二周目だけどディストピアはやっぱり予測不能…って怪物ルート!?マジですか…。



 次は『速』魔力の試練に挑戦だ。

 ここの試練も簡単なもので、ただ反復横飛びをするだけでいい。

 だがここで頑張り過ぎると『攻』魔力と『精』魔力の試練の成績が下がってしまう。…のだが。

 手抜きはなしだ。自重するつもりはまったくない。だって。


(『速』魔力は……超重要だ。)


 速さは前世の俺が一番憧れた能力だったし、実際に重要極まる。

 どんな強い攻撃手段を持っていようが、動きが遅くて当てられないなら無用の長物と化すからだ。実際に前世では散々悔しい思いをした。

 そしてそれは、自分だけでなく敵にも言えることだろう。どんな恐るべき攻撃を持つ敵だろうが、それが回避可能と分かっていれば怖さも半減するからな。

  
『制限時間内に可能な限り反復横飛──「ばっちこーーーい!」最後まで言ってないのに…ええい!始め!』


 謎の声め…またフライング気味にスタートしやがった。でも関係ない。なんせ俺はもう既に…

 そう、『速』魔力を『先取り』しているからな!この通り──ババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババ───どうだこのスピード!

 目にも止まらぬ感じ?それとも残像見えてる?見えてない?

 いや念のため『知』魔力と『速』魔力の相乗効果も発動してるから、周りがゆっくり見えて自分じゃよくわかんないんだよどんだけ速くなってるか。

 でもまあ、最低でも?一流アスリートかそれ以上の領域にはいるはずだ。

 魔力とはそれほど強力なものだ。初期値中堅の『速』魔力値を得ただけでこうも簡単に人間枠からはみ出てしまえる。

 にしても…

(…まだ終わらないのか?)

 もう一度言うが速くなってもその分感じる時間は引き伸ばされるし、その上で回数がとんでもない事になるからな。とんでもなく疲れる。

(いい加減──息切れして──ぐ。マジヤバい──早く止めて──)






『そ、そこまでっ!』

 やっとかよ…つかっ、

「ぶはひゃはぁあああッ!」

 お、おせえよ!空気、空気くれ空気!脚!そして足!つる!いやまだつってないけど!見たことないぞこんなビクビク!?こんなブルブル!? 

『素晴らしい!素晴らし過ぎる!さっきまでのやる気のなさにも困りましたが、これはこれで困ります!あーもう、どうすれば!?』

 なんか謎の声も興奮通り越して混乱している。どうやらとんでもない記録が出たようだ。

『く!これは前例がないですが…よろしい!評価を『M』とします!コングラッチュレーション!おめでとう!』

 エム?…って、

 Mのことか?

 つまり獲得した成長補正がMランクになった。そういうこと?

(いや、Mランクってなんぞ?多分Sが『スペシャル(特別)』だと思うから…Mって『ミラクル(奇跡)』とか?)

 何にせよこんなランクは聞いた事がないぞ。

『と、特典として上位スキル【疾風】…ではなく、希少スキル【韋駄天】を授けます』

 おお!これまた聞いたことがないスキルだが嬉しい!上級スキルどころか希少スキルをゲットしてしまった!

 チュートリアルの段階でこれほどの優遇措置は聞いたことがなかった俺は、流石に気になった。ので、早速と現れたステータス画面を見てみると…



=========ステータス=========


名前 平均次(たいらきんじ)

防御力(G)10
知 力(D)25
精神力(G)10
速 度(M)60


《スキル》

【暗算】【機械操作】【語学力】【韋駄天】

《称号》

『英断者』『最速者』

=========================


「え、えええ!?初期値60うう!?MランクってSランクの何段階上なんだ?」

 その代わりに……なんてこった!

「ううわああああ!『精』魔力がめっちゃ下がっとるううう!?つか、最低値にまで…っっ!マジか!!いや、それより問題なのは…」

 まだステータスに反映されてない『攻』魔力の方だろう。

 『精』魔力の成長補正がGランク…最低ランクになった…というか、これ以上、下がりようがないのでもっと大きく減点されている可能性がある。

 試練をまだ受けておらず、他の試練で『先取り』もしていない『攻』魔力はステータスにまだ反映されてないので確認がとれないが、今回の『精』魔力の下がり方を見れば…その内部成績が相当に下がったことは間違いない。つまり、


「…一体、どんだけ減点されたんだ?」


 この減点如何では、『攻』魔力の試練で最高成績を修めてもGランクだった…なんてことも、最悪ありうる。

(前世でも聞いたことないぞこんなケースは…やばい…また失敗したかもしれん…)

 …だって、どんなに早かろうが最低ランクの攻撃力じゃ、上位のモンスターはさすがにキツい。


 相当に良い武器を持てば倒せるだろうが…成長補正が最低ランクだとレベルアップしても殆んど伸びないからな…つまりは敵が加速度的に強くなってゆく遠くない未来、その武器も通用しなくなれば確実に…

「…詰んじまう。 …いや待てよ?」



 そうだ。打てる手なら、まだある…かもしれない。


(思い出せ俺。おまえは回帰者だろ?)


 前世で聞いた事がないケースだろうが関係ない。その前世の知識を元に何か──

(思い付け……打開の策はないか……あ。)



 …とりあえずだけど。


 …思い付いた。



 今獲得した『速』魔力…

 と、『最速者』の称号。

 この二つをうまく使えば…

 でもこれってかなり、分の悪い賭け…


「でも……しょうがない、な」


 試練はもうやり直せない。
 なら分の悪い賭けでも?


「やるしかない…くそ!こうなったらとことんやってやる!次だ次!」


 こうなったらさっさと試練を終わらせて『分の悪い賭け』に挑戦せねばっ!


『やる気になってくれて良かったです♪』

「ぐ…、うっせえ!」

『ええ…、何で怒られたんですか?』


 
 俺は今『知』魔力の試練を受けている。

 その内容は『決められた時間内でどれだけの計算問題を連続正解出来るか。』というもので、その計算問題も正解すればするほど難易度が上がる仕様だ。

 そして今のところ計算間違いはしていない。

 俺は元々、【暗算】スキルというのを持っていた。こうして正解し続けているのは、このスキルのおかげだ。

 でもこれは、九九を習得した日本人なら誰でも持っているスキルであり…。

 かといってこれがあれば誰でも…という訳にいかない。

 このスキルが使えているのは、『知』魔力を先取りしていたからだ。

 スキルというものはMP消費のあるなしに関わらず、どれも魔力由来の能力となっている。

 つまり『それに対応した器礎魔力がなければ発動しない技』なのだ。

 俺の『知』魔力はまだ数値的に低いが、【暗算】のスキルを発動させるには十分ではあった。だからこうして計算無双が出来ている。

 しかも、さっき正式に取得したばかりの『速』魔力は相当に高い数値となったからあり得ないほどの早口で解答出来るし、『知』魔力との相乗効果を利用すれば演算能力だって加速する。

 これだけの補助を受ければ大きな桁の複合計算も間髪いれずの即答が可能となるし、正解数も飛躍的に稼げるって訳だ。ただ…

(この試練で良い成績を修めてしまうと、『攻』魔力と『防』魔力の成績がまた下がってしまうんだよな…)


 最初から捨てていた『防』魔力はいざ知らず、まだ取得していない『攻』魔力、その試練の内部成績を、さらに下げてしまう結果となる。

 
 それでもだ。俺はもう、自重しない。


 何故ならここで得られる『知』魔力はこの後の試練を考えれば高い水準で必須となるからだ。

 そしてここで好成績を残すと特典で得られるスキルもだ。今後の事を考えれば必須となるものだった。


 そのスキルとは、ただでさえ有用な【鑑定】の上位互換である【解析】。


 …なのだが、もしかすると今回も──


『凄い!今回も前人未到の好成績となりました!コングラッチュレーション!おめでたう!』


 『たう』?ああ、うん。こんだけ興奮してるって事は…


『特典として上位スキル【解析】…でわなく、希少スキル【大解析】を授けます!』


「おおやっぱり!また希少スキルを!」


 ステータスはどうなった?




=========ステータス=========


名前 平均次(たいらきんじ)


防(G)10
知(M)60
精(G)10
速(M)60


《スキル》

【暗算】【機械操作】【語学力】【韋駄天】【大解析】

《称号》

『英断者』『最速者』

=========================


 新たに得た『知』魔力の数値は、やはりの初期値60で、成長補正はMランクだった。

 そしてこの好成績によって大幅ダウンするのは『防』魔力と『攻』魔力だが。

 『防』魔力は元々最低のGランクまで下がり切っていた。なのでステータス上は変動なし。なのでどれ程の下げ幅だったのかは…そう、相変わらずの未知数だ。

 つまりまだ試練を受けておらず、能力値の先取りもしていない『攻』魔力の内部成績がどれほど減点されていてるのかも、わからない。


「ハァ…もう考えないようにしよ」


 ここで日和って中途半端な調整をしたところで中途半端な結果にしかならなかった。つまりはこうして開き直るしかない。 

「それに、このステータスなら強力な魔法を連射出来て回避も出来る最速魔法使い…てゆー運用だって出来るんだし……いや、」

 それだといざという時に大家さんを守りにくい。

「……やっぱ諦めちゃだめだな『俺なりの最強ビルド』」

 
 という訳で俺は決意を新たに、


「よし!次は『技』魔力の試練だ!」


 と言いながら扉をくぐった先、そこはいつもの何もない岩部屋とは違っていた。

 全ての壁が棚で埋まっており、その中には色々な武器を型取った木製武器が立て掛けられている。

 剣や短剣や長剣や大剣や太刀や小太刀、槍や短槍や長槍や薙刀、手斧に戦斧にハルバード、他にも色々…名称がさだかでない変わった形状のものまである。

 俺はその中から木製の短剣を二本選んで手に取った。


「短剣二刀流か…前世ではやったことないけど…うん。木製だから軽いし、扱えそうだな」


 そう、お察しの通り、この試練は素人泣かせのあれ。『戦闘力を試す』という内容だ。

 次々と現れるモンスターの幻影を、選んだ武器を使ってひたすら倒す感じだな。

 因みに幻影なので敵から攻撃を受けても負傷したりしない。減点されるだけだ。まあ今の俺的にはそっちの方が痛いけど。



「──フゥゥゥゥゥ…」



 謎の声が聞こえなくほど集中する。
 前世の殺伐を思い出す。
 気付かない内に歯を剥き出していた。

 あんな悲惨な死を迎えたからか、非情の自分だけでなく追い詰められた獣のごとき性まで露になって…

 もういいや、これが今のベストコンディションと割り切ろう。

 …にしても心臓の音がうるさいな…なら逆に早めてみるか…なんて事をすると全身が脈打って意識がそれに飲まれそうになって──ああもう…早くっ、



「始め…ろっ!」



 『──それでは始め──』俺は飛び出した!幻影が出現する瞬間!まずはそこを狙う!

「──ふ!」

 よし撃破!それを皮切りに次々と狩りとっていく!

 先手が必勝だ!鎧袖も一触だ!何もさせてやるもんか!

 それが人型だろうが獣型だろうが虫型だろうが植物型だろうが飛行型だろうが竜型だろうが小型中型大型関係なしだ!

 おら!手当たり次第に倒してゆく!

 それでもちゃんと刃を立てているか、当てたそこが急所であるか、攻撃を食らっていないか、判定ならば、ちゃんとある。

 だけど元が素人相手を想定した敵設定だ。劣化バージョンしかいないし、木製武器で戦う前提で敵の幻影にリアル防御力など設定する訳がない。

 ちゃんと当てれば倒したと見なされて…ほら霧散した!大型でも何発かちゃんと当てればちゃんと消える!

 『速』魔力が反映された人外スピード。それに『知』魔力も動員されてさらにと上がった演算処理能力!このスピードにも振り回されず、敵の動きはゆっくりハッキリ見えてる!避けることも当てることも簡単過ぎて

「ハハ!」笑いが洩れる。

 だってこれほどのお膳立てがあるのだ。前世でも数え切れない実戦を経験した俺にしたらこんなの、ボーナスステージでしかない。

 慣れない武器の短剣、しかも二刀流を選んだのは力が一般男性並みでしかない俺が扱うには最適の重さだったし、手数も稼ぎやすかったからだ。

 軽いのでスピードを活かせて疲れにくく、討伐数も一番稼げる…つまり、今の俺がこの試練で選べる最適解だった。

 それに、今後の事も考えていた。

 もしかしたら、賭けに失敗して貧弱な『攻撃力』の能力値しか得られないかもしれない。

 それを考えると手数を稼げる二刀流には慣れておく必要があった。とにかく──って、あれ?敵は?

