コンコン。
私は奏お姉ちゃんの部屋のドアをノックする。はーい。と返事があった。やった。どうやらまだ寝てなかったらしい。ラッキー。私はドアを開けて部屋に入った。
暗い廊下から光のある部屋へと入る。部屋は綺麗に整理整頓されており、所々に人形が置いてある女の子らしいものだ。無機質な私のとは大違いだ。
部屋では奏お姉ちゃんはベッドでスマホを眺めていた。
「あれ? 美優羽ちゃんこんな時間にどうしたの?」
私の心拍数が急上昇する。それとともに体温が上がり、口は溶接されたかのように開かない。何も言えないまま時間が過ぎていく。奏お姉ちゃんは私をじっと見ている。
言え、言うんだ私! 私は勇気を振り絞った。
「あ、あの……一緒に寝ないっ」
ようやく私の口が開いてくれた。それも素直に言えた。そうすると、奏お姉ちゃんは優しく微笑んだ。
「いいよぉ。こっちにおいで」
奏お姉ちゃんはそう言って手招きをした。私は招かれるように、奏お姉ちゃんのベッドに入った。私がベッドに入ると、奏お姉ちゃんはリモコンで電気を消灯した。
奏お姉ちゃんといざ寝るとなると緊張するなあ。私の体温は急上昇中だ。心臓も音が聞こえそうな程ドキドキしている。
「やっぱり怖かったんだ」
私がベッドに入るなり、奏お姉ちゃんは少しニヤニヤしながら言った。
「そ、そういうわけじゃないわよっ。ただ今日は寒かったから、一緒に寝ようと思っただけよっ」
私は嘘をついた。
「うーん……。今日はそんなに寒くなかったような……。けどまあ、そう言うことにしておいてあげるね」
奏お姉ちゃんはにこりと微笑んだ。もっと言及されると思ったのでこれで済んで良かった。私は少し安心した。
「そういえばこうやって寝るの、小学生以来だねえ」
奏お姉ちゃんはそう言った。
「そうだね。小学校3年生の冬だったよね」
「そうそう。あの時も怖い映画を観た後だったよねぇ」
「だから今日は違うって」
私は強く否定した。すると奏お姉ちゃんはクスクスと笑い出した。
「そうよね、違うのよね。ごめんごめん」
「もうっ。お姉ちゃんったらっ」
私は少しだけ怒った。それを見てか奏お姉ちゃんは笑うのをやめてくれた。この件はここで終わりそうだ。
こんな感じで話してはいるが、私の心臓はずっとバクバクしている。体温も上がったまま下がる気配がない。とても眠れる気がしない。
どうしよう。このままじゃ寝れない。そう思っている時だった。
ギュッ。
奏お姉ちゃんが私を優しく抱きしめてきた。
な、なんで急に抱きついてくるの? ベッドの上とはいえいきなり抱き付かれるなんて! これには私の心は大火事である。
「おおおおお姉ちゃんっ。なんでいきなり抱きつくの?」
私は混乱する頭をなんとか稼働させて言葉を話す。
「いつもは人形さんを抱いてるんだけど、今日は美優羽ちゃんがいるから美優羽ちゃんに抱きついちゃった」
奏お姉ちゃんは無邪気な笑みを浮かべていた。
これは嬉しい誤算だ。嬉しい。とてつもなく嬉しい。だけど、このままじゃ私の身体と心が保たない。とは言えこんな事滅多にない。これを逃したら一生ないかもしれない。
離してもらうべきか、このまま我慢すべきか。
…………脳内での検討の結果、我慢することにした。離そうとすると奏お姉ちゃんが悲しむかもしれない。それなら私が我慢すべきだ。それにこんなご褒美を逃すわけにはいかない。
私は我慢することを決めた。
「美優羽ちゃんふわふわしていて気持ちいいなあ」
お姉ちゃんが甘い声で言った。抱き心地を褒めてもらえるなんて思いもしなかったからなんか嬉しくなった。
「すっごいポカポカしてるし、ドキドキしてる? どうしてかなぁ?」
「い、いきなり抱きつかれたら誰だって緊張するわよっ」
奏お姉ちゃんの無邪気な問いかけに、私はドキドキしながら答えた。
「そうなんだねぇ。じゃあ、友達にはやらない方がいいね」
奏お姉ちゃんは一人で納得しているようだった。こんな事友達には絶対やらないで欲しい。やるのは私だけにして欲しい。私はそう強く願った。
