行けばいいですか?」

「いえ、その必要はありません、これはあくまで国からの依頼ですので、もちろん報酬は弾ませていただきます」

「はあそうですか、分かりました」
なんだかな、やるしかないか・・・
はあ、めんどくさい。



サウナ島に帰ってきた。
晩御飯の時に皆に狩りの話をした。

「皆な聞いて欲しい、今日五郎さんの所に行ったんだが、ガードナーさんが居てな、ある依頼をされたんだ」

「依頼ですか?」
メルルが給仕しながら言った。

「ああ、狩りをして欲しいそうだ」

「狩り?」

「何で?」

「獣はなんですか?」

「狩りですかな」
皆一斉に言われても、答えられませんがな。

「はいはい、狩りの内容は、タイロンから東に十キロほど行った所にある洞窟に、ワイルドパンサーが五頭住み着いてしまったそうだ」

「ワイルドパンサーですか?一頭でもAランクの獣ですよ」
マークが驚いている。

「それも五頭なんて、Sランクでも難しいんじゃないですか?」
ランドも同様の反応だ。

「それで島野一家に狩りの依頼が来たという訳だが、どうする?」

「そんなのやるに決まってるよ」
ギルが意気込んでいる。

「楽勝」
ノンは相変わらずのマイペース。

「海以外での狩りも面白そうだな」
レケもやる気満々だ。

「狩りですか、私も行っていいので?」
アイリスさん、お願いですから止めてください。

「もちろんやります!」
ゴンもやる気十分だ。

隣を見て見ると。
あれ?マーク達・・・やる気になってないか?

「おいマーク、やる気なのか?」

「ちょっと考えさせて貰えませんか?」

「ああ・・・」
こいつらもうハンターに未練が無い、とか言ってなかったか?
なんでやる気になってるんだ?
本当はハンターに戻りたいのか?
マーク達『旧ロックアップ』のメンバー達が集まり、ミーティングを始めてしまった。

一先ず晩飯でも食べましょうかね。
どうしたもんか、なんだかねえ・・・
ミーティングが終わったようだ。

「島野さん、俺達も行かせてください!」

「はあ?マジで?」

「はい、マジです」

「いいけど、何でまた・・・」
マークが目線を反らした。
あっ!こいつなんか隠してやがるな。

「マーク!何を隠している」
睨みつけてやった。

「実は・・・」
と言うと、胸のポケットから世界樹の葉を取り出した。

「はあ、なんで世界樹の葉があるんだ?」

「これは・・・その・・・アイリスさんから貰いました・・・」
アイリスさん、あんた何やってんの?

「アイリスさん、これはどういうことですか?」
これは説教だな。

「何かあった時用に、渡してありますのよ」
何も悪びれていないアイリスさん。

「アイリスさん・・・もしかして全員に渡してないでしょうね?」
流石のアイリスさんも、しまったという顔をしている。

「どうなんですか?!」

「あの・・・その・・・はい」
やっぱりか!何やってくれてんだよ!あんたが一番この価値を分かってんじゃないんですか?

「アイリスさん、良い加減にしてください!やり過ぎです!」
頭を垂れるアイリスさん。

「なあ、お前ら」
全員を見渡す。

「まさか世界樹の葉を、傷薬替わりに使ってないだろうな?」

空気を読めないレケが言った。
「あれ?駄目だったのか?俺は普通に傷薬として使ってるぞ」
アイリスさんが頭を抱えている。

「はあ?・・・お前・・・それがどれだけ貴重な物か分かってるのか?」

「貴重な物なのか?傷薬として使えって・・・アイリスさんがくれたけど・・・」
レケがアイリスさんを見て状況を理解したようだ。

「ええ!駄目だったのか?・・・」

「ええ、駄目です!アイリスさんがね!」
俯いてしまったアイリスさん。
アイリスさんなりの優しさだってことは分かるんですが、もっと考えてくださいよ、もうまったく!。
世界樹の葉の価値は、傷薬代わりではないでしょうが。

「アイリスさん、皆のことが心配なのは分かりますが、もうちょっと考えて貰えませんかね?」

「はい、すいません・・・」

「甘やかせ過ぎもよくありませんよ」

「はい・・・」

「世界樹の葉の価値を考えてください」

「すいませんでした・・・」
まあこれぐらいにしておくか。

「お前達、分かってるな!」
気を引き締めさせるしかないな。

「「「はい!」」」
分かってるならいいが・・・無茶をしてくれるなよ。
本当にもう、勘弁してくれよ。
世界樹の葉頼みでは、狩りは上手くいかないぞ、大丈夫なのか?



装備を整える為にゴンガス様の所に来ている。
狩りの前に、装備を充実させようということだ。

今のマーク達には金銭的に余裕があるらしく、好きに装備を買えると言っていた。
特にマークが余念なく、装備を買い漁っている。

「島野さんのお陰で、お金は足りてますので、装備だけならSランク相当になりますよ」
とのことだった。
ハンターの世界は、金銭を伴う厳しい物だと改めて理解した。

『旧ロックアップ』の皆は、ほぼフル装備で防具や武器を買い直していた。
マークは大盾を、皮から比較的軽い鋼鉄製の大盾に変え、剣を扱いやすい軽量化された物に変えていた。
更にゴンガス様の好意で、刃先をミスリルにして貰った。
マークはゴンガス様に、土下座する勢いで頭を下げていた。
鎧も皮の鎧から、軽量化した鉄製の鎧に変え、ブーツも軽量の物から、鉄板入りの装備に変えていた。

ランドは、斧をピッケルに変えたようで、ピッケルの改良した物を探し当てたようだ。
これもゴンガス様の好意で、先の部分だけミスリルとなっていた。
加えて俺がグリップ部分に使い慣れたゴムにしてやった。
ランドは、家宝にすると涙を流していた。
装備もこれまでの革製の物から、軽量化された鉄製の物に変え、籠手も嵌めているようだ。

ロンメルは、今回は斥候に専念する必要が無いため、斥候とは思えない装備になっている。
見た目は忍者のようだ・・・やはり斥候か。
でも素早さは重視した為、一見変わってないようだが、服の下に楔帷子を仕込んでおり、籠手にも鎖が巻かれている装備だ。
足元はスニーカーの方がしっくりくるということで、そこだけが違和感を感じる。
両手剣も新調し、軽さに重視した装備に変えたようだ。
こちらも刃先はミスリルしようかと、ゴンガス様は申し入れてくれたが、ロンメルは自分には扱え切れないと断っていた。
あいつなりの遠慮なんだと思う。
後は何らかの、飛び道具的な物を買い漁っていた。

メルルは僧侶の服装を魔法士のそれに変え、ローブを新調したようで、ローブは魔法が付与されたものであるらしい、何の魔法かは聞かなかった。
メルルのことだから考え無しな訳がない。
どうやら今回は攻撃に特化するようだ。
そりゃあ世界樹の葉を、皆一枚は持ってるんだから、攻撃的な物になるんだろうな。
杖も随分とお金をかけたようだ。
杖は前のより軽量な上に大きい物になっていた。

メタンもローブを新調し、こちらには物理攻撃を緩和する魔法が付与されているとのことだった。
杖もメルルと同様に、相当な金額を掛けたようだ。
各自満足のいく買い物になったようだ。
ゴンガス様はよく売れたと、終始ご機嫌だった。

「お前さんありがとうな、随分稼がせて貰ったぞ!」
と本音を隠そうともしなかった。
その隣で、メリアンさんも頷いていた。
この人達はそんなにお金に困っているようには見えないが、もしかしたらお酒にお金を掛け過ぎて大変なのかもしれない。
この人達ならあり得るな。
俺達はゴンガス様のお店を後にして、サウナ島に帰った。



晩御飯前に備品の準備をした。
全員にマジックバックを持たせ、その中に『体力回復薬』と『魔力回復薬』をそれぞれ二個づつ入れた。
他にも必要な物は、各自入れておくように指示してある。
晩御飯がてら打ち合わせを行うことにした。

