やあ!ギルだよ。
ドラゴン・・・ドラゴンキッズさ。

僕は今、コロンの街の教会に来ている。
教会は好きだな、とても落ち着く。
僕はリズさんみたいに祈ったりはしないけど、教会の雰囲気がとても好きなんだ。
あとは、孤児の子達と遊ぶのが好き、小さい子はいいね。
とても無邪気だからさ。

僕は休みの日は、孤児院に来ることが多い。
最近では食事も披露したりしているよ。
皆からギルの兄貴と呼ばれているんだ。
いつからかテリー達がそう呼ぶ様になって、それを皆が真似してるんだと思う。
テリーは孤児院のボス的な存在で、小さな子達からも慕われている。
最初は生意気で、態度の悪い奴だったけどね。

あれは確か、この教会に三回目に訪れた時だったと思う。
僕は小さい子達と庭で遊んでいた時だった。
テリーとその取り巻きの二人が帰ってきたんだ。

「おいお前、何でここにいるんだよ?」

「僕がここに居ちゃいけないのか?」

「ああそうだ、ここは俺の縄張りだからな」
テリーは偉そうに言っていた。

「そうだそうだ」
取り巻きもそんなテリーに続く

「ふうん、そうなのか?小さい子達の前だから、威張ってるように見るけど?」

「なんだって?!もういっぺん言ってみろ!」

「だから、小さい子達の前だから、威張ってる様に見えるんだけど?」

「お前!・・・もういい・・・あっちいけ!」

「なんでさ?」

「なんでって、もういいよ、俺が出てくよ!」
僕はテリーの前に立ち塞がった。

「ちょっと待て」

「なんだよ?」
テリーは怯えている様に見えた。

「別に君が出ていく必要なんて、無いんじゃないか?」

「・・・」

「そんなことよりも、一緒に遊んであげようよ、皆その方が喜ぶよ」
テリーはじっと僕を見つめた。

観念したのか。
「ああ、分かった」
と言って、一緒に遊ぶようになった。

その後も何度か一緒に遊ぶことがあり、やがてテリーとは友情が生れたんだ。
一度獣型で背中に乗せてあげた時は、テリーは凄く興奮して、それからテリーは僕のことを、兄貴と呼ぶようになったんだ。

