「貴様が……我の娘だと!?」
「はい」
アッシュにとってはあり得ない話。
だが、あり得ないとも言い切れなかった。
アリアには妻であったコレールの面影があったからだ。
「私が知った全てをお話しします」
アリアがソリテュードでルシェルシュから聞いた全てを伝えると、アッシュは激しく動揺し始める。
「コレールの死体から胎児の状態で取り出しただと!?」
「そう死帝は仰ってました」
「……っ……!! まさか――」
突拍子のない話ではあるが、アッシュには思い当たる節があったからだ。
――およそ十四年ほど前。
コレールを殺した命令を下した上に、自らは王国に亡命しようとした剣帝エミリーをアッシュは追跡し、単独で追いつく。
エミリーは馬車に複数人の子供や赤子を乗せていた。
アッシュにとってはそんなことはどうでも良かった。
裏切り者のエミリーと一騎討ちをし、焼き殺せればいいからだ。
だが、アッシュは一騎討ちでエミリーに敗北し、悔しさを募らせただけであった。
しかし、馬車に乗せてた幼い子供。
その子供達こそが、エミリーがルシェルシュから奪い取った、ララ以外の子供達だったのだ。
「あの時いた子供が……お前や冥土隊だと言うのか……!?」
「私は幼くて覚えていませんが……おそらくそうでしょう。そして、エミリー先生は孤児院という名目で私達を隠したのでしょう」
まさか我が子が生きていて、それを自身が知らなかったことに動揺するアッシュ。
「ならば……我は何のために……」
コレールとその身に宿していた子の仇をとる。
アッシュはそのことで自らの復讐心を燃やしていた。
だが、我が子のヒメナとアリアが生きていたことを知り、喪失感と共に少なからず充足感も現れ、妙な気持ちとなる。
自身と自身が愛したコレールの子。
その子供が生きていたのだから無理もない。
「グロリアス国王が……まだ憎くて、殺したいですか?」
「……っ……当然だ!! 奴がコレールを、お前達の母親を殺したのだぞ!?」
「あなたはいつまで過去を見るつもりなのですか?」
「……何?」
「私は過ぎてしまった過去ではなく、戦争を終わらせる未来しか見据えておりません。それがきっとあなた方に殺された人達の願いであるからと信じております」
アリアは背負っていた。
エミリー、ララ、メラニー、エマ、ベラ、フローラ、ルーナ達の想いを。
きっとこう願ったであろうと信じて。
「コレールさんは……私とヒメナのお母さんは、何に変えても復讐して欲しいと願う、そんな人だったのですか?」
「…………」
アッシュはアリアの言葉に考えさせられた。
復讐心のみで走ってきたアッシュが、初めて足を止めたのだ。
「今帝都にいるヒメナは、私の剣です。私の願いを叶えるために、必ず皇帝を討つでしょう。そうなった時はあなたが皇帝に近い位置に立ち、この戦争を終わらせる。そんな道もあるのではないのでしょうか?」
「……我が……帝国を!?」
「あなたしか、なし得ません」
アリアは戦争を終わらせるために、アッシュの復讐心をほぐそうと考えていたのだ。
拳帝は不在、かつヒメナの話を聞く限り利己的な考えを持ち合わせると判断し、自分達の父であり四帝の一人のアッシュが戦争を終わらせる鍵になり得る唯一の存在だと感じたからだ。
説得されたアッシュは迷う。
自身が走ってきた道は間違いではなかったのか。
死んだコレールは何を望むのか。
我が子が平和を望むのに、その夢を自身が復讐心のみで潰していいのか。
「ぐ……ぬぅ……!!」
迷いの中、アッシュが選んだ道は――。
「双方剣を納めて引けぃ!! 国王は死に、歌姫は我が手中にある!! これ以上の闘いは互いに無益ぞ!!」
この場においての帝国軍の勝利。
互いに剣を納めさせ、戦火を広げないことを選択した。
「それで良いのです」
アリアの狙い通り、戦闘は終わる。
戦闘を止めたアッシュは自身がどうすればいいのか分からずも、ヒメナ達を追うためにアリアを抱えて帝都を目指して駆けた――。
