数日後、俺達は王都の入り口で待っていた。
今日から数日間は護衛依頼のため各自で必要最低限の荷物を持っている。ちなみに大きい荷物はスキルのアイテムボックスに入れているが容量はあまり足りていない。
「君達が今日の護衛依頼の子達かな?」
声をかけてきたのは優しそうな男性だった。彼の馬車は荷物がたくさん詰められていた。話を聞くと他の街に荷物を売りに行く仕事をしているらしい。
「そうです!」
「全員で5人って聞いているけど他の子はどうしたの?」
俺は何を言われているかわからなかったが、ローガンが他の人と合同で依頼を受けると言っていたのを思い出した。
「話には聞いてますがいつ来るのかはわからないです」
依頼主が来たのがちょうど集合時間だったため、残りの2人は遅刻してきたってことになるのだ。
冒険者として遅刻は信用問題に関わってしまう。少しのことも守れなければ依頼主に不信感を与えてしまうのだ。
「すみませんー! 遅れました!」
遠くから走ってきたのはこの間冒険者ギルドに入る時にぶつかった男性と後ろにいた女性だった。
「君達依頼を受ける気はあるのかい?」
「すみません、少しバタバタして──」
「そんなもん受ける気はない。 俺様がなぜ下民の仕事をしないといけないんだ」
遅れてきたにも関わらず謝らない男に俺はイライラしていた。この間ぶつかった時も思ったが、容姿は良いかもしれないが人として礼儀がなっていなかった。
「お兄ちゃん謝ってよ! 兄が本当にすみませんでした」
「まぁ、今すぐ変えることは出来ないからしっかりしてくれよ」
兄に振り回されている妹はずっと謝っていた。
「あの子かわいそうだね」
「ロンとニアはあんな大人になっちゃダメだぞ」
全員が集まったため俺は依頼主に近づいた。すると男は突然俺に荷物を投げてきた。
「お前、使えないポーターだろ? 荷物ぐらい持てよ」
そう言って男は馬車に向かって行った。それを見ていた俺の後ろにいるロンとニアは明らかに怒っていた。
「あわわ、お兄ちゃんがすみません」
「いえいえ、君は悪くないからいいよ」
「でもそれって兄の荷物なので私が──」
彼女は荷物を受け取ろうとしたため俺は荷物を無理やり渡した男に投げた。すると荷物はそのまま馬車に乗ろうとしていた男に当たった。
「痛ってー! 俺様に投げたやつは誰だ!」
男は大きな声で叫んでいた。それを見ていたロンとニアは笑っていた。
「てめぇら使えねぇポーターと獣人のくせに舐めたことしやがって!」
男は腰につけていた剣に手をかけた。
「お兄ちゃんそれはダ──」
「お前は黙ってろ!」
そのまま男は剣を抜くと俺の方まで向かってきた。
「2人は手出ししなくていいよ」
俺は後ろで戦おうとしているロンとニアを止めた。この間冒険者ギルドでローガンと手合わせをしたからなのか全く怖さを感じなかった。
「そんなんで冒険者をやるんだね?」
俺は一瞬で短剣を取り出し男に詰め寄った。向こうから見たら俺の動きは一瞬なんだろう。すでに短剣は男の首に突きつけている。
「おい、テメェなんなんだよ!」
「それはこっちの台詞ですよ。 まずは遅刻をしたら依頼主さんに謝りましょう」
「なんで俺が──」
さらに反抗しそうになったため俺は軽く首元に短剣を押さえつけた。少しでも動いてしまえば首が切れてしまう。
「それに俺は大丈夫ですが大事な弟と妹を侮辱したことは許さないですよ。 別に俺は君がどうなろうと関係ないですし、1番大事なのは#家族__・__#だけです」
俺は何を言われても気にしないが、ロンとニアが馬鹿にされたことが気に食わなかったのだ。
「お前らなんて種族も違うし血が繋がってない時点で家族じゃないだろうが!」
どこか俺の中で理性の糸が切れる音がした。気づいた頃には俺は男に馬乗りになり、綺麗な顔を殴っていた。
男も必死に抵抗しようと俺を殴り返してくる。
「おい、お前が悪いんだろうが!」
避けれずに殴られた俺はさらに頭に血が上り再び殴っていた。
「にいちゃもういいよ!」
「お兄ちゃんだめ!」
「お兄ちゃんも早く謝って!」
どこかで俺達を止めている声が聞こえていたが俺は目の前の男がとにかく気に食わなかった。
それだけ俺の中でロンとニアは大事な家族になっていた。
「お前らもうやめろ!」
そこに止めに入ったのは偶然通りがかったロビンだった。
気づけば俺達は王都の真ん中でお互いの顔から血が出るまで殴り殴り合いの喧嘩をしていた。
俺達はロビンに止められてやっと落ち着いた。妹さんはロビンを知っているのかまた謝っていた。
依頼主は俺達の喧嘩を見ても特に依頼の拒否はなく、むしろ俺に引き続きやって欲しいと言っていたためそのまま依頼継続という形になった。
その後、自己紹介をすると依頼主はゴートン、妹はプリシラ、そして殴り合いをしていた男はエヴァンと言っていた。鑑定を使った時は兄妹どちらも名前の後ろにアルジャンという名前がついていた。