「じゃあ、狩りに行く者達は打ち合わせを行う、いいか?」
皆な頷いている。

「まず移動だが、洞窟の場所が分からないから、タイロンの郊外から歩いて向かうことになる」

「飛んではいけないの?」
ギルが疑問をぶつけてきた。

「ギル、何人いると思ってるんだ?」

「あっ!そうか」

「それで念の為、俺だけが先行して様子を見てくることにする」

「主一人でですか?」
ゴンが気になったようだ。

「ああ、透明化できるのは俺だけだからな」

「誰か一緒に連れて行きませんか?」
マークが心配してくれているようだ。

「いや、この中で気配を完全に絶てる者はいるか?」
ノンが手を挙げた。

「ノンならできるだろうが、同行する意味が無いからな、俺一人でいいだろう、あくまで様子を見に行くだけだ、ちゃんと皆に獲物は残しておいてやるから、安心してくれ」

「本当か?ボス一人でやっつけるなんて、面白くもなんともねえぞ」

「大丈夫だ、そんなことはしないさ」

「約束だからな」

「ああ分かっている。次にこれは一つのシュミレーションだが、五頭いるということは群れのボスがいるはずだ」
皆な頷いている。

「ボスは俺が対処する、出来るだけ速攻で終わらせて、他のワイルドパンサーの戦意を削ぐつもりだ」

「ええ!僕もボスと戦りたいなあ」
ノンが言った。

「駄目だ、お前には一匹任せるからそれで満足してくれ」

「ええー、そうなのー」
ノンには物足りないみたいだ。
どんだけ好戦的なんだか・・・

「ボスの次に強いと感じた奴をお前がやればいい、大事なのは瞬時にボスを消すことだ、俺より早く出来るのか?」

「それは・・・無理だけど・・・」

「じゃあここは我慢しなさい」

「分かった」
ノンはあっさり引いてくれた。

「それで残りの三頭だが、ギルとエルで一頭を狩って、レケとゴンで一頭を狩る、旧ロックアップで一頭を狩るってのが、俺のプランなんだがどうだろう?」

「ええ?俺は一人で一頭狩りたいぜ」
レケが不満を口にした。

「レケ、お前海以外の狩りは初めてなんだろ?あんまり舐めて掛かると痛いめを見る事になるぞ」

「始めてだけど、自信はあるぜ」

「その意気込みは認めるが、ここは自分の力を過信してはいけない所だぞ」

「まあ、ボスがそう言うなら、そうするけど・・・」
不満げな様子だ。

「あとギル、出来ればブレス無しで挑んでみろ」

「何で?」

「お前のブレスは他の皆を撒き込む可能性があるし、お前はブレスに頼り過ぎな所があるからな」

「うう、分かったよ」
どうしようかと、さっそく考えだしているギル。

「島野さん、俺達に一頭を任せてくれるってことでいいんですね?」
マークが念押ししてきた。

「ああそうだ、だが無理そうだと思ったら、遠慮なく介入させて貰うがいいな?」

「もちろんです」

「命大事にで行きたいからな」

「ええ、お願いします」
ロンメルが手を挙げている。

「どうした?ロンメル」

「旦那、ちなみにだが、どうやってボスのワイルドパンサーを倒すつもりなんだ?」

「ああ、それは簡単なことだ。眠らせて首を狩るつもりだ」

「「ええ!」」
あれ?
皆が引いているような・・・

「ズルいぞ!」

「それは酷い!」

「簡単過ぎる!」

「出鱈目すぎますな」

「ちゃんと戦えよ!」
といいように言われているな。

「それが一番簡単だろうが!」
何が悪いんだよ!

「ズル過ぎだよな」

「これだからな」

「もうどうでもいいよ」

「島野さんしかそんなことできないよな」
とこれまた、酷い言われようだ。

「そうは言うがな、気が付いたら死んでいたって方が、ワイルドパンサーも浮かばれるってもんだろうが、俺は慈悲深いんだよ!」

「そうは言ってもねえ」

「物はいいようだな」
駄目だ、こいつらにはもう何を言っても駄目だ。

「まあいい、俺のことはどうでもいいから、自分達のこと考えてください!」
こいつらはほんとに・・・

「分かりましたよ・・・」
ランドがボソッと呟いた。

「いずれにしても、シュミレーションでしかない、本番では各自で対応するしかない、特にコンビで動く者達は、よく打ち合わせをしておくように、いいな!」

「「了解!」」
返事はいいんだよな、返事は。



狩りの日当日。
午前中に五郎さんの所に行き、ガードナーさんに今日狩りを行うとの伝言を頼んだ。
何も無ければいいのだが・・・
早ければ夕方には結果報告をしに伺う予定だ。
再度サウナ島に帰り準備を行う。
とはいっても俺の準備は特に何も無い為、皆の準備を手伝ったりするぐらいだ。

「さて、皆な準備はいいか?」

「大丈夫です」

「OK!」

「問題ありません」
と準備が整ったようだ。

「じゃあ行くぞ」

「「はい!」」

ヒュン!



タイロン国の郊外に転移した。
全員の顔を伺う。
多少緊張している者もいるが、概ね問題は無さそうだ。

「じゃあ、先行するがいいか?」

「ちゃんと仕留めずに帰ってきてくれよ」
とレケはまだ不満げだ。

「分かってるって、そう心配するなよ」

「分かったよ」

「島野さん、俺達はこのまま目的地に進んでいいんですよね?」
ランドが問いかけてきた。

「ああそうしてくれ、じゃあ行くぞ」
という言葉を残して、俺は先行を開始した。



瞬間移動を何度か繰り返して、目的の洞窟へと向かう。
今は森の中だ。
森の中は瞬間移動がしづらい。
木が生い茂って視界を遮るからだ。
それでも、この方法が一番手っ取り早いと思われる。

飛ぶのもありだが、誰かに見られていると厄介だし。明らかに目立つ。
それは良くない。
あくまで様子見で先行しているのだから、飛ぶ訳にはいかない。
そろそろ目的地周辺だが、まだ洞窟は見えてはこない。

すると樹々が減り、広場の様な所へと出た。
恐らくこの先に目的地があるものと思われる。
俺は『透明化』の能力を使用し、気配を消して前に進んだ。
目的地の洞窟に到着した。

周りを伺うが、特に獣の気配を感じない。
洞窟内に入るべきだろうか?
いや、少し様子を見ようと思う。

洞窟内にワイルドパンサーがいて、洞窟内での戦闘になるのは避けたい。
俺達は洞窟内の構造をまったく知らないから、洞窟内の戦闘はあまりに危険だ。
そんなことを考えていると、一頭のワイルドパンサーがゆっくりと洞窟内から現れ、洞窟の入口に座り込んだ。
まるで洞窟の番人だ。
周りの様子を伺っている。

『鑑定』

ワイルドパンサー  獰猛な獣でありジャングルの覇者  とても美味

ここはジャングルではありませんが?・・・でも美味って、期待しちゃうじゃないか!
ワイルドパンサーは、気配を殺して透明になっている俺には気づいていない様子。
なるほどな、こいつが騒げば他の四頭が現れるということなんだろうな。

『探索』を行ったが、洞窟内のマップ表示はされなかった。
流石に無理か・・・

俺はギルに『念話』を繋げた。
「ギル、俺だ」
数秒遅れて返答があった。

「びっくりした、久しぶりの念話だから焦っちゃったよ」

「おいおい、大丈夫か?」

「ごめん、大丈夫だよ」

「よし、今目的の洞窟の前にいる」

「うん」

「洞窟の前に一頭のワイルドパンサーを確認した。恐らく他の四頭も洞窟内に居ると思われる」

「思うなの?」

「ああそうだ『探索』したが、洞窟内の『探索』は出来ないようだ」

「そうなんだね」

「今どれぐらい進んでいる?」

「パパと別れてからまだ一キロも進んで無いと思うよ」

「そうか、一度そっちに戻るぞ」

「分かった」
『念話』を終了して、おそらくこの辺だろうという辺りに『転移』した。

ヒュン!

