「うわっとおおお!」
叫びながら、ぐわり!
無理矢理な体重移動!
鼻先スレスレで通過した車は髪の毛数本を巻き込んで行った。
そのすぐ後を追ってきていた餓鬼どももゴロゴロ無様に転がる事で何とか回避…っ。
ふー、
間一髪。
いやー、あと少しで轢かれるとこだったわ。魔力を宿さない車に跳ねられても【MPシールド】の効果でダメージは負わないんだけど。大質量に轢かれたら関節が巻かれて骨折、それが脛椎だったなら死ぬからな。
その次に来た餓鬼も体重は軽いけど、やはり踏まれる訳にいかない。なんせ魔力を宿してる。あれ全部に踏みつけられたらノーダメとはいかない。
「…いや、それを抜きにしても今のはキツかった…」
と、身体をさすって蓄積されたものに想いを馳せる。
『…良い負荷だった』と。
攻撃の際も相当無理をしていた。スキルと器礎魔力に守られたこの身体でも、相当な負荷となっていた。生身なら筋断裂を起こす程の負荷だ。実に良い負荷だった。
いや、どこのトレイニー?とか思わないで欲しい。これは必要な事で…ほら、
「そろそろかな…」
ニヤリ。
『【打撃魔攻LV3】に上昇します。』
『【衝撃魔攻LV3】に上昇します。』
『【韋駄天LV3】に上昇します。』
「きたっ!」
強烈な負荷のお陰で、スキルレベルが早速上がった。
それも、釘バットの効果で複数同時にっ!これで俺は、
打撃による攻撃行動の際に1.15倍、
刺突による攻撃行動の際に1.15倍、
衝撃を内部に伝える事で1.15倍で
1.520875倍、
約1.5倍の攻撃力となった。
その上で韋駄天の効果上昇も加わる。
実質的に『速』魔力値が上がったも同じ。突進しながらだと、更なるダメージを稼げるはずだ。
それに、飛び散ってきた血とか肉片も大量だったからな。精神的なダメージも相当食らった。これだって『おいしい負荷』だ…ほら。
『【精神耐性】を取得しました。』
「…やっ …とか。」
このスキルは精神的な負荷を受け続ければ誰でも取得出来るし、実際、前世では真っ先に覚えたスキルだった。
…のだが、
その前世の経験で既に素の精神力が鍛えられていた俺は、今世では中々負荷を得られず、取得出来ずにいた。
さて。この【精神耐性】のように。
就いたジョブに関係なく条件さえ満たせば誰でも取得出来るスキルの事を『コモンスキル』という。
これなら【MP変換】を封印され、ジョブを獲得出来ない俺達でも取得可能だ。
しかし誰でも取得出来る性質上、その効果は薄い。ジョブを基盤として覚えられるスキルの効果に比べればホント、大した事はない。
だからといって馬鹿にしたもんでもない。何故ならどんなスキルもスキルレベルが10に達すれば進化が可能で、それはコモンスキルにも適用されているからだ。そのまま進化を繰り返せば強いスキルになってくれる。
でも…コモンスキルは誰でも取得出来るし効果が薄い分、使う際にかかる負荷も少ない。だからスキルレベルを上げにくい、という難点があったりする。
そう、もうお分かりだと思うが、さっきの俺を見ての通り。
スキルレベルというものはスキルを使う際にかかる『負荷』が大きければ大きいほど、上がりやすくなっている。
そしてスキルレベルが上がれば上がるほどスキルレベルが上がりにくくなるのは、このためだ。
例えば戦闘用のスキルだとそれが強力になった分、戦闘が楽になってしまってその結果、負荷も減ってしまう、という具合だ。
いや話が逸れてると思うだろうがそうでもない。
だって、ジョブに未だ就けず、ゆえにジョブレベルも設定されず、つまりレベルアップを封じられた俺や大家さんにとってこれは、頼みの綱とも言える仕様だからだ。
だって、『負荷の大きさ』にスキルレベルが関係するなら、ジョブレベルが関係していて当然だろ?
ジョブレベルが上がって器礎魔力が総合的に上がり、敵を簡単に倒せるようになれば?