そんな俺達は王都の隣町ハクダイに向かって移動していた。小さな町だが魔物が出やすいため普通の人では移動がしにくいのだ。
「にいちゃ行ってくる」
「気をつけてな」
ロンは走り出すと目の前にいたゴブリンを狩っていた。今回は依頼時の報酬が半分になるため俺は普通の短剣を使っている。
移動時は俺とロンが基本的に移動しながら敵を倒し、遠い敵にはニアとプリシラが魔法で倒していた。
プリシラの魔法は自身を中心に回りにいくつか魔法を発動させて飛ばす戦い方をしていた。どこか魔法が舞い踊るような感じだ。
肝心の兄のエヴァンは馬車に乗って上から見ていた。
「おい、お前も働けよ」
「なんで俺がお前みたいに働かないといけないんだよ」
さっきからずっとこんな感じなのだ。王都から出るときにプリシラだけ連れて行こうと思ったが、どうしてもエヴァンも連れて行ってほしいと言われ連れ来てやっている。
しばらくはずっとこんな感じに言っていたが、言うたびに俺も疲れてくるし妹が謝ってくるため気づいたら俺は何も言わなくなっていた。
「今日はこの辺で野営にしようか」
ゴートンが馬車を止めると今日はここで野営となった。
「はぁん!? 町まで行かないのかよ!」
馬車に座っていただけの男は降りてきて文句を言っていた。何もやっていないのに文句を言うエヴァンに俺はまた腹が立っていた。
「ならお前1人で行ってこいよ」
俺はなぜかこいつと関わるとイライラしてきてしまう。単純にエヴァンの話し方が気に食わないのだろう。
「なんだと──」
「お兄ちゃんもうやめてよ!」
またエヴァンは俺に掴みかかったが手を振り払った。
「お前そんな感じだと誰からも好かれない──」
突然顔に衝撃が来たと思ったら俺はエヴァンに殴られていた。
気づけば俺もエヴァンに掴みかかりエヴァンと殴り合いになっていた。
「お兄ちゃん!」
俺とエヴァンはすでに周りの声が聞こえなくなっていた。今までこんなことはなかったが俺も熱くなると人の声が聞こえなくなるタイプなんだろう。
「もう、いい加減に辞めなさい!」
俺は体に冷たさを感じた。以前ロンとニアを怒らせてはいけないと約束した時の雰囲気に似ていた。
「にっ……ニア落ち着い──」
「落ち着くのはそっちでしょう! 2人とも頭でも冷やしなさい!」
俺とエヴァンはニアの氷属性魔法が直撃した。ただ、威力は調整されていたが身動きが取れないほどだった。
俺達は物理的に頭以外を冷やされ氷漬けにされていた。
「プリシラ姉ちゃんもロンもこんな野蛮な人達は放っておきましょう」
ニアはプリシラとロンの手を掴みゴードンの元へ行ってしまった。それを見ていたゴードンもどこか呆れていた。
「おい、お前のせいで──」
「うっ……ニアに嫌われた……」
しかし、俺はニアに嫌われてそれどころではなかった。
「なんで泣いてるんだよ! 俺は巻き込まれたんだぞ」
「だって家族に嫌われたんだぞ」
俺は自然と涙が出ていた。だって今までニアに嫌われるとは思わなかったのだ。
「ニアごめんよー! 俺が悪かった!」
俺は必死に謝っていると心配した様子でニアとロンが戻って来た。
「もう喧嘩はだめだよ?」
「にいちゃ、喧嘩はかっこ悪いよ?」
「うん、もうしません」
俺は目の前の男に殴られるよりロンとニアに嫌われる方が辛かった。
「ちゃんと謝らないといけないよ?」
俺は嫌だったが仕方なくエヴァンに謝ることにした。
「すまん」
「はぁん、今頃──」
「お兄ちゃん? せっかくウォーレンさんが折れてくれたのに何言ってんの?」
エヴァンの隣にはさらに氷属性の魔法を展開させていたプリシラが睨んでいた。
「あああ、いや俺もすまん」
怒ったプリシラには逆らえないのかエヴァンは謝ってきた。
俺とエヴァンが謝るとニアは魔法を解除され俺達は氷漬けから解放された。
「にいちゃ、エヴァンさん女の人は怒らせたらだめだよ?」
ロンの言葉に俺とエヴァンは必死に頭を縦に振っていた。
俺達は食事を終えると2人ずつで野営の見張りをすることとなった。順番ずつに交代することになっているがなぜか俺とエヴァンが組むようにプリシラとニアに仕組まれていた。
「おい、お前」
「なんだよ」
俺はわざと関わらないようにしていたが、夜で何もやることがなくなったからなのかエヴァンが声をかけてきた。
「なんで獣人を家族って──」
「ロンとニアだ」
俺がエヴァンを睨むと彼は名前を言い直していた。
「なんで家族って言ってるんだ?」
確かに俺達の関係を知らない人であれば気になるのだろう。
「俺が森の中でロンとニアを助けて家族になることにした」
俺は出会った時から自分が家族になると決めた日や死んでも守ると決めた日など今まであったロンとニアが家族になった経由を話した。