そんなテリーが一度こんなことを話していた。
「俺達孤児は、字の読み書きはできないし、計算もできない。そんなだから将来は、ハンターになるしかないんだ」

「そうなのか?」

「ああ、兄貴は分からないだろうけど、そんなもんなんだよ」

「それなら読み書きや計算を覚えればいいじゃないか?」

「そんなのどこで教えて貰うってんだよ?」

「僕が教えてあげるよ」

「えっ!兄貴は読み書きや計算が出来るのか?」

「ああそうさ、島で勉強したんだ」

「そうなのか!やった!教えてよ!お前らも教えて貰えよ」
と、取り巻き二人に話を振った。

「俺たちもいいの?」

「ああ、もちろんさ、せっかくだから小さい子達で、学びたい子も一緒にどうだい?」

「そうだな、あんまり小さい子はついて行けないかもしれないから、六歳以上の子にしたらどうだ?兄貴」

「そうだね、そうしよう」

「あとさ、これはテリー達が望むんならの話なんだけどさ、将来ハンターになるんだったら、僕が稽古をつけてあげようか?」

「本当か?!」

「兄貴直伝の技とか教えてくれるのか?」
取り巻きの一人が言った。

「直伝の技とかって大袈裟だよ、まあでも僕もそこそこ強いからね、パパとノン兄には勝てないけどさ」

「へえー、兄貴の親父さんは強いのか?」

「ああ、無茶苦茶強いよ、あれは反則だね」

「そんなに・・・今度会ったら、最初に態度悪かったこと謝ろうかな?」

「はは、そんなことしなくてもいいよ。きっと気にしてないよ」

「兄貴がそう言うんなら、いっか」

「そう、それよりもどんな稽古をつけて欲しい?」

「そうだな、兄貴は魔法も得意なんだろ?」

「ああ、そうだよ」

「魔法も教えて欲しいな」

「「俺も!」」

「魔法かあ?でも魔法は適正があるから教えても、物にならないかもしれないよ?」

「そうなのか?その適正ってのはどうやったら分かるんだ?」

「それは知らないな、ゴン姉に聞けば分かるかもしれないけど、ゴン姉は今留学中なんだ」

「そうか、兄貴でも知らないか」

「残念」

「まあでも、いろいろ試してみよう、あと格闘とか教えるよ」

「格闘か、やったぜ!」

「勉強の方は、今度紙とかいろいろ揃えるよ。パパに言えばいろいろやってくれると思うからさ」

「兄貴!恩にきるぜ」

「うん、兄貴ありがとう!」

「いやいや、照れるなあ」

「「ハハハ!」」
皆でたくさん笑った。



その後パパが、紙と筆と墨汁をたくさん作ってくれた。
あとは、パパと一緒にメッサーラに行った時に、魔道具の筆を買っておいた。
黒板も作ってもらった。
孤児院の皆は、とても喜んでくれたよ。

それから僕は休日の日は孤児院に行って、勉強を教えて、テリー達に稽古をつける様になったんだ。
楽しい日々を送っているよ。



でも今僕はちょっと困っているんだ。
いや違うな、考えているんだ。
それはテリーとある話をしたからなんだ。

「兄貴、俺は後三ヶ月で、この孤児院から出ないといけないんだ」

「えっ!なんで?」

「三ヶ月後に、俺は十二歳になるんだ」

「うん」

「孤児院は十二歳になると、出て行かないといけないことになってるんだ」
そんな!・・・まだテリーにハンターは早すぎるよ。それにまだ読み書き計算だって出来てないんだ。

「何とかならないのか?」

「ああ、これは決まりなんだ。これまでもそうやって孤児院はやってきたんだ。俺だけ特別って訳にはいかない」

「そんな・・・」

「まあハンターとして、頑張っていくよ。五年後にはA級のハンターになってるかもしれないぞ」
テリーはお道化ていた。

テリー・・・強がっているのぐらい僕でも分かるよ。
本当は怖いんだろ?
テリーは僕にとっては大事な友達なんだ。
僕がなんとかしなくちゃ。
せめてあと一年、いや半年でいいからなんとかならないかな?

「あの二人はどうなの?」

「ああ、フィリップとルーベンも、半年後には孤児院を卒業さ」

「そうなのか・・・」
どうしたらいい、考えろ。
でも、何も浮かばない。

このままテリーと、フィリップとルーベンがハンターになっても、やっていけないと思う。
まだ彼らには体力がないんだ。
体力だけは、すぐにどうにか出来るものじゃないって、パパも言ってた。
魔法だってまだ取得出来てないんだ。
今のままじゃあ、たとえ武器を持ったとしても、ジャイアントラットすら倒せるとは思えない。
そうだ、パパに相談しよう。
そうしよう。パパなら何とかできるかもしれない。

