祭りの日の当日。
午前中の畑作業を終えた俺達は『ゴルゴラド』へと移動した。
結局全員での参加となった。
皆な祭り好きのようだ。
お手伝い組と俺とロンメルは、ユニフォームを着用している。
そのユニフォームには、左胸と背中に「島野一家」と刺繍されている。
さっそく屋台の組み立て準備を行う。
ここでも、マークとランドが中心となり、最後の屋台の仕上げを行っていく。
この屋台の屋根には、丸の中に島と書いてあるロゴが書いてある。
初日のお手伝いの、メルルとメタンとで備品の準備を行う。
その他の準備を、俺とロンメルで指示しながら進めていった。
周りを見渡すと、相当数の屋台が立ち並んでいた。
但し、この場所は立地条件が悪いこともあり、人出は少なかった。
「よし、これで準備は完了だな」
「完成ですね」
マークが誇らし気に屋台を見ている。
「これは立派な屋台だな。祭りが終わっても島で使いたいな」
「いいですね、そうしましょう」
マークが喜んでいる。
「旦那、ちょっと他を見てきていいか?」
「ああ、いいぞ」
何か気になることでもあるのか?
「お手伝い組以外は、祭りを楽しんでくれ、あまり遠くへは行かないように、あとゴンちょっといいか?」
俺は小声でゴンに話した。
「アイリスさんに付いて行ってくれないか?ちょっと心配でな」
「分かりました、そのつもりでおりましたので、お構いなく」
ゴンは流石だな、痒いところに手が届く存在だな。
「「「行ってきまーす!」」」
皆、手を振って離れていった。
「気をつけてな!」
俺は皆を送り出した。
さてと、俺もちょっと屋台を見て周るかな。
「メルル、ちょっと席を外すぞ、お客が来たら手配道りに頼む」
「わかりました、行ってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」
屋台を見て周った。敵情視察だ。
ロンメルのいう通り、肉料理が多かった。
串ものが一番多い、次に多いのは汁物かな、煮物系は少なかった。
あとは特に目に着く屋台は無かった。
まあ、全部を観て周れた訳ではないので、後日観れるだけは観て周ろうと思う。
屋台に戻ると、お客が一人いた。
メルルが対応している。
お客は狐の獣人で、旅行客といった感じだ。
「ツナマヨとはなんですか?」
「ツナとはマグロのことで、それにマヨとは、マヨネーズと言う調味料でそれをツナにかけた物です。その下にはお米が敷き詰めてあります。一緒に食べると美味しいですよ」
おっ!完璧な説明だな。念の為練習させといてよかった。
実は先日の晩飯の時に、皆にセールストークを練習させておいたのだ。
「ツナマヨって何ですか?って、絶対聞かれると思うけど、ギル、お前ならどう答える?」
上を向いて考えているギル。
「えっとご飯の上にマグロとマヨネーズをかけたものです、でどう?」
「ちょっと弱くないか?」
「ご飯の上にツナマヨを乗っけたものです、ツナとはマグロのことで、それにマヨとは、マヨネーズと言う調味料ですわ」
アイリスさんがさらりと答えた。
「アイリスさん、すげえー!」
「さすがアイリスさん!」
フフと笑いながらアイリスさんが言った。
「既に接客のイメトレは完璧ですわ」
「「「おおー!」」」
皆な驚いている。
にしてもイメトレって・・・
アイリスさんやる気満々だな。
「アイリスさんマジすげえ」
「さすがですな」
「じゃあ、今回は普通のサイズの物と、小さいサイズの物を用意したのは、何故だか分かる者はいるか?」
ゴンが手を挙げた。
「小食の人用では?」
「惜しいな」
メルルが手を挙げた。
「いろいろな物をたくさん食べたい人の為とか?」
「おっ!メルルほとんど正解だな。俺の居た世界では、食事の祭りのことをフードフェスって言うんだがな。特にお目当ての店が無い人は、気になった店をたくさん周りたいものなんだよ、そうなると、気になるのがどれだけ食べられるかなんだ、何なら一口だけでもいいと思うものなんだよ。さすがに一口分売るって訳にはいかないから、小サイズにしたんだ。まあ、ギルにとっては関係ないことだろうがな」
「パパ、分かってるね、僕はたくさん食べるよー」
「知ってるよ」
ノンがツッコんだ。
笑いが起きていた。
「へえー変わった料理ね、今まで食べたことはないわね、じゃあ小を一つお願いしてもいいかしら?」
おっ!初めての客現るだな。さて反応は?
「銀貨四枚になります」
メルルが銀貨四枚を受け取っている。
注文が入ると、マークが木製お茶碗に、ご飯とツナマヨを乗せてく。
「へい、お待ち」
何故へいお待ち?
狐の獣人は受け取ると、一度匂いを嗅いでから食べ始めた。
「美味しいわ、なんだろう、お米とのバランスが絶妙ね。これはご飯が進むわね」
というと、投票札をメルルに渡していた。
「ありがとうございます!」
「あたりまえの評価ですわ」
いきなりの一票、凄いじゃないか。
初の客は早々に完食し、器を戻していた。
「ごちそうさま」
と言うと笑顔で立ち去っていった。
「凄いじゃないか!お前達」
「いやいや、ツナマヨが凄いんですよ」
「いや、接客も初めてにしては様になってたぞ」
照れるマークとメルル、我関せず洗い物に没頭するメタン。
ロンメルが返ってきた。
「駄目だ旦那、今日もゴンズ様は見当たらなかった」
どうやら探しに行ってくれていたみたいだな。こいつのさりげない気遣いは実にありがたい。
「そうか、ロンメルありがとう」
さて、お客は来ますかね。
結局この日は小サイズが二十四杯と、普通サイズが三十一杯の販売となった。
だが、札は多く四十五票も頂いた。
祭り参加組はというと満足な様子で、皆が皆お腹を擦っていた。
そうとう食べたようだ。楽しめた様ならなによりだ。
ギルが初日で金貨一枚使ってしまったと、項垂れていた。
お金の管理は使って覚えるものだ、良いんじゃないかな?そうやって、学んでくださいな。
アイリスさんが、前に聞いていた饅頭の様な物を食べたらしく、甘くは無かったが、あれはあれで美味しかったと言っていた。
お目当てが食べれたと、嬉しそうにしていた。
それは良かった。
うんうん。
ゴンが、パンを使った料理があったと言っていた、サンドイッチか何かだろうか?少し気になるな。
皆まだ全部を周れなかったと、明日以降の楽しみがあるようだった。
皆が祭りを楽しんでいるようで、俺まで嬉しくなってきた。
明日以降も祭りを大いに楽しもう。
翌日
屋台に行くと、既に数名の客が俺達を持っていた。
聞いてみると、どうやら昨日来たお客が、
「ここのツマヨ丼は、一度は食べた方が良い」
と勧めてくれていたようだった。
口コミとは凄いね、ありがたいことです。
待たせては悪いと、さっそくツナマヨ丼の作成に取り掛かる。
本日のお手伝いは、ゴンとギルとランドだ。
ランドが、その巨体を揺らしながらツナマヨ丼を作る様は、職人の様でちょっと笑えてしまった。
「へい、お待ち」
ツナマヨ丼を渡すランド。
「なあ、ランド、何でへいお待ちなんだ?」
「え?ノンがそうやって渡すもんだって教えてくれましたよ、違うんですか?」
「いや、気にしないでくれ」
ノンの奴、またやりやがったな。寿司屋じゃないんだよ!寿司屋じゃ!
しかし、あいつは何がやりたいんだ?
まあ、ふざけてるだけだろうが・・・
ノンのことは置いといて。
昨日とは違い、今日はお客が多かった。
口コミで広がったのだろうか。
みな口々に、
「一度は食べた方が良いと勧められた」
と言っていた。
夜を待たずして、既に昨日の倍以上は売れてしまっていた。
ただ、在庫は充分にあるので、そこは問題ない。
今回売れ残ってしまっても、普通に島で消費するので、全然問題ないのだ。
「島野さん、こんな端っこに居たのかよ」
カイさんがやってきた。
「おーい、島野さんが居たぞ」
と『サンライズ』の皆さんがやってきた。
「ギル、こないだは悪かったな」
とカイさんが手を合わせてギルに謝っていた。
「ほんとだよカイさん、無茶苦茶酔ってたでしょ?」
とおかんむりのギル。
「悪い、すまねえ」
「いいよ、もう止めてよね」
仲直りの握手をしている、解決したようだ。
「島野さん、くじ運は無いんだな」
ライドさんが笑いながら言った。
「そのようですね、でもこれぐらいでちょうど良いんですよ」
「そうなのか?」
「ええ、祭りを楽しむのが今回の目的なので、利益を得ようとは考えてないんです」
「金目当てじゃないって?なんか島野さんらしいな」
お褒めに預かって光栄です。
「この屋台も明日を最後に、終える予定なんですよ」
それを聞いた他の客が、なぜかビックリしていた。
「へえ、そうなんだ、最初で最後になるかもしれないなら、さっさと頂かなきゃな、じゃあ、このツナマヨ丼ってやつを貰おうか」
「ありがとうございます」
『サンライズ』の皆さんがガッツくようにツナマヨ丼を平らげていた。
「なんだ、この料理、無茶苦茶上手いぞ」
「さすが、島野さん」
「この米が進む、ツナマヨって何なんだよ!」
「あり得ない旨さ!」
大絶賛してくれている。
全員お替りをしていた。
あざっす!