「おわ!」

「何!」

「ピギャー!」
いきなり俺が目の前に現れて、皆なびっくりしたようだ。
久しぶりにノンのピギャーを聞いたな。
いい反応です。

「予定道りに行けそうだ」

「そうですか」

「一つ気になることがあるんだが、マークいいか?」

「はい、どうしましたか?」

「見張りの一頭が洞窟の前にいる状況なんだが、いきなりこの人数で現れて洞窟の中に引っ込んでしまわないかと思ってな」

「ワイルドパンサーは獰猛な性格と聞いてますので、問題ないかと思います」

「そうか、洞窟内の戦闘だけは避けたいからな」

「多分大丈夫です、中に他のワイルドパンサーが居たら、騒ぎ出して呼ぶことになると思います」
俺と同意見のようだな。

「じゃあ、ここから一気に『転移』で向うが、皆な大丈夫か?」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ旦那、心の準備をさせてくれ」

「お、俺も」

「私も」
と少し待った方がよさそうだ。
数秒後、

「よし、行けます」

「俺も行けます」

「ガンダ●ノン行っきまーす!」
とノンがふざけた。
何処までもマイペースな奴だ。
とりあえず無視した。

「じゃあ行くぞ」

「「おう!」」

「「はい!」」

ヒュン!



洞窟の前に『転移』した。
突然現れた俺達に、ワイルドパンサーは呆気にとられた様子で。
目をぱちくりとさせていた。
数秒後、やっと事態に気づいたワイルドパンサーが雄叫びを上げる。

「ガウー!ガウガウ!!」
それを聞きつけ、洞窟の中から四頭のワイルドパンサーが悠然と現れた。

さてと、戦闘開始だ!



俺は瞬時に最も大きい個体を確認し、瞬間移動でワイルドパンサーの真横に現れた。
胴体に手を当て『睡眠』の能力で眠らせ、体が倒れるタイミングに合わせてミスリルナイフで首を切り落とした。
凄い切れ味だ!これがミスリルか、斬った時の感触がとても軽い。
その様子に他のワイルドパンサーが飛びのく。

その内の一頭に狙いを定めた、獣型のノンが完全に不意を突いた形で、ワイルドパンサーの首を鋭い爪で切り裂いた。
切り口からシューと音を立てて血が噴き出ている、ワイルドパンサーの急所に入ったようで、そのままへたり込むように地面に伏していた。
ノンは爪を舐めてにやけている。

ギルが獣型に変化したのを目の当たりにした一頭が、逃げようとしていた。
それをエルが見逃さない。
先回りする形で行き先を塞ぐ、その時には背後からギルが迫っている。
ワイルドパンサ―はエルの前で立ち止まったのが良くない。
立ち止まった後に背後から、ギルの後ろ脚で身体を掴まれていた。
そのままギルは上空に飛び立つ。
五十メートルほど上空で止まり、エルにサインを送る。
ギルがワイルドパンサーを手放した。
一直線に降下するワイルドパンサーに、地上から飛び立ったエルが、頭の角で迎え撃った。
ズチャ!
ワイルドパンサーの腹部には、ぽっかりと穴が開いていた。
結構えぐい光景だな。

レケとゴンが一頭のワイルドパンサーを挟みこんでいる。
二人とも獣型だ。
レケの獣型は始めて見た。
その名の通り真っ白な身体で、獰猛な鋭い眼つきをしている。
全長は三メートルには届かないぐらいか?トグロを撒いているので、はっきりとはしない。
舌をちょろちょろと出している。

「石化!」
とレケが叫んだ。
するとワイルドパンサーの右足が、つま先からじわじわと石化しだした。
レケから離れようとするワイルドパンサーだが、もう遅い。
目の前にゴンが繰り出した、土魔法の尖った石塊が迫る。
高速回転し、フュンフュンと音が鳴っている。
ズボッ!
ワイルドパンサーの首を貫いていた。

残り一匹となったワイルドパンサーを逃げないように遠巻きに、俺とノンとギルが逃げ道を塞いでいる。
そこから離れた場所で、エルは返り血で全身血まみれとなっており、ゴンに『浄化魔法』を掛けて貰っていた。
その横でレケは人化して、服についた埃を払っている。
もはや用事は済んだということなんだろう。観戦者モードになっていた。

最後の一頭となったワイルドパンサーは、目の前にいる『旧ロックアップ』を倒すか、彼らをすり抜けない限り生存の道は無い。

壁役のマークが、大盾を構えて前に出る。
その左後方にはロンメルが左手には短剣、右手にはクナイを持っていた。
右後方にはランドが、ピッケルを両手で持って構えている。

メタンが叫ぶ、
「崇拝の魔力化!」
メタンが『崇拝の魔力化』を発動させた。
メタンの身体を光が包み込む。
メタンの魔法攻撃の威力が倍増する。
演唱を開始し、火の玉が杖の先に出来上がる。

メルルも演唱を開始し、杖の先に風の刃が出来上がっていく。
風が渦を巻き今にも飛び出して行きそうだ。

ワイルドパンサーは、いつでも飛び掛かれるように、体勢を低くしている。
マークがじわりと滲み寄っていく。

「メルル!」
とマークの指示が飛ぶ。
メルルがマークとランドの隙間から風の刃を放った。
ワイルドパンサーがサイドステップで躱すが、躱しきれず左後ろ脚を、風の刃が掠める。
傷は浅い。血が滲んでいるが、薄皮を剥いだぐらいだ。

そこでロンメルがクナイを投げた。
ワイルドパンサーは右前足でクナイを弾き、バックステップで距離を取る。
更にマークは距離を詰めていく。

「メタン!」
指示と共にメタンの火球が、ワイルドパンサーに向けて投げ込まれる。
それをジャンプして躱すワイルドパンサー。

それを待っていたランドが、まるでダンクシュートを決めるかの如く飛び上がり、上段に構えたピッケルを振り下ろす。
シュッ!
左前足を掠めたに見えたが、ミスリルの威力でそう見えただけで、実際には左前脚を切り裂いていた。
血が大量に流れだす。
左前足を潰したといってもいいだろう。
勝負は決したかに見えるが、傷を負った獣ほど気を抜いてはいけない相手はいない。

「気を抜くな、まだだ!」
俺は激を飛ばした。

「「はい!」」
更にロックアップの集中力が高まっていく。

マークは剣を抜いた。正面に構えていた大盾を横に引いている。
腰を落とした状態で、ワイルドパンサーを見据える。
いつの間にか横に回り込んだロンメルが、再度クナイを投げた。
ワイルドパンサーの右後ろ脚の付け根に刺さる。

だがワイルドパンサーはひるまない。ロンメルの方を見向きもせずに、マークに焦点を定めている。
まるでこいつを殺れば、このパーティーを倒せるといわんばかりの視線だ。
横からランドがけん制に、片手持ちに変えたピッケルを横から払った。
それを嫌がったワイルドパンサーがサイドステップを踏む、これを見逃さなかったマークが距離を詰め、剣を下から上に切り上げた。
スパッ!
と音がした後、プシュッとワイルドパンサーの首から鮮血が飛び散った。

横から倒れ込むワイルドパンサー、体をピクピクと痙攣させている。
勝負ありだ。

「マーク!介錯してやれ」

「はい!」
マークは首を斬り払った。
そしてワイルドパンサーは動きを止めた。

「よっしゃー!」

「やった!」

「勝った!」

「やりましたな!」

「やったぜ!格上に勝ったぞ!」
と喜んでいる旧ロックアップの一同。
俺達は拍手で迎え入れた。

「お疲れさん!」

「マーク、格好良かったよ」
ギルが駆け寄って行った。

「ありがとうな、ギル」
と言って、マークはギルの頭を撫でていた。
よく見るとその手が細かく震えていた。
全力を出し切ったようだ。
よくやった!

