翌日、まずは朝食後に『ロックアップ』の皆さんを島の施設に案内することになった。
俺の脇にはゴンが控えており、説明のサポートを行ってくれている。
その他の者達は、既に畑の収穫作業を行っている。
「こうして、野菜の収穫作業を行います」
ゴンが丁寧に説明していた。
それを何度も確認しながら『ロックアップ』の皆さんが、質問を交えながら真剣に説明を聞いている。
うん、いいじゃないか、熱心なことだと感心する俺。
次にお風呂へと向かった。
「すげえ、露天風呂まであるのかよ」
ロンメルが喜びながら言っていた。
これで驚いてもらっては困るな。
何せこの島にはサウナがあるからね、サウナが。
フフフ・・・
多分俺どや顔してるな。
「島には露天風呂だけじゃなく、サウナもあるからな、それも塩サウナまでな」
俺はほくそ笑んでいた。
間違いなくドヤ顔してるな俺。
だって自慢したいじゃないか。
サウナだよ!
分かるよね?
「サウナですか?」
やはりサウナを知らないようだな。
「そうかそうか、この世界にはサウナが無いんだったな。いやいやいや、これはもったいない」
と俺は得意げに言う。
「主、自慢は後にしてください。ちゃんと案内しないといけませんので」
ゴンに嗜まれてしまった。
さすが生徒会長、きっちりしてるね。
どうぞどうぞ、次に行ってくださいな。
ちぇっ!
「いやゴンちゃん、せっかくの旦那の申し入れだ。そのサウナってもんを見せてはくれないかい?」
ロンメルが食いついてきた。
お!いいぞロンメル!
「駄目です、後にしてくだいさい。どのみち夕方には皆で入ることになるんですから」
ゴンは堅いな、真面目過ぎる。もうちょとこう、ねえ?
人生遊びがあってもいいと思うんだが、まあでもこれがゴンのいい所なんだよね。
しょうがないな。
「そうなのか?じゃあその時でいいや」
ロンメル食い下がるなよ、と口にしかけて止めておいた。
まあ、ゴンの言う通りだからな。
但し『黄金の整い』は教えませんよ。
そんなこんなで、一通り見学が済んだところで昼飯になった。
本日の昼飯は、昨日の残り物で適当に野菜炒めを作った。どうにも簡単にすると野菜炒めになるんだよな、確かにこの島の野菜は格段に美味いからね。
何でも野菜入りの野菜炒め。うーん、語呂が悪い。
後はご飯に味噌汁。
皆さん適当に召し上がってください。
「しかし島野様、この島で採れる野菜はお世辞抜きで美味しいですな。何か秘訣でも?」
メタンが話し掛けてきた。
「メタン、様は止めて欲しいな、照れちゃうじゃないか」
様は照れる、なんだか擽ったい。
「いやしかし、そう言われましてもな」
譲る気は無さそうだ。
「お前は相変わらず堅いな」
マークがツッコんでいる。
「まあ好きにしてくれればいいさ」
と俺は話を続けた。
「実はなメタン、秘訣はあるんだよ」
「といいますと?」
興味深々のメタン。
「正確には二つかな、まずはなんといってもアイリスさんだな、彼女は植物のプロだからな。肥料であったり、間引きであったり、雑草の処理だったり、後はどの辺に水を撒けばいいかとか、彼女の貢献は測り知れないね」
そうこの島の野菜の美味しさは、アイリスさんの愛情で出来ているのだ。
「さすがは世界樹様と言ったところなのでしょうな」
ウンウンと頷いている。
「後一つはこれさ」
俺は右手に神気を出してみせた。
右手が光り輝く。
「「おお!」」
マークとメタンが慄いている。
「神気ですな!」
メタンが神気を不思議そうに眺めている。
「これを畑の土に定期的にやっているんだ」
これが野菜の成長を促すんだよね。
「なるほど、この野菜はまさに神の野菜なんですな」
神の野菜って言い過ぎでしょ?
でもまぁそうなのか?
「そうだな、ありがたく頂だこう」
と同意するマーク。
なんだか俺のことは神様確定って感じだな。
まあいいや。
もうめんどくさくなってきた。
「それと島野様、ここの野菜は、ただ美味しいだけではなく、元気になりますな。こう身体の中から気力が溢れ出てくるというか、なんというか、力が漲ってきますな」
元気がでるか・・・俺達は普通に腹が減ったから、食べているだけなんだけど・・・
せっかく食べるのなら、美味しく食べたいと、工夫を凝らしているだけなんだけどな。
そう言って貰えるならなによりです。
午後からは個人面談だ、まずはマークから行う。
一人ずつ、俺の書斎に来てもらうことになった。
ドアがノックされる。
「どうぞ」
と声をかける。
「失礼します」
一礼してマークが入ってきた。
マークを椅子に誘導する。
「何か飲むか?」
俺は最近収穫を終えたコーヒーを飲んでいる。
このコーヒーは俺のお気に入りだ、豆をローストするのには結構時間が掛かった。
火加減が難しい。
「では、お茶をいただけるかな?」
横に控えるゴンにお願いした。
マークが話しだした。
「島野さん、まずは本当にありがとうございます。ジャイアントシャークから助けてもらったこと、ちゃんと感謝を伝えていませんでした」
律儀な奴だな、嫌いじゃないよそういうとこ。
「ああ、もういいってことよ、それよりさっそくなんだが『鑑定』してもいいか?」
この際だから全員『鑑定』をさせて貰う、これは健康診断みたいなものだ、まだ流石に全幅の信頼を置くには早すぎる。
それにこいつらの能力を知っておきたい。
「はい、どうぞ」
というと、マークは姿勢を正した。
うーん『鑑定』をするというと皆姿勢を正すんだよな。これはあれか?医者が聴診器を持って、診察しますって時の患者の反応と一緒か?
まあそれは置いといて
『鑑定』
名前:マーク
種族:人間Lv8
職業:ガーディアン
神力:0
体力:1351
魔力:136
能力:パーフェクトウォールLV2 防御力倍増Lv1 鼓舞奮闘LV2
パーフェクトウォールってなんだ?
「マーク、パーフェクトウォールってなんだ?」
「ああそれは、俺の固有魔法の一つでして、五平米の透明な壁を作ることができるんです。三分間限定なんですが、魔法も物理攻撃も全て防ぐことが出来きます。ただ難点がありまして、敵からの攻撃だけじゃなく、こちらの攻撃も通らないんですよ。使い道に困る魔法です」
「完全な撤退時にしか、使えそうも無いってことか」
ここで、ゴンがお茶を持ってきてくれた。
ゴンからお茶を受け取り、話を続ける。
「その通りです、もう一つ難点がありまして、使用後に体力がかなり削られるんです」
「うーん、そうなると、本当の奥の手だな」
「はい、仰る通りです」
あと固有魔法とはなんだろう?
「マーク、すまないが俺はあまり魔法には詳しくはないんだが、固有魔法って何なんだ?」
「そうですか、固有魔法はその個人が持つ特性に合わせて開発した魔法です」
個人の特性に合わせた魔法があるのか、それも開発できるってことか?
隣でゴンが目を輝かせている。
「主、固有魔法は私も初めて聞きます」
もしかしてゴンの場合は『変化』が固有魔法になるんじゃないかな?
「ゴン『変化』は固有魔法なんじゃないのか?」
「どうでしょうか?分かりません、研究のし甲斐があります」
うん、それでいいと思うぞ。
「あとマークはどこ出身なんだ?」
「俺とランドは、大工の街の出身です」
確か歴史的な文化財の家があるとかなんとか、カイさんが言ってたような気がするな。
「ということは、大工仕事なんかもできるのか?」
これ大事なところ。
「はい、俺とあいつは小さい頃から、大工の基本的なことは仕込まれています。あと、土木作業なんかも多少はできます」
おお!これは拾いものかもしれないぞ、いよいよインフラに着手できるかもしれないな。
「マークは、上下水道については知識があったりするのか?」
「上下水道ですか?すいません、そこは分からないです」
俺は知りうる限りの上下水道の知識を伝えた。
「なるほど、面白いですね理屈は分かりました。となると、大事なのは高低差ですね」
おっ!こいつ飲み込みが速いじゃないか、いいねそれなりに賢いみたいだ。
「そうなんだ、高低差が無いと、上下水道は機能しないんだ」
考え込んでいるマーク、新たな知識を得て彼なりに吸収しようとしているんだと思う。
「マーク、ひとまずは畑の作業に尽力してくれ、上下水道に関しては、ランドと相談して決めよう、それでどうだ?」
これで何とかなりそうだな。
「はい、分かりました。よろしくお願いします」
マークは一礼した。
「じゃあランドを呼んできてくれ」
マークは退室していった。
ランドが大きな身体を窄めながら部屋に入ってきた。
先ほどのマークと同様に飲み物がいるか聞いたが、要らないとのことだった。
「まずは『鑑定』してもいいか?」
「どうぞ、お願いします」
こいつも姿勢を正している。
なんだか医者になった気分。
『鑑定』
名前:ランド
種族:獣人Lv9
職業:重戦士
神力:0
体力:1602
魔力:68
能力:咆哮Lv2 斧ぶんまわしLv2
斧ぶんまわしって、まんまなんだけど・・・
「ランド実はな、さっきマークと話をしたんだ」
俺はマークと交わした会話を説明した。
「なるほど、そうですか、とりあえず俺にもその上下水道ってものを説明してもらってもいいですか?」
お!やる気がありますね、前向きで結構。
「ああ、いいぞ」
俺は上下水道に関する知識を話した。
「なるほど、随分と暮らしが楽になりそうですね、ただ俺にはまだその蛇口という物の構造がいまいち理解できないです」
そこは俺に任せて頂戴な。
「まあそこに関しては俺が造るから、完成物を見て貰ったら分かるようになると思う」
「分かりました」
話が早くて結構。
「あと、一つ質問があるんだがいいかな?」
これ単純な俺の興味です。
「なんでしょう?」
「君は牛の獣人なんだよね?」
「はい、そうです」
「ミノタウロスとの違いってなんなの?」
「違いはないですよ、どっちも同じです」
「えっそうなの!」
そうなのかー、一緒なのね、いやいやこれはいけない、勝手に俺のイメージを押し付けちゃいけないな、こうミノタウロスっていったら、牛の魔人みたいなイメージなんだけど、固定概念はよくないな。
この世界では一緒と本人が言うんだから、それでいいじゃないか。
「何か気になりましたか?」
いや、逆にすっきりしたよ。
「いやいや、気にしないでくれ、じゃあ次はロンメルを呼んできてくれ」
ハハハ・・・
ランドが退室していった。
ロンメルが部屋に入ってきた、ゴンがさっそく飲み物のリクエストを聞いている。
うん、ゴンはよくできた秘書みたいだな。
「ロンメル早速だが『鑑定』をさせて貰うがいいか?」
「ああ、構わない」
おっこいつは姿勢を正さない、案外肝が据わってるのかな?
『鑑定』
名前:ロンメル
種族:犬の獣人Lv10
職業:斥候
神力:0
体力:1203
魔力:201
能力:ムードメーカーLV3 探索LV1 跳躍LV1
「ロンメル、この探索なんだが、どんな能力なんだ」
あえて聞いてみた。
「ああそれかい、多分俺の探索よりも、ノンの鼻の方が数段レベルが高いと思うぜ。俺も基本的には鼻で獲物の数や位置を把握できるが、百メートル先が限界だな」
なるほど、百メートル範囲となるならロンメルの考えは正しい。
ノンの場合は鼻だけじゃなく気配も辿っているからな、精度は格段に違う。
探索は斥候としては必須な能力なんだろう。
「そういえば、ロンメルは船の操船をしてたよな?」
確か帆を畳んでいたような覚えがある。
「ああ、俺は漁師の街育ちなんだ、漁師の街の奴らは操船ができて当たり前、ってことなんだ」
ここでゴンがお茶を持ってきた。
「あの船で漁は可能か?」
できれば、海産物も増やせたら助かるんだが・・・
「うーん、漁に出るにはいくつか手を加えないといけねえな、でも旦那、なんといってもあの船には網が無いんだ」
それぐらいなら簡単に出来るな。
「ああ、それなら何も問題ない。網の形状を教えてくれれば、俺が直ぐに網を造れるから」
「そうかい、旦那、あんた出鱈目だな」
やっぱりそうだよね。
「ああ、自覚はあるよ」
最近何となく芽生えましたよ。
「じゃあロンメルには週に二回漁に出て欲しい、ただしエルとギルをお供に連れていってくれ、飛べるあいつらがいれば、最悪のことは起きないだろ?」
一人で海はきつ過ぎるだろうしな。
「ああ、助かる」
「ただし午前中は畑の作業にあててくれよ、漁はそれ以外の時間で頼む、決して無理はしないで欲しい。安全第一で頼む」
そう安全第一であって欲しい。
「ああ、分かった」
「じゃあ次はメタンを呼んで来てくれ」
ロンメルが退室した。
メタンが部屋に入って来た、いつになく神妙な面持ちであった。
ゴンが飲み物を訪ねたが、
「お構いなく」
とのことだった。
「じゃあメタンまずは『鑑定』させて貰えるかな?」
「いつでもどうぞ」
というと、メタンは両手を広げて待ち構えていた。
こいつなんなの?
熱波でも受けるのか?
『鑑定』
名前:メタン
種族:人間Lv9
職業:魔法士
神力:0
体力:864
魔力:586
能力:火魔法LV6 土魔法LV7 崇拝の魔力化LV5
はあ?なんだこの崇拝の魔力化って?
なんなのこれ?
なんだか怖いんですけど・・・
「メタン、教えてくれ、この崇拝の魔力化とはなんだ?」
なんかやばそうな響きだよね。
「はい、これは創造神様を崇拝することによって、魔法の威力を倍増させる魔法ですな」
目を輝かせながらメタンが説明してくれた。
でも、俺を見るこの羨望の眼差しは何なんだ?
俺は創造神様じゃないんだけど。
「私達魔法を愛する者達にとって、創造神様は唯一無二の神様でございますな」
唯一無二って、この世界にはいろんな神様が顕現してますけど・・・
それでいいのか?
「その創造神様の再来が島野様だと、私は睨んでおります」
髭面のおっさんが、ドヤ顔で俺を見ている。
いやー、勘弁してくれよ。
視線に耐えられないよ、だって俺は創造神様の後任らしいから、あながち間違ってないんだよね。
ていうか、羨望の眼差しを止めてくれっての、髭ずらのおじさんにそんな目でみられても、かえって気持ち悪いんですけど・・・
いけない、気を取り直そう。
咳払いをしてから面談を再開した。
「ところで、メタンの出身地はどこなんだ?」
「はい、魔法国『メッサーラ』でございますな」
ゴンが反応した、魔法が得意な人なら、この国に行けなんていわれてる国だって、カイさんが言っていたな。
「何か特技とかあるか?」
「はい、私はやはり魔法を得意としています。それ以外で言うと、読み書き計算はできます。この世界ではできない人が、結構多いのですな」
なるほど、読み書き計算ね。いいじゃないか。
「じゃあ、午前中は畑作業を行ってもらって、午後からはゴンと一緒に、在庫の管理や数量のチェックなどを行ってくれ、あとゴンがなにかと魔法の研究をしているから、一緒にやってみてくれないか?」
「主、いいのですか?」
ゴンが割り込んできた。
「ああ、お前も一人で考え込まなくても頼れる隣人がいた方が、はかどるだろ?」
「はい、助かります」
ゴンが喜んでいる。
「では、ゴン様、今後ともよろしくお願いいたします」
こいつゴンまで様呼びかよ。
まあいいや。
「じゃあメルルを呼んで来てくれ」
「かしこまりました」
メタンが仰々しくお辞儀をして退室していった。
ドアがノックされた。
「どうぞ」
ゴンが内側から扉を開けた。
メルルが入室してきた。
「もう体調は万全か?」
「ええ、大丈夫です。全ては島野さんのお陰です」
そう言われると照れるな。
厳密にはアイリスさんのお陰なんだけどね。
「座ってくれ」
「早速なんだが『鑑定』を行ってもいいかな?」
「はい、どうぞ」
メルルは少しだけ姿勢を正した。
うん、皆ほどではないが、やはり姿勢は正すのね。
『鑑定』
名前:メルル
種族:人間Lv10
職業:僧侶
神力:0
体力:749
魔力:589
能力:風魔法LV6 治癒魔法LV7 鎮魂歌LV2
鎮魂歌ってなんだ?
「なあ、この鎮魂歌って何なんだ?」
「それは、いわゆるお祓いみたいなものです」
お祓い?なんでかな?
「お祓い?幽霊でもいるのか?」
「いえ、幽霊のお祓いでは無く、土地を清めるであったり、不浄の汚れを祓ったりします」
「不浄の汚れとは?」
「主にアンデットですね」
なにそれ。怖いんだけど。
「アンデットてことは、死体が動いてるってこと?」
「はい、稀に森で出現します。鎮魂歌は聖魔法の一つです」
聖魔法?まあ僧侶だからそうなんだろうな。
「そういえば、島野さん一つよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
なんか気になることでもあるのか?
「私の実感として、お話しさせてもらいます。治癒系の魔法を得意としてますので、昨日の体験は滅多にない良い機会を頂いたと思っています」
世界樹の葉のことかな?
「それで」
「世界樹の葉で私の病気は完治しました、それと同時に少し体力が回復しました。問題はその後なんです」
メルル曰く、世界樹の葉で病気は完治し体力も少し回復したが、その後の食事で通常では考えられないくらい、体力が回復したらしい。なんでも、治癒魔法では傷は治せるが、体力まで戻そうとなると、LV10以上無いとできないらしい。そしてLV10以上の治癒魔法の使い手となると、Sランク以上の者となり、滅多にいないらしい。
島の野菜の体力回復力は、ハンター達の常識を変えてしまうかもしれないとのことだった。
「そうなのか?」
野菜の方だったのね。
「はい、昔から体力回復薬は研究されておりますが、完成したとは聞いていません」
体力回復薬って、いわゆるポーションってやつだよな。いや何か違うな。
「で、この島の野菜は体力回復薬になるということか?」
ならば、新たな収入源となりえるってことか?
「その通りです、ハンター経験者として考えても、体力回復薬があると戦闘内容が大きく変わります、これまでは体力を温存した戦い方を強いられてましたが、体力回復薬があれば始めから全力でいけます」
「そういうことか、ちなみに魔力は回復するのか?」
「いえ、それはありませんでした」
体力回復に限定なのね、となれば魔力の回復手段が次に求められるな。
「魔力の回復方法はどうなんだ?」
「一般的なのは魔石を使います」
魔石なんだ、そういえば一個持ってたな。
俺は『収納』から魔石を取りだした。
「でっか!なんですか?その魔石」
デカいんだこれ。
「ああ、魔獣化したジャイアントイーグルの魔石だよ、見てみるか?」
「是非、お願いします」
俺は魔石を手渡した。
「で、この魔石が魔力の回復方法になるのか?」
「はい、ではやってみますね」
とメルルは言うと、両手で包むように魔石を握り、魔力を込め出した。
魔石が少し光ったように見えた。
「こうやって魔力を込めておくと魔石に魔力が溜まります、逆に魔石から魔力を取り出すこともできます」
なるほど、魔力の出し入れが可能ってことね。
「なるほどね、予め魔力を貯めておいて、必要な時に取り出すということだな」
「その通りです、あと実は魔石にはもう一つ使い道がありまして、魔法を閉じ込めておくこともできます。そして、魔力を流すと魔法が発動するという性質があります」
付与するってことだな、だから高額品として取引されてるってことか。
それでタイロンのハンター協会の会長はニヤけてたのか。
売らなきゃよかったな。
「神力は貯めれないのか?」
「神力を貯めれるのは神石ですね、たしかマークが・・・ちょっと待ってて貰えますか?」
「ああ、いいよ」
軽くお辞儀をしてメルルは退室していった。
その後、マークを伴って入室してきた。
「島野さんこれよかったら使ってください」
マークは手を差し出してきた、手の平には黒い丸い石のような物が三個あった。
手に取ってみる。
感触としては、石よりも少し柔らかい感じがする。
「これがさっき話していた神石です」
「これが・・・」
神石か、いろいろと試してみないとな。
「これも先ほどの魔石と一緒で、神力を貯めておくことと、能力を発動することができるんです」
これは使えるぞ、これはありがたい。なんといっても、これでマイサウナのグレードがまた上がる。
素晴らしい!
「本当に貰っていいのか?」
ありがたい、大いに使わせていただこう。
「ええ、俺達には不要の産物なんで、売ることもできませんし」
「そうか、ありがたくいただくよ」
しめしめ、これで・・・いいね。最高だよ!
さて、話を戻そう。
「メルル、君の仕事は午前中は皆と一緒に畑の作業をしてくれ、午後からは体力回復薬の研究をしてみるってのはどうだ?」
「えっ、いいのですか?」
「ちょっと、体力回復薬ってなんですか?」
「悪いなマーク、後でメルルから聞いてくれ。メルル、この島には野菜は豊富にあるし、僧侶としては興味があるんじゃないか?」
面倒な説明はお任せということで。
「もちろんです、私にとっては夢の仕事です」
メルルは興奮している様子。
「それに、体力回復薬が完成したら、大儲けできるぞ」
おれはニヤリと微笑んだ。
「ですね」
メルルもニヤリと微笑んだ。
ひとり置き去りのマークだった。
個人面談を終えた。
皆で、晩飯の時間。
本日の晩飯は、ミックスサラダに、ジャイアントボアとジャイアントピッグの粗びきハンバーグ、コーンスープ、ご飯かパンはお好みでといったところ。
「では手を合わせて、いただきます」
「「「「いただきます」」」」
大合唱。
「皆、食べながらでいいから聞いてくれ、これからの仕事内容について、皆と共有させてもらうことにする」
皆な食事を始めながらも、こちらに注目している。
「まず先に家族の皆とアイリスさん、これまでは俺の能力のことは明かさないように努めてきたが、俺もこうなった以上腹を括った。積極的に俺の能力を明かす気は更々無いが、神様の修業中であることを、この島の中では隠すことはしないことにする」
エルが手を挙げた。
「アグネス様にはどうするおつもりですの?」
「ああ、さすがにあの駄目天使も付き合いが長いし、言いふらすような馬鹿なことはしないだろう、方向性を変えるよ。もし言い降らす様なら、もう一回締めてやろう」
「うん、賛成!」
ノンが言った。
ノンのやつ、アグネスを締めるのが楽しくなってないか?
「そうですの」
エルも同意した。
お前もか!
まああれでいて、アグネスなりに気を使ってくれていることは知っているからな。
さて、ここからが本日の本番だ。
「皆な、心して聞いてくれ、まず俺は会社を設立する。さしずめ『島野商事』ってところかな?」
ノンが手を挙げた。
「主、会社って何?」
「営利を目的に経済活動をする組織のことだ、要はお金を稼ぐ組織ってことだよ」
ウンウンと皆が頷いている。
「そこで、各担当を発表します。まずは農場部門の責任者はアイリスさん」
アイリスさんが立ち上がって一礼した。
自然と拍手が起きる。
「島野商事にとって、農業部門は根幹となる部門です、アイリスさんよろしくお願いします。皆、休日以外の者は、午前中はアグネスさんの指示に従って、農作業を行うようにしてくれ」
俺もアイリスさんに軽く一礼した。
「続いて建設部門の責任者は、マークにお願いしたい、サポート役としてランドを任命する」
「お、俺ですか?いいのですか?」
マークが驚いている。
「ああ、よろしく頼むよ。やはりこの島にとってインフラは欠かせない、先ほど話した上下水道は急務と考えている。上下水道が整ったら、その後は各種施設を設けようと考えている。最も体力が必要な部門だ、出来るな?お前達?」
「ええ、任せてください」
「力仕事は任せてください」
二人は胸を張っていた。
いろいろと考えてみた結果、お金は掛かるのは分かっているが、はやりインフラの整備は必要との結論にたどりついた。その一番の理由は、畑の水やり作業が、一定の者に限定されていることにあった。
水魔法を使えるゴンと、自然操作が使える俺しかいない。
この不平等感は解消したい。
それにやはり水洗トイレが欲しい。
人が増えたことだし、文化的な暮らしは必要だと思う。
あとは温泉街『ゴロウ』もインフラが整備されていた。
こう言ってはなんだが、五郎さんにできて、俺にできないとは思いづらい。
「次に魔法研究部門及び管理部門はゴンが責任者で、メタンがサポートをする」
ゴンとメタンが立ち上がった。
「島野様の会社の発展の為、精神誠意努めさせていただきます!」
いきなりメタンが宣誓した。
「おまえ、そんなキャラだったか?」
マークがツッコむと爆笑が起った。
「何を言うリーダー、島野様と出会って私は変わったのですな」
真剣に言うメタン。
更に爆笑が起こった。
だが俺には笑えなかった、勘弁してくれよメタン、お前ちょっとキモいぞ・・・
気を取り直そう。
「次に行っていいか?次に体力回復薬研究部門はメルルに任せる、そして俺がサポートに入る」
「えっ!体力回復薬って、なんのことだ?旦那」
ロンメルが気になったのか、話しに割り込んできた。
「詳しくはメルルに聞いてくれ」
マークの時と同じく、面倒なのでメルルに振った。
細かい話は極力避けたいと思う俺だった。
めんどくさがり屋で、すんません。
「そして漁部門はロンメルに任せる、サポートにギルとエルが付いてくれ」
「ギル坊、エルちゃんよろしくな」
ロンメルが言った。
「ロンメルおじちゃん、ギル坊って言うなよ、それを言っていいのは五郎さんだけなんだぞ」
なんで五郎さんはいいんだ?
ギルの拘りか?
「ギル坊こそ、おじちゃんって言うなよ」
「へん、お返しさ」
また笑いが起きた。
仲が良い事はいいことです。
「そして、狩りと家畜の世話部門はノンをリーダとする」
「はーい」
流石のノン、軽い返事だ。
「ギルとエルは漁の無い日はノンを手伝うように」
「「了解」」
ギルとエルはコクリと頷いた。
「最後に、全てを統括した責任者を俺が務める、いいな?」
俺は皆を見渡した。
「もちろんですな」
「あたりまえだぜ」
「主以外ありえません」
「いいよー」
皆口々に賛成の意を伝えてきた。
「ということで『島野商事』設立です!」
拍手が鳴りやまなかった。
まさか異世界に来て会社を設立するとは・・・人生ってのは驚きの連続ですね。
翌日、俺は五郎さんの所に納品に来ていた。
「五郎さん、こちらでいいですか?」
大量の農産物を、指定された場所に置いた。
「おお、いつも悪りぃな」
「そう言えば五郎さん、一つお願いがあるのですが、聞いてもらえますか?」
俺は改めて相談しようと考えていた。
「おお、何でえ?」
俺にとっては深刻な悩みであった、それは島の野菜の体力回復力だ。
よくよく考えてみると、体力回復薬が無いこの世界にとって、島の野菜は非常に価値の高いものであると考えられた。
ハンターにとっては、在ると無いとでは狩りにおいて雲泥の差となる。
その秘密を知りたいと考える者達は必ず現れるだろうし、場合によっては、国家ぐるみで解明しようと躍起になることも予想できた。
島の安全の為には、慎重にしなければならないと思われたのだ。
「この野菜なんですが、実は体力回復力があるんですよ」
「ああ」
平然と返事をする五郎さん。
「それでその・・・生産者を明かさないで欲しいんです」
「はあ?おめえ今さら何言ってやがるんだ?」
五郎さんが呆れた顔をしていた。
「えっ!」
「お前え・・・まさか・・・この野菜に体力回復力があるって、知らなかったってのか?」
何?何ですと?嘘でしょ?