*****
電気を帯びたロランの圧倒的速度。
その速度に対応するため、私はロランの体内のマナを見る事に集中していた。
マナが集まる場所から何らかの行動、あるいは攻撃が来るため、超速度のロランの攻撃にも何とか対応出来ている。
「素晴らしい。君の魔法は対応型なのかい?」
自身のスピードに対応できる戦士は稀に見るのだろう。
ロランは感心しながらも、聞いてきた。
「……さぁ、どうだかね!!」
私はロランの問いを煙に巻く。
何か隠している奥の手があると思わせた方が、ロランは闘い辛いはずだ。
だけど……この速さに、いつまでついていけるか分からない。
ロランの動きは本当に速い。
目で追うのはやっとで、マナが見えなきゃ既に殺されてるだろう。
ルシェルシュに感謝したくなんてないけど、感謝せざるを得ない。
私が【終焉の歌】の受信器の能力がなきゃとうの昔に死んでたのだから。
その能力を活かし、ひたすらにロランの攻撃を躱して反撃を入れようとするも、ありえない速度であっさり躱される。
こっちは全神経を集中してるのに、不公平だ。
ロランの魔法は絡め手というより、単純に速度で押してくるので、厄介というよりきつい。
「くっ……ぐっ!!」
防ぎきれず、数度突かれる。
突かれた場所からは血が滲み出した。
救いなのは、動くのに問題がない程度の軽傷だということだ。
ロランの速度はどんどん加速していき、もはや神速とも呼べるその速度は、対応しきれない域にあった。
それでも諦めるわけにはいかない。
ロランを倒さなきゃ、この戦争は終わらせられないんだから。
「ロラアアァァン!!」
私は全力で闘気を纏い、必死にロランの速度に食らいつく。
でも反撃には至らず、ロランは未だ無傷だ。
何とか足を止めないと……でも、どうやって!?
私は高速戦闘の中、必死に考える。
ロランに致命傷を与えるための一手を。
無傷でいようとしたらダメだ。
ロランを止めるには、これしかない。
「ふっ!!」
ロランは私の心臓を射抜くかのように、レイピアで突きを繰り出してくる。
私はその突きを見て――。
「ぎっ!!」
「何!?」
心臓だけは逸らし、その身であえて受けた。
ロランも躱すと踏んでいたのだろう。
その顔は明らかに驚き、動揺していた。
「破ああぁぁ!!」
レイピアを胸で受け左手で掴んだ私は、口から血を流しながらも、義手の右手に闘気を込める。
【闘気砲】
放った闘気砲は城を大きく壊し、貫通して空へと昇る。
普通の人間がまともに受ければ、木っ端微塵だろう。
しかしロランは――。
「ふぅ、危ない危ない」
レイピアから手を離し、私の切り札の【闘気砲】を躱していた。
「流石だね、考えることが突拍子ないや」
「くっ……そ!!」
心臓を避けたとは言え、レイピアは私の胸を貫通している。
致命傷じゃないにしろ、その痛みは血を吐かせるのには充分だった。
「魔技【雷針】」
ロランは指を鳴らし、紫色の電撃を放ってきた。
私は痛む体を無理矢理動かし、それを全力で躱すために跳んだ――が、
「!?」
電撃はまるで私に刺さったままのレイピアに惹かれるかのようについてくる。
私に刺さったレイピアに電撃が直撃すると、私の全身は激痛と共に痺れた。
「ああぁぁ!!」
雷に打たれたかのような痛みに、私は体を丸焦げにし煙をふかしながら床に落ちる。
「ぐ……ぎ……」
私は起き上がろうとするも、痺れで体が動かせずにいた。
歩きながらゆっくり近づいて来たロランは、仰向けで倒れている私の胸に足を置き、胸に刺さったレイピアを強引に引き抜かれる。
「あぅっ……!!」
「さて、もう手はないのかな? 【闘気砲】だけが切り札で、やっぱり魔法は対応型の部類だったのかな?」
私の胸からは血が溢れ出てきた。
床を濡らし、服を赤く染める。
「それなりに痺れたから、満足したよ。だから――」
……分かってたけど、ロランは強い。
アリアがいて【終焉の歌】があれば、勝ち目はあったのに……。
「バイバイ」
くっそおおぉぉ!!
