屋台が立ち並ぶ通り、そこを外れて。店と店との間を縫って、少しだけ奥まった場所へ。聞こえる泣き声に導かれるように、私は一歩、また一歩、足を進めた。

ここはもう、祭りの灯りも届かない。あるのは夜の静寂だけ。どこかでリンと、虫が鳴いた。唐突に、夜空を覆った雲が切れ、現れた月が宵を裂く。少しずつ闇に慣れた私の目に、“その子”が映った。

一本の大木の下、しゃがみ込んで泣く、一人の小さな男の子。

「……に……の」

そっと近づいて、そうして男の子の声に耳を澄ます。

「……どこに……いるの? おかあさん……おとうさん……」

しゃくり上げる呼吸の合間、途切れ途切れに紡がれる言葉。

「とうまにぃちゃん……どこ……」

この子は、家族を探しているのだろうか。お祭りではぐれてしまったのかもしれない。彼の目の前まで近づき、そっと屈んで、声をかける。

「こんばんは」

「……!」

突然の声に驚いたのか、男の子が俯けていた顔をばっと上げた。月明かりに照らされた顔は、涙に濡れている。彼は、“面をつけていなかった”。

「僕、迷子?」

「……うん」

「お母さんたちを探しているの?」

「うん。おかあさんもね……おとうさんも……とうまにぃもね……いないの」

「うん」

「みんな、みんな、いなくなったの。ねぇ、どこにいるの?」

じわり、じわりと、大きな瞳に涙が溜まる。あっという間に再び溢れ出したそれは、もちもちと柔らかそうな頬を濡らしていく。その様は、見ているこちらの胸をきつく締め付けた。

「はぐれちゃったんだね。こわかったね。もう大丈夫だよ」

私はこれ以上彼を不安にさせないように、こわがらせないように、優しい声で語りかけた。

「お姉さんと一緒に、探しに」

「駄目だ!」

突然頭上から聞こえた大きな声に、私はビクリと身をすくませた。同じくその声に驚いたのか、目の前の男の子は一瞬目を見開いた後、今度は大きな声でわんわんと泣き始めてしまった。

私が男の子に差し出そうとしていた手は、先ほどの大声の主、狐さんの手によって、パシンと弾かれていた。痛みが一拍置いてやってきて、思わず「いたっ」と呟きが漏れる。

「……! ごめん!」

遅れて自身の行動にハッとした狐さんが、まるでその場に縛り付けられたかのように立ちすくむ。ゆっくりと視線だけが、先ほどはたき落とした私の手へと向かい。そして次に聞こえたのは、彼の口から漏れた、唖然とした声音。

「血が……」

その言葉に、私は改めて自分の手を見た。手の甲に、薄らと血が滲んでいた。おそらく彼の手の爪が引っかかって、切れたのだろう。

「ごめん、そんなつもりじゃ」

「……私は大丈夫です。それより、この子。そんなに大きな声を出したらこわがらせちゃう。それに、『駄目だ』って……。事情も聞かずに、酷いんじゃないですか」

私は思わず、彼に睨むような視線を送っていた。狐さんが息を呑むのが分かる。

「それは……」

「何の騒ぎかな」

その時、先ほどまでこの場にいなかった声が、唐突に私たちの間に割って入った。