「ここか……」

 大家さん宅の玄関で俺の【大解析】が見たアイテム。から発してるらしい強力な魔力。

 それを辿るようにして進んだ先にあったもの。

 目の前にあるのは、なんの変哲もない扉…

 ()()()()()()

 こうして過去形で呼ぶ理由は、その扉の隙間から溢れ出る魔力のせいだ。

 もはや空間が歪んでしまって、扉としての輪郭さえ保てなくなっている。

 アイテムにしては強力過ぎる魔力反応に嫌な予感がしていたが、

 どうやらその嫌な予感は当たってしまったようだ。おそらくこれは…


「…『ダンジョン化』、、しかけてんのか」


 この禍々しさはチュートリアルダンジョンのそれでは勿論ない。

 新たなダンジョンが発生しようとしている。それが起きてる原因と言えば、、


「一体、どれ程のアイテムがあるんだ…」


 チュートリアルダンジョンは例外として、ダンジョンというのは普通、『コアと成る何か』を原因にして生まれるもので、その種類は様々だ。 

 何か特別な力を持っているなら、自然物でもいいし御神体など信仰を集めたものでもいいし呪物でも構わない。

 アイテム化するだけで終わらないほど大きな力を宿したものなら、なんでも良いのだ。

「そういや、生き物をコアとするダンジョンもいたっけな」

 ともかく、俺の【大解析】が解析したアイテムのその類いだろう。

 その証拠にほら、今もステータスウインドウが主張している。アイテムらしきものがこの扉の向こう側にあるぞって。

「でもなぁ…さすがにこれはヤバいだろ…って、うわ!もう本当にヤバそうだ!」

 俺は咄嗟に扉を開けて──何故開けちゃってんの──バタン!ダダダダタダ──そこにあった階段を何故か俺は駆け降りて──だ か ら!



「なんで駆け降りてんだ俺!?…て、もしかしてこれ、『英断者』の称号が発動してんのか?」



 一寸先は闇。



 あの諺が常識となる今の世界では、『咄嗟の判断』が出来るかどうかが生死を分ける。

 そして『英断者』…この称号はその助けとなるもので、効果は『吉と出るか凶と出るか、判断に迷った時に吉の方へと行動を促す』というものだった。

 『運』魔力を説明する時に言ってたアレ、因果律ってやつ?それに干渉してるようだから、かなり強い効果ではある…のだろう。

 そして前世の俺が失敗ばかりしていたのは、ここぞという時に判断を誤って…というより、足踏みばかりしていたからだ。

 だからこの称号は必須と思って真っ先に取得した……んだけど…

 その『吉方』にどれ程の吉があるのか、つまりは大吉なのか中吉なのかただの吉か小吉か末吉かまではわからないし、向かう先にどれ程の危険が伴うかもわからない……

「…みたい、だな。くそう…今回初めて体験したけどこれ、結構ヤバい称号なんじゃないか…?あー俺早まったかも…」

 なんてボヤいていると【大解析】が表示してたアイテム情報の文字化け具合が、さらにと酷くなって──

 こうなってるのはおそらく、このアイテムが『アイテムである事をやめようとしている』からだ。

 つまり俺の【大解析】が探知したこのアイテムらしきものは、アイテムではない何かに──この場合はダンジョンコアに、変異しようとしている…?


「ああくそ!マジだこれ、マジヤバい!ホントに吉なんだろうな『英断者』!」


 だって俺以外の全てが黒く塗りつぶされてって…こんなの、『精』魔力を得てなければ抵抗出来ずに飲みこまれてたはず──


「──って、ええ!?…おいおいおい待てまて待てまて待て!」


 いやマジで待て俺の手!

 そうそう、視界の端でブンブン振られてる俺の手!

 俺に振られて輪郭ボヤけてるけどそれってアレだよな?

 あまりに速く振られたもんだから起こる残像現象的なアレだよな?


「………………て違うのか? ひいいいいいいいいい!!?」


 俺はどうやら、しっかりと、このダンジョン化現象に飲みこまれようとしているようで──


「いやいやいやいやいやいや!どこいった吉いいいい!?ああもう『英断者』と俺のバカあああああ!!」


 全てが輪郭を失くしてゆく黒の中、俺はもはや半泣き…いや八割泣き、だって見てこの鼻水の量。


「つか、、どんだけ物騒な厄ブツ隠してたんだよ大家さんてばもおおおおお!!!」

 
 と、彼女がいないのをいいことに八つ当たりなんてしながら、それでも追うしかない、え?何をって?

『ダンジョンコアに成り果てようとしている謎のアイテム』の、詳細な情報だったはずのアレ。

 一応表示の体を保っているがもはや文字化けして何が何だか分からないまま小さくなってくステータスウインドウ!

 それを追うしかもはやなくなってるのに、そのステータスウインドウはといえば小さくなってく一方で──というか、もはや消えそうに…って、


「ええ?ええええ!!!消え…えええ!?」


 あれが消えたら一体、、どうなるんだ?

 それは……謎のアイテムは謎のまま完全なるダンジョンコアになるのだろう。

 そうなればこの空間も完全にダンジョン化してしまって…つまりのつまり!

 それに巻き込まれる形となった俺という存在はダンジョンの一部となるべく分解され、素材とされ、吸収されて、、つまりは──


「死──え?」


 二周目開始早々に!?