当然のように投票札を全員置いていった。
その後も客は絶えることがなく。
この日の販売数は、前日とは比にならず。
小サイズが二百十二杯、普通サイズが二百四杯となった。
投票札も、三百三十二札もあった。
よく売れましたなー。
屋台最終日
午前中の畑作業を終え、屋台に着くと、なんと既に長蛇の列が出来上がっていた。
見たところ、七十人ぐらいは並んでいる。
これは、待たせてはならないと、一家総出で対応をすることになった。
ひとまず昼のピークが落ち着いたところで、最終日のお手伝い役の、アイリスさんとノンとエルが夜も大変になるだろうと、マークとメタンがお手伝いに残ってくれた。
仲間の協力はありがたいことです。
ちなみに、今日はギルとノンは、島で留守番をしている。
聞くところによると、ギルが、初日に金貨一枚も使ってしまい、その翌日には、気をつけていたのに、銀貨八十枚も使ってしまい。ギル自ら今日は、反省を兼ねて島に留守番をすると言い出したらしい。
それを聞いてノンが、僕も行かないと言い出したらしい。
まだまだ、ギルに甘いノンなのだ。
優しい兄ちゃんで、今後も居続けて欲しいものだ。
夕方になると、再び来店客のラッシュに見舞われた。
『サンライズ』の皆さんも再び買いに来てくれた。
「今日で最後だと思うと、来ずにはいられないよ」
皆さんが寂しそうに話していた。
ツナマヨ丼のポテンシャルの高さに、正直俺は驚いている。
ウケるだろうとは思っていたが、ここまでとは考えていなかった。
この世界にはツナマヨは、初登場であるが故のことなのかもしれない。
ご飯の存在は、五郎さんの街でも確認しているので、米自体は珍しくはないんだろうが、そのトッピングが大いにウケた、ということだと思う。
あと、あまり考えたくはないが、島のお米の回復力が目当てであっては欲しくない。
たぶん誰も気付いてないとは思うが。
誰も気づいてないことを祈るばかりだ。
結局マークと、メタンが残ってくれてとても助かった。
俺達五人だけでは、捌け無かったかもしれない。
最終日の記録は、小サイズは六百四十杯、普通サイズは五百十二杯となった。
投票札は九百五十七票となった。
三日間の合計は、小サイズは八百七十六杯、普通サイズは七百四十七杯。
投票札は千三百三十四票にもなった。
売上金額は金貨七十九枚と、銀貨八十六枚、と大いに儲かってしまった。
これは皆に臨時ボーナスだな。
最終日となる為、屋台を一度解体し、島に持ち帰ることとした。
売上の上納品と投票札については、明日改めて、商人組合に行くことにした。
朝食時に俺は皆に話すことにした、
「皆、三日間お疲れさまでした」
頭を下げる一同。
「実は、屋台の売上が想像以上に出た為、皆さんに臨時のボーナスを出すことを決定いたしました」
「やった!」
「嬉しい!」
「ボーナスってなに?」
「棒にナスを刺して焼いた料理だよ」
おいノン、適当なこと言うんじゃありません。
「あのなギル、ボーナスってのは、毎月の給料以外で支払われる特別報酬のことだ、決して棒に刺したナスでは無い!」
ノンを睨んでやった。
てへ?とお道化るノン。
この野郎、最近調子に乗ってやがるな。
気を取り直して。
「一人、金貨五枚支払います」
すると皆が騒ぎだした。
「よっしゃ!」
「イエーイ!」
「やった、これで、残りの祭り全部行ける」
「ありがたいことですな」
「努力の甲斐があったな」
皆な好き勝手に言ってますな。騒いでいいぞ。
まあ皆がお手伝いしてくれたし、この売上は島野商事の物にすることにしたので、全然在りでしょ。
「じゃあ、皆さん並んでください」
皆一列に並んでいる。次々にボーナスを手渡していく。
「「「ありがとうございます!」」」
皆な大喜びだ。
「ロンメル、お前は全日手伝ってくれたから、金貨十枚だ」
「えっ、旦那いいのか?」
「公平な判断だと思うが、要らないなら俺が貰っておくが?」
「いやいやいや、誰も要らないとは言ってないぜ。ありがたく頂戴する」
満面の笑みのロンメルだった。
「ロンメルだけズルくない?」
ギルが割り込んできた。
「何がズルいんだ?」
「だって、僕だって言われれば三日とも手伝ったのに」
「それは言いっこ無しでしょ」
ギルはゴンに諭されていた。
ゴンに言われると逆らえないギルは下を向いていた。
「まあ、ギルにもそんなチャンスがいつかやってくるさ」
マークが宥めている。
「いいだろー、へへへ」
ギルにお道化るロンメル。
ロンメル!大人気無い!止めなさい。
ギルがロンメルを睨んでいた。
相当悔しいみたいだ。
「ギル、まあいいじゃないか、これであと四日間の祭り全部行けるんだぞ」
「そうだねパパ、大人気無いロンメル以上に祭りを楽しんでやるよ」
おお!言うねギル君。
「チッ」
面白くない様子のロンメル。
ロンメル、お前が悪い。確かに大人気ない。
「今日祭りに参加するのは全員でいいのか?」
特に反対はない様子。
「はい、皆参加ですね。集合時間は十二時です。畑作業が済んだら。ちゃんとここに集まるように」
「「「はーい!」」」」
これがあと四日間続くのか、祭りって楽しいね。
楽しいは大事!
集合時間に皆集まり『転移』にて移動、既に屋台は解体して無いが、そこには初めての客になってくれた、狐の獣人がいた。
「ああ、本当に出店は昨日が最後だったのね、残念だわ」
なんだか悲し気だった。
「すいません、始めから三日間だけと決めてましたので」
「そうなのね、私は初めてここのツナマヨ丼を食べて、衝撃が走りましたのよ。実は私グルメ記者なんです。このツナマヨ丼、是非取材させていただけませんか?」
なにこの展開?いやいやいや、取材とかマジ勘弁なんですけど。
「あのー、取材は勘弁してもらいたいのですが、もし良かったら一杯だけ作りましょうか?」
これぞ悪魔の囁き。どうだ?狐の姉さん。
「えっ!」
ものすごく悩んでいる狐のグルメ記者さん。
欲望には勝てなかったようで、
「一杯お願いします!」
勝った!ツナマヨ丼恐るべし。
『収納』から取り出して、チャチャっとツナマヨ丼を作って渡した。
「では、俺達はこれで」
捨て台詞を残して、俺達はその場をあとにした。
俺は狐のグルメ記者さんが、丼にガッツく様を背中に感じていた。
したり顔の俺、自分でも充分にそれと分かる。
横を見ると、島野一家全員が俺と同じしたり顔をしていた。
こいつら、俺に染まってきているなと思う俺だった。
うーん、どこで間違ったんだか・・・
こういうのは俺だけでいいんだけどな・・・
さて、商人組合に五パーセントの上納金を納めて、投票札を受付で渡した。
「島野一家さん、現在第一位の投票数です!」
魚人の受付嬢が叫んでいた。
「「「おお!」」」
騒めく組合内部の人々。
まあいっても三日間ですので、直ぐに追い抜かれるでしょう。
などと思っていると。
「旦那、ゴンズ様がやっと見つかったぞ、どうする?」
「そりゃあ挨拶にいかないとな、どこにいるんだ?」
「案内するから、着いて来てくれ」
とロンメルに案内されるが儘に、酒場にやってきた。
また酒場か、嫌な気しかしないんだが?
「おーロンメル、来やがったな。で、俺に挨拶したいっていう輩は何処にいる?」
輩って、久しぶりに聞いたな。
明らかに酔っぱらった一団がこちらを見ていた。
真ん中に陣取るのはサメの魚人、背中に三又になった銛を背負い、上半身は裸で、下半身だけ衣類を着ている。これぞ海の男といった様相。
俺は直感的に感じた。
この人強いな。
そして横に目をやると、興味深い存在を感じた。
ボーイッシュな髪形の女性、こんがり焼けた肌に、執拗にも感じる強い眼つき、挑発的とも感じる態度。
俺は直感的に感じた。
こいつ聖獣だな。人では無いな。
それを感じ取ったのか、その女性が二ヤリと笑った。
笑った時に見えた舌の先が、二つに割れていた。
「俺は島野守と言います。よろしくお願いたします」
「俺はゴンズだ、で、何か用か?」
斜に構えて、値踏みする様にこちらを見ている。
「もしよかったらこちらをどうぞ、お土産です」
俺は『収納』からワインを取り出した。
「おお!ワインか!」
ゴンズ様は、俺から奪うようにワインを分捕った。
するとワインを喇叭飲みしだした。
一気に半分ほど飲み干すと、
「上手い!お前これ上手いぞ!もう一本よこせ」
と言い放つ。
イラっとしたが、ひとまず従うことにした。
『収納』からもう一本を取り出すと。
また、ゴンズ様は俺から奪う様にワインを分捕り、聖獣らしき女性に無言で手渡した。
ワインを受け取った女性は、ゴンズ様と同様に、ワインを喇叭飲みしだした。
ゴクゴクとワインを飲んでいる。
あーあー、もう何なんだこの人達。
ここまでくると、正直呆れる。
失礼にもほどがある。
「プハー、親方!このワイン上手いな!」
「ああ、そうだろう?白蛇」
お互い頷き合っている。
「「ガハハハ!上手い!」」
シンクロしているぞ。
なんなんだ全く。
ひとしきり笑った後でゴンズ様が言った。
「島野だったな、すまない、勘弁してくれ。俺達は酒に目が無いんだ。無礼があったなら謝る、すまないな」
でしょうね、結構失礼な態度だったと思いますよ。
「それで、このワインはお前が作ったのか?」
「ええ、そうです」
「何本か売ってくれないか?」
「何本欲しいんですか?」
「そうだな、十本あるか?」
「十本ですね、金貨五枚になりますけど、どうしますか?」
「金貨四枚かぁ・・・もう少しまけてくれないか?」
「無理ですね、これでも神様相手なんで、安くしてるんですよ、ワインの味で分かりますよね?ゴンズ様なら」
これは嘘である。少々腹が立ったから意趣返しだ。
「んーん、しょうがねえ、十本くれ」
金貨を五枚受け取ると、ワインを十本差し出した。
「よし、お前ら、味わって飲めよ!」
ゴンズ様は部下らしき者達に、ワインを分け与えていた。
「親方、あざっす!」
「親方、すんません」
「ありがとうごぜえやす!」
「上手そうだな」
などと言って、部下達はワインを受け取っていた。
「あんた、俺にもワインを一本売ってくれよ」
と白蛇と呼ばれていた女性が、既に空になった。ワインのボトルを手渡してきた。
「じゃあ、銀貨五十枚だな」
「おお、分かった」
銀貨五十枚を手渡された。
ワインを一本渡す。
グビっと一口飲むと、何やら言いたげな視線をこちらに向けてきた。
それにしてもよく飲む人達だ。
「島野とやら、お前一体何者だ?」
ゴンズ様が尋ねてきた。
「私はただの異世界人ですが、実は息子が居まして」
「ほう、息子だと」
「ええ、ちょっと待ってください。ギル!」
俺の後ろから、ギルが前に出て来て横に並んだ。
「俺の息子のギルです、今は人化してますが、神獣のドラゴンです」
そう言うと、ワインを口にしていたゴンズ様がワインを噴き出した。
「ブフウ!」
ゲホゲホと咳込んでいる。
背中を擦る白蛇。
「なにやってんだよ!親方!」
「なにやってって、おい!ドラゴンってどういうことだ?」
「どういうことも何も、そのまんまですよ、ギルにいろいろと勉強になるだろうと、神様に挨拶周りをしているだけですよ」
「お前、何だそれ?本当なのか?」
「本当だよ」
とギルは言うと、人化の一部を変身し尻尾と角を出した。
その様を見て固まるゴンズ様。
「マジかよ・・・」
驚きが隠せない様子。
「まあ、そんなところです」
「で、ギル、お前神として何がしたい?」
いきなりゴンズ様から、直球が投げ込まれた。
「僕は、それを見つける為にこうやってパパと一緒に、神様達に会うことにしているよ」
ギルも言う様になったな、と感心する俺。
「そうか、神って言っても人其々だ。まあ気張らず自分のやりたい事を探すといい、とは言っても俺みたいな、酒好きの神になるのはお勧めしないけどな、ガハハハ!」
一笑に伏しているゴンズ様。
「へん、分かってるよ」
大人ぶるギル。
ギルにこの様が手本になるのかと首を捻ってしまう。
まあいいでしょう、反面教師って言葉もあるしね。
そんなこんながありまして、ひとまず俺達は帰宅の途についた。
翌日
ロンメルが、
「旦那、昨日は親方達がすまなかった、ちゃんと説明しとくべきだった」
と謝ってきた。
「いや、いいよ。何となく想像できてたから、何も問題ないぞ」
「そうか、で、今日も祭りに行くのか?」
「ああ、まだ周りきれてない屋台もあるから、そのつもりだ」
「分かった」
皆を引き連れて祭りへ向かった。
これまでもいくつもの屋台を観て周ったが、ひと際目を引く屋台があった。
なんと、寿司を扱う屋台があったのだ、大変賑わっている。
日本人としては興味を引かない訳が無い。
これは外せないと、屋台に並び食してみた。
実に美味しい寿司だった。ただ残念なことに醤油は無く、それの代わりにと、塩で味付けがされていた。
これはこれで美味しいと感じた。
大将は、捩じり鉢巻をした人間で、これぞ板前といった風格を持つ人物だった。
聞いたところによると、どうやら五郎さんのところで何年も修業して寿司を学んだようだった。
五郎さんのところの食事も上手かったからな、五郎さんのところで修業を積んだのなら腕に間違いはないだろう。この仕上がりも納得がいく。
そういえば、五郎さんのところでは、醤油を見かけなかったな、今度持ち込んでみようか?