「うっ……」
「おい!?」
「べっ、別に泣いてなんかいねーぞ!」
エヴァンは顔を伏せて鼻をすすっていた。
「まぁ、だからあいつらは俺の家族なんだよ。 俺は小さい頃から家族が居なくてさ……」
俺は小さい時のわずかな記憶はあるがはっきりと母と父の顔は覚えていない。ただ、覚えているのは笑顔で俺を何かの箱に入れて笑っていなくなった顔だけだ。
その後、箱を開けられた時には辺りは焼け野原になっており、俺を育ててくれたのは見知らぬおじいちゃんとおばあちゃんだった。
だから俺の中で見知らぬロンとニアが家族になることに抵抗はなかった。
また、その時の影響なのか真っ暗なところに長時間いるのも狭いところで閉じ込められるのも精神的にダメになった。
「うっ……もう俺ダメだわ」
エヴァンはこういう話に弱いのかさっきまで顔を伏せていたはずがいつのまにか隠さず泣いていた。
どこからか鼻をすする音が聞こえてきた。きっと次に交代するプリシラが聞いていたのだろう。
「だから俺は家族を馬鹿にするやつは許さないよ。 わかったか?」
「ああ、毎回すまない。 俺もカッとしていた」
「まぁ、わかればいいよ。 エヴァンもプリシラも家族がいるんだろ? アルジャンって名前につくぐらいだからどっかの貴族だろう?」
俺の言葉にエヴァンは驚いていた。以前ロビンからは鑑定を使った時に名前の後ろに苗字と呼ばれる名がつく場合は貴族の可能性が高いから関わるなと言われていた。
ロビンに苗字がないのは、今も公爵家と関わりがあるが冒険者になった後に迷惑をかけないように自身で抜けたと言っていた。
「お前いつから知っていたんだ?」
「初めから知ってるよ? 俺鑑定使えるもん」
俺はエヴァンとプリシラの名前、ステータス、スキルを知っている。
「俺のスキルも見たんか?」
「スキル【#器用貧乏__オールラウンダー__#】だよね。 何でも出来て羨ましいスキルだよな」
「おい、俺を馬鹿にしてるのか!」
さっきまで泣いていたはずのエヴァンが今度は怒っていた。本当に感情がコロコロと変わる男だ。
「なんでお前を馬鹿にしないといけないんだ? スキルの説明には習得するスピードが早くてなんでも卒なくこなすって書いてあるだろ?」
「俺はそれが気に食わないだ」
「えっ?」
「だから俺はそれが嫌なんだ。 貴族は基本的に誰かの上に立つ存在だって言われている。 小さい頃から勉強や魔法、剣技を教えてもらっても、初めは順調でも才能がない俺は誰にも勝てないんだ」
貴族は基本的に攻撃スキル持ちは騎士や魔法士、その他のスキル持ちは政治や領地の経営をやることになるらしい。
「でもステータスで見ると最大値は高いよ?」
「何を言ってるんだ?」
どうやらエヴァンに伝わらないため地面に今のステータスを書くことにした。
《ステータス》
[名前] エヴァン・アルジャン
[種族] 人間/男
[能力値] 力C/A 魔力C/A 速度C/A
[スキル] #器用貧乏__オールラウンダー__#
[状態] 虚無感
確かに今のステータスは高くはないが、限界値は高いため努力を続ければ問題ないはずだ。またこのステータスの高さで器用貧乏なら頭の回転や頭も良いはずだ。
「これってどういう仕組みだ?」
「どういう仕組みかって? 普通に鑑定したらステータスって見れるだろ?」
「お前……頭大丈夫か?」
「はぁん?」
せっかく鑑定を使ったのに俺がエヴァンに馬鹿にされていた。
「いやいや、言い方が悪かったな。 鑑定って名前やスキル、アイテム名の詳細はわかるけど能力の限界値は見えないぞ」
「……」
俺はどうやらまたやからしてしまったらしい。
モーリンは一度もそんなこと……いや、俺って鑑定については誰にも話したことがなかった。
「ははは、そっかー! そうか!」
そんな話をしていると突然エヴァンが大声で笑い出した。
「おい、お前の方が頭大丈夫か?」
「ははは、ウォーレンありがとう!」
そう言ってエヴァンは時間になったのか笑いながらテントに戻って行った。後ろ姿から見る彼の鑑定結果は[状態]虚無感が充実感に変化していた。
あの後プリシラとも話したが、エヴァンは性格と素行の悪さが原因で親から無理やり冒険者をやらされていると言っていた。
プリシラはそんなエヴァンの見張りとプリシラ自身が目標にしている勇者がいるらしい。女性で大賢者と呼ばれており、貴族出身の女性達の憧れの的とも言われている人らしい。
プリシラはその人の教育ノウハウを母親から教え込まれたとか……。
俺は目を覚まし起きるとみんな朝に強いのかすでに起きて準備をしていた。
「よっ、よく寝れたか」
「……お前頭大丈夫か?」
突然エヴァンが声をかけてきた。本当に何かあったのか心配になってくるレベルだ。
「くそ、お前に言われたくないわ」
そう言ってエヴァンはテントを片付けていた。その後ろ姿はどこか楽しそうだった。