「それはさすがにざけんじゃねえええ!!」


 今こそ奮い立て俺!いやこの際たまたま捻り出た感じでいいから火事場のクソほにゃらら的なとにかく一度目二度目通した生涯で一番の速度を叩き出せ!


「だってこれで追い付けなかったら──そうだ、大家さんのことだって──!」


 いやその大家さんを死なせずに済んだことだけは良かったな。あれは大吉だったわ。

 その上でチュートリアル無双の情報も渡せたことだし、つまりは…前回より遥かにマシな人生で、もはや超吉かもしれん──


「じゃ、ないからな俺!!!諦めてたまるかよおおお!!」


 俺は力の限りを搾りだして叫んだ!走った!


「待てえええええええこらああぁあぁァぁあ!!!」


 手を伸ばす!


「う…ぐ…もう少し!」


 光の粒となり果て、今にも消えそうになってもはや…ステータスウインドウですらない、それを!


 ──掴み──
    ──取──────!


   















 ──ふと周囲を見れば…何の変哲のない地下室に俺はいた。


「──はあぁぁあぁぁぁああぁぁあぁああぁあぁぁああ~~ーー………──」

 
 え?はい。多分出ました。エクトプラズム何割か。安堵の溜め息諸共に。つまりはアレです。


「………お宝…ゲットだぜ…っっ!」


 という訳でダンジョンコアと成りかけていた例のアイテムは今、俺の手に握られている。

 そして文字化けがなくなったそのステータスを見れば、こう記されてあった。



========アイテム詳細=========

『今は無銘の小太刀』

 ランク 上級(未覚醒につき)
 上昇値 攻撃力+80
 耐久値 都度変動。
 スキル 今は【自己再生】のみ。

 数々の使役者を経て能力を得た魔性の小太刀。所有者を選ぶ。現性能は上記にとどまっている。

 現使役資格者は()()()

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 ちょっとこれ。この小太刀。多分だが相当ヤバいぞ?それはもう、吉なのか凶なのかわからんレベルだ。

「いやダンジョンコアになろうって代物だからヤバくない訳ないんだけど。それにしたって…未覚醒で上級だと…?じゃぁ覚醒したら特級か?…いや間違いなく特級以上…」

 だって【自己再生】なんてレアスキルは特級より下のランクでは見たことない。勿論聞いたこともだ。

「……っていうのに、それ以外にも封印されてるスキルがありそうだし…となると…え?…伝説級とか?」


 下手すれば超越級!?と、ともかくこれが大吉級である事だけは間違いない!


「けど…耐久が『都度変動』ってなってるのも意味不明だし、それに加えて『現使役資格者は大家霞』ってこれ…『オオヤカスミ』って読めるけども…大家さんのことか?」


 でも確か大家さんの名前は『香澄』さんで…


「うーーーん…この謎過ぎる小太刀をなんで……大家さんが…」


 そういえば、俺は彼女が天涯孤独である事と、俺が住むアパートの大家である事以外、知らない。何の仕事をしてるのかも…。


「今さらだけど大家さん、何者なんだろ…」



 この家にあった以上、彼女がこの小太刀の存在を知らなかったとは考えにくい。

 そもそも彼女が『役立つものがあるかも』と言っていたのは、これを見込んでの事だったのではなかろうか…
 



「ま………いっか。」




 いや良くはないけども。
 取り敢えずは手に入れた。
 武器となるものを。
 しかも十分過ぎる性能のものを。

「これほどの武器があれば…うん。何とかなるかもしれないっ」

 例のアレ。

 『分の悪い賭け』

 その勝率が今、かなり上がった。

 試練で手に入れた希少スキルや称号があったが、それだけでは足らなかったのだ。

 俺は武器となるものを探していた。

 とあるダンジョンを攻略するために、なるべく強力な武器を。 

 チュートリアルダンジョン以外の…つまりは通常のダンジョンがもう発生してるかは、発生場所に行ってみなければ分からない事だったが、今の『ダンジョン化現象』を見たいまとなっては、狙いのダンジョンが発生してる可能性が十分にあるとわかった。つまりは現状で捻り出せる勝ちの目は──


「出揃った…な」


 そう思った。思うしかなかった。そして行くしかなくなった。

 吉でも凶でも関係ない。

 もう、やるしかなくなったのだ。

 俺は、『あのダンジョン』で『アレ』を手に入れる。

 それをしなければ俺のチートは完成しない。だから。

「それに、大家さんも待ってる。いつまでも一人にしておけない……全部分かってんだ。なのに…くそ、今更ビビるなよ、俺…」

 すくんでしまって、床に根をおろしてしたかのような自分の脚を両の手で叩きながら。

 『英断者』にも『ほら往くぞ』というニュアンスで急かされながら。


 俺はゆく。

 今やトラウマと化したあの地へ。

 いざ。



 『無双百足(ムカデ)のダンジョン』へ。



=========ステータス=========


名前 平均次


防(F)15
知(神)70
精(D)25
速(神)70
技(神)70
運(-)10

《スキル》

【暗算】【機械操作】【語学力】【韋駄天】【大解析】【斬撃魔攻】【刺突魔攻】【打撃魔攻】【衝撃魔攻】

《称号》

『英断者』『最速者』『武芸者』『神知者』

《装備品》

『今は無銘の小太刀』new!

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