となると、勘のいい五郎さんは味噌もよこせと言うに違いない。
またあるだけ売ってくれって、言われそうだけど。和食には欠かせないのが、味噌と醤油だから、在るだけ全部は渡せないが、販売させていただきましょうかね。
温泉街『ゴロウ』がさらにパワーアップするのは間違いないな。
更に人気が出るだろう。
嬉しいことに、おにぎりを販売している屋台もあった。
中身の具が肉だったので、結構な食べ応えだった。
こちらも五郎さんのところの門下生だった。
こうしてみると、この世界での食文化は、五郎さんの知識が根づき出しているのかもしれないと、俺は思った。
いいことだ、食の幅は多いにこしたことがない。
あと、ゴンが言っていた、パンを使ったお店の食事は、パンに肉のそぼろを挟んだものだった。
パンが細長かったので、ホットドックに近いのかな?と考えられた。
味は悪くなかったが、やはりスパイスとなるものが足りないと感じた。
マスタードって何で出来てるんだろう?
今度日本に帰ったら調べてみようと思う。
こうして、この日も満足のいく祭りになった。
今日で大体の屋台は観て周れたので、後は最終日にだけ参加しようと考えている。
島に戻り皆に声を掛ける。
「俺は今日でだいぶ見て周れたから、後は最終日だけ行こうと思うが、皆はどうする」
「僕もそうしようかな」
「私も同じで」
「それでいいよ」
賛同を得られたので、祭りへの参加は最終日のみとなった。
さっそく翌日五郎さんのところに行き、醤油をお披露目した。
「島野おめえ、何で今まで教えてくれなかったんでえ、あるだけ売ってくれ」
予想道りの反応だった。
「待てよ、醤油があるってことは、島野、味噌もあるんじゃねえか?」
「その言葉、待ってました」
『収納』から醤油と味噌を一樽づつ取り出した。
「おお!この匂い、間違いねえ醤油と味噌だ!」
五郎さん、興奮してるなー。
気持ちは分かりますよ。
「いやー、実はよ、何度も作ってはみたんだが、こればかりは作れなかったんだ、ありがてえ島野、おめえ最高だな!」
手を差し出してきた。
もちろん握り返す。
うんうん、よかった、よかった。
「これで、儂が理想とする、温泉旅館の飯が再現できる、腕がなるぜ!」
五郎さん気合入ってますねー。
この日は温泉を御呼ばれになりました。
大変いい湯でした。
祭り最終日
全員で祭りへと向かった。
俺はまたあの寿司が食べたくなり、あの屋台に向かった。
大将から寿司が手渡される。
「そういえば、五郎さんのところに醤油っていう、調味料を卸すことになったから、今度行ってみたらどうだい?」
大将が目を丸くして見開いている。
「そんな・・・本当ですか?・・・あの伝説の醤油が・・・」
醤油って伝説なの?
「あの師匠が・・・何度もトライしたけど作れなかった醤油が・・・」
五郎さんがそんな事言ってたな。
「ああ、間違いなくあるよ」
「お客さん、あんた何者だ?」
「俺は五郎さんと同じ国から来た転移者なんだ、だから五郎さんとは知り合いなんだよ」
「師匠と知り合い?」
大将がビックリしている。
「ああ、今では親友と呼んでいいかもしれないな」
「だから醤油を知っているんですね、そういうことか」
納得したようだ。
「納得できたみたいだね、大将マグロお替りいいかな?」
「へい、喜んで」
イキイキとしている大将を見ていると、こちらも嬉しくなってきた。
すると祭りの喧騒とは違う、騒めきが港の方から聞こえてきた。
「何かあったのかな?」
「港の方だから、海獣でも出たのかもしれませんね。ゴンズ様が対処するから他っておいても大丈夫ですよ」
大将はまったく気にならないようだった。
「えっ、てことはゴンズ様の漁を見れるってことなのか?」
「どうでしょう?浅瀬の方なら見れると思いますぜ」
ゴンズ様の漁か、見てみたいな、行ってみるか。
「大将お勘定」
受け取ったマグロの握りを口に放り込んで、お代を渡して港に向かった。
島野一家の皆も着いてきた。
港に着くと大きな騒ぎになっていた。
漁師達が漁の準備に大忙しだ。
すると大きな声が聞こえた。
「野郎ども!魔獣化したクラーケンだ!気を引き締めていけよ、決して街に向かわせるな。いいな!」
「「「おう!」」」
野太い漁師達の声が響き渡る。
すると後ろから肩を叩かれた。
振り向くと白蛇がいた。
なんだかいやな予感がする。
「よっ!こないだはどうも!」
「ああ、こちらこそどうも」
緊張感の無い奴だな。
大丈夫かこいつ?
「親方!こっちだ!ドラゴン達がいるぞ!」
白蛇が大声で叫んだ。
こちらを見るゴンズ様。
ゴンズ様が不敵にニヤリと笑った。
「島野!お前ら飛べるだろ、クラーケンがこっちに来ないように沖に引き付けてくれ!頼んだぞ!倒せるなら倒してもいいけど無理はするなよ!」
断れないやつじゃん。もう決定事項になってるし。
あーあ、またこれだ、いやな予感がしたんだよな。
「じゃあよろしく!」
白蛇に念を押された。
分かりましたよ、やりますよ。
あーあ。またこういった流れか・・・
俺って巻き込まれ体質だったか?
俺はギルに『念話』で皆に指示を伝えるように言った。
指示の内容は、クラーケンには俺とギル、ノンとエルが向かう。
他の者達は、避難誘導が必要な時に備えて各自待機すること。
指示を終え、ギルに跨って上空へと飛翔する。
『探索』を行うと、四百メートルほど先に大きな反応がヒットした。
近いな、沖への誘導が必要というのはよく分かった。
このまま街に向かって来られたら大変だ。
俺達はクラーケンへと向かった。
「街に近いから、まずはクラーケンを誘導する、嫌がらせをして、沖の方へ引き付けるぞ」
「「了解!」」
俺達はクラーケンの真上に移動した。
確かにクラーケンは魔獣化しており、黒い瘴気を纏っていた。見るにも禍々しい姿をしている。
クラーケンは水上に浮かばず、水面の下におり、街の方へと向かっている。
港を見ると船団がこちらに向かいだしたことが分かった。
俺は神気銃をクラーケンに向ける、一発発射した。
クラーケンの表面に当たった手ごたえを感じた。
クラーケンは水上に浮かぶと共に、吸盤のついた足で掴み掛ってきた。
寸前で躱すギル。
「よし!掛かった、誘導開始だ!」
「「了解!」」
付かず離れずの距離を保ちながら、沖の方へと誘導する。
その間もクラーケンは多数の足で、ギルとエルを掴もうと体をうねらせている。
デカい蛸ってこんなに気持ち悪いのかと嫌悪感を感じた。
誘導が上手くいき、港との距離をだいぶ稼ぐことができた。
さて、どうするか。
一番嫌なのは、中途半端にダメージを与えて海中に逃げられることだ。
雷撃は船団が近づけなくなる可能性があるから駄目だ、火は海中に潜られては効果が薄い、水はありえない。となると、風と氷と土か・・・心元無いな。神気銃って手もあるが、あれだけの巨体だとどうなんだろう?魔獣化してるから少しキツイか。
こういう時は武器があるとやり易いんだがな。
いっそのこと造るか?
俺は『万能鉱石』を鋼鉄にし『加工』で槍を二本作製した。
ノンに一本を渡す。
「ノン合図と共に一斉に行くぞ」
「分かった」
クラーケンが海上に体が浮かぶタイミングを待った。
「ギル、エル、もう少し上空に浮かんでくれ」
「了解!」
「OK!」
更に上空に二メートルほど浮かぶ、それに釣られてクラーケンが海上に体を晒した。
「今だ!」
合図と共に俺は『身体強化』で力を上げ、クラーケンに向けて槍をぶん投げた。と共にノンの槍もクラーケンに向けて投げられた。
二本の槍がクラーケンに突き刺さる。
かなり深く刺さったようで、俺の投げた槍はそのほとんどがクラーケンの身体に突き刺さっている。
「ビエエエエエエーーーー!」
クラーケンは何とも言えない気持ち悪い雄叫びを発し、黒い瘴気がゆっくりと消えそうになっていっていた。
「仕留めたか?」
クラーケンは自分の足を身体に絡ませて、ウネウネとしている。
徐々に瘴気が消えていった。
俺達はクラーケンに近づき様子を見ていた。
すると近づいてきた船団から声が聞こえた。
「まだだ!」
その時クラーケンから不意に足が延ばされ、ギルの足に絡みついてきた。
「ぐっ!」
絡まれた足が、吸盤で吸いつけられていた。
ギルが呻いている。
「ギル!」
ノンが叫んだ。
ヒュン!
という音が聞こえた。
近づいてきた船団から、先が三又になっている銛がクラーケンに打ち込まれていた。
ズチャッ!