それから少しすると奏お姉ちゃんはうとうとしだした。
「抱きついてたら眠くなっちゃった。私もう寝るね」
そう言って奏お姉ちゃんの瞼はゆっくりと閉じていった。奏お姉ちゃんは安眠できそうだ。その一方で私は全く眠れる気配がしない。
この部屋に来るまでは添い寝してもらえれば眠れると思っていたが、全くの逆効果だ。まあ怖さに震えている状況よりはマシだとは思う。だが眠れないという事には変わりない。
どうしたらいいのだろうか。私は奏お姉ちゃんを見ながら呟いた。
そう言えばあの時もこんな感じだったなあ。私は昔の記憶を思い出した。
小学校3年生の冬の夜。あの日も今日と同じように怖い映画を観て全く眠れなくなってしまった。
なので奏お姉ちゃんの部屋に行って一緒に寝てもらった。その時も今日と同じくらいドキドキしたし、眠れなくなってたなあ。
ようやく眠れたと思ったら今度はトイレに行きたくなって、奏お姉ちゃんを起こして一緒についてきてもらった。今はそんな事ないけどね。
その時は文句一つ言わず、笑顔でついてきてくれたなあ。奏お姉ちゃんはあの時のまま優しいお姉ちゃんのままだ。
この寝顔も多少大人に近づいてきたが、昔の面影を残している。相変わらずかわいい顔をしている。私はそんな奏お姉ちゃんが大好きだ。
「大好きだよ。奏お姉ちゃん」
私はそっと囁いた。まあこんなことしても返事が返ってくるとわけないんですけどね。そう思っていた時だった。
「私もだよ……。美優羽ちゃん」
奏お姉ちゃんがおぼつかない口調で返事をしてきた。一瞬起きているのかと思いビックリしたが、目を見ると完全に寝ている。どうやら寝言のようだ。
一体どんな夢を見ているのだろうか。きっといい夢なんだろうと私は思った。この言葉をいつかちゃんと起きている時に言ってもらえたらいいなあ。私は未来の想像をした。
そんなことを考えていると、心拍数も体温も落ち着いてきて眠たくなってきた。
私もそろそろ眠ろう。奏お姉ちゃんと一緒に寝るんだからきっといい夢が見れるだろう。そんなことを想いながら瞳を閉じた。
チュンチュン……。
目を覚ますと鳥の声が聞こえる。朝になったようだ。今日の夢は実にいい夢だった。私と奏お姉ちゃんが一緒にカフェをやっていて、仲良く働いている夢だった。
夢の中でこれが現実ならと何度思ったことだろうか。けど、これから私が頑張れば実現できる夢だから、これから頑張ればいいか。私はそう考える事にした。
さて、朝ご飯を作らなければいけない。今日はいい夢を見たから、ちょっと手の込んだものを作ろうかな? そんなことを考えているとあることに気付いた。
私は今、奏お姉ちゃんに抱きつかれているということだ。嬉しい状況ではあるが、起きるためには離れてもらわなければいけない。
しかしだ。この奏お姉ちゃんを起こせるのかという話だ。かわいい顔して、かわいい寝息を立てて気持ちよさそうに眠る奏お姉ちゃんを私は起こせるか。私には無理だ。
だけど、起きなければ朝ご飯を作れない。どうしよう。どうしよう。私は究極の選択を迫られていた。このまま寝顔を見ていたが、起きなければ家族全体に関わる。惜しいが起こすしかない。
「お、お姉ちゃん。朝ご飯作りたいから離してっ」
私は奏お姉ちゃんを揺らす。だが、起きてくれない。それどころかまたさらにギュッと抱きしめられた。これは、多分起きない。ダメだ。もう諦めるしかない。
私は諦めて奏お姉ちゃんが起きるまで眠る事にした。
その後は奏お姉ちゃんが起きると共に起こされて、急いで朝食を作ることになった。当然手の込んだものは作れず、目玉焼きとトーストになった。
朝食を作る時間が遅れたもんだから、学校も当然遅刻してしまい怒られるハメになった。
そんなわけでちょっと後味が悪い感じにはなってしまった。けど、個人的にはとても満足している。次はホラー映画に頼らずに一緒に寝られるといいな。
そして、夢で見たように奏お姉ちゃんと一緒にカフェを開けるといいな。そんなことを考えながら私は今日の授業を受けていた。