「お兄ちゃん達仲直りしたんだね?」
「そうなのか?」
「にいちゃ、たまに抜けてるもんね」
「おおお、そうか」
どうやら俺は2人から見てもどこか抜けているらしい。
その後俺達は野営に使った道具を片付けると隣町のハクダイに向かった。
今日は昨日と違いエヴァンが護衛に参加していた。まぁ、依頼を受けているのに今まで参加してなかったほうがおかしかったんだけどな。
ハクダイまでの道のりは残り半分程度になり今日の夕方ごろには町に着く予定になっている。
「そういえばゴードンさんはなんで商会をやってるんの?」
ロンは馬車の運転をしているゴードンに話しかけていた。
「ああ、私は元々普通に街で商会を開いて働いていたんだよ」
「じゃあなんで今は馬車に乗って色々なところに行ってるの?」
「それは神様にお供えするものを探してるんだよ」
一瞬宗教的な雰囲気を滲み出していたがどうやら違うらしい。詳しく聞いていくと商会の経営が落ち、資金が底を尽きそうになった時に突然朝起きたらお金が落ちてきたらしい。
誰かの落とし物かと思ったけど、定期的に起こるこの現象をゴードンさんは"神様の落とし物"と言っているらしい。
だからその落とし物に見合う物を探して、感謝の気持ちをお返ししたいとゴードンは言っていた。
実際に聖教教会では神様が存在しており、お供え物をした分だけ神様から知恵や神託がもらえると言われているぐらいだから商売の神様でもいるのかもしれない。
そんな話を魔物を狩りながら移動していた。一方エヴァンは昨日よりはしっかりと働いているが動き自体はあまり良いとはいえなかった。
単純な戦力であればポーターであるロンの方が強いのかもしれない。彼の努力次第では今後も変わるがきっと装備があまり良くないのとスキル玉を持っていないからだろう。
俺達は身近な人に助けられたから今の自分達がいるのだろうと思った。
「さぁ、あそこがハクダイだ」
気づいたら俺達は目的の町に着いたようだ。
「報告に行ってきますね」
基本的に町までの護衛依頼は到着した町に冒険者ギルドがあれば報告をする決まりになっている。エヴァンとプリシラがゴードンさんと一緒に宿屋に向かい、俺達は冒険者ギルドに向かった。
俺はいつも通りに冒険者ギルドの扉を開けた。ただ、俺は王都の冒険者ギルドにいて忘れていた。
他の冒険者ギルドではポーターや獣人に対して差別があったことを……。
「おいおい、ポーターと獣人が何しに来たんだ?」
俺は装備を整えたら変わるだろうがロンとニアに関してはどうしようもない。ただ、2人も慣れてきたのかあまり気にしなくなっていた。
俺達はそのまま受け付けに行くとこの職員はまだ差別とかもなく普通の方だった。
ただ、冒険者がタチが悪かったのだ。 俺は無視をしているわけでもなく受け付けと話をしていたが、近づいてきていると気づいた時には隣にいた。
「おい、お前らが無視とはどういう──」
俺に殴りかかろうとした瞬間に男は誰かに邪魔されていた。
「俺のパーティーメンバーに用があるんか?」
なんと男の手を止めたのはエヴァンだった。無駄に放つキラキラ感と助けたタイミングが良かったのが、俺と話していた受け付けの女性は目がうっとりとしていた。
「お前いつもこんな感じなのか?」
「お前本当にエヴァンなのか?」
「どこからどう見ても俺だろ」
どうやら本当にエヴァンだった。急に優しくなるとは俺もびっくりだ。その様子を子供達とプリシラは笑っていた。
「いやいや、やっぱどこかで頭でも打っただろ」
「おい、俺様が優しくしてやったと──」
「おい、お前ら俺を無視──」
「うるせぇな」
俺とエヴァンはうるさいやつがいた方に手を出すと冒険者は倒れていた。
「では、また機会があったら#ゴールド__・__#商会をお願いします」
俺達はその後も問題なく王都に戻り護衛依頼を終えた。
あれからエヴァンも落ち着き、普段から頭がおかしい状態が通常になっていた。
「おい、ウォーレン!」
「おっおう、なんだ!」
ついにエヴァンは俺のことを名前で呼ぶようになっていた。
「また俺様とパーティー組め!」
「お前が真面目になったらな」
別に嫌ではないがパーティーを組むと匠の短剣が使えないから収入が減ってしまう。しかも、まだ命令口調なのは変わらないようだ。
「はぁん? お前に言われなくても俺は真面目だよ」
「ああ、そうか。 ぷっ──」
「あははは」
俺とエヴァンは吹き出して笑っていた。短期間のパーティーだったけど次第にエヴァン達には俺も心を開いていた。
ロンとニアもプリシラにはべったりとくっついているからな。
今まで俺にはアドルしか友達がいなかった。しかし、今回の依頼を通して友達や仲間という存在の大事さを改めて感じることができた。ただ、その相手がエヴァンだったというのがどこか気に食わないがな。