クラーケンが潰れる音がした。
力なくギルに絡みついていた足が離れていった。
「詰めが甘い!ガハハハ!」
大笑いしながら船頭に立つゴンズ様がいた。
終わったか、やれやれ。
でもゴンズ様の一撃は凄かったな、これなら俺達いらなかったんじゃないか?
ギルはエルから回復魔法を受けていた。
大事に至らなくてよかったよ。
その後、船団がクラーケンを回収し、俺達と並行しながら港へと帰港した。
港に着くと、たくさんの歓声に迎えられた。
「ゴンズ様!最高!」
「ありがとう!」
「また助けられた」
「ゴンズ様、あれやるんかい?」
「やるんだろ?」
それらの声を制するように片手を挙げるゴンズ様。
「おまえら!今日はゴンズキッチンだ!」
港中が歓喜に沸いた。
「まってました!」
「やったー!」
「嬉しい!」
「ありがとう、ゴンズ様!」
ゴンズキッチン?なんだそれ。
ゴンズ様の部下達が一斉に動き出す。
各々が自分の仕事を把握している動きだ。
その動きに迷いが無い。
大きな布が道に広げられた。そこに先ほど仕留めたクラーケンが運ばれてきた。
そこに大きな樽が、五個運ばれてくる。
部下達数名で樽の中から、塩を取り出し、クラーケンに塗り出した。
へえー、塩揉みか、分かってるね。
ひとしきり塩揉みが終わったら、水で塩を流していく。
そして、ゴンズ様が自分の身長と変わらないぐらいの大剣を持って現れた。
「そりゃ!そりゃ!」
と掛け声と共に、クラーケンをバッサバッサと切り刻んでいく。
刻まれた部位を、部下たちが更に細かく刻んでいく。
すると大量の油の入った大鍋が準備され、細かく刻んんだクラーケンの身を鍋にぶち込んでいった。
「始まったな」
後ろから声がした。
振り返ると先ほどの寿司屋の大将がいた。
「お店は終了かい?」
「これが始まったら、お客さんは来なくなるんでね」
困った表情をしてる大将。
「客足が止まっるってことかな?」
「ああ、今作ってる料理を街の皆に無料で振舞うんだから、屋台には来なくなるでしょ?」
「そういうことね、そりゃあそうだな。何も祭りの最終日にやらなくてもいいんじゃないか?」
「違いねえ、でもゴンズキッチンはこの街の名物みたいなもんだから、しょうがないでしょ」
「そうなんだ、街の名物なんだ」
「ああそうなんだ、大物が獲れると毎回この調子さ」
そうこうしている間に、どんどん料理が出来上がっていく。
「よし、食いたい奴は並んでくれ!」
ゴンズ様が声を張り上げた。
その声を機に街の皆が、我先にと列に並ぶ。
どんどんと料理が手渡されていく。
俺も並ぼうかと悩んだが、アイリスさんが俺も分を持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
手渡された料理は、蛸の、もとい、クラーケンのから揚げと、クラーケンの刺身だった。よく見ると、食べやすいようにと刺身には隠し包丁まで入っていた。
クラーケンの刺身に隠し包丁って・・・蛸の刺身に隠し包丁ってあったっけ?まあいいや。食べやすいにこしたことは無いか。
あっ!そうだ。
隣にいる大将に声を掛けた。
「大将、醤油で食べてみる?」
「えっ、いいので?」
「ああ、せっかくの機会だ、試してみてよ」
『収納』から醤油を取り出し、クラーケンの刺身に掛けた。
大将に手渡す。
軽く頭を下げて大将はクラーケンの刺身を受け取った。
「これが、醤油・・・」
そう言うと、鼻を近づけて匂いを嗅いでいた。
「今までに嗅いだことのない匂いだ、それにこの匂いは食欲を刺激するな」
フォークでクラーケンの刺身を掬い、大将は口にした。
大将は目を瞑り、噛みしめるように、そして味を確認しながら食べていた。
「んん?これは、間違いない、寿司にはこれが合う、間違いない!」
もう一度口にした。
「お客さん、俺にも醤油を売ってもらえないでしょうか?いや、お願いします。売ってください!」
土下座するんじゃないかというほどの勢いで、頭を下げる大将。
「大将、申し訳ない、醤油は五郎さんのところで買ってくれ、すまないな」
「そんな、殺生な、頼むよ」
「悪いな大将、あんたの師匠との約束なんだ」
本当は違う、この醤油にも回復効果があるからだ。
五郎さんごめんなさい。あとは任せます。
今度五郎さんに会ったら話しておこう。
「そうですか、師匠との約束ですか、分かりました、諦めます」
「五郎さんなら、大将に譲ってくれるんじゃないかな?」
「ええ、そうですね、ありがとうございます!」
大将に皿を返された。
せっかくなのでクラーケンのから揚げを食べてみた。
うん、上手い。上手に揚げているな。
クラーケンの唐揚げを堪能していると、声をかけられた。
「島野、やってるか?」
ゴンズ様だった。
「ええ、頂いています、クラーケンのから揚げ、美味しいです」
「そうか、それはよかった」
「また、ワインですか?」
「ああ、それもあるが、ちょっといいか?」
ゴンズ様はいつになくなく真剣な表情をしている。
「どうしました?」
「まず、今日は助かったぞ、ありがとうな」
「いえいえ、俺達が居なくてもゴンズ様がいれば、問題なく処理できたんじゃないんですか?」
「どうだかな・・・そういえば、遠目だったからはっきり見えなかったが、お前その場で武器を作ってなかったか?」
「いえいえいえ、あれは『収納』から取り出しただけですよ、ハハハ、見間違いですよ、嫌だなー、戦場でその場で武器を作るなんて、奇想天外なこと、俺には無理ですよ、ハハハ」
誤魔化せたかな?
「お前は俺一人で処理できたと言うが、それは無いな」
ゴンズ様はキッパリと言い切った。
「俺は強い、だか、さすがに俺一人では、魔獣化したクラーケンは手こずる、今回は島野達が注意を引いていたから、あっさりと仕留めれたが、普通に対峙したら、こうは上手くいかない」
「そんなものですかね?」
「ああ、部下の何人かが海に消えてもおかしくはないんだ、実際に過去には魔獣化したクラーケンに挑んで、何人もの部下が海に帰ってしまったこともある」
「そうですか」
「今回は俺が仕留められたのは、島野達の御膳立てがあったからだ、改めて礼を言わせて貰う」
以外に謙虚なんだな。
「いえいえ、いいんですよ」
「本題なんだがな」
ゴンズ様は神妙な顔つきになっている。
「うちの白蛇なんだがな」
「ええ」
「お前のところで預かってくれないか?」
何でですか?あなたの眷属でしょうが?
「はあ?」
「本人の希望でもあるんだ」
本人の希望?
「白蛇なんだが、もうかれこれ俺とは十年近い付き合いになるんだが、あいつが俺の眷属になることは無いんだ」
えっ!眷属じゃないの?
「それはどうしてですか?俺はゴンズ様の眷属かと思ってましたよ」
「いや、違う、あいつがそれを望んだことは確かにある。だが俺はそれを拒否した」
拒否した?何故?
「それは何故ですか?」
「それわな、俺は神だ、死ぬことは滅多にない。だが消滅する危険性はあるんだ」
ん?消滅?どういうことなんだ?
「俺は漁の神だ。漁には危険がつきものだ、神だから病気やケガで死ぬことはないが、神力が無い状態なら、人間と変わらないからな。そんなときに首を斬られでもしたら。消滅することになる」
「消滅とはどういうことですか?」
消滅?死ぬことと同意と思えるが・・・
「神にとっては神力は欠かせない、神力が無くなると、俺達は神であることを保てなくなるんだ」
なに?どういうことだ?
「神であることを保てなくなるってどういうことですか?」
「そのままだ、俺なら魚人に戻るってことだ」
つまり神力を失ったら、神は元の状態になるということか。
「この世界は神気に溢れている。だがここ百年ぐらい前から、神気が薄くなって来ていると俺は感じている」
やはりそこに行きつくのか。
「まあ、ここ最近は持ち直してる気はするんだがな」
神様は神気の変化に鋭いな。
「で、それがなんで白蛇に繋がるんですか?」
「俺が消滅したら、俺の眷属になったら、あいつも消えちまうからだよ」
そうか、そうだったな。眷属は仕える神が死んだら死ぬんだったな。
「つまり危険が隣合わせのゴンズ様は、白蛇を眷属にはしたくないといことですね、で何故それが、俺が預かることになるんですか?」
頭を掻いて困っているゴンズ様。
「それがな、どうせ仕えるなら上手い酒が作れるお前がいいんだとよ、初めてお前にあった時にそう思ったらしい、それにお前の戦う姿を観て、間違いないと決めたらしいぞ」
マジか?人参が上手くて俺に仕えたエルに続き、次は酒に釣られて眷属になるってことなのか?勘弁してくれよ。まったく。
「それに真面目な話をするぞ、おまえ神の資質を持ってるよな?」
うっ!、バレてる。
ですよねー。ギルの親だって言っちゃってるしね。
「そんなお前だから、俺もお前ならと思っている。受けてはくれないか?」
「本人の希望とのことでしたので、本人と話してみましょうか」
「おお!ありがとう、島野!」
ゴンズ様が白蛇を呼びに行った。
また眷属が増えるのか?
でも預かってくれって話だから、眷属にする必要は無いんじゃないかな?
「待たせたな」
ゴンズ様が白蛇を伴って現れた。
「俺はあんたに仕えたい、よろしく頼む!」
白蛇がお辞儀をした。腰が九十度に曲がっている。
真剣なんだとは思うが、本当にいいのか?
ここはひとつ場を和ませようかな?
そうだ、和ませようじゃないか?
うんうん、ここはこいつらが好きな酒で、酒の力を借りるということで。
飲まなきゃやってられんしな。
『収納』からワインを取り出し二人に渡した。
「「「乾杯!」」」
ワインをグビっと飲み干す。
「ところで、おまえ本気で言ってるのか?」
俺は白蛇に確認をした。
「本気も何も、何を言ってるんだ?」
んん?どういうことだ?
俺は申し入れに対して、場を和ませようとワインを渡して・・・ワインを渡して・・・ああ・・・またやっちまった・・・なんで俺は・・・またか・・・はあ。
渡しちゃったんだよね、ワイン・・・間違った俺が悪いよね・・・ハハハ・・・笑うしか無いよね。
「ハハハ、島野一家にようこそ!」
俺の顔が引きつっていることは記すまでも無いな。
またか、俺の反省は一体どこにあるんだ?多分反省したとたんに異世界に転移するんだろうね。
ハハハ。
あーあ。
白蛇の名前はどうしたかって?
彼女の名前は『レケ』です、ヘベレケの『レケ』です!