「ああそっか…もう終わりか。」

 あまりにも楽勝過ぎて実感湧かないけど。どうやら試練はクリアしたらしい。

 
『す、すごい──裏ステージも突破!難易度ヘルも完全殲滅!??その上で被弾なし…パーフェクト達成??…あ、ありえない…』


 ほう…?いや、まあね。当然だね。なんせ俺、自重しない回帰者だから。


『と、と、特典として…そうだ!『武芸者』の称号!これを授けます!』

 今回の追加特典は称号だった。その内容は──

『『武芸者』の効果により【斬撃魔攻】【刺突魔攻】【打撃魔攻】【衝撃魔攻】を取得します』

 どうやら『スキルセット系』の称号だったみたいだな。これは字面通りスキルをセットで習得出来るって称号だ。

 でも今回のスキルセットの内容は基本ジョブにつけば習得出来るものばかり…正直大した旨味はないな。

『あの、あまり嬉しそうじゃないですけど、この称号の凄いところはですね──』

「あ、いや、な、何言ってんだ嬉しいに決まってんだろう?いやーホント、マジありがとうっ!」

『あ…はい!どういたしました!』

「いや謎の声さん、なんか日本語乱れてきてない?…っと、それよりステータスはどうなった?」


=========ステータス=========


名前 平均次(たいらきんじ)


防(G)10
知(M)60
精(G)10
速(M)60
技(SS)50

《スキル》

【暗算】【機械操作】【語学力】【韋駄天】【大解析】【斬撃魔攻】【刺突魔攻】【打撃魔攻】【衝撃魔攻】

《称号》

『英断者』『最速者』『武芸者』

=========================


 よし。『技量』の能力値を無事取得出来てるな。でも予想には及ばずの成長補正SSランク。

 初期値50という事は、Sランクよりは上。Mランクよりは下か。

 さて。この『技』魔力の試練で良い成績を修めたのだから『防』魔力と『運』魔力は下がったはずだ。

 まあ『防』魔力は今更だな。もう既に最低ランクだし。それを受け止める覚悟も出来ている。

 そして一方の『運』魔力だが。これはまだ先取りしてないのでステータスには反映されていない。

 なので今どんな状態なのか閲覧出来ない。つまり今回でどれ程に内部成績が下がったかは…そう。またもの未知数だ。


 そしてこの『運』魔力だが…


(これもなー。実は大事なんだよなー…)


 そして次に挑むは、その『運』魔力の試練なのだが…その前にもう一度おさらいするが、


 『運』魔力とは特殊な魔力だ。


 字面通り高ければ高いほど運が良くなるのだが、その適用範囲がとにかく広い。

 攻撃ではクリティカル率アップ。
 防御では回避率アップ。
 魔法では命中率や成功率のアップ。

 他にもドロップ率や罠解除や錬成の成功率など、様々な状況で絡んでくる。

 そしてなんと言ってもこれ。

 レベルアップでは上昇しない。

 なので成長補正なんてものは端からない。つまり自力で高い数値を得たいならこの試練にしか機会はない。

 だから、『運』魔力の試練とは文字通り運命の分かれ目。とても大事。大事過ぎて大事な正念場。前世ではそんな意見が主流だった。

 そして、ここで良い成績を修めた場合も特殊な結果となる。下がるのは『技』魔力の成績だけで、一つだけだからかその下げ幅は二倍となっている。


(うーん、悩みどころだ…)


 まず、この『技』魔力SSランクというのが、Sランクの一段階上の成長補正なのであれば、この試練は『運』魔力を最大値にするチャンスとは、なりにくい。

 Mランクに届かなかったが、それでも最大限に上げた『技』魔力を、二倍の下げ幅で降格させてしまうのだからな。

 『幸運』の試練を頑張り過ぎれば相当に低くなるのは一目瞭然だ。

「じゃぁどれくらい頑張ればいい…?」

 その塩梅の難しさを想いながら、俺は『運』魔力の試練に挑戦した。その内容はやはり前世と同じだった。

 コインを100回トスして裏か表かを当てるだけ。それを何回連続で的中させるか。その連続成功回数の中で最も高い記録を参考にする…というもの。

 もちろん連続成功回数が多いほど、得られる『運』魔力は高くなる。

 そしてその結果は、一生ついて回る。

 俺は今からそれに挑戦する。目指すは…

(よし。決めた。)

 ()()()100%だ。

(今の俺なら不可能じゃない、はず)

 いや、簡単ですらある。

 何故なら『知』魔力と『速』魔力と『技』魔力を初期値ではほぼ最大取得してるからな。

 その上で数々のスキルや称号による補正まで受けている。

 これらのお膳立てを整えるために、ここまで『運』魔力の試練を残してきた。

 だからもうここは開き直って──


 「よし!やってやる!」


   ・

   ・

   ・

   ・

   ・ 


 よし!よしよしよし!成功だっっ!


「い……よしっっ!!」


 俺は派手なガッツポーズを決めた。












『いやなにが『よし!』ですか…』

 
 なんで水を差すかな。


『こんなに外して…』


 なんだか不満そうにしてるけど、ちゃんと()()()()()()()じゃないか。


()()1()0()0()()()()()()()なんて……どんだけ運が悪いんですか…』


 ……いやだから。


 ()()()()()1()0()0()()()()()()()()()()()()()んだっ。

 つまりは、あえて悪い成績を選んだ。

 そうだ。これは狙ってやった事だ。
 つまりは今回、手を抜いていない。
 つか抜けなかった。

 この試練だけは悪い成績も手を抜いていては狙えないからな。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 何故ならこの試練は本来なら運任せの試練でつまり、良い成績だろうと悪い成績だろうと確実には弾き出せない仕様…のはずだった。

 俺みたいな凡人には、高い『知』魔力と高い『速』魔力の相乗効果を利用する事で向上した動体視力を駆使し、『技』魔力により向上したトスとキャッチの技術をもってして、やっと、連続100回の失敗…最低得点を()()させる事が出来たのだ──え?

 何故、最低得点を狙ったのかって?

 ふむ。もう一度言っとくか。

 それは、この『運』魔力の試練が特殊だったからだ。

 良い成績を修めた場合に下がるのは『技』魔力だけ。それも下げ幅二倍。

 そして得られる『運』魔力は攻撃、防御、魔法の成否エトセトラ…全てに関わるオールマイティーな魔力となっている。

 そんな重要な『運』魔力を得るためにあるこの試練は、運任せな内容にする必要があって、コイントス。

 そう。

 運任せである以上、俺のようなチーターでもない一般人だと、逆の奇跡を起こしてしまって…常識外れに悪い成績を修めてしまう場合が希にだがあるってことだ。

 こんな…レベルアップでは上げられず…つまり自力ではここでしか上げられない『運』魔力の試練でな。

 それがどれほど危ない仕様であるかは分かるだろ?

 でも、そんな特殊なケースが存在するならそれを考えての温情措置も用意してるのが、この試練システムというものだ。

 そう、ここで悪すぎる成績を出してしまった場合、どうなるのか。

 俺はまだ、それを述べていない。

 『技』魔力が二倍に向上?

 いやいや…そんなもんでは済まされない。

 なんと…


 『()()()()()()()()()()()()()()()()()!(※またはそれぞれの試練成績が加点される)


 つまり、これ以上ない最低点数を弾き出した俺は…いや。それはステータスを見れば分かることだな。



=========ステータス=========


名前


防(F)15
知(神)70
精(D)25
速(神)70
技(神)70
運(-)10

《スキル》

【暗算】【機械操作】【語学力】【韋駄天】【大解析】【斬撃魔攻】【刺突魔攻】【打撃魔攻】【衝撃魔攻】

《称号》

『英断者』『最速者』『武芸者』

=========================


 ご覧の通り幸運の能力値は最低となったが他の能力値が軒並みに上がって…

 …っておい、なんだこれは?


「神…ランク、だとぅ?」


 神とか…まだそんな成長補正を隠してたのか…と、ともかくだ。

 どん底だった『防御力』と『精神力』の能力値も地味にだが上がってる。

「いやホントに地味だな。どんだけマイナスだったんだこれ…(でも、これで確認出来たな)」

 未だ取得してない『攻』魔力──それを得る試練の内部成績が今、マイナスを脱却してプラスに変じたという事が、ここで判明した。

 だって、全ての選択を下がる一辺倒にしていた『防』魔力でさえ、プラスに変じたのだから。『攻』魔力もそうなってない訳がない。

(これならまだ挽回のしようがある…にしても神ランクて…もはや怖いな)

『く…まさかこのランクを出す人がいるなんて…しかも最低得点を出した試練で…嘘でしょこんなの…』

 『謎の声』ま困惑しているようだ。うん。だよね。そうなって無理ないよ。俺もビックリしてるもの。

『でも!仕方ありません。規定に則り神ランク取得特典として…』

 お。なんかくれるのか?太っ腹だな。


『『神知者(かんちしゃ)』の称号を授けます!持ってけ泥棒!』


 えっと。ん?ステータスで早速確認したけど、

「なんだ?詳細を閲覧出来ねぇじゃあ【大解析】──同じか、解析も出来ない…」


 この特典って

「嬉しい誤算…で、合ってるのか?おい謎の声!なんなんだこの、『神知者』って」


『秘密です♪』


 あ。ムカつくー。








 ※この小説と出会って下さり有り難うごさいます。

 続きをさくさく読みたい方、いらっしゃいましたらなろう様で先行版投稿してます。次のURLから飛んで下さい。

https://ncode.syosetu.com/n5831io/


 もちろんノベマ様でも随時更新していくつもりです。しおり、いいね!、レビュー、感想いただけるとここでも読めて便利ですし、作者としても読んでもらえる人が増えてとても嬉しいです。宜しくお願いいたします。



 残す『攻』魔力の試練は一旦据え置きとし、チュートリアルダンジョンから出た俺は、大家さんと話をした。

「えっと、まだ途中ですけど…こうなりました。良かったら参考にしてみて下さい」

 そう言って大家さんに渡した紙には、今の俺のステータスと、


=========ステータス=========


名前 平均次


防(F)15
知(神)70
精(D)25
速(神)70
技(神)70
運(-)10

《スキル》

【暗算】【機械操作】【語学力】【韋駄天】【大解析】【斬撃魔攻】【刺突魔攻】【打撃魔攻】【衝撃魔攻】

《称号》

『英断者』『最速者』『武芸者』『神知者』new!

