検査は無事に終わり、すぐに退院できる運びとなった。
 病室で、着替えやら何やらをまとめる。といってもそれほど量は多くなかったので、すぐに終わった。

 両親は、やはりというべきか、最低限の着替えを持ってきただけで、すぐに病院を去っていったらしい。看護士に聞いたことだ。着替えを持ってきてくれただけ、感謝するべきなのかもしれない。
 看護士さんは、「しっかりと見るのが辛かったのよ」と励ましてくれたけれど、私の心は、不思議なほどに穏やかだった。

 へぇ、そうなんだ。としか思わなかった。
 胸に手を当ててみても、そこが痛む気配は別段ない。
 その理由はきっと――。

 「お待たせ」
 部屋の前で待ってくれていた八代と理人君に、声をかける。

 「じゃあ行くか。貸せ」
 八代が、私の持つ軽いバッグを見て、指先をクイっと動かす。

 「これくらい持てるから」
 「しばらく寝たきりだったんだ。荷物持って自宅までの距離を歩くのは、想像してるよりもきついと思うぞ」
 「じゃあお言葉に甘えて――。ていうかそういう八代は寝たの? 昨日見たときは、隈すごかったんだけど」

 彼の方こそ心配だ。ちゃんと眠れたのだろうか。探るように、八代の顔をまじまじと見る。

 「よし、隈はないね」
 満足げに頷くと、これまで全然口を開かなかった理人君が、尋ねてくる。
 「二人は恋人同士なの?」

 微かな好奇心を瞳に宿して、首を傾げる理人君に、私の羞恥心が掻き立てられる。

 「ち、違いますっ! ただの友達、だから……」
 「ただの友達のために、三日間付きっきりになるもんなの?」
 「なる! なりますっ! 心の友なの、私と八代は!」

 理人君が、食いぎみに反論する私から視線を外した。
 そして八代の方を見上げ、「へぇ……」と呟く。
 私は、どうにも恥ずかしくて、自身の足下へと目線を逃がす。
 八代は今、どんな顔をしているんだろう。気になりながらも、それを確かめる勇気は出なかった。

 「距離も何だか近いし、てっきりそういう関係かと思った」
 理人君は、つまらなそうに溢した。
 私は八代から気付かれないように、そっと二歩分くらい離れる。
 受付のお姉さんに軽く会釈して、病院を出ていった。


 「お待たせ」
 「おう」
 互いに帰宅後少しして、私たちはコンビニの前で待ち合わせた。

 「理人君、大丈夫そう?」
 「帰ってくるなり、眠ってんだ。『ちょっと出てくる』って置き手紙して、鍵かけて出てきた」
 「そう。——じゃあ行こうか」

 口にすると、どきどきしてきた。これからとる行動で、幸を殺そうとした犯人がわかる。
 そう思うと、踏み出す一歩がやけに重く感じた。