よろしく!
午前中の畑作業を終えた俺達は『ゴルゴラド』へと移動した。
結局全員での参加となった。
皆な祭り好きのようだ。
お手伝い組と俺とロンメルは、ユニフォームを着用している。
そのユニフォームには、左胸と背中に「島野一家」と刺繍されている。
さっそく屋台の組み立て準備を行う。
ここでも、マークとランドが中心となり、最後の屋台の仕上げを行っていく。
この屋台の屋根には、丸の中に島と書いてあるロゴが書いてある。
初日のお手伝いの、メルルとメタンとで備品の準備を行う。
その他の準備を、俺とロンメルで指示しながら進めていった。
周りを見渡すと、相当数の屋台が立ち並んでいた。
但し、この場所は立地条件が悪いこともあり、人出は少なかった。
「よし、これで準備は完了だな」
「完成ですね」
マークが誇らし気に屋台を見ている。
「これは立派な屋台だな。祭りが終わっても島で使いたいな」
「いいですね、そうしましょう」
マークが喜んでいる。
「旦那、ちょっと他を見てきていいか?」
「ああ、いいぞ」
何か気になることでもあるのか?
「お手伝い組以外は、祭りを楽しんでくれ、あまり遠くへは行かないように、あとゴンちょっといいか?」
俺は小声でゴンに話した。
「アイリスさんに付いて行ってくれないか?ちょっと心配でな」
「分かりました、そのつもりでおりましたので、お構いなく」
ゴンは流石だな、痒いところに手が届く存在だな。
「「「行ってきまーす!」」」
皆、手を振って離れていった。
「気をつけてな!」
俺は皆を送り出した。
さてと、俺もちょっと屋台を見て周るかな。
「メルル、ちょっと席を外すぞ、お客が来たら手配道りに頼む」
「わかりました、行ってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」
屋台を見て周った。敵情視察だ。
ロンメルのいう通り、肉料理が多かった。
串ものが一番多い、次に多いのは汁物かな、煮物系は少なかった。
あとは特に目に着く屋台は無かった。
まあ、全部を観て周れた訳ではないので、後日観れるだけは観て周ろうと思う。
屋台に戻ると、お客が一人いた。
メルルが対応している。
お客は狐の獣人で、旅行客といった感じだ。
「ツナマヨとはなんですか?」
「ツナとはマグロのことで、それにマヨとは、マヨネーズと言う調味料でそれをツナにかけた物です。その下にはお米が敷き詰めてあります。一緒に食べると美味しいですよ」
おっ!完璧な説明だな。念の為練習させといてよかった。
実は先日の晩飯の時に、皆にセールストークを練習させておいたのだ。
「ツナマヨって何ですか?って、絶対聞かれると思うけど、ギル、お前ならどう答える?」
上を向いて考えているギル。
「えっとご飯の上にマグロとマヨネーズをかけたものです、でどう?」
「ちょっと弱くないか?」
「ご飯の上にツナマヨを乗っけたものです、ツナとはマグロのことで、それにマヨとは、マヨネーズと言う調味料ですわ」
アイリスさんがさらりと答えた。
「アイリスさん、すげえー!」
「さすがアイリスさん!」
フフと笑いながらアイリスさんが言った。
「既に接客のイメトレは完璧ですわ」
「「「おおー!」」」
皆な驚いている。
にしてもイメトレって・・・
アイリスさんやる気満々だな。
「アイリスさんマジすげえ」
「さすがですな」
「じゃあ、今回は普通のサイズの物と、小さいサイズの物を用意したのは、何故だか分かる者はいるか?」
ゴンが手を挙げた。
「小食の人用では?」
「惜しいな」
メルルが手を挙げた。
「いろいろな物をたくさん食べたい人の為とか?」
「おっ!メルルほとんど正解だな。俺の居た世界では、食事の祭りのことをフードフェスって言うんだがな。特にお目当ての店が無い人は、気になった店をたくさん周りたいものなんだよ、そうなると、気になるのがどれだけ食べられるかなんだ、何なら一口だけでもいいと思うものなんだよ。さすがに一口分売るって訳にはいかないから、小サイズにしたんだ。まあ、ギルにとっては関係ないことだろうがな」
「パパ、分かってるね、僕はたくさん食べるよー」
「知ってるよ」
ノンがツッコんだ。
笑いが起きていた。
「へえー変わった料理ね、今まで食べたことはないわね、じゃあ小を一つお願いしてもいいかしら?」
おっ!初めての客現るだな。さて反応は?
「銀貨四枚になります」
メルルが銀貨四枚を受け取っている。
注文が入ると、マークが木製お茶碗に、ご飯とツナマヨを乗せてく。
「へい、お待ち」
何故へいお待ち?
狐の獣人は受け取ると、一度匂いを嗅いでから食べ始めた。
「美味しいわ、なんだろう、お米とのバランスが絶妙ね。これはご飯が進むわね」
というと、投票札をメルルに渡していた。
「ありがとうございます!」
「あたりまえの評価ですわ」
いきなりの一票、凄いじゃないか。
初の客は早々に完食し、器を戻していた。
「ごちそうさま」
と言うと笑顔で立ち去っていった。
「凄いじゃないか!お前達」
「いやいや、ツナマヨが凄いんですよ」
「いや、接客も初めてにしては様になってたぞ」
照れるマークとメルル、我関せず洗い物に没頭するメタン。
ロンメルが返ってきた。
「駄目だ旦那、今日もゴンズ様は見当たらなかった」
どうやら探しに行ってくれていたみたいだな。こいつのさりげない気遣いは実にありがたい。
「そうか、ロンメルありがとう」
さて、お客は来ますかね。
結局この日は小サイズが二十四杯と、普通サイズが三十一杯の販売となった。
だが、札は多く四十五票も頂いた。
祭り参加組はというと満足な様子で、皆が皆お腹を擦っていた。
そうとう食べたようだ。楽しめた様ならなによりだ。
ギルが初日で金貨一枚使ってしまったと、項垂れていた。
お金の管理は使って覚えるものだ、良いんじゃないかな?そうやって、学んでくださいな。
アイリスさんが、前に聞いていた饅頭の様な物を食べたらしく、甘くは無かったが、あれはあれで美味しかったと言っていた。
お目当てが食べれたと、嬉しそうにしていた。
それは良かった。
うんうん。
ゴンが、パンを使った料理があったと言っていた、サンドイッチか何かだろうか?少し気になるな。
皆まだ全部を周れなかったと、明日以降の楽しみがあるようだった。
皆が祭りを楽しんでいるようで、俺まで嬉しくなってきた。
明日以降も祭りを大いに楽しもう。
翌日
屋台に行くと、既に数名の客が俺達を持っていた。
聞いてみると、どうやら昨日来たお客が、
「ここのツマヨ丼は、一度は食べた方が良い」
と勧めてくれていたようだった。
口コミとは凄いね、ありがたいことです。
待たせては悪いと、さっそくツナマヨ丼の作成に取り掛かる。
本日のお手伝いは、ゴンとギルとランドだ。
ランドが、その巨体を揺らしながらツナマヨ丼を作る様は、職人の様でちょっと笑えてしまった。
「へい、お待ち」
ツナマヨ丼を渡すランド。
「なあ、ランド、何でへいお待ちなんだ?」
「え?ノンがそうやって渡すもんだって教えてくれましたよ、違うんですか?」
「いや、気にしないでくれ」
ノンの奴、またやりやがったな。寿司屋じゃないんだよ!寿司屋じゃ!
しかし、あいつは何がやりたいんだ?
まあ、ふざけてるだけだろうが・・・
ノンのことは置いといて。
昨日とは違い、今日はお客が多かった。
口コミで広がったのだろうか。
みな口々に、
「一度は食べた方が良いと勧められた」
と言っていた。
夜を待たずして、既に昨日の倍以上は売れてしまっていた。
ただ、在庫は充分にあるので、そこは問題ない。
今回売れ残ってしまっても、普通に島で消費するので、全然問題ないのだ。
「島野さん、こんな端っこに居たのかよ」
カイさんがやってきた。
「おーい、島野さんが居たぞ」
と『サンライズ』の皆さんがやってきた。
「ギル、こないだは悪かったな」
とカイさんが手を合わせてギルに謝っていた。
「ほんとだよカイさん、無茶苦茶酔ってたでしょ?」
とおかんむりのギル。
「悪い、すまねえ」
「いいよ、もう止めてよね」
仲直りの握手をしている、解決したようだ。
「島野さん、くじ運は無いんだな」
ライドさんが笑いながら言った。
「そのようですね、でもこれぐらいでちょうど良いんですよ」
「そうなのか?」
「ええ、祭りを楽しむのが今回の目的なので、利益を得ようとは考えてないんです」
「金目当てじゃないって?なんか島野さんらしいな」
お褒めに預かって光栄です。
「この屋台も明日を最後に、終える予定なんですよ」
それを聞いた他の客が、なぜかビックリしていた。
「へえ、そうなんだ、最初で最後になるかもしれないなら、さっさと頂かなきゃな、じゃあ、このツナマヨ丼ってやつを貰おうか」
「ありがとうございます」
『サンライズ』の皆さんがガッツくようにツナマヨ丼を平らげていた。
「なんだ、この料理、無茶苦茶上手いぞ」
「さすが、島野さん」
「この米が進む、ツナマヨって何なんだよ!」
「あり得ない旨さ!」
大絶賛してくれている。
全員お替りをしていた。
あざっす!