=========================


 こうなるまでの過程が事細かに書かれてある。

 これを渡したのは試練同士の相互関係については彼女自身が書き留めたものがあるが、それと合わせて参照すればステータスビルドの考察がより捗る、そう思ったからなんだが。

「ん、ん~?(神)って書いてるけど。これってなに?あ。成長補正が神ランクってことか…え。均次くん成長したら神様になっちゃう?」

 素朴でアホな質問かわええ…じゃないぞ俺氏。

「いえ。比喩だと思います。そんなことより──」

「う…ノリ悪い」

 う…すみませ…コミュ障なので…

「いや、大家さん器礎魔力の取得、ホント急いで下さいね?モンスターは魔力取得に遅れてる人に群がる傾向にあるので…」

 傾向と言ったが、おそらくこれは間違いなく起こる。

 実際に前世ではそうだった。

 モンスターが弱者を狙ってるように見えたが多分…あれは、急かしていた。

「試練の相互関係はそれなりに複雑なので…ステータスビルドをどうするか迷ってしまうのは分かります。それでも一応、チュートリアルダンジョンには入っておいて下さい。モンスターは家に押し入る事が出来ますが、あの中には入れないようなので」

「うん…それは分かったけど」

 世界をこうしてしまったのが何なのかは分からないが、その何者かにとっての都合があるのだろう。

 モンスターのこの習性からは『魔力覚醒者を出来るだけ早く増やしたい』そんな意図を感じる。

「ともかく、急いでください。あと数日の猶予はあったと思いますけど、チュートリアルダンジョンはいずれ消えてしまうものなので」

 そうなってるのは多分、例の裏技に気付く者が現れ、その情報を拡散するのを防ぐためだろう。

(そうなればチーターが大量発生するもんな)

 かくいう俺も拡散させるつもりはない。いや、これは秘匿による無双を狙うためではなく…

 いや、嘘だな。そんな願望も確かにある。でもそれ以上に、この情報があまりにも危険なものだからだ。

 だって、この情報を手にする者が必ずしも善良であるとは限らない。というか、悪党であればあるほどこういった情報に鼻が利く。

 それに、俺は前世であまりに多く見てしまった。普通の社会なら善良だったはずが、大きすぎる力を得てタガを外してしまうといった…哀しい人の性ってやつを。

 ちなみにチュートリアルダンジョンが早々に消えてしまう仕様である以上、入る機会を逃した人も当然いた。

 でもそういった人々には本人の資質に合ったステータスが与えられていたようで、『むしろそれで良かった』と言う人も極少数だがいた訳で。

(前世では思い知らされたもんだ。世の中には天才がいるもんだってな)

 だって…元々人並み外れた才能に合わせた能力値を得るんだぞ?そんなやつの性質がもし、邪悪なものだったらどうなる?出会ったが運の尽き。そうなる。

 これからはそんな世界になる。そうだ、これも、ちゃんと言って聞かせなきゃ…

「…世界がこうなった以上、人間だって危険なんですからね?…いやむしろモンスターより危険かもしれません」

 なんせ恐怖でタガが外れたところに人外の力を得る訳だから。前世では狂った行動に走るやつは当然にいた。

「なるほど…人は入れるもんね。チュートリアルダンジョンに」

 そう、その証拠に俺の部屋のチュートリアルダンジョンに大家さんも入れるはずだ。

「…っていうかやっぱり均次くん、どっか行っちゃう?」

「…あ」

 そっか、まだ名言してなかったな。

「はい…すみません」

「そう…」

 途端に心細そうな顔をする大家さん。捨てられた仔犬感かわええな…じゃないぞ俺。

「あ、いや、すぐ戻って来ますから!ちょっと…あの、取り急ぎ必要なものが発生したっていうか──」

 俺は大家さんにその必要なものが何であるか、何故それが必要であるのか、事情を説明した。

「ん……事情は分かった。けど…それってどうしても必要?だって、どう考えても危険」

「心配させてしてしまうのは…はい、無理はないですよね…すみません。でもやっぱり()()は必要です──今の世界は甘くないので」

「…そ…わかった。じゃあ、これ──」



 そう言った大家さんに渡されたものを手に、俺は部屋を後にしたのであった。



(ハァ…大家さん…大丈夫かな独りにして…いやいや!()()は絶対に必要だ。そうだ…彼女を守るためにも──)


 だから早く行って、早く帰ってこなければ。


「よし…」


 いざ往かん。()()()()()()()()()へ。


「…っと、その前に。」


   ・

   ・

   ・

   ・

 という訳で…ってどういう訳だ。ともかく。俺は今、大家さん宅に戻ってきている。


 ──ガチャガチャ…

 
 そして彼女に渡されたキーケース、その中にあった小さな鍵を使って、裏庭の物置を開けているところだ。

 物置に入った俺は早速、試練の特典として得られた希少スキル、【大解析】を発動した。その感想は、

「うお、これは……流石……すげーな」

 何が凄いかと言うと…ここでウンチク。

 スキルには『解析系』と呼ばれるものがある。

 その基本スキルとして【識別】というのがある。

 この段階で既に有用だ。何故なら魔力を宿し、ステータスを持った生物のレベルが分かるようになり、その文字は青から赤の間で表示されていて、その色でどれだけ自分に殺意を持っているかが識別出来るのだ。赤ければ赤いほど危険なヤツ…って感じだな。物騒になってしまったこの世界では特にオススメだろう。

 その上位スキルに【鑑定】がある。

 これは相手のレベルと秘める殺意だけにとどまらず、名前も表示してくれる。そして対象に生物だけでなく『アイテム』も含まれるようになる。

 ここで言う『アイテム』とは、魔力を宿した道具のことだ。

 そして『アイテム』鑑定の場合はレベルの代わりに品質を表すランクと正式な名称が合わせて分かる仕様となっている。

 そしてこの場合の色判定はそのアイテムが秘める危険度となっている。毒とか呪いとかな。詳細な用途までは表示されない。でもそれは表示される内容からある程度推測出来たりする。なのでやはり便利だ。

 そしてそのさらなる上位にあるのが、【解析】だ。

 これも魔力を宿しているなら、生物アイテム両方に通用する。

 そしてそれらの詳細なステータスが遂に、閲覧可能となる。

 ラノベで大活躍していたこのスキルだが、この世界でもその有用性はトップクラスと言っていい。

 …ただ、

 このスキルを取得するには生産系の…しかもかなり上位のジョブにつかないと取得出来ないというキツい縛りがあった。前世、有名なスキルでありながら使える者が殆んどいなかったのはそのためだ。

 そしてそうなって当然だった。モンスターが闊歩する世界になったんだから、殆んどの人が我が身もしくは大事な人を守るために、適正もよく考えず戦闘系ジョブを選んでしまっていたからな。

 前世で生産系ジョブを選んでいたのは、それしか選択肢がなかった人だけだった。

 だから俺は、『知』魔力の試練で全力を出したのだ。好成績を修めた特典として【解析】スキルを授かった人の話を聞いていたからな。

 まあそのせいで『攻』魔力が下がるのは困ることだが、安全を考えるなら解析系スキルは必須だったし、どうせなら最上級の【解析】が良かった。

 だって考えてみてくれ。

 『二周目知識チート』にこのスキルが加われば?情報において俺より先を行けるヤツはいなくなる。

(やっぱ長所はな。とことん伸ばしていかないと…)

 かといって最強を目指すなら生産系を、しかも上位ジョブになるまで育てるなんて無理だった。

 つまり俺にはあのタイミングでしか【解析】スキルを取得するチャンスはなかった訳だ。


 ともかく、俺が手に入れたこの、【大解析】という希少スキルに話を戻すが…その性能は【解析】とほぼ同じ。なんだが…


 それを『範囲でやってしまう』という、とんでもないぶっ壊れ性能だった。だから驚いたのだ。


(まだスキルレベルは1だからな…半径にして4m…くらいか?直径にして8m…)

 つまりは、自分を中心にしたドーム状…その範囲内にあるものなら、生物アイテム問わず、魔力を宿した全てを見つけ出して解析してしまうという…。

(これは…有用なんてもんじゃないぞ?)

 一つ一つを手にとったり指定して解析するという面倒が省ける…なんてことじゃ、勿論なく。

 
(これは…このまま育てれば探知にだって使える)
  

 そう、モンスターや魔力に覚醒した人間を探知することにも流用出来る。

 といってもまあ、今はスキルレベルが低いからな。範囲も狭く、探知機能としてはあまり使えない。だが、将来的には半端なく有用となるだろう。

 それに、『アイテム』というものはラノベやゲームでもお馴染みであるったように、この世界でもモンスターを倒して剥ぎ取る素材までも含んでいる。

 そしてダンジョン内限定だが、倒したモンスターが消えた後にドロップしたり、さらには宝箱でゲット出来たりもする。

 それだけじゃない。実は、普通の民家にもあったりする。

 誰かの想いが常軌を逸して込められていた物だったり、世代を越えた永い間使われていた物だったり、もしくは何かの物騒な曰く付きであったりする物には、何故か魔力が宿りやすく、それがそのまま『アイテム』へ変貌する事があるのだ。

 前世、この情報が出回った後、一部の人間が暴走した。

 『勇者ムーブ』

 そう、ゲームの主人公よろしく、人が住んでいようがいまいが、お構いなしに押し入って力ずくで家捜しする、という物騒な事件が頻発した。

 いや、それで得られるアイテムなんてランク的には低級…良くて中級程度のものが殆んどだったのだが。

 なのにゲーマー気質を拗らせ過ぎて周りを出し抜く事に夢中になってしまったそいつらは、ただでさえ最悪になってた治安をさらに悪化させてしまっていた。

(ちなみに…ゲーム好きを公言していた俺もとばっちりを受けたっけ…おかげでひどく肩身が狭い想いをしたよな)

 また話が逸れてると思うかもしれないが…この【大解析】を使えばどうだろう?そう、無理やりに押し入ることなんてしなくとも、外から家捜し出来てしまう。

 使い方によっては罪深い能力だと思うし、今は範囲だって狭いので家の中全てとまではいかないだろう。

 …だが、それでもある程度の探知が出来る、というのはすごい…

 という話をしたら大家さんが、

『なら、私の家に行くといい。古い家だし、役立つものが、きっとある──』

 …と、提案してくれたのだった。こうして寄り道してるのは、そんな経緯があっての事。

「それにしても、キーケースをポンと渡してくるとか…」

「無用心…またはお人好し……ってのはてちょっと違うか大家さんの場合。こうして信頼してくれるのは嬉しいし、有難いよな。でも……うーん」

 どうやらこの物置には何もないようだ。庭にある物置には、使わないけど捨てられないものが置かれる。

 つまりは『思い入れのある物』の宝庫である。この物置も実際にそういうものが保管されてあったようだったが、残念なるかな。魔力が宿って『アイテム化』したものまではなかった。

「となると…次は貴重品類か」

 庭の物置に保管するには貴重過ぎるもの…つまり盗難されては困るもの。それらを保管するならやはり、家の中だろう。

「金庫の中だったらお手上げだけど…」

 なんて思いながら数時間前に戸を蹴破った玄関をくぐる、すると…

 俺が展開していた【大解析】に早速、反応があった。

 感知したこれは…間違いない。魔力を宿したアイテムだ。それも…

「おいおいおいこれ…低級とか中級どころの話じゃないぞ?」

 なんだこれは。閲覧したこのアイテムは確かに凄い内容だけど。

「あり得ないほどの魔力を感じる……てゆーかこれって、もしかして…」


 おいおいおい…アレが始まってんのか?


「………ヤバくね?」

 


 
  
「ここか……」

 大家さん宅の玄関で俺の【大解析】が見たアイテム。から発してるらしい強力な魔力。

 それを辿るようにして進んだ先にあったもの。

 目の前にあるのは、なんの変哲もない扉…

 ()()()()()()

 こうして過去形で呼ぶ理由は、その扉の隙間から溢れ出る魔力のせいだ。

 もはや空間が歪んでしまって、扉としての輪郭さえ保てなくなっている。

 アイテムにしては強力過ぎる魔力反応に嫌な予感がしていたが、

 どうやらその嫌な予感は当たってしまったようだ。おそらくこれは…


「…『ダンジョン化』、、しかけてんのか」


 この禍々しさはチュートリアルダンジョンのそれでは勿論ない。

 新たなダンジョンが発生しようとしている。それが起きてる原因と言えば、、


「一体、どれ程のアイテムがあるんだ…」


 チュートリアルダンジョンは例外として、ダンジョンというのは普通、『コアと成る何か』を原因にして生まれるもので、その種類は様々だ。 

 何か特別な力を持っているなら、自然物でもいいし御神体など信仰を集めたものでもいいし呪物でも構わない。

 アイテム化するだけで終わらないほど大きな力を宿したものなら、なんでも良いのだ。

「そういや、生き物をコアとするダンジョンもいたっけな」

 ともかく、俺の【大解析】が解析したアイテムのその類いだろう。

 その証拠にほら、今もステータスウインドウが主張している。アイテムらしきものがこの扉の向こう側にあるぞって。

「でもなぁ…さすがにこれはヤバいだろ…って、うわ!もう本当にヤバそうだ!」

 俺は咄嗟に扉を開けて──何故開けちゃってんの──バタン!ダダダダタダ──そこにあった階段を何故か俺は駆け降りて──だ か ら!