こいつらは、また一皮剥けたようだ。
更に逞しく見える。
ワイルドパンサーを回収し、俺達はサウナ島に帰って行った。

「宴会の準備を始めておいてくれ!」
と指示して俺は『温泉街ゴロウ』に向かった。
いつもの五郎さんの執務室に着くと、ガードナーさんが待ち構えていた。

「お疲れ様です島野さん、どうでしたか?」

「ああ、無事に怪我人もでること無く狩りは終わったよ」

「そうですか、それは良かったです」
胸を撫で降ろすガードナーさん。

「で、この先はどうしますか?」

「そうですね、ひとまずハンター協会で解体を行いましょうか?」

「いいけど、そういえばこの温泉街にハンター協会ってありますか?」

「えっ!ありますよ、知らなかったんですか?」

「知らないですね」

「そうですか、では付いてきてください」

「分かりました」
ガードナーさんに付いて行った。
ハンター協会の規模は、カナンの村のハンター協会の規模と同等の物だった。
解体場に通されると見知った者がいた。

「あれっ?大将!」

「おお!島野さん、どうしてここに?」

「いやー、こんな所で大将に会えるとは、ワイルドパンサーを狩ってきたので、解体を依頼しにきたんですよ」

「ワイルドパンサーですって!嘘でしょ!」

「いや本当ですって、ここでいいですか?」
俺は、解体用だと思われる大きなテーブルを指さした。

「ええ、いいですよ」
ガードナーさんが答える。
『収納』からワイルドパンサーを五頭取り出した。

「おいおいおい!本当かよ島野さん、あり得ないでしょこんなの!」
と大将は慄いている。

「そうですか?家の戦力ならこれぐらいはどうってことないですよ」

「そうなんですね・・・」
放心状態の大将。
するとどこからか、五郎さんが現れた。

「ダン!お前え何やってやがる、さっさと仕事しろや!」
と激を飛ばす。
我に返る大将。

「ああ、解体させていただきますね」

「えっ!大将が解体をやるんですか?」

「ええ、そうですよ」

「島野、こいつはここの解体もやってるんだ。腕は一流だ、安心しな」

「ええ、そうでしょうね・・・」
この人結構何でもやるな。

「あっ!そういえば、一頭だけでも直ぐに肉を貰うことは出来ないですかね?」

「一頭分ですか?」

「ええ、どうでしょう?」

「丸々は無理ですが、腿と胸肉なら、一時間貰えれば準備できますよ」

「じゃあ、お願いします」

「分かりました」
これで今日の宴会は、いつも以上に盛り上がるぞ。
美味だって鑑定で出てたし。どう料理しようかな?
まずはやっぱりステーキからかな?

一時間の待ち時間を、温泉街をふらふらして過ごした。
お留守番だった、アイリスさんとリンちゃんとテリー少年達にお土産を買うことにした。
結局これといった物が見つからず、饅頭を買っておいた。
まあ、アイリスさんには鉄板だからね。
これでいいでしょう。
一時間後、肉を受け取りサウナ島に帰ることになった。



サウナ島に帰ると既に準備は万全に整っており、俺の帰りを待っていた状態だった。

「皆、朗報だ!」

「なになに?」
既にハイテンションのノン。

「ワイルドパンサーの肉が手に入りました!」

「マジか!」

「本当!」

「あの美食で有名な肉が・・・」
と反応は上々。

「じゃあ、準備は整っているようだからさっそく始めるか!」

「「おお!」」
やる気満々の一同。

「では、まずはケガも無く、皆無事に狩りを終えれたことに感謝したい、皆!格好良かったぞ!乾杯!」

「「「乾杯!」」」
グラスがガシャンガシャンと音を立てている。
幸せの音が響き渡る。

「よっしゃー!今日は飲むぞー!」
と気合満々のレケ、既に生ビールのジョッキを開けている。

「兄貴どうだったんだよ?教えてくれよ?」
とギルはテリー少年達から武勇伝のおねだりを受けていた。

俺は鉄板を温め、ワイルドパンサーの肉を焼く準備を始めた。
メルルが手伝いにやってきた。

「まずはステーキで味をみてみよう、味付けは塩コショウのみでいこう」

「ええ、それが一番いいかと思います」
鉄板が温まったのを確認して、オリーブオイルを引いて、小さく切り分けた腿と胸肉を焼いてみた。
切り分けた時に肉のポテンシャルが高いのはよく分かった。
刺しが良い感じで入っている。
既に焼けた肉の匂いで、美味なのが分かる。

「良い匂いだな」

「そうですね」
焼き上がった肉を試食してみる。

「んん!」
何だこの肉は?日本の和牛より上手いぞ!
脂身は少ないが、筋ばった箇所は一切無く、それでいて口の中で肉がほどけていく。
最高の食感だ、今まで食べて来た肉の中で断トツの一番だ!

「ああ、美味しい・・・」
メルルは悦に浸っていた。

「おい!皆!ステーキを焼いていくぞ!」

「「よっしゃー!」」

「「やったー!」」

漏れなくワイルドパンサーのステーキを堪能した。
過去最高の賑わいのある宴会となった。
俺は改めて思った。
異世界最高!!
今は実験を行っている。
内容は簡単なことだ、扉に『転移』の能力を付与したらどうなるか?といいう事だ。
前々から考えてはいた事だった。

ただ扉を開けたら、行きたいところに繋がるというドラちゃんの『どこでも●●』では無い。
それの場合、使用者が制御できないという可能性があると考えた為、返って危険な物になってしまう。
それは望んではいない。
作りたいのは、二つの扉が繋がっている転移の能力がある扉だ。

木製の自立型の扉を二つ準備した。
鉄製のドアノブを扉に取り付け、ドアノブに神石を『合成』で取り付ける。
神石に『転移』の能力を付与するのだが、その時に、もう一つの扉の神石にも同時に『転移』の能力を付与する。
付与する時に両方のドアノブは、連動するイメージを加える。
果たして結果はどうなのか?

片方の扉のドアノブを捻ってみる。
するともう片方の扉のドアノブも捻られていた。
ここまでは順調。

さて、片方の扉をサウナ島の温泉の前に設置した。
もう一つの扉は、いつも食事をする庭先のテーブルの前に設置した。
扉を開いてみる。
おおっ!
扉の先には、湯気を上げる温泉が映っていた。

さっそく扉を潜ってみる。
温泉の前に転移することが出来た。
いいぞ、いいぞ!
扉を締める。

今度は反対に、テーブルの前に繋がるかを確認する。
扉を開くと、テーブルの前に繋がっていた。
念のため、扉を潜る。
テーブルの前に転移できている事が確認出来ていた。

実験成功!
どうやら簡単に転移扉を造ってしまったようだ。

しかし、これは自分で言うのも何だが、この世界の有り様を変えることになる一品だ。
使い方によっては、物流・移動速度を大きく変える。
例えば鍛冶の街の商人が、仮に温泉街ゴロウまで十日の移動日数が掛かるとする。
これを数秒で可能にしてしまう。
その時移動時に、マジックバックを携行していれば、同時に商品も数秒で運んだことになる。

この世界にとって、否、日本にとっても有りない技術だ。
安易に広めてはならない。
さすがにおっちょこちょいな俺でも、それぐらいは直ぐに分かる。

正直作った動機は、毎回五郎さんとゴンガス様のタクシー替わりになっているのが、面倒だというのが本音なのだが。
そこは目を瞑って貰えるとありがたい。
さて、どうしたものか・・・
まずは五郎さんの所から試してみるか?
なんだか怒られそうな気もするが・・・



ワイルドパンサーの報酬を得るべく、五郎さんのところにやってきた。
五郎さんと一緒にハンター協会に出向くと、ガードナーさんと協会の者らしき人が、俺達を待っていた。

「改めて、今回の依頼の達成おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「まずは国からの報酬を、お渡しさせていただきます」

「はい」

「金貨三百枚をお受け取りください」

「では遠慮なく」

「本来であれば、王城に出向いてもらい、国王から直々に褒章を授与するのですが、島野さんは拒否されると考えまして、この様にさせて貰いました」
ガードナーさんも随分分かってくれているようで、助かります。
あざっす!