その分、戦闘でかかる負荷が小さくなるというのは、簡単に想像出来る事だろう。
つまりジョブレベルが上がれば上がるほど、スキルレベルは上がりにくくなる。それもかなり顕著に。『これだってペナルティだ』と思っていいぐらいに。
つまり何が言いたいかと言うと。【MP変換】を封じられるというペナルティ、これは、
『レベルアップしようにもジョブに就けない以上、ジョブレベルが設定されず、レベルアップも出来ない』
『さらにはジョブ獲得によって取得可能となるはずだったスキルも習得出来ない』
『他にもMP最大値の犠牲を条件とするスキル獲得やスキルレベル上昇、器礎魔力の上昇なども出来ない』
…と多岐に渡って深刻な不利を強いられるがその反面。
『スキルレベルが上がりにくくなる』というペナルティ。これを相殺する作用もある。
…という、たった一つだが大きなメリットもある。という事だ。
大家さんに話していた代案とは、これだった。
レベルアップ出来ないなら出来ないで、それを利用すればいい。
その道のりは険しいが、むしろ好機と考えるべき。
そう、この機に乗じて俺は、既に取得しているスキル、もしくはこれから大量に取得するつもりでいるコモンスキルのスキルレベルを、ガンガン上げていく所存だ。
こうして、餓鬼の群れを攻略する目処も立った事だしな。
ここからは負荷を恐れず…いや、むしろ無駄に負荷をかけていく方向へシフトしよう。
俺は釘バットを腰だめに、
クラウチングスタートさながらに、
低く、さらに低くと身を沈め、
それと同時に力をたわめ、
地面を足の指でガツリと掴み、
踏み締め、踏み出しっ!
踏み込みっ!!踏み、抜きッッ!!!
飛び…っ出したッッ!!!!
『知』魔力と『速』魔力の相乗効果でゆっくり見えるはずの景色、それが急速に流れゆく。それ程の全速を乗せた…剣道で言うところの抜き胴よろしくっ、移動しながらッ、複数の餓鬼どもの土手っ腹!それら纏めてッッ!
「うおぉるぁあああああッッ!!!」ドッ「あぎゃ!」パァア「ぱ!」アア「あげ!」アア「ばぁ!」ァアンッッ!!
爆散!させてゆく!
その直後には急ブレーキ!しかし強烈な慣性が発生している。それに引き摺られなつつ、前屈みの姿勢をキープ!
地面に二条の轍を刻みながら、かかる負荷を制御しながら、後方へ、ギュルっ!!
この方向転換が完了するまで不器用でも不自然でも無理矢理にでも!全身で全身に限界まで!力をまたたわめにたわめてっ!
──ゆけ!俺ッッ!
「食らえぇええええッッ!!」ドッ「がい!」パァア「んば!」アア「あぽ!」アア「らべぁ!」ァアンッッ!!
餓鬼共をまた爆散させる!返り血が凄い!でもこれを繰り返せば!
「うるぁああああっ!」ドッ「ぶべぁ!」パァア「ぽぁ!」アア「あべ!」アア「ばごぁ!」ァアンッッ!!
「ねぇ香澄さん、いつも変な均兄ぃがいつも以上に変なんだけど?」
「どっせぇぇええいっ!」ドッッ「ぐぶゃ!」パアアァア「まり!」アア「くぼ!」アア「へべぁ!」ァアアアンンッッ!!
「んー、なんだか 楽しくてしょうがない…って感じ?」
「どるぁああああっ!」ドッッッ「ぎゃん!」パアアアアァア「ろべ!」アアアア「ぢご!」アアアア「ぬらぁ!」ァアアアンンンッッ!!
「モンスターが纏めて水風船みたくボンボンボンボン…それがどんどん派手になってなんとゆーか手がつけられない感じ?」
「ういしゃぁあああ!」ドッッッッ「ぎにぇ!」パアアアアァア「あぼ!」アアアア「なぢ!」アアアア「あぎゅ!」ァアアアンンンッッ!!
「うん、もはや人間じゃない …って感じ」
……おろ、なんか生温かい視線を感じる──て、またくる な、
『【刺突魔攻LV4】に上昇します。』
『【打撃魔攻LV4】に上昇します。』
『【衝撃魔攻LV4】に上昇します。』
ぃ…よし!待ってた!これで1.2倍×1.2倍×1.2倍で1.728倍、約1.7倍の攻撃力!そして、
『【韋駄天LV4】に上昇します。』
よし!