俺達は冒険者ギルドに行くとローガンが受け付けにいた。
「みんなおかえりなさい! 依頼に関してはゴードンさんから達成の話を聞いているわ」
冒険者ギルドで終わったことを報告することで依頼は完了される。
「じゃあ、早速だけどランクを発表するわ」
俺は急なランクの発表に胸がドキドキとしていた。
冒険者ランクはEからSの6段階あり、Eから始まるがそもそもポーターだったためランクEにもなれなかったのだ。
「君達はCランクになりました!」
「……」
「おーい! ウォーレンちゃん? そのままだと私が抱きつい──」
「はぁ!? えー!」
俺は驚きのあまり声が出なくなっていた。そんな中ローガンがよからぬことを言いだしそうになっていたため急いで息を吐いた。
ちなみに一人前と言われているのはCランクからだ。
まさかポーターの俺達が急に一人前の判定を貰えるとは思ってもみなかった。
「ちなみにポーターで冒険者ランクをもらった人物は過去にはいないからウォーレンちゃん達が初めてよ」
どうやら俺達は初めてのランク持ちポーターになった。
「にいちゃよかったね」
「お兄ちゃん頑張ってたもんね」
「ああ、そうだな」
「あらあら、似たもの同士なのね……」
俺は知らないうちに涙が溢れ出ていた。ああ、叶えることができないと思っていた夢の勇者に自分の力で近づいたんだと思った。
しかし、隣を見るとエヴァンも泣いていた。ああ、忘れていたがエヴァンも涙脆いやつだった。
「おーい、あんた達! 今日も準備できてるわよね?」
「ウェーイ!」
あっ、この雰囲気はまさかまたあの展開ですか……。
「私らの仲間ウォーレンちゃん達が冒険者ランクを手に入れたわ。 こんな日に──」
「飲まない理由はなーい!!」
気づいたらテーブルは片付けられていた。俺とエヴァンはローガンに抱えられそのまま椅子に座らされた。
ああ、今日も飲み会になってしまった。
♢
「無事帰りました」
「ああ、おかえり。 依頼はどうだったんだい?」
回復薬を作っている作業中にロビンが帰ってきた。今回もウォーレン達を影から追っていたのだ。
「依頼は何事もなく終わりました」
「依頼は?」
「僕達が思っているより全てが良い方向に終わりましたよ」
ロビンの一言に私は胸を撫で下ろした。貴族の中でさらに1番上である王族と関わって問題がなければとりあえずは問題ない。
「ウォーレンとエヴァン達はどうだったんだ?」
「そりゃーもう行く前から殴り合いの大喧嘩でしたよ」
話を聞いて私は驚いてしまった。あの優しいウォーレンが殴り合いの喧嘩をするとは思いもしなかった。
その後もお互い当たることはあっても最後には問題が解決して理解し合える存在になれたと聞いてやっと私達の仕事が終わったと思った。
「これで私達の役目も終わりだね」
冒険者ランクも貰い一人前になったウォーレン達に私達の手助けはいらないはずだ。
「ひょっとして──」
「ああ、私達はもう帰ろうと思ってね。 もう孫の成長も見れたからね?」
私はメジストとともに孫達から離れるタイミングを事前に話していた。それが冒険者として一人前になった時だった。
「あんたもそんなとこで聞いてないで中に入りなさいよ」
「わしはまだロンとニアと遊ぶのじゃ」
メジストは扉の奥で寂しそうな顔をしていた。きっとあの人も離れがたいのだろう。
だけどいつかは子達が旅立っていくのを保護者の私達が一緒にくっついて見続けるわけにはいかないのだ。
「ほらほら、またあんたはすぐに泣く」
「わしはまだ泣いておらんぞ……」
私は優しくメジストを抱きしめた。いつになっても泣き虫メジストは変わらないようだ。
メジストも離れる時が近づいていたのを理解していていたのだろう。
彼の手には作ったばかりの3つのスキルホルダーが握られていた。
突然の別れは朝食が終わった時に伝えられた。
「ウォーレン達に話がある」
「どうかしたんですか?」
いつもより食事中の会話がないと思ったらモーリンから報告があるようだ。
「今日私とメジストは帰ろうかと思う」
「なら僕達も一緒に──」
「あなた達はこのままここに残りなさい」
俺は一瞬何を言っているのか分からなかった。俺達はモーリンとメジストも含めて家族なのだ。
「えっ? どういうことですか?」
隣を見るとロンとニアはすでに離れることを理解していたのか泣いていた。急に帰ると言われたら幼い2人には辛いだろう。
「じいじとばあばはオラのこと嫌いになったの?」
「なんで私達は一緒に行ったらダメなの?」
2人の言葉にモーリンも言葉を詰まらせていた。そんな中話し出したのはメジストだった。
「わしは2人のことが好きじゃよ? ずっと離れたくないほどじゃ。 ただ、ロンとニアはCランクの冒険者になったんじゃ」
「それならランクなんてい──」
──バンッ!