「ありがとうございます、助かります」

「しかし、そろそろ一度王城にお越しいただけませんか?」

「いえいえ、遠慮させていただきますよ。もう国王とか間に合ってますんで」
はい、充分に間に合ってます。
そんなの会いに行ったら、絶対にフラグが立つに決まってますからね。
面倒事は勘弁です。

「はあ、やはりそうですか・・・」
ガードナーさんは諦めてくれたようだ。
ハンター協会の関係者らしき人が前にでてきた。

「私はここのハンター協会の会長をやっております。レミーという者です。よろしくお願いいたします」

「ええこちらこそ、島野です。よろしくお願いいたします」

「では島野さん、さっそくですが、買取の話をさせてください」

「はい、今回は肉と骨以外は買い取って貰おうかと考えております」

「本当によろしいので?ワイルドパンサーの牙は高級品ですよ」

「そうなんですか?」

「ええ、この牙は堅くて鋭く、武器の素材としても一級品です」

「へえーそうなんですね。五郎さん、ゴンガス様にあげたら喜びますかね?」

「そりゃあ、親父なら大喜びするんじゃねえか」
実は五郎さんとゴンガス様の顔合わせは、サウナ島で既に済んでいた。
たまたま二人ともサウナに入りに来ることになり、鉢合わせをして意気投合していた。
たまたまというよりは、俺が両方とも迎えに行ったんだけどね。

俺も二人に付き合わされて、ベロベロになるまで飲まされたんだよね。
翌日の二日酔いは酷かった、酔いが抜けきるまでにサウナを三セット必要とした。
二度と付き合いたくは無い。
ちなみにエルの回復魔法では、二日酔いは治らなかった。
世界樹の葉は流石に使うのは憚られた。

「じゃあ牙は一本貰っておきます。他は全部買取でお願いします」

「分かりました」
会長は計算を始めた。

「牙が九本で金貨九十枚、毛皮は五枚で金貨五十枚、爪が五体分で金貨四十枚、合計で金貨百八十枚になります、解体費用は国が負担すると聞いてますので結構です」
ガードナーさん、ゴチになります!

「ではこちらをどうぞ、念のため勘定をお願いします」
革袋を渡された。
俺は中身を取り出して、金貨百八十枚を確認した。

「はい、OKです」

「それにしても島野の所は景気がいいな」

「おかげさまで儲かってます」

「ガードナーさん、ではこれで」

「ええ、今回はお世話になりました」



五郎さんの執務室に帰ってきた。

「五郎さん、今日も来ますか?」

「そうだな、そうしようかな?」

「そういえば、五郎さんがいつでも来られるように、転移扉を造ったんですがどう思いますか?」

「どう思いますって、お前え、それ以前に転移扉ってなんでえ?」

「扉に神石をくっ付けて、転移の能力を付与すれば、サウナ島とここが繋がるんじゃないかと考えまして」

「ああ、そうか・・・ってお前え!それ無茶苦茶便利になるんじゃねえか!?」

「はい、そう思います。まずは五郎さんの所で試させて貰おうかと思いまして」

「儂の所で試すって・・・はあ、お前えって奴は・・・」
五郎さんは首を横に振っていた。

「ひとまず、扉は何処に置きますか?」

「そうだな、この執務室以外に置ける訳はねえわな」

「ですね、あと分かってはいるかと思いますが、神力を使いますので、扉の開閉は神様にしか出来ません」

「だな、とは言っても誰かに見られる訳にもいかねえな」

「そうですね、じゃあ出しますね」
『収納』から転移扉を出して設置した。

「開けますね」
扉を開くと、サウナ島のテーブル前の景色が広がっていた。
よし、この距離でも問題ないようだ。
五郎さんは呆気に取られていた。

「やっちまったな」
と呟いていた。
なんかすんません。

「五郎さん、誰か連れてきてくれても構いませんが、ちゃんと身元を保証できる者に限定してくださいね」

「ああ、分かってらあ」

「じゃあ、さっそく運用を開始しましょう」
と言って俺は、転移扉を潜った。
サウナ島から五郎さんに手を振った。
五郎さんは引き攣った顔で、力なく手を振り返していた。

「では、好きな時にきてくださいね」
俺は転移扉を閉めた。



いつも通りの畑作業をしていた所、珍しくアグネスがやってきた。

「アグネス、どうした?随分早くないか?」

「ええ、そうなのよ、ごめんね」

「何かあったのか?」

「ちょっと守に話しておきたいことがあってね」
いつになく真剣な表情のアグネス。
珍しいな。

「どうしたんだ?」

「先日いつもの野菜の叩き売りをしてたらね『魔王国メルラド』の外務大臣っていう、お偉いさんがやって来てね。この野菜を全部売ってくれっていうのよ」

「全部?」

「そう、流石にここの野菜を楽しみにしている街の人達がいるから、それは無理だって答えたら。倍の金額を出すから売ってくれって」

「それでどうしたんだ」

「なんだか訳ありそうな感じだったけど、せめて半分にしてくれって断ったわよ」
半分は売ったんかい。

「そうなのか、儲かったな」

「そうよがっぽりとね!・・・じゃなくて。その外務大臣さんはコロンの街の食料を随分と買い漁っていったらしいのよ」

「それは何でだ?」

「分かんないわよそんなこと、でね、そのお偉いさんがどうしてもこの野菜の生産者を教えてくれって言ってきてね」
アグネスは手を合わせた。

「ごめん、教えちゃった!」

「はあ?」

「だって凄い剣幕だったし、断ろう物なら、何しでかすか分からない雰囲気だったから・・・」
はあ、こいつなりには抵抗はしたんだろうな・・・
まあしょうがないか。
にしても気になるな。どう考えてもそのメルラドって国が食料飢饉になっているとしか考えられんが。
どうする・・・多分これは嫌でも巻き込まれるな。
先回りして、畑を拡張しておくべきか・・・
そもそもどれだけの人口がいる国なんだろうか?

「アグネス、そのメルラドについて知っていることを教えてくれないか?」

「いいわよ、でもあまり詳しくは無いわよ」

「ああ、知ってることだけで構わない」

「まずは、メルラドはコロンの街から南に商業船で、海路で四日ぐらいかかる所にある島国らしいのよ」

「島国か」
だから食料を買い漁りにきたんだな。

「結構大きな島らしいわ」

「どれぐらい大きいんだ」

「え?知らないわよ」
適当な奴だな。

「それでね、魔王が統治している国なんだけど、魔王とは言っても魔人が王様をやっているってことらしいわ」
だから魔王ってか・・・
何か魔王の威厳を損ねているような・・・

「なるほど」

「でね、一年の半分ぐらいが雪に覆われている地域もあるらしいわ」

「雪国ってことか?」

「どうなんだろうね?」

「人口は何人ぐらい要るんだ」

「知らないわよ」

「どんな種族が多いんだ?」

「分からないわ」

「他に知ってることは?」

「特に無いわね」
聞いた俺が馬鹿だった。情報薄すぎ。
まあアグネスだからな、諦めよう。

「そういえば、その外務大臣の名前は?」

「聞かなかったわ」
でしょうね・・・
アグネスにお礼を言ってその場を去っていった。



晩御飯の時に皆に相談することにした。
ちなみに本日のメニューはカツオのたたきと、カツオを漬けにして丼にした物。
大葉と胡麻が散らしてある。

「なあ皆、聞いてくれ」
皆が注目する。

「今日、アグネスから話を聞いたんだが、コロンの街に『魔王国メルラド』の外務大臣が訪れたらしい」

「『魔王国メルラド』の外務大臣が何で?」
メルルが質問してきた。

「どうやらコロンの街にある食料品を買い漁っていったらしい」

「何でそんなことを?」
当然の疑問だな。

「俺の予想では、食料飢饉が起こったんでは無いかと思う」

「食料飢饉って何?」
ギルは知らなくて当然か。

「食料飢饉ってのはな、天候やその他の理由によって、作物が育たなかったりして、食べ物が無くなってしまうことだよ」
ギルは頷いている。
テリー少年が手を挙げた。
俺は手をさして発言を認める。