「テリー」

「なんだい?兄貴」

「パパに相談してもいいかな」

「え?相談って何を」

「テリーが孤児院を卒業することをさ」
テリーが腕を組んで考え込んでいる。

「兄貴すまない、よろしく頼む」
テリーは素直に頭を下げていた。

「ああ、明日にでもまた話そう」

「分かった」
ひとまず僕はサウナ島に帰ることにした。



その日の夜、晩御飯を終えて、パパに相談することにした。

「パパ、相談があるんだけど」

「相談?なんだ?」

「テリーなんだけどね」

「テリー少年がどうした?」

「後三ヶ月で孤児院を卒業するんだ」

「へえ、それで」

「今僕は休みの日は孤児院に行って、孤児の子供達に勉強を教えて、その後にテリー達に稽古をつけてるんだ」

「そうか黒板や紙と筆をねだられたけど、先生はギルだったんだな、てっきりリズさんかと思っていたぞ。凄いじゃないか!偉いぞ!ギル!」

「へえー、ギルがねー」
ノン兄が冷やかしてくる。

「もう、大事な話だから、そういうのは止めて」

「めんご」
ノン兄はどっかに行ってしまった。
めんごって何?ごめんってことか?
ノン兄はたまに、訳が分からないことを言う。
もう!話が逸れた。

「それでね、稽古はつけてるんだけど、とてもまだハンターとしてやっていけるレベルじゃないんだよ。だからせめて後一年ぐらいなんとかならないかなと思って」

「たしかメルルが孤児院の卒業者だったな、メルルちょっといいか?」
パパはメルルに手を振っていた。
メルルは洗い物の手を止めて、こちらに来てくれた。

「メルル、ちょっといいか?」

「ええ、どうしました?」
パパは目で僕に話す様に促してきた。

「メルルは孤児院の卒業者なんだよね?」

「ええそうよ」

「教えて欲しいんだけど、孤児院は十二歳になったら卒業しないといけないんだよね?」

「そうよ」

「それは、一年ぐらい延ばすことはできないのかな?」
メルルは眉間に皺を寄せている。

「まず難しいと思うわよ」

「それは何で?」

「何でかって言うとね、まず孤児院は国や村からの補助金と、寄付金から運営してるのよ」

「うん」

「だからどこの孤児院も運営状況は厳しいものなの、補助金の額は高くないし、寄付だってしてくれる人すら少ないのよ」

「そうなんだ」

「だから十二歳ともなると、いっぱい食べる様になるから、孤児院に置いてはおけなくなるのよ、悪い表現だけど、口減らししないと孤児院も立ち行かなくなるのよ」

「口減らしって・・・そんな」

「それに、卒業していってくれないと、新たな孤児を引き取れなくなるわ、それも小さな子供をね」

「・・・」

「厳しいけどそれが現実なのよ、ギル分かる?」

「分かるけど・・・」

「駄目元でリズさんに相談してみたらどうだ?」
パパがビールを片手に言った。
まだ酔っぱらってはいない様子。

「そうだね、パパにお願いしてもいいかな?」
パパが目を見開いている。

「ギル、それはできない相談だぞ」

「えっ!何で?」

「ギルよく考えてみろよ、パパはこれまでにリズさんの教会に、何度も寄付を行ってきたんだ、そんなパパが、テリーをあと一年孤児院に残してくれなんて言ったら、リズさんだって断ろうにも、断れなくなっちゃうかもしれないんだぞ」