「なんで駆け降りてんだ俺!?…て、もしかしてこれ、『英断者』の称号が発動してんのか?」



 一寸先は闇。



 あの諺が常識となる今の世界では、『咄嗟の判断』が出来るかどうかが生死を分ける。

 そして『英断者』…この称号はその助けとなるもので、効果は『吉と出るか凶と出るか、判断に迷った時に吉の方へと行動を促す』というものだった。

 『運』魔力を説明する時に言ってたアレ、因果律ってやつ?それに干渉してるようだから、かなり強い効果ではある…のだろう。

 そして前世の俺が失敗ばかりしていたのは、ここぞという時に判断を誤って…というより、足踏みばかりしていたからだ。

 だからこの称号は必須と思って真っ先に取得した……んだけど…

 その『吉方』にどれ程の吉があるのか、つまりは大吉なのか中吉なのかただの吉か小吉か末吉かまではわからないし、向かう先にどれ程の危険が伴うかもわからない……

「…みたい、だな。くそう…今回初めて体験したけどこれ、結構ヤバい称号なんじゃないか…?あー俺早まったかも…」

 なんてボヤいていると【大解析】が表示してたアイテム情報の文字化け具合が、さらにと酷くなって──

 こうなってるのはおそらく、このアイテムが『アイテムである事をやめようとしている』からだ。

 つまり俺の【大解析】が探知したこのアイテムらしきものは、アイテムではない何かに──この場合はダンジョンコアに、変異しようとしている…?


「ああくそ!マジだこれ、マジヤバい!ホントに吉なんだろうな『英断者』!」


 だって俺以外の全てが黒く塗りつぶされてって…こんなの、『精』魔力を得てなければ抵抗出来ずに飲みこまれてたはず──


「──って、ええ!?…おいおいおい待てまて待てまて待て!」


 いやマジで待て俺の手!

 そうそう、視界の端でブンブン振られてる俺の手!

 俺に振られて輪郭ボヤけてるけどそれってアレだよな?

 あまりに速く振られたもんだから起こる残像現象的なアレだよな?


「………………て違うのか? ひいいいいいいいいい!!?」


 俺はどうやら、しっかりと、このダンジョン化現象に飲みこまれようとしているようで──


「いやいやいやいやいやいや!どこいった吉いいいい!?ああもう『英断者』と俺のバカあああああ!!」


 全てが輪郭を失くしてゆく黒の中、俺はもはや半泣き…いや八割泣き、だって見てこの鼻水の量。


「つか、、どんだけ物騒な厄ブツ隠してたんだよ大家さんてばもおおおおお!!!」

 
 と、彼女がいないのをいいことに八つ当たりなんてしながら、それでも追うしかない、え?何をって?

『ダンジョンコアに成り果てようとしている謎のアイテム』の、詳細な情報だったはずのアレ。

 一応表示の体を保っているがもはや文字化けして何が何だか分からないまま小さくなってくステータスウインドウ!

 それを追うしかもはやなくなってるのに、そのステータスウインドウはといえば小さくなってく一方で──というか、もはや消えそうに…って、


「ええ?ええええ!!!消え…えええ!?」


 あれが消えたら一体、、どうなるんだ?

 それは……謎のアイテムは謎のまま完全なるダンジョンコアになるのだろう。

 そうなればこの空間も完全にダンジョン化してしまって…つまりのつまり!

 それに巻き込まれる形となった俺という存在はダンジョンの一部となるべく分解され、素材とされ、吸収されて、、つまりは──


「死──え?」


 二周目開始早々に!?


「それはさすがにざけんじゃねえええ!!」


 今こそ奮い立て俺!いやこの際たまたま捻り出た感じでいいから火事場のクソほにゃらら的なとにかく一度目二度目通した生涯で一番の速度を叩き出せ!


「だってこれで追い付けなかったら──そうだ、大家さんのことだって──!」


 いやその大家さんを死なせずに済んだことだけは良かったな。あれは大吉だったわ。

 その上でチュートリアル無双の情報も渡せたことだし、つまりは…前回より遥かにマシな人生で、もはや超吉かもしれん──


「じゃ、ないからな俺!!!諦めてたまるかよおおお!!」


 俺は力の限りを搾りだして叫んだ!走った!


「待てえええええええこらああぁあぁァぁあ!!!」


 手を伸ばす!


「う…ぐ…もう少し!」


 光の粒となり果て、今にも消えそうになってもはや…ステータスウインドウですらない、それを!


 ──掴み──
    ──取──────!


   















 ──ふと周囲を見れば…何の変哲のない地下室に俺はいた。


「──はあぁぁあぁぁぁああぁぁあぁああぁあぁぁああ~~ーー………──」

 
 え?はい。多分出ました。エクトプラズム何割か。安堵の溜め息諸共に。つまりはアレです。


「………お宝…ゲットだぜ…っっ!」


 という訳でダンジョンコアと成りかけていた例のアイテムは今、俺の手に握られている。

 そして文字化けがなくなったそのステータスを見れば、こう記されてあった。



========アイテム詳細=========

『今は無銘の小太刀』

 ランク 上級(未覚醒につき)
 上昇値 攻撃力+80
 耐久値 都度変動。
 スキル 今は【自己再生】のみ。

 数々の使役者を経て能力を得た魔性の小太刀。所有者を選ぶ。現性能は上記にとどまっている。

 現使役資格者は()()()

===========================


 ちょっとこれ。この小太刀。多分だが相当ヤバいぞ?それはもう、吉なのか凶なのかわからんレベルだ。

「いやダンジョンコアになろうって代物だからヤバくない訳ないんだけど。それにしたって…未覚醒で上級だと…?じゃぁ覚醒したら特級か?…いや間違いなく特級以上…」

 だって【自己再生】なんてレアスキルは特級より下のランクでは見たことない。勿論聞いたこともだ。

「……っていうのに、それ以外にも封印されてるスキルがありそうだし…となると…え?…伝説級とか?」


 下手すれば超越級!?と、ともかくこれが大吉級である事だけは間違いない!


「けど…耐久が『都度変動』ってなってるのも意味不明だし、それに加えて『現使役資格者は大家霞』ってこれ…『オオヤカスミ』って読めるけども…大家さんのことか?」


 でも確か大家さんの名前は『香澄』さんで…


「うーーーん…この謎過ぎる小太刀をなんで……大家さんが…」


 そういえば、俺は彼女が天涯孤独である事と、俺が住むアパートの大家である事以外、知らない。何の仕事をしてるのかも…。


「今さらだけど大家さん、何者なんだろ…」



 この家にあった以上、彼女がこの小太刀の存在を知らなかったとは考えにくい。

 そもそも彼女が『役立つものがあるかも』と言っていたのは、これを見込んでの事だったのではなかろうか…
 



「ま………いっか。」




 いや良くはないけども。
 取り敢えずは手に入れた。
 武器となるものを。
 しかも十分過ぎる性能のものを。

「これほどの武器があれば…うん。何とかなるかもしれないっ」

 例のアレ。

 『分の悪い賭け』

 その勝率が今、かなり上がった。

 試練で手に入れた希少スキルや称号があったが、それだけでは足らなかったのだ。

 俺は武器となるものを探していた。

 とあるダンジョンを攻略するために、なるべく強力な武器を。 

 チュートリアルダンジョン以外の…つまりは通常のダンジョンがもう発生してるかは、発生場所に行ってみなければ分からない事だったが、今の『ダンジョン化現象』を見たいまとなっては、狙いのダンジョンが発生してる可能性が十分にあるとわかった。つまりは現状で捻り出せる勝ちの目は──


「出揃った…な」


 そう思った。思うしかなかった。そして行くしかなくなった。

 吉でも凶でも関係ない。

 もう、やるしかなくなったのだ。

 俺は、『あのダンジョン』で『アレ』を手に入れる。

 それをしなければ俺のチートは完成しない。だから。

「それに、大家さんも待ってる。いつまでも一人にしておけない……全部分かってんだ。なのに…くそ、今更ビビるなよ、俺…」

 すくんでしまって、床に根をおろしてしたかのような自分の脚を両の手で叩きながら。

 『英断者』にも『ほら往くぞ』というニュアンスで急かされながら。


 俺はゆく。

 今やトラウマと化したあの地へ。

 いざ。



 『無双百足(ムカデ)のダンジョン』へ。



=========ステータス=========


名前 平均次


防(F)15
知(神)70
精(D)25
速(神)70
技(神)70
運(-)10

《スキル》

【暗算】【機械操作】【語学力】【韋駄天】【大解析】【斬撃魔攻】【刺突魔攻】【打撃魔攻】【衝撃魔攻】

《称号》

『英断者』『最速者』『武芸者』『神知者』

《装備品》

『今は無銘の小太刀』new!

=========================




 標高だけでなく周囲の関心まで低い山の中。

 生えるがままの鬱蒼たる木々に埋もれてそれはある。

 誰が何のために建てたかわからない、見た目は崩壊寸前の小屋…じゃなくて。


「いや探してたのはこれだけど。確かこの辺に──」


 そう、小屋はあくまで目印だ。いや、もしかしたらデコイだったか。

 中を探して何もないと思ったらもう二度とこんなとこに来ないだろうからな。

 でもこの小屋から少し離れた…えっと、この辺だったか?草をかき分けて地面を探せば…

「──お。あった」

 直径2mほど。人間の感覚では大穴と呼んでいいそれを覗けば──

「──ビンゴ。」

 …あった。階段。
 ダンジョンへの入り口だ。

「やっぱ既に発生してたみたいだな…」

 ここは、その名も『無双百足(ムカデ)ダンジョン』。

 前世では超難関で知られたダンジョンであり……俺が死んだ場所でもある。

 そう、このダンジョンのボスはあの巨大ムカデで、俺はヤツに用があってここへ来た。

(いやホントは来たくはなかったけど、)

 『英断者』がまた発動して。

 しかも強力に。

 いやここに来る事は真っ先に想定たけど。

 いざ行くとなるとホンっっトーーに嫌で。

「多分…称号に急かされなきゃこなかったなこれは…ともかくハァ…早速…ああもう!行くぞ俺っ!」

 ──でもうーん──ホント行きたくない──それでも対策は練ってきた──武器だって揃えたし──ならやるだけ──

「って…衝動どころか、思考まで誘導してくんのかっ!くそぅ『英断者』め、厄介な称号だホント…」

 いや、まぁね?

 こんな時の足踏みが良い結果を生まないのは前世で嫌と言うほど経験してたからな。流石にもう諦めたわ。

 だから、行く。

 という訳で階段を降りて見てみれば…
 
「…ハァ…やっぱいるよな。」

 …ヤツだ。
 
「……ん?」

 いや、いたにはいたけど、随分と、 

「…小さくなってないか?」

 前世で見た巨大ムカデは頭だけで大型トラック前部ほどのサイズを誇っていた。

 今のこいつもムカデとしちゃ巨大は巨大…なのだが。前世と比べると、その巨大さが全く追い付いていない。

「生まれたばかりだからか?」

 全長が大人の人間を5人並べたくらい。太さも少し大柄な人間とそう変わらない。

 ふむ…お陰で恐怖が和らぎました。ええ。なんせトラウマでしたから。

「…ホント助かります…」

 と合掌しつつお辞儀しながら思うのは小さくなっても変わらない見た目のおぞましさ。

 ヌラヌラと油に濡れたような甲殻は生き物特有の柔らかさがある…と想わせといて弾力性があってアホほど堅牢ほぼ()()

 その裏側に百本もある脚なんて超キモい。それぞれに個性でもあるかのように蠢いている。

 だけど中空を這い回る特性上、ちゃんと使われてるとこを見たことがない。

 なのにわざわざ強調して見せてくるんだから見た目だけでなく性格もきっと悪い。

 いや先入観でこんなこと言うのは良くないか…いや良くなくなんてない。

 なんせ殺されてんだから。あの醜さに比例して邪悪、そうに決まってる。

 というかこれ以上見ていたくない代物だ。だから、

「ハァ…早速やるか、──おいお前ッ!」

「ギジ…!?」

「…取り立てに来たぞ」

 だって約束したじゃん?一方的にだったけど、ほら。
 
「一杯奢ってもらう約束…いや。この場合は、『一本』だった、なッ!」


 ドンッッ!!!


 言うやいなや俺は突進した!

 それに合わせてぐねる巨大ムカデ!

 おうこいやいてもうたる!

 人間思い込みと開き直りが肝心や! 

 と、唐突にだが戦闘を開始する俺!

 中空を移動出来るのにカシャカシャ百本脚を蠢かす無駄は相変わらずの巨大ムカデだがそのスピードは健在なよう…と思っていれば、

 いきなり静止しやがった。開幕早々にフェイントか──いや!