「ガッハッハッハ!お前え、今さら何言ってやがる、そんなことは始めから分かってらあ、だから取引を申し入れたってのに今更何でえ、ガッハッハ!お前え、案外抜けてんなあー!」
いやー、俺ってそういうところあるんですよねー・・・って、五郎さんはとっくに分かってたってことなんですね・・・あー、やだやだ・・・ちょいちょい俺にはこんなことがありますよ・・・ハハハ。
「いやー、島野、お前え、結構抜けてやがんな。あー、笑わせやがる。大丈夫だ、生産者は明かさねえようにしてるから安心しろや、あー、面白れえ!」
「ハハハ・・・」
もう笑うしかなかった。
島野商事設立から一ヵ月が経った。
今の暮らしぶりを、話しておこうと思う。
建設部門の二人はコツコツとインフラ整備の作業を進めていた。
この村から川岸まで直線距離でおよそ一キロといったところ。
最短距離にて測量が開始され、今は道で繋ぐように、森の樹を切り倒している。
あと数日で川岸にまで到達する、というところまでたどり着いた。
作業はやはり体力勝負で、切り倒した樹の枝を払い、丸太の状態にして、村まで運ばなければいけない。
インフラ完成後に各種施設を造る為には、この木材を使用するからだ。
従って、ただ単に樹を切り倒すだけでは無く手間がかかっている。
打ち払われた枝も、回収できる時は回収させている。
良質な薪になるからね。
俺の能力を持ってすれば、簡単にことは運びそうだが、あえて手を出さずに任せる様にしている。
やはり自分達で造るという達成感は必要だと思う。
何でもかんでも簡単にできればいいという物ではないからだ。
それに圧倒的な力を見せびらかすのは、志気を下げることにも繋がる。
ここは最高責任者として、任せることが重要であるとの考えだ。
それに、狩りの合間にノンやギル達が手伝っていることも聞いている。
いいチームワークが生れているということだ。
順調、順調。
漁部門も週二で海に出ている。
ロンメルの希望する網を能力で作成後、本格的に漁を開始した。
ロンメルやノンの『探索』は、海では通用しない為。
本当は『探索』持ちの俺が同行すれば、魚群を見つけることは容易い。
しかしこれもあえて手を出さずに任せる様にしている。
何度か海獣にも遭遇したようだが、ギルがあっさりと追い払っているようで、護衛としての役割をちゃんとこなしているようだ。
大量に魚が捕れる日もあれば、まったくもって捕れない日もあり、これに関してはどうしようもないと考えている。
ありがたかったのは、カツオが釣れたことがあり、そのほとんどは、藁焼きにして皆で食べてしまったが、鰹節も出来上がった事だ。
これにより味噌汁の味が大幅に飛躍した。やはり出汁は料理にとって重要な要素であると改めて感じた出来事だった。
ちなみにロンメルは漁にでない日は、船の整備とワカメの収穫、そして海苔の作成を行っている。
この世界では海苔は無く、海藻は海のゴミとして扱われていたようだ。
たしか地球でも海外ではそう思われていたような気がする。
この海苔の作成は、アイリスさんが興味があるらしく、暇になると手伝っているようだった。
実にいいことだ。
一番手こずっているのは魔法開発部門だ。
理論派のメタンと本能型のゴン、なかなか噛み合わないようである。
まあじっくり腰を据えて行って欲しい。
魔法に関しては俺は使えないし、理屈も分からないので、当然手出しなどはしない。
ただ、要望だけは伝えておいた。
それは、転移魔法を習得して欲しいということ。
理由は簡単で『転移』は俺しか使えない為、役割が分担できないからだ。
それを伝えると、
「転移魔法ですか?上級の魔法士でも使える者など見たことがありませんな」
とメタンが言っていた。
「だから挑むんじゃないか」
適当に俺が返した所、
「さすが島野様、そうですな、仰る通りです。粉骨砕身努力致します!」
なぜだかメタンが鼻息荒く答えていた。
その横でゴンが呆れた顔でメタンを眺めていたのは記しておこう。
次に体力回復薬部門のメルルだが、ここは俺がサポート役の為、しっかりと手を出している。
というか、いいように使い回していると言っても、いいのかもしれない。
要は料理のお手伝いをさせているのである、理由は簡単、まずは野菜に触れてみるにはこれが一番だからだ。
とはいっても、ただ料理をしているのではなく、ちょこちょこ味見をしながら『鑑定』でどれだけ体力が戻るかを計測しながら行っている。どのように調理したら一番体力が回復するのか?野菜の組み合わせなども変えながら行っている。
あとは裏の理由として、この島では俺以外の者で、料理が出来る者がいない為、役割の幅を持たせるという側面もある。
実は、ギルとエルが料理に興味を持っているのは知っているが、彼らに関しては、今後追々と教えていければいいと思っている。
興味を持ってくれていること自体が嬉しいと感じる。
さて、今日は月末の為、後で皆に給料を払わなければいけない。
内訳としては、正社員の島野一家とアイリスさんには一律金貨十枚。
見習い社員の『ロックアップ』の皆には、一律金貨五枚。
俺は金貨三十枚を頂くつもりだが、あえて公表はしない。
今月の『島野商事』の収支だが、売上のほとんどが五郎さんの所で占めている状態で、アグネス便が重宝されていたころからは、考えられない金額となっており、その額はなんと約金貨五百枚となっている。
仕入れや経費は、万能種をたまに使うぐらいで、ほとんど掛かっていない。
掛かるのは人件費のみだ。
従って今月の利益は約金貨三百八十五枚となっている。
但し、この先インフラの整備等で、どれだけ万能鉱石を必要とするか分からない為、気を抜いてはいけないということはよく理解してる。
社長という立場の俺としては、社員の生活は守らなければいけないのだ。
などど言ってはみたものの、最悪経営破綻しても、衣食住には困らないことはよく分かっている。
だが、余裕のある生活は人生をまた違ったものすることも俺は知っているので、ゆとりのある暮らしを行ってほしいと心から思う。
その為に金貨が必要であるならば、稼ぐ手段を取ればいいと思っているだけなのだ。
生活が豊かになれば自然と心も豊かになるだろう。皆には幸せに過ごして欲しいと切に願っている。
休暇の過ごし方は、本当に人それぞれといった具合だ。
趣味に興じる者、体を鍛える者、何もしないでのんびりとしている者もいる。
そして俺の気まぐれで造った、ビリヤードと将棋が島でブームになっており、皆その研究に勤しんでいた。
ただ休日の過ごし方として共通しているのは、サウナは欠かさないという点だった。
その気持ちは痛いほどよく分かる。
それもそのはずで、遂にサウナにオートロウリュウ機能が追加されたからだ。
マークに貰った神石の三つの内、二つも使うことになったがサウナの新機能搭載を優先させた。
いろいろと神石については実験を行った。その結果として分かったことは、能力を込める際に時間を意識すると、能力の発動から休止までを行えると判明した。それを応用して行ったのが、今回のオートロウリュウ機能追加となった。
一定の時間が経つと神石から自動的に水がサウナストーンに打ち付けられ、その後もう一つの神石から熱風が送られるようになっている。
これがなかなか強烈な熱波であり、皆からの評判もいい。
ちなみに『ロックアップ』の皆さんには、サウナは教えたが『黄金の整い』は教えていない。
創造神様との約束はちゃんと守っている。
俺達が整っている様を見て、
「なんですかそれは?」
と聞かれたことはあったが。
「聖獣と神獣は、サウナで整うとこうなるんだ」
と適当な嘘で誤魔化しておいた。
嘘をつくのは偲び無いが、流石に創造神様との約束を裏切ることはできない、教えてあげたいのはやまやまなんだけどね。
俺の休暇はというと、決まって日本に帰っている。
やはり『おでんの湯』に行きたいとの気持ちもあるのだが、実は不安解消という側面もある。
今は畑の作業で神力をかなり使っていると思われる為、神気の補充ということを考えてのことだった。
まだ一度も計測不能から変化したことはないが、やはり島での『黄金の整い』で得られる神気は薄いので、日本で濃い神気を蓄えたいのだ。
もし、俺の神力が枯れてしまったらと思うと、ゾッとする。
日本との二重生活は当分の間止めれそうもない、というかやめる気もさらさらない。
それになにもサウナに入りたいが為だけに日本に帰っている訳ではない。
今後のことを考えて、ネットで調べ物をしたりもする必要があるし。
能力の開発のヒントも得たいと思っている。
それに俺にとってはこの二重生活も案外楽しいものになっているのだった。
晩飯前に皆を集めた。その理由はこれから給料を手渡しするからだ。
「皆さん、この一ヶ月間お疲れ様でした!」
頷く一同。
「今日は月末です。ですので、これから皆さんに給料を手渡しさせていただきます」
「給料ってなに?」
ノンが尋ねて来た。
「労働で得る報酬のことさ」
「報酬とは?」
エルが疑問を口にした。
「お金だよ」
「へー、そうなんだ」
と無関心なノン。
「金額は島野一家の皆なとアイリスさんは、一律金貨十枚とします『ロックアップ』の皆さんは金貨五枚とします」
「「「おおー!」」」
と、どよめく一同。
「ちょっと待ってくれ島野さん、俺達は貰う訳にはいかないよ」
マークが焦りながら言った。
「そうです。貰う訳にはいきませんな」
メタンが追随した。
ここで俺は手を挙げて場を制した。
「いいか、よく聞いて欲しい。労働の対価を貰うのは当たり前のことだ。そもそも俺はこの島で働いて貰うと言ったんであって、誰も無報酬で働けとは言っていない。それに四ヵ月という期間は見習い期間だから、その後は他の皆と同じ、一ヶ月で金貨十枚渡すつもりだ。もしこの島に残ってくれればの話だがな」
『ロックアップ』の皆さんは苦虫を噛み潰したような表情になっていた。
そして一転して。
「旦那、あんたって人は・・・」
「まさに神の所業ですな」
「島野さん、俺は一生ついていくぜ」
「この島から離れるなんて考えられないわよ」
などと口々に言いだした。
どうやら『ロックアップの』の皆さんは、この先もこの島から離れる気は無さそうだ。
それはそれでよかった。
「ではまずはアイリスさんから」
アイリスさんが立ち上がって、俺の下に近づいてきた。
「お疲れさまでした、これからは温泉街『ゴロウ』でのお土産は、自分のお金で購入してくださいね」
「あら、そういう風にこれを使えばいいのですね」
アイリスさんは微笑んだ。
アイリスさんは俺が五郎さんの所に納品に行った際に、お土産として購入してくる饅頭が大好物なのだ。
「ノン、お疲れ様」
「はーい」
こいつは金銭の価値をどれだけ分かっているのだろうか?
まあいいや。
ノンに給料を手渡した。
こんな調子で皆に給料を手渡した。
受け取った一同は俺に感謝の言葉を告げた。
俺もちゃんと彼らの労働に感謝の意を込めて、全員に手渡しをさせて貰った。
今後もこういった。良い関係性を続けていきたいものだ。
改めて俺は皆に言った。
「皆聞いて欲しい、今日からはルールを新設することにした」
「ルールって何?パパ」
ギルが疑問を口にした。
「ルールってのはな、ギル、守るべき決め事ってことだ」
「うん、分かった、約束ってことね」
理解が速くてよろしい。
「まず今後の方針として、嗜好品は全て自分で購入するようにします」
数名がなるほどと頷いている。
「嗜好品とは?」
ゴンが聞いてきた。
「具体的に話そう、まずビールは一人二杯まではこれまで通り飲んでくれて構わないし、ビール以外のアルコールが欲しいのなら、同様の分はお金は取らない、三食の食事もこれまで道り提供するし、住む家もこれまで通りに使って貰って構わない、これはすなわち福利厚生だ」
皆が理解できているか皆を眺めて見る。
うん、よさそうだな。
「ルールとしては、ビールは三杯目以降は、一杯につき銀貨五枚頂くし、その他のアルコール類も同様で、飲みたければ自分の金銭で購入して欲しい。基本的にこの島の野菜やその他の収穫物や、製作されている物品は『島野商事』の物となる。従って、それらの物が欲しいときは、自分で『島野商事』から購入して欲しいということだ。購入先は俺かもしくは管理部門のゴンかメタンにお金を手渡して欲しい。ちなみにツケは無しだ。明朗会計のみとする」
「他には何が嗜好品に当たるんでしょうか?」
「そうだなまずは衣服、そして靴だな、後は雑貨や俺が造る物品などかな」
実は靴に関してはとても喜ばれたのが、スニーカーだった。
この世界の靴の基本は革製が主流で、靴底は皮によるものが多かった。
しかし俺の造るスニーカーは、靴底がゴム素材の為、グリップが効いて歩きやすいと評判が良い。
靴は生活における大事な要素なのだ。
「これまで道り作業着や長靴は支給品として扱うが、業務以外の物は自分達で購入することにする」
更に俺の『合成』の技術も相当な物となってきており、今ではありとあらゆる衣服の作成が可能となっていた。
「あとは俺が五郎さんの街に出かけた時に皆に、欲しい物があったら買ってくるから、これも自分たちの稼ぎで買うようにして貰う、今後はこのようなルールを設けます」
「分かりました」
「了解です」
「承知しました」
こうして、島のルールが新設された。
「じゃあさっそくワインを一本買わせてもらおうかな?」
マークがにやけ顔で言った。
「了解!ワインは一本銀貨三十枚、他では銀貨四十枚で売ってるけどな、社員割引きってことだ」
「おっ!良心価格」
と、こうしてルールの運用が始まった。
流石はマークだな、こうやって実践して皆に教えてくれているってことだ。心遣いに感謝する。
『ロックアップ』のリーダーは伊達じゃないね。
出来る部下がいると助かるなと感じる。
ありがたいことです。
先日とても重要なことが発見された。
それはいつも道りの、朝の畑作業中に起きた出来事だった。
俺達はいつも通りの畑作業を行っていた。
作業途中に畑の傍にある、創造神様の石像に、メタンが祈りをささげた時に石像が光り、神気を発したのである。
「おい、メタン、今何をやったんだ!」
なんで石像から神気が?
「え?何をやったって、創造神様に祈りを捧げただけですが・・・」
はあ?それでこんなことになるのか?
「今、石像が神気を発してなかったか?」
「ええ、そうですが何か?」
まったく動じていないメタン。
何かいけない事しましたか?という顔をしている。
「祈りを捧げると、決まってこうなりますな」
今度は知らないのか?という表情を浮かべている。
「そうなんだ、知らなかったよ」
これまでも薄っすらと光ってるかな?と感じたことはあったけど、ここまではっきりと見て取れたことは無かった。
なんてことだ・・・
「いやあ島野様、この島に来てから私はずっと思っていました。この石像は素晴らしいですな、まさに創造神様を体現しているのではないかと、そう思いこの石像の前を通る時には、こうやって祈りを捧げていたのです。そしたらその祈りに答えてくれる様になったのですな。こんな幸福感に満ち溢れたことはありませんでしたよ。なんでもこの石像は島野様が造られたのだとか、それに、ゴン様が言うには本人にそっくりだと、いやなんとも素晴らしいですな・・・ペラペラペラペラ」
勝手に悦に入りだしたメタン。
こいつよくしゃべる奴だな。
てっことは置いといて。
「なあメタン、教会にも創造神様の石像は置いてあると思うんだが、その石像はどうなんだ」
そうだ、リズさんの教会にもあったぞ。
「そうですな、そう言われてみれば、稀に薄っすらと光る時はありましたな、ここまで光り輝くことはありませんでしたな、にてもペラペラペラペラ・・・」
そうなんだ、石像の完成度の違いかな?祈りを捧げる人の違いか?
「その祈りってのは、具合的にはどうやってるんだ?」
どんなことを考えて祈っているのかが重要に思える。
「具体的にですか?私の場合は創造神様に感謝を述べる様にしておりますな、あとは世界の平和を祈ったりですかな」
「なるほど、ちなみになんだが。メタン以外の人が祈っても光るのか?」
こいつは異常なぐらい信仰心が高いからな。ここは確認が必要だろう。
「どうでしょうか、私は信心深い方ですが、他人の祈りを気にしたことはありませんな」
「そうか、ありがとう」
ちょうどそこに、メルルが通りがかった。
「メルル、ちょっといいか?」
試すようで悪いが、これは非常に重要なことなのだよ。
メルル君頼んだよ。
「どうしましたか?」
駆け寄ってくるメルル。
「そこの石像に祈りを捧げてみてくれるか?」
俺は石像を指刺した。
「石像ですか?ええ、分かりました」
少し困惑気味のメルル。
すると、薄っすらと石像が光り出し。神気を発した、数秒すると光は収まっていった。
「ええ!嘘でしょ?」
メルルも驚いている様子。
メタンが祈った時ほどの、光量では無かったが、確実に光っていたのは間違いないようだ。
これは、個人差がありそうだ、おそらくメタンはかなり信心深い、というのはこれまでの彼の発言等でよく分かる。メルルはメタンほど信心深いとは感じない。信心の深さが関係しているとみて間違いなさそうだ。
「メルルは、これまで石像に祈りを捧げて光ったことは無かったのか?」
どうなんだろう、これも重要な部分だ。
「一度もあまりませんでしたよ、びっくりしました。これどういうことですか?」
やっぱり無いんだ、メタンはあったようだが。
「それを今調べてたんだよ、ありがとう、協力してくれて」
自分で言うのもなんだが、この石像はかなりの自信作で、創造神様にもよく似ている。
祈る人が、よりリアルに創造神様をイメージできる、ってことなんだろうか?
そうなると、リズさんの教会の石像はどうなんだろう?
ちょっと行ってみるか。
アイリスさんに許可を貰い、ギルを引き連れてリズさんの教会に、行ってみることにした。
教会の中に入るとリズさんが、まさに石像に祈りを捧げているところだった。
石像が神気を発しているのが分かる、しかしリズさんは祈りに夢中でそれに気づいていない様子だった。
「リズさん、こんにちは」
リズさんが振り替えってこちらを見る。
「ああ、島野さんこんにちは、本日はどうなされましたか?」
「あの、今、祈りの最中でしたよね?」
「はい、そうですが」
石像を俺は指刺した。
まだ薄っすらと石像が光っている。
「えっ、石像がなにか?」
ん?気づいてないのか?
「今、光ってませんでしたか?」
ちゃんと確認する必要がある。
「そうですか?私この通り目が悪いので、この距離となると、ぼやけてしまうんですよ」
まじか!単に視力が悪くて見えないってことか、何だそれ。
「でも、子供達が光ってると言ってたことはあったんですが、ちょうど陽の当たる位置ですし、何かの見間違いでしょうと、取り合いませんでしたが、どういうことなんでしょうか?」
うーん、どう説明しようか悩むな。
「ギル、石像の後ろに立っててくれないか?石像が影になるように」
「分かったよ、パパ」
石像の後ろにギルが回り込み、石像に陽が当たらないようになった。
ギルは石像の後ろに浮いている。
「リズさん、もう一度祈りを捧げて貰ってもよろしいでしょうか?」
これなら分かるはず。
「ええ、構いませんよ」
と言うと、リズさんは祈りを始めた。
それに応えるように石像が光り出した。祈りを終え、目を開けてリズさんは石像を見た。
「あらまあ、これは嬉しいこと」
とリズさんは微笑んだ。
「この年になって、初めて見ましたわ『聖者の祈り』を」
「『聖者の祈り』ですか?」
この現象に名前があるのか、そうなんだ。
「ええそうです、信心深い高位のシスターが、稀に祈りを捧げると起きる現象のことです、まさか私に『聖者の祈り』ができるとは、こんなに嬉しいことはありません、ありがとうございます」
と言って静かにリズさんは涙を流した。
俺には一瞬石像が笑ったかのように見えた。
まあ見間違いだろうけどね。
リズさんの信仰は深い様だった。
「そう言えば、おかげで雨漏りが無くなりました。島野さんありがとうございました」
とお礼を言われた。
「あとリズさん、お願いがあるんですが」
「ええ、なんでしょうか?」
「この石像を改修したのが俺だってことを、秘密にして欲しいんですよ」
何で?という表情をしたリズさんだったが、
「ええ、島野さんのお願いなら、必ず守ります」
と約束してくれた。
リズさん申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
その後、俺とギルは孤児院に野菜をいくつか寄付し、帰宅の途に就いた。
その翌日、俺はメタンとギルを引き連れて、五郎さんの所にやってきた。
「おー、島野、それにギル坊、元気だったか?」
「元気だよ、五郎さん」
五郎さんがギルの頭を撫でている。まるで、孫と祖父だなと俺は思った。
ギルは五郎さんのことが大好きなようだ。ギルも五郎さんに好かれているようで何よりだ。
微笑ましい光景だ。
「お、見ねえ顔がいるな」
「メタンです、家の見習い社員です」
メタンを紹介した。
「メタンと申します、以後お見知りおきを」
メタンは仰々しくお辞儀をした。
「そうか、儂は山野五郎だ、五郎と呼んでくれ、で島野、今日はどうした?納品は明日じゃなかったか?」
五郎さんは俺の方に向き直った。
「五郎さん、実は見て欲しい物があるんですよ」
俺の表情がいつになく真面目に見えたのか、人払いできる部屋に通された。
「五郎さんこれなんですが」
『収納』から石像を取りだした。
「おお!立派な石像じゃねえか」
「実はですね」
これまでの経緯を俺は五郎さんに話した。
「するってえと、信心深い者がこの石像に祈りを捧げると、神気が放出されるってことか?」
百聞は一見に如かず。見てもらいましょうか。
「そうです、メタン頼む」
メタンが石像に祈りを捧げると、石像が光り出し、神気を放出しだした。
「おお、おおお!凄げえじゃねえか。なんでえこりゃあ」
五郎さんが驚いている。
ドヤ顔のメタン。
メタン君、相手は神様ですよ。ほどほどにね。
「『聖者の祈り』というらしいのですが、知ってましたか?」
先ほどリズさんから聞いたばかりだが、どうなんだろう。
「『聖者の祈り』いやあ、聞いたこたあねえな」
情報通の五郎さんでも知らなかったか。
「前にこの世界の神気が薄くなっているって、話をしたじゃないですか。それでこれを使えないかと思いまして」
実は五郎さんには、神気が薄くなってます問題は共有済で、何かしらそれに関係する情報が無いかと相談していたのだ。
「これをまずはお地蔵さんのように、街道や街の邪魔にならない、至る所に配置できないかと思いまして」
「なるほどな、いい考えじゃねえか」
「これが広まれば、少しでも神気減少問題を解消できるんじゃないかと思ったんです」
腕を組んでなにかを考えている様子の五郎さん。
「よし、どこにどれだけ置けるか調べておこう、それと島野、一人紹介したい奴がいるんだが、かまわねえか?」
誰のことだろうか?
「ええ、どなたですか?」
「エンゾだよ」
五郎さんから聞いたことがある、たしか経済の神様だったような。
なんでまた?
ああそうか『タイロン王国』にも広めようってことだな、さすがは五郎さんだ。
「よろしくお願いします」
石像を五郎さんに預けて、俺達は温泉街『ゴロウ』を後にした。
ついでにアイリスさんからの要望で、饅頭を十個購入したことは、あえて記しておこう。
それから数日、俺は石像の製作に明け暮れた。
大変だったのは、石の確保だった。
万能鉱石を用いることはできるが、それは違うと考えた。
この石像は、この世界にあるもので造るべきだと。
さらに、安易な道を取るべきでは無いとも思った。
苦労をしただけ、その石像に思いが宿るのだと考えたからだ。
ゴンから、島の東側に岩石群があることを教えて貰い、石の確保を頑張った。
ここ数日で石像を五十体作成した。
そして、雨避けが必要となる為、簡単な社を製作した。これも五十台ほど。
次に『コロン』の街を訪れ、ドラン様に事情を説明したところ、是非にと協力を得られたのでお地蔵さんを設置することになった。
これを反対する神様はいないだろう。
なんとっても、神気は神様にとっては必要不可欠なものだからだ。
ほとんどの神様が神気の薄さには気づいているはずで、危機的な状況であるともいえる現状を、少しでも変えようというのだから、賛成一択であるのは間違いない。
ドラン様に、十体の石像と社を十台預けて、養蜂の村のレイモンド様のところへと向かった。
レイモンド様にも、ドラン様同様に理解を得られた。
石像五体と社を五台預けておいた。
設置場所等はレイモンド様に任せておいた。
こうして『お地蔵さん大作戦』が開始されることになったのである。
温泉街『ゴロウ』の人払いされた一室で、俺の正面にはエンゾ様がおり、その隣には五郎さんが座っていた。
俺は目の前のエンゾ様に釘付けになっていた。
エンゾ様は、まるで行司の様な恰好をしていた。
透き通る肌に、薄っすらと紅が入った唇、切れ長の目、そしてその目には知的な光を宿していた。
とても綺麗な女性だった。
これまでの人生で出会った女性の中でも、最上位クラスの美しさであることは間違いない。
そして、俺は知的な女性は好きだ。
なんといっても、話の飲み込みが早い上に、話の理解が速い。
知的な方との話は、話のテンポやリズムが、シンクロしやすいと思っている。
彼女からはそんな気配を感じていた。
「初めまして、島野守です、よろしくお願いいたします」
俺は軽く会釈をした。
「こちらこそ始めまして、エンゾと申します。五郎から話は聞いているとは思いますが『タイロン王国』で、経済の神をやらせていただいておりますわ」
エンゾ様は真っすぐに俺を見ている。
その瞳の奥には、大らかな優しさが含まれていた。
「早速ですが、石像のことは聞いてますか?」
俺は切り出した。
「ええ、聞いたわよ。素晴らしいアイデアだと関心しましたわ」
五郎さんが隣で頷いている。
「エンゾよ、島野は目の付け所が良いと思わねえか?」
五郎さんが同意を求める。
「まったくですわ」
「儂も日本人だが、お地蔵さんとは恐れ入ったぞ」
お地蔵さんは日本人の心ですもんね。分かりますよ。
「俺達日本人にとっては、お地蔵さんは生活の一部みたいなものですからね、街や村の片隅に置いてあったり、街道筋にも置いてある。旅の安全や地域の安全を見守るように、との思いから造られたと聞いたことがあります」
エンゾ様が感心した様子で聞いていた。
「いい文化ですわね、そのお地蔵さんというのは創造神様なんでしょうか?」
俺はこの世界独特の質問だと感じた。
「いいえ、そうではありませんね。なんというか、簡単に体と顔がある石像ですね、中には凝った造りをしている石像もあるらしいのですが、一般的なのは先ほどお話した石像ですね。創造神様を象徴しているとは、聞いたことはありません」
五郎さんが話を繋ぐ、
「あれは、氏神さんに近いんじゃねのか?」
「どうでしょうか?よく分かりませんが、いずれにしても、宗教感はあまり感じないですね」
「宗教ねえ・・・」
エンゾ様が少し表情を曇らせた。
「どうかしました?」
宗教というところが気になっている様子だった。
「宗教ってものがなんなのか、前に五郎に教えて貰ったことがあるけど、あまりこの世界にはいいものとは思えないわ」
「でもこの世界に宗教は無いと聞いていますが?」
俺はこれまでに聞いていることを伝えた。
「それがそうでもないのよ。北半球には何かしらの宗教があるってことらしいの」
えっ、そうなのか?情報が間違っているのか?
「そうなのか?儂も初めて聞くぞ」
五郎さんも俺と同じで、初めて聞いたことのようだった。
「まあ、今回の石像は、創造神様を象ったものですので、今回の計画には宗教的要素はありませんので、問題無いと思いますが」
「そうね、少し脱線してしまったようね、ごめんなさい」
軽くエンゾ様が会釈した。
随分正直な神様のようだな。
好感が持てる。こういう人は好きだ。
「本筋の話をする前に、ちょっと話しておきたいことがあるのだけどいいかしら?」
エンゾ様の問いかけに、俺と五郎さんは頷いた。
「そもそもの神気が薄くなっていることについてなんだけど、何か情報や心当たりは無いかしら?」
「儂は残念ながらねえな、いろいろと客とかにも聞いてはいるんだがよ」
俺は世界樹の件が頭を過ったが、この場では伏せておくことにした。
「俺も無いですね」
エンゾ様が残念そうな表情をした。
「実は数名の動ける者達がいろいろ調査をしてくれてはいるけど、なかなかこちらも上手くいってないようなのよ」
前に創造神様が、動いている者もいると言っていたが、その者達なんだろうか?
「そういやあエンゾよ、そもそもいつから神気は薄くなってんだ?」
それは重要なところだと思う。
「はっきりとは覚えてないけど、薄くなり始めたなと感じたのは、百年前ぐらい前かしら」
「するってえと、儂がこっちに来た頃ってことだな」
百年前といったら、世界樹が活動を止めた頃だが、偶然の一致なのか?
それより世界樹が再開した今でも、まだまだ薄いってことは、明らかに他にも原因があるということになる。
そうだとは思ってはいたが、改めて考えてみると、やはりそういう結論になる。
早く原因が判明して欲しいのだが、今はまだ難しそうだな。
「百年前ぐらいから徐々に薄くなってきたと感じるわね、ただ、ここ最近多少持ち直した感はあるわね」
なかなかエンゾ様は鋭いようだ。世界樹が復活しましたからね。
「今回のお地蔵さん大作戦で、もっと持ち直して欲しいですね」
どれだけ効力を発揮するかは未知数だけどね。
「ああ、まったくだ」
「本当にそうね、神気不足は、私達神にとっては死活問題ですからね」
皆で頷き合っていた。
「それでひとまず三十五体の石像と、三十五台の社は、俺の方で既に作成済みですが、足りますでしょうか?」
勝手にこれぐらいかと考えたのだがどうだろうか?
「おめえ流石だな、仕事が早え『ゴロウ』では十体頂こう」
エンゾ様が続く、
「『タイロン』は二十体頂こうかしら、残りの五体は『タイロン』と『ゴロウ』を繋げる街道筋に設置しましょう」
ちょうどの数となった。
「あと、本当は教会の石像も改修したいところなんですけどね」
『タイロン』には行きたくないからな。やれやれだ。
「えっ!島野君教会の石像の改修はやってくれないの?」
エンゾ様が驚いている。
「いやー、『タイロン王国』には行きづらくて・・・」
「どういうこと?」
俺は『タイロン王国』でやらかした、ジャイアントイーグルの件について話した。
「あれって、島野君だったの?凄いじゃないの!」
エンゾ様が目を輝かせている。
その反応が嫌なんですって・・・
俺は英雄とか持て囃されるのは苦手なんですから・・・
勘弁してくださいよ、まったく。
「英雄扱いされるのはどうにも苦手でして、それにいろいろな人に囲まれるのは目に見えているので、避けているんですよね、タイロンは・・・」
「そういうことなのね」
エンゾ様が何かを考えている様子だった。
「夜中にこっそりやるってのはどう?」
はあ、何言ってんの?
神様がそんなこと言っていいの?
まあ出来るけど・・・
「エンゾ様、本当にそれでいいのですか?」
神様の発言とは思えないけど、どうなんだろうか?
「いいも何も他にやりようがあって?あと私のことはエンゾでいいわよ」
二ヤリと笑うエンゾさん、その表情にはゾッとするような迫力があった。
怖いんですけど・・・エンゾさん・・・
「おい、島野おめえ、そんなことできるのか?」
当然の疑問ですよね。
「まあ、なんとかできますけど、あまりやりたくは無いですね」
「おめえ、出鱈目だな」
やっぱり言われましたか。言われると思ってましたよ。
「はい、最近自覚しました」
「やっぱりね、この数日でなん十体も石像が出来るってことは、そういう能力を持っているってことよね?」
エンゾさん、どこまで俺のことを分かってる?
いろいろ怖いんですけど・・・この人・・・
「まあそんなところです」
誤魔化せれたとは思いづらいな。
「他に話し合いたい議題はあるかしら?」
エンゾさんが仕切る。
「あっ、すいません、教会の場所はせめて教えて貰えると助かるんですけど」
そう言うと、エンゾさんが地図をくれた。
「ここに、記している四ヶ所が『タイロン』の教会の位置よ」
あとで透明化して見にいかないといけないな。
「準備が良い事で・・・」
「これぐらい当たり前でしょ?」
なんだか、降参です。
綺麗な花には棘がある、とはこのことかと思う俺だった。
お地蔵さん大作戦は人知れず開始された。
場所は『タイロン王国』
月の光が明るい深夜の出来事だった。
俺は透明化の能力でひっそりと教会に偲び込み、教会の石像を『加工』で改修を行っていった。
その数四ヶ所。
周りに人の視線が無いことを確認した上での作業、見られてはまずいと最大限の注意を払った。
確認してみたところ、どの石像も原型を留めていなかった。
教会の管理はどうなっている?
石膏職人がいないのか?
なんとか、夜が明けるまでに作業を終えた俺は、人知れず帰宅の途に就いた。
あー、疲れた。
これ以外に言える言葉は何も無い。
だが、やり遂げたという達成感もあった。
とにかくこれで、この世界の滅亡の危機を、少しでも先延ばし出来れば、御の字だと思う。
やれやれだ。
その後、お地蔵さん大作戦は大いに成功した。
一夜にして、教会の石像が改修されたことは、創造神様の奇跡として扱われ、その後の時代に足跡を残すことになった。
第一発見者である、とあるシスターはあまりの出来事に、腰を抜かした。
そして、四ヶ所の全ての教会でその奇跡はおき、あまりの衝撃に気を失う者まで現れた。
「創造神様が顕現してくれた」
「奇跡が起こったぞ!」
「神の御業だ!」
等と『タイロン』国内が創造神様の石像の変貌に打ち震えた。
また、その完成度の高さに、感涙する者が後を絶たなかった。
教会に人々が殺到し、これまで信心深く無かった人達まで教会に訪れ、真剣に祈りを捧げた。
信心深い人や、聖職者にとっては「聖者の祈り」が叶うと、感動で打ち震える者や、中には号泣する者までいた。
連日祈りを捧げる人達で、教会は大賑わい。
この奇跡を目の当たりにし、教会に寄付をする人達まで現れた。
さらに、後日お地蔵さんが、国のあらゆる街道筋や、街の片隅に配置され、道行く者や、近所の者達によって、お地蔵さんの掃除などが行き届き。
適切に管理されるようになっていた。
そして、その余波は他の地域にも波及し「聖者の祈り」が出来ると、特に聖職者の間で、一代ブームとなり、その祈りはかつて無いほどの、賑わいをみせていたのであった。
いったい誰が、石像を改修したのか?
との犯人探しが始まったが、未だに犯人は特定されていない。
俺はそんなことになっているとは露知らず、島でのサウナ満喫生活を楽しんでいるのだった。
いやー、サウナって最高!
とのんきな俺であった。
サウナっていいよねー。
ハハハ!
『島野商事』設立から三ヶ月が経った。
俺達は畑の一角に集まっている。
俺は皆の視線を一身に浴びていた。
俺の左手は蛇口の栓を握っている。
「ではいくぞ!」
固唾を飲んで見守る一同。
誰かの唾を飲み込む音が聞こえる。
俺は一気に栓を捻った。
シュー!
蛇口から勢いよく水が溢れて出て来た。
確かな水量と、しっかりとした水圧があった。
「「やったぞー!」」
とマークとランドが叫ぶ。
「おめでとうございます!」
「ありがとう」
「たいしたもんだ」
などど、口々に賞賛の声が響いた。
俺はマークとランドの下に駆け寄り、二人と握手をした。
「よくやってくれたお前達!」
本当によくやってくれたと思う、これでいろいろな施設のグレードが上がるぞ。
「いやー、何言ってるんですか、ほとんど後半は島野さんの作業だったじゃないですか」
「そうですよ、島野さん」
と謙遜する二人。
「何を言っている、お前達の作業があったから、これは完成したんだぞ、もっと誇れよ、なあ皆!」
俺は皆を煽った。
「そうだぞ!」
「謙遜はなしですな」
「マーク、ランド胸を張れ!」
「すごいわよ、あなた達!」
とマークとランドの功績を認める声が降り注ぐ。
マークとランドは嬉しそうにしていた。
これでいい、確かに後半は俺が仕上げたが、俺は今回の功績を、自分の手柄にはしたくないのだ。
上に立つ者としては、自分の手柄よりも、部下の手柄となって欲しいと思うものだ。
実際一番の体力仕事を、この三ヶ月間頑張って来たのはこの二人だ。
俺は、自分の能力で仕上げを行っただけ。
賞賛されるべきは、この二人なのだ。
「よし、皆胴上げだ」
俺の音頭に集まる一同。
皆が一ヶ所に集まる。
マークは照れながら中へと入っていく。
マークが空を舞った。
そして続けてランドが空を舞って・・・落ちた。
ドン!