「よし、よし!よしよしっ!」
「…なんかモンスターの大量殺戮にしはしゃいでる模様。さすがにキモいンですけど」
「うん あんなにはしゃいで キモかわいい」
「…うーん…あの、香澄さん?」
「なに?」
「…出会って間もないのに失礼承知で言っていい?」
「え、いい、よ?」
「均兄ぃ始め、私やお兄ちゃんも大概だって自覚あるけど、」
「うん」
「香澄さんも、結構な変わり者だよね。」
「そう、かな」
「うん、類が友をガッツリ呼んじゃった感あるよ」
「ふふ、だったら嬉しい、かも」
この非常時に女二人して何を話してるのだろう。気になるが気にしない方が吉だと『英断者』が警告してるので気にしないでおく。
それにしても、敵を倒す度に返り血を浴びる事になるのが難点だが、なかなかいいな。釘バット。なんだかんだ楽しくなってきたぞ──とか思ってると。
「んべっ、ぺっ、なん、なんなんだこの大量の血いいい!?モンスが車外で次々爆ぜて…て、おい均次!お前一体何やってんぎゃーーってまた大量に血ぃぃい!ぺっぺっ!」
ありゃ。すまん才蔵。
「もうお兄ちゃんうるさいっ!」
「だってこれ見ろよモンスの血でベッタべタ──」
「才蔵さん、少し静かにしましょう」
「あ、はぃ、すみませ…」
あー。かなりの速度で縦横無尽に爆散させてたし、夜が近付いて暗くなってきたからな。
俺の姿をとらえられなくなった才蔵が大量に浴びた餓鬼の血に騒ぎ出して、それを才子と大家さんが叱って…って感じか。
うーん珍しくシュンとしちゃってざまぁ…じゃないなこれ。親友のピンチそっちのけで夢中になってた俺も悪い。フォローしとくか──「おい才蔵、もう少しの辛抱だからな──」「ぎゃぁっ!って均次かよ!やめてくんない!?急に車に張り付いて背後からボソッと耳元で囁くの!見ろこれ特大のサブイボがこんなにたくさんっ!」
「ああもうスマんー。」
「だぁからッ!!うるさいって言ってんでしょーがお兄ちゃん!!運転に集中出来ないでしょっ!!??」
とか言うけど才子。さっきのお前も大概ノンキそうに見えてたぞ?
「いやだって、均次がさ──」
「…才蔵さん私 さっき 何て言った?」
「いやだって均次が──」
「 …言い訳… 」
「すみませんなんでもありません!」
あらま、あの才蔵がこんなにショボンとして──
「ほら、均次くんも。戦闘中 余計なことしない さっさと持ち場帰る」
──ぬわ、今度はこっちに飛び火した?
「し、失礼しましたぁ…っ」
でも大家さんだってさっきは…いや、こわいからやめとこう。つか、才蔵に悪いことしたな。うーん、偉そうに指示しといてこれはちょっとばつが悪いか。
でもしょうがないんだよ。あらゆる不利や不運を過剰に想定して、それでも予想外のハプニングが起これば簡単にピンチに陥ってしまうのが現実の戦闘で、かといって常時全力投球なんて無理な話で、かといって油断も禁物、そんな矛盾も孕んでるのが戦場で、さっきみたくふとした切っ掛けで我を忘れてしまう事もままあって…とか独りで言い訳をこね繰り回しながら餓鬼を爆散させてるとこへまた、謎の声。
『【刺突魔攻LV5】に上昇しました。』
『【打撃魔攻LV5】に上昇しました。』
『【衝撃魔攻LV5】に上昇しました。』
これで1.25×1.25×1.25=1.953125で2倍の大台までもう少しか…こうして景気よくスキルレベルが上がるとやっぱりな。気分が良い。でも冷静になってみれば…
「想定した威力とまではいかない…」
と呟きながら俺は、親友の姿をそっと見た。そう、俺が望む力を発揮するためには、才蔵の力が必要だ。
でも俺の親友は女性陣に守られた上に叱りつけられるという体験にいたく傷付き消沈してる模様。悔しそうに動く口の動きを読んでみれば、こんな事を呟いていた。
「…くそぅ…家の外がこんなにおっかないなら俺もチュートリアルダンジョンとやらに挑戦しとけば良かった…」
…何言ってんだ。
むしろ試練を受けていたらお前の才能は死んでしまってたんだぞ?
そう、こいつには特別な才能がある。
造屋才蔵。
俺の親友。
こいつは、世界一の生産職にだってなれるはずだったんだ。
=========ステータス=========
名前 平均次
MP 7660/7660
《基礎魔力》
攻(M)60
防(F)15
知(S)45
精(G)10
速(神)70
技(神)70
運 10
《スキル》
【MPシールドLV7】【MP変換LVー】【暗算LV2】【機械操作LV3】【語学力LV2】【韋駄天LV2→4】【大解析LV2】【魔力分身LV3】【斬撃魔効LV3】【刺突魔効LV3→5】【打撃魔効LV2→5】【衝撃魔効LV2→5】
《称号》
『魔神の器』『英断者』『最速者』『武芸者』『神知者』『強敵』『破壊神』
《装備》
『釘バット』
《重要アイテム》
『ムカデの脚』
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