私達は帝国へと山から忍ぶこむことに成功した。
ロランは貴族のような服を纏い、私達のメイド服はそのままで、全員フードが付いた茶色のローブを羽織る。
もし帝国軍に見つかった場合、帝国の貴族とその従者で誤魔化すつもりみたいだ。
馬などには乗らず、闘気を纏って移動する。
あくまで隠密行動だ。
「今日はここで野営しよう」
「ほぇ? もう?」
振り返ると、ベラが辛そうにしていた。
一人一人マナ量は違うから、闘気を纏える時間も違う。
ベラが一番少ないから仕方ないことだ。
「……そうだね」
一人ならもっと早くアリアの元へと向かえるのに……だけど、ロランがいないと地理が分からない。
ちょっとだけ、もどかしい。
仕方がなく私達は野営の準備を始めた――。
深夜、見張りは私が担当している。
焚火の前でマナ制御の訓練をしながら、周囲を警戒していた。
他の皆んなは見張りの交代の順番まで眠っている……ベラ以外は。
「ベラ、寝なくていいの?」
私は焚き火に薪を加えながら、背後から近づいて来るベラに声をかける。
「……眠れないのぉ。寝たいんだけどねぇ」
岩の上に座る私の隣に腰掛けるベラ。
エマが死んでからというもの、ベラの元気はない。
ベラ以外はまだ、エマの死を受け入れ切れずにいるから、さほど元気を無くさずにいれるのかもしれない。
「……ねぇ、ヒメナァ。ブレアは何でエマを殺したと思う?」
唐突な質問だ。
何でってそんなの……。
「……私も分かんないよ」
分かったとしても、ブレアがしたことは許されるモノじゃない。
仲間を裏切るどころか……殺したんだから。
「私ねぇ……ブレア本人に聞きたいのぉ。ブレアは嘘つけない性格だから正直に答えると思うわぁ」
「それが……ベラが納得いかない答えだったら?」
私の問いにベラは少しばかり沈黙し――。
「ブレアを殺すわぁ」
非情な結論を出した。
「ヒメナは止めかねないからねぇ。だから予め話したのぉ。もし、そうなったら止めないでねぇ」
「…………」
私はその結論に、何も答えることが出来なかった。
どう答えていいか分からなかったんだ。
けど、戦争ってこういうことなんだなって思った。
奪われたから奪って……殺されたから殺して……終わらない、誰も止められない負の連鎖。
何でこうなっちゃったんだろう。
私達はいつの間にこの負の連鎖に巻き込まれちゃったんだろう。
私はベラが去った後も、そんなことを考えていたんだ――。
*****
一方、ヒメナ達が向かう生体研究所では――。
「私が……ここで産まれた……?」
アリアは驚愕し、声を出すのも必死だった。
まさか孤児で両親が分からないと言っても、自分が生体研究所で産まれたとは思ってもいなかったのだろう。
「正確には、もう一人ここで産まれたんだけどねー。十四年程前に元剣帝が他の実験体にするつもりだった子供達も連れ去られちゃったしさー」
「じゃあ、エミリー先生の孤児院にいたあたいらは……!?」
「皆出身地は帝国のこーこ。生体研究所だよー」
ブレアとアリアは言葉を失くす。
自分達の出自がまさか、こんな所だったなんて思いもしなかったからだ。
そして、ここは生体研究所。
自分達が何をされたか、幼い頃のことは覚えていない。
「まぁ実際僕が実験したのは、歌姫様ともう一人だけだけどねー。他の六人の戦争孤児には元剣帝のせいで何にも出来なかったんだー。何を思ったのか、帝国を裏切ってさー」
つまり、一番幼かった死んだララ以外はここの出身となる。
ブレアは自分が何もされていなかったことに一安心した。
しかし、アリアは違う。
ルシェルシュによって何かをされたのだから。
「趣味が悪いにも程があるな、聞いてられん。確かに歌姫は引き渡したぞ、死帝の。暫くはソリテュードの駐屯地で休ませてもらう」
「おじさんもつまんないからやーめっぴ。じゃねー」
ブレアは話の続きが気にはなるも、疲れを癒そうとするアッシュとカニバルに付いて行く。
研究所にはルシェルシュとアリアと研究員たちが残された。
「君の丹田に今からこれを取り入れる」
「これって……何ですか……?」
目の前の機械には楽譜が写されている。
しかし、失明しているアリアにはそれが見えない。
「あーもー、目が見えないって面倒臭いねー」
ルシェルシュはオーバーに頭を抱え、黄緑色の寝ぐせだらけの髪を掻きむしった。
「これは【終焉の歌】の楽譜――全てを消滅させる程の最強にして最恐の魔技だよー」
「全てを……消滅させる……!?」
それ程の力を持つということだろうが、余りにも突拍子のなく、とても信じられない話だ。
「君は【終焉の歌】の送信器の役割を担ってるんだー」
「送信器……? 私は一体……何なのですか……?」
「人間だけど人間じゃない。さしずめ、生体兵器といった所かなー。胎児だった頃から、この培養槽で産まれさせたんだー。もちろん、特殊な能力を植え付けてねー」
しかし、アリアには心当たりがあった。
大気からマナを吸えることもあって、自身の歌魔法は余りにも強力な魔法。
ロランや帝国が欲しがる程の力だ。
それが作られたモノならば、常軌を逸脱していても納得がいく。
「私は……人間じゃない……」
納得がいくが故に、突き付けられた事実を受け止めきれずにいた――。