「いってえ、勘弁してくれよ」
大爆笑が巻き起こった。
でかい図体なんだから、お決まりには答えて貰おう。
「よし、今晩は打ち上げだ。アルコールの制限は無しだ!」
そういうと、皆が口々に好きなことを言い出した。
「やったー!」
「吐くまで飲んでやるぞ」
「ワイン三本は確定ですな」
「あんた達調子に乗るんじゃないわよ」
「主、よろしいので?」
「僕はどうせお茶なんでしょ?」
「私しは二日酔いは勘弁ですの」
俺は手を挙げ皆を制した。
「宴会やるぞー!」
「「「おお!!」」」
皆さんお酒はほどほどにね。でも楽しもうね。
ハハハ。
この島初の宴会が始まった。
食事はバーベキューとなった。
宴会と言えばこれでしょ、ということになった。
一部ピザを望む声もあったが、俺も飲みたかったのでバーベキューにして貰った。
だって楽なんだもん。
たまには楽させてちょうだいよ。
皆な、ジョッキを片手に俺の音頭を待っている。
「そうだな、せっかくだから、今日の音頭はマークにお願いしよう」
そう言うとマークが照れながらも、皆の前に出てきた。
「では、ご指名ですので、遠慮なく音頭を取らせていただきます」
「よっ!リーダー」
「頑張んなさいよ」
「決めてくれよ」
等と言葉が飛び交う。
いつになく真剣な顔つきになったマークが話しだした。
「まずはこの場を借りて、島野さん一同いや、島野一家の皆さんに感謝を伝えたい。本当にありがとうございます」
『ロックアップ』の皆が席を立ち、頭を下げた。
俺達は何を言うことも無く、その感謝の意を受け止めた。
「俺達は命がけでこの島を目指した、無茶な旅をしたと思う。今思うと、どうかしてるとすら思えるほどだ。ジャイアントシャークに襲われた時は、本当に死を覚悟した、あの時の光景を俺は一生忘れないと思う。ギルに跨る島野さんが、こう言ったんだ「やあ、大変そうだね」って」
「ああ、そうだったな」
「そうでしたな」
等と後押しをする一同。
「俺はその時思ったよ、俺達の人生を変えるとんでもない、何かが始まるんじゃないかって」
皆な、聞き入っている。
「そして、それは間違っちゃいなかった、この出会いが俺達の人生を大きく変えた。これまでの人生が、何だったのかと思えるほどの、幸福感に満ちた人生に変わった」
「ああ、間違いねえ」
ロンメルが呟いた。
「俺達は島野さんと出会い、ノン、ギル、ゴン、エル、そしてアイリスさんと出会った、皆な俺達に優しかった。ただの負傷者集団でしかなかった俺達に対して・・・本当に心に染みたよ、嬉しかった。そんな俺達を、島の皆なは当たり前のように受け入れてくれた。挙句の果てには、住む家を与えてくれて、食事も与えてくれた、在ろうことか労働の対価だって給料まで与えてくれた。こんな幸せは、俺達の常識には無いんだよ」
「そうだわ、間違ってないわ」
メルルが同意する。
「そんな俺達がこうやっていられるもの全て、島野さんのお陰だと俺は思っている。今日この場で改めて俺達は誓う。島野さん、俺達はあなたに一生ついて行く!」
『ロックアップ』の皆が片膝をつき、頭を垂れた。
俺はその様をまるで映画のワンシーンを見る様に受け止めていた。
そして、頭の片隅でこうも思っていた、マークの野郎やってくれたなと。
こいつに振るんじゃなかったな、上手くやりやがってこの野郎、でももし、俺がこの島を離れることがあったとしたならば、この島はこいつに任せようと。
「まあ、成り行きだよ」
こう言うのが精いっぱいだった。
「島野さん、俺達はこの先何があっても、あんたを裏切らない。あなたの為になるんだったら何でもやる。そんな俺達のことを、今後もよろしくお願いします、ってことで皆な、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
グラスがガシャンガシャンと音を立てている。
ごくごくと飲み干す一同。
「さあ、食うぞ!飲むぞ!」
誰が言ったか分からないが、その声は幸せに満ちた、一言だった。
俺はアルコール以外の何かに酔っている自分を感じた。
それは、とても幸せな酔いだった。
人生の中で初めて『黄金の整い』以上に、幸福感を感じる出来事だった。
せっかくなので、上下水道の話をしよう。
我ながらそれなりに頑張ったので是非聞いて欲しい。
二ヶ月以上の期間を掛け、マークとランドが給排水の基礎となる道と地盤を完成させていた。
そこで俺は水道管を設置していく。
素材はステンレスを使用することにした。
鉄だと錆びの不安があり、また、今後のメンテナンスを考えるとこれしか思いつかなかった。
費用はそれなりに掛かったが、気にしない。
水道管は川から引かれている、そして、村から百メートル先には浄水するためのため池が造られている。
ため池は十メートル四方で深さは百五十センチほど。
土のままでは具合が悪いため、コンクリートを使用している。
浄水池を造ったのは、川から直接蛇口では、砂や小石等が含まれている可能性があると考えたからだ。
また、雑菌などが含まれる可能性も考えた。
川の水を『鑑定』したら飲用可となってはいたが、安全性はより高いレベルで確保したい。
そこで、浄水池で一旦川の水を貯め、そこで水を安全な物にしようと考えた。
実際、浄水池の下にはよく見ると小石や、砂が溜まっていた。
そして、川で魚を確保した。
その魚は『プルコ』という名の魚で、ハゼの様な容姿をしていた。
その『プルコ』だが、たまたま川で見つけたのだが
『鑑定』してみたところ、水の掃除屋さんとなっていた。
確か地球の魚でも、水中の微生物や苔などを食べる魚がいたことを思い出し。これと同様のものであると考えた。
念の為、アイリスさんに聞いてみたが、俺の解釈は正しかった。
アイリスさんは水草にも意識を向けられるのだからその判断は間違い無い。
その『プルコ』を川で大量に捕まえてきて、浄水池に放逐している。
この浄水池は排水側の方にも設けてあり、内容は引き込んだものと同じ仕組みになっている。
この『プルコ』だが、実は繁殖力が高く、ものの一ヶ月で倍の数になっていた。
特に排水側の『プルコ』の成長が早く、食用にもなる為、数ヶ月後には、食卓に並ぶことになりそうである。
試しに一度食してみたが、身がプリプリでとても美味しかった。
浄水場は、水の浄化施設だけではなく『プルコ』の養殖場としても活用されている、正に一石二鳥となっていた。
ありがたいものです。
そして、畑への水道の引き込みと共に手を入れたのは、風呂場であった。
これを機に男女別々にすることにした。
まず最初にお風呂一号機となる、木の風呂を解体した。
長いことお世話になり、ありがとうございました。
そして、洗い場にはもちろんのこと、新設した風呂にも水道が引き込まれた。
ここに実は一工夫入れている。
今回の土木工事中に、マーク達が神石を五個発掘していた。
どうやら神石は地中に埋まっているものらしい。
この神石に自然操作の火の能力を付与したことで、風呂場にお湯が出ることになった。
更に洗い場にシャワーを設置した。
神石が四個しかない為、男女共に二台づつ設置した。
当然お湯がでるようになっている。
これで手持ちの神石は無くなった為、新たに発掘されることを祈りたい。
風呂場が一気に豪華になり、皆な喜んでいるようだった。
俺の風呂などを建設するスピードの速さに、マークとランドは、度肝を抜かれたようであった。
「なんでもありだな」
などと呟いていた。
せっかく得た能力なんだから、気にせずに使わせてもらうさ。
そして、その後は水道管を台所に引き込んだ。
水道があると、料理の手間が省ける。
野菜を洗ったりできるし、何より洗い物が楽になった。
大変重宝している。
そして、なにより望まれたトイレが遂に水洗式となった。
はやり、衛生的なトイレは素晴らしい。
匂いも気にならないし、掃除も簡単に済む。
ありがたいことです。
こうしてみると、やはり上下水道を引き込んだのは正解だったと言える。
暮らしが豊かになり、文化レベルも格段に上がったように思える。
どんどん島の暮らしが豊かになっていくのが、なんとも嬉しく思う。
数日後、料理の為に自然操作の火を使っていたところ、
ピンピロリーン!
「熟練度が一定に達しました。ステータスをご確認ください」
とのアナウンスがあった。
自然操作がLV3になっていた。
これにより、天候の操作と、雷の操作が出来るようになっていた。
水道が完成して数日で、これは無いんじゃないかと思ってしまった。
タイミングってもんがあるでしょうが!
だって、雨を降らせれるんだったら、畑に水道いらないじゃないか!
悔しいから、畑用には雨を降らせないことにした。
だって悔しいんだもん!
もう!
やってらんないよ!
先日のこと、俺はある魚を求めて、漁に同行することにした。
ロンメルと、ギル、そして、エルと俺の四人で船に乗り込む。
出発して直ぐに『探索』を行う。
脳内マップに魚群が表示される。
魚の大きさによって、光点のサイズが変わる為、大きな物を探す。
どうやら海獣はいないようだ。
だが、お目当ての魚もいない様子。
もしかしたらこの世界にはいないのだろうか?
『探索』の範囲を広げてみる。
お!あった、おそらくこれだと思う。
二メートル近くある影が何匹かあった。
ロンメルに指示を出し、その方角に向かって貰う。
ターゲットもなかなかスピードが速い、行動予測にて、行く先を予想する。
「ロンメル、もう少しだけ一時の方角に向かってくれ」
「了解」
ロンメルが帆の位置を調整し、船の向きが変えられていく。
「ギル、エル、網の準備だ」
「OK!」
「はいですの!」
俺達は網の準備に取り掛かった。
徐々にターゲットとの距離が詰まってきた。
ギルとエルが、合図と共に網を持って飛び出す手筈となっている。
この辺だな。
よし!
「ロンメル、船を止めてくれ、錨を降ろすぞ」
ロンメルは船の固定用の錨を降ろしている。
俺は網を海に降ろした。
網の先端には重りがついており、一斉にその重りを海に沈めた。
「ギル、エル、やってくれ」
そう言うと二人は船から飛び出した。
二人の手には網の先端が握られている。
二人は半時計周りと時計周りに飛んで。四十メートル先で合流した。
「そのまま止まっててくれ」
脳内マップを見ると、三匹ほど網の中にいた。
「ロンメル、行ってくる」
と俺は言うと、海中にダイブした。
海の中を潜っていく。
『浮遊』の能力で海中でも推進力を持って進むことが出来る。
いたいた、まずは一匹。
神気銃で打ち抜くとターゲットが気絶した。
捕獲して海上に引き上げる。
「ロンメル、引き上げてくれ」
「はいよ、うわ!なんだこの魚は、マグロじゃねえか」
「ああ、まだ二匹いるから捕ってくるよ、あと、そいつは気絶してるだけだから。慎重に頼むぞ」
マグロをロンメルに預けて、もう一匹を捕獲しに行った。
二メートルクラスのマグロを、三匹確保した俺達。
二匹は既に自然操作で凍らせてある。
もう一匹は『分離』で千貫だけ行い『収納』に収めてある。
「旦那、良いのも見させて貰ったよ、あんな漁が可能とはな」
船の帆を操作しながらロンメルが言った。
「普段はどうしているんだ?」
「俺は投げ縄でやっているよ」
「そうなんだ」
「しかし、マグロとは恐れ入った、久しぶりにあんな大物を見たぜ」
「ちょっとマグロで作りたい料理があってさ、まあ期待していてくれよ」
そう言うと、ロンメルが二ヤリと笑った。
この日の為に用意しておいた、三メートルサイズのまな板を、庭のテーブルに設置した。
これからマグロの解体ショーの始まりである。
日本で買って来た出刃包丁を『収納』から取り出して、まずは腹から包丁を入れていく。
ギルとメルルとエル、そしてロンメルが興味深々に眺めている。メルルは俺のお手伝いだ。
内臓を取り出して、メルルに渡す。
次に頭と尻尾を落として、これもメルルに渡す。
後で砕いて肥料とする予定だ。
包丁を骨に這わせるように、捌いていく。中まで届いたところで、今度は背に包丁を入れていく。
よし、まずは一枚。
同じ要領で半身も行い、無事にマグロを三枚におろした。
皮は面倒なので『分離』で剥がす。
本当は解体自体も『分離』で全て出来るが、一度やってみたかったので、やってみることにした。
まあ皮を剥がすのはズルしたけどね。
これにて解体ショーは終了。
「パパ、すごいね」
「ご主人様、すごいですの」
「旦那、包丁さばきも一流なんて、出鱈目過ぎじゃねえか?」
とお褒めの言葉を頂いた。
さて、実は本番はこれからなんですよね。
適当な大きさに切り分けて、蒸し器にマグロを入れる。
火をつけマグロを蒸す。
二時間ほどたったところで、状態を確認する。
うん、よさそうだ。
容器から取り出し、冷ましていく。
自然操作の風で一気に冷やしていく。
後は、触れる程度に冷ましたら、身を解して容器に入れていく。
最後に油に漬けて完成。油は主に菜の花と大豆とトウモロコシから作っている。
ツナが出来上がった。
「へえー、マグロってこんな調理方法もあるんだな」
ロンメルが関心していた。
これでまた、料理の幅が広がったぞ。
えへへ。
晩御飯は豪勢な物となった。
マグロの刺身を大量に振舞った。
この世界には醤油が無いため、醤油と山葵に、付けるマグロの刺身は高評価だった。
「なにこれ、美味しい」
「マグロはこうやって食べるのか?」
「マグロとはこんなに美味しい魚だったんですな」
更に酢飯を用意し、寿司を握ってみた。
流石に不格好な物になってしまったが、こちらも高評価だった。
マグロの漬け丼も振舞った。
こちらはマグロの切り身に酒と醤油、生姜に漬けたマグロをご飯の上に置き、仕上げに大葉と海苔と胡麻を散らして完成。
皆が、がっつくように食べていた。
ひと段落ついてから
「まだ食べれる奴いるか?」
「まだいけるよ」
とギルが応えた。
「よし、ちょっと特別なものを出してやろう」
俺は先ほど完成したツナと、マヨネーズを『収納』から取り出した。
丼にお米をよそい、その上にツナを乗せて、仕上げにマヨネーズをかけて完成。
ツナマヨ丼だ。
「ギル出来たぞ」
「これ今日パパが作ってたツナだね」
「そうだ、ツナマヨ丼だ」
ギルが舌なめずりをしている。
「いただきます」
がっつくギル、そして手が止まった。
「なにこれ、感動、美味しい!」
その声に他の皆が興味を持ったらしく。どれどれといった感じで集まってきた。
「皆、これ無茶苦茶美味しいよ、食べてみなよ!」
それを皮切りにツナマヨ丼の催促が始まった。
「少しだけいいですか?」
メルルが言った。
「もうお腹いっぱいなんですけど、気になっちゃって」
「ああいいよ、少しだな」
「私しも少なめで」
今度はゴンだ。
「私も」
アイリスさんまで。
もういいや、
「いる人は何人だ?」
全員かよ。
みんな凄い食欲だな。
結局、小ツナマヨ丼を全員分振舞った。
「島野様、今日の料理は、全部マグロなんでしょうかな?」
メタンが話し掛けて来た。
「ああ、そうだよ、刺身も寿司も、漬け丼もツナマヨ丼も全てな」
「素晴らしですな」
「料理は調理法でいくらでも幅が広がるからな。マグロでもまだまだ他にも違う料理が出来るぞ」
「そうなのですな」
関心しているメタン。
「ねえパパ、僕にも料理を教えてよ、メルルだけズルいよ」
「ご主人様、私もですの」
ギルとエルに催促されてしまった。
「ああ、いいぞ、今後は時間を取るようにするよ」
「「やった!」」
と喜ぶギルとエルだった。
「ノンはいいのか?」
「ん?僕は食べ専でいいよ」
食べ専って、どこでそんな言葉覚えるんだよ!
ロンメルが近づいてきた。
「旦那、そういえば、この時期に俺の故郷で祭りがあるんだがな」
祭りか・・・良い響きだな。
「ほう、祭りか」
「食べ物の祭りなんだよ」
フードフェスってことか?
「食べ物の祭り?」
「ああ、全国から腕利きの料理人や、一般人まで集まって、屋台で料理の味を競うんだ。期間は一週間、旦那なら優勝してもおかしくないと思うんだが、どうだい?」
「うーん、料理コンテストってことだな。だが流石にプロの料理人には勝てないと思うぞ」
その道のプロにはなかなかね。
プロを舐めてはいけない。
「いや、旦那には他にはないアイデアがある。まあ出ないまでも、食べに行くってだけでも楽しめると思うぜ」
「そうだな、せっかくだし行ってみるか、皆はどうする?」
「行きたい!」
「僕も!」
「私も!」
これまた全員だな。おっアイリスさんまで、珍しいな。
いいじゃないか祭り、大いに楽しもうじゃないか。
「アイリスさんもよろしいので?」
「ええ、外出は初めてですので、緊張しますわ」
「俺達がついてますので、大丈夫ですよ」
うん危険は無いと思うよ。
「そうだな、希望者は全員行くことにしよう、ロンメルは現地の案内に必要だから、一週間丸々だな」
「ああ、構わない」
「ちなみにどんな料理があるんだ?」
ロンメルが応える。
「一番多いのは肉料理だな。串ものが多いな。野菜関係は煮込みものとか、汁物とかに入っているけど。この島の野菜よりも小さいな。あとは饅頭とかかな」
「饅頭ですって!」
アイリスさんが割り込んできた。
「ただ『ゴロウ』の饅頭とは違って、中に肉とかが入ってるやつです」
「それでも食べてみたいですわ」
たぶん肉まんとかだろうな。
「まあ行ってみれば、分かるか」
と俺が呟くと、ノンが前に出て来た。
「そう、行けば分かるさ、行くぞー!1!2!3!ダアー!」
「「「ダアー!」」」
皆な拳を上にに突き出していた。
なんでそうなるんだよ。
てかノンのやつ、テレビで見てたな。
今度問い詰めてやろう。
『漁師の街ゴルゴラド』は『コロンの街』から更に東に行った所にあるらしく、ギルに乗っていけば、コロンから二時間も掛からないらしい。
となると、リズさんのところに寄ってから、ギルに乗っていくかな?
まずはリズさんの所に、ギルとロンメルを連れて訪れた。
「旦那、この転移ってやつは強烈だな、肝を冷やしたぜ」
「慣れだよ」
ギルが偉そうに言った。
横目でにらむロンメル。
仲良くやってくれよな。
リズさんの所に行くと、なぜかアグネスが居た。
「なんで守が居るの?」
「こっちのセリフだよ」
「ちょっとリズに用事があってね」
「ふーん、あっそ」
面倒なことにならないといいけど。
「リズさん、こんにちは」
「島野さん、その説はありがとうございました」
「いえいえ、どうってことないですよ」
「守、あんた何かやったんじゃないでしょうね?」
偉そうな態度をとるアグネス。
本当にこいつは、ぶれないねー。
「野菜を寄付したんだよ。悪いか?」
「いい心がけじゃないの」
「旦那、先を急ごうじゃないか」
めんどくさそうにロンメルが割り込む。
「そうだな、リズさんまたお土産を持参したんですが」
「いつもいつも、ありがとうございます」
野菜の詰め合わせと、ジャイアントピッグの肉を四キロほど手渡した。
育ち盛りの子供達には肉が必要でしょ、たくさん食べてくださいな。
「守、先を急ぐってどこ行くのよ?」
「はあ?内緒だよ」
「いいじゃない教えてよ、教えてよ!」
ポコポコと肩を叩かれた。
めんどくさい奴だな。
「『漁師の街ゴルゴラド』に行くんだよ」
「えっそうなの?連れてってよ、ね、お願い!」
手を合わせるアグネス。
「嫌だね」
「なんで、なんでよ、良いじゃない、だってあれでしょ?料理祭りに行くんでしょ、良いじゃない一緒に行っても」
「おまえ何で一緒に行きたいんだ。奢らないぞ」
「うっ、バレたか」
アホかこいつ、バレバレなんだよ。
「お前、アグネス便でそれなりに稼いでるんだろ?」
「ハハハ」
ハハハじゃねえよ。一体何に使ってんだよ。
どうせ無駄遣いしてるんだろうな。
「実は・・・」
何かを言いかけたリズさんを、アグネスが制止した。
ん?なんだろう?こいつもしかして、寄付でもしてるのか?
だとしたら、見直すところだけど。
まあでも、アグネスだからね。
「じゃあ、行かせて貰いますね」
リズさんに一礼して、その場を去った。
ギルの背に乗り『ゴルゴラド』に向かった。
ゴルゴラドの街は大いに賑わっていた。
祭りを控え、その準備が進んでいるようであった。
漁師の街だけあって、塩の香りがする。
既に、いくつかの屋台が出店されており、食べ物の匂いが鼻を衝く。
「ロンメル、そういえばこの街に神様は居るのか?」
「ああ居るぜ、漁師の神様ゴンズ様だ」
漁師の神様か、そのまんまだな。
「どこにいるんだ?挨拶がしたいんだが」
「どうだろう、漁に出て無ければ、ゴンズ様はたいていは酒場にいるからな」
漁以外は酒場って、それだけで呑兵衛だって分かるぞ。
「じゃあ酒場に行ってみようか」
ロンメルの案内によって、酒場へ向かった。
この街の人々だろうか、魚人が多数見受けられる。
他には、旅行客が祭りに参加する為か、人間も多く見られた。
街の様相としては、建築物はレンガ調の家が多い、塩害対策で木造は少ないといったところなのだろう。
そうこうしていると酒場に着いた。
酒場は前に『サンライズ』の皆さんと行ったことがあったが、その酒場と雰囲気は似ていた。
酒場も随分な賑わいで、席の空きはわずかといった具合だった。
「旦那、空ぶりの様だな。ゴンズ様はいねえな」
「そうか、残念だな」
居ないのなら、しょうがない。
「どうする?まだ酒を飲むには日が高いと思うが」
「そうだな、止めておこうか」
酒場を後にしようとしたその時、声を掛けられた。
「おい、島野さんじゃないか?」
振り向くと『サンライズ』の皆さんが居た。
「ギル、久しぶりだな、こっちこいよ」
カイさんがギルに声を掛けていた。
その横で、ウィルさんが手を振っている。
「皆さん、お久しぶりです」
ライドさんが立ち上がり、手を指し出してきた。
それに答えて、俺達は握手を交わした。
横では、カイさんにギルが頭を撫でられていた。
「ちょっと、カイさん止めてよ、酔ってるの?」
「ハハハ、いいじゃねえかギル、元気にしてたか?」
カイさんは、明らかに酔っている。
顔が真っ赤だ。
これは相当飲んでるな?
「ライドさんお久しぶりです、元気にしていましたか?」
「ああ元気にしているよ、久しぶりだな島野さん、そちらこそどうなんだ?元気にしていたかい?」
「ええ、おかげさまで元気にしています。ところでここにはどうして?」
「祭りだよ、祭り、こいつらが、行きたい行きたいって聞かなくてさ。祭りが終わるまでは、多分この調子だと思う」
ジョーさんは、手を挙げて挨拶をしてきた。
それに応えて俺も手を挙げた。
ウィルさんは、ギルに絡むカイさんを宥めている。
ジュースさんは、頷く形で挨拶をしてきた。
俺もそれに応える。
皆な元気そうだ。
「ライドさん、紹介しますね、俺達の新しい仲間で、ロンメルです」
「『サンライズ』のリーダーのライドだ、よろしく頼む」
と手を差し出した。
それに応え、握手を交わすロンメル。
「ロンメルだ、こちらこそよろしく」
ライドさんは相変わらず気さくだな、気安さが変わっていない。
「で、島野さんどうしてここへ?」
ジュースさんが尋ねた。
「ええ、実はロンメルの地元がここでして、ロンメルから祭りがあるから行かないか?と誘われて来てみたんですが、ここの神様に挨拶をしたくて、酒場に寄ってみたんです」
「ああ、あの神様は酒場に入り浸りだからな」
「違いねえ」
「そうなんですね」
「あの神様は酒豪だからな、それも無茶苦茶」
ライドさんが首を横に振りながら言った。
怖!酒豪の神様ってなんだよ、お土産でワインを準備してたけど、何本いるんだ?
「でも漁の腕は確からしい」
「そうなんですね、会うのが楽しみです」
酒豪の神様って、怖いけど、会ってみたいのも確かだ。
「ところで、考え中なんですが、俺も屋台を出店するかもしれないんですよ」
「そうなのか?」
興味がありそうな反応だ。
「へえー、島野さんの料理か、興味がありますね」
ジュースさんが二ヤリと笑った。
「もし出店したら、来てくれますか?」
「ああ、絶対に行くよ!」
「必ず行く!」
「ああ、なんといっても島野さんは、俺達の命の恩人だからな」
などと口々に言う。
「ありがとうございます」
嬉しかぎりだ。
「パパ、助けてよ!」
ギルからの救難要請だ。
どうやらまだ、酔っ払いのカイさんに絡まれているようだ。
「ロンメル頼む」
ロンメルは明らかに嫌そうな顔をしたが、従ってくれた。
だって面倒なんだもん、ごめんよ、ロンメル。
「ところで、島野さんは飲まないのか?」
「今日は視察なので止めておきます、また一緒に飲みましょうね」
「ああ、必ずな」
ギルを救出し、俺達は酒場をあとにした。
商人組合に行ってみた。
ここも大した賑わいだった。
祭りの屋台の手続きなんだろう、結構な人の数だった。
祭りの内容だが、お客に一日一枚の札が渡されることになっており、自分が美味しいと判断した店に札を渡す、といったシステムとなっており、その札の枚数で優劣が付けられるといったものだった。
優勝した店には賞金も出るらしく、またここで結果を出すことで、名を挙げるといった側面もあるようだ。
優勝したお店には、祭りで優勝したことを、告知できる権利が与えられるらしい。
まあ、俺達には不要の産物でしかないのだが。
せっかくだから出店しようと考えているが、祭りを楽しみたいことを優先させたいので、長くても三日ぐらいしか、屋台の営業はしないつもりでいる。
まだメニューも決めていないし、誰が店に立つのかも決めていない。
島に帰ったら、皆と相談だな。
手続きはこちらとの看板を見かけたので、そこに行くと、魚人の方が受付をしていた。
「すいません、祭りの屋台の出店希望なんですが、こちらでよかったでしょうか?」
「はい、こちらでいいですよ。出店は初めてですか?」
「はい、初めてです」
「では、会員証はお持ちですか?」
そう言われると思って、前もって準備していたのだ。
俺の右手には既に会員証が握られている。
会員証を手渡した。
「お預かりしますね」
というと、手続きの作業を進めてくれた。
少し待った後、会員証を返してくれた。
「これで手続きは終了です。場所や出店に関する詳細は、あちらで案内させて頂いてます」
指さした方向に、違う受付があり、数名が案内を受けていた。
受付してくれた魚人に会釈し、そちらに向かった。
案内された内容としては
・売上の5%を商人組合に渡すこと
・アルコール類の販売は禁止
・屋台の場所は指定されたところのみ、また場所の変更は受付ない
という簡単なものだった。
アルコールを禁止するのは、過去に酔ったお客の間で、トラブルになったことがあるらしく、それを防止するのが目的とのこと、又、祭りの為、上納金は通常の半分、場所に関しては、希望を聞いていると収集が付かなくなる為、変更は受け付けないということだった。
妥当な内容といえる。
場所の案内の時に、ロンメルが眉を潜めていたから、あまりいい場所ではなさそうだ。
まあ場所は重要だが、別に優勝を狙っている訳ではないので、気にしない。
念の為、場所を確認しに行ったが、確かに立地に関してはよく無かった。
屋台が立ち並ぶ中でも、奥の方にあったからだ。
またメインストリートからも離れており、屋台がメインストリートから視認出来なかった。
こればかりは決まり事なのでしょうがない。
俺は祭りが楽しめればそれでいい。
俺達は一旦島に帰ることにした。
晩御飯がてら、皆と屋台の相談をした。
「三日間だけ、屋台を出すことにしたよ」
「なんで三日間だけなんですか?」
メルルが質問してきた。
「今回の目的は祭りを楽しむことが目的で、儲けを出すためじゃないからさ」
「なるほど」
「で、まず皆に相談したいのはメニューなんだけど、出来れば手間が掛からず簡単なものにしたいし、極力野菜を使いたくないんだが、何がいいと思う?」
「そうなると肉料理しかないのでは?」
ゴンが言った。
「確かにそうなんだが、どうやら肉料理の屋台は多いらしいんだ、あまり被りたくはないんだよな」
「犬飯は?」
ノン君、人の話をちゃんと聞いていましたか?すべて野菜からできてますけど?
「駄目だ、全部野菜から出来てるじゃないか」
「あっ、そうだった」
こいつふざけてるのか?
「ピザは?」
ギルはほんとにピザが好きだな。
「ピザは手間が掛かるからな、却下だな」
エルが手を挙げている。
おお!珍しい。
「人参をマヨネーズにディップするのはどうですの?」
こいつも人の話を聞いてないのか?
こいつら自分の好物ばっかり言ってないか?
「駄目です、思いっきり野菜です」
ランドが手を挙げている。
「先日島野さんが作ってくれた、ツナマヨ丼はどうですか?あれなら、手間がかからないだろうし、お米は入っているけど、分量を変えるとかできますよね?」
おお!やっとまともな意見が出たな。
「ああ分量は変えられるよ、良い意見だと思う。他にはないか?」
皆一様に考え込んでいるが、意見は無さそうだった。
「ではランドの意見を採用して、ツナマヨ丼とします!」
拍手が起きていた。
「次にお店の手伝いだが、俺とロンメルは決定だが、他にやりたい人はいるか?」
「「「はい!」」」
全員の手が挙がった。
こいつら、島に飽きてるのか?
アイリスさんまで手を挙げてるよ。
「島の外でお店なんて、ワクワクしますわ」
「ほんと、楽しそう」
「ツナマヨ丼の評価が気になりますな」
「お店って楽しいよねー」
どうやら飽きているわけでは、なさそうだ。
よかった、よかった。
「じゃあ、初日はメルルとメタンとマークで」
「「「はい!」」」
「二日目はゴンとギルとランドで」
「「「はい!」」」
「三日目はアイリスさんとノンとエルで」
「「「はい!」」」
「それ以降は適当に行きたい人は祭りに参加しよう、そうそう、午前中の畑作業は全員参加する様に、行くのは午後からだ。どのみち屋台もほとんどが昼からだろうしな。それでどうだ?」
「私の場合はお店の手伝いは初日ですが、二日目と三日目は、祭りに参加するのはいいということですか?」
メルルが尋ねた。
「ああそうだな、行きたければ行って貰って構わないが、島の行き帰りの移動は一斉にするから、そのつもりで頼む」
メタンが手を挙げている。
「メタンどうぞ」
「祭りはいつから開催されるのですかな?」
「明後日からだ、それまでにいろいろ準備しないといけないから、皆手伝いを頼む」
「了解!」
「任せておけ」
「もちろん」
祭りの準備を開始した。
マークとランドには、屋台の作成を指示した。
メルルとギルとエルには、ツナの作り方を教え、その後各自で作るようにした。
俺はというと、木製の丼を五十個とお茶碗五十個と、スプーンを百個作製し、その後マヨネーズを大量に作った。
あと当日用に、全員のユニフォームを作っておいた。
メタンには、木製のメニュー表の作成をお願いした。
順調、順調。
皆で賑やかに準備を楽しんだ。
これで祭りを楽しめそうだ。
祭りって楽しいよね。
祭りの日の当日。
午前中の畑作業を終えた俺達は『ゴルゴラド』へと移動した。
結局全員での参加となった。
皆な祭り好きのようだ。
お手伝い組と俺とロンメルは、ユニフォームを着用している。
そのユニフォームには、左胸と背中に「島野一家」と刺繍されている。
さっそく屋台の組み立て準備を行う。
ここでも、マークとランドが中心となり、最後の屋台の仕上げを行っていく。
この屋台の屋根には、丸の中に島と書いてあるロゴが書いてある。
初日のお手伝いの、メルルとメタンとで備品の準備を行う。
その他の準備を、俺とロンメルで指示しながら進めていった。
周りを見渡すと、相当数の屋台が立ち並んでいた。
但し、この場所は立地条件が悪いこともあり、人出は少なかった。
「よし、これで準備は完了だな」
「完成ですね」
マークが誇らし気に屋台を見ている。
「これは立派な屋台だな。祭りが終わっても島で使いたいな」
「いいですね、そうしましょう」
マークが喜んでいる。
「旦那、ちょっと他を見てきていいか?」
「ああ、いいぞ」
何か気になることでもあるのか?