(『アレ』をするつもりかっ!)

 ヤツにとっての丁度いい高さでもあるんだろう。巨大ムカデは中空に頭部を固定させると早速──


 …ッップシアァッ!!!


 先ずは小手調べとばかり吐き出した。

 お得意のアレを。
 強酸にして猛毒なる魔力液を。

 前世ではアレの威力を身をもって知る事となったが、その毒性は今回も健在なのだろうか。

 いや、

 ああ見えてあれは立派な攻撃魔法。

 そして魔法に耐する値である『精』魔力が俺は低い。

 最低ランクのしかも初期値だからな。つまり前より威力が下がってようが関係なく当たれば即死だ。ここは当然回避する。

(次はどう出るムカデくん?)

 突進しながら顎を使った噛み切りか?

 尻側を振って毒針で迎撃か?

 はたまた身体全体を使った高速とぐろ巻き防御か?

(毒酸吐いた後はこの三パターンだったよな?ああそうさ。前世のうちにお前の戦力と行動パターンは全部…っ)

「把握済みなんだこちとらぁ!」

 ──ガチン!

 どうやら今回は噛み切り攻撃だったようだな。でも、

(空振り乙!)

 ホント良かったわ。毒酸の全方位無差別発射とかなくて。

 ともかくその噛み切り攻撃は盛大に空振った。立派な顎が噛んだのは空気のみ。

 そしてそれは外したなんてレベルではない大ハズレで…それもそうだ。巨大ムカデは俺を無視して明後日の方向へ向かったのだからな。

(ふふ。()()()()()()()()()()んだろ?)

 でも残念、ソレは俺じゃない…いやホントは『ふ…お前が攻撃したのは、俺の分身だ。』ってやつを言いたかったが言わない。声を出せばヘイト向けられるし。

 説明しよう!『ヘイトを向けられる』とは!敵の注意を引いてしまう事なのである!そしてあの分身は、俺の器礎魔力によって生み出されたものなのである!

 すまんふざけ過ぎた。
 真面目に解説しよう。

 前世の俺がタンクをしていた事は前述したが、タンク系ジョブで覚えられるスキルってヘイトをコントロールするのに特化していて、つまりは自分に攻撃を集中させるものばかりだったんだよな。

 俺はそれにウンザリしていた。

 だって、仲間を守るためとは言え、そんなのを日常としてたら命がいくつあっても足らんだろ?

 その事に常日頃悩んでいた俺が偶然、編み出したスキル、それがこの、【魔力分身】だった。

 その効果は『魔力に自分の器礎魔力をコピーして放出、囮とする』というもの。

 ああ、ここで言う『魔力』ってのは俺を魔力の器たらしめる《器礎魔力》…とは別の魔力の事だな。これはその中身となる魔力の事で、

 そう、俗に言う『MP(マジックポイント)』といやつだ。

 RPG用語で知られるアレ。魔法を始めとする(スキル)を使う際に必要となるエネルギー。

 今の俺はそれを使わず、器礎魔力を使って分身を生み出した。

 つまりこれは、まっとうな発動のし方ではない。

 どうしてこんな方法を知っていて、しかも出来るのかって言えば、【魔力分身】を偶然編み出した際、このやり方で発動したからだ。

 ある日、絶体絶命となった俺は咄嗟に、自分から器礎魔力をひっぺがし、囮にした──え?なんで今更になってそんな効率の悪い方を選ぶのかって?

 それは俺に、まだMPが備わってないからだ。

 俺はまだ『攻』魔力の試練を受けていない。

 つまり俺の器礎魔力はまだ完成していない。

 それはシステムから、まだ『魔力の器』として認められてないという事。

 器がない以上、MPは注がれない。

 そう、俺はまだアクティブスキルを使うために必要なMPを手に入れていないのだ。

 だから【分身】を発動するには器礎魔力を使うしかなかった。

 勿論これは、ハイコストにしてローリターン過ぎる戦法だ。

 死にたくない一心からのその場しのぎを再現してんだから当然だ。

 そしてそんな無謀をすれば、どうなるか……って、お。


『取得条件を満たしました。個体名平均次が【魔力分身】を習得しました』

 
(無事に【魔力分身】を習得したみたいだな…つってもなぁ…)

 このスキルはあくまで『MPに器礎魔力をコピーして放出する』という性能。

 だからこの後、俺がチュートリアルダンジョンで器礎魔力の全てを取得し、魔力の器として完成したとシステムから承認された結果、MPを注がれる──ってとこまでいかないと使えない代物。つまり今はまだ使えない。それはともかくとして、



(よし!結果は上々だっ!)



 え?うん。こんな危ないこと、【魔力分身】を習得するためにした訳じゃ勿論ない。

 ていうか、戦闘において《器礎魔力》が大事なものであるのは言うまでもない。

 それをひっぺがしたりなんかしたら、俺はただの人間に成り下がっちまう。

 それでもだ。

 俺は今回、あえて、積極的に、手放した。それは勿論、意味があるからだ。

 上位モンスターというものは…例えばダンジョンボスとか、特別なモンスターというのは、魔力を視る事に長けている、というか、それに頼り過ぎる傾向がある。

 実際、ヤツらの殆んどは【魔力視】というスキルを備えている。

 雑魚を倒すのに重宝していた取って置きのスキルが、ボス相手だと【魔力視】で常時警戒され、簡単に前兆を見切られ、避けられてしまう、というのは前世ではよくある話だった。

 ボスが強力な攻撃魔法を必ず備えているのも、その警戒の顕れなのかもしれない。

 ともかく、魔力というものに異常なほど敏感な反応を示すのが上位モンスターというものだ。

 この巨大ムカデもその上位モンスターの例に漏れず【魔力視】を当然に備えていた。

 前世で戦った際も魔力攻撃に対し超敏感に反応していた。

 そんなヤツが、だ。

 『俺から魔力と呼べる殆んどを抜き取って作られた分身』

 なんてもんを見れば、どうなると思う?

 そう。注意を引くどころの話ではなくなる。

 その分身こそが『本体』だと勘違いしてしまう。

 その上で、本体である俺を完全に見失うという間抜けな現象まで起こってしまう。

 奴から見た今の俺というのはただでさえ、MPを持たず、魔力的存在感が薄く感じられたはず。

 なのに、そこからさらに影を薄く…というか、実質ゼロとしてしまったのだから、ヤツの眼中から除外されるのは当然の事だった。

 ともかくこうして、巨大ムカデはその目でしっかり捉えていたはずの俺を完全に無視し、分身の方を追ったのだった。それこそが本体だと見抜いたつもりで。


 こんな美味しい隙、狙わない方がおかしいだろ?


 そしてこうなると承知していた俺がどうしたかと言えば、分身を飛ばす前にはもう、踏み込み、猛スピードを叩き出していた。

 と言っても、器礎魔力を手放した以上、その猛スピードも慣性に任せたものでしかなくなっている。

 それでも踏み込みに使った魔力が利いて、人外に近い速度となっている。

 よってこのまま一直線、巨大ムカデの死角へ潜り込む!

 眼前に迫るは選り取り見取りとなった百本脚!の内の一本!それを、すれ違いざま──


 …ッッス、パンッッ!!!


(よしッ!やった!)


 こうして、俺の『速』魔力が生み落とした運動エネルギーに乗った『攻』魔力+80の効果の『今は無銘の小太刀』による斬撃は見事、ムカデの脚を斬り飛ばすことに成功したのである。

 見てみれば、巨大ムカデは何が起こったのか分かってないようだ。とりあえずと防御姿勢を選ぶしかなくなって──

(…でもな、今さら高速トグロなんてしても意味なんてないぞ?)

 だって俺、このまま離脱するから。

 つか、もう既に階段目指して走ってるから。

 このボス部屋を一刻も早く脱出すべく…

 え?はい。
 倒しませんが。
 逃げますが。
 逃げますよそりゃ。

 だって前世よりだいぶ弱体化してると言ってもこいつ、見た感じ『速』魔力が俺の二倍くらいありそうだ。

 そりゃそうだ。相手は超難関ダンジョンのダンジョンボスで、それに対するこちらは『速』魔力が神ランクと言っても、まだ初期値のままなんだから。

 それにあの毒酸…今もダンジョンの地面をジュウジュウいわせてる魔法攻撃の威力を見ればお察し、『知』魔力の高さだってあちらのが断然高い。

 『技』魔力だってきっとそうだ。百本もの脚を駆使したり、空中移動したりと、大変に高度なことをしてらっしゃる。

 他の器礎魔力値だと俺はポンコツの部類だし。比べるべくもないだろう。

 つまりのつまり、コイツは今の俺からすれば格上過ぎて格上ってことだ。

 じゃあ何のためにここに来たのかって?それは──



(『コレ』さえ手に入れたらもうここに用はないのだよ!あとは撤退あるのみ!あばよ!)



 ということだ。え?『コレ』ってのは…そう、さっき斬り飛ばした『百足の脚』だな。

 え?殺された恨みはどうしただって?じゃあ逆に聞くが、その恨みで大家さんを守れますか?いや守れない(反語による反論)

 しかし、ここで問題が浮上する。その問題とは当然、さっき手放してしまった器礎魔力についてだ。

 あれのせいで今の俺の身体能力は…一般男性の平均…よりちょっと下くらいとなってしまっている。

 そんな貧弱な俺があの巨大ムカデに発見されたらどうなる──てうおお!?言ってる傍から見つかったか!でも!?

 あえて言おう!
 満を持して声出して!


「もう遅い!遅いのだよ!」


 そう、もう遅い!なんせ俺は、


「『最速者』の称号持ちっ!なんだからな!」




=========ステータス=========


名前 平均次


防(F)15
知(神)70
精(D)25
速(神)70
技(神)70
運(-)10

《スキル》

【暗算】【機械操作】【語学力】【韋駄天】【大解析】【斬撃魔攻】【刺突魔攻】【打撃魔攻】【衝撃魔攻】【魔力分身】new!


《称号》

『英断者』『最速者』『武芸者』

《装備品》

『今は無銘の小太刀』

=========================



 『最速者』の称号。


 これは『一日に一回だけ、最高速度の二倍を叩き出せる』という称号だ。

 そう、()()()()の、だ。

 それは、パッシブ(常時発動型)であるならスキルや称号の効果も含めた最高速度。しかも倍。さらにこれほどの効果でありながらMP消費はゼロ。

 だから、まだMPを備えていない俺でも使える。なんだそのご都合って思う人もいるかもだが、今の世界って殆んどゲーム仕様なんだし今更だろ? 

 それに『称号』というものはそもそも、スキルみたく自身の魔力を由来としない。あくまでシステムから借り受ける形だ。

 ほら謎の声も『──なお、より早く突入する者が10人以上現れた場合、この称号はその上位者へと移譲されることになりますので悪しからず───』とか言ってたろ?

 つまり称号ってのは、所詮の借り物だからこそ、自前の魔力を必要としないという便利さがある。

 パッシブ(常時発動型)だろうがアクティブ(任意発動型)だろうが、それを発動するに必要な魔力は世界が勝手に供給してくれる。
 まあ例外もあるらしいが、『最速者』のようなアクティブ(任意発動型)称号の場合、切り札的用途のものが殆んどだからかその例外には含まれない。
 
 つまり《器礎魔力》すらなくし、魔力が正真正銘のカラッケツとなった今の俺にはおあつらえ向きで──

 ドンッ! 

 大袈裟な踏み込み音でチートブーストをお知らせした今の俺は、『速』魔力値70による全速力を再現していて──否!
 【韋駄天】という『速度を常時1.3倍にする』パッシブスキルの恩恵を受けた状態を再現してる!つまり『速』魔力はほぼ100に相当し──否!
 この『最速者』の称号はそれら込みで2倍に再現するのだからえっと……ええ!?

 『速』魔力値200!?
    には届かないけども!

「サンキューチート!」

 彼我の距離を確認するため後方をチラ見…という舐めプ走行でも余裕があるくらい…


「 ──て、あれ? 」


 なんだおい!?
 むしろ近付いてないか!?