ロンが話している途中でメジストは机を大きく叩いた。
「ロンそれは言っちゃなダメな言葉だ。 みんな命がけで冒険者になって誇りを持っている。 俺はロンをそんな男に育てたつもりはないぞ!」
「じいじ……」
確かに冒険者としては一人前と言われているCランクになりたくてもなれない人は一定数いる。そのランクに幼いながらもなれたロンとニアは冒険者としての才能を持っていた。
忘れていたが2人とも攻撃スキルを持っていないポーターなのだ。普通でも考えられないのにCランクになれるということは天職なんだろう。
「私達に会えないってことではないのよ。 また立派になって大きくなった姿を見せておくれ」
「ばあば……」
ロンとニアは椅子から立ち上がりモーリンとメジストのところへ駆け寄った。
「ウォーレンも行かなくていいのか?」
そんな様子を見ていたロビンが行くタイミングを失っていた俺の肩をそっと叩いた。
俺も椅子から立ち上がるとモーリンとメジストは優しい顔でこちらを見ていた。
アドルにパーティーを追放された時は本当に人生の終わりだと思っていた。俺は2人に出会えて人生が一瞬にして変わったのだ。
あんなに嫌いだったのに何もなかった俺に巡り合わせてくれたのはスキル【証券口座】のおかげだった。
「そういえばウォーレンに渡すものがあるのじゃ」
メジストはアイテムボックスから何かを取り出すと俺の腕にそっとつけた。
俺に腕についていたのはスキルホルダーだった。
よく見たらモーリンとロビンも腕にスキルホルダーをつけていた。
「これでみんなお揃いだな」
ロビンも近寄り最後の談笑をした。その後の別れはどこかあっさりとしていてモーリンとメジストは馬車に乗って都市ガイアスに帰って行った。
♢
帰り際にメジストから渡されたのは大きな箱だった。俺達はそれを開けると中には大量にスキル玉が入っていた。
「それにしてもすごい量のスキル玉だな」
基本的には自分達が倒せる魔物の種類が増え、提供した魔石で作ってもらったスキル玉が多かったがその中でも見たことないスキル玉も含まれていた。
俺達は自身で戦いのスタイルに合わせてスキル玉を装着した。
そして俺達も自分達の荷物をまとめることにした。ロンとニアと話し合った結果、俺達も一人前の冒険者になったためロビンの屋敷から宿屋に変えることにしたのだ。
俺としては屋敷でまだゆったりとした生活をしたかったが、ロンとニアが出ていくと言い出して決めたことだった。
2人の中で自立心が芽生えてきたのだろう。そのうちお兄ちゃんと一緒に居たくないって言われることを考えるだけでどことなく悲しくなってくる。
「にいちゃ準備はできた?」
「ほらお兄ちゃん! ベットから降りて出て行くよ」
俺は最後に柔らかいベットの感触を味わってロビンの屋敷を出ることにした。
突然のことでロビンはびっくりしていたがお世話になった執事やメイド達に挨拶をして俺達は屋敷を後にした。
俺達はその後宿屋を探していると自分達の収入にあったところを見つけた。都市ガイアスにいた時よりは高級感がありお風呂が借りられるところだった。
もうあの心地良さを味わうと抜けられないのだ。
俺は宿屋の扉を開けるとなんと王都に一緒にきたルースが働いていた。
ルースは屋敷で執事達と一緒に働くかとロビンに聞かれていたが、その場で断り次の日には出て行ったきり会ってなかった。
まさかまた俺達が泊まろうとしている宿屋にいるとは思わなかったのだ。
俺達は部屋を案内されるとベットも大きく3人で寝るには良い大きさだった。
「にいちゃ、話があるんだ」
「私もなんだけど……」
何か嫌な予感がしたが俺の予想は的中した。
「今日から別の部屋で寝たい」
俺はその場で膝から崩れ落ちた。いつもモフモフしながら心地良い感触に包まれて寝ていたのがいけなかったのか。それとも朝全然起きられなかったのがダメなのか。
原因がたくさんあってどれが問題なのかわからなかった。
「今日からオラも一人前になろうと思う!」
「それでロンと話し合ったんだ」
宿屋に向かう時にこそこそと話していたのはこういうことだったのか。
俺は仕方なく案内しているルースに話しかけるとまだ部屋は空いていないため、部屋が空き次第別々に寝ることとなった。
俺はその間にしっかりモフモフして楽しめということなんだろう。すでに案内が終わった俺は移動しながら2人を抱きかかえてモフモフしていると後ろから声が聞こえてきた。
「お前ってどこでも兄妹と抱き合ってるんだな」
どこか誤解を招くような言い方をしてきたのはエヴァンだった。
「なぜお前がいる──」
「いや、それはこっちのセリフだろ!」
どうやらエヴァンとプリシラは以前からここの宿屋を借りているらしい。貴族街に自分の家があるのに宿屋で生活させるとは想像以上に厳しい親なんだろう。
「ウォーくんそういえば──」
俺に用があったのかルースが部屋まで上がってくると急にその場で悶えていた。相変わらず変わった人だ。
「あー、推しのカップリングがモブのウォーくんになるとは……」
「ルースさん何かあったんですか?」
「あー推しが……いや、この際モブが主人公でも良いじゃ……」
今日もルースは俺が知らないことをぶつぶつと言っていた。一緒に馬車で移動していた時も思ったがここまで考え込んでしまうとどうしようもないのだ。
「この姉ちゃん大丈夫なのか?」
「よくあることだから大丈夫だよ」
「おー、よくあるのか」
俺がエヴァンと話をするたびに彼女はこちらをチラチラとみては悶えるのを繰り返し壊れてしまいそうだ。
そんなルースを放置した俺達は荷物を整理し終えると食事に向かった。
エヴァンが言うにはこの宿屋は地球風の食事を出しているらしい。俺も全く聞いたことない食事だが人気の宿屋らしい。
席に座っているとルースが食事を持ってきた。
「オークのハンバーグです」
オークを細かく刻み形を整えて焼いたものに焼いた卵が上に乗っていた。ロンとニアも初めて見る料理にウキウキしていた。
