「俺からも聞いていいか?」
 
「ものによりますが、なんです?」
 
 蕾生(らいお)は、(はるか)に聞く機会を逃していることを鈴心(すずね)に聞いてみた。
 
雷郷(らいごう)ってどんなヤツだった?」
 
「──気になるんですか?」
 
 鈴心は少し目を丸くして聞き返す。
 
「そりゃあな。俺は記憶がねえんだ、前世の情報は聞けるもんなら聞きたい」
 
「ライは今のままでいい、とハル様ならおっしゃると思いますよ」
 
「そういうことじゃねえ。俺はこれからどう行動すればいいのか、その根拠になり得る事実を少しでも知っておきたいんだ。永のために」
 
 はぐらかそうとする鈴心の瞳を見据えて、蕾生はそう主張する。
 その心を汲み取ったのか、鈴心は息を吐いて少し笑った。
 
「私に聞いて正解ですよ、ライ。ハル様のため、と言われたら教えない訳にはいかない」
 
「おう、教えてくれ」
 
「ハル様には内緒ですよ。少しだけですからね」
 
 そう念を押すと、鈴心は思い出を語るように少しずつ話し始めた。
 
「雷郷は──確か当時の私より四つか五つ程年上でした。私と同じ境遇で治親(はるちか)様に仕えるようになったと聞いています」
 
「ああ、それは永から少し聞いた。戦争孤児だったんだろ?」
 
「そうですね、農民の出だとも言っていました。ですが、私が治親様に拾われた頃にはすでに郎党衆の筆頭のような位置にいました」
 
「それってすごいのか?」
 
 少し蕾生が期待をこめて聞くと、鈴心は言いにくそうに語る。
 
「まあ……治親様は変わり者だったので、私達のような後見のいない者でも、功を立てればそれなりの待遇を与えてくださいましたから。ただ、腕っぷしで上がっただけなので、私達に武家の部下のような発言権はありませんでした」
 
「そりゃそうだな」
 
 けれど、と前置いて鈴心は柔らかな表情で言う。
 
「雷郷は常に治親様のお側に仕え、どんな戦場でも必ず武勲を上げていました。事実上、貴方は右腕だったんです──今のように」
 
「──そっか」
 
 その言葉に蕾生は満足感を覚える。
 
「だからそんなに変わりませんよ。貴方は常にハル様のために行動してきた。今回もそれをすればいいだけです」

 だが、漠然と「それ」と言われても、蕾生にはピンと来なかった。