「ヤ…バっ、もしかして舐め過ぎたか?」

 …ってうわ!ヤバいヤバいヤバいホントにヤバい!なんなんだコイツすごい追い付いてくるじゃないかっ!…あ、

「まさか──」

 ──この不自然な加速…『加速系』アクティブスキルでも持ってたりした?
 前世ではデカくなりすぎた身体が邪魔で使えなかったとか?
 確かに。あそこまで成長していたら、こんな限られた空間では使いづらかったはずで…だからスキルを封印していたと。なるほど、まさかそんな裏設定があったとは──

「──じゃ、ないからな!っんな裏事情まで見抜けるかよ馬鹿やろおおおッ!!?」

 え?『何故、前もって【大解析】で確認しとかなかったんだ』って?
 だって。ボスは【魔力視】持ってるから『解析系スキル』なんて直ぐ感知されちゃうし。
 そんな危険冒すくらいなら二周目知識で補えばいいや…って。

 はい。これは二周目知識チートを過信した結果ですが何か?

「ギシャアアアアアアアアッ!!」 

「はぃすまっせんんんん!」

 ぅああ、ムカデの旦那おかんむりやぁ…

「あのバカとか言ってすみま──いや、さっきのは良い意味のバカなので!一途な人に使う感じの!」

 旦那ならきっと成れるぜ海賊王にっ!…ってダメ?

「じゃあムシ○ングは──」

「ギシャアアアアアアアアッ!!」

「ダメか!」

 つかこいつ!階段の中まで追ってくるとかどうなってんだ!前世じゃ階段はセーフエリアだったはず──

「って、まさか。」

 本気でマズッた。階段が安全地帯ってのは、俺の勝手な思い込みだったのだ。
 だってここはボス部屋のみのダンジョン。なので通常ならあるはずのボス部屋の扉がない事を気にしていなかったが…逆に言えばそんな境界がないなら、階段もボス部屋の一部だったとして…

「んー!おかしくないっ!」

 前世で階段から向こうまでは追ってこれなかったのはきっと、デカくなり過ぎて通れなかっただけ。でもサイズが縮小された今のコイツならそんな不具合も…

「解消されてるみたいだな──って…ちくしょおおおお!」

 つまりこのダンジョンから完全に脱出する以外に、コイツから逃げ切る方法は、ない!…ってのに。おいおいそれ、その頭の高さ…何の準備を──まさかっ、

「おいおいおいいい!?まさか、ここでやるのか!!?」

 こんな狭い階段で──っつか、『小さくなった』は全く安心材料じゃなかった。むしろ悉くこちらの想定を覆す原因となっていて──

「(く、刺してやりたい。合掌しながらお辞儀までした過去の自分を)なんて思ってる場合じゃ──うおおおお!だからそれやめろおおおお!」

 中ボス扱いだったのに結局雑魚だった悪役の断末魔さながらの懇願も虚しく、

 きた!毒の酸!

 高速移動中で自らも浴びる事になるも厭わず──見ればあの猛酸性は健在の模様、だってあの無敵甲殻がジュウジュウいってるし──って、マジヤバい!その吐き出した何割かが空気抵抗を突き破って──俺に向かって──これ絶対に避けなきゃ死ぬ──けどここは狭い──避けられな──


 「どわあっ!?」


 この土壇場で余計なハプニングがさらに発生…いやなんせ『最速者』の称号が上げてくれたのは『速』魔力だけだからな。

 だから『知』魔力と『速』魔力の相乗効果は既に解消されている。
 なので動体視力にかかっていた補正も失くしている。『技』魔力による走行補助もだ。失くしてる。
 つまり、運動不足な俺が出来る不恰好な全力疾走を、『速』魔力で無理矢理ブーストしてるだけ。
 しかもここは階段で登り。だから平地を走るより遅くなるのは当然。
 その一方で 敵であるあの巨大ムカデは通れなかったはずのそこを、しかも階段という地形効果を完全に無視して宙空を這って──その上、加速系スキルまで発動するとか──いやいやいやいや…ここまでの不利はさすがに想定してなかったぞ。そりゃ追い付かれるって。そうなれば俺だって人間だからな。

 もんっのすごく、、焦った!そんなに焦ったら足だって(もつ)れてしまって──




「ぬわあああああああああああああああああああ!」



 この土壇場で転んだら…嗚呼…また、溶かされるのか。あの、猛烈な毒と酸に──


(あれやられると痛いし熱いし気持ち悪いんだよなぁ…)



   俺は──




  (…………大家さん…)








「──ああああぁぁぁ…ってあれ?」

 
 後ろを振り返れば触角をグニャグニャ動かしまくってイラつきを表しながら、酸で火傷した頭部を、ダンジョンと外界との境界に何度もぶつける巨大ムカデがいた。

 その顎から吹かれたはずの毒の酸もだ。境界に阻まれ空中で白煙を上げている。

 という事は…間に合った?逃げきったのか?転んで逆に良かった感じか!?ナイスハプニング!ナイス俺の悪運!

 とにかく。

 俺は賭けに、勝ったのだ。

 
「じゃ、これ…約束通りもらってくから。」


 そう言って掲げた手には、アイテムとして有効認定された『百足の脚』がある。それを改めて見た俺は、目的達成を実感するのだった。

 そう、俺はまんまとやり遂げた。

 でも目的を果たして満足したからか、悔しそうに俺を睨む巨大ムカデを罵倒したりおちょくったりする気にはなれなかった。

 それは、まだこの身を油断で満たす訳にはいかない。そう思ったからだ。

 そうだ。収穫は成ったが、まだ終わりじゃない。遠足とは何ぞや理論。ここからアパートに帰り着くまでそれが適用される。

 そうだ。器礎魔力で強化されていた能力値を一時とはいえ失くしたこの身体で帰らなければいけない。モンスターが徘徊する中を突っ切って。油断なんて出来る訳がなかった。

 そんな悲壮な決意を固めた俺を見て何故か、巨大ムカデは怒りをおさめた。そしてそのままじっと見つめて…ん?

 なんだ?今、何を心に刻んだ?何というか満足そうに?ゆっくりと身を捻ってそのまま巣穴へ帰っ──う。なんだこの悪寒。

「なんか…嫌な認定された気がする…」

 そしてその悪寒ないし予感は早速、的中するのであった。

()()()()()()()()に認定されました。『強敵』の称号を授けます。》


「ああ、この称号なら聞いたことがある…って、いや待てまて待て!もしかして…!!」

 と急いでステータスを確認してみれば、嗚呼やっぱり。

「ぐ、ここにきてこれは、やめて欲しかったぞ…っ!」

 『強敵』…その称号の内容はこう。

『強敵を寄せ付ける。発見されれば強敵と認定され執着される。つまりはレアモンスター全般と縁を結べる。』


「だから!今の俺は丸裸なんだがステータス的に!?そこでこんなの…マジか…鬼かょ…ハァ」

 嘆いてもしょうがない。称号は有効なものもあれば理不尽なものもある。狙って得られるものもあれば不意打ち気味に刻まれるものもある。それを忘れて油断した俺の失態…そう思うしかない。


「ハァ…も、いいわ。帰ろ。」


 色々と諦めた俺はトボトボと…そしてビクビクとしながら、魂が擦りきれるほどの用心の上に魂が刷り潰れるほどの用心を重ねながら、家路を急いだのであった。


 …そしてこんな時でさえ。不謹慎にもワクワクしてたりしてもまあ、しょうがないよな?だって、遂に完成するのだから。


 俺の器礎魔力(ステータス)が。



=========ステータス=========


名前 平均次


防(F)15
知(神)70
精(D)25
速(神)70
技(神)70
運(-)10

《スキル》

【暗算】【機械操作】【語学力】【韋駄天】【大解析】【斬撃魔攻】【刺突魔攻】【打撃魔攻】【衝撃魔攻】【魔力分身】


《称号》

『英断者』『最速者』『武芸者』『強敵』new!

《装備品》

『今は無銘の小太刀』

《重要アイテム》

『ムカデの脚』new!


=========================





 アパートに帰ると、大家さんが出迎えてくれた。


 聞けば、俺を待っている間にチュートリアルダンジョンの試練は全て修了したらしい。
 つまり今の彼女は《器礎魔力》の全てを取得しており、俺より先にシステムによって『魔力の器』として認められており、いつでも本格的な強化を始められる状態となっている。

 あまり待たせてしまうのは申し訳ないと思った俺は早速、『攻』魔力の試練を受ける事にした。という訳で。


 俺の目の前には今、『攻撃力判定用オブジェクト』なるものがある。

 
(これも懐かしいな…前世の俺は──)


 『このオブジェクトに攻撃すれば攻撃力を判定出来る』

 と言う『謎の声』に従った()()()でこれを殴ったんだっけ。
 パンチングマシーンに向かってやる要領で。それが全力()()()()。 
 
「今思うと大した勇気だよな…」

 だってこれ、見た目金属で出来た巨大立方体だからな?
 それより実際に殴りつけて驚いたのは、果てしなく硬く感じるのに謎の弾力性が作用し、殴った拳に痛みどころか手応えすら感じなかったことだ。
 この『攻撃力判定用オブジェクト』なるものは、殴った本人へ返るはずだった反動までも含め、全ての衝撃を完全に吸収する事で、その威力の査定をしていたらしい。
 
 つまりこいつの頑丈さは『硬さ』うんぬんで量れるものではない。正に異次元のそれだった。
 え?その時の試練結果?それは勿論…いや、貧相とまでは言わないけども。
 あの頃の俺ってほら、明らかに運動不足だった訳で。そもそも運動なんて得意じゃない訳で。ガタイもそう恵まれてる方じゃない訳で。だから結果はお察し…

 ところが、だ。

 そうやって不満が残る形でステータスを完成させたしばらく後、どう見ても俺より貧弱そうなのに、攻撃力だけはバカ高いヤツと出会ってしまった。
 その頃には全てのチュートリアルダンジョンが消失していたからな。『こんなの聞いたところで今更だ』ってのは分かってたけど、結局聞かずにいられなかった俺が聞いた秘訣というのが…

『えぇ?あんな硬そうなもん素手で殴ったのか?ほぁー、あんた見かけによらず勇気あんね。え?俺?俺は自宅にあったチェーンソー使ったけど。()()()()()()()()()()()()って言えばそれ以外なさそうだったから』

 …いや、まあ 確かに?『攻撃しろ』と言われたけど『素手で殴れ』とは言われていない。この時の俺は『へー。なるほどなぁ』なんて答えたものだったが…

「あれは…本当に悔しかったよな。つかホント、悪意あるわこの試練、いや…ちゃんと確認しなかった俺の自業自得もあるんだろうけど…」

 なんて思い出しながら俺が握っているのはあの武器。そう、今世こそ高得点を叩き出してやる。『今は無銘の小太刀』を使って──じゃなく。

 うんうんそうだよな。『じゃあ何のために無双百足のダンジョンに行ったんだ』って話になるよな。
 そう、俺が今手にしているのは、小太刀じゃなく、それを使って巨大ムカデから斬り飛ばしたアレだ。

 俺がここで使う武器とは『百足の脚』。


「よし、じゃぁ、早速やるか。」


 俺はこいつを、『攻撃力判定用オブジェクト』とやらに()()()()つもりでいる。というか今まさに突き刺そうとしている。もし横で誰かが見てたなら全力で突いてるように見えなかったろう。実際、俺は正確性を重視して力加減をしながら突き出していて──でもそれは、、、


 









 ──プすり。







「…ほら」


 思った通りだ。


『え。』


 簡単に刺さった。


「…ぃ、よし。」

『え。いや、え?』

「う?なんだ謎の声さん、」
『いや…あのぅ…』
「ああ、結果は見ての通りで…」
『あ、はい、刺さり…ましたね』
「うん、だから、ほら。早く…」
『…はい?』
「…はい?じゃないだろ、だからくれって。『攻』魔力。」

『あ。はい…分かり…ました…っていやいやいや…』

「な、なんだよ?殴れって言わなかったろ?だったら何を使って攻撃しても良いはずだろ?」

『いやそれはそうなんですけどでもっ、破壊不能とする『オブジェクト』にこんな…『刺す』なんて!『刺さる』なんて!絶…っっ対にあり得ないことで!』

「いやでも実際にほら!刺さってるし!」

『ですよね…っていやいやだからっ!えええ?いやっ!えええええええええええ!?いやそんなっ!待って下さいこんなっ!ええええええええええええええ!!??』

「ぐぬ!も、もううっせえっ!頭ん中で叫ぶのマジうっせえ!だからくれるの?くれないの?どうなったの俺の『攻』魔力!?」

 と、超焦りながらも図々しく催促する俺の手に握られている『百足の脚』を解析すれば、ステータスにはこう記されてあるはずだ。


========アイテム詳細=========

『百足の脚』

 ランク キーアイテム
 上昇値 特殊
 耐久値 特殊
 スキル 【アンチ不壊・プチ】

 ()()()()()()ボス『無双百足』から剥ぎ取り可能なキーアイテム。それは難攻不落の【不壊】スキルすら貫くとされる。

 ただし、かの無敵甲殻の完全破壊には『百本の脚をもぎ取り、それらを使って貫かなければならない』という前提がある。
 つまり、この一本で与えられるダメージは『割合』で算出され、その割合ダメージは『1%』に限定される。

===========================


 ここでも出て来たが、『オブジェクト』とは一体何であるのか。


 『システムの力に守られていて、破壊不可能なもの』をそう呼ぶらしい。


 それは、どんな破壊力をこめて攻撃しようが特定の条件を満たしてないなら一切のダメージを与えられず、なので攻撃対象とする事自体、意味がないとされるもの。

 つまりはゲームで言うところのフィールド上の障害物や、街マップにある建物の一部、のようなもの。
 岩や壁や柱や扉といった、形は様々あれど空気を読んで破壊不能としてきたアレらと同じ。

 でも、RPGをプレイしていてこう思った事はないだろうか?