「そうか・・・そうだった」

「それにギルの友達のことなんだから、ギルがやらなくてどうするんだ?」

「そうだね、うん、そうするよ、あとメルルもう一つ教えて欲しいことがあるんだけど?」

「何かしら?」

「初心者のハンターって、どんな感じなの?メルルはどうだった?」

「私は最初の頃は苦労したわね、でも私は恵まれていた方だったから、何とかなったわね」

「恵まれていた?」

「ええ、ハンターになった時には、既に回復魔法と風魔法が使えたからね」

「ああ、そういうこと」

「でも、魔法や特殊な技術がないと、初心者のハンターは苦労が絶えないし、なにより危険なのよ」

「ちょっと待って、特殊な技術って何?」

「例えばロンメルみたいに、鼻が利くとかよ」

「ああ、なるほど、それで危険なのは何で?」

「まず初心者をハンターグチームに入れるのは、初心者なのよ」

「うん」

「それ以外でも時々入れることはあるけど、その役割は酷い時には、囮役等をやらされるのよ」

「そうそう、あれは俺もきつかった、何度も死にかけたな」
名前が出て気になったのか、ロンメルが会話に加わってきた。

「よくても使いっぱしりにされるぐらいだけど、あれはあれで酷いと思うわよ」

「そうなんだ・・・」

「だから初心者のハンターは、最も死亡率が高いのよ」

「・・・」
テリー・・・死ぬなんて駄目だ。
そんなのはありえ無い。

「ギルはなんでそんなことが気になるの?」

「それはギルの友達が、三か月後には孤児院を卒業するからだ」
パパが僕の代わりに答えた。

「それじゃあさ」
とメルルが言ったところで、パパが手でメルルを制止した。
ん?なんだろう。
メルルがすまなさそうな顔をしていた。

「まあ、ひとまずは駄目元でいいから、ギルがリズさんと話してみることだな」

「うん、そうするよ」
僕の相談は終わった。



翌日、僕はリズさんを訪ねることにした。

教会の中に入ると、リズさんが祈りを捧げていた。
僕はその様子を眺めていた。
想像神様の石像が、祈りに答えて神気を放出させていた。
僕はこの様が好きだ、聖者の祈りを見ていると心が落ち着く。
メタンのは落ち着かないけどね。
だって神気の放出量が凄いんだもん。
リズさんは祈りを終えて、こちらを振り返った。

「あら、ギル君、今日もお勉強ですか?いつもありがとうね」

「いえ、それもあるんですが、リズさんに話があって」

「私に?あら、何かしら?」

「あの、テリーのことなんですけど」

「テリー、あの子また何かしでかしたんじゃないでしょうね」
プンプンしているリズさんは、結構可愛い。

「いや、そんなことじゃないです」

「じゃあ何かしら?」

「テリーは後三ヶ月で、この孤児院を出て行かないといけないんですよね?」

「ええ、そうよ」

「なんとか、せめて後一年ここに居させて貰えませんか?」
驚いているリズさん。
僕がそんなこと言い出すとは、思っていなかったようだ。

表情を引き締め直したリズさんはこう言った。
「ごめんね、それは出来ないのよ」

「何で、ですか?」
本当は僕も分かっている、昨日メルルの言っていたことは、間違っていないと思った。

「まず、この教会で新しい孤児を受け入れられなくなるわ」

「それは知ってます、でも僕が寄付すればどうにかなりませんか?」

「ギル君が寄付するですって?!」

「ええ、いくら要りますか?」

「ちょっと、待ってギル君」
リズさんは両手を広げて、僕の話を止めようとした。

「いい?ギル君、まず考えてみて、私もテリーには手を焼いたから、あの子に対しては想う処もあるのよ、私だってあの子にまだここに残って欲しと思っているわ」

「だったら」
両手を掴まれた。

「でもね、あのテリーが特別扱いされることを受け入れると思って?」
ああ、そうだった、テリーは頑固者だった。
言い出したら聞かないところがある、テリーのことだ、自分が特別扱いされることに抵抗するに決まっている。
それにテリーはプライドが高い。受け入れる訳がない。
僕はなんで、そんなことを考えなかったんだろう。

「そう・・・ですね」
これで終わりなのか?それでいいのか?

「ギル君、ありがとう」
リズさんは涙を浮かべていた。

「あの子に、こんな友達思いの友達ができるなんて・・・本当に嬉しいわ・・・ギル君・・・ありがとう・・・あの子が卒業しても友達でいてあげてね」

「ええ、もちろんです。僕にとってもテリーはかけがえのない友達なんです・・・」
どうしよう・・・僕に何が出来る?
リズさんにお別れの言葉を言って、子供達の所に向かった。

この日も授業を行なったが、あまり身が入らなかった。
小さい子に
「今日のギル先生は元気がないね、どうしたの?」
と心配させてしまった、皆ごめんね。

稽古は今日は止めておいた、テリーも何かを察したのか、何も言わなかった。
皆にお別れの挨拶をしてサウナ島まで飛んで帰った。

僕は飛びながら考えている。
どうすればいいのかを。
テリーはハンターとして、本当にやっていけるのだろうか?
いや、難しいと思う。
僕もハンターだ、それぐらいは分かる。
これまでにも、マークやランド、ロンメルにハンターのことはたくさん聞いてきた。
とてもじゃないが、まだナイフも手にしたことが無いテリーが、やっていけるとは思えない。
どうすればいい?
パパならどう考える?
テリーはハンターになるしかないと言っていたけれど、他にもつける職業はないのだろうか?
でもまだ、読み書き計算もできない。
三ヶ月でなんとかなるだろうか?
厳しいと思う。