ロランは貴族のような服を纏い、私達のメイド服はそのままで、全員フードが付いた茶色のローブを羽織る。
もし帝国軍に見つかった場合、帝国の貴族とその従者で誤魔化すつもりみたいだ。
馬などには乗らず、闘気を纏って移動する。
あくまで隠密行動だ。
「今日はここで野営しよう」
「ほぇ? もう?」
振り返ると、ベラが辛そうにしていた。
一人一人マナ量は違うから、闘気を纏える時間も違う。
ベラが一番少ないから仕方ないことだ。
「……そうだね」
一人ならもっと早くアリアの元へと向かえるのに……だけど、ロランがいないと地理が分からない。
ちょっとだけ、もどかしい。
仕方がなく私達は野営の準備を始めた――。
深夜、見張りは私が担当している。
焚火の前でマナ制御の訓練をしながら、周囲を警戒していた。
他の皆んなは見張りの交代の順番まで眠っている……ベラ以外は。
「ベラ、寝なくていいの?」
私は焚き火に薪を加えながら、背後から近づいて来るベラに声をかける。
「……眠れないのぉ。寝たいんだけどねぇ」
岩の上に座る私の隣に腰掛けるベラ。
エマが死んでからというもの、ベラの元気はない。
ベラ以外はまだ、エマの死を受け入れ切れずにいるから、さほど元気を無くさずにいれるのかもしれない。
「……ねぇ、ヒメナァ。ブレアは何でエマを殺したと思う?」
唐突な質問だ。
何でってそんなの……。
「……私も分かんないよ」
分かったとしても、ブレアがしたことは許されるモノじゃない。
仲間を裏切るどころか……殺したんだから。
「私ねぇ……ブレア本人に聞きたいのぉ。ブレアは嘘つけない性格だから正直に答えると思うわぁ」
「それが……ベラが納得いかない答えだったら?」
私の問いにベラは少しばかり沈黙し――。
「ブレアを殺すわぁ」
非情な結論を出した。
「ヒメナは止めかねないからねぇ。だから予め話したのぉ。もし、そうなったら止めないでねぇ」
「…………」
私はその結論に、何も答えることが出来なかった。
どう答えていいか分からなかったんだ。
けど、戦争ってこういうことなんだなって思った。
奪われたから奪って……殺されたから殺して……終わらない、誰も止められない負の連鎖。
何でこうなっちゃったんだろう。
私達はいつの間にこの負の連鎖に巻き込まれちゃったんだろう。
私はベラが去った後も、そんなことを考えていたんだ――。
*****
一方、ヒメナ達が向かう生体研究所では――。
「私が……ここで産まれた……?」
アリアは驚愕し、声を出すのも必死だった。
まさか孤児で両親が分からないと言っても、自分が生体研究所で産まれたとは思ってもいなかったのだろう。
「正確には、もう一人ここで産まれたんだけどねー。十四年程前に元剣帝が他の実験体にするつもりだった子供達も連れ去られちゃったしさー」
「じゃあ、エミリー先生の孤児院にいたあたいらは……!?」
「皆出身地は帝国のこーこ。生体研究所だよー」
ブレアとアリアは言葉を失くす。
自分達の出自がまさか、こんな所だったなんて思いもしなかったからだ。
そして、ここは生体研究所。
自分達が何をされたか、幼い頃のことは覚えていない。
「まぁ実際僕が実験したのは、歌姫様ともう一人だけだけどねー。他の六人の戦争孤児には元剣帝のせいで何にも出来なかったんだー。何を思ったのか、帝国を裏切ってさー」
つまり、一番幼かった死んだララ以外はここの出身となる。
ブレアは自分が何もされていなかったことに一安心した。
しかし、アリアは違う。
ルシェルシュによって何かをされたのだから。
「趣味が悪いにも程があるな、聞いてられん。確かに歌姫は引き渡したぞ、死帝の。暫くはソリテュードの駐屯地で休ませてもらう」
「おじさんもつまんないからやーめっぴ。じゃねー」
ブレアは話の続きが気にはなるも、疲れを癒そうとするアッシュとカニバルに付いて行く。
研究所にはルシェルシュとアリアと研究員たちが残された。
「君の丹田に今からこれを取り入れる」
「これって……何ですか……?」
目の前の機械には楽譜が写されている。
しかし、失明しているアリアにはそれが見えない。
「あーもー、目が見えないって面倒臭いねー」
ルシェルシュはオーバーに頭を抱え、黄緑色の寝ぐせだらけの髪を掻きむしった。
「これは【終焉の歌】の楽譜――全てを消滅させる程の最強にして最恐の魔技だよー」
「全てを……消滅させる……!?」
それ程の力を持つということだろうが、余りにも突拍子のなく、とても信じられない話だ。
「君は【終焉の歌】の送信器の役割を担ってるんだー」
「送信器……? 私は一体……何なのですか……?」
「人間だけど人間じゃない。さしずめ、生体兵器といった所かなー。胎児だった頃から、この培養槽で産まれさせたんだー。もちろん、特殊な能力を植え付けてねー」
しかし、アリアには心当たりがあった。
大気からマナを吸えることもあって、自身の歌魔法は余りにも強力な魔法。
ロランや帝国が欲しがる程の力だ。
それが作られたモノならば、常軌を逸脱していても納得がいく。
「私は……人間じゃない……」
納得がいくが故に、突き付けられた事実を受け止めきれずにいた――。