私は目を瞑り、死を待つ。
だけど、その時は一向に訪れない。
余りに時間がたってもその時が訪れないので、ゆっくりと目を開ける。
そこには――。
「殺らせねぇ、ヒメナを殺していいのはあたいだけだかんな」
ブレアがその小さい体で、ロランを羽交い絞めにしていた。
「はい」
アッシュにとってはあり得ない話。
だが、あり得ないとも言い切れなかった。
アリアには妻であったコレールの面影があったからだ。
「私が知った全てをお話しします」
アリアがソリテュードでルシェルシュから聞いた全てを伝えると、アッシュは激しく動揺し始める。
「コレールの死体から胎児の状態で取り出しただと!?」
「そう死帝は仰ってました」
「……っ……!! まさか――」
突拍子のない話ではあるが、アッシュには思い当たる節があったからだ。
――およそ十四年ほど前。
コレールを殺した命令を下した上に、自らは王国に亡命しようとした剣帝エミリーをアッシュは追跡し、単独で追いつく。
エミリーは馬車に複数人の子供や赤子を乗せていた。
アッシュにとってはそんなことはどうでも良かった。
裏切り者のエミリーと一騎討ちをし、焼き殺せればいいからだ。
だが、アッシュは一騎討ちでエミリーに敗北し、悔しさを募らせただけであった。
しかし、馬車に乗せてた幼い子供。
その子供達こそが、エミリーがルシェルシュから奪い取った、ララ以外の子供達だったのだ。
「あの時いた子供が……お前や冥土隊だと言うのか……!?」
「私は幼くて覚えていませんが……おそらくそうでしょう。そして、エミリー先生は孤児院という名目で私達を隠したのでしょう」
まさか我が子が生きていて、それを自身が知らなかったことに動揺するアッシュ。
「ならば……我は何のために……」
コレールとその身に宿していた子の仇をとる。
アッシュはそのことで自らの復讐心を燃やしていた。
だが、我が子のヒメナとアリアが生きていたことを知り、喪失感と共に少なからず充足感も現れ、妙な気持ちとなる。
自身と自身が愛したコレールの子。
その子供が生きていたのだから無理もない。
「グロリアス国王が……まだ憎くて、殺したいですか?」
「……っ……当然だ!! 奴がコレールを、お前達の母親を殺したのだぞ!?」
「あなたはいつまで過去を見るつもりなのですか?」
「……何?」
「私は過ぎてしまった過去ではなく、戦争を終わらせる未来しか見据えておりません。それがきっとあなた方に殺された人達の願いであるからと信じております」
アリアは背負っていた。
エミリー、ララ、メラニー、エマ、ベラ、フローラ、ルーナ達の想いを。
きっとこう願ったであろうと信じて。
「コレールさんは……私とヒメナのお母さんは、何に変えても復讐して欲しいと願う、そんな人だったのですか?」
「…………」
アッシュはアリアの言葉に考えさせられた。
復讐心のみで走ってきたアッシュが、初めて足を止めたのだ。
「今帝都にいるヒメナは、私の剣です。私の願いを叶えるために、必ず皇帝を討つでしょう。そうなった時はあなたが皇帝に近い位置に立ち、この戦争を終わらせる。そんな道もあるのではないのでしょうか?」
「……我が……帝国を!?」
「あなたしか、なし得ません」
アリアは戦争を終わらせるために、アッシュの復讐心をほぐそうと考えていたのだ。
拳帝は不在、かつヒメナの話を聞く限り利己的な考えを持ち合わせると判断し、自分達の父であり四帝の一人のアッシュが戦争を終わらせる鍵になり得る唯一の存在だと感じたからだ。
説得されたアッシュは迷う。
自身が走ってきた道は間違いではなかったのか。
死んだコレールは何を望むのか。
我が子が平和を望むのに、その夢を自身が復讐心のみで潰していいのか。
「ぐ……ぬぅ……!!」
迷いの中、アッシュが選んだ道は――。
「双方剣を納めて引けぃ!! 国王は死に、歌姫は我が手中にある!! これ以上の闘いは互いに無益ぞ!!」
この場においての帝国軍の勝利。
互いに剣を納めさせ、戦火を広げないことを選択した。
「それで良いのです」
アリアの狙い通り、戦闘は終わる。
戦闘を止めたアッシュは自身がどうすればいいのか分からずも、ヒメナ達を追うためにアリアを抱えて帝都を目指して駆けた――。