あれ?ちょっと待てよ。
違う職業って・・・そうだ!
サウナ島に就職すればいいじゃないか!
島野商事の社員になればいいじゃないか、そうだ!それがいい。
なんでそれに気づかなかったんだ。
僕はパパと一緒で、おっちょこちょいなのかな?
はあー、一気に気が抜けた気がする。
なんだかすっきりしたな。
あれ?
もうサウナ島に着いちゃった。



早速パパと話すことにした。

「ねえ、パパ、テリー達のことなんだけど」

「ああ、リズさんとはどうだったんだ?」

「リズさんとは話したけど、駄目だったよ」

「そうか」
パパはだろうなという顔をしていた。

「でね、そのことはもういいんだ」

「いいのか?」

「いいの、そんなことよりパパ、テリー達をサウナ島に住んで貰って、島野商事の社員にするってのはどうかな?」
あれ?パパの表情が・・・まったく読めない。
喜んでくれると思ってたのに・・・

「ギル・・・テリー達を雇うこと自体は問題ないが、役割はどうするんだ?」

「役割って、ああ・・・」

「ギルは当然分かっていると思うが、昼からは各自それぞれの役割で働いているが、テリー少年と、その他の者達は何ができるんだ?」
ああ、そうか、考えて無かった。
そうだった、このサウナ島では、できること、得意なことに合わせて各自役割を持って仕事をしている。
テリー達のできることは何か?
テリー達の得意なことは?
分からない、友達なのに・・・僕は知らない。
彼らに何ができるんだろうか?

「なあギル、流石に昼から何もできない社員を雇うことは抵抗があるな」

「そうだよね・・・」

「他の者達に対して、フェアじゃないだろ?」

「うん、そう思う」

「じゃあ、どんな役割ができるのか、考えてみることだな」

「えっ!僕が考えるの?何で?」

「ギル、お前の友達なんだろ?」
そうだ、僕の友達だ、僕が考えなきゃ。



僕は考えた。
一生懸命考えた、でも答えは出ない。
これは聞いてみるしかない。
僕はテリーと、フィリップとルーベンと話をすることにした。

「なあ皆、得意なことってあるのかい?」

「得意なこと?」

「「うーん」」
あっ駄目だ、全員考え込んでいる。
これは無いっていうサインだ。

案の定
「早く飯が食える」

「いつでもゲップができる」

「どこでも寝れる」

「臭い屁が出来る」
とふざけた回答しかなかった。

「じゃあ、出来ることは何がある?」

「出来ること?」

「何だってやるぜ」

「おう、何だってやってみせるぜ」

「兄貴は何をやって欲しいんだ?」
と、これも的を得ない。

困った、非常に困った。
どうしよう・・・
テリー達にはこれといって出来ることも、得意なこともない・・・
任せられる役割が思いつかない・・・
何が出来る・・・
もっと深く考えよう・・・
テリー達に出来ることは特にない・・・
これは分かっていること・・・
じゃあ、何を任せればいい?・・・
任せる・・・
あれ?・・・任せるって何だ・・・
ん?考え方が間違っている・・・
大事な事は役割を与えること・・・
何もできることや、得意なことに限定することはないんじゃ・・・
あれ?・・・なんか分かってきたような・・・
そうか・・・限定する必要はないのか・・・
じゃあ何がある?・・・
誰でも出来ること・・・
んん?誰でも出来ること・・・
何かある・・・
そうか・・・見えてきた気がする・・・
ああ・・・それでいいじゃないか・・・
そうしよう・・・
でも・・・ちょっと弱いような・・・
パパならどうする・・・
あっ!・・・閃いた!
よし!これで行こう。