「島野さん、その他の理由って何ですか?それってこの島でも起こることなんですか?」

「良い質問だ、その他の理由で考えられるのは、作物を荒らす獣や、虫の大量発生がある。そしてこの島でも起きる可能性は有る」

「あるんですか?」

「ああ、だが安心してくれ。対策は出来る」

「どんな対策ですか?」

「まずは俺が結界を張れるし、大量の虫ぐらいだったら、ギルがブレスで焼いてしまえばいいし、この中で火魔法を扱える者は多いからな」

「よかった」
テリー少年は安心したようだ。
テリー少年にしてみたら、好きになったこの島に飢饉が起きることが無いか心配したんだろう。
彼も随分成長したもんだ、もう少年では無いかもしれないな。

「話を続けるが、アグネスがこの島の存在を話してしまったらしい」

「なに!あいつ」
ノンがいきり立っている。

「まあ待てノン、あいつも言いたくて言った訳じゃなさそうだ、それに本当に食料飢饉が起きているのなら、言ってくれて正解だと思わないか?」

「主がそういうなら・・・」

「そこで皆に相談なんだが、どうやらその外務大臣は、俺達の育てた野菜に強い興味を持っていたようだ、俺の予想では早ければ数日中に、遅くとも二週間以内には、島に来るんじゃないかと思っている」
ランドが手を挙げる。

「そう思う根拠は何でしょうか?」

「まず、食料が足らないということと、後は農業の技術指導だな」

「なるほど」

「聞くところによるとメルラドは島国らしい、それも寒い国のようだ、寒さは農業には天敵だからな」

「寒い国でも農業はできるのですか?」
マークが質問をぶつけてきた。

「アイリスさん、お願いします」
アイリスさんが立ち上がった。

「出来ますわよ、でも種類には限りはありますわね、例えば白菜なんかがいい例ですわ」

「なるほど」

「他にもほうれん草や小松菜、アスパラガス等も栽培できそうですわ」

「それに俺の異世界での知識になるが、ハウス栽培という手もある」

「ハウス栽培ですか?」
アイリスさんが食いついてきた。
何であなたが・・・そうかこの世界には無い技術か。

「ええ要は温室を造って、そこで野菜の栽培を行うということです」

「まあ、そんなことが出来るのですね!」

「出来ると思います。何かと工夫は必要だとは思いますが」
どう日光を取り込むかを考え無いといけませんね。
でもこの世界には『照明魔法』があるから何とかなるとは思うが、こればかりはやってみないと分からないな。

「話を戻すが、俺は皆と決めたいことは、先回りして畑を拡張するかどうかということなんだ」

「やればいいのでは?」
ゴンが安直に言う。

「ゴン、簡単に言うが、拡張のサイズによっては、皆昼からの作業にかかれなくなる可能性もあるし、下手をすれば休日が無くなることもあるんだぞ」
ゴンがしまったという顔をした。
マークが手を挙げる。

「島野さん、俺達は休日が無くなる程度なら何とも思いませんよ、今までの待遇が良すぎなんですよ、これは俺の意見ですが、まずは人命を優先すべきだと思うんです。俺は畑の拡張に一票投じます」

「そうか、貴重な意見をありがとうマーク、ただこれはあくまで俺の予想であって、杞憂で終わる可能性もあるということを、視野に入れておいて欲しい」

「島野さんの予想が外れたことを、俺は見た試しがないですけどね」

「そうだよ」

「全くだ」

「主の予想は大体当たる」
と賛同の意見が後押しする。

「ちょっと待て、俺の本心は予想が当たって欲しくないんだがな」

「まあ、そうでしょうな、食料飢饉が起こっているなんて、嫌な事この上ないですからな」
メタンが擁護した。

「まあ、俺の予想の真意は良いとして、どう思う?」
メルルが手を挙げた。

「仮に島野さんの予想が外れたとして、豊富にある作物に問題があるのでしょうか?」

「無い事はない、それは単に俺が食料の廃棄を嫌うということでしかないんだがな」

「それであれば、島野さんの『収納』なら保管は可能ではないでしょうか?」

「確かにそれは一理あるな、だが問題はそこだけでは無くて、拡張した畑をどうするかということだ、せっかく拡張した畑を潰すのは心元無いんでな」

「確かに・・・」
レケが手を挙げた。

「ボス、俺には細かいことは分からねえが、ボスが神力を使わなかったら良いんじゃないのか?」
通常の栽培にするということか、良いかもしれない。

「良い意見だレケ、アイリスさんどうでしょうか?」

「それは拡張した畑は、神気を流さずに栽培するということですか?」

「はいそうです、杞憂に終わった場合には、その畑は潰さずに、通常の栽培にするということです。このサウナ島の野菜は俺とギルの神力によって、成長を促しています。なので畑の作業のほとんどが、収穫になっていると思います、けど今のレケの案だと、それを行わないようにすれば、作業はそこまで負担にならないのではということです」
アイリスさんは考えてるいるようだ。

「確かにそうすれば、作業の負担は減りますが、今よりも負担は増すことに変わりは無いですわ」

「ということは、折衷案としては一番可能性があるということですね」

「そうなりますわね」

「レケ!良く気づいたな」

「へへ!俺も勉強してるからな!」
レケが胸を張っている。
良いじゃないか、皆な成長している。

「じゃあ、拡張する方向で明日から動くがいいか?」

「「「はい!」」」
こうして畑の大幅な拡張が決定した。
更に話を進める。

「ギル、エル、レケ、ロンメル、三日後からでいいから、極力漁に出て、船が現れないか様子を探って欲しい」

「ああ、旦那、任せとけ」

「見つけたらどうするの?」

「何も話をせずに着岸させる訳にはいかない、その時は直ぐに俺を呼んでくれ」

「分かった」
これは更なる先読みになるが、指示をしておいた。

「マークとランドは屋台を三つほど造っておいて欲しい、鉄板使用で無くていい、炊き出し用のを頼む」

「「了解!」」

「次にノン、狩りでいつもより、多めに肉を用意しておいてくれ」

「分かった」

「メルル『体力回復薬』の作成を始めて欲しい、瓶は何本ある?」

「確か百本ぐらいしかないはずです」

「そうか、後でゴンガス様に作るように依頼してくる」

「手の空いた者は、狩りに出れる者は狩りに参加、それ以外の者はメルルを手伝う様に、いいか?」

「「「はい!」」」
これで一連の前捌きは終わったと思う。



それから数日間、畑の拡張と受け入れの準備を整えていった。
そして準備を始めてから、十日が経った時に、ギルから『念話』が入った。

「パパ、お客さんだよ」

「分かった、今から行く」

ヒュン!

俺はギルの横に立っており、目の前の大型商船を眺めていた。

「へえ!立派な商船じゃないか」

「ああ、そうだな」
いつの間にかロンメルが俺の後ろに控えていた。

「さて、じゃあギル行くか?」

「いいよ、乗ってく?」

「ああ、行くぞ」
俺はギルの背に乗り大型商船に向かった。
大型商船の上空でホバリングすると、船は進行を止めた。

船頭に燕尾服のような服を着た、初老の男性が現れた。
俺の方を見ると一礼して、どうぞお入りくださいと、船内に手を向けた。
見た感じの印象としては、話しが出来そうな相手と思えた。
俺は船に降り立ち、人化したギルが俺の隣に並ぶ。
初老の男性が腕を折り曲げて、仰々しく挨拶をした。

「私しは『魔王国メルラド』の外務大臣であります、リチャードと申します、以後お見知りおきを」
なかなかに仕草が堂に入っている。
それにしても、獣型のギルを見ても眉の一つも動かさなかったな。
アグネスの奴、どれだけ情報を流したんだ?