俺達は早速食べようとしたがどうにも視線が気になっていた。
エヴァンが同じ席に座っているのが原因なのか、ルースが俺とエヴァンを交互にチラチラと見て来るのだ。
「よかったら一緒に食べますか?」
「いえ、私は壁になって……いや、天井でもいいわ」
一緒に食べたいからこちらを見ているのかと思ったがどうやら違ったらしい。最終的には天井になると言っていた。
その後も声をかけるが"私は天井なので無視してください"と返されてしまう。
「にいちゃ、まだダメ?」
「私もお腹減ったよ?」
俺がルースに声をかけたため2人はおあずけ状態になっていた。
俺達は手を合わせると食事を食べ始めた。初めて見るハンバーグはナイフとフォークを使って食べる変わった食べ物だ。
俺は一口食べるといつのまにか手が止まらなくなっていた。
「おい、お前本当に大丈夫か?」
「なにがだよ!」
エヴァンはまた俺をおかしな人扱いをしてきた。俺がハンバーグを食べているとプリシラやロン達も俺を見ていた。
「にいちゃ大丈夫?」
「ん? 何が?」
「だってお兄ちゃんがハンバーグを食べているとずっと涙が出てきているよ」
俺は目元を触ると少し濡れていた。涙が頬を伝って溢れ出ていたのだ。
「ああ、美味しいからだな」
俺は手で涙を拭い再び食べ始めた。ハンバーグはどこか懐かしい味がする変わった食べ物だった。
目を覚ますとモフモフした感触が近くにいないことに気づき目を覚ました。
「昨日から別の部屋になったのか……」
あのあとすぐに部屋が空いたため、ロンとニアは別の部屋を借りて寝ている。
寂しさは感じたが普段は子供達に蹴られたり、息苦しくなって起きることがあったが朝まで何事もなく寝られたのは久しぶりだった。
俺は体を伸ばすと手に何かが触れていた。
"株主お食事優待券"
見たこともない紙が数枚頭の上に置いてあったのだ。他には特に何もなく、誰かが置いたのか綺麗な紙に俺は見惚れていた。
《株主お食事優待券》
レア度 ★★★
説明 日本フード"吉田屋"のお食事優待券。紙を破ると吉田屋から商品が出前される。
鑑定を発動するが俺にはわからない言葉がいくつか含まれていた。そもそもお食事優待券という聞いたことのない謎の紙だが、破ると何かが起きるのは確からしい。出前とはなんだろうか。
地球風の食事と何か関係があるのだろうか。
俺はとりあえず謎の紙をアイテムボックスに入れて食堂に向かった。
食堂にはすでにロンとニアが座っていた。
「にいちゃおはよう」
「お兄ちゃん1人でも起きれたね」
俺は1人だと起きられないと思われているのだろうか。確かにいつも元気な子供達に起こされていたが、決して起きれないわけではないはずだ。
「そういえば今日から討伐依頼を受けてみるけど何がいい?」
お金に余裕があったため俺達は宿屋に来てから依頼を受けずにスキル玉の確認をしながら少し休んでいた。そのため、今日がCランクになってから初めての依頼だ。
「オラは強いやつと戦いたい!」
ロンはここのところ1人で槍の練習もしているため少しでも自分の力試しがしたいのだろう。
「私は採取してるから今まで行ったことがないところだといいな」
その結果、槍を持っていて戦いの練習になる相手を探すと俺の中でも記憶に残っている存在がいた。
──サハギン
俺が唯一戦った中で槍を持った珍しい人型の魔物だった。# 三叉槍__さんさそう__#は槍よりも矛先が分かれているため、短剣が間に挟まる可能性がある戦いにくかった相手だった。
俺達はひとまずご飯を食べ終えると冒険者ギルドに向かいローガンに話しかけた。
「Cランクでできる討伐依頼でそこそこ強いやつね! できれば武器を持った敵が良いのね」
ローガンは依頼書を持ってくるとそこにはサハギンと同じ三叉槍を持った魔物の絵が書かれていた。
「これはリザードマンの討伐依頼よ。 ランクはCランクだけど環境に問題があって中々依頼を受けてくれる人が少ないのよ」
リザードマンは見た目が硬い鱗で覆われており、サハギンよりは速度が遅く戦いやすい魔物らしい。
「ロンはこいつで大丈夫か?」
「うん!」
ロンはいつもより真剣の表情をしており、やる気に満ちていた。
「ではリザードマンの討伐でお願いします」
俺達リザードマンの討伐に向かうことにした。
リザードマンはサハギンとは異なり川ではなく、足場が悪い湿地帯に生息していることが多いらしい。そのため冒険者が依頼で受けることが少ないらしい。
「ロンそっちに行ったぞ!」
「わかった!」
道中は匠の靴の影響で足場が悪い湿地帯も問題なく移動できた。森の魔物と異なり見た目が変わった魔物も多く、今倒した敵も長い舌を鞭のように使うカエルのような魔物だった。
俺達はそんな湿地帯に向かうと一際大きな沼を見つけた。ローガンからは沼の近くにリザードマンが現れると聞いている。
「よし、にいちゃ行ってくるよ!」
ロンは外套のフードを外すと早速沼から魔物が出てきた。
「ピシャアー!」
変わった声で威嚇する魔物がリザードマンだ。ローガンが言っていたように手には三叉槍が握られていた。
ロンは槍を構えるとリザードマンも三叉槍を構えて飛び込んできた。
サハギンと比べると速度は遅いものの湿地と相性がいいのかロンよりも動きやすそうだった。
それでもロンは何度も放たれるリザードマンの攻撃を寸前で避けていた。
「俺達は離れてるぞー」
俺の声にロンは頷いていた。ロンが1人で試したいって言っていたのはスキル玉を使った戦い方だった。
以前メジストからもらったスキル玉の中で効果がわからないものが存在していた。それはスキル玉【火属性】だった。
基本的にロンが属性のスキル玉を使うと風属性なら速度変化、土属性なら耐久性変化、水属性なら自動回復の効果が得られていた。
火属性っていうこともあり森の中では検証できないのもあるし、風属性や土属性と異なり身体機能に影響がなかったのだ。
「はあー!」
ロンは勢いをつけてリザードマンに向けて槍を放った。
──ボンッ!