当然のように投票札を全員置いていった。
その後も客は絶えることがなく。
この日の販売数は、前日とは比にならず。
小サイズが二百十二杯、普通サイズが二百四杯となった。
投票札も、三百三十二札もあった。
よく売れましたなー。
屋台最終日
午前中の畑作業を終え、屋台に着くと、なんと既に長蛇の列が出来上がっていた。
見たところ、七十人ぐらいは並んでいる。
これは、待たせてはならないと、一家総出で対応をすることになった。
ひとまず昼のピークが落ち着いたところで、最終日のお手伝い役の、アイリスさんとノンとエルが夜も大変になるだろうと、マークとメタンがお手伝いに残ってくれた。
仲間の協力はありがたいことです。
ちなみに、今日はギルとノンは、島で留守番をしている。
聞くところによると、ギルが、初日に金貨一枚も使ってしまい、その翌日には、気をつけていたのに、銀貨八十枚も使ってしまい。ギル自ら今日は、反省を兼ねて島に留守番をすると言い出したらしい。
それを聞いてノンが、僕も行かないと言い出したらしい。
まだまだ、ギルに甘いノンなのだ。
優しい兄ちゃんで、今後も居続けて欲しいものだ。
夕方になると、再び来店客のラッシュに見舞われた。
『サンライズ』の皆さんも再び買いに来てくれた。
「今日で最後だと思うと、来ずにはいられないよ」
皆さんが寂しそうに話していた。
ツナマヨ丼のポテンシャルの高さに、正直俺は驚いている。
ウケるだろうとは思っていたが、ここまでとは考えていなかった。
この世界にはツナマヨは、初登場であるが故のことなのかもしれない。
ご飯の存在は、五郎さんの街でも確認しているので、米自体は珍しくはないんだろうが、そのトッピングが大いにウケた、ということだと思う。
あと、あまり考えたくはないが、島のお米の回復力が目当てであっては欲しくない。
たぶん誰も気付いてないとは思うが。
誰も気づいてないことを祈るばかりだ。
結局マークと、メタンが残ってくれてとても助かった。
俺達五人だけでは、捌け無かったかもしれない。
最終日の記録は、小サイズは六百四十杯、普通サイズは五百十二杯となった。
投票札は九百五十七票となった。
三日間の合計は、小サイズは八百七十六杯、普通サイズは七百四十七杯。
投票札は千三百三十四票にもなった。
売上金額は金貨七十九枚と、銀貨八十六枚、と大いに儲かってしまった。
これは皆に臨時ボーナスだな。
最終日となる為、屋台を一度解体し、島に持ち帰ることとした。
売上の上納品と投票札については、明日改めて、商人組合に行くことにした。
朝食時に俺は皆に話すことにした、
「皆、三日間お疲れさまでした」
頭を下げる一同。
「実は、屋台の売上が想像以上に出た為、皆さんに臨時のボーナスを出すことを決定いたしました」
「やった!」
「嬉しい!」
「ボーナスってなに?」
「棒にナスを刺して焼いた料理だよ」
おいノン、適当なこと言うんじゃありません。
「あのなギル、ボーナスってのは、毎月の給料以外で支払われる特別報酬のことだ、決して棒に刺したナスでは無い!」
ノンを睨んでやった。
てへ?とお道化るノン。
この野郎、最近調子に乗ってやがるな。
気を取り直して。
「一人、金貨五枚支払います」
すると皆が騒ぎだした。
「よっしゃ!」
「イエーイ!」
「やった、これで、残りの祭り全部行ける」
「ありがたいことですな」
「努力の甲斐があったな」
皆な好き勝手に言ってますな。騒いでいいぞ。
まあ皆がお手伝いしてくれたし、この売上は島野商事の物にすることにしたので、全然在りでしょ。
「じゃあ、皆さん並んでください」
皆一列に並んでいる。次々にボーナスを手渡していく。
「「「ありがとうございます!」」」
皆な大喜びだ。
「ロンメル、お前は全日手伝ってくれたから、金貨十枚だ」
「えっ、旦那いいのか?」
「公平な判断だと思うが、要らないなら俺が貰っておくが?」
「いやいやいや、誰も要らないとは言ってないぜ。ありがたく頂戴する」
満面の笑みのロンメルだった。
「ロンメルだけズルくない?」
ギルが割り込んできた。
「何がズルいんだ?」
「だって、僕だって言われれば三日とも手伝ったのに」
「それは言いっこ無しでしょ」
ギルはゴンに諭されていた。
ゴンに言われると逆らえないギルは下を向いていた。
「まあ、ギルにもそんなチャンスがいつかやってくるさ」
マークが宥めている。
「いいだろー、へへへ」
ギルにお道化るロンメル。
ロンメル!大人気無い!止めなさい。
ギルがロンメルを睨んでいた。
相当悔しいみたいだ。
「ギル、まあいいじゃないか、これであと四日間の祭り全部行けるんだぞ」
「そうだねパパ、大人気無いロンメル以上に祭りを楽しんでやるよ」
おお!言うねギル君。
「チッ」
面白くない様子のロンメル。
ロンメル、お前が悪い。確かに大人気ない。
「今日祭りに参加するのは全員でいいのか?」
特に反対はない様子。
「はい、皆参加ですね。集合時間は十二時です。畑作業が済んだら。ちゃんとここに集まるように」
「「「はーい!」」」」
これがあと四日間続くのか、祭りって楽しいね。
楽しいは大事!
集合時間に皆集まり『転移』にて移動、既に屋台は解体して無いが、そこには初めての客になってくれた、狐の獣人がいた。
「ああ、本当に出店は昨日が最後だったのね、残念だわ」
なんだか悲し気だった。
「すいません、始めから三日間だけと決めてましたので」
「そうなのね、私は初めてここのツナマヨ丼を食べて、衝撃が走りましたのよ。実は私グルメ記者なんです。このツナマヨ丼、是非取材させていただけませんか?」
なにこの展開?いやいやいや、取材とかマジ勘弁なんですけど。
「あのー、取材は勘弁してもらいたいのですが、もし良かったら一杯だけ作りましょうか?」
これぞ悪魔の囁き。どうだ?狐の姉さん。
「えっ!」
ものすごく悩んでいる狐のグルメ記者さん。
欲望には勝てなかったようで、
「一杯お願いします!」
勝った!ツナマヨ丼恐るべし。
『収納』から取り出して、チャチャっとツナマヨ丼を作って渡した。
「では、俺達はこれで」
捨て台詞を残して、俺達はその場をあとにした。
俺は狐のグルメ記者さんが、丼にガッツく様を背中に感じていた。
したり顔の俺、自分でも充分にそれと分かる。
横を見ると、島野一家全員が俺と同じしたり顔をしていた。
こいつら、俺に染まってきているなと思う俺だった。
うーん、どこで間違ったんだか・・・
こういうのは俺だけでいいんだけどな・・・
さて、商人組合に五パーセントの上納金を納めて、投票札を受付で渡した。
「島野一家さん、現在第一位の投票数です!」
魚人の受付嬢が叫んでいた。
「「「おお!」」」
騒めく組合内部の人々。
まあいっても三日間ですので、直ぐに追い抜かれるでしょう。
などと思っていると。
「旦那、ゴンズ様がやっと見つかったぞ、どうする?」
「そりゃあ挨拶にいかないとな、どこにいるんだ?」
「案内するから、着いて来てくれ」
とロンメルに案内されるが儘に、酒場にやってきた。
また酒場か、嫌な気しかしないんだが?
「おーロンメル、来やがったな。で、俺に挨拶したいっていう輩は何処にいる?」
輩って、久しぶりに聞いたな。
明らかに酔っぱらった一団がこちらを見ていた。
真ん中に陣取るのはサメの魚人、背中に三又になった銛を背負い、上半身は裸で、下半身だけ衣類を着ている。これぞ海の男といった様相。
俺は直感的に感じた。
この人強いな。
そして横に目をやると、興味深い存在を感じた。
ボーイッシュな髪形の女性、こんがり焼けた肌に、執拗にも感じる強い眼つき、挑発的とも感じる態度。
俺は直感的に感じた。
こいつ聖獣だな。人では無いな。
それを感じ取ったのか、その女性が二ヤリと笑った。
笑った時に見えた舌の先が、二つに割れていた。
「俺は島野守と言います。よろしくお願いたします」
「俺はゴンズだ、で、何か用か?」
斜に構えて、値踏みする様にこちらを見ている。
「もしよかったらこちらをどうぞ、お土産です」
俺は『収納』からワインを取り出した。
「おお!ワインか!」
ゴンズ様は、俺から奪うようにワインを分捕った。
するとワインを喇叭飲みしだした。
一気に半分ほど飲み干すと、
「上手い!お前これ上手いぞ!もう一本よこせ」
と言い放つ。
イラっとしたが、ひとまず従うことにした。
『収納』からもう一本を取り出すと。
また、ゴンズ様は俺から奪う様にワインを分捕り、聖獣らしき女性に無言で手渡した。
ワインを受け取った女性は、ゴンズ様と同様に、ワインを喇叭飲みしだした。
ゴクゴクとワインを飲んでいる。
あーあー、もう何なんだこの人達。
ここまでくると、正直呆れる。
失礼にもほどがある。
「プハー、親方!このワイン上手いな!」
「ああ、そうだろう?白蛇」
お互い頷き合っている。
「「ガハハハ!上手い!」」
シンクロしているぞ。
なんなんだ全く。
ひとしきり笑った後でゴンズ様が言った。
「島野だったな、すまない、勘弁してくれ。俺達は酒に目が無いんだ。無礼があったなら謝る、すまないな」
でしょうね、結構失礼な態度だったと思いますよ。
「それで、このワインはお前が作ったのか?」
「ええ、そうです」
「何本か売ってくれないか?」
「何本欲しいんですか?」
「そうだな、十本あるか?」
「十本ですね、金貨五枚になりますけど、どうしますか?」
「金貨四枚かぁ・・・もう少しまけてくれないか?」
「無理ですね、これでも神様相手なんで、安くしてるんですよ、ワインの味で分かりますよね?ゴンズ様なら」
これは嘘である。少々腹が立ったから意趣返しだ。
「んーん、しょうがねえ、十本くれ」
金貨を五枚受け取ると、ワインを十本差し出した。
「よし、お前ら、味わって飲めよ!」
ゴンズ様は部下らしき者達に、ワインを分け与えていた。
「親方、あざっす!」
「親方、すんません」
「ありがとうごぜえやす!」
「上手そうだな」
などと言って、部下達はワインを受け取っていた。
「あんた、俺にもワインを一本売ってくれよ」
と白蛇と呼ばれていた女性が、既に空になった。ワインのボトルを手渡してきた。
「じゃあ、銀貨五十枚だな」
「おお、分かった」
銀貨五十枚を手渡された。
ワインを一本渡す。
グビっと一口飲むと、何やら言いたげな視線をこちらに向けてきた。
それにしてもよく飲む人達だ。
「島野とやら、お前一体何者だ?」
ゴンズ様が尋ねてきた。
「私はただの異世界人ですが、実は息子が居まして」
「ほう、息子だと」
「ええ、ちょっと待ってください。ギル!」
俺の後ろから、ギルが前に出て来て横に並んだ。
「俺の息子のギルです、今は人化してますが、神獣のドラゴンです」
そう言うと、ワインを口にしていたゴンズ様がワインを噴き出した。
「ブフウ!」
ゲホゲホと咳込んでいる。
背中を擦る白蛇。
「なにやってんだよ!親方!」
「なにやってって、おい!ドラゴンってどういうことだ?」
「どういうことも何も、そのまんまですよ、ギルにいろいろと勉強になるだろうと、神様に挨拶周りをしているだけですよ」
「お前、何だそれ?本当なのか?」
「本当だよ」
とギルは言うと、人化の一部を変身し尻尾と角を出した。
その様を見て固まるゴンズ様。
「マジかよ・・・」
驚きが隠せない様子。
「まあ、そんなところです」
「で、ギル、お前神として何がしたい?」
いきなりゴンズ様から、直球が投げ込まれた。
「僕は、それを見つける為にこうやってパパと一緒に、神様達に会うことにしているよ」
ギルも言う様になったな、と感心する俺。
「そうか、神って言っても人其々だ。まあ気張らず自分のやりたい事を探すといい、とは言っても俺みたいな、酒好きの神になるのはお勧めしないけどな、ガハハハ!」
一笑に伏しているゴンズ様。
「へん、分かってるよ」
大人ぶるギル。
ギルにこの様が手本になるのかと首を捻ってしまう。
まあいいでしょう、反面教師って言葉もあるしね。
そんなこんながありまして、ひとまず俺達は帰宅の途についた。
翌日
ロンメルが、
「旦那、昨日は親方達がすまなかった、ちゃんと説明しとくべきだった」
と謝ってきた。
「いや、いいよ。何となく想像できてたから、何も問題ないぞ」
「そうか、で、今日も祭りに行くのか?」
「ああ、まだ周りきれてない屋台もあるから、そのつもりだ」
「分かった」
皆を引き連れて祭りへ向かった。
これまでもいくつもの屋台を観て周ったが、ひと際目を引く屋台があった。
なんと、寿司を扱う屋台があったのだ、大変賑わっている。
日本人としては興味を引かない訳が無い。
これは外せないと、屋台に並び食してみた。
実に美味しい寿司だった。ただ残念なことに醤油は無く、それの代わりにと、塩で味付けがされていた。
これはこれで美味しいと感じた。
大将は、捩じり鉢巻をした人間で、これぞ板前といった風格を持つ人物だった。
聞いたところによると、どうやら五郎さんのところで何年も修業して寿司を学んだようだった。
五郎さんのところの食事も上手かったからな、五郎さんのところで修業を積んだのなら腕に間違いはないだろう。この仕上がりも納得がいく。
そういえば、五郎さんのところでは、醤油を見かけなかったな、今度持ち込んでみようか?