*****
電気を帯びたロランの圧倒的速度。
その速度に対応するため、私はロランの体内のマナを見る事に集中していた。
マナが集まる場所から何らかの行動、あるいは攻撃が来るため、超速度のロランの攻撃にも何とか対応出来ている。
「素晴らしい。君の魔法は対応型なのかい?」
自身のスピードに対応できる戦士は稀に見るのだろう。
ロランは感心しながらも、聞いてきた。
「……さぁ、どうだかね!!」
私はロランの問いを煙に巻く。
何か隠している奥の手があると思わせた方が、ロランは闘い辛いはずだ。
だけど……この速さに、いつまでついていけるか分からない。
ロランの動きは本当に速い。
目で追うのはやっとで、マナが見えなきゃ既に殺されてるだろう。
ルシェルシュに感謝したくなんてないけど、感謝せざるを得ない。
私が【終焉の歌】の受信器の能力がなきゃとうの昔に死んでたのだから。
その能力を活かし、ひたすらにロランの攻撃を躱して反撃を入れようとするも、ありえない速度であっさり躱される。
こっちは全神経を集中してるのに、不公平だ。
ロランの魔法は絡め手というより、単純に速度で押してくるので、厄介というよりきつい。
「くっ……ぐっ!!」
防ぎきれず、数度突かれる。
突かれた場所からは血が滲み出した。
救いなのは、動くのに問題がない程度の軽傷だということだ。
ロランの速度はどんどん加速していき、もはや神速とも呼べるその速度は、対応しきれない域にあった。
それでも諦めるわけにはいかない。
ロランを倒さなきゃ、この戦争は終わらせられないんだから。
「ロラアアァァン!!」
私は全力で闘気を纏い、必死にロランの速度に食らいつく。
でも反撃には至らず、ロランは未だ無傷だ。
何とか足を止めないと……でも、どうやって!?
私は高速戦闘の中、必死に考える。
ロランに致命傷を与えるための一手を。
無傷でいようとしたらダメだ。
ロランを止めるには、これしかない。
「ふっ!!」
ロランは私の心臓を射抜くかのように、レイピアで突きを繰り出してくる。
私はその突きを見て――。
「ぎっ!!」
「何!?」
心臓だけは逸らし、その身であえて受けた。
ロランも躱すと踏んでいたのだろう。
その顔は明らかに驚き、動揺していた。
「破ああぁぁ!!」
レイピアを胸で受け左手で掴んだ私は、口から血を流しながらも、義手の右手に闘気を込める。
【闘気砲】
放った闘気砲は城を大きく壊し、貫通して空へと昇る。
普通の人間がまともに受ければ、木っ端微塵だろう。
しかしロランは――。
「ふぅ、危ない危ない」
レイピアから手を離し、私の切り札の【闘気砲】を躱していた。
「流石だね、考えることが突拍子ないや」
「くっ……そ!!」
心臓を避けたとは言え、レイピアは私の胸を貫通している。
致命傷じゃないにしろ、その痛みは血を吐かせるのには充分だった。
「魔技【雷針】」
ロランは指を鳴らし、紫色の電撃を放ってきた。
私は痛む体を無理矢理動かし、それを全力で躱すために跳んだ――が、
「!?」
電撃はまるで私に刺さったままのレイピアに惹かれるかのようについてくる。
私に刺さったレイピアに電撃が直撃すると、私の全身は激痛と共に痺れた。
「ああぁぁ!!」
雷に打たれたかのような痛みに、私は体を丸焦げにし煙をふかしながら床に落ちる。
「ぐ……ぎ……」
私は起き上がろうとするも、痺れで体が動かせずにいた。
歩きながらゆっくり近づいて来たロランは、仰向けで倒れている私の胸に足を置き、胸に刺さったレイピアを強引に引き抜かれる。
「あぅっ……!!」
「さて、もう手はないのかな? 【闘気砲】だけが切り札で、やっぱり魔法は対応型の部類だったのかな?」
私の胸からは血が溢れ出てきた。
床を濡らし、服を赤く染める。
「それなりに痺れたから、満足したよ。だから――」
……分かってたけど、ロランは強い。
アリアがいて【終焉の歌】があれば、勝ち目はあったのに……。
「バイバイ」
くっそおおぉぉ!!
私は目を瞑り、死を待つ。
だけど、その時は一向に訪れない。
余りに時間がたってもその時が訪れないので、ゆっくりと目を開ける。
そこには――。
「殺らせねぇ、ヒメナを殺していいのはあたいだけだかんな」
ブレアがその小さい体で、ロランを羽交い絞めにしていた。