翌日、僕はパパと向き合っていた。

「パパ、分かったよ」

「何がだ?」

「テリー達の役割についてだよ」

「ほう、聞かせて貰おうかな」

「まず、テリー達に得意なことや出来ることは無い」

「そうなのか?」

「それで、僕は考えたんだ」

「何を考えたんだ?」

「まず、僕は出来ることや、得意なことに固執しない、ということをにしたんだ」

「なるほど、それで」
パパが話しを促してくる。

「そこで僕は考えた。誰でも出来ることをやればいいんじゃないかって」

「ほう!聞かせてくれ」

「僕が考えたのは、テリー達は掃除や、洗濯をやったらいいんじゃないかと思ったんだ」

「なるほど」
パパが頷いている。

「それなら彼らも働けるし、それに誰でも出来る。今は掃除や洗濯は各自でやってるけど、これも福利厚生ってことになるんじゃないかなって」
更にパパが頷いている。
いいぞ、後一押しだ。

「そして、僕はテリー達に裏の役割を与えようと思うんだ」

「裏の役割?」

「うん、そうだよ。それはね、熱波師の修業をさせようと思うんだ。どうかな?」
パパが目を見開いたと思ったら、にやけた顔になった。

「良いでしょう!その案採用!」

「やった!これでテリー達がハンターにならなくてすむよ」

「ちょっと待て!それはまだ早いと思うぞ」

「えっ!どうして?」
パパは僕の目を除きこんでいる。

何で?まだ早い・・・
あっ!そうだった・・・僕が決めることじゃなかった。
本人の意思を確認しなきゃいけなかった。
それにテリーは、僕にハンターになるって言ってしまってたんだ。
テリーのことだ、意地を張るかもしれない。
どうしよう・・・よし、決めた!

「パパ、テリー達に、一度サウナ島に来てもらってもいいかな?」

「ああ、好きにしていいぞ」

「ありがとう、そうするよ」
ここの暮らしを体験すれば、テリーも考えを改めるはずだ。
それだけ、このサウナ島には魅力があるって、皆だって言ってるんだから、間違いない。
あの五郎さんだって、そう言ってたんだ。
間違いないと思う。



翌日、僕はテリー達に会いにいった。

「テリー、フィリップ、ルーベン話がある」

「兄貴改まってどうしたんだ?」

「何々?」

「実は皆に、大事な話がある」

「大事な話ってなんだ?」

「兄貴いきなりどうしたんだよ」

「テリー、フィリップ、ルーベン、単刀直入に言うよ、孤児院を卒業したら、サウナ島に住まないか?」

「えっ!」

「サウナ島に住む?」

「サウナ島って、兄貴が住んでるところだよな?」
皆、動揺している。

「住むといっても、ただそこで暮らすんじゃなくて、一緒に働いて欲しいんだ」

「働く?」

「一緒にって・・・」

「働くって何を?」

「ああ、一緒に仕事をするんだ。どうだい?」

「どうだいって、言われてもな・・・」

「俺はハンターになるって・・・」

「どうなんだろう・・・」

「そこで、まずは皆をサウナ島に招待したいんだ、もちろんパパの許可も貰っている、どうだい?サウナ島に来てみないか?」

「招待って・・・行っていいのかよ?」

「そうだよ、俺達みたいなのが、兄貴の島に行くなんて」

「ああ、そうだよ」

「遠慮することはないよ、それにリズさんには僕が話をしておく、一度サウナ島に来て、どんなことろか確かめて、どんな仕事をするのか体験してみて欲しいんだ、その上でどうするか決めて欲しい」

「本当にいいのか?」

「そうだよ、本当にいいのか?」

「ああ、そうして欲しい」

「兄貴がそこまで言ってくれるなら俺は行くぜ、お前らどうする」

「テリーが行くなら俺も行くよ」

「ああ、俺も」

「よし!決定だ!」
楽しくなってきたぞ!
後はどうもてなすか考えよう。
僕はリズさんに、テリー達を一泊二日でサウナ島に預かることを話した。
リズさんは、すまなさそうにしていた。


テリー達がサウナ島に来る当日。

僕がテリー達を、サウナ島まで背中に乗せてこうと思ってたけど、流石に危なくないかと、パパが迎えに来てくれることになった。

「よう!テリー少年とその仲間達!」
パパ、何それ?
そうか、フィリップとルーベンの名前を知らないんだった、にしてもその仲間達って、何?もう!