 なんで世界を滅ぼせる魔王やら魔神なんて存在をぶっ倒せる力が主人公にはあるのに、今まさに邪魔となっている壁とか柱とか扉を壊して進むことが出来ないのかと。せめて岩くらい吹き飛ばして下さいよと。そしたら簡単に次へ進めるのにと。しかし、それは叶わない。何故なら前提としてあるからだ。

『何をしようがこれは破壊不能ですよ』とか、『どうにかしたいなら解消出来るキーアイテムを持って来てね』…っていう、現実なら馬鹿馬鹿しいとされてもゲームなら当然とされる御約束的概念が。

 クソゲー化した今の世界ではそれが導入されていて、こうして具現化されていることがある。

 この『攻撃力判定用オブジェクト』もその類いだ。本来なら破壊不能なもの()()()
 そしてあの巨大ムカデもその『オブジェクト』に類されていたのだから鬼畜な話だ。

(実際に謎の声も『オブジェクトボス』なんてふざけた名称で呼んでたしな)

 ただし、

 あの巨大ムカデの場合は、『百本ある脚をもぎ取って、その全てをムカデ本体に突き刺す』…という内容が記された石碑があのボス部屋にはあって、この縛りを無視しては決して倒せない仕様だった訳だ。

 …うん。『そんなのアリか?』ってなるよな?

 例えこれが本当にゲームだったとしもそんなボスが出てきた時点で転売もので──そうなのだ。

 あの無双百足ダンジョンはゲームで言うところのメインチャートには絡まない部分だった。

 つまりは隠し要素的な?地獄的難易度である代わりに、攻略すれば…おそらくだが超有用なアイテムをゲット出来るって感じのやつ。

 あのダンジョンが一生見つからなくてもおかしくないような立地条件にあったり、しかもボス部屋しかないという特殊な仕様だったのもそのためなんだろう。

 だって。雑魚モンスターまで一緒に設定されていたら、どうなっていた?

 それが繁殖してしまったら?あのまま発見されずにいれば間引きされないまま繁殖しきったモンスターがダンジョンから溢れ出す現象──ラノベでお馴染みの『スタンピード』なるものが発生してしまう。そうなると折角秘密にしていた場所が簡単に特定される事となる。

 そうじゃなくても、『特定の条件を満たさなければ破壊不可能』なんて『初見必殺』にたどり着くまでに、雑魚モンスターを多数配置されていたら?あんな無敵野郎を倒すためにそんな長い道のりを越えていかなければならないとか流石にひど過ぎる。
 まあそんなの、昔流行った物語じゃよくある設定だったし、昔流行ったゲームだとラスボスを弱体化するアイテムが必須だったり、したけどな。

 それでも『死ねば復活する』仕様なんてないこのリアル世界で『特定条件を満たさなければ破壊不能なボス』を実装するとかひど過ぎる。バランス的にどうかしてると言わざるを得ない。

 とにかく何が言いたいかと言うと、人に発見されにくい場所にあってしかも、ボス部屋しかないという特殊な仕様としたのは、ギリギリのラインで妥当、という事だ。
 

 俺はそれを、逆手に取ってやった。


 極めて発見されにくい場所でも、前世ではこの二年後ぐらい?には発見されており、俺は実際に訪れてもいて、つまりは場所を完全に特定出来ていた。

 そして再訪した時の俺は『攻』魔力を持たない状態、なので雑魚モンスターがいない仕様なのも助かっていた。そいつらに邪魔されながらじゃ、あの巨大ムカデにたどり着けるはずもなかったからな。

 というか、そもそもとして俺はあの巨大ムカデを倒しに行ったのではない。『オブジェクトに傷を付けられる百足の脚』をゲットするために行っただけだ。

 だからあいつが『オブジェクトボス』だったことも幸いだった。その初見殺しな性質から他のダンジョンボスと違って『ボス部屋に入っても逃げられる仕様』になってたからだ。だから、突入→奪取→すぐに脱出…なんてずるい攻略も許される状況だった。


 そう、回帰者である俺は、その全てを利用出来る立場にいたんだ。


 誰が設定したのか分からないけど何とかゲーム的にバランスを保とうとしつつ、結局の鬼畜仕様…もしくは穴だらけとなってしまったこのシステムを。
 
 『攻撃力判定用オブジェクト』という破壊不能な盾に向け、『オブジェクトボスを倒すために用意されたキーアイテム』という絶対に傷を負わせる矛を突き刺す事で。

 …そう、叩きつけてやったこれは、何かとクソゲー仕様が目立つ今の世界に対するクレーム代わりっっ!

(この世を勝手に弄くり回してゲームみたくしやがって…人を舐めんのもいい加減にしろ!)というクレームと共にこのシステムが孕む矛盾を突き付けてやった…訳だが。

(うーん、我ながら痛快な気分ではあるけども、しかし…)

 割合ダメージ1%分と言ってもだ。そのダメージを与えた対象は破壊不可能な…つまりはダメージと無縁なはずの『オブジェクト』なのであり。

 そんな小さな傷でもどれほどに大それた判定となるか、それはよく考えててみれば前代未聞な偉業、もとい異業となるのは間違いないことであり。

 つまりはどれ程の高得点が叩き出される事になるのか、もしくは反則と見なされ無効とされるか、実を言えば俺にも予測不能な事なのであり。

 つまりのつまり、『謎の声』があんなふうに焦るのを見て、初めて事の重大さに気付いた次第。


(でもやった後じゃもう遅いし…やっぱ小太刀の方使っとけば良かったか?……ってのは…もう遅いよな。うーん…どんな結果になるんだこれ…)


 と、少し…いやかなり不安になっていたのだが。


『あなたは()()()()()()()()高成績をおさめました。『攻』魔力の成長補正をMとします。』


 おお…Mランク!散々に成績を下げていた『攻』魔力の成績がまさか、ここまで跳ね上がるとは…でも確かに。俺はあってはならない奇跡(ミラクル)を起こしたのだからな。こうもなるか。


『その特典に、『破壊神』の称号を授けます』


 こらまた…聞いた事のない称号だが…なんか不吉な感じがするのは……なんでだ?



『《器礎魔力》の完成を確認しました。あなたを魔力の器として正式に認定します。』


 その言葉を合図に、

 違う何かに作り変えられつつあった俺という存在の中、未だ欠けたままだった部分にパチリ。最後のピースがはまったのを感じた。


『全試練を終えた今、あなたは『魔力の器』として完成されました。それも、Sランク以上の成長補正を複数揃えた、とてつもなく恐ろしい器として…』


 なんか…怒ってないか?言葉から滲むのは『もう引き返せないぞ』というニュアンス。


『その器に相応しい最終特典として──』

「お…」

 そうだった。前世の試練でもここで最終特典がもらえる仕様で確か…前世では殆んどの人が『魔力の器』という称号を授かっていた。

 一方『防』魔力だけはSランクを獲得した前世の俺は『英雄の器』って称号を授かっていた。
 その内容は『Sランク以上の器礎魔力を一つでも獲得した者が得られる称号。MPの成長補正がBランクとなり、初期値に1000pt加算される。』というものだった。
 この文面から察するに、おそらくSランク以上の器礎魔力をいくつ獲得したかで、ここで得られる称号のグレードは決まるのではなかろうか。

 ということは、『攻』魔力でMランク、『知』魔力でSランク、『速』魔力と『技』魔力では神ランクなんてふざけたランクを獲得した俺が授かる称号が、どうなるかといえば──



『あなたには『魔神の器』の称号を授けます。』



 …こうなったのである。







 

 

「…まじん……?マジンって、魔神の
ことか?」


 そう聞き返した、その瞬間っ、


「うぐっ!?」


 体内。何かが物凄い勢いで全身を駆け巡った。

 おそらくは七種の《器礎魔力》が揃ったことで、俺の魔力が本格的な循環を始めたのだ。

 その証拠に『完成した俺という魔力の器』にドプドプと粘く注がれるエネルギーを感じた。

 それは器の底にたどり着いた先から熱を吹き上げ──「かっ…ぐ、が、ハァ…ッ!」

 息が熱い。異様に。吹き出たはずの汗も蒸気となって消えていく。
 こうして全身くまなく渇いているはずなのに、反比例して急速に満たされていくような…この不思議な感覚なら前世でも経験した…が、これ程の苦痛は伴わなかった。


『『MP』の注入が完了しました。』


 …一体、どれ程の量が注がれたんだ?


『それに付随してスキル【MPシールド】と【MP変換】を授けます』


 これら二つはMPを得た者なら必ず取得するスキルとなっている。
 つまり『俺という器』が正式に『MP』で満たされた証にもなる。という訳で、


「早速見るか。ステータス。」


=========ステータス=========


名前 平均次(たいらきんじ)

MP 7660/7660 new!

《基礎魔力》

攻(M)60
防(F)15
知(S)45
精(G)10
速(神)70
技(神)70
運   10

《スキル》

【MPシールドLV7】【MP変換LVー】【暗算LV2】【機械操作LV2】【語学力LV2】【韋駄天LV2】【大解析LV2】【魔力分身LV3】【斬撃魔効LV3】【刺突魔効LV3】【打撃魔効LV2】【衝撃魔効LV2】

《称号》

『魔神の器』new!『英断者』『最速者』『武芸者』『神知者』『強敵』『破壊神』new!

《重要アイテム》

『ムカデの脚』

=========================


 遂に完成した。
 俺のステータスが。

 MPの項目が追加された影響なのか、スキルにはスキルレベルも設定されていた。
 これは俺の魔力特性が決まり、成長する準備が整った事を意味している。
 ただスキルレベルは普通だとレベル1からのスタートのはず。なのにどのスキルも既に幾らか成長した状態で表示されていて、これは…Sランク以上の器礎魔力を複数獲得した影響か?もしそうなら、

「…試練の結果次第でこんなにも優遇されるもんなんだな…」

 前世の苦労を思うと少し悔しく感じなくもない。そう思っていると、


『…それはどうでしょう…』

「ん?おい謎の声、今なんか言ったか?」

 声が小さく聞き取れなかった。

『いいえ。お気になさらず。』

「…?」

 まあいい。ともかくこれで『俺なりの最強ビルド』に数歩近付き、()()()()()()
 そう、このステータスを見て分かる通り、『攻』魔力を高い水準で得られたはいいが、その代償として『知』魔力と『精』魔力が大幅に下がる事になってしまった。だからの半歩後退だ。


「それでもこれは想像以上だな…」


 『攻』魔力の試練の内部成績については最後までどうなるか分からなかったが、最終的にはMランクとなってくれた。
 つまり結果としては、俺が得たチートな器礎魔力の中でも上位性能となった訳だ。
 神ランクに比べれば確かに格下だが、この『攻』魔力は、他の試練で内部成績を散々下げまくってたところを幸運の試練でやっとプラスが付いてたような器礎魔力。それがこんなに…というか、Sランクにするのが当初の目標だった訳だから、

(この結果は万々歳と言っていいだろう!)