「お手伝い組以外は、祭りを楽しんでくれ、あまり遠くへは行かないように、あとゴンちょっといいか?」
俺は小声でゴンに話した。
「アイリスさんに付いて行ってくれないか?ちょっと心配でな」
「分かりました、そのつもりでおりましたので、お構いなく」
ゴンは流石だな、痒いところに手が届く存在だな。
「「「行ってきまーす!」」」
皆、手を振って離れていった。
「気をつけてな!」
俺は皆を送り出した。
さてと、俺もちょっと屋台を見て周るかな。
「メルル、ちょっと席を外すぞ、お客が来たら手配道りに頼む」
「わかりました、行ってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」
屋台を見て周った。敵情視察だ。
ロンメルのいう通り、肉料理が多かった。
串ものが一番多い、次に多いのは汁物かな、煮物系は少なかった。
あとは特に目に着く屋台は無かった。
まあ、全部を観て周れた訳ではないので、後日観れるだけは観て周ろうと思う。
屋台に戻ると、お客が一人いた。
メルルが対応している。
お客は狐の獣人で、旅行客といった感じだ。
「ツナマヨとはなんですか?」
「ツナとはマグロのことで、それにマヨとは、マヨネーズと言う調味料でそれをツナにかけた物です。その下にはお米が敷き詰めてあります。一緒に食べると美味しいですよ」
おっ!完璧な説明だな。念の為練習させといてよかった。
実は先日の晩飯の時に、皆にセールストークを練習させておいたのだ。
「ツナマヨって何ですか?って、絶対聞かれると思うけど、ギル、お前ならどう答える?」
上を向いて考えているギル。
「えっとご飯の上にマグロとマヨネーズをかけたものです、でどう?」
「ちょっと弱くないか?」
「ご飯の上にツナマヨを乗っけたものです、ツナとはマグロのことで、それにマヨとは、マヨネーズと言う調味料ですわ」
アイリスさんがさらりと答えた。
「アイリスさん、すげえー!」
「さすがアイリスさん!」
フフと笑いながらアイリスさんが言った。
「既に接客のイメトレは完璧ですわ」
「「「おおー!」」」
皆な驚いている。
にしてもイメトレって・・・
アイリスさんやる気満々だな。
「アイリスさんマジすげえ」
「さすがですな」
「じゃあ、今回は普通のサイズの物と、小さいサイズの物を用意したのは、何故だか分かる者はいるか?」
ゴンが手を挙げた。
「小食の人用では?」
「惜しいな」
メルルが手を挙げた。
「いろいろな物をたくさん食べたい人の為とか?」
「おっ!メルルほとんど正解だな。俺の居た世界では、食事の祭りのことをフードフェスって言うんだがな。特にお目当ての店が無い人は、気になった店をたくさん周りたいものなんだよ、そうなると、気になるのがどれだけ食べられるかなんだ、何なら一口だけでもいいと思うものなんだよ。さすがに一口分売るって訳にはいかないから、小サイズにしたんだ。まあ、ギルにとっては関係ないことだろうがな」
「パパ、分かってるね、僕はたくさん食べるよー」
「知ってるよ」
ノンがツッコんだ。
笑いが起きていた。
「へえー変わった料理ね、今まで食べたことはないわね、じゃあ小を一つお願いしてもいいかしら?」
おっ!初めての客現るだな。さて反応は?
「銀貨四枚になります」
メルルが銀貨四枚を受け取っている。
注文が入ると、マークが木製お茶碗に、ご飯とツナマヨを乗せてく。
「へい、お待ち」
何故へいお待ち?
狐の獣人は受け取ると、一度匂いを嗅いでから食べ始めた。
「美味しいわ、なんだろう、お米とのバランスが絶妙ね。これはご飯が進むわね」
というと、投票札をメルルに渡していた。
「ありがとうございます!」
「あたりまえの評価ですわ」
いきなりの一票、凄いじゃないか。
初の客は早々に完食し、器を戻していた。
「ごちそうさま」
と言うと笑顔で立ち去っていった。
「凄いじゃないか!お前達」
「いやいや、ツナマヨが凄いんですよ」
「いや、接客も初めてにしては様になってたぞ」
照れるマークとメルル、我関せず洗い物に没頭するメタン。
ロンメルが返ってきた。
「駄目だ旦那、今日もゴンズ様は見当たらなかった」
どうやら探しに行ってくれていたみたいだな。こいつのさりげない気遣いは実にありがたい。
「そうか、ロンメルありがとう」
さて、お客は来ますかね。
結局この日は小サイズが二十四杯と、普通サイズが三十一杯の販売となった。
だが、札は多く四十五票も頂いた。
祭り参加組はというと満足な様子で、皆が皆お腹を擦っていた。
そうとう食べたようだ。楽しめた様ならなによりだ。
ギルが初日で金貨一枚使ってしまったと、項垂れていた。
お金の管理は使って覚えるものだ、良いんじゃないかな?そうやって、学んでくださいな。
アイリスさんが、前に聞いていた饅頭の様な物を食べたらしく、甘くは無かったが、あれはあれで美味しかったと言っていた。
お目当てが食べれたと、嬉しそうにしていた。
それは良かった。
うんうん。
ゴンが、パンを使った料理があったと言っていた、サンドイッチか何かだろうか?少し気になるな。
皆まだ全部を周れなかったと、明日以降の楽しみがあるようだった。
皆が祭りを楽しんでいるようで、俺まで嬉しくなってきた。
明日以降も祭りを大いに楽しもう。
翌日
屋台に行くと、既に数名の客が俺達を持っていた。
聞いてみると、どうやら昨日来たお客が、
「ここのツマヨ丼は、一度は食べた方が良い」
と勧めてくれていたようだった。
口コミとは凄いね、ありがたいことです。
待たせては悪いと、さっそくツナマヨ丼の作成に取り掛かる。
本日のお手伝いは、ゴンとギルとランドだ。
ランドが、その巨体を揺らしながらツナマヨ丼を作る様は、職人の様でちょっと笑えてしまった。
「へい、お待ち」
ツナマヨ丼を渡すランド。
「なあ、ランド、何でへいお待ちなんだ?」
「え?ノンがそうやって渡すもんだって教えてくれましたよ、違うんですか?」
「いや、気にしないでくれ」
ノンの奴、またやりやがったな。寿司屋じゃないんだよ!寿司屋じゃ!
しかし、あいつは何がやりたいんだ?
まあ、ふざけてるだけだろうが・・・
ノンのことは置いといて。
昨日とは違い、今日はお客が多かった。
口コミで広がったのだろうか。
みな口々に、
「一度は食べた方が良いと勧められた」
と言っていた。
夜を待たずして、既に昨日の倍以上は売れてしまっていた。
ただ、在庫は充分にあるので、そこは問題ない。
今回売れ残ってしまっても、普通に島で消費するので、全然問題ないのだ。
「島野さん、こんな端っこに居たのかよ」
カイさんがやってきた。
「おーい、島野さんが居たぞ」
と『サンライズ』の皆さんがやってきた。
「ギル、こないだは悪かったな」
とカイさんが手を合わせてギルに謝っていた。
「ほんとだよカイさん、無茶苦茶酔ってたでしょ?」
とおかんむりのギル。
「悪い、すまねえ」
「いいよ、もう止めてよね」
仲直りの握手をしている、解決したようだ。
「島野さん、くじ運は無いんだな」
ライドさんが笑いながら言った。
「そのようですね、でもこれぐらいでちょうど良いんですよ」
「そうなのか?」
「ええ、祭りを楽しむのが今回の目的なので、利益を得ようとは考えてないんです」
「金目当てじゃないって?なんか島野さんらしいな」
お褒めに預かって光栄です。
「この屋台も明日を最後に、終える予定なんですよ」
それを聞いた他の客が、なぜかビックリしていた。
「へえ、そうなんだ、最初で最後になるかもしれないなら、さっさと頂かなきゃな、じゃあ、このツナマヨ丼ってやつを貰おうか」
「ありがとうございます」
『サンライズ』の皆さんがガッツくようにツナマヨ丼を平らげていた。
「なんだ、この料理、無茶苦茶上手いぞ」
「さすが、島野さん」
「この米が進む、ツナマヨって何なんだよ!」
「あり得ない旨さ!」
大絶賛してくれている。
全員お替りをしていた。
あざっす!
当然のように投票札を全員置いていった。
その後も客は絶えることがなく。
この日の販売数は、前日とは比にならず。
小サイズが二百十二杯、普通サイズが二百四杯となった。
投票札も、三百三十二札もあった。
よく売れましたなー。
屋台最終日
午前中の畑作業を終え、屋台に着くと、なんと既に長蛇の列が出来上がっていた。
見たところ、七十人ぐらいは並んでいる。
これは、待たせてはならないと、一家総出で対応をすることになった。
ひとまず昼のピークが落ち着いたところで、最終日のお手伝い役の、アイリスさんとノンとエルが夜も大変になるだろうと、マークとメタンがお手伝いに残ってくれた。
仲間の協力はありがたいことです。
ちなみに、今日はギルとノンは、島で留守番をしている。
聞くところによると、ギルが、初日に金貨一枚も使ってしまい、その翌日には、気をつけていたのに、銀貨八十枚も使ってしまい。ギル自ら今日は、反省を兼ねて島に留守番をすると言い出したらしい。
それを聞いてノンが、僕も行かないと言い出したらしい。
まだまだ、ギルに甘いノンなのだ。
優しい兄ちゃんで、今後も居続けて欲しいものだ。
夕方になると、再び来店客のラッシュに見舞われた。
『サンライズ』の皆さんも再び買いに来てくれた。
「今日で最後だと思うと、来ずにはいられないよ」
皆さんが寂しそうに話していた。
ツナマヨ丼のポテンシャルの高さに、正直俺は驚いている。
ウケるだろうとは思っていたが、ここまでとは考えていなかった。
この世界にはツナマヨは、初登場であるが故のことなのかもしれない。
ご飯の存在は、五郎さんの街でも確認しているので、米自体は珍しくはないんだろうが、そのトッピングが大いにウケた、ということだと思う。
あと、あまり考えたくはないが、島のお米の回復力が目当てであっては欲しくない。
たぶん誰も気付いてないとは思うが。
誰も気づいてないことを祈るばかりだ。
結局マークと、メタンが残ってくれてとても助かった。
俺達五人だけでは、捌け無かったかもしれない。
最終日の記録は、小サイズは六百四十杯、普通サイズは五百十二杯となった。
投票札は九百五十七票となった。
三日間の合計は、小サイズは八百七十六杯、普通サイズは七百四十七杯。
投票札は千三百三十四票にもなった。
売上金額は金貨七十九枚と、銀貨八十六枚、と大いに儲かってしまった。
これは皆に臨時ボーナスだな。
最終日となる為、屋台を一度解体し、島に持ち帰ることとした。
売上の上納品と投票札については、明日改めて、商人組合に行くことにした。
朝食時に俺は皆に話すことにした、
「皆、三日間お疲れさまでした」
頭を下げる一同。
「実は、屋台の売上が想像以上に出た為、皆さんに臨時のボーナスを出すことを決定いたしました」
「やった!」
「嬉しい!」
「ボーナスってなに?」
「棒にナスを刺して焼いた料理だよ」
おいノン、適当なこと言うんじゃありません。
「あのなギル、ボーナスってのは、毎月の給料以外で支払われる特別報酬のことだ、決して棒に刺したナスでは無い!」
ノンを睨んでやった。
てへ?とお道化るノン。
この野郎、最近調子に乗ってやがるな。
気を取り直して。
「一人、金貨五枚支払います」
すると皆が騒ぎだした。
「よっしゃ!」
「イエーイ!」
「やった、これで、残りの祭り全部行ける」
「ありがたいことですな」
「努力の甲斐があったな」
皆な好き勝手に言ってますな。騒いでいいぞ。
まあ皆がお手伝いしてくれたし、この売上は島野商事の物にすることにしたので、全然在りでしょ。
「じゃあ、皆さん並んでください」
皆一列に並んでいる。次々にボーナスを手渡していく。
「「「ありがとうございます!」」」
皆な大喜びだ。
「ロンメル、お前は全日手伝ってくれたから、金貨十枚だ」
「えっ、旦那いいのか?」
「公平な判断だと思うが、要らないなら俺が貰っておくが?」
「いやいやいや、誰も要らないとは言ってないぜ。ありがたく頂戴する」
満面の笑みのロンメルだった。
「ロンメルだけズルくない?」
ギルが割り込んできた。
「何がズルいんだ?」
「だって、僕だって言われれば三日とも手伝ったのに」
「それは言いっこ無しでしょ」
ギルはゴンに諭されていた。
ゴンに言われると逆らえないギルは下を向いていた。
「まあ、ギルにもそんなチャンスがいつかやってくるさ」
マークが宥めている。
「いいだろー、へへへ」
ギルにお道化るロンメル。
ロンメル!大人気無い!止めなさい。
ギルがロンメルを睨んでいた。
相当悔しいみたいだ。
「ギル、まあいいじゃないか、これであと四日間の祭り全部行けるんだぞ」
「そうだねパパ、大人気無いロンメル以上に祭りを楽しんでやるよ」
おお!言うねギル君。
「チッ」
面白くない様子のロンメル。
ロンメル、お前が悪い。確かに大人気ない。
「今日祭りに参加するのは全員でいいのか?」
特に反対はない様子。
「はい、皆参加ですね。集合時間は十二時です。畑作業が済んだら。ちゃんとここに集まるように」
「「「はーい!」」」」
これがあと四日間続くのか、祭りって楽しいね。
楽しいは大事!
集合時間に皆集まり『転移』にて移動、既に屋台は解体して無いが、そこには初めての客になってくれた、狐の獣人がいた。
「ああ、本当に出店は昨日が最後だったのね、残念だわ」
なんだか悲し気だった。
「すいません、始めから三日間だけと決めてましたので」
「そうなのね、私は初めてここのツナマヨ丼を食べて、衝撃が走りましたのよ。実は私グルメ記者なんです。このツナマヨ丼、是非取材させていただけませんか?」
なにこの展開?いやいやいや、取材とかマジ勘弁なんですけど。
「あのー、取材は勘弁してもらいたいのですが、もし良かったら一杯だけ作りましょうか?」
これぞ悪魔の囁き。どうだ?狐の姉さん。
「えっ!」
ものすごく悩んでいる狐のグルメ記者さん。
欲望には勝てなかったようで、
「一杯お願いします!」
勝った!ツナマヨ丼恐るべし。
『収納』から取り出して、チャチャっとツナマヨ丼を作って渡した。
「では、俺達はこれで」
捨て台詞を残して、俺達はその場をあとにした。
俺は狐のグルメ記者さんが、丼にガッツく様を背中に感じていた。
したり顔の俺、自分でも充分にそれと分かる。
横を見ると、島野一家全員が俺と同じしたり顔をしていた。
こいつら、俺に染まってきているなと思う俺だった。
うーん、どこで間違ったんだか・・・
こういうのは俺だけでいいんだけどな・・・
さて、商人組合に五パーセントの上納金を納めて、投票札を受付で渡した。
「島野一家さん、現在第一位の投票数です!」
魚人の受付嬢が叫んでいた。
「「「おお!」」」
騒めく組合内部の人々。
まあいっても三日間ですので、直ぐに追い抜かれるでしょう。
などと思っていると。
「旦那、ゴンズ様がやっと見つかったぞ、どうする?」
「そりゃあ挨拶にいかないとな、どこにいるんだ?」
「案内するから、着いて来てくれ」
とロンメルに案内されるが儘に、酒場にやってきた。
また酒場か、嫌な気しかしないんだが?
「おーロンメル、来やがったな。で、俺に挨拶したいっていう輩は何処にいる?」
輩って、久しぶりに聞いたな。
明らかに酔っぱらった一団がこちらを見ていた。
真ん中に陣取るのはサメの魚人、背中に三又になった銛を背負い、上半身は裸で、下半身だけ衣類を着ている。これぞ海の男といった様相。
俺は直感的に感じた。
この人強いな。
そして横に目をやると、興味深い存在を感じた。
ボーイッシュな髪形の女性、こんがり焼けた肌に、執拗にも感じる強い眼つき、挑発的とも感じる態度。
俺は直感的に感じた。
こいつ聖獣だな。人では無いな。
それを感じ取ったのか、その女性が二ヤリと笑った。
笑った時に見えた舌の先が、二つに割れていた。
「俺は島野守と言います。よろしくお願いたします」
「俺はゴンズだ、で、何か用か?」
斜に構えて、値踏みする様にこちらを見ている。
「もしよかったらこちらをどうぞ、お土産です」
俺は『収納』からワインを取り出した。
「おお!ワインか!」
ゴンズ様は、俺から奪うようにワインを分捕った。
するとワインを喇叭飲みしだした。
一気に半分ほど飲み干すと、
「上手い!お前これ上手いぞ!もう一本よこせ」
と言い放つ。
イラっとしたが、ひとまず従うことにした。
『収納』からもう一本を取り出すと。
また、ゴンズ様は俺から奪う様にワインを分捕り、聖獣らしき女性に無言で手渡した。
ワインを受け取った女性は、ゴンズ様と同様に、ワインを喇叭飲みしだした。
ゴクゴクとワインを飲んでいる。
あーあー、もう何なんだこの人達。
ここまでくると、正直呆れる。
失礼にもほどがある。
「プハー、親方!このワイン上手いな!」
「ああ、そうだろう?白蛇」
お互い頷き合っている。
「「ガハハハ!上手い!」」
シンクロしているぞ。
なんなんだ全く。
ひとしきり笑った後でゴンズ様が言った。
「島野だったな、すまない、勘弁してくれ。俺達は酒に目が無いんだ。無礼があったなら謝る、すまないな」
でしょうね、結構失礼な態度だったと思いますよ。
「それで、このワインはお前が作ったのか?」
「ええ、そうです」
「何本か売ってくれないか?」
「何本欲しいんですか?」
「そうだな、十本あるか?」
「十本ですね、金貨五枚になりますけど、どうしますか?」
「金貨四枚かぁ・・・もう少しまけてくれないか?」
「無理ですね、これでも神様相手なんで、安くしてるんですよ、ワインの味で分かりますよね?ゴンズ様なら」
これは嘘である。少々腹が立ったから意趣返しだ。
「んーん、しょうがねえ、十本くれ」
金貨を五枚受け取ると、ワインを十本差し出した。
「よし、お前ら、味わって飲めよ!」
ゴンズ様は部下らしき者達に、ワインを分け与えていた。
「親方、あざっす!」
「親方、すんません」
「ありがとうごぜえやす!」
「上手そうだな」
などと言って、部下達はワインを受け取っていた。
「あんた、俺にもワインを一本売ってくれよ」
と白蛇と呼ばれていた女性が、既に空になった。ワインのボトルを手渡してきた。
「じゃあ、銀貨五十枚だな」
「おお、分かった」
銀貨五十枚を手渡された。
ワインを一本渡す。
グビっと一口飲むと、何やら言いたげな視線をこちらに向けてきた。
それにしてもよく飲む人達だ。
「島野とやら、お前一体何者だ?」
ゴンズ様が尋ねてきた。
「私はただの異世界人ですが、実は息子が居まして」
「ほう、息子だと」
「ええ、ちょっと待ってください。ギル!」
俺の後ろから、ギルが前に出て来て横に並んだ。
「俺の息子のギルです、今は人化してますが、神獣のドラゴンです」
そう言うと、ワインを口にしていたゴンズ様がワインを噴き出した。
「ブフウ!」
ゲホゲホと咳込んでいる。
背中を擦る白蛇。
「なにやってんだよ!親方!」
「なにやってって、おい!ドラゴンってどういうことだ?」
「どういうことも何も、そのまんまですよ、ギルにいろいろと勉強になるだろうと、神様に挨拶周りをしているだけですよ」
「お前、何だそれ?本当なのか?」
「本当だよ」
とギルは言うと、人化の一部を変身し尻尾と角を出した。
その様を見て固まるゴンズ様。
「マジかよ・・・」
驚きが隠せない様子。
「まあ、そんなところです」
「で、ギル、お前神として何がしたい?」
いきなりゴンズ様から、直球が投げ込まれた。
「僕は、それを見つける為にこうやってパパと一緒に、神様達に会うことにしているよ」
ギルも言う様になったな、と感心する俺。
「そうか、神って言っても人其々だ。まあ気張らず自分のやりたい事を探すといい、とは言っても俺みたいな、酒好きの神になるのはお勧めしないけどな、ガハハハ!」
一笑に伏しているゴンズ様。
「へん、分かってるよ」
大人ぶるギル。
ギルにこの様が手本になるのかと首を捻ってしまう。
まあいいでしょう、反面教師って言葉もあるしね。
そんなこんながありまして、ひとまず俺達は帰宅の途についた。
翌日
ロンメルが、
「旦那、昨日は親方達がすまなかった、ちゃんと説明しとくべきだった」
と謝ってきた。
「いや、いいよ。何となく想像できてたから、何も問題ないぞ」
「そうか、で、今日も祭りに行くのか?」
「ああ、まだ周りきれてない屋台もあるから、そのつもりだ」
「分かった」
皆を引き連れて祭りへ向かった。
これまでもいくつもの屋台を観て周ったが、ひと際目を引く屋台があった。
なんと、寿司を扱う屋台があったのだ、大変賑わっている。
日本人としては興味を引かない訳が無い。
これは外せないと、屋台に並び食してみた。
実に美味しい寿司だった。ただ残念なことに醤油は無く、それの代わりにと、塩で味付けがされていた。
これはこれで美味しいと感じた。
大将は、捩じり鉢巻をした人間で、これぞ板前といった風格を持つ人物だった。
聞いたところによると、どうやら五郎さんのところで何年も修業して寿司を学んだようだった。
五郎さんのところの食事も上手かったからな、五郎さんのところで修業を積んだのなら腕に間違いはないだろう。この仕上がりも納得がいく。
そういえば、五郎さんのところでは、醤油を見かけなかったな、今度持ち込んでみようか?
となると、勘のいい五郎さんは味噌もよこせと言うに違いない。
またあるだけ売ってくれって、言われそうだけど。和食には欠かせないのが、味噌と醤油だから、在るだけ全部は渡せないが、販売させていただきましょうかね。
温泉街『ゴロウ』がさらにパワーアップするのは間違いないな。
更に人気が出るだろう。
嬉しいことに、おにぎりを販売している屋台もあった。
中身の具が肉だったので、結構な食べ応えだった。
こちらも五郎さんのところの門下生だった。
こうしてみると、この世界での食文化は、五郎さんの知識が根づき出しているのかもしれないと、俺は思った。
いいことだ、食の幅は多いにこしたことがない。
あと、ゴンが言っていた、パンを使ったお店の食事は、パンに肉のそぼろを挟んだものだった。
パンが細長かったので、ホットドックに近いのかな?と考えられた。
味は悪くなかったが、やはりスパイスとなるものが足りないと感じた。
マスタードって何で出来てるんだろう?
今度日本に帰ったら調べてみようと思う。
こうして、この日も満足のいく祭りになった。
今日で大体の屋台は観て周れたので、後は最終日にだけ参加しようと考えている。
島に戻り皆に声を掛ける。
「俺は今日でだいぶ見て周れたから、後は最終日だけ行こうと思うが、皆はどうする」
「僕もそうしようかな」
「私も同じで」
「それでいいよ」
賛同を得られたので、祭りへの参加は最終日のみとなった。
さっそく翌日五郎さんのところに行き、醤油をお披露目した。
「島野おめえ、何で今まで教えてくれなかったんでえ、あるだけ売ってくれ」
予想道りの反応だった。
「待てよ、醤油があるってことは、島野、味噌もあるんじゃねえか?」
「その言葉、待ってました」
『収納』から醤油と味噌を一樽づつ取り出した。
「おお!この匂い、間違いねえ醤油と味噌だ!」
五郎さん、興奮してるなー。
気持ちは分かりますよ。
「いやー、実はよ、何度も作ってはみたんだが、こればかりは作れなかったんだ、ありがてえ島野、おめえ最高だな!」
手を差し出してきた。
もちろん握り返す。
うんうん、よかった、よかった。
「これで、儂が理想とする、温泉旅館の飯が再現できる、腕がなるぜ!」
五郎さん気合入ってますねー。
この日は温泉を御呼ばれになりました。
大変いい湯でした。
祭り最終日
全員で祭りへと向かった。
俺はまたあの寿司が食べたくなり、あの屋台に向かった。
大将から寿司が手渡される。
「そういえば、五郎さんのところに醤油っていう、調味料を卸すことになったから、今度行ってみたらどうだい?」
大将が目を丸くして見開いている。
「そんな・・・本当ですか?・・・あの伝説の醤油が・・・」
醤油って伝説なの?
「あの師匠が・・・何度もトライしたけど作れなかった醤油が・・・」
五郎さんがそんな事言ってたな。
「ああ、間違いなくあるよ」
「お客さん、あんた何者だ?」
「俺は五郎さんと同じ国から来た転移者なんだ、だから五郎さんとは知り合いなんだよ」
「師匠と知り合い?」
大将がビックリしている。
「ああ、今では親友と呼んでいいかもしれないな」
「だから醤油を知っているんですね、そういうことか」
納得したようだ。
「納得できたみたいだね、大将マグロお替りいいかな?」
「へい、喜んで」
イキイキとしている大将を見ていると、こちらも嬉しくなってきた。
すると祭りの喧騒とは違う、騒めきが港の方から聞こえてきた。
「何かあったのかな?」
「港の方だから、海獣でも出たのかもしれませんね。ゴンズ様が対処するから他っておいても大丈夫ですよ」
大将はまったく気にならないようだった。
「えっ、てことはゴンズ様の漁を見れるってことなのか?」
「どうでしょう?浅瀬の方なら見れると思いますぜ」
ゴンズ様の漁か、見てみたいな、行ってみるか。
「大将お勘定」
受け取ったマグロの握りを口に放り込んで、お代を渡して港に向かった。
島野一家の皆も着いてきた。
港に着くと大きな騒ぎになっていた。
漁師達が漁の準備に大忙しだ。
すると大きな声が聞こえた。
「野郎ども!魔獣化したクラーケンだ!気を引き締めていけよ、決して街に向かわせるな。いいな!」
「「「おう!」」」
野太い漁師達の声が響き渡る。
すると後ろから肩を叩かれた。
振り向くと白蛇がいた。
なんだかいやな予感がする。
「よっ!こないだはどうも!」
「ああ、こちらこそどうも」
緊張感の無い奴だな。
大丈夫かこいつ?
「親方!こっちだ!ドラゴン達がいるぞ!」
白蛇が大声で叫んだ。
こちらを見るゴンズ様。
ゴンズ様が不敵にニヤリと笑った。
「島野!お前ら飛べるだろ、クラーケンがこっちに来ないように沖に引き付けてくれ!頼んだぞ!倒せるなら倒してもいいけど無理はするなよ!」
断れないやつじゃん。もう決定事項になってるし。
あーあ、またこれだ、いやな予感がしたんだよな。
「じゃあよろしく!」
白蛇に念を押された。
分かりましたよ、やりますよ。
あーあ。またこういった流れか・・・
俺って巻き込まれ体質だったか?
俺はギルに『念話』で皆に指示を伝えるように言った。
指示の内容は、クラーケンには俺とギル、ノンとエルが向かう。
他の者達は、避難誘導が必要な時に備えて各自待機すること。
指示を終え、ギルに跨って上空へと飛翔する。
『探索』を行うと、四百メートルほど先に大きな反応がヒットした。
近いな、沖への誘導が必要というのはよく分かった。
このまま街に向かって来られたら大変だ。
俺達はクラーケンへと向かった。
「街に近いから、まずはクラーケンを誘導する、嫌がらせをして、沖の方へ引き付けるぞ」
「「了解!」」
俺達はクラーケンの真上に移動した。
確かにクラーケンは魔獣化しており、黒い瘴気を纏っていた。見るにも禍々しい姿をしている。
クラーケンは水上に浮かばず、水面の下におり、街の方へと向かっている。
港を見ると船団がこちらに向かいだしたことが分かった。
俺は神気銃をクラーケンに向ける、一発発射した。
クラーケンの表面に当たった手ごたえを感じた。
クラーケンは水上に浮かぶと共に、吸盤のついた足で掴み掛ってきた。
寸前で躱すギル。
「よし!掛かった、誘導開始だ!」
「「了解!」」
付かず離れずの距離を保ちながら、沖の方へと誘導する。
その間もクラーケンは多数の足で、ギルとエルを掴もうと体をうねらせている。
デカい蛸ってこんなに気持ち悪いのかと嫌悪感を感じた。
誘導が上手くいき、港との距離をだいぶ稼ぐことができた。
さて、どうするか。
一番嫌なのは、中途半端にダメージを与えて海中に逃げられることだ。
雷撃は船団が近づけなくなる可能性があるから駄目だ、火は海中に潜られては効果が薄い、水はありえない。となると、風と氷と土か・・・心元無いな。神気銃って手もあるが、あれだけの巨体だとどうなんだろう?魔獣化してるから少しキツイか。
こういう時は武器があるとやり易いんだがな。
いっそのこと造るか?
俺は『万能鉱石』を鋼鉄にし『加工』で槍を二本作製した。
ノンに一本を渡す。
「ノン合図と共に一斉に行くぞ」
「分かった」
クラーケンが海上に体が浮かぶタイミングを待った。
「ギル、エル、もう少し上空に浮かんでくれ」
「了解!」
「OK!」
更に上空に二メートルほど浮かぶ、それに釣られてクラーケンが海上に体を晒した。
「今だ!」
合図と共に俺は『身体強化』で力を上げ、クラーケンに向けて槍をぶん投げた。と共にノンの槍もクラーケンに向けて投げられた。
二本の槍がクラーケンに突き刺さる。
かなり深く刺さったようで、俺の投げた槍はそのほとんどがクラーケンの身体に突き刺さっている。
「ビエエエエエエーーーー!」
クラーケンは何とも言えない気持ち悪い雄叫びを発し、黒い瘴気がゆっくりと消えそうになっていっていた。
「仕留めたか?」
クラーケンは自分の足を身体に絡ませて、ウネウネとしている。
徐々に瘴気が消えていった。
俺達はクラーケンに近づき様子を見ていた。
すると近づいてきた船団から声が聞こえた。
「まだだ!」
その時クラーケンから不意に足が延ばされ、ギルの足に絡みついてきた。
「ぐっ!」
絡まれた足が、吸盤で吸いつけられていた。
ギルが呻いている。
「ギル!」
ノンが叫んだ。
ヒュン!
という音が聞こえた。
近づいてきた船団から、先が三又になっている銛がクラーケンに打ち込まれていた。
ズチャッ!
クラーケンが潰れる音がした。
力なくギルに絡みついていた足が離れていった。
「詰めが甘い!ガハハハ!」
大笑いしながら船頭に立つゴンズ様がいた。
終わったか、やれやれ。
でもゴンズ様の一撃は凄かったな、これなら俺達いらなかったんじゃないか?