「パパ、彼はフィリップで、彼がルーベンだよ、二人共猫の獣人だよ、それに何さ、仲間達って?」

「そのまんまだ」
駄目だ、よく分からない。もういいや。

「直ぐに行くの?」

「いやリズさんにお裾分けしてからだ、ちょっと待ってろ」
と言ってパパは、リズさんの所に向かった。

「なあ、ギルの兄貴、何だって兄貴の親父さんは、ここまで俺達に良くしてくれるんだ?」

「ん?そうかな、どこでもあんな感じだよ」

「そうなのか?・・・」

「それにしても楽しみだよ、兄貴」
ルーベンは嬉しそうにしていた。

「俺もだよ、兄貴がどんなところに住んでるか、ずっと気になってたんだよな」
フィリップも嬉しそうにしている。
テリーは、何ともいえない雰囲気だ。
パパが帰ってきた。

「よし、テリー少年、フィリップ少年、ルーベン少年、準備はいいか?」
と言うと、いきなり。
ヒュン!

「うわー!」

「おお!」

「うう!」

「ち、ちょっとパパ!いきなり止めてよ」

「じゃあ、あとはギルに任せた」

「ちょっと・・・」
パパは何処に行ってしまった。
もう!面倒くさがりなんだから!
さて、僕は僕に出来ることをしよう。

「よし!じゃあ行こうか」

テリー達のアテンドを始めた。
始めに畑を見に行った。
アイリスさんを紹介した。

アイリスさんは
「まあ、ギル君のお友達ね、今後もギル君と仲良くしてね」
と僕が照れることを言った。

次に、ロンメルとレケの所に行った。

ロンメルが
「ほう、オオカミの獣人か、お前いい斥候になれるぞ」
とテリーに余計なことを言った。
こいつには合わせちゃ駄目だった。人選を間違った。

レケはマグロに夢中で
「おう」
と言っただけだった。

その次はマーク達の所に行った。
マークとランドの大きさに、テリー達はびびっていた。

次に、たまたま創造神様の石像に、祈りを捧げているメタンに出くわした。
神気の放出量に、テリー達は引いていた。
僕もその気持ちはよく分かる。

その後、丁度昼飯の時間になったので、皆で昼御飯にした。

この日のメニューは焼飯だった。
最近のパパのお気に入りだ。
パパが中華鍋をガンガン振り回していた。
僕は十杯も食べてしまった。
テリーも頑張って四杯食べた、フィリップとルーベンは三杯だった。
皆、お腹を擦っていた。

