色がついた落ち葉のようなマフラーを巻いた彼がニカ月ぶりに私の前に現れた。

「ただいま玲衣」
「おかえりなさい肇さん」
「持ってきたぞ」

 紙袋を抱えて彼はいつもの笑みで私に見せた。

「もしかして」
「そうだよ。玲衣が言っていたよな。秋は焼き芋だって」

 なんだか肩の力が抜けて口が緩みそうになった。

「芋、確かに言いましたね。私も丁度良い物を持っていますよ」

 箒で集めた落ち葉の山を作って見せた。

「玲衣は気が利くな」

 アルミホイルを巻いた焼き芋を落ち葉に埋めた。
 二人で横並びになって煙を見つめる。

「海外はどうでしたか?」
「うん。世界は広かったよ」
「そうですか」
「玲衣は何かした?」
「此処への往復以外、変わった事はありません」
「そっか」

 久々なのに会話が弾まなかった。パチパチはぜる音が目立っている。

「焼けたかな?」
「多分」

 彼の声に返答するだけの私が惨めに見えてきた。どうしていつも私は待つばかりなの。もっと話したいのに頭が真っ白になってしまう。
 焼き芋はほくほくに出来上がってしまった。
 半分に割った湯気を揺らしてふーふー。

「美味しいですね」
「そうだな。上手い」

 風が冷たくなってきた。空色も暗くなってきている。
 発展がない空気に焦ってきた。

「玲衣、明日から俺のマンションに来なよ」

 突拍子もない言葉に芋を落としそうになった。

「マンションでしたっけ? 肇さんのお家」
「実家はあるよ。でも俺が住んでいるのはマンションなんだ」
「私がお邪魔しても宜しいのでしょうか?」
「良いに決まってる。玲衣の事だから断るかと思ったよ」

 確かに断る内容だったかも。なんでかな、口が滑ったのかな? 気持ちが先走っていた。要するに、行きたいが優った。

「誰かの家に行くのは小学生ぶりだったので、なんか嬉しくて」
「嬉しく思ってくれるなら、毎週来なよ。俺、朝は不在だけど昼間はいるからさ」
「え? そんなに通っても」
「これ家の鍵」
「あっ、はい」

 受け取ってしまった。
誰かの家の鍵を預かるのは初めて。