三日前に熊から助けられてから、私はルグレとポワンと一緒に過ごしている。
二人は王国と帝国の戦争とは無縁の山で自給自足で生活していて、毎日修行に明け暮れているみたい。
だから王国民の私にも偏見とかなかったのかな?
今は、私が襲われた滝近くの洞窟の中を住み家にしてるんだって。
住み家を移動するタイミングとか場所は、ポワンの気分次第らしい。
ルグレ……きっと苦労してるんだなぁ……。
そんな洞窟の前の綺麗な川辺に、私はポワンとルグレと一緒にいる。
今から何かするみたい。
「小娘、お主にはこれからやってもらうことがあるのじゃ」
「私の師匠はルグレなんだけど」
誰が小娘じゃ。
弟子呼ばわりする位なら名前で呼ばんかい。
「阿呆! だからルグレはワシの弟子じゃと言っておるじゃろが!!」
「あはは……ごめんね、ヒメナ。俺は修行中の身で、誰かに教えられる程の技術なんてないから」
あんなに強かったのに!?
四帝とか騎士団長の闘気も見てるし、王都の衛兵さんの闘気も見てるから、ルグレがどれくらい強いか私わかるよ!
「それに師匠は本当に凄く強いよ。師匠が弟子をとるなんて滅多にないから、師事した方が絶対良い。ヒメナもきっと強くなれる」
強いって言っても、ポワンも子供だよ?
ルグレは優しいから、何でか師事しているポワンを立ててるんだ。
「ルグレが言う通り、ワシは最強なのじゃ。よってワシの言うことを聞けーいっ!!」
ポワンはどこからともなく取り出した丸い水晶を、平らな岩の上に雑に置いた。
雑に扱ってるけど、凄く高価そう。
「小娘には今から【水晶儀】を行ってもらうのじゃ」
「水晶儀……私、知ってるよ!! 自分がどんな魔法を使えるか知るための儀式だよね!? 水晶儀に触れる魔水晶が凄く高価だから、都市の教会とかで儀式化されてるんだよね!?」
私は自慢げに手を上げて、思わず大声を上げた。
昔、エミリー先生に習ったことだもん。
「魔法というのは戦闘向けでないにせよ何にせよ、体内のマナ同様この世の人間全てが持ってるんだ。この魔水晶に一定時間触れたらその人のマナを感知して、その人が持つ魔法に関わる文字が浮かんでくる。アバウトとは言えど、自分の魔法がどんなものか知るきっかけになるんだよ」
「ほぇー……文字が浮かぶとかは知らなかったや」
ルグレが分かりやすく丁寧に補足してくれた。
やっぱり、ルグレが師匠の方がよくない?
「稀に水晶儀を行わずとも自分の魔法に気付く者もいたり、天然で使う天才もいたりするがの。ワシのようなな」
じゃあ、アリアはやっぱり天才だったんだ。
魔法を自由に使えてたし、能力も凄かったもん。
「ほれ、魔水晶に触れるのじゃ」
私はポワンに勧められて岩に座り、左手で目の前の魔水晶に触れる。
魔法か……私が持つ魔法はどんな魔法なんだろう。
出来れば戦闘に向いてたり、使い勝手がいい便利なのがいいな。
魔法が扱えれば、私はもっと強くなれるかもしれない。
強くなれば、アリアを――。
「阿呆!! 何をしておる!? 一定時間魔水晶に触れ続けることもできんのか、小娘!!」
――ほぇ?
「私、さっきからずっと触れてるよ? ポワンも見てたじゃん」
「じゃあ何で文字が浮かんでこんのじゃ!! 長年水晶の儀を見てきたが、反応せんヤツなど見たことないわ!!」
そんな怒鳴らなくたっていいじゃん。
私はちゃんと触ってたのにさ。
「師匠が雑に扱ってるから、魔水晶が壊れた……とか?」
「阿呆、魔水晶が壊れる訳ないわ!! ルグレ、お主がやってみるのじゃ!!」
ポワンは私から魔水晶を奪い、ルグレに向けて魔水晶を乱暴に投げた。
「わっ……と!」
ルグレが投げられた魔水晶を何とか受け取り、しばらく持っていると、魔水晶から『支配』の文字がぼんやり浮かんできた。
「ほれ、壊れとらんじゃろうが!!」
だったら何で!?
私はちゃんと触ってたのに!!