ギルはエルから回復魔法を受けていた。
大事に至らなくてよかったよ。
その後、船団がクラーケンを回収し、俺達と並行しながら港へと帰港した。
港に着くと、たくさんの歓声に迎えられた。
「ゴンズ様!最高!」
「ありがとう!」
「また助けられた」
「ゴンズ様、あれやるんかい?」
「やるんだろ?」
それらの声を制するように片手を挙げるゴンズ様。
「おまえら!今日はゴンズキッチンだ!」
港中が歓喜に沸いた。
「まってました!」
「やったー!」
「嬉しい!」
「ありがとう、ゴンズ様!」
ゴンズキッチン?なんだそれ。
ゴンズ様の部下達が一斉に動き出す。
各々が自分の仕事を把握している動きだ。
その動きに迷いが無い。
大きな布が道に広げられた。そこに先ほど仕留めたクラーケンが運ばれてきた。
そこに大きな樽が、五個運ばれてくる。
部下達数名で樽の中から、塩を取り出し、クラーケンに塗り出した。
へえー、塩揉みか、分かってるね。
ひとしきり塩揉みが終わったら、水で塩を流していく。
そして、ゴンズ様が自分の身長と変わらないぐらいの大剣を持って現れた。
「そりゃ!そりゃ!」
と掛け声と共に、クラーケンをバッサバッサと切り刻んでいく。
刻まれた部位を、部下たちが更に細かく刻んでいく。
すると大量の油の入った大鍋が準備され、細かく刻んんだクラーケンの身を鍋にぶち込んでいった。
「始まったな」
後ろから声がした。
振り返ると先ほどの寿司屋の大将がいた。
「お店は終了かい?」
「これが始まったら、お客さんは来なくなるんでね」
困った表情をしてる大将。
「客足が止まっるってことかな?」
「ああ、今作ってる料理を街の皆に無料で振舞うんだから、屋台には来なくなるでしょ?」
「そういうことね、そりゃあそうだな。何も祭りの最終日にやらなくてもいいんじゃないか?」
「違いねえ、でもゴンズキッチンはこの街の名物みたいなもんだから、しょうがないでしょ」
「そうなんだ、街の名物なんだ」
「ああそうなんだ、大物が獲れると毎回この調子さ」
そうこうしている間に、どんどん料理が出来上がっていく。
「よし、食いたい奴は並んでくれ!」
ゴンズ様が声を張り上げた。
その声を機に街の皆が、我先にと列に並ぶ。
どんどんと料理が手渡されていく。
俺も並ぼうかと悩んだが、アイリスさんが俺も分を持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
手渡された料理は、蛸の、もとい、クラーケンのから揚げと、クラーケンの刺身だった。よく見ると、食べやすいようにと刺身には隠し包丁まで入っていた。
クラーケンの刺身に隠し包丁って・・・蛸の刺身に隠し包丁ってあったっけ?まあいいや。食べやすいにこしたことは無いか。
あっ!そうだ。
隣にいる大将に声を掛けた。
「大将、醤油で食べてみる?」
「えっ、いいので?」
「ああ、せっかくの機会だ、試してみてよ」
『収納』から醤油を取り出し、クラーケンの刺身に掛けた。
大将に手渡す。
軽く頭を下げて大将はクラーケンの刺身を受け取った。
「これが、醤油・・・」
そう言うと、鼻を近づけて匂いを嗅いでいた。
「今までに嗅いだことのない匂いだ、それにこの匂いは食欲を刺激するな」
フォークでクラーケンの刺身を掬い、大将は口にした。
大将は目を瞑り、噛みしめるように、そして味を確認しながら食べていた。
「んん?これは、間違いない、寿司にはこれが合う、間違いない!」
もう一度口にした。
「お客さん、俺にも醤油を売ってもらえないでしょうか?いや、お願いします。売ってください!」
土下座するんじゃないかというほどの勢いで、頭を下げる大将。
「大将、申し訳ない、醤油は五郎さんのところで買ってくれ、すまないな」
「そんな、殺生な、頼むよ」
「悪いな大将、あんたの師匠との約束なんだ」
本当は違う、この醤油にも回復効果があるからだ。
五郎さんごめんなさい。あとは任せます。
今度五郎さんに会ったら話しておこう。
「そうですか、師匠との約束ですか、分かりました、諦めます」
「五郎さんなら、大将に譲ってくれるんじゃないかな?」
「ええ、そうですね、ありがとうございます!」
大将に皿を返された。
せっかくなのでクラーケンのから揚げを食べてみた。
うん、上手い。上手に揚げているな。
クラーケンの唐揚げを堪能していると、声をかけられた。
「島野、やってるか?」
ゴンズ様だった。
「ええ、頂いています、クラーケンのから揚げ、美味しいです」
「そうか、それはよかった」
「また、ワインですか?」
「ああ、それもあるが、ちょっといいか?」
ゴンズ様はいつになくなく真剣な表情をしている。
「どうしました?」
「まず、今日は助かったぞ、ありがとうな」
「いえいえ、俺達が居なくてもゴンズ様がいれば、問題なく処理できたんじゃないんですか?」
「どうだかな・・・そういえば、遠目だったからはっきり見えなかったが、お前その場で武器を作ってなかったか?」
「いえいえいえ、あれは『収納』から取り出しただけですよ、ハハハ、見間違いですよ、嫌だなー、戦場でその場で武器を作るなんて、奇想天外なこと、俺には無理ですよ、ハハハ」
誤魔化せたかな?
「お前は俺一人で処理できたと言うが、それは無いな」
ゴンズ様はキッパリと言い切った。
「俺は強い、だか、さすがに俺一人では、魔獣化したクラーケンは手こずる、今回は島野達が注意を引いていたから、あっさりと仕留めれたが、普通に対峙したら、こうは上手くいかない」
「そんなものですかね?」
「ああ、部下の何人かが海に消えてもおかしくはないんだ、実際に過去には魔獣化したクラーケンに挑んで、何人もの部下が海に帰ってしまったこともある」
「そうですか」
「今回は俺が仕留められたのは、島野達の御膳立てがあったからだ、改めて礼を言わせて貰う」
以外に謙虚なんだな。
「いえいえ、いいんですよ」
「本題なんだがな」
ゴンズ様は神妙な顔つきになっている。
「うちの白蛇なんだがな」
「ええ」
「お前のところで預かってくれないか?」
何でですか?あなたの眷属でしょうが?
「はあ?」
「本人の希望でもあるんだ」
本人の希望?
「白蛇なんだが、もうかれこれ俺とは十年近い付き合いになるんだが、あいつが俺の眷属になることは無いんだ」
えっ!眷属じゃないの?
「それはどうしてですか?俺はゴンズ様の眷属かと思ってましたよ」
「いや、違う、あいつがそれを望んだことは確かにある。だが俺はそれを拒否した」
拒否した?何故?
「それは何故ですか?」
「それわな、俺は神だ、死ぬことは滅多にない。だが消滅する危険性はあるんだ」
ん?消滅?どういうことなんだ?
「俺は漁の神だ。漁には危険がつきものだ、神だから病気やケガで死ぬことはないが、神力が無い状態なら、人間と変わらないからな。そんなときに首を斬られでもしたら。消滅することになる」
「消滅とはどういうことですか?」
消滅?死ぬことと同意と思えるが・・・
「神にとっては神力は欠かせない、神力が無くなると、俺達は神であることを保てなくなるんだ」
なに?どういうことだ?
「神であることを保てなくなるってどういうことですか?」
「そのままだ、俺なら魚人に戻るってことだ」
つまり神力を失ったら、神は元の状態になるということか。
「この世界は神気に溢れている。だがここ百年ぐらい前から、神気が薄くなって来ていると俺は感じている」
やはりそこに行きつくのか。
「まあ、ここ最近は持ち直してる気はするんだがな」
神様は神気の変化に鋭いな。
「で、それがなんで白蛇に繋がるんですか?」
「俺が消滅したら、俺の眷属になったら、あいつも消えちまうからだよ」
そうか、そうだったな。眷属は仕える神が死んだら死ぬんだったな。
「つまり危険が隣合わせのゴンズ様は、白蛇を眷属にはしたくないといことですね、で何故それが、俺が預かることになるんですか?」
頭を掻いて困っているゴンズ様。
「それがな、どうせ仕えるなら上手い酒が作れるお前がいいんだとよ、初めてお前にあった時にそう思ったらしい、それにお前の戦う姿を観て、間違いないと決めたらしいぞ」
マジか?人参が上手くて俺に仕えたエルに続き、次は酒に釣られて眷属になるってことなのか?勘弁してくれよ。まったく。
「それに真面目な話をするぞ、おまえ神の資質を持ってるよな?」
うっ!、バレてる。
ですよねー。ギルの親だって言っちゃってるしね。
「そんなお前だから、俺もお前ならと思っている。受けてはくれないか?」
「本人の希望とのことでしたので、本人と話してみましょうか」
「おお!ありがとう、島野!」
ゴンズ様が白蛇を呼びに行った。
また眷属が増えるのか?
でも預かってくれって話だから、眷属にする必要は無いんじゃないかな?
「待たせたな」
ゴンズ様が白蛇を伴って現れた。
「俺はあんたに仕えたい、よろしく頼む!」
白蛇がお辞儀をした。腰が九十度に曲がっている。
真剣なんだとは思うが、本当にいいのか?
ここはひとつ場を和ませようかな?
そうだ、和ませようじゃないか?
うんうん、ここはこいつらが好きな酒で、酒の力を借りるということで。
飲まなきゃやってられんしな。
『収納』からワインを取り出し二人に渡した。
「「「乾杯!」」」
ワインをグビっと飲み干す。
「ところで、おまえ本気で言ってるのか?」
俺は白蛇に確認をした。
「本気も何も、何を言ってるんだ?」
んん?どういうことだ?
俺は申し入れに対して、場を和ませようとワインを渡して・・・ワインを渡して・・・ああ・・・またやっちまった・・・なんで俺は・・・またか・・・はあ。
渡しちゃったんだよね、ワイン・・・間違った俺が悪いよね・・・ハハハ・・・笑うしか無いよね。
「ハハハ、島野一家にようこそ!」
俺の顔が引きつっていることは記すまでも無いな。
またか、俺の反省は一体どこにあるんだ?多分反省したとたんに異世界に転移するんだろうね。
ハハハ。
あーあ。
白蛇の名前はどうしたかって?
彼女の名前は『レケ』です、ヘベレケの『レケ』です!
よろしく!
私はメルル、人間です。僧侶をしています。
さきほど契約更新を終え、無事に正社員になりました。
個人面談をすると言われた時には、なんのことだろうと身構えてしまいました。
意思確認って言われたけど、見習い社員とか正社員とか、まったく考えていませんでした。
見習い期間なんて忘れてました。
普通にこの先も、この島に居続けると思っていたから。
でも給料が倍になるなんて、ちょっぴり嬉しいかな。
よく考えたら図々しくないかしら?
そもそも私は、島野さん、いや、この島に命を救われた身で、過酷な重労働を無償で行うことすらも、厭わないつもりと考えていたのに・・・好待遇な上に、福利厚生も厚い、更に給料は倍って・・・
まあいいわ、多分断ったら、島野さんに怒られるに決まっているし。
島野商事では、労働に対価を払わないはあり得ない、って感じで叱られる。
ありがたく頂いておきましょう。
フフ。
そうそう、福利厚生って、私、初めて知りました。
住む家は社員寮って言うらしく、三度の食事はまかないだって言ってたわ。二杯のビールはおまけだって。
よく分からないけど、島野さんが居た世界では、常識らしいわね。素敵な世界よね。
作業着と長靴も支給してくれるし、お風呂にも入れる。
お風呂なんてこの世界では贅沢品よ、こんな暮らしを放棄する人なんている訳がないわよ。
あと何と言っても塩サウナね、あれはいい、すごく良い、お肌がすべすべになるのよ、感動ものよあれは、気に入らない女性は絶対にいないわ。
嫌いなんていう女性がいたら、私が張り倒してやるわよ。
もう塩サウナが無い生活なんて考えられないわ。
ね、分かるでしょ?
どれだけ私は恵まれているのか・・・
更によ、私がずっと憧れていた体力回復薬の生成にまで携らせてくれるって、凄すぎるわよ。
ああ、私って本当に幸せ者ね。
島野さんには感謝しかないわ。
でもね、私は知ってるのよ。
あの万能な島野さんだけど、意外とおっちょこちょいな一面もあるのよ。
たまに「やっちまったー!」て言って、頭を抱えてるの。
案外可愛らしいところもあるのね。
フフフ。
そんな島野さんとの体力回復薬の研究は順調に進んでいるわ。
始めはていの良い料理のお手伝いかと思ったりもしたけど、そうじゃなかったわ。
一度そんな表情を私は浮かべていたのでしょうね。
「料理のお手伝いと思うかもしれないけど、野菜をどう加工するかで、回復力に差が出るのかを見極めないと、いけないだろ?」
と言われてしまった。
仰る通りです。
実際料理と一緒な側面しかないとも思えたわね。
まあ、料理の手伝いでも、私としては嬉しいけどね。
今のところ判明していることを話すわね。
焼くや炙るという点では。生野菜の時より回復効果は落ちたわ。
難しいのは、煮ると蒸す。
蒸すに関しては、野菜によっては回復効果が上がったり、下がったりしたの。
煮るは一番難しく、野菜の組み合わせによって大きく変化するのよ。
正直参ったわ。
でも、これが分かっただけでも凄いことなのよ。
後はどう組み合わせていくのか?
野菜の相性はどうなのか?
これらを検討していけば、自ずと分かってくるはずなの。
だから今は、汁物は私が主に担当しているのよ。
ノンとロンメルが、味噌汁にしろ、ってやたら煩いのは、めんどくさいけど。
でも実際、味噌汁の体力回復効果は高い。
だから味噌汁のルーティーンは割と高め。
体力回復薬の研究ではあるけど、皆の健康を預かっているとうことも、ちゃんと私は分かっているのよ。
ちなみに私は大根の入った味噌汁が好き。
柔らかくなった、大根が口の中でほくほくしてたまらない。
さてと、この辺にして、今日もこれから塩サウナに行ってきまーす。
またね。
おれはランドだ。
先ほど契約更新を終えたところだ。
まったく持って忘れていたよ、今まで見習いだったなんてな。
そもそも意思確認なんていらないよ、島野さん。
誰一人この島を離れる奴なんていないよ。
今さらハンターになんか戻りたくないって。
でも、こういうことをちゃんとするのが、島野さんなんだよな。しっかりしてるよ。
なんでも島野さん曰く、自由意志ってものらしいんだが、そんなこと言われても、俺は俺の自由意思でこの島に居させて欲しいよ。
島野さんって不思議な人だなと思う。
この島で一番偉い人なんだから、もっと偉そうにしていれば良いのに、まったくそんなところが無いんだよな。
挙句の果てには、もっと意見を言えよなんていうんだから、前の世界ではそういうのが常識だったのかな?
でさ、こんなことがあったんだ。
水道管の引き込みをするために、川と村を繋ぐ道を造り、掘削工事をしていたところ、岩盤層に当たってしまい、どうしようかと考えていたら島野さんがやってきたんだ。
状況を説明すると島野さんが
「ランド、どうしたらいいと思う。意見を聞かせてくれよ」
と言ってきた。
俺も馬鹿じゃない、島野さんの万能さはよく知っている。
いちいち意見を求めなくても島野さんに解決策はあるはずだ。
でも聞かれれば、俺だって意見ぐらいあるから当然答える。
「岩を砕く器具とかがあれば、何とかなると思いますよ」
「そうか、どんな器具がいいだろうか?」
「そうですね、岩より頑丈で、先が多少尖ってるものがあればいいかと」
「いいね、良い意見だ、採用だ。ナイスだランド!」
と言って喜んでくれたんだ。
嬉しかったな、意見したことで喜んでもらえるなんて、初めてかもしれない。
なにより、島野さんに認められた気がした。
これからも自分の意見はどんどん言っていこうと思う。
そして、島野さんはツルハシとか言う器具を作ってくれた。
グリップ部分にはゴムまで撒いてくれて、ものすごく使いやすい。
軽く振ってみたところ、とても手に馴染む。
うんこれならいける。
岩盤層の岩は簡単に砕けた。
すごい、これって武器にもなるんじゃないか?
もう俺には、武器を手にして、ハンターになることはないだろうがな。
ノンやギル達とたまに行う模擬戦で使ってみるか?
まったくもって、あいつらには適わないが、武器を持った相手だと、勝手が違うらしく勉強になるみたいだ。
一度ぐらいは勝ってみたいけどな。
ツルハシならいけるか?
あと、おれは今、サウナとバスケットボールに嵌っている。
サウナはいい、最高だ!こんなリラックスの仕方があるなんて夢にも思わなかった。
俺は決まって、露天風呂の後に三セット行う。
休憩中の解放感のことを整いというらしいが、おれはほぼ毎日整っている。
サウナ明けのビールは格別だ。無上の幸福感とはこのことかと思う。
この島に来なかったらと思うとぞっとする。
俺は決してこの島から離れないぞ。
あと飯が無茶苦茶上手い、知らない料理が多いが、何を食っても上手い。お替り自由ってのも最高だな。
俺は朝から茶わん三杯はいく、ギルは五杯だけど、あれは別格だな。
そして、バスケットボールは面白い!
スリーオンスリーと言うらしいが、三対三で行うゲームだ。
バスケットボールとバスケットゴールを、島野さんが皆の遊びの為にと作ってくれたんだ。
やり方とルールを説明されたが、なかなかこれが、難しかった。
特に反則プレーというのが難しい、どうしても手が出がちになってしまう。
だが、何度もやるにつれて、どんどん面白くなってきた。
最初はドリブルすらも上手くできなかったが、今ではそれなりに出来る。
それになんと言ってもダンクシュートだ。
初めて決めた時の爽快感は凄かった。
スカッとしたね!
この島でダンクを決めれるのは俺とノンだけだ。
たまに島野さんがズルしてやってるけど、ダンクを決めると決まって全員からブーイングが起こる。
すると島野さんは「おれの類稀なるジャンプ力の成果だって」と言うけど絶対に違う。
皆なあの人が飛べるの知ってるんだから。
良い加減認めてくださいよ。
でも器用なもんで、本当に自分のジャンプ力で、決めてる様に見えるんだよな。
もし本人の言い分が本当なら、とんでもない身体能力だけど。
あの人が言うと本当に思えてくるから怖いよ。
ギルも島野さんを真似てダンクをやるけど、明らかにぎこちないないからな。
案外本当のことなのかもしれない。
おー怖!
バスケットボールは人を入れ替えて、組替えを何度もしながら楽しんでいる。
最強のチームは、島野さんとノンとギルのチーム、圧倒的にチームワークが凄い。
ちなみに俺とノンが組むことはほとんど無い。
流石にバランスが悪くなる、二メール越えの二人が組んだらそりゃあ良くない。
今は更なる高みを目指して、スリーポイントの練習に励んでいる。
この島の暮らしは本当に最高だ!
バスケット頑張るぞ!
おれはマーク。
今契約更新を終えたところだ。
もちろん更新した、あたり前だろ?
俺はまだこの島に対して、なにより島野さんに何にも恩返しができていない。
それを叶えずして、この島を去ることなんて俺にはできない。
恩を返す事ができるのか?と考えてしまうが、俺でも何かの役には立つだろう。
だってそうだろう?
島野さんはジャイアントシャークから救ってくれた。
死にかけてたメルルを治し、ランドの腕や、メタンの視力を、そして俺の指を治してくれた。
それだけじゃない、そんな俺達に住む家を与え、食事を与え、あろうことか嗜好品まで与えてくれた。
挙句の果てには給料まで、それも俺の知る相場より倍以上の額を。
余りに恵まれすぎている。
正直怖くなるぐらいだ。
これまでの人生が何だったのかと思えるほどに、世界が変わってしまった。
何から何まで凄すぎる。あり得ない。
結果的に俺の決断は間違い無かったのだが、これはあくまで島野さんに出会えたからだ。
あの人が居なければ、俺達は間違いなくこの世にはいない。
俺は今後の人生の全てを、島野さんに預けたいと考えている。
あの人はそう思える人だからだ。
だがそれは、あの人の能力が抜きに出ているからということではない。
あの人の凄さはその人間性にある。
特に俺が凄いと思うのは、人の上に立つ者の在り方だ。
まずはなんと言ってもその観察力。
飄々としている様で、実はよく観察している。
俺も何度もそれに助けられた。
それにその指導力には脱帽する。
ある時こんなことがあった。
水道管の引き込みをするために、川と村を繋ぐ道を造り、掘削工事をしていたところ、岩盤層に当たってしまい、どうしようかと考えていたら島野さんがやってきた。
状況を説明すると島野さんが
「ランド、どうしたらいいと思う。意見を聞かせてくれよ」
と言った。
俺は衝撃を受けた。ランドは自分の意見を持ってはいるが言わないことが多い。
それを分かった上で、島野さんはあえて振ってる。
それに、島野さんに解決策がない訳がない。この人の万能感は折紙付きだ。
「岩を砕く器具とかがあれば、何とかなると思いますよ」
「そうか、どんな器具がいいだろうか?」
「そうですね、岩より頑丈で、先が多少尖ってるものがあればいいかと」
「いいね、良い意見だ、採用だ。ナイスだランド!」
と言ってランドを喜ばせていた。
これは俺にはできない芸当だ。
あえて一歩引いて相手の良さを引き出すだけでは無く、積極性も引き出す。
真のリーダーとは、こういうことが出来る人なんだと実感した。
おそらくこれで認められたと、ランドは今後、自分の意見を言うようになるし、楽しく仕事が出来るようになるだろう。
なにより、ランドが生き生きとした表情をしている。
俺はランドのあの表情を引き出せたことはなかった。
格が違う。
見た目の年齢としては、俺よりも年下に見える島野さんだが、前に年齢を聞いた時に彼が言ったのは
「俺の精神年齢は定年だ」
とのこととだった。
定年が何かは知らないが、おそらく相当の苦労をしてきたのではないかと思う。
余りに強烈な存在だ。
俺はこの背に近づくことが出来るのだろうか?
ある時島野さんがぽつりと言ったことがあった。
確かあれは、晩飯後に皆で騒いでいた時のことだった。
「なあマーク、もし俺がこの世界から居なくなった時は、この島とこいつらの面倒はお前がみてくれよな」
「えっ!」
俺は、何を言われたかを理解するのに、時間が掛かった。
俺に期待をしてくれているのか?
この俺にどうして?
横を見ると、島野さんが笑っていた。
「もしもの話だ、気にするな」
と言ってくれた。
でも、この一言は俺にとっては、大きな一言だった。
今まで以上に俺にやる気と生きがいを与えてくれた。
俺はこの人に一生付いていく、そして、全力でこの島を守ってみせる。
俺は最高の人生を送っている。こんな満ち足りた人生になるとは思わなかった。
ああ、俺は今幸せなんだな。
最高の人生を歩んでいる。
話は変わるが、この島の飯はあり得ないほどに上手い。
島野さんが料理してくれるからなんだろうか?
いや、野菜そのものが格別なのだろう。
これを食べて、文句を言う奴がいたら、俺は許さない。
何を持ってしても成敗してやる。
それになにより、あの風呂とサウナだ。
俺は知らなかった。こんな解放感があるんだとは、サウナ後のあの言い表し様のない解き放たれた幸福感。
なにより、サウナ明けのビールの美味さ。
ここが天国なのかと錯覚するほどだ。
こんな満ち足りた人生が送れるとは思わなかった。
メタンではないが、創造神様に感謝だ。
いや、違うな、島野さん達に感謝だ!
俺はロンメル。
今契約更新を終えたところだ。
柄ではないが、先に言わせて貰おう、旦那、ありがとうな。恩にきるぜ。
俺達は八方塞がりのハンターチームだった。
ところが今では、俺達以上に最高のハンターチームがいるのか?って思えるほどだ。
『ロックアップ』は、一応解散はしてはいない。
事実上の解散なのは俺も分かっている。
俺にとっては『ロックアップ』が俺の人生の全てになっていたんだ。
そんな『ロックアップ』を旦那が救ってくれた。
それは紛れもない事実だ。
今の俺は島野商事の漁部門の責任者だ。
とはいっても、特に責任なんて問われることは無い。
旦那曰く、
「とにかく安全に気をつけてくれ、無理は一切するな、成果は上がらなくても一切気にしないでくれ」
ということだ。
せっかくだから、成果は出したい。だが、漁は博打の要素が強い。
旦那の言うことに甘えたくはなるが、精いっぱい全力で挑ませて貰う。
俺の漁は基本的には地引網だ。
地引は何かしらの成果が出やすいと俺は考えている。
だが、この島の近海の特性をまだ把握していない俺には、難しい漁場と言える。
少し話は変わるが、どうやら旦那は海産業に興味が沸いたらしい。
面談時に
「俺は今、海に強烈な興味を持っている、今後は養殖事業を行おうと考えている」
とのことだった。
一応説明はして貰ったが、どうやら牛や鶏の様に、海で魚を飼育しようと考えているようだ。
なんてことを考えてやがるんだ。ありえねえぞ。
魚を飼育するのか?
そんなことはこの世界で考えた奴なんて一人もいねえぞ。
だって、それが叶えば、漁にでる必要が無くなるってことじゃないのか?
俺の解釈が正しければ、そういうことなんだろう?
あり得ないぞ、そんな事。
だが、そのあり得ないを覆すのが旦那だ。
俺は冷や汗を止められなかった。
まだ四ヶ月近くの付き合いだが、とにかく旦那は出鱈目だ。
俺達の常識を当たり前のように飛び越えていきやがる。
それも平然と何食わぬ顔をして。
勘弁してくれだぜ。
やってらんねーよ。
俺はいまビリヤードってやつに嵌っている。
旦那が気晴らしにと作った遊戯物だ。
あれは楽しい、俺にはもってこいの遊びだ。
成績はいいぜ。旦那以外の者で俺に勝てる奴はなかなかいない。
アイリスさんが意外と上手だが、まだまだ負けることはそうそう無い。
旦那曰く、
「ビリヤードは技術もそうだが、先読みをどれだけ正確にできるかだ」
とのこと、
それをあまり広めて欲しくはない、ってのが本音のところだ。
この遊びをやって、おれは直ぐにそういう物だと気づいた。
他の者達はそれに気づいていない。だからあまり広めて欲しくないんだ。
勝率が下がるのは嫌だな。
俺の我儘なんだがな。
この島の食事はかなり旨い。これまで食べて来た食べ物がなんだったのかと思えるほどだ。
それにあれだ、犬飯だ。恐ろしく旨い。
聞くところによると、ノンは元は犬だったらしい。
なんでもシベリアンハスキーという、オオカミとの混血だったようだ。
どう見てもフェンリルなんだがな。
犬飯はノンから勧められた。
今では俺の定番になっている。
味噌汁と米を別々に食べてもおいしいのだが、混ぜ合わせると、米に味噌汁がしみ込んで格段に美味くなる。
犬飯を食ってると、決まってゴンちゃんに睨まれる。
お行儀が悪いってな。
飯ぐらい好きに食わせてくれよ。
誰にも迷惑をかけてる訳じゃないんだからよ。
ほんとあの子は生真面目過ぎるぜ。
さてと、お喋りはこれぐらいにして漁に行ってくるぜ。
じゃあな!またな!
私はメタン。
先ほど契約更新を終えたとろこです。
当然この島から離れることはありえませんな。
私は島野様のお側を離れることはありません。
島野様は私にとっての全てです。
これからも島野商事の正社員として、邁進してまいります。
この島に来てからというもの、驚きの連続ではありますが、島野様の行いの所存、私は全てを受け入れております。
しかし、石像には本当に驚きましたな。
始めて観た時には、涙が止まりませんでした。
敬愛する創造神様とはこの様なお姿をしていらしたのかと、初めて知りました。
ええ、毎日お祈りさせて頂いております。
当然聖者の祈りの効果で毎回金色に光っておられます。
私の祈りが届いていると、毎回嬉しく思っております。
一度、背後から島野様をお祈りさせていただいたことがありました。
無茶苦茶嫌な顔をされましたので、以後直接お祈りを行うことは、一度もしておりません。
今では、就寝前に島野様の居られる方角に向かってお祈りさせて頂いております。
私はこの島が大好きです。
食事は美味しいですし、お酒も美味しい。
お風呂に入れるものありがたいですな。
給料を頂けるなんて、感謝の念が止まらないですな。
この島は私にとっては、楽園そのものですな。
私は視力を失ったときは、人生が終わったと感じました。
人の手を借りなければ生きていけない。
自分では何もできない無力さを感じていたのです。
自死することを何度も考えました。
本当に辛かった。
この島に連れてきてくれた『ロックアップ』の皆には感謝しております。
そしてなにより、私を治してくれた、アイリス様、島野様には最大級の感謝をしております。
リーダーによくメタンは変わったなと言われますが、変わって当たり前ですな。
こんな経験をしたのですから。
私は島野様とこの島の為に、今後の人生を歩もうと決めております。
この決断は決して変わることはありませんな。
私の全てを島野様とこの島に捧げます!
私の仕事は魔法の開発のお手伝いと、畑で採れた収穫物の管理です。
主にゴン様の魔法の開発をサポートしております。
私は演唱による魔法を行いますが、ゴン様は無演唱による魔法ですな。
魔法の威力としては、演唱による魔法の方が高く、無演唱による魔法の方が低いですな。
それは演唱をした方が、魔法をイメージしやすいからだと考えられております。
けどゴン様は、そもそも魔法のレベルが高いので、無演唱でもいいと私は思っております。
ゴン様は攻撃魔法や戦闘に特化した魔法を開発しているようです。
なかなか上手くいってないようですな。
私としては、まずは生活魔法から行ってみてはと思うのですが、残念ながら私には生活魔法は使えません。
なので私は提案しました。
『魔法国メッサーラ』の『魔法学園』に留学してみてはいかがかと。
それが一番最良の道かと思うのです。
実は私も『魔法学園』の卒業生です。あそこにはあの方がおりますので、なんとかなるのではないでしょうか?
行くか行かないかはゴン様がお決めになることでしょう。
では、私はこの辺で、そろそろお祈りの時間ですので。
さようならですな。
俺はレケ、この島の新人だ。
この島に来てまだ一週間ってところだ。
いやー、この島はすげえな。
こんなところにこんな広大な畑があるなんて、知らなかったぜ。
あと、ここには風呂や露天風呂、サウナなんてもんがあるんだぜ。
あのサウナってやつはすげえな。
誰が考えたんだ?わざわざあんな部屋を暑くして汗をかこうだなんて、どMだな考えた奴は。
でもサウナはいいぜ。
始めは何のためにわざわざ汗をかかなきゃいけないんだと思ったけど。
サウナの後の酒は格別に美味い。
これまでも、酒は浴びるほど飲んで来たけど。あれほど美味しいと感じたことは無かったぜ。
あとビールっていうエールみたいな酒、あれは反則だ。
もうゴルゴラドの酒場で、エールが飲めるとは思えないぜ。
ボスに初めて貰ったワインには衝撃を受けたが、このビールにも衝撃を受けた。
この島に来て本当によかったと思ったぜ。
酒好きにはこの島は天国だな。
しかし、いろいろ聞いて分かったんだが、ボスは凄えな。
魔獣化したクラーケンとの戦闘を見て、強いのは分かったが、腕っぷしだけじゃなく。人を纏める力がある。
それに俺達には無い発想力が凄い。
異世界人らしいんだが、それだけじゃない底知れない何かを感じる。
この島の皆から慕われてるのも頷けるな。
それと、ここでの飯は上手いなんてもんじゃない。
こりゃ気をつけないと、俺でも太るかもしれない。
俺はあんまり外見を気にするほうじゃないが、太るのだけは勘弁だ。
酒を控えればいいんだが、多分無理だな。
福利厚生ってので、一日二杯までは無料ってのはありがたい。
毎回ビールにするか、ワインにするか迷っちまう。
サウナに入った後のキンキンに冷えたワインも、案外良いもんなんだぜ。
そうそう、なんちゃって冷蔵庫とかって物があるから、なんでも冷たい物が飲み食いできるんだ。
最高だろ!