私は奏お姉ちゃんの部屋のドアをノックする。はーい。と返事があった。やった。どうやらまだ寝てなかったらしい。ラッキー。私はドアを開けて部屋に入った。
暗い廊下から光のある部屋へと入る。部屋は綺麗に整理整頓されており、所々に人形が置いてある女の子らしいものだ。無機質な私のとは大違いだ。
部屋では奏お姉ちゃんはベッドでスマホを眺めていた。
「あれ? 美優羽ちゃんこんな時間にどうしたの?」
私の心拍数が急上昇する。それとともに体温が上がり、口は溶接されたかのように開かない。何も言えないまま時間が過ぎていく。奏お姉ちゃんは私をじっと見ている。
言え、言うんだ私! 私は勇気を振り絞った。
「あ、あの……一緒に寝ないっ」
ようやく私の口が開いてくれた。それも素直に言えた。そうすると、奏お姉ちゃんは優しく微笑んだ。
「いいよぉ。こっちにおいで」
奏お姉ちゃんはそう言って手招きをした。私は招かれるように、奏お姉ちゃんのベッドに入った。私がベッドに入ると、奏お姉ちゃんはリモコンで電気を消灯した。
奏お姉ちゃんといざ寝るとなると緊張するなあ。私の体温は急上昇中だ。心臓も音が聞こえそうな程ドキドキしている。
「やっぱり怖かったんだ」
私がベッドに入るなり、奏お姉ちゃんは少しニヤニヤしながら言った。
「そ、そういうわけじゃないわよっ。ただ今日は寒かったから、一緒に寝ようと思っただけよっ」
私は嘘をついた。
「うーん……。今日はそんなに寒くなかったような……。けどまあ、そう言うことにしておいてあげるね」
奏お姉ちゃんはにこりと微笑んだ。もっと言及されると思ったのでこれで済んで良かった。私は少し安心した。
「そういえばこうやって寝るの、小学生以来だねえ」
奏お姉ちゃんはそう言った。
「そうだね。小学校3年生の冬だったよね」
「そうそう。あの時も怖い映画を観た後だったよねぇ」
「だから今日は違うって」
私は強く否定した。すると奏お姉ちゃんはクスクスと笑い出した。
「そうよね、違うのよね。ごめんごめん」
「もうっ。お姉ちゃんったらっ」
私は少しだけ怒った。それを見てか奏お姉ちゃんは笑うのをやめてくれた。この件はここで終わりそうだ。
こんな感じで話してはいるが、私の心臓はずっとバクバクしている。体温も上がったまま下がる気配がない。とても眠れる気がしない。
どうしよう。このままじゃ寝れない。そう思っている時だった。
ギュッ。
奏お姉ちゃんが私を優しく抱きしめてきた。
な、なんで急に抱きついてくるの? ベッドの上とはいえいきなり抱き付かれるなんて! これには私の心は大火事である。
「おおおおお姉ちゃんっ。なんでいきなり抱きつくの?」
私は混乱する頭をなんとか稼働させて言葉を話す。
「いつもは人形さんを抱いてるんだけど、今日は美優羽ちゃんがいるから美優羽ちゃんに抱きついちゃった」
奏お姉ちゃんは無邪気な笑みを浮かべていた。
これは嬉しい誤算だ。嬉しい。とてつもなく嬉しい。だけど、このままじゃ私の身体と心が保たない。とは言えこんな事滅多にない。これを逃したら一生ないかもしれない。
離してもらうべきか、このまま我慢すべきか。
…………脳内での検討の結果、我慢することにした。離そうとすると奏お姉ちゃんが悲しむかもしれない。それなら私が我慢すべきだ。それにこんなご褒美を逃すわけにはいかない。
私は我慢することを決めた。
「美優羽ちゃんふわふわしていて気持ちいいなあ」
お姉ちゃんが甘い声で言った。抱き心地を褒めてもらえるなんて思いもしなかったからなんか嬉しくなった。
「すっごいポカポカしてるし、ドキドキしてる? どうしてかなぁ?」
「い、いきなり抱きつかれたら誰だって緊張するわよっ」
奏お姉ちゃんの無邪気な問いかけに、私はドキドキしながら答えた。
「そうなんだねぇ。じゃあ、友達にはやらない方がいいね」
奏お姉ちゃんは一人で納得しているようだった。こんな事友達には絶対やらないで欲しい。やるのは私だけにして欲しい。私はそう強く願った。