「あれ……? じゃあ何ででしょう? ヒメナ、もう一回触れてみてよ」
ルグレに水晶を優しく渡され、今度は魔水晶が反応しないのを避けるために、岩の上に置かずに自分で左手で持った。
もう、次はちゃんとしてよね。
私のせいだと思われるんだから。
そんな私の願いは叶わず、魔水晶は全然反応しない。
私にだけ、ヘソを曲げてるのかなぁ?
「何で無反応なのじゃ? ルシェルシュが魔物で試した時、魔物ですら反応したと言っておった……ぞ……」
そこまで言ったポワンは突然言い淀み、しばらく押し黙る。
「師匠、どうしました?」
「お腹痛いの? さすってあげようか?」
「阿呆! んな訳あるかい!! ワシは衝撃の事実に気付いてしまったのじゃ!!」
そんなこと言ってさ、どうせ衝撃でも何でもないんでしょ?
お腹をさすろうとした私の手を弾いたポワンは、自らが気付いた衝撃の事実とやらを、私に伝えるために口を開いた。
「小娘。お主は魔法を持たぬ、無能力!! 路傍の石ころと同じなのじゃ!!」
本当に衝撃の事実だった。
「わ……私が魔法を使えないってどういうこと……? だって、人間は皆使えるんでしょ……?」
魔法さえあれば強くなれるきっかけになるかもしれない。
そう考えてたのに……私は魔法を持たない?
人間なのに……?
そんな想いが私の頭を駆け巡って動揺する私の手から、ポワンは魔水晶を取り上げて平らな岩の上に勢いよく置く。
「こういうことなのじゃ!!」
そして、何の反応もない魔水晶を指差し、私とルグレに見せた。
「「どういうこと!?」」
――ポワンの仮説はこうだ。
人工物以外の自然物や、人間以外の生物もマナを秘めている。
大気、岩や川、植物も動物も。
だけど、植物や動物に魔水晶を触らせても魔水晶は何の反応も示さない。
何故なら魔法を持たないからだ。
一方、人間と魔物は全て魔法を持っている。
ポワンの知り合いが捕まえた魔物で水晶儀を試したら、全ての魔物に魔水晶が反応を示し、魔法を持っていたみたい。
魔物を飼う知り合いって、どんな変人なのよ。その人。
魔物の中で魔法を扱えるモノがごく少数しかいないのは、魔法に気付いたり扱えたりする知能を持つ魔物が少ないかららしく、私を襲った熊の魔物はその知能がなかったから、本能的に闘気は使ってたけど、魔法を使えなかったんだって。
つまり人間は通常魔物に近く、私はただの路傍の石ころに近いんじゃないか、ってことらしい。
「だけど、ヒメナは闘気を纏えるんでしょ?」
「……うん! ほらっ、見て!!」
私は全力で闘気を纏った。
魔法がないという事実を否定するために。
「だとしたら、師匠の仮説は間違ってますよ。路傍の石ころは闘気を纏えませんし」
良く言った、ルグレ!!
フローラみたいに賢い!!
そうだよ、だって闘気纏ってるもん!!
私にだって魔法は使えるもん!!
「……言われてみれば、確かにそれもそうじゃな。ワシがルシェルシュのように考えたりするのは合わんのう。じゃが、魔水晶で反応せん人間は世界広しと言えど、この小娘だけじゃぞ。水晶儀が絶対なのは、帝国民のお主が一番わかっておろう?」
「それは……そうですが……」
「ワシの論は間違っておるのじゃろうが、結局小娘が魔法を使えん事実に変わりはないのじゃ。全くもって不可思議な存在じゃて」
私を庇っていたルグレは、意気消沈したかのように沈黙する。
軍事国家の帝国は能力主義で、魔法の力は特に重要視されてるみたいだから、水晶儀を絶対と考えているのかな……?
――魔法を持たない人間なんてこの世にいない。
力の大なり小なり、皆持っている。
そんな世界で、私は唯一無能力の人間だ。
悪い意味で、希少な存在。
「右腕が無く、魔法も持たず……か。お主が本当に王都からここまで、休みなしで闘気を纏って走ってきたのであれば、無い右腕を補って余りある才があるやもしれんと思って面白そうじゃから弟子にしたが……よし、小娘」
「……何よ」
それを知ったポワンは――。
「やっぱり弟子入りの話は忘れるのじゃ!! 失せろ!!」
「ほぇ!? 見捨てないでよ!! 師匠ーっ!!」
面倒臭くなって、私を見捨てようとした。
二人は王国と帝国の戦争とは無縁の山で自給自足で生活していて、毎日修行に明け暮れているみたい。
だから王国民の私にも偏見とかなかったのかな?