 『防』魔力はまあ、お察しだ。諸事情により最初から捨てていた。最低ランクじゃないだけでも有り難いことだ。
 それに、これは何かと補填が効く器礎魔力だ。実際にその当てもある。

(だから、今はこれでいい)

 『知』魔力は一時は神ランクまで上り詰めていたがSランクにまで降格してしまっていた。
 でも俺は、どうしても『攻』魔力を優先して上げたかったし、その試練で良い成績を上げるとこうして『知』魔力が下がる事も分かっていた。
 つまりはこれでいい…というか、当初の目標はSランクだったしな。これは思惑通り、相当に良い部類だ。

(そもそも神ランクとかMランクというのが異常なんだ。Sランク自体、前世では殆んど見なかった訳だし)

 『精』魔力は…うーーん。最低ランクかぁ。これは正直言うと厄介だ。当初の目標ではせめてDかEのランクは確保したいと思っていた。
 いや、まあ、『攻』魔力の試練で良い成績をとりすぎればこうして下がる設定なのは分かってた事だし、こうなるのは当然っちゃ当然なんだけど。
 最低ランクとなると魔法攻撃で一撃死したり、デバフにもかかりやすくなったりと…やっぱり困る。
 そしてこの魔力を才能とする『回復』や『防御』の魔法が使えるジョブにも多分就けない。

(これを何とかするのは…ハァ…骨が折れそうだな)


 『速』魔力については…うん、やったぜ!残したぞ神ランク!これを持つ者は世界広しと言え俺だけに違いない!
 しかも攻撃力に物理的なスピードを合わせる事で、更なるダメージ効果が期待出来る。回避することで防御力の低さもカバー出来る。ああ夢が広がる!魔法?デバフ?全部避けたるわぃ!

(ってのは嘘です。範囲で来られたらマジ怖いです。なので次いこう次)


 『技』魔力、これもやったぜ神ランク!俺みたいに元々が不器用で、しかも荒事に向かない性格だったヤツには得られるはずもなかったランクだろう。
 実際に前世の俺はDランクっていう、平凡極まる成長補正を一応持っていたのだが、それが反映されてる感じはあまりしなかったな。きっとその程度の『技』魔力じゃ俺の不器用を矯正するには至らなかったんだろう。
 それが今世では神ランクなんてものを得られた。今後どう自分が育っていくのか…

(それは想像も出来ないけども、楽しみだ!)


 『運』魔力…は、10か。これって最低値なんだろうな。その上で、この器礎魔力については成長補正なんてものはない。つまり今後上がる事もない。俺は一生、この最低値である10をキープし続ける。
 だがそれでいい。その犠牲のおかげで他の器礎魔力が上がったのだから。それに…

(俺には『二周目知識チート』があるからな)

 それを活用すれば?モンスタードロップなんかに頼らなくていい。隠された宝箱や確定ドロップするボスを誰より先に発見すれば良いことだ。
 幸運に導かれた出会いだっていらない。埋もれた人材を誰よりも先にお手付きすればいいだけの事。
 
 その全部が可能なんだ。これって凄すぎてすごい事だった。

 それに、行動力がいまいちだった分、前世の俺は動かないなりに情報収集には気を回していたからな。
 まあそれも有能な人材の場合は既に死んだ後だったり、闇堕ちしてたり、誰かの手先になってたり、アイテムの場合だと先に取られてたり、しかも使われてロストしたりと、事後の情報ばかりだったが…。
 でも、そんな役に立たなかった情報も二周目人生でなら活かせるはずで、その気になれば全て、俺のものに出来る!っていうチートの数々が霞んで見えるほどにインパクトが凄いのがこの…


「『MP』が7660?だと?これで初期値か…頑張った甲斐あった…って言うより…うーん。チート過ぎてさすがに引くぞ…」


 …なんて。

 暢気な感想をこぼしていた自分をぶん殴ってやりたい。


 そう思うのはこのすぐ後の事だった。

 



 
 器礎魔力とは読んで字の如く『(いしずえ)たる器の魔力』であり、これを完成させた者は『MPの器』となれる。

 そして想定を遥かに上回る器礎魔力を完成させた俺は、かなりチートな器となれた。よってそこに注がれる『MP』もまた当然としてチート級となる訳で。

 確か『魔力の器』という一般的な称号を授かった場合だと、注がれるMPは1000だった。

 そして前世の俺は『英雄の器』という称号を授かって注がれたMPは2000あった。

 それらと比べて、『魔神の器』を授かった今の俺のMPは7660もある。

 前世の俺と比べると3.8倍、一般の魔力覚醒者と比べれば7.6倍ものMPを獲得した事になる。

 この、『魔神の器』という称号の詳細は以下の通り。

『Sランク以上の器礎魔力を複数、しかも神ランクまで備えた者が得られる称号。MPの成長補正が神ランクとなり、初期値に6660加算される。
 この称号を持つ者のステータスは禁忌事項として扱われる。解析されても正確には伝わらない。』

 
「うーん、禁忌認定されるほどのチートか……って流石に引くぞ。でもそのお陰で悩みの種だった防御力がかなりましになった…」


 え?何故ここで防御力の話になるのかって?それを説明するにはまず、この『MP』とは何なのかって話をしなければならない。

 MPと言えば、RPGをプレイしたことのある人なら『マジックポイントの略』として馴染み深いことだろう。
 つまりは魔法を含むアクティブスキルを使う際に消費されるエネルギーを連想するはずだ。実際、このクソゲー化した世界でもそう使われる訳だが…

 何を隠そう、この世界のMPは『シールド』も兼務している。
 MP獲得に付随していた【MPシールド】ってスキルがそれにあたる。

 これは、どんなに弱く薄いシールドでも弾丸だろうが猛毒だろうが魔力が宿っていない攻撃を通さない仕様となっている。

 『魔力を宿した者には魔力を宿した攻撃しか効かない』のは、これに守られているからだ。

 まあ俺がゴブリンにやってみせたように無理に捻られた関節は砕けてしまうし、それが脛椎なら殺せてしまう…という弱点ならあるにはある。
 例えば爆薬などで吹き飛ばされた先で首の骨を折ってしまえば呆気なく死ぬ、という風に。
 逆に言えば、そうならなければ魔力が宿っていない攻撃で吹き飛ばされても死ぬ事はない。

 では魔力を宿した攻撃に対してはどうか?

 シールドの強度は『防』魔力と『精』魔力の数値で決まる。

 そして『分厚さ』についてはこの【MPシールド】というスキルのレベルで決まる。そしてそのスキルレベルについてはMPの最大値で決まるのだ。

 1~1999までがレベル1、2000を越えて初めてレベル2となり、それ以降は1000刻みでレベルアップする感じだ。分厚さ×スキルレベルといった具合だな。

 つまりスキルレベルが7である俺の【MPシールド】は、スキルレベルが1の者と比べて7倍ものぶ厚さがある、という事だ。

 もっと例えると、『魔力の器』の称号しか得られず、『防』魔力と『精』魔力がDランクしかない覚醒者のMPシールドを『厚みが10cmある鉄製の盾』と例えるなら、

 スキルレベルが7もあるが『防』魔力と『精』魔力が異常に低い俺のMPシールドは『厚みが70cmもある木製…いや、下手すれば紙製の盾』といったところか。
 『防御がアホみたいに弱いけどHPだけは馬鹿みたいに高い』って状態と似てる…いや違うか。それはともかく、

 ここからが大事なところなんだが。

 この『シールドの分厚さ』は固定ではなく、常に変動する。

 魔力を宿した攻撃を受ければ削られてしまうし、削れた分だけ薄くなる。
 それは、MPシールドの原料たるMPが削られたという事にもなる。

 つまり、この【MPシールド】というものの分厚さは、MPの残量で変動する、という事だ。

 攻撃を受けてシールドが削られれば『アクティブスキルを使うためのMP』まで減る事になり、
 その窮地を打開すべくMPを消費してアクティブスキルを発動すれば【MPシールド】はさらにと削られてしまう。

 なんてスパイラル仕様。ホント、クソゲーだ。

 しかし残念ながらMPを取り巻く厄介な環境は、これだけじゃなかったりする。

 ほら、MPに付随して獲得したスキルはもう一つあったよな。


 そう、【MP変換】ってアレだ。


 これを使えば新たなスキルを習得出来たり、スキルのレベルを任意で上げたり、器礎魔力値を上げたりと、様々な強化をその場でお手軽に出来てしまえる。
 …のだが、その代償として『MPの最大値』を払う必要がある。

 そして犠牲として払ったそのMPは二度と戻らない。MP最大値はそのまま削られた形となってしまう。

 そうなると?削られた分、当然【MPシールド】は薄くなる訳で。
 MPを燃料に使うアクティブスキルだって使いづらくなる訳で。
 まあレベルアップをすればMPの最大値も上昇するので、補填なら出来るけど。
 そのレベルアップにしたってゲームと同様、上がれば上がるほど上がりにくくなるってジレンマがある。
 …という訳で結局のクソゲー仕様だな。つまり結論として【MP変換】はあまり使わない方がいいって事になる。

(…ただなぁ、この【MP変換】による強化には『ジョブの獲得』も含まれてるんだよな…)

 そう、確かにMPの最大値を削るのは惜しい。だがこればっかりは仕方ない。【MP変換】を使う事でしかジョブは獲得出来ないのだから

「──って…あれ??」


 早速お目当てのジョブを獲得すべく、ステータス画面に映る【MP変換】をタップした俺だったが…何故だろう。反応がない。『使う』と念じながらやっても結果は同じ…何度やっても──


「え?なんでだ?」


 その時だった。


『あなたは、深淵に足を踏み入れました。』


 俺がステータスを見て一喜一憂している間、ずっと口を閉ざしていた『謎の声』が告げたのは、あまりに不吉な台詞。


『どうやって知ったのか知りませんが、数々の…それこそ不正ギリギリであった行為については目を瞑ってきました──』


 さっきまであたふたしていたのがまるで嘘だったかのように…


「ぐ──これ…なんだ これ …重──」


 そう、謎の声は重く、硬く、俺という存在にのし掛かってきた。


『──しかし。オブジェクトに傷をつけるなどとこれは、あまりにあまりの逸脱。どうやってあんな手法を思い付いたのやら…あるいはどこかで情報を盗み取ったか…いえ、それは分かりませんし、聞くつもりもありません。何故なら──あなたはもう、深淵に踏み込んだのだから』


「──なんだ …深 淵て──」


 物理的作用すら伴って感じるこれは、威圧か?


『深淵を覗く者は深淵に覗かれる…これはこの世界が生んだ言葉と聞いています。
 そう、これはこの世界が人の心を介して託した言葉。踏み入ってはならない不吉の存在を、あなた方人間に前もって知らしめるための言葉でした。覗くだけならいいのだと。覗かれるだけで済むのだからと。だから、それを感じるなら踏み込んではならないとも。
 でも踏み込んでしまえば?覗かれるだけでは済まされない。結果、あなたは深淵に在る者と認識された。深淵の底を見る責が課せられた。』


「ダか──ら いっタい─ ─ナに を言ッて」


『ペナルティというヤツですよ。』


 …ペナルティだと?

 …!


 ──もしかして!


「く…その、 ペナルティ のせいで、【MP変換】が使えなくなった …そういう、事、…かっ!?」



『……あなたの試練は、終わらない。』







 ※『なんだよ無双しないのかよー』とここで読むのを止める読者様がいるようなので。

 念のため告知しときます。

 次の第二層。
 20話あたりから25話でぐおんと巻き返します。

 なんせタイトルにある通り『怪物ルート』ですから。

 そう簡単にはいきませんがその代わり『爆発力が凄い!』という感じにしてます。

 ともかくカタルシスと予測不能を楽しみたいなら第四層の最後あたり。話数にして44~46あたり?まで読んで下さると嬉しいです。



 あと、続きをさくさく読みたい方、いらっしゃいましたらなろう様で先行版投稿してます。次のURLから飛んで下さい。

https://ncode.syosetu.com/n5831io/


 もちろんノベマ様でも随時更新していくつもりです。しおり、いいね!、レビュー、感想いただけるとここでも読めて便利ですし、作者としても読んでもらえる人が増えてとても嬉しいです。宜しくお願いいたします。