「俺は島野守だ、よろしく頼む」
手を指し出そうと思ったが、まだ早い気がしたので止めておいた。

「それで、俺達の島に何か様ですか?」

「はい、まずは突然の来島、ご容赦ください」
リチャードさんは大きく腰を折った。

「ああ」

「現在『魔王国メルラド』は食料飢饉を迎えており、国が傾きかけております」
ああ・・・予想道りだな。
ハズレて欲しかったのだが・・・

「また国民の不満が爆発し、クーデターが何度か起きかけました」
クーデターまでとなると、末期じゃないか。
大丈夫か?

「幸い『音楽の神』オリビア様の権能によって、クーデターの危機は、今は収まっております」
『音楽の神』オリビア・・・初めて聞く名だな。

「先日コロンの街で大量に食料品を買い付けましたが、まだまだ食料が足りません」
そうだろうな。そうでなければ、この日数では現れないだろうからな。

「そこで、島野様の野菜を売っていただけないかと、来島させていただきました。ご容赦下さいませ」

「分かった、ある程度予想はしていたから食料は多めに準備してある」

「本当でございますか?」
リチャードさんの目が期待の目で輝いている。

「本当だ、天使のアグネスからコロンの街で食料を大量に買い込んでいる一団が居た、と聞いていたからな、それにリチャードさんはアグネスに俺達のことを聞いたんだろ?」

「はい、アグネス様も最初は嫌がっておられましたが、渋々ながらも教えていただけました。ただ・・・」

「ただ?」

「話し出したら止まらない性格のようでして、いろいろと教えていただく羽目になってしまいまして・・・」
あの野郎!自分からペラペラと話してんじゃねえか!
リチャードさんもそこまで教えてくれなくても、といったところか。
個人情報だだ漏れかよ!
アグネスの奴・・・また懲らしめてやろうか、まったく!

「ハハ、そうですか・・・」
笑うしか無いな・・・

「はい、申し訳ありません・・・」
お互い気まずいな。

「それで、メルラドの人口はどれぐらいでしょうか?」

「はい、正確なことろまでは把握しきれておりませんが、ざっと二十万人程度かと」
二十万人か、国を名乗るには少なすぎないか?
いやまてよ、向うの常識で考えてはいけない、なにより地球の人口数が多すぎるというのが本当の所だと思う。
そんなことはどうでもいい、食料が足りるかどうかの問題だ。

「時間的猶予は?」

「今はコロンでの買い付けで急場を凌いでおります、おそらく一週間ぐらいが限界かと」

「分かった、では俺を信用して今すぐ、メルラドに引き返して欲しい」

「引き返すですと?」

「ああ、道々説明するから安心してくれ、今直ぐ舵を切り返してくれ」

「な!」
リチャードさんの動揺が激しい、信じていいものか明らかに心が揺れている。

「時間が惜しいんだろ?」

リチャードさんは逡巡してから
「かしこまりました、あなた様を信用致します」
と言って、船長らしき者に指示を出していた。

船が進路を変えたのを確認した俺は『収納』から転移扉を取り出した。

「リチャードさん、これは転移扉という物です」

「転移扉ですか?」
まじまじと眺めている。

「この扉はサウナ島の扉と繋がってます」
リチャードさんは何を仰ってますか?という表情をしている。
やってみせた方が早いよね。
俺は転移扉を開いてみせた。

「な、なんと!こ、これはいったい・・・」
リチャードさんはあまりの驚きに、尻もちを着いてしまっていた。

「これがあれば、サウナ島に簡単に行き来出来ます、但し、それには条件があります」
リチャードさんはよろよろと立ち上がった。

「条件ですか?」

「はいそうです。この転移扉を開けるのは神力を持った者に限られます」

「それは神様のみということですね、しかし島野様は先ほどこの扉を開けられましたが・・・」

「ああ、俺は神様じゃないけど、神力を持ってますので」

「はい?それはどういうことでしょうか?」

「説明は難しいので省きますが、俺は人間だけど、神力が使えるということです、まあ例外だと思ってください」

「例外ですね、確かに例外中の例外ですね」
リチャードさんは複雑な表情をしていた。

「いずれにしても、理解できましたか?」

「はい、賢明なご判断痛み入ります」

「さて、ここからは時間との勝負となります、話すこともたくさんあります、まずは俺が指揮を執ってもいいですか?」

「是非、お願いします」
リチャードさんは一礼し、一歩下がった。

「ギル、合図をしたら牽引してくれ」

「分かったよ」
俺は船長らしき者に、声を掛けた。

「あなたが船長ですか?」

「はい、そうです」

「合図したらドラゴンが船を牽引します。方向など舵が取りづらくなりますので、上手く合わせてください」

「ドラゴンが牽引ですか?」

「はい、いつもと勝手が違うと思いますので、上手く合わせてください」

「な、なんとかやってみます」

「お願いします、ではいきますよ」
『念話』でギルに同時に指示を出した。
一気に船が加速する。
リチャードさんのところに戻り、一度島に行くように話した。

「よろしいので?」

「ええ、あと念のため人員をこの船に送り込みます。全員海のプロですので安心してください」

「承知いたしました」
俺とリチャードさんは転移扉を開いて、島に転移した。

エルと、ロンメル、レケを船に転移扉で送り込み、船の警護を任せた。
ロンメルには船長の手助けもお願いした。
リチャードさんは、サウナ島をキョロキョロと眺めていた。

「リチャードさん、こちらにどうぞ」
と俺は椅子を勧めた。

「ご丁寧にありがとうございます」
改めてリチャードさんを見て見ると、外務大臣というより、やり手の執事のように見える。
うん、いけオジだな。

「それで、食料飢饉の原因は何ですか?」

「まずは天候不良によるものです。特に今年は雪が降り始めたのが、例年よりも早く、作物も小さくて不作となりました。そこに加えて魔獣による被害です。特に農業地域に魔獣が出現し、畑を荒らされました」
踏んだり蹴ったりだな。
魔獣か・・・狩りを手伝った方がいいのか?

「天候不良に魔獣ですか・・・」

「はい、魔獣に関しては、魔王様自ら陣頭指揮に当たって対応しております」
魔王様自らって、勇猛果敢な魔王様ってことか?
いや、そこまで追い込まれてるってことか?
クーデターが起きそうだったということから考えると、魔王自らが問題に対応してますよのアピールか?

「魔王自らですか、ハンターはいないんですか?」

「メルラドにはハンターはとても少なく、数えるほどしかいません」

「それはどうして?」

「島国特有のことかと存じます」
そうか、ハンターは移動しながら狩りを行うから、島国では移動ができないということか?そもそも島に移動するのが大変ということか?