今は、私が襲われた滝近くの洞窟の中を住み家にしてるんだって。
住み家を移動するタイミングとか場所は、ポワンの気分次第らしい。
ルグレ……きっと苦労してるんだなぁ……。
そんな洞窟の前の綺麗な川辺に、私はポワンとルグレと一緒にいる。
今から何かするみたい。
「小娘、お主にはこれからやってもらうことがあるのじゃ」
「私の師匠はルグレなんだけど」
誰が小娘じゃ。
弟子呼ばわりする位なら名前で呼ばんかい。
「阿呆! だからルグレはワシの弟子じゃと言っておるじゃろが!!」
「あはは……ごめんね、ヒメナ。俺は修行中の身で、誰かに教えられる程の技術なんてないから」
あんなに強かったのに!?
四帝とか騎士団長の闘気も見てるし、王都の衛兵さんの闘気も見てるから、ルグレがどれくらい強いか私わかるよ!
「それに師匠は本当に凄く強いよ。師匠が弟子をとるなんて滅多にないから、師事した方が絶対良い。ヒメナもきっと強くなれる」
強いって言っても、ポワンも子供だよ?
ルグレは優しいから、何でか師事しているポワンを立ててるんだ。
「ルグレが言う通り、ワシは最強なのじゃ。よってワシの言うことを聞けーいっ!!」
ポワンはどこからともなく取り出した丸い水晶を、平らな岩の上に雑に置いた。
雑に扱ってるけど、凄く高価そう。
「小娘には今から【水晶儀】を行ってもらうのじゃ」
「水晶儀……私、知ってるよ!! 自分がどんな魔法を使えるか知るための儀式だよね!? 水晶儀に触れる魔水晶が凄く高価だから、都市の教会とかで儀式化されてるんだよね!?」
私は自慢げに手を上げて、思わず大声を上げた。
昔、エミリー先生に習ったことだもん。
「魔法というのは戦闘向けでないにせよ何にせよ、体内のマナ同様この世の人間全てが持ってるんだ。この魔水晶に一定時間触れたらその人のマナを感知して、その人が持つ魔法に関わる文字が浮かんでくる。アバウトとは言えど、自分の魔法がどんなものか知るきっかけになるんだよ」
「ほぇー……文字が浮かぶとかは知らなかったや」
ルグレが分かりやすく丁寧に補足してくれた。
やっぱり、ルグレが師匠の方がよくない?
「稀に水晶儀を行わずとも自分の魔法に気付く者もいたり、天然で使う天才もいたりするがの。ワシのようなな」
じゃあ、アリアはやっぱり天才だったんだ。
魔法を自由に使えてたし、能力も凄かったもん。
「ほれ、魔水晶に触れるのじゃ」
私はポワンに勧められて岩に座り、左手で目の前の魔水晶に触れる。
魔法か……私が持つ魔法はどんな魔法なんだろう。
出来れば戦闘に向いてたり、使い勝手がいい便利なのがいいな。
魔法が扱えれば、私はもっと強くなれるかもしれない。
強くなれば、アリアを――。
「阿呆!! 何をしておる!? 一定時間魔水晶に触れ続けることもできんのか、小娘!!」
――ほぇ?
「私、さっきからずっと触れてるよ? ポワンも見てたじゃん」
「じゃあ何で文字が浮かんでこんのじゃ!! 長年水晶の儀を見てきたが、反応せんヤツなど見たことないわ!!」
そんな怒鳴らなくたっていいじゃん。
私はちゃんと触ってたのにさ。
「師匠が雑に扱ってるから、魔水晶が壊れた……とか?」
「阿呆、魔水晶が壊れる訳ないわ!! ルグレ、お主がやってみるのじゃ!!」
ポワンは私から魔水晶を奪い、ルグレに向けて魔水晶を乱暴に投げた。
「わっ……と!」
ルグレが投げられた魔水晶を何とか受け取り、しばらく持っていると、魔水晶から『支配』の文字がぼんやり浮かんできた。
「ほれ、壊れとらんじゃろうが!!」
だったら何で!?
私はちゃんと触ってたのに!!