ゴルゴラドの酒場のエールは冷えてなかったからな。
冷たいだけでこんなに美味いとは知らなかったぜ。
二杯目以降は自分で購入するのが、この島のルールで、毎日飲んでるんだが、少々俺には酷な話だ。
酒も社員割引で安くしてくれてるんだが。
なんてったって金がねえんだよ、ツケも禁止だしよ。困ったもんだぜ。
月末には給料が出るらしいんだが、まだまだ先なんだよな。
どうしたものか。誰かに借りるか?いや駄目だ。絶対ボスに怒られる。あの人だけは怒らせちゃまずい。
「レケ、これからはお前も家族になる、だからこの島のルールには絶対従え、いいな?約束を違えたら、この島から出て行ってもらうことになる」
って言われたからな。
この島を追い出されるって、死んだ方がましだよ。
しょうがない、今度ボスに相談してみよう。
ちゃんと相談すれば、ボスのことだ、何とかしてくれるだろう。
そうそう、そういえば俺は、ここでは午前中は皆と一緒に畑仕事をしているんだが。
あのアイリスさんって人は凄えな、畑のプロだな。どこにどんだけ肥料を与えるとか、どこにどんだけ水を撒けとか、ここはもう間引きなさいとか。これがプロの仕事ってやつだな。
本当に凄いと思うぜ。尊敬するぞ。
昼からはロンメルと漁に出かける。
なんでも、これは一時的なことになるかもしれないとボスは言っていたな。
まあ、どんな仕事でもやってみせるさ。
「あ、ボス、ちょっといいか?」
「どうした?レケ」
「あの、早い話が金がねえけど酒は飲みたいんだ、どうしたらいいと思う?」
「はあ、おまえ何言ってんだ?」
「いやー、ボスに付いていったら酒は飲み放題だと思ってたんだ。へへ」
「そんな訳あるか!」
ボスが呆れてるよ。ごめんな。
「そうだな、ちょっと待てよ」
腕を組んで考え込んでいるボス。
「そうだ、ワインの原料を買って、自分でワインを作れば安上がりになるんじゃないか?」
「ワインを俺が作るってことか?」
「ああ、そうだ。仕上げだけは俺がやってやるが、それ以外は自分で作るんだ。そうすれば社員割引の価格よりも半額以下ぐらいになるんじゃないか?」
「ワインってどうやって作るんだ?」
「そうだな、後で教えてやるから待ってろ」
「おお、さすがボス!頼りになるなー」
「レケ、そういやあお前、何で俺のことをボスって言うんだ」
「え?ノンがそう言えって言ってたから」
ボスがニヤリと笑っていた。
ちょっと怖い笑顔だな。ノン、知らねえぞ。俺はこの呼び方を気に入ったから今さら変えないぞ。
「そうか、分かった」
フュン!
ボスが消えた・・・ビックリしたあ。
しかしこれで何とか今月は乗り越えれそうだな。
自分でワインを造るか、面白れえな。
ちょと楽しみだぜ。
私はアイリス、世界樹の分身体ですわ。
私は植物ですので、畑のことは私にお任せくださいね。
大好物は『ゴロウ』の温泉饅頭ですわ。
あの甘くて口の中に広がる幸福感がたまりませんわね。
そうですわ!
今度島でも作れないか守さんに相談してみましょう。
なんだかワクワクしてきましたわ。
そうそう、前に行った祭りはとても楽しかったですわ。
あんなにたくさんの人がいて、ビックリしました。
一人だったら、怖かったかもしれないけど。常に誰かが付いていてくれたので、頼もしかったですわ。また来年も行きたいですわね。
分身体として生を受けてからというもの、楽しいことばかりですわ。
島の皆さんは優しいし、お食事も美味しいし、少し頂くお酒も美味しいですわ。
ハンターの皆さんも、最初はぎこちなかったですけど、今では皆さん打ち解けて、仲良しさんですのよ。
ウフフ、皆さん可愛い。
私は皆さんのよく使っているサウナは少々苦手です、守さんからは無理して入ることはないと言われています。
でもお風呂は気持ちいいですわね。あれは凄くいいですわ。
身体がポカポカして気分が良くなります。
毎日入ってますのよ。
塩サウナという物がありますが、とてもではありませんが、私は入れませんわ。
お肌がつるつるになると、女性陣がイキイキと言ってましたが、さすがに生命の危機と美容を天秤にかけることはできませんわ。
気にはなってますけどね。
実は私は性別がありませんのよ、正確には男性にも女性にもなれますのよ。
けど前に守さんから
「アイリスさんは僕達家族のお母さん的な存在ですね」
と言われて、嬉しかったので、それ以降は女性として通していますわ。
それに男性の姿になったら、ギルちゃんは必ず泣くでしょうから。
あの子は凄く甘えん坊さんなんですよ、私の前ではね。
ギルちゃんを悲しませたくはありませんからね。
それでは皆さん、またお喋りしましょうね。
ウフフ。
俺はレケからボスと呼ばれることの意味を知って。
ノンに仕返しをした。
例の如くいきなり現れて驚かせてやった。
けど何で毎回ノンの奴は「ピギャー!!」て言うんだろうな?
どうでもいいか。
すっきりした俺は、レケにワイン作りを教えている。
「いいかレケ、ワインの一般的な原材料は葡萄なんだ」
「へえー、そうなんだ」
「まずはこうやって葡萄を収穫する」
葡萄の枝をハサミで切って、籠に入れる。
「やってごらん」
「おう!」
何故か気合を入れているレケ。
「こんな感じか?」
「そうそう、良いじゃないか」
「ひとまず十房ほど収穫しようか」
「十ね」
レケが収穫を始めた。
「よし、そんなもんだな、次行くぞ」
と場所を変えた。
小さめの樽を用意した。
「この樽の中に葡萄をつぶしていく、種は抜く様に」
俺はいつもは『分離』を使うが、ここは手作業で教える。
葡萄の身を潰して中の種を取る、皮ごと樽に入れる。
「ボス、こんな感じか?」
「ああ、それでいいが、もう少し潰した方がいいな」
樽の中に入れた葡萄を更に潰すレケ。
「この実全部を潰していくんだ」
「これを全部だって?ワイン作りってのは大変なんだな」
そう、本当は大変なんです。俺が能力でズルしてるだけなんです。
全部の実を潰しきるのに三十分近くかかった。
「よしできたな、この後は蓋をして寝かせる」
「寝かせるってどれぐらい」
「うーん、どうだろう何ヶ月?何年?」
「えっ、そんな待てねえよ」
項垂れるレケ。
「だから、仕上げは俺がやってやるって言っただろ?」
「どういうことだ?」
俺は樽に手を翳し『熟成』の能力を使った。
「はい、出来上がり」
「嘘だろ?もういいのか?」
「ああ、俺の能力で出来上がっているはずだ、飲んでみたらどうだ?」
「ああ、そうするぜ」
樽の蓋を外し、樽を持ち上げて強引に飲みだしたレケ。
まあ、大胆だこと。ああ、横から零れてるよ。
プハー。
「上手え!ボス、出来てるよ、ワインになってるよ、凄えな!」
満足そうでなによりです。
「ワイン作りの大変さが分かったか?大事に飲めよ」
と偉そうにしてみた。
「ああ、大事に飲ませて貰うよ」
「これもやるよ」
と一緒に作った俺の分の樽をレケにあげた。
「いいのか?ボスあんた最高だぜ!」
飲み過ぎには注意しなさいよ。
やれやれ。
ちなみにレケはこんな感じです
『鑑定』
名前:レケ
種族:白蛇Lv15
職業:島野 守の眷属
神力:0
体力:3309
魔力:1956
能力:土魔法Lv15 風魔法Lv15 石化魔法Lv3 人語理解Lv6
人化Lv5 人語発音Lv5
手の掛かる娘です。
俺は納品で五郎さんのところに来ている。
「五郎さん、いつものところでいいですか?」
「ああ、そうしてくれ。島野そういやあ、エンゾが来てるぞ、会っていくか?」
エンゾさんか、お地蔵さん大作戦の結果が気になるから会ってこようかな。
「そうですね、せっかくですので」
「茶屋にいるから、覗いてみてくれや」
「分かりました」
納品を終え、俺は茶屋に向かった。
中に入ると、窓際の席で、エンゾさんが一人お茶を飲んでいた。
窓からの光を受け、エンゾさんはその美貌を隠すことなく、佇んでいた。
絵になるなー、と心の中で呟いた。
「エンゾさん、ご無沙汰です」
「あら、島野君」
手を振るエンゾさん
「お元気ですか?」
「ええ、ありがとう」
「この前は大変だったわね」
「ほんとですよ、無茶振りですよ、もう止めてくださいよね」
エンゾさんが微笑んだ。
「何言ってるの?島野君なら朝飯前でしょ?」
「だから、エンゾさんは俺を買い被り過ぎなんですよ」
「フフフ」
店員が注文を取りにやってきた。
「お茶をお願いします」
軽く一礼し、立ち去る店員。
「それで、お地蔵さんの効果のほどはいかがでしょうか?」
俺の体感としては、少し持ち直したと思うのだがどうだろう?
「神気の件ね、一段と濃くはなっていると感じるけど、百年前に比べれば、まだまだ神気の濃さは届かないわね」
やはりか。
「そうですか、まだまだですか」
「ええ、残念ながらね」
「それで、他の動きの方はどうなってますか?」
「これといった報告は無いわね」
「そうですか、話は変わりますが『温泉街ゴロウ』にはよく来るんですか?」
「ええ、五郎の影響で私は温泉好きになっちゃったからね」
「そうなんですか?」
これぞ湯煙美人だな。
「ええ、温泉には一時間は入るわね」
いるんだよね、たまにそういう人、俺には無理だな。
『おでんの湯』の常連さんで、炭酸泉に一時間以上入ってるおじいさんがいたな。
入浴中に何度も寝ちゃって、お湯に顔を付けては起きるを繰り返してたな。水面にキッス爺さん元気かな?話したこと無いけど。
「『温泉街ゴロウ』はいろんな温度の温泉があるわ」
「へえー」
知らなかったな。
「あら?知らなかったの?」
「ええ、松風旅館の温泉にしか入ったことないんですよ」
「それはもったいないわ。各旅館で温泉の温度を変えて、一番好きな温泉を選んで入るのが通の入りかたよ」
通って、はまってんなー。
「エンゾさんは、どれぐらいの温度の温泉が好きなんですか?」
「私は低めね、長いこと入るには高い温度は駄目ね」
ここで店員がお茶を運んできた。
会話が止まる。
お茶を置くまで待つしかない。
「ごゆっくりどうぞ」
店員は一礼して去っていった。
「『温泉街ゴロウ』はね、いろいろな所に気配りがされているのよ、なにもそれは温泉に限った話ではないわ」
「どんなところですか?」
「なにより目を引くのは接客ね、ここまで丁寧なのは外ではまず無いわ」
「確かにそうかもしれないですね」
「あとは、旅館によっては無いところもあるけど、おしぼりを渡してくれたり」
「ああ、向うの世界では一般的なんですけどね」
「そのようね、ただこの世界ではない気配りよ」
「なるほど」
「あと私が好きなのは浴衣ね、あれは軽くて着やすいわ」
エンゾさんの浴衣姿か、似合うんだろうな。
「あとは、なんと言っても料理ね、特に最近更に美味しくなったわ」
意味深に見つめられているような気がするが・・・何か知っているのかな?
「確かに温泉宿の料理は美味しかったです、日本酒も良かった」
「そう、日本酒は良いわ。あと、最近見かけるようになった、味噌というのもいいわね、あれは格別に美味しいわ」
「味噌と醤油は日本人の心ですから」
「みたいね、五郎はこれまでに、何度も挑戦してたみたいだけど、完成したのは誰のお陰かな?」
「ハハハ、誰でしょうね」
絶対にバレてる・・・
「あなた以外にいる?」
「バレてますよね・・・」
喉が渇いたのでお茶を飲んだ。
「じゃあ、エンゾさんそろそろ行きますね」
「もう行くの?」
「ええ、ちょっと用事があるので、ああ、ここは奢りますね」
「そう、ごちそうさま、またね」
俺は会計を済ませて五郎さんのところに戻った。
「五郎さんちょっといいですか?」
「おお、どうした島野」
「これなんですけど」
といって、俺は『収納』から、なんちゃって冷蔵庫を取り出した。
「ほう、なんでえ?これは」
「これは、なんちゃって冷蔵庫と言う家電です、野菜や肉などの長期保存が可能なものです」
「なに?本当か?」
五郎さんの目が輝いている。
「ええ、ここの扉を開きますと」
俺はなんちゃって冷蔵庫の扉を開いて、中を見せた。
「ここに氷を作製して入れて置きます。数時間後には、このなんちゃって冷蔵庫内は、キンキンに冷えます、その状態が結構な日数続きます」
と説明すると、五郎さんはニヤリと笑った。
「凄えじゃねえか!島野おめえ、またやってくれたな!」
「ハハハ」
そんなことを言われると思ってましたよ。
「で、いくらだい?」
「それを聞きたくての、相談なんです」
「なるほどな、まあこれはこの世界にとっては、最先端の技術だ。これは生活を大きく変える。難しいが、このサイズなら金貨十枚以上出してもおかしくねえな。うーん、どうしたものか・・・」
金貨十枚か。結構するな。
「金貨十枚ですか、俺の予想では、もう少し低く見積もってましたけど」
「いや島野、これは最低金貨十枚だ、よく考えてみてくれや。これまでは、食料の長期保存は出来ないものとして生活が行われてきている。卵一個とってみても、これまでは一週間以内に喰わなくちゃあいけないのが常識だった。だが、これはそれを大きく変えるぞ、どこまで期限が伸びるかは分からねえが、儂の見立てでは、三週間はいけると思うぜ、間違えねえな」
「消費期限が長くなるということが革命的だと?」
俺は元々冷えたビールを皆が飲めるようにする為に造った、ということは決して言わないでおこうと思った。
五郎さんの呆れた顔が想像できる。
「だから、儂の感覚では、これは金貨一五枚だ」
おお!それは凄いな。
「分かりました、で、五郎さんはいくつ必要ですか?」
「お前え、分かってんじゃねえか、ええ!」
それぐらいのこと、言われるぐらい分かってますって、ハハハ。
もう付き合い長いんですから。
ズブズブの関係じゃないですか。
ハッハッハッ!
「ちなみにサイズはカスタマイズできますよ」
「カスタマイズ?ってなんでえ?」
「ああすいません。サイズはご希望道りに、変えれますよってことです」
「本当か?お前え凄げえじゃねえか、よし、となりゃあ、サイズは儂の方で考える。決まったら、その時はよろしく頼むぜ」
「ええ、お買い上げありがとうございます」
さてさて、稼がせてもらいましょうかね。
しめしめ。これであれが造れるぞ。
なんちゃって冷蔵庫を一台置いて、俺は島に帰った。
なんちゃって冷蔵庫の素材だが、これまではアルミを使用していたが、頑丈さを重視してステンレスに変更した。
おそらく五郎さんの発注は、業務用になるだろうと考えたからだ。
ただ、そうしたことで、なんちゃって冷蔵庫の重量は上がるので、運ぶのが大変だが、俺は『収納』があるので問題はない。その先のことは、先方に任せるつもりだ。
納品後のことはお任せしまーす、ってこと。
ひと先ずは、一般家庭用として、今俺達が使っているものを五十台ほど作成した。
素材はどっちがいいのか悩んだが、運んだ時に傷がついて、なんちゃって冷蔵庫が駄目になっては良くないと思い、頑丈なステンレスにした。
販売価格は一台金貨十五枚と、五郎さんの意見に従うつもりだ、販売も五郎さんのところで一括にて行う。それ以外の場所での販売は今のところ考えてはいない。
販売先を増やさない理由は、いろいろな所に飛び周るのは勘弁して欲しいからだ。
それに価格が高いので、それなりの収入がある者しか買えないだろうと考えている。
その点、温泉街『ゴロウ』にくる客は、懐事情の良い人達が多い。
結局なんちゃって冷蔵庫を五十台作成するのに、金貨百枚近く材料費として掛かった。
結構な先行投資となったが、売れないとは思えない。
それに実際に販売するのは五郎さんだ。
問題は五郎さんにいくらで卸すかということだ。
利益は折半にしたいと考えているが、五郎さんはなんと言うか?
再び、五郎さんのところに来ている。
「早速だが、島野、前回預かったものの倍の高さと、倍の横幅の物を十台頼む。およそ、四倍となるが、値段は金貨四十枚でどうでえ?」
単純計算では金貨六十枚だが、手間はほとんど変わらないから、金貨四十枚でも十分だと思う。
「ええ、いいですよ、明後日には持って来れると思います」
ありがたい、いい売上になる。
「普通サイズの方はどうするんでえ?」
「五郎さんに販売の全てをお任せしますよ、独占販売ってやつですね」
他では売りたくありませんのでね。
「そうか、金額と卸値はどうするよ?」
「販売価格は予定道り金貨十五枚、卸し価格は金貨九枚でどうですか?」
ほとんど折半なのがこれぐらいかなと思う。
「そうか、妥当だな、だが本当にそんな卸し値で本当にええのか?」
「大丈夫です、充分に利益はありますので」
「そうか、ならいい、で、いつから始めるんでえ?」
前のめりな五郎さん。
「そうですね、ひとまず普通サイズは手始めに五十台作成済です」
「そうか、販売方法はちっと考えさせてくれ、ひとまず十台置いていってくれや」
「分かりました」
五郎さんに指定された場所に、なんちゃって冷蔵庫を十台置き、さっそく特注品の作成の為に島へ帰ることにした。
特注品の作成には、サイズが大きいこともあり、なかなか時間が掛かった。
手間は変わらないと考えていたが、そうでも無かった。
結局作成には二日間掛かり、何とか約束の日以内に引き渡すことができた。
納品日は、今後はゆとりを持って設定しようと反省した。
これにより、普通サイズで金貨九十枚と、特注品で金貨四百枚の売上げを確保できた。
合計で金貨四百九十枚になった。
今後は、普通サイズが定期的に販売できることを期待したい。
これで、あれが造れるぞ。やった!
実は、この様な金策に走ったのには、理由があった。
レケが島に来たことにより、全員で十二人となり、これを気にいろいろな建設を行うことを考えたからだ。
今考えているのは、新たな寮の建設と、遊技場の建設だった。
他にも細かい改築などもあるが、お金が掛かるのはこの二つだろう。
特に急ぎたいのは、寮の建設。
今は、俺の住んでいる家の二階の物置部屋を片付けて、その部屋にメルルが寝ており、マーク達は、ゴンが元々使っていた家に住んでいる、始めのログハウスはアイリスさんが使っている状態。
特にマーク達が手狭であるに違いない。
なので、レケには部屋がなく、ゴンの部屋で一緒に寝ている。
ゴンが言うには、レケは俺達の家じゃないと都合が悪いので、今メルルが使っている元物置部屋に移り、メルルが新たに作る寮に住んだ方がいいとのことだった。
どんな都合があるのかというと、レケは毎日深酒をする為、朝は起こさないと、起きれないらしい。
いい加減にせい!
でも、あれは治らんな。多分・・・
やれやれだ。
従って新たに寮を作る必要があると考えた。
皆には、今でも十分だと言われたが、福利厚生はもっと充実させたい。
寮には、今の俺達が住んでいるものと、同等のサイズの物をと考えている。
寮には『ロックアップ』一同と、アイリスさんに住んでもらいたい。
ログハウスは物置小屋に、ゴンの家は備蓄倉庫にしようと思っている。
早速マークとランドには、寮の建設を行う様に指示を出してある。
あいつらなら上手くやるだろう。
マークからは、お手本があるので、問題なくやれますよと、心強い返事を貰ってる。
他の皆にも、手が空いた時に手伝う様に伝えてある。
遊技場に関しては、ビリヤード台やらが、リビングにあり、少し窮屈に感じる時があるので、建設を決意した。
どれぐらいで出来るのか、完成を待とうと思う。
『漁師の街ゴルゴラド』で刺激を受けた俺は、マグロの養殖が出来ないかと考えている。
今の俺は海への興味が止まらない。
養殖場を設けることと、マグロを取ってくることは出来るが、問題はエサをどうするかということだった。
俺の覚えでは、マグロのエサはイワシなどの魚や魚粉がエサであったと覚えている。日本に帰って調べてみたが、概ね同じ内容だった。
小魚がエサとなると養殖は難しい事になる。
だがここは異世界、どうにかなるかもしれないと考えてしまうのだ。
さてどうしようか?
上手くいかなかったとしても、網などは漁で使い回しが出来るから、特に困ることはない。
マグロが死んでしまっても凍らせて置いて、食べたい時に食べればいいだけ。
決して損は無い。
まあ費やした時間は返ってこないが。
まずはやってみるか。
と安易な考え。
早速網の作成を行う。
ものすごい数の草が必要だった。
木からも出来ることを思い出したので。木からも網を作成していく。
なんだかんだで、網の作成には十日間近く掛かってしまった。
網の先端に、ゴムで造った浮を『合成』で付ける、網の下には鉄で造った重りを『合成』で付けておいた。
上から見ると円を描くように網を広げるが、波で形状が変わらないように、網の上部には形状を固定するように、アルミの棒を繋げてある。
アルミにしたのは、軽いことと、ステンレスよりも柔らかい為、形状維持に向いていると考えたからだ。
早速、ロンメルと、レケと共に海上に出て、養殖場を設置した。
次に前回の漁と同じ方法で、中サイズのマグロを十匹捕まえて。養殖場に放逐した。
そして、この日はとりあえずエサを与えずに様子見とした。
マグロに養殖場に慣れて貰う必要があると、考えたからだ。
翌日、ロンメルとレケと一緒に船に乗って、養殖場に向かった。
今はあくまで実験の段階なので、エサとなりえそうな物をいくつか準備している。
養殖場に到着した。
養殖場の中を覗き込んでみる。
「うん、泳いでるな」
「旦那、この先はどうするんだ?」
「この先は、何がエサになるかを実験することになる」
「へえー、実験か、面白そうだな」
レケは興味があるようだ。
「まずはこれだな」
俺は、ニンニクを取り出した。
「ニンニクは釣りのエサになるんだよ」
「えっ、ボスそれって野菜じゃないのか?」
「ああ、そうなんだ。何度かこれで魚を釣ったことがあるんだ。マグロは釣ったことはないけどな」
「へえー、野菜で魚をねー、凄いなボス」
俺はニンニクをばら撒いてみた。
すると、マグロがニンニクを食べていた。
おっ、いけるか?
全てのニンニクが無くなっていた。
マグロの様子を見てみたが、特に変化はない。
もう一度ニンニクを撒いてみた。
マグロは反応しなかった。
「あれ?どういうことだ?」
ロンメルが呟いた。
そう簡単にはいかないよな。
「これはもしかして、匂いにつられて食べただけってことなのかな?」
俺も理由は分からないが、そういうことだと考えるのは間違ってないと思う。
「ボス、匂いに反応して、一度は食べたが、マグロにとっては上手く無かったってことか?」
「おそらくな」
それ以外は考えられないな。
釣りでエサにできたのも、そういうことなのか?
まあいいだろう、これは実験だ、次に行こう。
「そうなると、次はこれだな」
前もって浄水池から捕まえておいた『プルコ』を用意した。
『プルコ』を十匹ほどばら蒔いてみる。
すると、マグロは『プルコ』を食べていた。
「これは、正解だな」
「お!てえと、早くも実験成功ってことなのか?」
ロンメルが目を見開いている。
「いやロンメル、そうじゃないんだ。マグロは小魚を食べることは、分かっていたことなんだ。これは念の為の確認でしかない」
「でもこれでエサは判明したんだろ?」
それはそうなのだが・・・
「そうであって、そうでは無いんだ」
「どういうことだ?」
ロンメルは気になって、しょうがない様子だ。
眉間に皺が寄っている。
「プルコはエサにするには数が足りなさすぎるんだよ」
的を得た感じのロンメル。
「ああ、そういうことか」
納得しているようだ。
「ボス、俺にはいまいちよく分からねえ、詳しく教えてくれよ」
「ああ、レケはまだ島に来て間もないから分からないかもしれないけど、島の浄水池で、プルコを飼っているのは知っているか?」
「いや知らねえな」
やっぱり知らないか。
「そうか、まずは島には水道があるだろ?」
「ああ、知ってる。あれは凄げえと思う。ゴルゴラドには無かったからな」
「あの水道は、実は川から水を引いているんだ、それでダイレクトに川の水を飲むのは衛生的にも良くないから、その途中で浄水池を設けることにしたんだ」
「へえ、それで?」
レケは興味は止まらない。
「その浄水池には、水のゴミや、微生物を食べてくれるプルコという、今ばら蒔いた魚を飼っているんだ」
「へえ、そうなんだな」
「そのプルコが成長して、繁殖して数が増えるんだが、その数が、マグロを飼えるほどの数が無いということなんだ」
レケは納得した様だ。
「なるほどな、そういうことか、だったらそのプルコをもっとたくさん飼ったらどうなんだ?」
「いい質問だ、それを行ったとしても、プルコの数は多くはならない、何故だと思う?」
レケは考えこんでいる。
「あー、分かんねえ!ボス教えてくれよ」
「ロンメルはどうだ?」
レケと同様に考え込んでいた、ロンメルにも振ってみた。
「旦那、俺にも分からねえな」
「そうか、プルコ自体の数は増えても、プルコのエサの数はどうだ?」
レケが手を叩いた。
「そうか、プルコのエサの数が増えないと、プルコの数は増えないってことなのか!」
ロンメルもレケも理解できた様子。
「だから、マグロのエサとしては、成り立たないということなんだ」
「そうか」
「なるほど」
だから他を当たるしかないんだよね、今は。
「なあボス、なんでボスはそんなに賢くて物知りなんだ?」
「賢くて、物知りか?それは異世界で得た知識があるし、異世界ではそれなりに俺も勉強をしてきたからな、それに俺はいろいろなものに、興味を持ってしまう性格だからじゃないかな?」
「勉強か・・・なあボス、勉強すれば俺でも賢くなれるかな?」
「ああ、間違いなくなれるぞ」
嬉しそうにしているレケ。
「本当かい?ボス、俺にいろいろ教えてくれよ、俺、賢くなりてえよ」
「ハハハ、そうか、よし、どうするかちょっと考えてみるよ」
「ありがとなボス、俺頑張るよ!」
嬉しい申し入れだった。
レケの向上心を感じる出来事だった。俺には養殖が上手くいく以上に、大事なことであると思えた。
こんな副作用があるとは思わなかったな。
良かった、良かった。
レケ頑張れ!
さて、次はどうするか?
準備してある中で、あり得そうなのは、獣の肉だった。
ジャイアントボアの肉を取り出して、ばら蒔いてみた。
すると、動きがあった。
マグロが近づいてきた。
しかし、食いつかない。肉が海面にプカプカと浮かんだあと、ゆっくりと沈んでいった。
駄目か・・・
「これは、どうなんだ?」
海下を良く見てみる必要がある。
こんな時の為に作っておいた、水中眼鏡を取り出し、装着して、海中を眺めてみた。
マグロが、肉の周りをぐるぐると周っている、興味はありそうだ。
するとその内の一匹が食いついた。
そして、吐き出していた。
駄目だったかー。
でも興味はあったようだな。要チェック。
「残念ながらジャイアントボアの肉は駄目なようだ、食ったことは食ったが吐き出していたよ」
「それは、駄目だな」
「次はどうするんだ?ボス」
「まずは、野菜を手当たりしだい試してみようと思う」
「おお、そうなのか」
「これぞ実験というところだな、大事なのはただエサをやるだけではなく、マグロの動きをよくみることだ」
「どういうことだ?」
「興味を示したかどうかを見極めるってことだ、興味を示した物は、エサの候補になりえるってことだよ」
「いまいちよく分かんねえな」
ロンメルが疑問を口にした。
「今日はひとまず、野菜をそのままで、試してみるが、興味がありそうな物を見極めて、その野菜を加工してみたら、エサになるかもしれないだろ?」
「そうか加工か・・・旦那は何手先まで考えてるんだ?適わねえな、まったく」
「何を言ってるんだロンメル、これが実験の面白いところなんだぞ」
「そういうものなのか?俺には分かんねえよ」
呆れているロンメル。
「俺にもなんのことだか分かんねえけど、面白いなボス、なんだかワクワクしてきたぞ!」
「そうか、それはよかった」
レケが変わってきていることを感じた。嬉しい変化だ。
この日は、ありったけの野菜を試して、夕方を迎えたので実験を止めた。
帰ると本日の内容を、木から造った再生紙に、炭で、記憶を記していく。
その様子をレケが熱心に眺めている。
記録を終えると、風呂に向かった。
本日もサウナを満喫している。
三セット目のサウナに、レケが入ってきた、
「ボス、期待してるぜ、養殖は上手くいくんだろ?」
「どうだろうな?でもなレケ、まずは基本からやっていくことが大事なんだ。苦労するかもしれないけど、頑張ろうな」
「ああ、ボス、俺は酒以外で、こんなに興味を覚えたのは初めてだ。ワクワクしてるぜ、本当にこの島は刺激が溢れてるな」
「そうか、それはいいことだ、お前の好きな事を好きなだけやればいい、俺はそんなレケを見てみたいと思うぞ」
「ボス・・・ありがとう」
レケが泣いた様に見えたが、汗が邪魔をしてよく分からなかった。
そして、晩御飯の時間となった。
最近では、俺は料理に加わることは少なくなってきている。
メルルに加えて、ギルとエルが、料理を作ってくれる様になっていた。
ギルは何かと、ピザを作りたがるが、それはまた後日、俺が教えることにしている。
まずは、その他の料理を学んだ上で教えることとなっている。
本日のメニューはシチューとパンといった。シンプルな晩飯。
良いじゃないか、シチューに隠し味として、醤油と、チーズが入っているのは俺直伝のレシピだ。
上手い、ノンとロンメルは早々にパンを食べ終え、ご飯をシチューに混ぜている。
こいつら、どんだけ混ぜたいんだ?気持ちは分かるけど・・・
さて、大事な話をしようか。
「なあ皆、聞いてくれ」
皆がどうしたと、俺の方を見ている。
「この中で、読み書きと計算ができる者はどれだけいるかを知りたい、出来る者は手を挙げて欲しい」
ノン、エル、ギル、ゴン、メタンが真っ先に手を挙げた。
遅れて、メルルが手を挙げる。
それ以外の者は何とも言えない反応。
「今手を挙げなかった者には、読み書きと計算の授業を受けて貰う、講師はメタンに任せていいか?」
「お任せください」
メタンは仰々しく一礼した。
「夕食後の三十分間勉強を受けて貰う、これは決定事項だ」
「「「ええー」」」
との反応。
手を挙げて俺はそれを制する。
「いいか、俺達は商売を行っている、商売人が計算をできないことはあり得ないし、文字が読め無いは話にならない、だから、これは強制的に学んでもらう。俺もサポートに回るから頑張って欲しい。これは今後の人生において、必ず役に立つことだと考えている、だから俺を信じて学んで欲しい」
「分かりました」
「そこまで言うなら」
「あたりまえだ」
どうやら合意を得られたようだ。
これで、皆が少しでも学んでくれたならいいと思う。
最低限の知識は学んで欲しい。
この日より、勉強会が行われるようになった。
全員がやる気に満ちた表情であることに安堵した俺であった。
まさか、レケの一言からこうなるとは。
人生は面白いと思う出来事だった。
また、養殖場に来ている。
エサの実験の時間だ。
まずは興味を示した。野菜に手を加えた物を使ってみる。
興味を示したのは、大豆とトウモロコシだった。
その二つを茹でてから潰して、混ぜ合わせた物を、大福ぐらいの大きさに丸めた物。
割合はちょうど半分ずつ。
これをエサとして使ってみる。
エサを撒くと、マグロが寄ってみきた。
「おお、食べてるぞ」
嬉しそうに観察しているレケ。
「うん、良い食いつきだな」
よく観察すると、ちゃんと吐き出さずに飲み込んでいる様子だった。
「でも、一つ二つしか食べないようだな」
ロンメルが言う通りだった。
「体の大きさからの推測だと、もっと食べると思えるが、何か違うのかもしれないな」
「何が違うんだろう?」
「今回のは、大豆とトウモロコシの割合を半分ずつにしてあるから。割合を変えてみるのも一つの手かな」
「なるほど」
「あと、こんな物も用意している」
俺は『収納』から違うエサを取り出した。
これは、先ほどのエサに、干し肉を粉にした物を混ぜているエサだ。
「先ほどの物に干し肉を混ぜてある、肉も興味を示していたからな」
「でも、確か肉は吐き出したんじゃなかったか?」
「ああ、そうだ、あれは生肉だったし、一度は口にしたんだから。可能性はあるかと思ってな」
「そうか、干し肉なら良いかもな、ボス早くエサをやってくれよ」
レケの表情からワクワクしているのが読み取れる。
「そう焦るなって、レケ、お前がやってみるか?」
「いいのか、やったぜ」
レケは俺からエサを受け取ると、養殖場にばら撒いた。
マグロが寄って来た。
勢いよく食べている。
バシャバシャと水飛沫を挙げていた。
「これが、今の所一番正解のようだな」
「凄い、ボスたくさん食ってるぞ!」
「じゃあ、これからはレケ、お前が引き継いでくれ」
「えっ、俺でいいのか?」
「ああ、先ほど言った様に、今後は大豆と、トウモロコシと干し肉の割合を変えて、どの割合が良いか、全部メモを取るようにしてくれ」
「ああ、ところで割合ってなんだ」
船の上じゃなかったら、確実にずっこけてたな。
そうだった、こいつはまだ勉強中だったな。
「帰ってから教えるよ」
マグロの養殖の道筋が、少し見えて来た気がした。
まだまだこれからだけどね。
帰ってからレケに割合を教えた。
興味があるからか、すんなりと理解したようであった。
興味ってすごいね。
メルルとの体力回復薬の研究も大詰めを迎えている。
様々な調理法を試し、様々な組合わせで野菜を試した。
最終的に出来上がったのは、野菜ジュースだった。
正直こうなるとは思ってたんだけどね。
遠回りしたのは、ご愛敬ということで、勘弁してください。
「やっと、出来あがったな」
「そうですね」
「ただ、問題がいくつかあるな」
「ええ、ここからは今の私では埋めようがありません」
「まずは、消費期限問題だな、結果はどうだった?」
「はい、日の当たるところで放置した場合では、十五日が限界でした」
これは俺の『鑑定』で見定めた結果だ。
「日の当たらない場所では三十日間持ちました」
「通常のハンター達が使う物と考えると、マジックバックに入れておくことが、多いんだよな?」
「はい、そうです」
「すると、最大三十日、安全性を考えると、二十日といったところか・・・」
「そうなりますね」
「これは長いと見るのか、短いとみるのかだが、どう思う?」
「正直判断に迷うところです。販売先は温泉街『ゴロウ』のみですよね?」
「ああ、そうだ、外では考えていない」
「そうですよね、そうなると微妙なところですね」
「そうだな・・・」
日数的に微妙ということだ。
「温泉街『ゴロウ』から二十日間歩きで行くとなると、どこまで行けるんだろうか?」
「それなら、ロンメルに聞いてみたほうが、いいですね」
「すまないが、ロンメルを呼んで来てもらえるか?」
「分かりました、行ってきます」
メルルが、ロンメルを呼びに行ってくれた。
需要が無いとは言えないが、あるとも言いづらい。
実験的に販売してみるしかなさそうだが・・・
使用に関しての説明書も付ける必要がある。
食当たりを起こしたとクレームが入るのも困る。
メルルがロンメルを伴って入室してきた。
「ロンメルすまない、ちょっと教えて欲しいことがあってな」
「ああ、旦那、ちょうどこっちも用事があったんだ、後で頼むぜ」
「そうか、じゃあ先にこちらからでいいか?」
「ああ、構わない」
「温泉街『ゴロウ』から、二十日間歩きで向かうとなると、どこぐらいまで行けると思う?」
「そうだな、足の速い遅いはあるかもしれないが、南に向かうなら『コロン』か『カナン』ぐらいまでかな、東になら『メッサーラ』までだろう。北なら『大工の街』ぐらいまでだな」
『大工の街』マークとランドの出身地だな。
「そうか、わかった『温泉街ゴロウ』で体力回復薬を買ったとして、今言った国に行くまでに、狩りを行うことはありそうか?」
「それは、あるとは思うぜ、ただ、ハンターってのは、ある程度腰を据えて街に滞在することが多いから、移動がてら狩りを行うことは、あまり無いな」
「そうなのか、分かった、ロンメルありがとう」
となると『タイロン』のハンター以外は、需要は無いかもしれないな。
どうしたものか・・・
「で、ロンメルの用事は何だったんだ?」
「実はマグロが一匹死んじまったんだよ」
マグロが死んだ?何でだ?
