「リン、僕らに話してないことがまだあったんだね」
 
 とりあえず鈴心(すずね)を部室内に招き入れて座らせてから、(はるか)はまるで詰問するように言った。
 
「申し訳ありません……」
 
「妹って、どういうことだ?」
 
 俯いて謝る鈴心に、蕾生(らいお)は逸る気持ちで問うたが、永に先を制された。
 その雰囲気は少し、恐ろしい。
 
「その前に、何故、黙っていたんだ?」
 
 その剣幕に、鈴心は躊躇いながら答える。
 
「ハル様には言うべきだと思っていたんですが、常に星弥が側にいたのでお話する機会がありませんでした……」
 
「ふうん? 弁解の言葉としては弱いね」
 
 永の言葉は驚くほど冷たい。
 その雰囲気に飲まれた鈴心は、何も言うことができずに俯いて黙ってしまった。
 
「おい、永。鈴心に怒ってる場合じゃねえだろ」
 
 蕾生が取りなしても永は静かな怒りを隠さずに、鈴心に言い聞かせた。
 
「それはわかってる。けど、リン、お前はいつもそうだ。何か大事なことを抱えて、一人で苦しんでる。おれがそれに気づいていないとでも思った?」
 
「……」
 
 黙ったままの鈴心の肩を優しく掴んで、今度は目線を合わせながら永は穏やかに言った。
 
「いつか話してくれる、ってずっと待ってるんだよ? 言っただろ? お前の分もおれが考える──おれが全部守るって」
 
「ハル様……」
 
 その声は震えていた。潤む瞳で永を見つめる様は、いつもよりも年齢相応に見えた。
 
「よし。じゃあ、話を聞こうか」
 
「はい。実は日曜日に家に帰った後、星弥と少しだけ会話したんですが──」
 
 永がにっこり笑って促すと、鈴心は少し辿々しくも三日前の状況を話し始めた。

 

 
 ◇ ◇ ◇

 

 
「すずちゃん、おかえり」
 
「ただいま戻りました」
 
 鈴心が永達と別れて帰宅すると、星弥(せいや)は玄関で立って待っていた。先程よりだいぶ時間が経ってしまっているのにずっとここにいたのだろう。その姿に健気さを感じて鈴心は苦笑した。
 
「あの……周防(すおう)くん、まだ怒ってた?」
 
 おずおずと聞くので、鈴心は穏やかに言ってやる。
 
「お怒りは少し収まっているはずです。貴女の好きにしていいとおっしゃっていました」
 
「え、と、(ただ)くんは?」
 
「ライですか? ライは別に……怒ってないと思いますけど」
 
 蕾生のことまで気にするとは、永に責められたのがよほど堪えていると鈴心は思った。
 
「そう。でも明日もう一回謝るね」
 
「それがいいと思います。できれば貴女にはもう少し協力して欲しいので。中立の立場で構いませんから」
 
 星弥が永を怒らせたままなのは鈴心にとっても辛い。それに星弥はあの蕾生の(ぬえ)化を止めた。これから先はどうしても星弥が必要になる。
 それをどうやって永と蕾生に伝えようかと鈴心が思案していると、星弥はその場で少しふらついた。
 
「う、ん……」
 
「星弥?」
 
「あ、れ? ごめんね、なんか、ふわふわする……」
 
 微かな声でそう言った後、星弥は突然昏倒した。
 
「星弥! 星弥!」
 
 鈴心が大声で叫んでも、その意識が回復することはなかった。