「あれ……? じゃあ何ででしょう? ヒメナ、もう一回触れてみてよ」
ルグレに水晶を優しく渡され、今度は魔水晶が反応しないのを避けるために、岩の上に置かずに自分で左手で持った。
もう、次はちゃんとしてよね。
私のせいだと思われるんだから。
そんな私の願いは叶わず、魔水晶は全然反応しない。
私にだけ、ヘソを曲げてるのかなぁ?
「何で無反応なのじゃ? ルシェルシュが魔物で試した時、魔物ですら反応したと言っておった……ぞ……」
そこまで言ったポワンは突然言い淀み、しばらく押し黙る。
「師匠、どうしました?」
「お腹痛いの? さすってあげようか?」
「阿呆! んな訳あるかい!! ワシは衝撃の事実に気付いてしまったのじゃ!!」
そんなこと言ってさ、どうせ衝撃でも何でもないんでしょ?
お腹をさすろうとした私の手を弾いたポワンは、自らが気付いた衝撃の事実とやらを、私に伝えるために口を開いた。
「小娘。お主は魔法を持たぬ、無能力!! 路傍の石ころと同じなのじゃ!!」
本当に衝撃の事実だった。
「わ……私が魔法を使えないってどういうこと……? だって、人間は皆使えるんでしょ……?」
魔法さえあれば強くなれるきっかけになるかもしれない。
そう考えてたのに……私は魔法を持たない?
人間なのに……?
そんな想いが私の頭を駆け巡って動揺する私の手から、ポワンは魔水晶を取り上げて平らな岩の上に勢いよく置く。
「こういうことなのじゃ!!」
そして、何の反応もない魔水晶を指差し、私とルグレに見せた。
「「どういうこと!?」」
――ポワンの仮説はこうだ。
人工物以外の自然物や、人間以外の生物もマナを秘めている。
大気、岩や川、植物も動物も。
だけど、植物や動物に魔水晶を触らせても魔水晶は何の反応も示さない。
何故なら魔法を持たないからだ。
一方、人間と魔物は全て魔法を持っている。
ポワンの知り合いが捕まえた魔物で水晶儀を試したら、全ての魔物に魔水晶が反応を示し、魔法を持っていたみたい。
魔物を飼う知り合いって、どんな変人なのよ。その人。
魔物の中で魔法を扱えるモノがごく少数しかいないのは、魔法に気付いたり扱えたりする知能を持つ魔物が少ないかららしく、私を襲った熊の魔物はその知能がなかったから、本能的に闘気は使ってたけど、魔法を使えなかったんだって。
つまり人間は通常魔物に近く、私はただの路傍の石ころに近いんじゃないか、ってことらしい。
「だけど、ヒメナは闘気を纏えるんでしょ?」
「……うん! ほらっ、見て!!」
私は全力で闘気を纏った。
魔法がないという事実を否定するために。
「だとしたら、師匠の仮説は間違ってますよ。路傍の石ころは闘気を纏えませんし」
良く言った、ルグレ!!
フローラみたいに賢い!!
そうだよ、だって闘気纏ってるもん!!
私にだって魔法は使えるもん!!
「……言われてみれば、確かにそれもそうじゃな。ワシがルシェルシュのように考えたりするのは合わんのう。じゃが、魔水晶で反応せん人間は世界広しと言えど、この小娘だけじゃぞ。水晶儀が絶対なのは、帝国民のお主が一番わかっておろう?」
「それは……そうですが……」
「ワシの論は間違っておるのじゃろうが、結局小娘が魔法を使えん事実に変わりはないのじゃ。全くもって不可思議な存在じゃて」
私を庇っていたルグレは、意気消沈したかのように沈黙する。
軍事国家の帝国は能力主義で、魔法の力は特に重要視されてるみたいだから、水晶儀を絶対と考えているのかな……?
――魔法を持たない人間なんてこの世にいない。
力の大なり小なり、皆持っている。
そんな世界で、私は唯一無能力の人間だ。
悪い意味で、希少な存在。
「右腕が無く、魔法も持たず……か。お主が本当に王都からここまで、休みなしで闘気を纏って走ってきたのであれば、無い右腕を補って余りある才があるやもしれんと思って面白そうじゃから弟子にしたが……よし、小娘」
「……何よ」
それを知ったポワンは――。
「やっぱり弟子入りの話は忘れるのじゃ!! 失せろ!!」
「ほぇ!? 見捨てないでよ!! 師匠ーっ!!」
面倒臭くなって、私を見捨てようとした。