「狩りには、警備兵と国王の親衛兵で当たってます」

「国軍は無いのですか?」

「メルラドには国軍はありません、これも隣接する国が無い為、必要がないのです」
島国では戦争は考えられないということだな。
なのに日本はかつて戦争をした。人の欲が成せることなのか。
何とも振り返りたくない歴史だな。

「クーデターが起きそうだったということですが『音楽の神様』がどうやってクーデターを収めたんですか?」

「それはオリビア様の歌には、心を静めさせたり、心を勇気づけたりする効果があるからです」

「へえ、それは凄いですね」

「ええ、まったくです、いきり立った国民を、歌の力で宥めてくれました」

「メルラドの神様なんですか?」

「いえ、そうではありません、たまたま居合わせたというかなんというか、流浪の神様が旅で立ち寄り、そのまま居ついていたら、クーデターに巻き込まれたといったとろこでしょうか・・・申し訳なく思っております」
音楽というジャンル的にいったら、流浪の神様なんだろうな。
にしても歌の力でクーデターを回避したって、凄すぎるだろ。

「オリビア様には頭が上がりません」

「でしょうね」

「それにしても島野様、この島の何たる雄大さ、目を疑うばかりです」
辺りに目をやり、感心したようにしている。

「そうですね、気候にも恵まれてとても過ごしやすい環境です」

「羨ましいかぎりです」

「そうなんでしょうね、メルラドは今は雪の時期なんですよね?」

「ええ、例年道りならば後一ヶ月は続くかと」

「なるほど、本当は良くないことなんですが、状況が状況ですので、メルラドに着いたら、俺の能力で天候を操作しようと考えています」

「えっ!天候を操作ですか?」

「はい、本来雨が降るところを晴れにしたり出来ます、ただ懸念するのは、そうすることで、何処にどういう影響がでるのか分からないことです」

「影響ですか?」

「ええ、一説では災害である台風も、世界の自然環境においては、浄化作用であるという考え方もあるのです」

「そうなんですか・・・」

「ただ今回は生命と財産に関わる状況の為、そうは言ってられないと個人的には考えています」

「何とも・・・島野様は本当に人間なのですか?」

「ええ、出鱈目ですよね?」

「失礼ながら、はいと言わざるを得ないです」
ですよねー。

「それでは本題に入りましょう」

「はい」

「どれほどの支援が必要でしょうか?」

「正直にお話させていただきます。現在のメルラド国庫は、コロンの街の食料品の買い付けで、ほとんどなくなっている状況です」

「・・・」

「島野さまから支援とおっしゃっていただきましたが、それに縋ることしかできないのが現状です」
リチャードさんは随分正直な人だ、こんな話でもちゃんと目を見て話してくれる。

「そうですね、こちらとしては今直ぐに金銭を要求することは考えていません」

「そう言って貰えると助かります」

「但し、将来的には何かしらの方法で、返していただきます」

「はい」
リチャードさんの表情は硬い。

「この島の野菜を他でも販売している為、無償にすることはできません。ですが、安くは見積もらせていただきます」

「ありがとうございます」
リチャードさんは立ち上がり、深くお辞儀をした。
俺も立ち上がり、リチャードさんに手を差し出した。
リチャードさんは手を握り返してくれた。
その手は小刻みに震えていた。
リチャードさんを船に返し、この先の準備に取り掛かることにした。



俺は、メルル、リンちゃん、テリー、フィリップ、ルーベンを招集し、炊き出しの準備を始めた。

既に寸胴鍋は五十個作成済で、前もって料理を作っておき、メルラド到着後直ぐに配給を開始する予定だ。
作る料理は決まっている。
トマトスープだ。
なぜトマトスープかというと、トマトが最も早く収穫が出来る野菜の為、量を稼ぐとなると、これ以外の選択肢は無かった。

炊き出しといえば豚汁のイメージがあるが、味噌を大量に作るには時間がかかる。
その為今回は除外した。
調理方法も簡単にする。手の込んだことはしない。
今回重要なことは、この体力回復力のある野菜を、一人でも多くのメルラド国民に届けることだ。
お湯を沸かし、潰したトマトを大量に入れていく。
そこに消化に良いように、小さく刻んだタマネギ、ニンジン、ダイコン、バジルを入れていく。
ひと煮立ちさせたら、胡椒と醤油を加えて完成。
これを寸胴鍋五十個分作成する。
結果この作業に二日掛かった。

一旦『収納』に保管し、更にもう五十個分作成の指示を出し、俺は船に転移扉で移動した。
ギルの様子を見る。
どうやら休憩中のようだ。

「ギル、お疲れさん」

「あ、パパ、ちょっと休憩中」

「ああ、しっかり休んでくれ、差し入れだ」
『収納』からツナサンドを差し出した。
ギルに五人前渡す。

「皆さん差し入れです。休憩にしましょう!」
声を掛けると、船員達がぞろぞろと集まってきた。
一人一人にツナサンドを渡す。

「ウメー!なんだこれ?」
と船員が口にすると、それに合わせて他の船員達も騒ぎだした。

「本当に美味しい!」

「こんなの始めて食べた!」
ロンメルとリチャードさんが揃って現れた。
二人にもツナサンドを渡した。
リチャードさんは申し訳なさそうに頭を下げていた。
食事をしながら状況を確認する。

「ロンメル状況はどうだ?」

「旦那、後でギルを褒めてやってくれ。あいつの頑張りでかなり距離を稼げているし、海獣も蹴散らしやがったからな」

「そうか、分かった、あとどれぐらいかかりそうだ?」

「早ければ、今日の夕方には着くと思うぜ」

「そうなると、ここからの段取りを決めておきましょう」
リチャードさんに向き直ると、リチャードさんが一心不乱にツナサンドを食べていた。
リチャードさんの目の前で手を振ってみた。

「ああ、すいません、あまりの美味しさに我を忘れておりました。申し訳ありません」

「いえいえ、これからの段取りを打ち合わせしましょう」

「はい、よろしくお願いします」

「まず、ロンメルが言うには、早ければ今日の夕方には着くということです」

「ええ、伺っております」

「着いたら真っ先に国民に対して、炊き出しを行う様に知らせて欲しいのですが、どんな方法を取りますか?」

「そうですね、今はおそらく警備兵も全員狩りの最中ですので、方法としては口伝えしかないかと・・・」

「では、拡声魔法を持っている者はおりませんか?」

「拡声魔法ですか?聞いたことがありませんが・・・」

「そうですか、わかりました。仲間に拡声魔法を使える者がおりますので、その者に魔法を掛けさせて、大声で喧伝させましょう」

「他に通信手段等はありませんか?」

「狩りの小屋の通信魔道具とかはないのか?」
ロンメルが補足した。

「申し訳ありません、メルラドにはそういった物はございません」

「ではこうしましょう。まずは一番人が集まる場所に炊き出しの準備をします」
頷いているのを確認する。

「炊き出しは五箇所で行う予定です、器とスプーンを持って集まる様に拡声魔法で促します」

「はい」

「そこで炊き出しを手渡す時に、食事が済んだらまだ知らない人に、ここで食事が貰えると喧伝する様にさせましょう」

「分かりました」

「あと、食べ物を求めて押し合いが始まるかもしれないので、整備する者が必要ですが、人員はいますか?」

「人員となると、少数しかおりません・・・」

「じゃあ、ここの船員達はどうですか?」

「どうでしょう、契約の範囲には入っておりませんので、新たに契約をせねばなりません」

「そうですか」
俺は立ち上がり食事中の船員達に声を掛けた。

「船員達の皆な、聞いてくれ!食事をしながらで構わない。まずは長い旅路お疲れ様!」
俺は一礼した。

「早ければ今日の夕方にはメルラドに到着する。その後速やかに、俺達は国民に炊き出しを行うことになる」
全員が話を集中して聞いている。

「その炊き出しだが、大きな規模で展開させる予定だ。そこで船員の皆さんに協力して欲しいことがある」
ここで一泊貯める。

「炊き出しだが、押し合いになる可能性が高い、そこで皆には列になって並ぶ様に警備を頼みたいが、どうだろうか?」
ざわざわと騒ぎだした。

「俺は協力させて貰うぞ、こんなに美味い飯を食わせて貰ったんだ。当たり前だろう!」

「そうだそうだ、俺もやらせて貰う!」

「私も!」
と全員協力を申し出てくれた。

「ありがとう!もしかしたら、君たちは警護で食事もできなくなるかもしれないから、後でとびっきり上手い物を差し入れさせて貰う」

「おお!」

「まじで!」

「やったー!」
と大騒ぎだ。
振り返ると、リチャードさんが俺に対してお辞儀をしていた。

ピンピロリーン!

「能力が一定に達しました、ステータスをご確認ください」

はあ?このタイミングで何?

確認すると『未来予測LV1』となっていた。
はい?確かに予想道りだったけど・・・
まあいいけど、ちょっとこの能力に今は構ってられないな。
またにしてくれよ。
まったく。
それどころではないっての。