『君と別れたあの日から、私は一人になり、やがては独りになってしまった』
「違う!」
叫びと同時に私は飛び起きる。心臓が激しく脈打ち、背中にはぐっしょりと嫌な汗をかいていた。荒い呼吸を繰り返す私の元に「どうされました!?」と刑事さんが飛んできたがそれに反応することもできず私はしばらく肩を震わせて俯いていただけだった。しばらくしてようやく顔を上げて辺りを見ると先ほどの悪夢の中とは違って今は夜であることがわかった。そして私は気づく。自分はベッドの中にいるらしいということに……。
一体どういうことだと思っている私に向かって誰かが語りかけてくるのだがうまく聞き取れない。耳鳴りだろうかと手を耳に添えて目を閉じ、しばらくじっとしていたが駄目だ。どうしても何を言っているのかが聞こえないのである。やがて我慢できなくなり私は叫ぶようにして問いかけた。するとその人物は「大丈夫」と答えてきた。その声は落ち着いていて優しく、どこか哀しげでもあった。私は「違う、違うんです」と言いたかったのだが何故か声が出せなかった。そこで「私は、まだ、死ねません。こんなことで死んでたまるか……」という声とともに私の意識は再び途切れてしまうのだった。そしてまた目覚めると先ほどとは違う状況下にいる自分に驚く。そこは薄暗くひんやりとした場所で、床は埃まみれで壁のあちこちは蜘蛛の巣に覆われていた。天井は高く、私の身長よりも高い位置に小さな電灯がぶら下がっていて、さらに上の方に天窓が見えた。そこを抜けると月の光が入ってくるようで、それでかろうじて視界が確保されているようだ。壁際には何か機械のようなものが並んでいて、足元を照らす光もそこにあった。よく見ると何かコードのような物が壁に沿って這っていて私の立っている場所には太いパイプが何本も走っているようだった。天井を仰ぎ見れば、配管が網の目のように張り巡らされていることが確認できた。
私が今居るのは恐らく地下室なのだろうと察した。しかもこれはかなり深い所である。私はゆっくりと壁沿いを歩き始めたのである。
しばらくして、私は大きく目を見開いた。そこには死体があった。うつ伏せになっていてはっきりとは見えないがどう見ても人間の死体であり、そして血溜まりの中でピクリとも動かないようだった。私は悲鳴をあげようとしたが声は出ない。だが私は必死でそれから逃れようとした……が逃げ道は無くなっていたのである。
いつの間に現れたのか、背後に人が立っていたのである。その男はフードを被っており顔が見えなかった。しかしその体格は明らかに男のものであることはわかった。フードの下の唇の端が吊り上がり口が開く。
そしてその男は私の方へと手を伸ばしてきたのである。