「そうなのか?」
「ああ、エルがいたから氷漬けにはしてあるが、レケが滅茶苦茶落ち込んじまって、これは旦那じゃねえと、話にならねえと思ってな」
「そうか、後で様子を見にいくよ」
「悪いが頼むぜ、旦那」
ロンメルが退室していった。
「マグロの養殖は上手くいっていると、聞いていたんですが」
メルルが心配そうにしている。
「生き物相手だと、こういうこともあるんだよ」
「そうなんですね、レケは大丈夫かしら?」
「レケは大人ぶってはいるが、案外心は子供だからな、まあ、俺に任せといてくれ」
メルルはコクリと頷いた。
「で、体力回復薬だが、どうする?」
「そうですね、さっきの距離などを考えると『タイロン』周辺で狩りを行うハンターには需要がありそうですね」
「そうだな、五郎さんと相談して実験的に販売してみるか?」
「そうですね」
「後、実験的に一つやってみたいことがあるんだが」
「実験的にですか?」
「小型のなんちゃって冷蔵庫を作って、回復薬を保存したら、どうかと思ってね」
「ええ!それ凄いアイデアじゃないですか?無茶苦茶良いアイデアですよ」
「だろ、で、どうする?その結果を待ってから、なんちゃって冷蔵庫とセットで販売を開始するってのも、有りだと思うが?」
「そうですね、そうしましょう、せっかくならセットで売ったほうが、画期的な商品として販売が立ちそうですね」
「ああ、それに中途半端に初めて、微妙な評判が付くもの良くないしな」
「ええ、まったくその通りです」
俺はさっそく小型のなんちゃって冷蔵庫を造った。
サイズとしては、高さ三十センチ、横幅三十センチ奥行が十五センチの物、体力回復薬の瓶が四本入る設計にした。
体力早速回復薬を入れて、あとは何処まで消費期限を延ばせるのかを検証することになった。
おれはレケの所に向かった。
レケは養殖場から帰ってきており、いつもの食事をする席に座っていた。
俺を見つけると駆け寄ってきた。
レケはそのまま土下座を始めた。
「ボスごめん!俺が引き継いだばっかりにマグロが死んじまった。すまねえ」
涙を流していた。
レケを地面から引き剥がすと椅子に座らせた。
かなりショックだったようだ。
悲しさが顔一面に張り付いているか
「なあ、レケ、マグロが死んでどう思ったんだ?」
「それは・・・せっかくボスが任せてくれたのに、下手打っちまったって・・・」
「そうか」
「ごめん、ボス」
「何で謝るんだ?」
「何でって・・・期待を裏切っちまったから・・・」
「期待を裏切った?何で?」
「死なせちまったから・・・」
「レケ、お前は期待を裏切ってなんかいないぞ」
「えっ・・・」
「だからお前は期待を裏切ってなんかいないんだよ」
「そう・・・なのか?」
「ああ、生き物、ってのはな、案外簡単に死んでしまうものなんだよ」
「・・・」
「俺達人間や、お前達聖獣だってそうだろう?意味も無く、いきなり死んでしまうことがあるんだよ」
「・・・」
「それにマグロには悪いが、あれは実験なんだ。死ぬことだって想定済みなんだ」
「そうなのか?」
「それにな、今回の出来事で、レケは何に気づいて、何を感じて、どう想ったのかが重要なんだよ」
「・・・」
「それを今後に生かしていく、それを俺は期待している。だからお前は俺を裏切っちゃいない。まだまだ俺はお前に期待してるんだぞ」
レケの表情が明るくなった。
「何を気づいて、何を感じて、何を想ったのか、だよな?」
「ああ、そうだ、で、どうなんだ?」
「気づいたのは、食事が原因とは思えないってことだ、食事が原因なら、もっとマグロが死んじゃうだろ?」
「ああ、そうだな」
「次に感じたのは、悲しかった。俺がマグロ達を育ててる気になってたんだ。最終的には食べるってことは、分かちゃいるんだが、愛着っていうのか、なんていうか、辛かった・・・」
「そうか」
「最後に想ったのは、ボスの期待を裏切ったって思った」
「で、今はどう思ってるんだ?」
「今回のことを次に生かそうと思う、マグロが死んだことは悲しいけど、何で死んだのかを考えてみたいし、もっとエサのことも、いろいろとやってみたい」
レケに笑顔が戻った。
「ああ、それでいいじゃないか、期待してるぞ」
「ああ、やってやるぜ!」
レケの目に光が帰ってきた。
成長していく様を目の前に、俺は嬉しさが込み上げて来た。
こうやって成長していくといい。
俺は、暖かく見守ろう。
そう切に想うのだった。
レケが島に来てから三か月近くが経っている。
正確なところは分からない、だいたいということで、勘弁して欲しい。
現在の島の、皆の暮らしぶりを話しておこうと思う。
まずは、重大発表があります。
なんと、
遂に、
泳げる水風呂を造っちゃいました!
はい、拍手!拍手!
いやー、やりましたよ!
やってやりましたよ!
早速利用しましたが、素晴らしい解放感です。
いやー、造って良かった。
「これってプールでしょ?」
とノンが言ったので、後で驚かせてやりましたよ、ハハハ!
サウナマニアはプールとか言わないの!
本当にあいつは、サウナマニアが何たるかを分かってないな、まだまだだな。
泳げる水風呂の深さは一メートル五十センチ、横幅は五メートル、縦幅は十五メートルとナイスなスペックです。
水温は十八度前後。
最高です!
あと、屋台の変形判として、鉄板焼きの設備を作製した。
家の中では場所が限られる為、野外専用に屋台を改造して造った。
カウンター部分を五メートルの鉄板にし、鉄板の下には薪を並べる様に空間を造ってある。更に屋台の骨組みに引火しない様に鉄を使用して、受け皿を設置してある。
念の為、受け皿の上には砂を敷いてある。
これで、火事にはならないはず。
安全第一です。
まず最初に行ったのは、ステーキのコース料理。
前菜として、ミックスサラダを提供し、食している間に焼き野菜を作っていく、焼き野菜はズッキーニや、山芋、エリンギ、鶴紫、カボチャ、を鉄板で焼いて塩コショウを振る、そして軽く醤油をかける。
焼き上がったところで、各自の皿にとり分けていく。
ここで一度鉄板の油をふき取り、新しく油を引き治す。
その間に前もって仕込んでおいた。メルルとギルとエルのウェイター達が、調味料として、塩、山葵の乗った器を各自に配る。
それを尻目に俺は、ジャイアントブルの肉を焼いて行く、ある程度焼けたところで、フランベを行う、アルコールはトウモロコシから作ったウィスキーだ。この島で一番酒精が高いアルコールだ。
フランベの後に蓋をして、軽く蒸し焼きにする。
その脇でガーリックチップを作るのも忘れない。
程よく焼けたところで切り分けて各自の皿に置いて行く。
ここで一言。
「まずは塩からお召し上がりください」
したり顔の俺。
一度言ってみたかったんだよね、このセリフ。
その後は肉からでた油を利用して、ガーリックライスを作っていく。
ガーリックライスを、ヘラを駆使して作っていく。
あえてカチャンカチャンと音を鳴らす。
出来上がったところで各自に取り分けていく。
「本日はご利用頂きまして、ありがとうございました」
その声と共に味噌汁が運ばれてくる。
ノンとロンメルは、さすがにガーリックライスは味噌汁には混ぜていなかった。
良い判断だ。
これにて終了。
メルルとギル、エルが私もやりたいと、数日これが続いた。
その後、お好み焼きや焼きそばも作った。
また連日同じメニューが続いた。
更に鉄板を変え、今度はたこ焼きを行った。
これは各自で作る様にした。
相当にウケた。
一週間たこ焼きが続いた。
俺は三日目から飽きていた。
だが楽しそうにしているこいつらを見ていると、リクエストには応えたくなる。
結構俺は甘いのかもしれないな。
喜ばれるのは嬉しいものだ。
お好み焼きやたこ焼きは、実はソースは使っていない。
俺の好みだが、醤油マヨで食べている。
俺は俄然醤油派なのだ。
俺の好みを皆に押し付けて申し訳ないが、ソースは当分の間必要ないと考えている。
ちなみに焼きそばは塩焼きそばだ。
連日の鉄板料理となってしまったが、ちょっと刺激が強すぎたかな?
エンターテイメント性のある食事はこの世界には強力過ぎたようだ。
島の暮らしについての話に戻そう。
皆自分のやりたいことを見つけ、日々の生活を楽しんでいる様に見える。
誰よりも、いきいきしていると思われるのはレケだ。
日々を全力で駆けているように見える。
例のマグロが死んでからというもの、さらにやる気を出して、マグロの養殖に励んでいる。
今のところ、エサの配分で分かっているのは、トウモロコシ三割、大豆七割の配合が食いつきがよく、今後は肉の種類や配合を変えて、推移を見守るということらしい。
マグロの養殖は順調にいっていると思う。
それに読み書き計算も頑張って習得している。
勉強熱心でなによりだ。
そして、レケは漏れなく毎晩飲んだくれている。
あいつの酒好きは折紙付きだ。留まることを知らない。
毎朝誰かに起こされている。
一番起こしに行かされるのはゴンらしく、一度懲らしめようと、アイリスさんが起こしに行ったところ、レケも流石に反省していたらしい。
だが、翌日も反省が実らず、起きてこなかったようだ。
あれは治らんな。病気みたいなものだと受け止めよう。
とは言っても、仕事にかける情熱は凄く、周りの皆を感化しているぐらい激しいものだ。
実にいいことだと思う。
それに研究というところに目がいったのだろうか、ワインの作成も、一樽は俺の仕上げを無しに作っているとのこと。
部屋の隅に大事に寝かせてあるそうだ。
良い傾向だと思う。
こっそりと手を貸そうかとも考えたが、止めておいた。
何度も失敗と成功を繰り返して、学んでいって欲しい。
今のレケならば、失敗してもめげることはもうないだろう。
あと、休日にもマグロの様子を見にいっているようだ。
熱心なことは良い事だが、根を詰め過ぎないで欲しいとも思う。
『漁師の街ゴルゴラド』に買い付けに行く際には、レケに一声かけてから行くようにしている。
決まってレケは同行をし、ゴンズ様の様子を見に行っている。
買い付けは主に貝類やエビが多い、ロンメルとレケの漁で魚は足りているが、海老と貝は捕っていない。
少し話は脱線するが、買い付けに行った際に本屋を見つけた。
適当に見繕い、数十冊の本を購入した。
やはり、紙は貴重品のようで、中には一冊で金貨一枚もする物もあった。
今では本はリビングに保管してあり、誰でも気軽に本を読めるようにしてある。
ただし、借りパクしない様にと、読書はリビングでのみとなっている。
購入の目的は、読み書きがまだできない者達に役立つと考えたからだ、あとは娯楽に良いだろうと。
購入した本の一冊が、勇者の英雄譚の上巻だった様で、ギルに中巻と下巻をおねだりされている。
ギルはどうやら英雄とかに憧れてを抱いているようだ。
まだまだ子供だな。
話を戻そう。
レケは帰省すると、ゴンズ様に近況を報告しているようだ。
酒を作っていると話したら、無茶苦茶笑われたらしい。
出来上がったら持って来いと言われたようで、誇らしくもしていた。
給料が入ったら、ワインの材料をたくさん買いたいと言っていた。
頑張れ!レケ!
ゴンズ様には、石像の件を伝えて、お地蔵さんを五体預けておいた。
近いうちに街と街道筋に設置されることだろう。
教会の石像もゴンズ様立ち合いの下、改修させていただいた。
シスターが涙を流しながら感謝してくれた。
どういたしまして。
最後に遂に養殖マグロが目標としていた、体長二メートル五十センチに達した。
五郎さんに買い取って貰ったら、金貨五十枚になった。
金額がどれぐらいが妥当か分からない俺としては、高い金額に思えたが、五郎さんは充分に利益は確保できると言っていたので、深くは考えないようにした。
よく年始に行われるマグロの買い付けでは、何千万円もの値段がついたとテレビでやっているのを思いだしたが、あれはご祝儀の為、まったくもって参考にはならない。
まあ五郎さんが利益が出ると言うのだから、適正な金額なんだろう。
俺は何も言うまい。
島に帰還後レケに報告したら、無茶苦茶喜んでいた。
晩御飯の時に皆に報告し、臨時のボーナスを一人金貨二枚渡すことにした。
お祝いを兼ねて宴会へと突入し、レケが嬉しさのあまり号泣していた。
それを見て、他の皆ももらい泣きしていた。
俺はまた乗り遅れてしまい、一人苦笑いをしていた。
年を取ると涙脆くなるというが、俺の涙腺は堅めのようだ。
鉄板入りである。
ハハハ。
【鑑定】
名前:レケ
種族:白蛇Lv16
職業:島野 守の眷属
神力:0
体力:3503
魔力:1999
能力:土魔法Lv15 風魔法Lv16 石化魔法Lv3 人語理解Lv6 人化Lv5 人語発音Lv6
次にマークとランドの頑張りで寮が完成した。
俺が手を貸したのは、基礎と水道関係と、彼らの指示の下、木材の作成を行ったぐらいでしかない。
ほとんどの作業を二人が行ったといっても良いだろう。
ほんとに頼れる奴等だ。
寮は良い仕上がりで、寮に住んでいる皆からも、住み心地が良いと評判のようだ。
六人の部屋に加えて、水洗トイレ、キッチンや台所も完備している。お祝いになんちゃって冷蔵庫もプレゼントした。
「本当に至れり尽くせりです」
一同に感謝されてしまった。
福利厚生は大事です。お気になさらず。
より一層仕事に励んでくれることだろう。
伐採した木材だが、そのままでは良くないと、ちゃんと次木を行っている。
次木に神気を流すと、直ぐに根を張るから。上手くいっている。
自然破壊はよくないですからね。
でも本当は、アイリスさんに苦言を呈されたからなんだが、多くは語らないでおこう。
アイリスさんには逆らえません。
次の建設は遊技場を予定している。
小さな体育館といったイメージだ。
中では、スリーオンスリーが出来る広さと高さ、ビリヤード台の設置やダーツが出来るスペースと、ちょっとした寛げる空間が欲しいとだけ、伝えてある。
こちらは設計から二人に丸投げした。
二人でどうするこうすると、連日打ち合わせているようだ。
そういえば、マークの休日の過ごし方だが。
朝から風呂とサウナを満喫し、昼飯と共にビールを飲む、その後、昼寝などでゴロゴロし、夕方にはまた風呂とサウナを満喫する。晩飯にまたビールといった。スーパー銭湯で一日中ゴロゴロしているオッサンの様なことをしていた。いや、カプセルサウナでゴロゴロ・・・どっちでも一緒か。
だがその気持ちはよく分かる、というより痛いほどよくわかる。
特に昼から飲むビールは格別なんだよな、背徳感も相まって、最高に美味いんだよな、ああ、飲みたくなってきた。
俺もたまに同じ様なことをやっている。
うんうん。
ランドだが、バスケットボールに大ハマりしている。
暇さえあれば、バスケットボールを触っている。
ランド曰く
「初めて決めたダンクの爽快感が、俺を虜にしたんですよ」
とのことだった。
好きなことが出来るのはいいことだ。
あまりのハマりっぷりに、バスケットシューズを作ってやったら、大喜びされた。
家宝にするとまで言われたので、そんな事言わずにちゃんと使ってくれと念押ししておいた。
「なんか、ジャンプ力が増したような気がします」
とランドは言っていた。
うん、間違いなく気のせいだね。
今はどうしたらこの世界で、バスケットボールを広められるのか?
と真剣に考えているようだ。
スポーツを広めるのはいいことだ。
頑張れ!ランド!
『鑑定』
名前:マーク
種族:人間Lv9
職業:ガーディアン
神力:0
体力:1390
魔力:148
能力:パーフェクトウォールLV2 防御力倍増Lv1 鼓舞奮闘LV2
『鑑定』
名前:ランド
種族:獣人Lv10
職業:重戦士
神力:0
体力:1653
魔力:74
能力:咆哮Lv2 斧ぶんまわしLv2 土魔法LV1
メタンだが・・・
こいつの信仰心は行き過ぎていると思う。
正直手が付けられない。
畑作業中に何度も創造神様の石像の前を通る度に、祈りを捧げるので。畑作業の手が止まるだろうと、メタン専用の石像を掘ってやった。
そうしたら引くほどに喜ばれた、というか無茶苦茶泣かれた。
「私の創造神様、ああ、私の・・・」
気持ち悪いほど悦に浸っていた。
サイズは畑の石像の半分サイズなので、メタンの寝室に飾ってあるらしく、毎朝必ず磨いているようだ。
本人が言うには、毎朝一時間は祈りを捧げているらしい。
そういえば、一度こんなことがあった。
畑作業中に背後から悪寒を感じたので振り返ると、跪いたメタンが俺に祈りを捧げていた。
俺はドン引きしてしまった。多分かなり嫌な顔をしていたと思う。
その後、祈られることは無くなったが、あれは二度とやって欲しくない。
将来、創造神様の後任になったとしたら、在ることなんだろうが、今の俺にはとでもじゃないが、受け入れられない。
ああ、思い返すだけで悪寒がする。
でもメタンの信仰心が、この世界の神気不足に少しでも、役立っていることも事実なので、受け入れるしかないのだが・・・もう少し時間をください。
真面目な話として、ゴンの魔法研究は行き詰っているらしい。
メタンからは、このままでは打開策が無いため『魔法国メッサーラ』の『魔法学園』への留学を提案したと聞いている。
なんでも『魔法学園』では、広く魔法を極めたい者を募っているらしく、学園長は賢者とのことだった。
せっかくだから『メッサーラ』についていろいろ聞いてみたところ。
国家元首は賢者が勤めることが慣例らしく、またその賢者が国家の運営能力が無くても、その地位に就くことになっているらしい。
実際の国家運営は、大臣クラスの者達が行っているようで。
賢者の実情はお飾りらしい、だが賢者の魔法に関する知識や威力、仕える魔法の種類は多岐に渡る為、一目置かれていることに変わりはないようだ。
お飾りとはいっても、一応それなりの権力は有しているらしく、賢者の一言で国が動くこともあるらしい。
メタンは賢者と面識があるらしく、メタン曰く。
「彼の魔法は本物ですな」
ということだった。
何が本物なのかは俺には分からないが、まともな人物であることを祈るばかりだ。
後は、ゴンが留学をするのか否かは、本人が決めることなので、俺は特に何もする気は無い。
背中を押すようなことでも無いし、本人の意思に任せるだけだ。
決意が固まったら、相談にくるだろう。
『鑑定』
名前:メタン
種族:人間Lv10
職業:魔法士
神力:0
体力:899
魔力:603
能力:火魔法LV6 土魔法LV7 崇拝の魔力化LV6
メルルだが、今ではこの島の料理番と言っても過言では無いだろう。
最近では目新しい料理を作ることが無い限り、料理はメルルとギルとエルが担当している。
メルルも料理の楽しさに目覚めたらしく、料理は楽しく生きがいだ、と口にしていた。
本人がそう言うのだから、そうなのだろう。
俺は決して押し付けた訳では無い。
生きがい、いいじゃないか。
今ではギルとエルに的確に指示を出し、台所の番人となっている。
俺は料理番を手放せたので嬉しく思っている。
更にこれまで俺が行っていた、醤油や味噌、アルコール類の下ごしらえも行う様になっている。
俺は最後に仕上げを行うのみだ。
大変ありがたいです。
助かってます。
なによりそのお陰で、夕方にサウナに入る時間ができるようになった。
若干の寂しさもあるが、それよりもサウナに入れる時間帯が、広がったことの方がありがたい。
ああ、俺はサウナジャンキーなんだなと切に感じた。
料理ができ気前上手なメルルなら、いつでも嫁にいけるだろう。
俺にどうかって?
馬鹿いっちゃいけない、精神年齢定年の俺には娘にしか見えませんよ。
メルルの野菜ジュース、もとい、体力回復薬だが、結局のところ小型なんちゃって冷蔵庫に保管すると、八十日も保つことが判明した。
実際には七十日以内に使用することが望ましい為、使用に関する注意書きには消費期限は、小型なんちゃって冷蔵庫内保管の場合は七十日とすることにした。
早速五郎さんのところに持ち込んだが、残念ながら待ったがかかった。
流石にインパクトが強すぎると、ハンター協会の会長とかとも話し合いをさせて欲しいとのことだった。
良いお返事を期待しています。
『鑑定』
名前:メルル
種族:人間Lv11
職業:僧侶
神力:0
体力:783
魔力:601
能力:風魔法LV6 治癒魔法LV8 鎮魂歌LV2
ロンメルだが、漁と海苔の作成に従事してくれている。
会話にもそれとなく入ってきて、ボケとツッコミの両方をそつなくこなす。まさにムードメーカーだ。
島の暮らしにも満足らしく、よくギルをからかって遊んでいる。
いい加減大人気ないから辞めなさいっての。
休日は『漁師の街ゴルゴラド』に帰ることが多く、酒場に入り浸っているようだ。
島に帰った後には、いろんな噂話をよく披露してくれている。
中には眉唾ものもあるが、世界の情勢を知ることは必要なことなので、ありがたく思っている。
まあ、どうでもいい情報も結構多いのだが。それはそれで知っていたに越したことはない、と言ったところだろうか。
ロンメルなりに、島の皆のことを考えて動いてくれていることは、よく分かっている。
もしかしたら、こいつは漁や海苔作りをするよりも、新聞記者とかの方が向いているのかもしれないと思う。
ビリヤードの腕はまだまだといったところだな。
若いもんには負けませんよ。
『鑑定』
名前:ロンメル
種族:獣人Lv11
職業:斥候
神力:0
体力:1259
魔力:239
能力:ムードメーカーLV3 探索LV2 跳躍LV1
触れる必要はないのだが、一応アグネスについての話しておこう。
五郎さんの所との大口取引が始まり。
アグネス便を停止しようかとも考えたが、続けることにした。
コロンの街の野菜は、だいぶ良くなったらしいが、島の野菜には適わない。
まだまだ需要があるみたいだし、最初の取引先であることに変わりは無いから、今後も続けることにした。
相変わらずの態度で、島の皆からめんどくさがられている。
唯一丁寧に対応するのはメタンのみ。
メタンがいうには、天使は神様の使いです、敬うのは当然ですな。ですが、少々うざいです。
とメタンにまで、うざいと言われてしまっていた。
たまにノンから
「締めるゾ!」
と言われて反省はするが、少し経つとすぐに元に戻っている。
なかなか性格は変わりませんよね。
まぁアグネスは今後も変わらんだろう。
ノンは相変わらずのマイペースぶりだ。
たまにイラっとする時があるが、そういう時は、驚かせてイライラを解消させて貰っている。
ノンには悪いが、これが一番面白いし楽しい。
今では、森の狩りはほどんどノン一人で行っている。
戦力としては充分過ぎるぐらいだ。
ノンが言うには、狩れない獣は居ないとのことだった。
そして時々獣化して甘えてくる、甘えん坊さんは変わらないようだ。
休日は森に出かけることが多く、何をやっているのかはよく分からない。
前に森で小さなお友達が出来たと言っていたが、何のことだかさっぱりだ。
たぶん、小動物とでも仲良くなっているのだろう。
好きにすればいい。
相変わらず犬飯が大好物のようで、ロンメルまで一緒になって犬飯を食べている。
犬は犬飯が好きなようだ。
ゴンには毎回舌打ちされるようだが、飯ぐらい好きに喰わせろよ、とよく言っている。
『鑑定』
名前:ノン
種族:フェンリルLv21
職業:島野 守の眷属
神力:0
体力:4448
魔力:2985
能力:火魔法Lv19 風魔法Lv20 雷魔法Lv18 人語理解Lv8 人化Lv7 人語発音Lv7
アイリスさんは、今では島の野菜の全てを牛耳る支配者となっている。
水やりから、肥料の指示までそつなくこなしてくれている。
アイリスさんは、畑で野菜を育てることが大好きらしく、もっと育てたいと良くせがまれる。
考えてみれば、最初はノンと二人だったこともあり、家庭菜園規模のような畑だったが、人が増え販売まで初めて、十ヘクタールぐらいにはなっているかもしれない。
測ったことは無いし、成形には作れて無いので、よく分からないのだが。
今では広大だということだ。
ただ、これ以上増えるのは勘弁して欲しい。
管理ができないと思う。
まったくもって、人出が足りないのが現状だ。
島の皆にとって、アイリスさんは母親的な存在なんだと思う。
皆との接し方を観ているとそう感じる。
特にギルはそういう節が強い、よく今日は何があったであるとか、こんなことをしたとか話しをしている。
そんな時のアイリスさんは微笑を浮かべて、話を聞いている。
そういえばアイリスさんから、饅頭を作れないかとリクエストされ、小豆を栽培してみた。
そろそろ収穫が近いかもしれない。
『鑑定』
名前:アイリス
種族:世界樹の分身体Lv19
職業:島野 守の協力者
神力:0
体力:2497
魔力:4306
能力:土魔法LV23 治癒魔法Lv17 人語理解Lv9 人化Lv9 人語発音Lv8 聖霊召喚LV3
エルは相変わらず不思議ちゃんキャラで、何を考えているのかさっぱり分からない。
たまに変な子モードになって、変なことを言っては皆を笑わせている。
いやあれは、笑われているだな。
本人には何故笑われているのかの自覚はなさそうだ。
笑顔も素敵で、全力で歯茎を剥き出しにしている。
なんでだろうね?
最近のエルは、もっぱら料理に興味があるようで、メルルの指導の下、着実に腕を上げているとメルルが言っていた。
どうやらどう料理をしたら、人参が最も上手くなるのかを知りたいらしく、試行錯誤しているとのことだった。
なんのことらや・・・
ただ俺にはそうは映ってはいない、おそらくだが、ギルが料理をやりたがっているからだと思う。
エルは顔には出さないが、ギルの姉であるという自覚が強いと感じる、また飛行部隊としての絆もあるのだろう、ギルの面倒を見ているような感じなのではないかと考えている。
いいことだと思う。
それとなく寄り添う関係が心地いいのかもしれない。
ギルも良く「エル姉」と言っては、何かを一緒にやっていることが多い。
兄弟仲良くでいいじゃないか。
うんうん。
『鑑定』
名前:エル
種族:ペガサスLv18
職業:島野 守の眷属
神力:0
体力:2490
魔力:4301
能力:風魔法Lv20 浮遊魔法Lv18 氷魔法Lv19 雷魔法Lv16
治癒魔法Lv12 人語理解Lv8 人化Lv8 人語発音Lv7
ギルは今では、蓄えれる神力の量も増えたので、一部の畑の神気やりをさせている。
まだ俺の様に神気を足から流すということは出来ないようだが、神気銃は撃てるようになったと言っていた。
たまに漁で神気銃を撃つらしい。
神気操作もレベル2になっていた。
その他の能力はまだまだ先と考えている。
まあ、ギルには魔法が使えるから特に急ぐ必要も無いだろう。
神様修業はゆっくりやっていこう。
そういえば、前にリズさんの教会に行った時に、テリー少年と打ち解けていた。
何があったかは知らないが、
「ギルの兄貴」
と慕われていた。
もしかして締めちゃった?