その後エル姉と僕の背中に乗って、温泉に入りに行った。
三人とも初めての温泉だったらしく、気持ちいいなと言っていた。
その後にメルルを紹介した。

後は、寮を見たり、備蓄倉庫を見たりとしていたら、晩御飯の時間になっていた。
僕にとってはここからが本番だ。

パパ仕込みの技で、ピザを作っていく。
隣に控えるパパは腕を組んで、僕の動きを観察している。
僕は時折パパから指摘を受けながらも、ピザを何枚も焼いていく。

皆から声が上がる。
「次はシーフドよろしく」

「マルゲリータをもう一枚」

「お任せピザよろしく」

「味噌汁ビザを二枚」
皆好きに言ってくる。
テリー達の様子を見る。
いい具合に皆が話掛けてくれて、馴染み出しているようだ。

よし!更に気合を入れる。
僕はこれでもかと、パパにから教わったピザの奥義に従い。
ピザを次々に作っていった。

「あー、疲れた」

「ギルお疲れ、だいぶ板についてきたな」
パパに褒められた。

「今からサウナに入ってもいいかな?」

「ああ、いいぞ」
三人に声を掛け。サウナに入った。

「なんだここ、熱っちい」

「汗かきそう」

「汗をかくところなんだよ」

「そうなのか?それにしても熱い」
五分後には、外へ出た。
掛け水をすることを教えて、水風呂に入る。

「ああー、気持ちいいー」

「ふうー、最高」

「なあ兄貴、毎日こんなことやってんのか?」

「ああ、そうだよ、楽しいだろ?」

「「ああ」」
外に出て、余韻に浸った。

二セット目はノン兄の熱波付きのサウナ。
前もってノン兄にはお願いをしておいた。

テリー達は、
「熱すぎる、勘弁してくれ」

「きっつー」
と騒いでいた。

三セット目に突入した。

ルーベンとフィリップはお先にと、サウナから出て行った。
するとそれを待っていたかのように、テリーは話しだした。

「兄貴・・・ずるいぞ」

「何がさ」

「こんな生活見せつけられたら、断れる訳ないじゃないか」

「断るつもりだったのか?」

「・・・俺は本当は、ハンターにはなりたくなかった。正直言って怖かった・・・まだハンターとしてやっていけるほど、力も無いし、度胸も無い。そんなことは俺でも分かっている。兄貴ありがとう。恩にきるぜ」

「てことは」

「ああ、サウナ島にお世話になります」
テリーは丁寧にお辞儀をした。

「よし!決定だ!やった!」
前にパパが、大事なことは密室で決められている、って言ってたけど、こういうことなのかな?
なんか違う気がする。まあいいや。

「じゃあ出ようか」

「そうしよう」

今日の『黄金の整い』はいつもの解放感に、達成感もプラスされていた。
やったあー!



翌日の朝、テリー達はパパに頭を下げていた。

「このサウナ島に就職させてください」

「「「よろしくお願いします!」」」
パパは笑顔で僕を見た後

「サウナ島は君たちを歓迎する、しっかり働く様に、雇用条件や役割などはギルから聞くこと、あと分かっているとは思うが、君達以外はみんな大人で先輩達だ、敬意を払う様に、出来れば言葉使いも改める様に」

「「「はい!」」」

「あと、仕事に手は抜かない様にな、サボることは許しません」

「「「はい!」」」

「以上!」

「「「ありがとうございました!」」」

というやり取りがあり、テリー達のサウナ島への就職が正式に決定した。
その後、僕が雇用条件や役割の話をした。

「えっ!そんなに給料がもらえるの?」

「休日が週に二日もあるの?」

「福利厚生って凄っ!」
等と嬉しそうにしていた。

この日テリー達は、午前中の畑作業を体験して、孤児院に帰っていった。



数日後、テリー達はリズさんと話し合い、孤児院の卒業を待つことなく、サウナ島へ就職することになった。

「ギル、お前はもしかしたら、あの子達の命を救ったかもしれないな、本当によくやった。誇りに思うぞ」
とパパが褒めてくれた。
とても嬉しかった。
久しぶりにパパにハグして貰った。

「それにしても、良く熱波師になる修業をさせるって思い付いたな?」

「ああそれね、だってサウナ関連を持ち込めば、パパは絶対受け入れてくれるって思ったからさ」

「何だそれ!俺のことよく分かってるじゃないか、流石は俺の息子だ、カッカッカッ!余は満足じゃ、良きに計らえ!カッカッカッ!」
とまた変なこと言ってる。
でも本当に良かった。

「ねえパパ、本当はテリー達の役割のこと分かってたんでしょう?」

「いや、熱波師修業は思い付かなかったな」

「そうじゃなくて、掃除や洗濯の方だよ」

「ああ、でもそれだけじゃなく、リンちゃんのサポートをやらせるつもりだけどな」

「そうか、それもあったね」
流石はパパだ、でも結果オーライ!

今日も良い整いが得られそうだ。