それから少しすると奏お姉ちゃんはうとうとしだした。
「抱きついてたら眠くなっちゃった。私もう寝るね」
そう言って奏お姉ちゃんの瞼はゆっくりと閉じていった。奏お姉ちゃんは安眠できそうだ。その一方で私は全く眠れる気配がしない。
この部屋に来るまでは添い寝してもらえれば眠れると思っていたが、全くの逆効果だ。まあ怖さに震えている状況よりはマシだとは思う。だが眠れないという事には変わりない。
どうしたらいいのだろうか。私は奏お姉ちゃんを見ながら呟いた。
そう言えばあの時もこんな感じだったなあ。私は昔の記憶を思い出した。
小学校3年生の冬の夜。あの日も今日と同じように怖い映画を観て全く眠れなくなってしまった。
なので奏お姉ちゃんの部屋に行って一緒に寝てもらった。その時も今日と同じくらいドキドキしたし、眠れなくなってたなあ。
ようやく眠れたと思ったら今度はトイレに行きたくなって、奏お姉ちゃんを起こして一緒についてきてもらった。今はそんな事ないけどね。
その時は文句一つ言わず、笑顔でついてきてくれたなあ。奏お姉ちゃんはあの時のまま優しいお姉ちゃんのままだ。
この寝顔も多少大人に近づいてきたが、昔の面影を残している。相変わらずかわいい顔をしている。私はそんな奏お姉ちゃんが大好きだ。
「大好きだよ。奏お姉ちゃん」
私はそっと囁いた。まあこんなことしても返事が返ってくるとわけないんですけどね。そう思っていた時だった。
「私もだよ……。美優羽ちゃん」
奏お姉ちゃんがおぼつかない口調で返事をしてきた。一瞬起きているのかと思いビックリしたが、目を見ると完全に寝ている。どうやら寝言のようだ。
一体どんな夢を見ているのだろうか。きっといい夢なんだろうと私は思った。この言葉をいつかちゃんと起きている時に言ってもらえたらいいなあ。私は未来の想像をした。
そんなことを考えていると、心拍数も体温も落ち着いてきて眠たくなってきた。
私もそろそろ眠ろう。奏お姉ちゃんと一緒に寝るんだからきっといい夢が見れるだろう。そんなことを想いながら瞳を閉じた。
チュンチュン……。
目を覚ますと鳥の声が聞こえる。朝になったようだ。今日の夢は実にいい夢だった。私と奏お姉ちゃんが一緒にカフェをやっていて、仲良く働いている夢だった。
夢の中でこれが現実ならと何度思ったことだろうか。けど、これから私が頑張れば実現できる夢だから、これから頑張ればいいか。私はそう考える事にした。
さて、朝ご飯を作らなければいけない。今日はいい夢を見たから、ちょっと手の込んだものを作ろうかな? そんなことを考えているとあることに気付いた。
私は今、奏お姉ちゃんに抱きつかれているということだ。嬉しい状況ではあるが、起きるためには離れてもらわなければいけない。
しかしだ。この奏お姉ちゃんを起こせるのかという話だ。かわいい顔して、かわいい寝息を立てて気持ちよさそうに眠る奏お姉ちゃんを私は起こせるか。私には無理だ。
だけど、起きなければ朝ご飯を作れない。どうしよう。どうしよう。私は究極の選択を迫られていた。このまま寝顔を見ていたが、起きなければ家族全体に関わる。惜しいが起こすしかない。
「お、お姉ちゃん。朝ご飯作りたいから離してっ」
私は奏お姉ちゃんを揺らす。だが、起きてくれない。それどころかまたさらにギュッと抱きしめられた。これは、多分起きない。ダメだ。もう諦めるしかない。
私は諦めて奏お姉ちゃんが起きるまで眠る事にした。
その後は奏お姉ちゃんが起きると共に起こされて、急いで朝食を作ることになった。当然手の込んだものは作れず、目玉焼きとトーストになった。
朝食を作る時間が遅れたもんだから、学校も当然遅刻してしまい怒られるハメになった。
そんなわけでちょっと後味が悪い感じにはなってしまった。けど、個人的にはとても満足している。次はホラー映画に頼らずに一緒に寝られるといいな。
そして、夢で見たように奏お姉ちゃんと一緒にカフェを開けるといいな。そんなことを考えながら私は今日の授業を受けていた。