あと気が付いたらベビードラゴンからドラゴンキッズになっていた。
子供の成長は早いですね。
『鑑定』
名前:ギル
種族:ドラゴンキッズLv3
職業:島野 守の子供
神力:668
体力:4021
魔力:4029
能力:人語理解Lv7 浮遊魔法Lv6 火魔法Lv8 風魔法Lv8 土魔法LV6 人語発言Lv6 人化魔法Lv6
神気操作LV2
ゴンはメタンからの報告道りで、行き詰った感がある。
留学のことは本人次第だ。
管理部門の責任者として頑張ってくれている。
生徒会長的な雰囲気は変わっておらず。
気真面目なところも健在だ。
最近知ったのだが、イチゴが好物らしい。
狐だから、今度油揚げでも作ってみようかな?いやおいなりさんかな?
安易過ぎるだろうか?
『鑑定』
名前:ゴン
種族:九尾の狐Lv18
職業:島野 守の眷属
神力:0
体力:2009
魔力:2932
能力:水魔法Lv20 土魔法Lv17 変化魔法Lv16 人語理解Lv8
人化Lv7 人語発音Lv7
ゴンが俺の部屋にメタンを伴ってやってきた。
どうやら決意が固まったようだ。
「主、お話しがあるのですが」
「おお、どうした」
「大変重要な相談です・・・」
神妙な表情のゴン。
「どうした?」
分かってはいるが、あえて振ってみた。
「私『メッサーラ』の『魔法学園』に留学したいです」
「そうか、良いぞ行ってこい」
「えっ!いいので?」
「ああ、好きにすればいいさ」
「そんな簡単に?」
俺があっさり認めたので疑問に思ったようだ。
「ああ、メタンから大体のことは聞いている、好きにやってごらん」
「本当にいいので?」
「もちろんだ。いつ言い出すのか待ってたぐらいだ」
「ありがとうございます!」
「ゴン、思いっきり行けよ」
「はい!」
「そこでゴン、一つだけお前に目標を与える」
「なんでしょうか?」
「友達を作れ、一人以上は必ずだ」
「友達ですか?」
「ああそうだ、お前の人生において、大事な存在になることは間違いない、いいな?」
「分かりました、頑張ります!」
こうしてゴンの留学が決定した。
一回り大きくなって帰ってくることを期待しよう。
俺のステータスはどうかって?
しょうがないな、見せたくはないのだが秘密で頼むよ。
『鑑定』
名前:島野 守
種族:人間
職業:神様見習いLv15
神気:計測不能
体力:2003
魔力:0
能力:加工L6 分離Lv6 神気操作Lv6 神気放出Lv5 合成Lv5
熟成Lv5 身体強化Lv4 両替Lv1 行動予測Lv3 自然操作Lv5
結界Lv2 同調Lv2 変身Lv2 念話Lv2 探索Lv3 転移Lv3
透明化Lv2 浮遊Lv3 鑑定妨害lv1 初心者パック
預金:3598万4356円
ええそうです。だいぶ儲かってます。
ちなみに島野商事の現在の経常利益は金貨675枚と銀貨54枚。
まっ黒字経営となってます。
バンザーイ!
バンザーイ!
バンザーイ!
ゴンの留学が発表された。
出発は一週間後。
皆な様々な反応を見せている。
前打ち上げとして宴会となった。
そしてレケがまたやらかした。
「ゴン!行かないでくれよ!お願いだよ!」
「そんなこと言わないでよ、半年で帰ってくるんだからさ」
「そうじゃなくて、俺は朝どうやって起きたらいいんだよ?」
「そんなの自分で起きなさいよ!」
「「そりゃそうだ」」
全員総ツッコミ。
レケの悪酔いは止まらない。
「そんな寂しいことは言わないでくれ・・・ゴン・・・寂しいよ」
と大泣きした。
それに釣られて皆が大号泣し出した。
またこのパターン・・・勘弁してくれよ。
やれやれだな。
ゴンの留学前日、出発の日。
メッサーラへは『温泉街ゴロウ』から空路で移動することになっている。
移動時間はおそよ半日。
皆から盛大な見送りを受けているゴン。
「皆、本当にありがとう、行ってきます!」
「「「いってらっしゃーい!」」」
「気をつけていくんだぞ!」
「体を大事にな!」
盛大に送り出してくれている。
「じゃあゴンいいか?」
「はい、お願いします」
ヒュン!
『転移』で『温泉街ゴロウ』にやってきた。
五郎さんに挨拶しようと思ったが、取り込み中とのことだったので止めておいた。
既に、上空の移動に関する許可は『温泉街ゴロウ』のハンター協会から貰っているので、直ぐに移動を開始した。
俺はメタンとギルの背に乗り、ゴンはエルに背に乗っている。
上空へと飛び出した、向かう方角は北東方面、天候も良く、気持ちのいい風を受けている。
「まさか、ギル様の背に乗せていただける日がこようとは、感激ですな」
メタンが呟いた。
だか、顔色は悪い。
「おいメタン、大丈夫か?」
「じつは、私、高所恐怖症で・・・」
メタンは気絶した。
「あれ?メタンが気絶しちゃったよ」
「嘘でしょ?」
「「「ハハハ!」」」
大うけだった。
「ギル、ゆっくり飛んでくれ」
「分かった、あー、面白!」
「まあこれで、煩い創造神様の話を聞かなくて済むな」
「そうですの、煩いですの」
「違いない」
「まあ、吐かなかっただけよしとしよう」
「えー、吐かれたら僕は一生恨むよ」
楽しい空の旅となった。
メタン残念!
僕は賢者ルイ、魔族と人間のハーフ。
そして、魔法をこよなく愛する者さ。
魔法国メッサーラでは慣例として、賢者が国家元首を務めることになっているので、僕はメッサーラの国家元首でもある。
正直に言って国家元首なんてやりたくない。
三年前に僕は賢者になった。
元々僕は生まれながらに魔力量が多く、魔法の習得も早かった。
どうしてなのかは分からない。
生活魔法や攻撃魔法、防御魔法なんかを使える。
だが、固有魔法はまだ開花していない。
今の僕には固有魔法を開花できるとは思えない。
固有魔法は、その人物の性格や人間性から開花する魔法だ。
今の僕には無理だろう。
何故無理かって?
だって、毎日がつまらないんだ。
賢者になってからというもの、僕の周りの人は僕を見る目が明らかに変わった。
親や兄弟まで変わってしまった。
その目の奥には、恐れの感情が含まれている。
分からなくはない。
けど・・・
国家元首である僕には国を動かす力がある。その権利を持っている。
お飾りではあっても、僕の発言には高い関心が寄せられている。
実際、政治については、僕は何もしていない。
政治は大臣達が行い、僕は最終的に決まったことを了承するだけ。
僕が国家元首である必要はないと思う。
でもこの国の伝統にのっとり、そうしなければならない。
その他の国営に関することも同じで、決まったことを了承するだけ。
なによりそもそも興味がないので、決まったことをひっくり返すことなんてしない。出来る権利は持っているけど。
だからだと思う。
皆が僕に恐怖を覚えるのは。
でも皆な間違っても口にはしない。
そもそも僕を咎めたり、叱ったり、怒ったりなんて誰もしない。
間違ったことをしても、やんわりと諭される程度で、真剣に叱ってくれる人なんていない。
賢者になってから僕の世界は色を失ってしまった。
僕には世界が灰色に観える。
でも大好きな魔法の研究に没頭している時だけは、世界に色が戻ってくる。
そうその時だけは。
僕は『魔法学園』の学園長も兼任している。
だから生活のほとんどを『魔法学園』で過ごしている。
『魔法学園』の生徒たちは、魔法を学び、その研究を行っている。
時には僕が魔法を教えることもあるが、実力のある教師が揃っているので、あまり出しゃばらないようにしている。
そんな僕には友達も、親友も、恋人もいない。
灰色の世界に住んでいる。
特にやることもなかったので、学園の中を歩いていた。
何も考えずにボーっと歩いていた。
すると突然、僕は目を奪われてしまった。ある一人の女性に。
その女性には色があった。とても綺麗に輝いていた。
うつむき加減な女性が正面から歩いてきた。
僕は思った、いや思ってしまった。
この女性を知り合いと。
なぜこの女性には色があるのか。
美しとも感じた。可愛いとも感じた。
目が離せない。
知りたい、どうしても知りたい。
どうしよう。
知りたいんだ。
気が付くと『鑑定魔法』を使ってしまっていた。
『鑑定』
名前:ゴン
種族:九尾の狐Lv18
職業:島野 守の眷属
神力:0
体力:2009
魔力:2932
能力:水魔法Lv20 土魔法Lv17 変化魔法Lv16 人語理解Lv8
人化Lv7 人語発音Lv7
やってしまった。とんでもない失礼なことを。
でもせっかくだからちゃんと見よう。
ゴン?
不思議な名前だな。
九尾の狐って聖獣じゃないか。
島野守?って何の神様なんだ?聞いたことも無いぞ。
言葉の響きからして、どこかの島を守る神様?いや分からない。
なによりレベルそのものが凄く高い、水魔法レベル20って川を氾濫させるレベルだと思うけど。
えっ、変化魔法?聞いたことがない。固有魔法なのか?
凄い、興味が止まらない。
どうする、どう声を掛けたらいい?
はじめまして、僕はルイ、賢者だよ。
駄目だ、それとなく逃げられそうだ。
君って聖獣なんだね?
あほか『鑑定魔法』使ったのが、バレバレじゃないか。
君の名前は?
始めて会った人にかける最初の一言ではない。
どうしたらいい、もう目の前にいるってのに
あああ、もう!
「僕と友達になってください!」
僕は下を向いて、右手を指し出していた。
何を僕はやってるんだ!
僕は馬鹿か!
絶対に間違った!
やってしまった!
とその時、右手に握り返された感触があった。
えっ!
思わず前を向ていた。
「こちらそ、よろしくお願いいたします」
素敵な笑顔だった。
僕はこの笑顔を一生忘れないだろうなと思った。
僕の世界に色が戻ってきた。
『魔法国メッサーラ』に到着した。
入国の際に、ここも『タイロン』と一緒で随分と待たされた。
『魔法国メッサーラ』の印象としては、他民族国家というところだった。
人間、魔人、獣人、エルフ、中には巨人と呼ばれる三メートル近い身長の人も居た。
そのせいだろうか、屋根の高い家が多い、あれだけの巨体が入るとなると、当然なのだろう。
街の至るところに街灯のようなものがあり、メタンに聞いてみたところ。街灯そのものだった。
ただ電気で光を出すのではなく『照明魔法』という物があり、夕方になると。照明屋と呼ばれる魔法士が明かりを点けにくるのだそうだ。
『照明魔法』そんな魔法があるのか・・・俺も能力で照明を開発してみようかな?
生活魔法の中では比較的簡単な魔法であるらしい。
だがメタンは習得できなかったそうだ。
適性がないということらしい。
ゴンが覚えてくれたら助かるなと思う。
ゴンの入学テストは明日の為、今日は適当に宿に泊まってと考えたが、島に帰ることにした。
ゴンは一人宿に泊まるということになった。
あんなに盛大に送り出してくれたのに、いきなり帰るのはバツが悪いらしい。
ギルがゴンが一人ではなんだと、ギルも宿に泊まることになった。
ならばと結局五人とも宿に泊まることになった。
要らないやりとりをしたようだ。
晩御飯を終え、宿の部屋に向かった。
部屋割りは、俺とメタン、ギルとゴンとエルとなった。
「それじゃあ明日、あんまり夜更かしするなよ」
「ええ、そうします」
「パパ、お休み」
「ああ、お休み」
部屋に入った。
宿の部屋は広く、天井が高かった。
「メタン、この天井高がこの国では一般的なのか?」
「そうですね、体の大きな人もこの国では多いですからな」
「そういえばメタン、ゴンのことだが、お前どう思う?」
「そうですね、魔法のレベルは高いですし、技量も高い、試験には間違いなく合格します」
「寮生活になるんだろ?」
「ええ、そうです。個室はありませんので、おそらく二人部屋になるかと思いますな」
「学園生活はどうだろう?」
「ゴン様はコミュニケーション能力は高いですが、正義感が強いので、そこが心配どころですな」
「そうか」
「メッサーラにも少なからず差別があります。他民族国家ならではかと」
「差別ね、あるんだろうな」
「ええ、変なことに巻き込まれなければいいのですが・・・」
「まあ、それも勉強の内だな」
「そうですな」
「じゃあ、休もうか」
「お休みなさいませ」
「ああ、お休み」
俺達は眠りについた。
翌日、朝食を終え、俺達は『魔法学園』に向かった。
「昨日はよく眠れたか?ゴン」
「いえ、実はあまり、緊張してしまいまして」
「そうか、緊張するなとは言わないが、自分の実力を信じることだ」
「自分の実力を信じる・・・」
「ああ、お前の魔法の実力は間違いないとメタンが言っていたし、俺もそう思うぞ」
「そうですか、ありがとうございます。主にそう言って貰えると励みになります」
「あとな、実は緊張を解す方法があるぞ」
「あるのですか?」
「ある」
そういうと、俺は手招きした。
「黄金の整いの呼吸法だ」
小声でゴンにだけ聞こえる様に話した。
「なるほど、私は知っていたんですね」
メタンが聞きたそうだったが、無視した。
『魔法学園』に着いた。
「じゃあゴン、気負わずにな、終わったら宿の食堂で合流だ」
「わかりました、いってきます」
「「いってらっしゃい」」
「頑張れゴン姉!」
「ゴン様なら楽勝ですな」
ゴンは『魔法学園』に入っていった。
「そういえばメタン、学園内を見学はできるのか?」
「どうでしょうか?聞いてみましょう」
学園の警備室のようなところに行った。
受付の警備員に尋ねてみる。
「すいません、学園内を見学することは可能でしょうか?」
「あの、生徒のご家族さんでしょうか?」
「ええ、娘が今日入学試験を受けるところです」
「そうですか・・・」
怪訝そうな顔つきだった。
まあ、見た目が若いからね。疑われてもしょうがないか。
「では『鑑定』をさせてもらいますね」
「『鑑定』ですか?」
「ええ、身元を保証してもらう必要がありますので」
「そうですか、じゃあいいです。辞めときます」
「島野様、ちょっとお待ちください」
とメタンが言うと、前に出て来た。
「君、島野様とギル様とエル様の身元はこの私が保証します。私はここの卒業生です」
「卒業生ですか?」
「そうです『鑑定』してみなさい」
怪訝そうな表情を崩さない警備員。
「では、そうさせていただきます」
鏡のような道具を警備員が持ち出した。
「では、失礼して・・・えっ!あなたは、もしかして・・・信仰のメタン・・・さん?」
「ええ、そうです」
「わかりました、信仰のメタンさんが身元を保証してくれるというのなら、どうぞご見学なさってください」
軽く会釈して、その場を立ち去るメタン。
俺はギルと顔を見合わせた。
両手の手の平を上にして、分かりませんのポーズをするギル。
それに頷く俺。
メタンの後を着いていった。
「なあメタン、お前ってもしかして、この国じゃあ有名人なのか?」
「いえいえさほどでも」
誇らしそうな表情を浮かべている。
それにしても、こいつに二つ名があるとはな。
信仰のメタンって、まんまじゃん。
こいつの信仰心の高さは二つ名になるほどなのか・・・まあそうだろうな。変態的だもんな。
学園内は家や宿と一緒で、天井が高かった。
それに懐かしの黒板があった。
この世界にも黒板があるとは・・・
「なあメタン、チョークもあるのか?」
「チョークですか?聞いたことがありませんが」
「じゃあ、黒板にはどうやって文字を書くんだ」
「それは魔道具で書きますな。魔道具の筆で、書くことも消すこともできます」
「そうなのか?そういえば、さっきの『鑑定』も鏡みたいな道具を使ってたけど、魔道具ってたくさんあるのか?」
「ええ、ここ『魔法国メッサーラ』の魔法道具は有名で、特産品となっております」
「そうなのか?じゃあ、後で見て周りたいな、いいか?」
「もちろんです島野様。あとで魔道具屋をご紹介させていただきます」
「そうか、助かる」
魔道具か・・・俺は使えないが、皆の助けになるような道具があれば、買っておきたい。
どんな魔道具があるんだろうか?気になるな。
この後、学園内を見学し終え、ひとまず昼飯にと街に出かけた。
食事は正直言って、美味しくはなかった。
まあ、食事には拘りが無い国なのかもしれない。
食事の満足度は低い。
「メタン、魔道具ってどんな物があるんだ?」
「そうですね、一般的なのは、先ほど島野様が興味を持たれた魔法筆、あとは魔法照明具ですな」
「照明か、いくつか買っていこうかな?」
値段はどうだろう?
「高いのか?」
「ピンキリですな」
「そうか、他には?」
「魔法消臭具、とかですな」
「魔法消臭具?」
「ええ、主にトイレに使用します、島のように水道が通っておりませんので、トイレの匂い消しに使われます」
「なるほど」
「あとは火をつける魔道具や、水を出す魔道具なんかもあります」
いろいろあるんだな。いくつか購入を検討だな。
魔道具屋にやってきた。
魔道具は、木の枝のような物に、魔石が埋め込まれている物が多く。ほかにも鏡のような物や杖のようなものもあった。
結局、筆の魔道具五つと、照明の魔道具を五つと、火の出る魔道具を一つ、水の出る魔道具を一つ購入した。
筆の魔道具の一つはゴンに渡すつもりだ。これを学園では皆が使用しているとのことだったので、必須だろう。
通信の魔道具もあったので購入してゴンに持たせようと思ったが、通信距離に制限がある為、役に立たないので止めておいた。
結構な値段になったが、暮らしが良くなるならいいと考え、購入を決意した。
これで暮らしが明るくなるといいな、照明なだけに・・・イマイチ。
こんにちは、ゴンです。
今日から私の『魔法学園』生活がスタートしました。
朝から緊張気味でしたが、主のアドバイスに従い、複式呼吸を行ったところ、だいぶ緊張が解れたようです。
複式呼吸ってこういうことにも使えるんですね。
先程入学試験を終え、今は学園内を観て周っているところです。
試験は問題なく筆記も実技も楽勝でした。
メタンの言う通りでした。
なんでも私は、特に実技試験の結果がよかったようで、特待生というものに選ばれたようです。
特待生だと、学費、食堂での食費、寮費などが免除されるらしく、助かりました。
念のため、お金は準備していましたが、使わなくて済むのなら、それはそれでありがたいことです。
それにしても、問題があります。
どうやって友達を作ったらいいのでしょうか?
私には家族や仲間はいますが、友達はいません。
島の皆は家族であり、仲間なので、友達とは違います。
どうしたものでしょう。
私のコミュニケーション能力は、低くはありません。
消極的でもありません。
友達できるといいな・・・誰か友達になってくれないかしら?
そんなことを考えながら歩いていると、いきなり目の前に手が差し出されました。
「僕と、友達になってください!」
と言われました。
えっ!嘘でしょ?
前を向くと、一人の男性が、深くお辞儀をし、右手を差し出していました。
私もう友達できちゃったの?
いいのこれで?
でも。向うからの申し入れだし、いいよね?
まだ名前も知らないし、顔も見てないけど、大丈夫よね?
身なりはきちんとしている様だし、問題ないよね?
こんなチャンスもう無いかもしれない。
えい!
右手を握り返した。
すると、男性が顔を上げた。
まあ、素敵な方。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
何故か私は笑顔になっていた。
再びルイです。
僕は幸せ者かもしれません。
こんな可愛い子が友達になってくれるなんて。
握手の後、一瞬気まずい空気が流れたが、お互いの自己紹介が始まった。
「僕はルイ、賢者です」
「私はゴンです。九尾の狐です」
「九尾の狐?」
「はい、そうです。今は人化して人の姿ですが、私は聖獣です」
そうですか、ごめんなさい『鑑定』して知ってます。
許してください。
「ゴンちゃんと呼んでいいですか?」
「ええ、構いません。あなたのことは何とお呼びすればいいでしょうか?」
「そうですね、ルイ君はどうでしょうか?」
「そうですね、そうしましょうルイ君」
ルイ君って呼んでくれた!
嬉しい、なんて幸福なんだ。
「それで、今は何をしていたんですか?」
「先ほど、入学試験を終えまして、これから魔法学園を観て周ろうかと思いまして」
「そうなんですね、僕に案内させてください」
「はい、よろしくお願いします」
「よろこんで」
やった、まだまだ話せるぞ。
「ではこちらからいきましょう」
「はい」
並んで歩きだす僕達。
それにしてもゴンちゃんか、なかなか聞かない名前だな。
嬉しいのは、僕が賢者だと知っても遜る様子が一切ない。
僕を一人の人間として見てくれている。
僕の目は間違ってなかった。
「そういえば、今日入学試験を受けたって言ってたね?」
「ええ、そうです」
「これまでは何をしていたんだい?」
「これまでは、とある島で暮らしていました」
「とある島?」
「ええ、島のことは訳あって、あまり話ができないのです」
「そうなんだ」
「なんで魔法学園に入学したの?」
「それは、島で魔法の研究をしていたんですが、どうにも行き詰ってしまい、仲間に魔法学園行きを提案されて、入学することにしたんです」
「そうなんだ、どんな魔法に興味があるのかな?」
「今は、生活魔法に興味があります」
「生活魔法か・・・生活魔法はいい魔法だよ。暮らしを良くすることが出来る」
「ええ、生活魔法を習得して、島の皆の役に立ちたいんです」
島の皆の役に立ちたいって、仲間想いなんだな。
羨ましいな。
「そういえば、試験はどうだったの?」
「ええ、優秀だと判断されたようです。なんでも特待生とかいう扱いをして貰えるようです」
「凄いじゃないか!特待生って、なかなか成れないよ」
「そうなんですか?そういったことはあまり良く分からなくて」
魔法のレベルから見たらそうなるだろうけど、学園側も思い切ったことをしたな。
審査員を褒めてあげないとって・・・あれ、こんなこと今まで考えたこともなかったよな。
「まずここが講堂だね。主に座学を行うところだよ」
「へー、広いところですね」
二人で講堂を観て周った。
「次に行こうか?」
「はい」
歩き出す僕達。
「そういえば、ゴンちゃんは聖獣なんだよね?」
「ええ、そうです」
「魔法学園に聖獣が学びに来たとなると、魔法学園としても鼻が高いよ」
「そうなんですか?」
「ああ、そうなんだ。聖獣は魔法の威力やレベルが、他の種族よりも優れてることが多いから、そんな聖獣が学びに来たとなれば、学園側も一目置かれるからね」
「私達聖獣は魔法が得意ということなんですね?」
「あれ?知らなかったのかい?」
「ええ、知りませんでした」
「これまでどうやって魔法を覚えてきたんだい?」
「そうですね、何となくです」
「なんとなくって、え!」
「なんとなくです、こうしたらできるんじゃないかな?とか、本能的に感じるというか」
「本能的に感じるか、もしかしたら、僕たちと魔法の捉え方が違うのかもしれないね」
「捉え方ですか?」
「うん、そういうところから魔法を学んでいったらいいのかもしれないね」
「そうですね、ありがとうございます」
「僕は聖獣のことはあまり知らないけど、神の使いなんだよね?」
「ええ、そうです」
「ゴンちゃんも神様に仕えてるのかな?」
「ええ、仕えてます、神様ではないですけど」
「神様じゃない?」
「そうです、人間です」
「えっ、人間に仕えてるの?」
「はい、主は凄いんですよ」
「凄い?」
「凄いんです。無茶苦茶強いし、料理も美味しいし、たくさんいろんな能力をもってて、尊敬してます!」
ゴンちゃん喜々として話し出したな。
それだけ主のことを慕ってるってことか。
羨ましいな。
僕もそんな風に誰かから思われてみたいな。
「それに、私だけじゃなく、何人も聖獣が仕えてるし、楽しくて、頼れる仲間もいるんです」
なんだか凄いなその人、会ってみたいな。
「なんだか凄いね、ゴンちゃんの主さんに、会ってみたいな」
「そうだ!いいですね。会いましょう!」
「え!」
「この後、合流する予定なんです。一緒に行きましょう!」
ゴンちゃんが興奮している。
「いいのかい?」
「はい、友達が出来たと報告したいので、着いて来てください!」
「じゃあ、行かせてもらうよ」
「はい!」
ハハハ、今日は何かとある日だな。
ゴンちゃんに連れられて、宿屋の食堂に来ている。
「ゴン姉こっち、こっち」
一人の少年がゴンちゃんに向かって手を振っている。
その隣には、二人の男性と一人の女性がいた。
「主、お待たせしました」
「いや、構わない、こちらも先ほど着いたばかりだ」
見た目が二十台ぐらいの男性が答えていた。
この人が、ゴンちゃんの主なんだろうか?
第一印象としては、捉えどころの無い雰囲気。
あれ、隣のもう一人の男性は見覚えがあるぞ、誰だったかなー。
名前が思い出せないな。
「主、聞いてください、友達ができました」
「はあ、本当か?」
「ええ、ルイ君こっちきて」
何だか緊張するな。
「主、今日友達になったルイ君です」
「初めまして、ルイといいます。賢者をやってます」
「俺は島野だ。しかし、賢者ねえ」
なにこの反応?これまでにまったく無かった反応だ。
真っすぐにこちらを観ている。
「まあ、良いんじゃないか?」
良いんじゃないか?ってどういうことなんだ。
「お久しぶりですな、ルイ様。メタンにてございます」
というと見覚えのある男性が立ち上がり、仰々しくお辞儀をした。
そうか思いだした。信仰のメタンだ。
「やあ、メタン、久しぶりだね」
「どうぞ、お掛けください」
メタンが着席を促す。
「それで、ゴン、初日にいきなり友達が出来るなんて、凄いじゃないか」
「はい!」
と誇らしげなゴンちゃん。
「それで、きっかけは何だったんだ?」
「はい、ルイ君から声を掛けてくださいました」
「へえー」
なにか喋れと視線が向けられてきた。
「はい、あの学園でお見掛けしまして、素敵な女性だなと思ってつい・・・」
「なるほどー」
纏わりつく眼つきで見られている。
なにこの感じ。
「ゴンに一目惚れしたな、おまえ」
えっ!
「ゴン姉すげえ!」
少年が騒いでいる。
その横で女性が口を押えて驚いている。
「ちょっと、主、からかわないでください!」
「ゴン様も隅に置けませんな」
「もうメタンまで」
からかわれている、この僕が・・・
「で、ルイ君とやら、君、賢者ともあろう者が、学園でナンパとはいただけないねー」
「ちょっと、待ってください。ナンパなんて」
「そうです主、止めてください」
にやけ顔でこちらを見ている。
冷やかされているのが分かる。
何とも言えない感覚・・・対等に扱われている?
「いやー、悪い悪い。からかってみただけだ。悪かった」
凄い、何だろうか、初対面でこの対応。
僕が賢者であることなどお構いなしだ。
メタンが一緒にいるから、おそらく僕が国家元首であることも知っているはず。
なのに、ただのゴンちゃんの友達扱いだ。
「もう止めてくださいよ、主」
ゴンちゃんがむくれている。
「それで、メタンとは知り合いなんだって?」
「はい、前に学園で知り合いました」
「ええ、仰る通りですな」
メタンはなにか雰囲気が変わったような気がする。
「メタン、雰囲気が変わったね」
「そうですか、お褒め頂きありがとうございます。私は島野様と知り合えて、変わりましたからな、今では私の信仰心は、創造神様と島野様に向けられております」
そうなのか、創造神様以外は神ではない、とまで言っていた、あのメタンが?
でもこの人は嫌そうな顔してるな。
なんだか本当に嫌そう。
「そうなのか・・・言葉も無いよ」
「ところでルイ君、君に尋ねたいことがある」
真っすぐに見られた。
「賢者ってことは、この国の国家元首なんだよな?」
「はい、そうです」
「君はこの国をどうするつもりなんだ?」
「どうするとは?」
「この国をどこへ導くのかってことだ」
「導くって・・・」
「理想でもいいんだ、聞かせて欲しいな」
理想、導くって、そんなこと聞かれても。僕には・・・
「僕は、確かにこの国の国家元首ですが、お飾りでしかありません」
「それで」
「僕は政治に関わることは無いし、国営も大臣達が行っています。僕は彼らが決めたことを承認するだけの存在でしかありません。なによりも、政治や国営に興味が持てません」
「そうなのか?」
「はい」
意味ありげに見つめられている。
「そうか、まあお節介は止めておくよ」
えっ!
お節介?
何だろう意見がありそうな表情をしていたな。
「ま、待ってください、聞かせてください。何か思うところがあるんですよね」
聞いてみたい、この人の意見を。
教えて欲しい、この僕に。
「とは言ってもなー」
「お願いします!」
僕は思わず立ち上がり、お辞儀をしていた。
自分でもびっくりしている。
僕がこんな行動をとるなんて。
「まあ、そう畏まるなよ、ルイ君」
僕は頭を上げた。
「まずは座りな」
「はい」
「まあ、ここまでされたら話すしかないな」
僕は椅子に座った。
「君は、お飾りでしかないと言ったね」
「はい、言いました」
「でもこの国の国民は君の発言や、行動に注目している。違うか?」
「その通りです」
「ということは、君は国民に対して影響力をもつ存在だ」
「はい、そうです」
「そんな君が本当にお飾りなのか?」
「それは・・・」
「君が君自身で、お飾りであろうとしたんじゃないのか?」
僕自身が・・・お飾りであろうとした?
「何も攻めている訳じゃないから、勘違いしないで欲しい。おそらく君は、政治のことは、政治が分かる者がやればいい、その道のプロに任せればいい、と考えたんじゃないかな?」
「はい、そうです」
「それは、一つの方法として正しいだろう。だが、国の行く末や理想もない中で『魔法国メッサーラ』はいったい何処に向かってるんだい?」
「どこに・・・ですか?」
「ああ、それに君は先ほど興味が持てないと言っていたね」
「はい」
「本当にそうかな?本当は興味を持とうともしなかった、の間違いではないかな?」
確かにそうだ、この人の言う通り、僕は興味を持とうともしなかった。
分からないからと、始めから関わろうともしなかった。自分自身でお飾りになる道を選んだんだ。
「君が賢者になったこと、国家元首になったことには、きっとなにか意味があるはずだ」
その通りかもしれない。
「国を治めることに興味を持て、とまでは言わない、だがせめて、政治であれば、政治の内容を知る。国営であれば、国営の内容を知る。これぐらいはやるべきことなんじゃないかな?」
そうだ、その通りだ。
訳も分からず承認するのではなく。せめて内容は知っておくべきなんだ。
「まあ、説教臭い話はこれぐらいにしておこうか」
とても優しい目で見つめられた。
ああ、本気で叱られたのはいつ以来だったろうか?
僕の世界の色が・・・取り戻した色が、輝き出すような気がした。
今日は忘れられない一日になった。
メタンの気持ちが少し分かったような気がした。
この人と話ができて、本当によかった。
「あー、そうそう。ゴンと友達になるのは構わんが、手は出すなよ」
にやけ顔で言われた。
「ちょっと、主、止めてくださいよ」
「パパってカッコいいことした後って、絶対にふざけるよね」
「あは、あはは、あっはは!あっははは!」
僕は笑いが止められなかった。
こんなに大笑いしたのは・・・いや、これから先だ!これから先もっと笑おう!
皆もつられて笑いだした。
笑顔って最高!
数日後の執務室。
ルイは、食後のお茶を楽しんでいた。
コン、コン!
ドアがノックされる。
「はい、どうぞ」
大臣と思わしき人物が数名入室してきた。
「ルイ様、こちらにサインをお願いします」
ルイに書類を手渡す大臣達。
書類に目を通すルイ。
「教えてほしいのですが、この軍備の増強は何が目的なのでしょうか?」
驚く大臣達、皆声を失っている。
変わろうとする賢者ルイがそこには居た。