となると、勘のいい五郎さんは味噌もよこせと言うに違いない。
またあるだけ売ってくれって、言われそうだけど。和食には欠かせないのが、味噌と醤油だから、在るだけ全部は渡せないが、販売させていただきましょうかね。
温泉街『ゴロウ』がさらにパワーアップするのは間違いないな。
更に人気が出るだろう。
嬉しいことに、おにぎりを販売している屋台もあった。
中身の具が肉だったので、結構な食べ応えだった。
こちらも五郎さんのところの門下生だった。
こうしてみると、この世界での食文化は、五郎さんの知識が根づき出しているのかもしれないと、俺は思った。
いいことだ、食の幅は多いにこしたことがない。
あと、ゴンが言っていた、パンを使ったお店の食事は、パンに肉のそぼろを挟んだものだった。
パンが細長かったので、ホットドックに近いのかな?と考えられた。
味は悪くなかったが、やはりスパイスとなるものが足りないと感じた。
マスタードって何で出来てるんだろう?
今度日本に帰ったら調べてみようと思う。
こうして、この日も満足のいく祭りになった。
今日で大体の屋台は観て周れたので、後は最終日にだけ参加しようと考えている。
島に戻り皆に声を掛ける。
「俺は今日でだいぶ見て周れたから、後は最終日だけ行こうと思うが、皆はどうする」
「僕もそうしようかな」
「私も同じで」
「それでいいよ」
賛同を得られたので、祭りへの参加は最終日のみとなった。
さっそく翌日五郎さんのところに行き、醤油をお披露目した。
「島野おめえ、何で今まで教えてくれなかったんでえ、あるだけ売ってくれ」
予想道りの反応だった。
「待てよ、醤油があるってことは、島野、味噌もあるんじゃねえか?」
「その言葉、待ってました」
『収納』から醤油と味噌を一樽づつ取り出した。
「おお!この匂い、間違いねえ醤油と味噌だ!」
五郎さん、興奮してるなー。
気持ちは分かりますよ。
「いやー、実はよ、何度も作ってはみたんだが、こればかりは作れなかったんだ、ありがてえ島野、おめえ最高だな!」
手を差し出してきた。
もちろん握り返す。
うんうん、よかった、よかった。
「これで、儂が理想とする、温泉旅館の飯が再現できる、腕がなるぜ!」
五郎さん気合入ってますねー。
この日は温泉を御呼ばれになりました。
大変いい湯でした。
祭り最終日
全員で祭りへと向かった。
俺はまたあの寿司が食べたくなり、あの屋台に向かった。
大将から寿司が手渡される。
「そういえば、五郎さんのところに醤油っていう、調味料を卸すことになったから、今度行ってみたらどうだい?」
大将が目を丸くして見開いている。
「そんな・・・本当ですか?・・・あの伝説の醤油が・・・」
醤油って伝説なの?
「あの師匠が・・・何度もトライしたけど作れなかった醤油が・・・」
五郎さんがそんな事言ってたな。
「ああ、間違いなくあるよ」
「お客さん、あんた何者だ?」
「俺は五郎さんと同じ国から来た転移者なんだ、だから五郎さんとは知り合いなんだよ」
「師匠と知り合い?」
大将がビックリしている。
「ああ、今では親友と呼んでいいかもしれないな」
「だから醤油を知っているんですね、そういうことか」
納得したようだ。
「納得できたみたいだね、大将マグロお替りいいかな?」
「へい、喜んで」
イキイキとしている大将を見ていると、こちらも嬉しくなってきた。
すると祭りの喧騒とは違う、騒めきが港の方から聞こえてきた。
「何かあったのかな?」
「港の方だから、海獣でも出たのかもしれませんね。ゴンズ様が対処するから他っておいても大丈夫ですよ」
大将はまったく気にならないようだった。
「えっ、てことはゴンズ様の漁を見れるってことなのか?」
「どうでしょう?浅瀬の方なら見れると思いますぜ」
ゴンズ様の漁か、見てみたいな、行ってみるか。
「大将お勘定」
受け取ったマグロの握りを口に放り込んで、お代を渡して港に向かった。
島野一家の皆も着いてきた。
港に着くと大きな騒ぎになっていた。
漁師達が漁の準備に大忙しだ。
すると大きな声が聞こえた。
「野郎ども!魔獣化したクラーケンだ!気を引き締めていけよ、決して街に向かわせるな。いいな!」
「「「おう!」」」
野太い漁師達の声が響き渡る。
すると後ろから肩を叩かれた。
振り向くと白蛇がいた。
なんだかいやな予感がする。
「よっ!こないだはどうも!」
「ああ、こちらこそどうも」
緊張感の無い奴だな。
大丈夫かこいつ?
「親方!こっちだ!ドラゴン達がいるぞ!」
白蛇が大声で叫んだ。
こちらを見るゴンズ様。
ゴンズ様が不敵にニヤリと笑った。
「島野!お前ら飛べるだろ、クラーケンがこっちに来ないように沖に引き付けてくれ!頼んだぞ!倒せるなら倒してもいいけど無理はするなよ!」
断れないやつじゃん。もう決定事項になってるし。
あーあ、またこれだ、いやな予感がしたんだよな。
「じゃあよろしく!」
白蛇に念を押された。
分かりましたよ、やりますよ。
あーあ。またこういった流れか・・・
俺って巻き込まれ体質だったか?
俺はギルに『念話』で皆に指示を伝えるように言った。
指示の内容は、クラーケンには俺とギル、ノンとエルが向かう。
他の者達は、避難誘導が必要な時に備えて各自待機すること。
指示を終え、ギルに跨って上空へと飛翔する。
『探索』を行うと、四百メートルほど先に大きな反応がヒットした。
近いな、沖への誘導が必要というのはよく分かった。
このまま街に向かって来られたら大変だ。
俺達はクラーケンへと向かった。
「街に近いから、まずはクラーケンを誘導する、嫌がらせをして、沖の方へ引き付けるぞ」
「「了解!」」
俺達はクラーケンの真上に移動した。
確かにクラーケンは魔獣化しており、黒い瘴気を纏っていた。見るにも禍々しい姿をしている。
クラーケンは水上に浮かばず、水面の下におり、街の方へと向かっている。
港を見ると船団がこちらに向かいだしたことが分かった。
俺は神気銃をクラーケンに向ける、一発発射した。
クラーケンの表面に当たった手ごたえを感じた。
クラーケンは水上に浮かぶと共に、吸盤のついた足で掴み掛ってきた。
寸前で躱すギル。
「よし!掛かった、誘導開始だ!」
「「了解!」」
付かず離れずの距離を保ちながら、沖の方へと誘導する。
その間もクラーケンは多数の足で、ギルとエルを掴もうと体をうねらせている。
デカい蛸ってこんなに気持ち悪いのかと嫌悪感を感じた。
誘導が上手くいき、港との距離をだいぶ稼ぐことができた。
さて、どうするか。
一番嫌なのは、中途半端にダメージを与えて海中に逃げられることだ。
雷撃は船団が近づけなくなる可能性があるから駄目だ、火は海中に潜られては効果が薄い、水はありえない。となると、風と氷と土か・・・心元無いな。神気銃って手もあるが、あれだけの巨体だとどうなんだろう?魔獣化してるから少しキツイか。
こういう時は武器があるとやり易いんだがな。
いっそのこと造るか?
俺は『万能鉱石』を鋼鉄にし『加工』で槍を二本作製した。
ノンに一本を渡す。
「ノン合図と共に一斉に行くぞ」
「分かった」
クラーケンが海上に体が浮かぶタイミングを待った。
「ギル、エル、もう少し上空に浮かんでくれ」
「了解!」
「OK!」
更に上空に二メートルほど浮かぶ、それに釣られてクラーケンが海上に体を晒した。
「今だ!」
合図と共に俺は『身体強化』で力を上げ、クラーケンに向けて槍をぶん投げた。と共にノンの槍もクラーケンに向けて投げられた。
二本の槍がクラーケンに突き刺さる。
かなり深く刺さったようで、俺の投げた槍はそのほとんどがクラーケンの身体に突き刺さっている。
「ビエエエエエエーーーー!」
クラーケンは何とも言えない気持ち悪い雄叫びを発し、黒い瘴気がゆっくりと消えそうになっていっていた。
「仕留めたか?」
クラーケンは自分の足を身体に絡ませて、ウネウネとしている。
徐々に瘴気が消えていった。
俺達はクラーケンに近づき様子を見ていた。
すると近づいてきた船団から声が聞こえた。
「まだだ!」
その時クラーケンから不意に足が延ばされ、ギルの足に絡みついてきた。
「ぐっ!」
絡まれた足が、吸盤で吸いつけられていた。
ギルが呻いている。
「ギル!」
ノンが叫んだ。
ヒュン!
という音が聞こえた。
近づいてきた船団から、先が三又になっている銛がクラーケンに打ち込まれていた。
ズチャッ!