ロンの槍がリザードマンに触れた瞬間に槍先から小さな爆発が起きていた。その瞬間リザードマンが遠くへ飛ばされていた。
「おおお!」
確かに当たった瞬間に威力を発揮するのであれば身体機能の変化とは異なりわからないはずだ。
その後もロンは1人でリザードマンと戦っていたがそれが問題だった。
湿地帯の中で外套のフードを外した状態で戦っているといつのまにかロンを中心にリザードマンに囲まれていた。
俺はロンを助けるためにリザードマンの方へ駆け寄った。硬い鱗が特徴と聞いていたが思っていたより鱗は柔らかかった。
俺の中でも1番硬かったのは金剛の守護者ゴーレムだったからな。
俺は匠の外套でリザードマンを倒しながら近づくとロンも数が多いリザードマンと距離を取りながら戦っていた。
「大丈夫か?」
「どうにかなってるよー」
どうやら心配はいらないようだ。ロンは1人でリザードマンを複数相手していた。
そのため俺はロンが倒したリザードマンから魔石を取り出すことにした。そういえば俺って以前からも魔石や薬草の回収役なのは変わらない。
「リザードマンは水色の魔石か」
リザードマンから出てきたのはサハギンよりも薄く澄んだ水色の魔石だった。色からして水属性のスキル玉の材料になるだろう。
それにしてもロンがフードを外している影響からか沼からどんどんリザードマンが溢れ出ているのだ。
1匹リザードマンがいたら100匹いると思えって言われているのが実感できるほどだった。
「ロンー! 気が済んだらほどほどにしとけよ」
俺はロンに声をかけると外套のフードを被り戻ってきた。するとリザードマン達は辺りをキョロキョロしながらロンの姿を見失ったのか沼の中へ帰って行った。
すでにリザードマンの魔石だけでも30個以上は回収できているため、利益としては十分だろう。俺も討伐証拠としてリザードマンの体の一部を剥ぎ取った。
「私の方も終わったよ」
ニアも採取が終わったのかどこか毒々しい草や花を持ってきていた。最近は以前モーリンに教えてもらった調合にハマっているらしい。
そんな花と草をどこで使うのか俺は心配で仕方ない。大きな赤い花の真ん中に歯みたいなのが生えおり開いたり閉じたりしているのだ。
俺達はリザードマンの討伐依頼を終えると冒険者ギルドに帰ることにした。
♢
「依頼の報告と魔石の買取をお願いします」
俺は冒険者ギルドに討伐報告と魔石の買取を依頼した。
今まではポーターということもあり、買取をしなかったがこのギルドにはリーチェの姉であるルーチェとローガンがいるため信用できるのだ。
「まずは討伐証明の爪をお願いします」
リザードマンの討伐証明はリザードマンの爪だ。俺は30個以上の爪を出すと疑問でもあるのか首を傾けていた。
「わざわざ全部剥いできたんですか?」
基本的に討伐証明は魔物の中でわかりやすい部位を証明として提出することなっている。リザードマンであればなぜか1本だけ発達しているため爪が討伐証明なのだ。
「どういうことですか?」
「だって全部同じ大きさですし、そんなにリザードマンはいないですからね」
ルーチェはそう言いながらもスキル玉で確認していた。
「えっ……まさか……これも?」
姉妹だからなのかリーチェと同じでスキルを使いながら独り言を言っていた。
「ウォーレンくんすみませんでした。 これ全て違う個体の討伐証明なんですね」
どうやらルーチェは同じ大きさの爪を出されたため、討伐証明以外の部位の指から剥いだ爪を出したのかと思ったらしい。
横暴な冒険者が受付嬢を欺く手法で持ってくる冒険者がたまにいるらしい。実際にリザードマンをこんなに狩ってくる人がいないのも勘違いの原因だろう。
その後も魔石の買取を依頼していたが、魔石に驚きルーチェはローガンを呼びに行っていた。その時、突然冒険者ギルドの扉が開いた。
「おい、誰か助けてくれ!」
大柄な冒険者に抱え込まれたのは血だらけの冒険者だった。しかも、怪我をしているのは1人だけではなく3人も来たのだ。
「今ポーションを持ってくるから教会に回復魔法持ちを依頼してくれ!」
奥から来たローガンは迅速に冒険者の治療に当たっていた。
「腹に穴が空いてるからはやくしてくれ」
冒険者が抱えていた男性はぐったりしており腹に穴が空いていた。
「これだとポーションだけじゃどうしようもないぞ」
ローガンからはいつもの女性?らしさは無くなっていた。
「回復魔法で大丈夫ですか?」
あまり勝手な行動をしてはいけないと思い立ち尽くしていたがその前にニアが動いていた。
「大丈夫なのか?」
ローガンは事前にニアがスキルを持っていないことを知っていた。それは貴重なスキル玉を使うことを意味していた。
実際は俺達スキル玉製造機ってぐらいメジストに魔石を提供しているからな。回復魔法のスキル玉をいくつか持っていた。
「そのための回復魔法ですよ」
そう言ってニアは冒険者に回復魔法を使い、俺は同時に怪我をした冒険者の治療をあたることにした。