クラーケンが潰れる音がした。
力なくギルに絡みついていた足が離れていった。
「詰めが甘い!ガハハハ!」
大笑いしながら船頭に立つゴンズ様がいた。
終わったか、やれやれ。
でもゴンズ様の一撃は凄かったな、これなら俺達いらなかったんじゃないか?
ギルはエルから回復魔法を受けていた。
大事に至らなくてよかったよ。
その後、船団がクラーケンを回収し、俺達と並行しながら港へと帰港した。
港に着くと、たくさんの歓声に迎えられた。
「ゴンズ様!最高!」
「ありがとう!」
「また助けられた」
「ゴンズ様、あれやるんかい?」
「やるんだろ?」
それらの声を制するように片手を挙げるゴンズ様。
「おまえら!今日はゴンズキッチンだ!」
港中が歓喜に沸いた。
「まってました!」
「やったー!」
「嬉しい!」
「ありがとう、ゴンズ様!」
ゴンズキッチン?なんだそれ。
ゴンズ様の部下達が一斉に動き出す。
各々が自分の仕事を把握している動きだ。
その動きに迷いが無い。
大きな布が道に広げられた。そこに先ほど仕留めたクラーケンが運ばれてきた。
そこに大きな樽が、五個運ばれてくる。
部下達数名で樽の中から、塩を取り出し、クラーケンに塗り出した。
へえー、塩揉みか、分かってるね。
ひとしきり塩揉みが終わったら、水で塩を流していく。
そして、ゴンズ様が自分の身長と変わらないぐらいの大剣を持って現れた。
「そりゃ!そりゃ!」
と掛け声と共に、クラーケンをバッサバッサと切り刻んでいく。
刻まれた部位を、部下たちが更に細かく刻んでいく。
すると大量の油の入った大鍋が準備され、細かく刻んんだクラーケンの身を鍋にぶち込んでいった。
「始まったな」
後ろから声がした。
振り返ると先ほどの寿司屋の大将がいた。
「お店は終了かい?」
「これが始まったら、お客さんは来なくなるんでね」
困った表情をしてる大将。
「客足が止まっるってことかな?」
「ああ、今作ってる料理を街の皆に無料で振舞うんだから、屋台には来なくなるでしょ?」
「そういうことね、そりゃあそうだな。何も祭りの最終日にやらなくてもいいんじゃないか?」
「違いねえ、でもゴンズキッチンはこの街の名物みたいなもんだから、しょうがないでしょ」
「そうなんだ、街の名物なんだ」
「ああそうなんだ、大物が獲れると毎回この調子さ」
そうこうしている間に、どんどん料理が出来上がっていく。
「よし、食いたい奴は並んでくれ!」
ゴンズ様が声を張り上げた。
その声を機に街の皆が、我先にと列に並ぶ。
どんどんと料理が手渡されていく。
俺も並ぼうかと悩んだが、アイリスさんが俺も分を持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
手渡された料理は、蛸の、もとい、クラーケンのから揚げと、クラーケンの刺身だった。よく見ると、食べやすいようにと刺身には隠し包丁まで入っていた。
クラーケンの刺身に隠し包丁って・・・蛸の刺身に隠し包丁ってあったっけ?まあいいや。食べやすいにこしたことは無いか。
あっ!そうだ。
隣にいる大将に声を掛けた。
「大将、醤油で食べてみる?」
「えっ、いいので?」
「ああ、せっかくの機会だ、試してみてよ」
『収納』から醤油を取り出し、クラーケンの刺身に掛けた。
大将に手渡す。
軽く頭を下げて大将はクラーケンの刺身を受け取った。
「これが、醤油・・・」
そう言うと、鼻を近づけて匂いを嗅いでいた。
「今までに嗅いだことのない匂いだ、それにこの匂いは食欲を刺激するな」
フォークでクラーケンの刺身を掬い、大将は口にした。
大将は目を瞑り、噛みしめるように、そして味を確認しながら食べていた。
「んん?これは、間違いない、寿司にはこれが合う、間違いない!」
もう一度口にした。
「お客さん、俺にも醤油を売ってもらえないでしょうか?いや、お願いします。売ってください!」
土下座するんじゃないかというほどの勢いで、頭を下げる大将。
「大将、申し訳ない、醤油は五郎さんのところで買ってくれ、すまないな」
「そんな、殺生な、頼むよ」
「悪いな大将、あんたの師匠との約束なんだ」
本当は違う、この醤油にも回復効果があるからだ。
五郎さんごめんなさい。あとは任せます。
今度五郎さんに会ったら話しておこう。
「そうですか、師匠との約束ですか、分かりました、諦めます」
「五郎さんなら、大将に譲ってくれるんじゃないかな?」
「ええ、そうですね、ありがとうございます!」
大将に皿を返された。
せっかくなのでクラーケンのから揚げを食べてみた。
うん、上手い。上手に揚げているな。
クラーケンの唐揚げを堪能していると、声をかけられた。
「島野、やってるか?」
ゴンズ様だった。
「ええ、頂いています、クラーケンのから揚げ、美味しいです」
「そうか、それはよかった」
「また、ワインですか?」
「ああ、それもあるが、ちょっといいか?」
ゴンズ様はいつになくなく真剣な表情をしている。
「どうしました?」
「まず、今日は助かったぞ、ありがとうな」
「いえいえ、俺達が居なくてもゴンズ様がいれば、問題なく処理できたんじゃないんですか?」
「どうだかな・・・そういえば、遠目だったからはっきり見えなかったが、お前その場で武器を作ってなかったか?」
「いえいえいえ、あれは『収納』から取り出しただけですよ、ハハハ、見間違いですよ、嫌だなー、戦場でその場で武器を作るなんて、奇想天外なこと、俺には無理ですよ、ハハハ」
誤魔化せたかな?
「お前は俺一人で処理できたと言うが、それは無いな」
ゴンズ様はキッパリと言い切った。
「俺は強い、だか、さすがに俺一人では、魔獣化したクラーケンは手こずる、今回は島野達が注意を引いていたから、あっさりと仕留めれたが、普通に対峙したら、こうは上手くいかない」
「そんなものですかね?」
「ああ、部下の何人かが海に消えてもおかしくはないんだ、実際に過去には魔獣化したクラーケンに挑んで、何人もの部下が海に帰ってしまったこともある」
「そうですか」
「今回は俺が仕留められたのは、島野達の御膳立てがあったからだ、改めて礼を言わせて貰う」
以外に謙虚なんだな。
「いえいえ、いいんですよ」
「本題なんだがな」
ゴンズ様は神妙な顔つきになっている。
「うちの白蛇なんだがな」
「ええ」
「お前のところで預かってくれないか?」
何でですか?あなたの眷属でしょうが?
「はあ?」
「本人の希望でもあるんだ」
本人の希望?
「白蛇なんだが、もうかれこれ俺とは十年近い付き合いになるんだが、あいつが俺の眷属になることは無いんだ」
えっ!眷属じゃないの?
「それはどうしてですか?俺はゴンズ様の眷属かと思ってましたよ」
「いや、違う、あいつがそれを望んだことは確かにある。だが俺はそれを拒否した」
拒否した?何故?
「それは何故ですか?」
「それわな、俺は神だ、死ぬことは滅多にない。だが消滅する危険性はあるんだ」
ん?消滅?どういうことなんだ?
「俺は漁の神だ。漁には危険がつきものだ、神だから病気やケガで死ぬことはないが、神力が無い状態なら、人間と変わらないからな。そんなときに首を斬られでもしたら。消滅することになる」
「消滅とはどういうことですか?」
消滅?死ぬことと同意と思えるが・・・
「神にとっては神力は欠かせない、神力が無くなると、俺達は神であることを保てなくなるんだ」
なに?どういうことだ?
「神であることを保てなくなるってどういうことですか?」
「そのままだ、俺なら魚人に戻るってことだ」
つまり神力を失ったら、神は元の状態になるということか。
「この世界は神気に溢れている。だがここ百年ぐらい前から、神気が薄くなって来ていると俺は感じている」
やはりそこに行きつくのか。
「まあ、ここ最近は持ち直してる気はするんだがな」
神様は神気の変化に鋭いな。
「で、それがなんで白蛇に繋がるんですか?」
「俺が消滅したら、俺の眷属になったら、あいつも消えちまうからだよ」
そうか、そうだったな。眷属は仕える神が死んだら死ぬんだったな。
「つまり危険が隣合わせのゴンズ様は、白蛇を眷属にはしたくないといことですね、で何故それが、俺が預かることになるんですか?」
頭を掻いて困っているゴンズ様。
「それがな、どうせ仕えるなら上手い酒が作れるお前がいいんだとよ、初めてお前にあった時にそう思ったらしい、それにお前の戦う姿を観て、間違いないと決めたらしいぞ」
マジか?人参が上手くて俺に仕えたエルに続き、次は酒に釣られて眷属になるってことなのか?勘弁してくれよ。まったく。
「それに真面目な話をするぞ、おまえ神の資質を持ってるよな?」
うっ!、バレてる。
ですよねー。ギルの親だって言っちゃってるしね。
「そんなお前だから、俺もお前ならと思っている。受けてはくれないか?」
「本人の希望とのことでしたので、本人と話してみましょうか」
「おお!ありがとう、島野!」
ゴンズ様が白蛇を呼びに行った。
また眷属が増えるのか?
でも預かってくれって話だから、眷属にする必要は無いんじゃないかな?
「待たせたな」
ゴンズ様が白蛇を伴って現れた。
「俺はあんたに仕えたい、よろしく頼む!」
白蛇がお辞儀をした。腰が九十度に曲がっている。
真剣なんだとは思うが、本当にいいのか?
ここはひとつ場を和ませようかな?
そうだ、和ませようじゃないか?
うんうん、ここはこいつらが好きな酒で、酒の力を借りるということで。
飲まなきゃやってられんしな。
『収納』からワインを取り出し二人に渡した。
「「「乾杯!」」」
ワインをグビっと飲み干す。
「ところで、おまえ本気で言ってるのか?」
俺は白蛇に確認をした。
「本気も何も、何を言ってるんだ?」
んん?どういうことだ?
俺は申し入れに対して、場を和ませようとワインを渡して・・・ワインを渡して・・・ああ・・・またやっちまった・・・なんで俺は・・・またか・・・はあ。
渡しちゃったんだよね、ワイン・・・間違った俺が悪いよね・・・ハハハ・・・笑うしか無いよね。
「ハハハ、島野一家にようこそ!」
俺の顔が引きつっていることは記すまでも無いな。
またか、俺の反省は一体どこにあるんだ?多分反省したとたんに異世界に転移するんだろうね。
ハハハ。
あーあ。
白蛇の名前はどうしたかって?
彼女の名前は『レケ』です、ヘベレケの『レケ』です!
よろしく!